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2012年8月14日火曜日

歴史からなにを学ぶのか

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いま読んでいる本『戦後史の正体』にあった一節を引用します。月並みといえばそのとおりですが、注意していないと心から離れやすい教訓と感じています。

英国の外交官として20年つとめたあと、高名な歴史家となったE・H・カーは『歴史とは何か』(岩波書店)のなかで「歴史は、現在と過去との対話である」とのべています。翻訳者の清水幾太郎はこの言葉を「歴史は過去のゆえに問題なのではなく、私たちが生きる現在にとっての意味ゆえに問題になる」と解説しています。
つまり歴史は過去を知るために学ぶのではなく、現在起こっている問題を理解するために学ぶのだということです。(P.103)


そういえば2004年に開催されたバークシャー・ハサウェイの株主総会で、ウォーレン・バフェットが別の言い方をしていたのを思い出しました。引用元はティルソンのメモです。

「わたしどもが歴史から学んだこと、それは人は歴史から学ばないということです」

What we learn from history is that people don't learn from history.


蛇足ですが、この本『戦後史の正体』は、個人的には本年度読書の筆頭にあげたい一冊です。今日の段階でも、amazon.co.jpの本のベストセラー第6位につけていますね。

2012年8月8日水曜日

脊椎動物はひっくり返った昆虫なのだ(動物学者サンティレール)

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少し前にとりあげた本『ビジュアル版 科学の世界』で(過去記事)、逆に考えることで成果を挙げた科学者が二人登場していたのでご紹介します。

有機化学すなわち炭素の科学に真の突破口が切り開かれたのは、1960年代、ハーヴァード大学の教授でノーベル賞も受賞したイライアス・J・コーリーが、「逆合成解析」という手法を考案したときのことだ。この技術は、化学者が大きくて複雑な分子を小さくて手に入りやすい-そして通常はずっと安価な-出発物質から作り出すのに使える、もっとも強力なツールの1つとなった。
この手法は、合成のターゲットとする分子をジグソーパズルのように考えることでうまくいく。ターゲットから逆に考えることによって、一緒に反応させると触媒や反応物の手引きによって組み合わさり、パズルが完成するような構成要素を探し出せるのだ。(p.152)


フランスの動物学者ジョフロワ・サンティレールは、すべての動物が同じ基本的な体制をもつと考えていた。だが昆虫の場合、主要な神経索は内臓の腹側にあるのに対し、脊椎動物の場合、脊椎は背中側にある。それでもサンティレールはひるまず、このことから脊椎動物は基本的にひっくり返った昆虫なのだと推論した! そんなはずはないように思えるが、この考えも最近の発見によって裏づけられている。(中略)脊椎動物は昆虫をひっくり返したものだというサンティレールの奇抜な推測も、正しいことが立証されている。無脊椎動物ではどちら側が腹になるかをきめているホメオティック遺伝子が、脊椎動物ではどちら側が背になるかを決めているのだ。(p.222)


こうして過去をふりかえってみると、逆に考えることで成功した例はいろいろ見つかるものですね。

2012年7月29日日曜日

必ず朝食の前にやりたいこと(動物行動学者ローレンツ)

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自分が誤った考えをしているときにどうすれば気がつけるのか、本ブログで何度かとりあげています。いま読んでいる本『ビジュアル版 科学の世界』で、それと少し関連する文章が目にとまったのでご紹介します。

多くの科学者は、うぬぼれるどころか、科学は仮説の反証によってのみ進歩すると考えている。動物行動学の祖、コンラート・ローレンツは、自分の仮説を必ず朝食の前に1つは反証してみたいと言っていた。それは、とくに動物行動学の大御所の言葉としてはおかしな話だが、科学者が、何よりもみずからの誤りを認めることで仲間に一目置かれることも確かなのだ。

大学の学部生だった頃の私に人格形成上大きな影響を及ぼしたのは、オックスフォード大学動物学科の高名な老教授が、自分の惚れ込んでいた仮説について、ある客員講師におおっぴらに誤りを立証されたときにとった対応である。老教授は大教室の教壇へ大股で歩み寄り、講師と温かい握手を交わし、高揚した口調で朗々と述べた。「君に感謝したい。私はこれまで15年間、間違っていた」聴衆は、手のひらが赤くなるほど拍手をした。(p.8)

この文はまえがきの一部ですが、『利己的な遺伝子』で有名なリチャード・ドーキンスが寄稿したものです。

2012年7月4日水曜日

両手があかないときにどうやったのか(チャールズ・ダーウィン)

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チャーリー・マンガーは思考や認識の誤りをみつける方法として、科学者ダーウィンのやりかた「持論をくつがえすよう努力する」ことを強調しています(過去記事)。『ダーウィン自伝』を読んだところ、ダーウィン本人がそのやりかたに触れていたのでご紹介します。

私はまた、多年にわたって、次の鉄則を遵守してきた。それは、公表された事実であれ、新しい観察や考えであれ、なんでも私の一般的な結論に反するものに気がついたときには、それを漏れなく、すぐに覚え書きにしておくということである。というのは、このような事実や考えは、都合のよい事実や考えよりもずっと記憶から逃げてしまいやすいということを、私は経験で知っていたからである。この習慣のおかげで、私がすでに気づいてそれに答えようとしたのでない異論が私の見解に向けて提起されるということは、ほとんど起こらなかった。(筑摩叢書 p.111)


このやりかたを身につけるに至っては、科学者の友人たちとの親交も影響していたかもしれません。

私は、結婚以前にも以後にも、他のだれよりもライエルLyellによく会った。かれの心は、明晰さ、注意深さ、健全な判断力、豊富な独創力を特徴としているように思われた。私が地質学についてかれに何か意見を述べると、かれは問題全体を明確に知るまでは信用しようとはせず、そしてしばしば、私がその問題をいっそう明確にみるようにさせた。かれは、私の意見にたいして可能な異論をすべてだしてみせ、それらをだしつくしたあとでもなお長いあいだ疑わしく思っているのがつねであった。(p.87)

このようなやりとりは、ウォーレン・バフェットとチャーリー・マンガーのようなコンビを思い出させますね。

最後はおまけです。ダーウィンがまだ学生だった頃の思い出です。

しかし、なんといっても、甲虫の採集ほどに私がケンブリッジで熱中し、たのしみにしたことはなかった。それはたんに採集への情熱であった。というのは、私はそれらを解剖したことはなく、外的な特徴を本にでている記述と照らし合わせることもまれでしかなかったからである。しかし、名前だけはなんとかつけた。私の熱中を示す一つの証拠をあげよう。ある日、古い樹皮をひき裂いていると、2匹の珍しい甲虫が見つかったので、1匹ずつ両手につかんだ。ところがさらに3番目の新しい種類のものが見つかった。これをつかまえないのは残念でたまらないので、私は右手につかんでいた1匹を口の中にほうりこんだ。何と! それはものすごく辛い液体を出し、私の舌を焼かんばかりであった。私はやむなくその甲虫を口から吐き出したが、それは逃げ、そしてまた、3番目のやつも逃げてしまった。(p.46)

2012年6月30日土曜日

集団を頼るよう隠れた脳が指令する

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前々回にご紹介した『隠れた脳』から、今回は集団行動に関する話題を引用します。

進化の歴史を見れば、集団でいるほうが、安全が保たれる。ときとしてそれが裏目に出る場合もあるが、私たちの脳は、総合的にうまくいく手段がわかるよう進化しているし、進化で身につけた自己保存のための本能は、必然的に単純である。警報が鳴ると不安が引き起こされ、集団を頼るよう隠れた脳が指令する。それは私たちの祖先の時代から、集団でいたほうが危険にさらされる可能性が低く、安心と安全が手に入りやすかったからだ。

しかし今の時代、集団でいる安心感を優先すると、個人が危険にさらされるケースが以前より増えた。それは現代の危険があまりにも複雑で、一体何が起こっているのか、誰にもわからない場合が多いからだ。私はここで、集団の行動は常に間違っていると言いたいわけではない。集団は誰も気づかないうちに、個人の自主性を奪ってしまうことがあると言いたいだけだ。同僚たちは間違っているかもしれないが、彼らについていくほうが、自分で考えて行動するよりはるかに楽だ。集団は安心を与えてくれる一方、自主性は不安を引き起こす。しかし災害に巻き込まれた状況では、不安こそが正しい反応なのだ。根拠のない安心は死を招きかねない。
(p.168)


ちなみに、上に挙げた引用が登場する場面では、911アメリカ同時多発テロ事件のときにWTCで働いていた人たちを取り上げて、何が生死をわけたのか考察しています。

2012年6月27日水曜日

気づかぬ間にオートパイロットが働いている

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以前とりあげたセス・クラーマンの話題の中で、「人の脳では2つのシステムが共存して働いている。システムその1は素早く考えるようにできており、システムその2のほうはじっくり考えるようにできている」とする心理学者ダニエル・カーニマンの主張がありました(過去記事)。最近読んだ本『隠れた脳』が、これを主題としていたのでご紹介します。題名から想像できるように、主にシステムその1の働きに焦点をあてています。

今回は、隠れた脳とはどういうものかを説明した箇所を引用します。

なぜ人間は意識的な脳と、隠れた脳の両方を持っているのか、説明する方法はいくつもある。一つ例をあげてみよう。わたしたちの経験には二種類ある。新しい経験と、繰り返されるおなじみの経験だ。意識的な脳は合理的で、慎重で、分析的なので、新しい状況に対処するのが得意だ。しかし状況を理解し、問題を解決するルールを見つけたら、その経験をするたびに考え込む必要はない。見つけたルールを使って、機械的に対処すればよい。こうした作業には、隠れた脳のほうが向いている。決まった作業を効率よく行うため、頭の中で思考の近道をすることをヒューリスティックスというが、隠れた脳はこのヒューリスティックスの達人である。スキルを身につけるということは、たいていの場合、隠れた脳にひとまとまりのルールを教えるということなのだ。初めて自転車に乗るときは、倒れないよう意識を集中しなければならない。しかしバランスを取るためのルールをいったん覚えたら、あとは隠れた脳に作業をすべて任せてしまえばいい。考えなくても、自然にできるようになるのだ。言葉についても同じで、新しい言葉を覚えるときは、一つ一つ単語を覚えたり文法を勉強したりしなければならないが、マスターすれば、苦労して単語を思い出したり、正しい文法を考えたりはしない。 (p.26)

隠れた脳は効率を重視するため、正確さは二の次になるとも述べています。

つづいて、意識にあらわれている脳と隠れた脳が並んで働く場合について。

自分の意見を言えと指示されると、頭の中で意識的な脳と隠れた脳が対峙して議論を始めるが、勝つのは常に意識的な脳だ。理論的な分析は、幼稚なヒューリスティックよりも強いからだ。意識的な脳がパイロットだとすれば、隠れた脳はオートパイロット機能である。パイロットは常にオートパイロットより優先するが、パイロットが注意を払っていないときはオートパイロットの出番となる。 (p.109)


「パイロットが注意を払っていないときはオートパイロットの出番となる」とありますが、チャーリー・マンガーであればもっと厳密に書くのではないでしょうか。「パイロットが気づかぬ間にオートパイロットが働いている」と。つまり、注意しているつもりでも隠れた脳が働くということです。

われわれが失敗をふりかえるとき、「それは想定していなかった」とか「そこまで読めなかった」とか「そもそもの仮定が間違っていた」といった声をあげるものです。頭の中でオートパイロットが働いて近道をしたということですね。それ以前に経験不足ということもあるでしょう。ささいなことならともかく、影響が大きいときにはひと悶着の始まりです。当たり前のことですが、影響が大きい意思決定を行なう際にリスクを下げるには、オートパイロットがおかす誤りをみつけてくれる仕組みが望まれるでしょう。そういえばウォーレン・バフェットも、自分の誤りを指摘してくれるパートナーのことをいつも自慢していますね。

最後になりますが、本書では、実際に起きた各種のできごとを題材に取り上げて話題を展開しながら、隠れた脳がどのように働いているかを検証・考察しています。著者がワシントン・ポスト紙のライターというだけあって、選んだ素材だけでなく、話しの進め方も上手です。翻訳もなめらかです。個人的には惹き込まれた一冊でした。

2012年6月16日土曜日

今般の津波は当社の想定を大きく超えるものだった

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テレビなし、新聞なしの生活をしているので、昨年起きた大震災に関する情報にはあまり触れてきませんでした。意識的にそうしていたところもあったのですが、そろそろ集中して知るべきと考え、『福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書』を読んでみました。完璧な本というわけではありませんが、自分の知らなかったことが多く記されており、参考になるところが多かったです。

チャーリー・マンガーが「他人の失敗から学べ」と説いているように、この本を通じて今回の失敗から何かを吸収できればと思います。今回は、同書から「想定外」について引用します。

 今回もまた、東京電力は、「今般の津波は当社の想定を大きく超えるもの」だったと主張している。しかし、三陸一体を襲った貞観津浪(西暦869年)の研究が進み、その意味合いが注目を集めるようになるにつれ、もはや津波の高さは「想定外」ではなくなっていたし、実際、東海第二原発では津波の想定される高さを上げ、海水ポンプの津波対策を強化していた。また、東京電力女川原発では建設当初より高い津波を想定し、敷地高に余裕を持たせていた。実は、東京電力の原子力技術・品質安全部は福島原発が「想定」した以上の高さの津波の来る可能性を示すシミュレーション結果を2006年に発表していたが、これは東電原子力部門上層部から「アカデミック」との理由で却下された。

津波の襲来は「想定外」ではなかった。多くの研究がそれを「想定」していたのに、東京電力は聞く耳を持たなかった。要するに東京電力の「想定が間違っていた」ということである。「想定外」を口にすることは、リスクマネジメントを放棄することにほかならない。ただ、規制当局も、津波リスクに対する新たな知見を織り込むよう事業者に勧めたものの、具体的措置は求めず、それを規制対象とはしなかった。(p.386)

「想定外」というよりは、実のところは非公式なリスク要因として挙げられたのかもしれません。ただし、その発生確率を過小評価して、対策をとらないことにしたのではないでしょうか。誰かがどこかで書いていたのを思い出します。どんなに賞金が高くても、ロシアン・ルーレットには挑戦しないと。発現すると致命傷に至るリスクは別格に扱え、ということですね。

ウォーレン・バフェットは「CEOはChief Risk Officerであれ」と言っています。今回の件で学べることは、その経営者や企業風土も経営資源のひとつと捉えた上で、企業全体のリスクを評価することが投資家に求められるということです。リスクの話題は今後も少しずつ触れていきたいと考えています。

2012年6月11日月曜日

客観的に判断できる人の割合は?(マイケル・モーブッシン)

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資産管理会社の大手レッグ・メイソンといえば、以前は絶頂を誇ったビル・ミラー氏が有名でした。しかしここ数年の失敗の後、彼のファンドの看板はマイケル・モーブッサン氏に変わってきています。彼のための専用のWebサイトも用意されています。

モーブッサンはチャーリー・マンガーやウォーレン・バフェットの教えを踏まえているようで、彼の文章を読むと共感できるものがあちこちにみられます。ただし彼の場合は、より定量的に迫ろうとしている点が特徴的ですが、個人的にはそちらにはあまり近寄らないようにしています。

今回はモーブッサンの著書の翻訳『まさか!?―自信がある人ほど陥る意思決定8つの罠』から、心理学的な落とし穴のひとつを引用します。日本語の題名はともかく、個人的にはこの本も楽しんで読めました。

仕事にかかる時間やコストを見積もるのは難しい。正しく見積もれない場合というのは通常、時間とコストを少なく見積もりすぎるのだ。心理学者は、これを計画錯誤と読んでいる。大多数の人は何かを計画する時に主観的な視点でしか見られないのだ。自分や他人の経験から基準となる客観的なデータを得て、そこからスケジュールを立てる、といったやり方ができる人はわずか4人に1人であるという研究結果が報告されている。(p.35)


なぜ人々は客観的な視点を持たないのかについて。

周りの人間と比べて自分は特別で優秀であるとほとんどの人が思い込んでいるからである。(p.36)


チャーリー・マンガーも、自身を過大評価する傾向は人の判断を誤らせると指摘しています。できないことをできると考えれば失敗するのは当たり前ですが、なぜ人は自分のことを過大評価するのかという疑問は、興味深いテーマだと感じています。

なお、モーブッサンがこの秋に出す本のタイトルは『THE SUCCESS EQUATION』(成功するための方程式)。この本も期待して待ちたいと思います。

2012年6月2日土曜日

「ベンチャーキャピタル」の名前の由来

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読んでいる本『探求―エネルギーの世紀』で、「ベンチャーキャピタル」という名称が生まれた経緯が書かれていたのでご紹介します。

現代のベンチャーキャピタルに似通ったものは、第二次世界大戦直前に出現した。J.H.ホイットニー&カンパニーという独創的な会社の運用資産には、オレンジジュースの<ミニッツメイド>、テクニカラー社、映画『風と共に去りぬ』への出資などが含まれていた。言い伝えによれば、J.H.ホイットニーのパートナーが、この新型投資の最初の名称を考えたというー"プライベート・アドベンチャー・キャピタル"というものだった。しかし、響きがよくなかった。リスクが極端に大きく、無謀であるかのように思えた。責任ある受託者が、思慮深く管理するよう任されたカネを使って、"冒険"に乗り出すわけがない。そこで、それを縮めて、単純かつ廉直な"ベンチャーキャピタル"という名称に変えた。(下巻 p.225)


はずかしながら、わたしが投資している企業の1社が「アドベンチャー」状態です。何年間も成果が実っておらず、果実が得られるには今後も数年間は待つ必要があります。しかも成功する保証はありません。ウォーレン・バフェットならば、絶対に近寄らない投資先です。いずれは、わたしの失敗投資の事例としてご紹介するつもりです。

2012年5月25日金曜日

金融史を読みましょう(ウォーレン・バフェット)

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今回も、バークシャー・ハサウェイの年次株主総会での質疑応答からです(前回分はこちらです)。あやまちをできるだけ減らすにはどうしたらよいかという質問に対して、チャーリー・マンガーはおなじみの「他人の過ちから学ぶこと」と答えています(過去記事)。それを受けて、ウォーレン・バフェットは次のように発言しています。

金融に関する歴史を読むようにしています。混乱の時期のことは好んで読んでいました。そのおかげで、数学を得意とする人[金融エンジニアなどの専門家]たちよりも優位に立てたと思います。彼らは人間というものを理解していないのですね。わたしどもは他人の過ちから学ぶよう心がけていますが、いろいろ役に立っています。

WB: Reading financial history. I’ve always been absorbed at reading about disasters. This gave us advantage over others with a lot of math. They didn’t understand other humans. We have been a student of other’s folly, and it has served us well.

個人的には、お金のことも歴史もどちらも興味があるので、この手の本はよく読んでいます。得た知識をうまく活かせていないあたりは、まだまだですが。けっこう前に読んだ本では、キンドルバーガーやピーター・バーンスタインが楽しめました。『熱狂、恐慌、崩壊―金融恐慌の歴史』『経済大国興亡史 1500-1990』(原書評価は五つ星)、『リスク―神々への反逆』といったあたりは印象に残っています。

2012年5月21日月曜日

安くなくても、まあいいでしょう(マイケル・ポーター)

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企業戦略を分析する上でマイケル・ポーターの「5つの競争要因」は使いやすいフレームワークです。投資先の弱点探しをする際には、わたしも頻繁に使っています。詳しい説明がなされている同氏の著書『競争の戦略』は企業戦略の定番教科書ですが、投資家にとっても役立つものです。先日取り上げた『企業戦略論 競争優位の構築と持続』でも、大きく取り上げられていました。

要約すると5つの競争要因とは、企業の生き残りを考える際には次の5つの観点で考えるとよい、というものです。
  1. 既存企業同士の競争
  2. 新規参入者の脅威
  3. サプライヤーの交渉力
  4. 買い手の交渉力
  5. 代替品や代替サービスの脅威
少し前のDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー誌を読んでいて、同書の入門的な記事がありましたので、ご紹介します。2011年6月号に掲載されているポーター自身の論文「[改訂]競争の戦略」です。今回はその文章から「買い手の価格感度」の話題を引用します。

まずは、企業が高い収益性を保つ要因のいくつかについて。
先端技術やイノベーションは、それだけで業界構造を魅力的(または魅力に乏しいもの)にするわけではない。ありふれたローテク業界でも、買い手の価格感度が低い、スイッチング・コストが高い、あるいは規模の経済のために参入障壁が高い場合には、ソフトウェア業界やインターネット業界などライバルたちを呼び寄せる魅力度の高い業界よりも、よほど収益性が高い。(p.47)

スイッチング・コストや規模の経済は、以前に本ブログでも軽く取り上げています(過去記事1過去記事2)。もうひとつ、「買い手の価格感度が低い」という表現が登場していますが、これは買う側のほうが、うるさく値下げを迫らなかったり、そのままの値段で買ってくれたり、さらには値上げを容認してくれるといった意味ですね。ありがたいお客さまです。以下では、その具体的な傾向を説明しています。
製品が買い手の原価構造や支出において取るに足らない程度であれば、一般的に買い手の価格感度は低くなる。

儲かっており、現金も潤沢な買い手は、一般的に価格感度が低い。

調達する製品しだいで品質に大きな影響を生じる場合、買い手は通常あまり価格にこだわらない。たとえば、大手映画制作会社が撮影用の高品質カメラを購入またはレンタルする場合、価格は気にせず、最新機能付きで信頼性の高いものを選ぶ。

その業界の製品やサービスが、パフォーマンスの向上あるいは人件費や原材料費などのコスト削減によって、通常の何倍も儲かる場合には、買い手はたいてい価格よりも品質に関心があるといえる。たとえば投資銀行業務など、パフォーマンスが低いとコスト高や面倒な事態を招きかねないサービスには、価格にこだわらない傾向がある。(p.42)

個人的には、価格感度の低さは投資候補企業のMoat(経済的堀)をはかる上で重要視している要因です。この要因は、スイッチング・コストやチャーリー・マンガー言うところの心理学的な傾向と合わさることによって、相乗効果を発揮するものと捉えています。

2012年5月15日火曜日

製品差別化戦略と模倣コスト

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少し古い本ですが『企業戦略論 競争優位の構築と持続』(3分冊)を読んでいます。邦訳では副題にまわっていますが、原書のほうのタイトルは『Gaining and Sustaining Competitive Advantage』と投資家好みの直球です。また原書は第4版まで改訂されていますが、かなりいい値段がついています。

さて、今回は中巻から「製品差別化」について引用します。

まずは、製品やサービスを差別化する利点と注意点です。
製品差別化戦略を実行することにより、企業は自社の製品やサービスに対し、平均総コストを上回る価格を付与でき、それによって経済価値を生み出すことができる。製品の差別化に成功した企業は、外部環境のさまざまな脅威を減らし、かつ外部環境に存在する機会を活用することができる。しかし、ある戦略がその企業に単に経済価値をもたらすのみならず、持続的競争優位を生じさせるには、その戦略が稀少で模倣コストの大きな内部組織上の強みと弱みに裏打ちされていなければならない。
(p.138)

次に、製品やサービスを差別化する代表例です。他社がそれらを模倣しようとするときの難易度を3つの観点で評価しています。(*マークが多いほど、模倣コストが高くなる傾向)。

#製品差別化の源泉歴史的経路依存性因果関係不明性社会的複雑性
1製品の特徴や機能---
2製品の品揃え***
3他企業との連携*-**
4製品のカスタマイゼーション*-**
5製品の複雑性*-*
6消費者マーケティング-**-
7機能横断的なリンケージ****
8タイミング****-
9ロケーション***--
10評判********
11流通チャネル*****
12アフターサービスとサポート****

3つの観点の説明は、次のとおりです。
  • 歴史的経路依存性
    企業がたどってきた歴史的経緯に独自のものがあり、模倣コストに影響すること。
  • 因果関係不明性
    因果関係はよくわからないが、競争優位に関係すること。
  • 社会的複雑性
    企業がシステマチックに管理したりコントロールしたりする能力の限界を超えているようなこと。たとえば、企業内におけるマネジャーたちの相互コミュニケーション能力、企業文化、サプライヤーや顧客の間での自社の評判などである。

模倣コストが高くつくと評価されているものの中に、8.タイミングと10.評判が含まれているのが興味ぶかいです。「タイミング」は先行者有利の好例ですし、一方の「評判」は時間をかけて築くものです。大成功している企業を思い浮かべると、そのどちらも兼ね備えているように思えてきます。

2012年5月5日土曜日

誤判断の心理学(9)お返しする傾向(チャーリー・マンガー)

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今回は、心理学者のロバート・チャルディーニによる実験が紹介されています。人間の持つ心理学的傾向を逆手にとった、見事な実験です。(日本語は拙訳)

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その9)お返しする傾向
Reciprocation Tendency

反射的にお返しをしたり、しかえしをするのは行き過ぎることもある、と考えられてきました。実のところ、類人猿、猿、 犬、あるいはもう少し知性の劣る動物も同じように振舞うのです。この傾向は一丸となって協力するのが望ましい場合に役立つので、その点では[アリのような]社会的昆虫の持つ遺伝的な性質から多くを借りています。

The automatic tendency of humans to reciprocate both favors and disfavors has long been noticed as extreme, as it is in apes, monkeys, dogs, and many less cognitively gifted animals. The tendency clearly facilitates group cooperation for the benefit of members. In this respect, it mimics much genetic programming of the social insects.


次は、この傾向がうみだす望ましい側面です。

近代社会は商業交易のおかげで繁栄をむかえましたが、そこでは人間が生来持つ「お返しをする」傾向が大きな役割を果たしています。交易の場では、お互いの返報を期待しつつ自己利益を追求する、といった聡明なやりかたが建設的な取引につながります。結婚生活における日々のやりとりでも、この返報する傾向が役に立っています。この傾向がなければ、よき関係はかなり喪われてしまうでしょう。

It is obvious that commercial trade, a fundamental cause of modern prosperity, is enormously facilitated by man's innate tendency to reciprocate favors. In trade, enlightened self-interest joining with Reciprocation Tendency results in constructive conduct. Daily interchange in marriage is also assisted by Reciprocation Tendency, without which marriage would lose much of its allure.


今度は、この傾向を使って他人をあやつる例です。

心理学者のチャルディーニが行った有名な心理学の実験は見事なもので、実験者による見えざる影響力をつかって、被験者の潜在意識下にある返報傾向を呼び起こすように誘導しています。

この実験でチャルディーニは、実験者に対してキャンパスを歩き回り、めぼしい人をみつけたら保護観察中の若者たちを動物園へ引率してほしい、とお願いするように指示しました。かなりの数の被験者が得られましたが、同意してくれたのは6人に1人でした。この実験結果をまとめた後、チャルディーニは今度は別の実験を行うことにしました。実験者がキャンパスでつかまえた人に対して、今後2年間にわたって保護観察中の若者を監督するのに毎週それなりの時間をあててほしいと依頼したのです。こんなとんでもない要求に応じる人は皆無でした。しかし重要なのは、実験者がこのあとすかさず出した次のお願いです。「それではせめて1回でかまいませんので、例の若者たちを動物園へ連れて行って頂けないでしょうか」。これが効果てきめんで、応じてくれた人の割合は2人に1人までになりました。実に3倍に増えています。

チャルディーニが実験者をつかってやったのは、相手からちょっとした譲歩を引き出したものです。それも正面ではなく、裏口からです。潜在意識を刺激して、譲歩という形でお返しをさせたことで、保護観察の若者を動物園へ連れて行く人の割合を増やしたのです。このような実験を考え出せるような教授は、それがすごく重要なことだと言い表わせれば、広く世間で評価されるでしょう。実際、チャルディーニの衣鉢を継いでいる大学からは高く評価されています。

In a famous psychology experiment, Cialdini brilliantly demonstrated the power of “compliance practitioners” to mislead people by triggering their subconscious Reciprocation Tendency.

Carrying out this experiment, Cialdini caused his “compliance practitioners” to wander around his campus and ask strangers to supervise a bunch of juvenile delinquents on a trip to a zoo. Because this happed on a campus, one person in six out of a large sample actually agreed to do this. After accumulating this one-in-six statistic, Cialdini changed his procedure. His practitioners next wandered around the campus asking strangers to devote a big chunk of time every week for two years to the supervision of juvenile delinquents. This ridiculous request got him a one hundred percent rejection rate. But the practitioner had a follow-up question: “Will you at least spend one afternoon taking juvenile delinquents to a zoo?” This raised Cialdini's former acceptance rate of 1/6 to 1/2 a tripling.

What Cialdini's “compliance practitioners” had done was make a small concession, which was reciprocated by a small concession from the other side. This subconscious reciprocation of a concession by Cialdini's experimental subjects actually caused a much increased percentage of them to end up irrationally agreeing to go to a zoo with juvenile delinquents. Now, a professor who can invent an experiment like that, which so powerfully demonstrates something so important, deserves much recognition in the wider world, which he indeed got to the credit of many universities that learned a great deal from Cialdini.


ロバート・チャルディーニの実験は、当人の著書『影響力の武器』から引用されたものです。この本は心理学の世界や顧客獲得に励む営業部隊では必読書に指定されているのではないでしょうか。チャーリーは本書を読んで感激し、バークシャー・ハサウェイのA株を著者チャルディーニへ贈ったとされています。現在のA株の価格は、約1,000万円です。

蛇足ですが、私も仕事の様々な局面でチャルディーニの心理学的なアイデアをお借りしました。華々しいということはなかったですが、たいていはその通りに働いて、小さな成功をおさめられました。マネージャーに限らず、交渉に悩むみなさんにお勧めの一冊です。もちろん本書はチャーリーの推薦図書です。

2012年4月25日水曜日

自分のやりかたで解く(リチャード・ファインマン)

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最近読んだ本『ファインマンさんの流儀』は、彼の業績や評判を軸に展開される伝記です。物理のことはだいたい忘れてますし、量子物理学の話にはほとんどついていけませんでしたが、ファインマンの天才ぶりはよくわかりました。

今回は同書からの引用で、ファインマンのやりかたについてです。チャーリー・マンガーは様々なモデルを使いこなすことの利点を説いていますが、なかでも基礎的な学問を重視しています(過去記事)。自分のやり方にこだわるファインマンが、その好例をみせてくれます。

実際、リヒスがほんとうにその会社、<シンキング・マシンズ>社を始めたとき、ファインマンは1983年の夏じゅう、ボストンで(カール[息子]と共に)過ごさせてくれと申し出た。ただし、ヒリスの願いに沿って自分の科学専門知識に基づいて、全般的で曖昧な「助言」をすることについては、そんなことは「でたらめの山」だからできないと言って拒否し、なにか「具体的な仕事」をくれと要求した。結局彼は、並行計算が実際にちゃんと行えるようにするために個々のルーターに必要なコンピュータ・チップの数は何個かという問題に対する解を導き出した。彼が導き出したこの解がすばらしかったのは、伝統的なコンピュータ・サイエンスの技法を一切使わず、その代わりに、熱力学や統計力学を含む物理学のさまざまな考え方を使って定式化されたものだったからだ。そして、なお重要なことに、その会社のほかのコンピュータ技術者たちが出した推定値とは一致しなかったけれども、実際にはファインマンのほうが正しかったのであった。(p.340)

2012年4月24日火曜日

ブラジルが一緒に詰めて輸出しているもの

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前回記事に続いて『食の終焉』からの引用の最終回です。今回は農業や畜産業で成長著しいブラジルについてです。

農家がいまだに分厚い表土の恩恵を受けているアメリカ中西部や黒海地方とは違い、南米の森林地帯の多くは表土が薄く、有機物の少ない強酸性の土壌であるため、開墾され作付けが行われても、ほかの地域で行われてきたような集約的農業に十分に耐えられない。そのような土地では、有機物の消失が急速に進み、それによって収穫量が徐々に落ち込み、表土流出の危険性が高まると、農家はその土地を放棄して新しい土地に移るしかないが、そのためにまた新たな森林伐採が必要となる。言ってみれば、ブラジルは輸出する大豆の袋や冷凍鶏肉の箱の中に、安い労働力やすでに逼迫している水資源や土資源を一緒に詰めて輸出しているようなものなのだ。

育種の専門家で、中南米で調査を行ったジョージア大学のチャールズ・ブラマー(Charles Brummer)教授は言う。「ブラジルが次の100年も作付け面積を増やせると考えるのは馬鹿げている。彼らは沼地を干拓したり、森林の伐採をさらに進めたりすることはできるだろう。しかし、それはすでに彼らが、延命措置によって生きていることを意味している」(p.399)

ブラジルはこれからの経済成長が期待されている大国として明るい面ばかりみていましたが、それなりの影がかくれているのですね。

2012年4月22日日曜日

スナック菓子が食事を占める割合

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前回の記事に続いて『食の終焉』からの引用です。今回は食品メーカーのマーケティングやR&Dについてです。

まずはブランドについて。
ほとんどの加工食品において(ついでに言えば、ほとんどあらゆる消費者製品についてもこれはいえる)、消費者は首位のブランドをあたかもそれがより高い価値を持つ製品であるかのように扱い、その価値を手に入れるためであれば、消費者は喜んで割高の代金を支払ってくれる。具体的には、消費者は売上トップのブランドには2位のブランドよりも最大4パーセントまでの割高な代金を、3位のブランドよりも7パーセント余分な代金を支払う意思がある。その3つの製品が本質的に同一のものであったとしてもだ。(p.97)

次は嗜好に関する研究結果です。
ネスレ、クラフト、ハインツなどの会社は、味と嗜好の謎をデータ化することに成功した。それだけでなく、私たちが何を好んで食べるか、そしてそれをなぜ好むのか、その理由まで、私たち自身が認識している以上に、彼らは私たちのことをよく理解している。彼らは塩味やカリカリ感への嗜好性が性別、年齢、民族性、国民性によってどう変わるかも、正確に把握している。年長者は味蕾の衰えもあって濃い味を好み、アジア人は塩気のあるパリッとしたスナックに目がなく、アメリカ人は新しい味に夢中になりやすいが、マカロニやミートローフのような「郷愁を感じさせる味」にも弱く、これまで慣れ親しんだ味からそう簡単には離れられないことも、彼らはすべてお見通しなのだ。(p.102)

「慣れ親しんだ味からそう簡単には離れられない」理由を、ネスレ社のあるマネージャーは次のように説明しています。
「人間はこと食べ物のことになると、昔からとても保守的にできています。かつて狩猟採集民だった頃から、何か急な味の変化を感じ取ったとき、それを何かの警告として受け取る習性が身に付いているからです」
(p.84)

最後は、スナック菓子のマーケット調査結果です。
世界中の食品販売を分析しているイギリスのデータモニター(Datamonitor)社は、平均的なアメリカ人は3日に1回は朝食を抜いていて、さらに昼食と夕食を抜く回数も増え始めていると分析している。このような傾向は消費者の健康には恐ろしく悪いことだが、食品会社にとってみればまた新たなチャンスの訪れを意味している。消費者が日常の食事の回数を減らせば、それを補完するために、利益率の高い食物カテゴリーであるスナック菓子を多く食べるようになるからだ。データモニター社によると、現在アメリカでは、スナック菓子がすべての食事の約半分を占めるまでになっているという。(p.105)

2012年4月21日土曜日

インスタントコーヒーのあけぼの

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投資に役立つヒントを求めて、マクロな視点の本も少しずつ読んできました。水資源、食糧、省資源、気候、地球温暖化、大企業の社会的問題といったものです。最近読んだ本『食の終焉』はこれらの話題を包含するような力作です。本書の主題は、ビジネスに取り込まれてしまった「食」を様々な観点からとらえ、警鐘をならすことにあります。情報量が多い本は消化不良でおわったり、主旨がふらつくことがありますが、本書にはあてはまりません。著者はひとつひとつの話題をそれなりに掘り下げ、互いをつなぎあわせ、自らの主張を織り込み、読みごたえのある文書をつくりあげています。邦訳のほうも、幅広い分野にわたる原文に追いつくだけでなく、なめらかな日本語へと置き換えています。ビジネスや世界情勢を理解するのに役立つ知識はもちろん、社会や我々の中にある闇をみつめるきっかけも得られるでしょう。個人的には、今年読んだ中でベスト3に入れたい本です(これから読む本も含めて)。

同書の中から印象に残った文章をいくつかご紹介します。今回はインスタントコーヒー商業化のいきさつについてです。

もちろん、消費者の時間不足だけが食品メーカーをインスタントコーヒーなどのお手軽食品の開発に駆り立てたわけではない。そもそも、ネスレがインスタントコーヒーを考案したのは、消費者が手軽に入れられるコーヒーを望んでいたからではなく、コーヒー豆の価格が生の状態で売るには安くなり過ぎたからだった。1930年代、ブラジルのコーヒー農園はアメリカの穀物農場のように非常に広大になったため生産効率が高くなり、コーヒー豆の市場はだぶついていた。コーヒー相場は大幅に下落し、ブラジル人はコーヒー豆を機関車の燃料として燃やすほど持て余していた。困ったコーヒー産業の関係者たちは、需要喚起を願って、もっと消費者に手軽なコーヒー製品を開発するようネスレに懇願した。コーヒーの加工は初めてだったが(当時ネスレは主に牛乳を扱う会社だった)、その時のネスレの幹部らの推測は正しかった。余った豆をもっと手軽に使えるような形に変えることができれば、消費者はより多くのコーヒーを飲むだけでなく、喜んで生の豆の相場よりも高い金額を支払うだろうと考えたのだ。

このように未加工の農産物を加工して利益をもたらすような製品に変換することを「付加価値」と呼ぶが、この程度のことは今日、あらゆる商品を対象に当たり前のように行われているため、それが食品加工産業の成功とその特性に、どれほど中心的な役割を果たしてきたかをついつい見逃しがちである。穀物相場の下落は農場主の首を絞めていたかもしれないが、安い穀物をコーンフレークやキンダーミールに変えることで加工費を原材料費に上乗せして受け取っていたケロッグやネスレなどの加工業者には、逆の効果があった。確かに千年以上前から職人たちは穀物や牛乳、肉に付加価値を付けてきた。ワインから発酵という付加価値をなくせばただのブドウである。しかし大量生産と市場出荷という新しい手段のおかげで、付加価値は、未加工農産物の生産者が手に入れられなかった潜在的利益を食品会社にもたらした。(p.92)

2012年4月15日日曜日

飢えた犬が骨に食らいつくような光景

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最近読んだ本『ハイパーインフレの悪夢』は、その時代に生きた人々の思いや世相が伝わってくる一冊です。インフレが高じたメカニズムを解明する類の本ではありませんが、歴史から何かを学ぼうとする人にとっては一読に値する本だと思います。

今回は同書からの引用で、1923年11月6日ごろに、あるイギリス人実業家がベルリンで見た光景です。第一次世界大戦でドイツが敗れ、1919年6月にヴェルサイユ条約を受諾した時点での為替レートは、1ポンド=20マルクでした。一方、この文章が書かれたのはハイパーインフレの末期で、1ポンド=3100億マルクまで減価していました。

わたしは自分が目にした光景に気分が悪くなりました。たまたま、フリードリヒシュトラッセとウンターデンリンデンのあいだのアーケードを通りかかったのです。するとその狭い空間に、ほとんど死にかけた3人の女がいました。肺病か飢餓の最終段階にあるようでした。おそらく飢餓のほうでしょう。女たちには施しを求める力さえありませんでしたが、わたしが無価値なドイツの札をひと束与えると、必死になってそれをつかもうとしました--飢えた犬が骨に食らいつくように。それを見て、わたしは衝撃を受けました。わたしはドイツびいきではありませんが、休戦から5年が経つ今、わたしたちがこのような事態を容認しているとは驚きです。ああいう惨めなものを見たことがない人たちに、ここの実情がほんとうに理解できるのか、疑問に思わざるをえません。(中略)もちろんベルリンでは、自動車や、ぜいたくに暮らす裕福な人々も見かけます。しかし貧しい地区で何が起こっているか、ご存知ですか?食糧を求める長い行列を見れば、説明は無用でしょう。(p.245)

2012年3月31日土曜日

プリンストンへのふざけ半分の手紙(ロバート・ルービン)

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ルービンという名前を聞くと、クリントン政権時代の閣僚で日本経済をこてんぱんにしてくれた印象があり、これまではなんとなく近寄るきっかけがありませんでした。が、少し前にチャールズ・エリスの『ゴールドマン・サックス』を読んだところ、控えめな言動ぶりが意外で(他の歴代頭領は、ごり押し型が多いのです)、彼に対して少しばかり興味を持ち始めていました。そして別の理由もあり、めぐりめぐって『ルービン回顧録』を手にとることになりました。

今回は同書からの引用で、ちょっとした粋なやりとりです。こういったウィットを交わせる大人になりたいものです。

[ハーバード大学を]卒業後、私は四年前不合格にされたプリンストン大学の入試部長にふざけ半分の手紙を出した。「貴大学の卒業生を追跡調査しておられることと拝察いたします。他方で貴大学に合格を許されなかった学生のその後にも興味がおありではないかと存じます。このたび私は最優等とファイ・ベータ・カッパ[優等学生友愛会の会員資格]をいただき、ハーバード大学を卒業いたしましたことをお知らせしたくお手紙を差し上げました」。すると、部長から折り返し返事があった。「お手紙ありがとうございます。毎年、プリンストンでは非常に優秀な学生を何名か不合格にしなければならないと考えております。ハーバードにも、すぐれた学生が入学できるように」 (p.87)


蛇足ですが、上述の『ゴールドマン・サックス』は楽しめた本です。アツい男たちのチーム・プレーや心意気が描かれており、ひきこまれました。自分の人生やポリシーとはまったく違うので、この手の世界には無意識にあこがれているのかもしれません。

2012年3月19日月曜日

(問題)男の子が多く生まれる病院はどちらか?

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最近読んだ本『ギャンブラーの数学』では、ギャンブルにまつわる確率や心理が取り上げられています。数学者の書いた本なのですが、個人的には歴史上の逸話のほうがおもしろく、ドストエフスキーの伝記あたりを読んでみたくなりました。

さて、確率についての基礎的な考え方はわかったつもりでいたのですが、本書を読んで反省しました。文中で挙げられていた次の問題で、答えをはずしてしまったのです。

高校レベルの確率の知識があれば正解できる簡単な問題です。解答は次回にご紹介します。

赤ん坊の50パーセントが男の子で、ある町の大きな病院では1日に約45人の赤ん坊が生まれ、小さな病院では1日に約15人の赤ん坊が生まれる。それぞれの病院で1年にわたり、新生児の60パーセント以上が男の子だった日数を記録した。では問題。
その日数が多かったのはどちらの病院か?

1.大きな病院
2.小さな病院
3.ほぼ同じ

(p.104)