わたしの行動を変えるのは、そう簡単なことではありません(家族に訊いてみてください)。チャーリーから言われずとも、それまで十分な成功を享受してきました。そうであれば、どうしてビジネス・スクールに1日も通ったことのない弁護士の言うことを聞かねばならないのでしょうか(かく言うわたしは、都合3か所[のビジネス・スクール]に通ったのですぞ)。しかしチャーリーはビジネスや投資に関するみずからの教えを、わたしに説き続けました。彼の論理は覆せるものではなく、そのためチャーリーの設計図をもとにバークシャーを築いていくことになりました。わたしの役目はゼネコンと同じでした。そして子会社のCEO諸氏が、協力会社として実際の仕事を行ったわけです。
1972年はバークシャーの転換点となった年でした(ただしわたしの担当分のせいで、後戻りするときもありました。たしか、ウォームベックを1975年に買ったのはわたしでしたね)。チャーリーとわたしとバークシャーで過半数を保有するブルーチップ・スタンプ社を使って、シーズ・キャンディー社を買収する機会がやってきたのです。なおブルーチップ社はのちに、バークシャーと合併しました。
シーズ社は、西海岸で箱詰めチョコを製造販売する伝説的な企業でした。当時の税引き前利益は400万ドルで、使用されている純有形資産はわずか800万ドルでした。さらに同社には、貸借対照表には現われない莫大な資産がありました。重大な価格決定力をもたらす、容易には消えない広範な競争優位性です。その強みのおかげで、シーズ社は時を追うごとに利益を大きく増加させることができたと言えます。さらにうれしいことに、そうなっていく際に追加の投資がわずかで済んだことです。言いかえれば、シーズ社からは何十年にもわたって現金があふれ出すと期待できたのです。
シーズ社を支配していた一族は、事業の対価として3,000万ドルを要求しました。「それだけの価値はある」と、すでにそのとき言い当てていたのはチャーリーでした。しかしわたしは2,500万ドルしか払う気はありませんでした。たとえその金額でも、全然ワクワクしませんでした(純有形資産の3倍もの値段ですから、鼓動のほうがドキドキしました)。わたしの用心が見当違いだったせいで、すばらしい買い物がふいになっていたかもしれません。しかし幸運だったことに、売り手はわたしたちの提示した2,500万ドルを呑んでくれました。
今日までにシーズ社があげた利益は、税引き前で19億ドルになります。一方、成長に必要な追加投資は4,000万ドルで済みました。シーズ社は莫大な額になる資金をもたらしてくれたので、バークシャーが他の事業を買う際に助かりました。そして買収した事業のほうも同じように、他へ回せる利益を大量に生み出したのです(ウサギの繁殖を思い浮かべてください)。その上、シーズ社の事業運営を観察できたおかげで、強力なブランドが持つ価値のことをビジネスを通じて学べました。それによってわたしは、さまざまな他の高収益な投資先へと目を向けるようになったのです。
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チャーリーによる設計図があったものの、ウォームベック以降もいろいろとまちがいをやりました。一番おぞましかったのがデクスター・シュー社でした。同社を1993年に買収した時にはすばらしい業績がつづいており、どう見てもシケモクには見えませんでした。しかし同社が持っていた競争上の強みはすぐに蒸発してしまいました。外国企業との競争のせいですが、そうなることをわたしが考えていなかっただけです。
バークシャーが4億3,300万ドルを払ったデクスター社は、結局あっというまに価値がゼロになりました。しかしGAAPの会計原則は、私の失敗の度合いを記録できるようなものではありません。わたしがデクスター社の売り手に払ったのは、現金ではなくてバークシャー株でした。買収に使われた株式は現在の価値にすると57億ドル、つまりこれが実際に起こったことなのです。この件は、金融界における失敗の世界記録としてギネスブックに載ってもおかしくないと思います。
その後にわたしがまちがえた中には、バークシャー株を買収に使った案件もありました。しかし買収した事業は、利益をあげるのが精一杯となってしまいました。その種のまちがいは致命的です。すばらしい事業、つまり一番確実なのがバークシャーですが、その株式と「そこそこな」事業の所有権を交換するのは、修復不能までに価値を損なってしまうからです。
それと同じように、バークシャーが株式を保有する企業がこのまちがいをした際にも、わたしたちは金融的な意味で苦しみました(わたしが取締役に加わっていた企業で、そういったまちがいが起きたこともありました)。初歩的な現実に目がいかないCEOが多すぎます。つまり買収先に与える株式の本源的な価値が、受け取る事業の本源的な価値を上回ってはいけない、という意味です。
買収を検討している会社の取締役会に対して投資銀行家が株式交換を提案する際に、何よりも重要なこの計算を数字で示した例は一度も見たことがありません。そのかわりに銀行家が専念しているのは、「慣例となっている」上乗せ価格をどう描写するかです。その金額は現在の買収において支払われているものですが、買収先の魅力を測るにはまぎれもなくおろかな方法です。あるいは、その取引が買収側のEPSを増加させるかどうかについて熟考しているのかもしれません(EPSは買収の決定要因とすべきではありません)。1株当たり利益を望ましい数字に到達させようと奮闘してゼイゼイと肩で息をするCEOは、その「助力者たち」と共同で非現実的な「シナジー」を思い描くことがあります。(19社の取締役を何年もやってきましたが、「反シナジー」の話題が出たことはまったくありません。しかしひとたび取引が終わると、それが山ほど出てくるのを目撃してきました)。買収後検視、つまり当初の見通しと実績を正直に比較する作業が、アメリカ企業の取締役会で実施されるのは稀です。これは標準的な慣行とすべきです。
わたしが去ったあともずっと、バークシャーが買収をするために株式を追加発行するとなれば、CEOや取締役会は本源的価値を注意深く算出するとお約束できます。80ドルのものを買うのに100ドルを出していたら、金持ちにはなれません。(みなさんが高い金額を助言者に支払って、交換することを支持するとの「公平な」意見を頂戴する場合でも同じです)
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バークシャーがおこなってきた買収は、全体としてみればうまくいきました。大型の案件では非常にうまくいったものがいくつかありました。そして証券への投資もうまくいきました。後者に関する貸借対照表での評価は常に市場価格によってなされており、未実現のものも含んだすべての利益が当社の純資産へ速やかに反映されています。しかしまるごと買収した事業については、貸借対照表で再評価されて増加することは起こりえません。それらの事業は簿価より何十億ドルも高い値段で売却できる、としてもです。この10年間にバークシャーの子会社は、際立って速いペースで成長してきました。その価値が増したことで、未実現利益は莫大なものとなりました。
こうなったのも、チャーリーの考えに従ったおかげです。(PDFファイル26ページ目)
Altering my behavior is not an easy task (ask my family). I had enjoyed reasonable success without Charlie's input, so why should I listen to a lawyer who had never spent a day in business school (when - ahem - I had attended three). But Charlie never tired of repeating his maxims about business and investing to me, and his logic was irrefutable. Consequently, Berkshire has been built to Charlie's blueprint. My role has been that of general contractor, with the CEOs of Berkshire's subsidiaries doing the real work as sub-contractors.
The year 1972 was a turning point for Berkshire (though not without occasional backsliding on my part - remember my 1975 purchase of Waumbec). We had the opportunity then to buy See's Candy for Blue Chip Stamps, a company in which Charlie, I and Berkshire had major stakes, and which was later merged into Berkshire.
See's was a legendary West Coast manufacturer and retailer of boxed chocolates, then annually earning about $4 million pre-tax while utilizing only $8 million of net tangible assets. Moreover, the company had a huge asset that did not appear on its balance sheet: a broad and durable competitive advantage that gave it significant pricing power. That strength was virtually certain to give See's major gains in earnings over time. Better yet, these would materialize with only minor amounts of incremental investment. In other words, See's could be expected to gush cash for decades to come.
The family controlling See's wanted $30 million for the business, and Charlie rightly said it was worth that much. But I didn't want to pay more than $25 million and wasn't all that enthusiastic even at that figure. (A price that was three times net tangible assets made me gulp.) My misguided caution could have scuttled a terrific purchase. But, luckily, the sellers decided to take our $25 million bid.
To date, See's has earned $1.9 billion pre-tax, with its growth having required added investment of only $40 million. See's has thus been able to distribute huge sums that have helped Berkshire buy other businesses that, in turn, have themselves produced large distributable profits. (Envision rabbits breeding.) Additionally, through watching See's in action, I gained a business education about the value of powerful brands that opened my eyes to many other profitable investments.
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Even with Charlie's blueprint, I have made plenty of mistakes since Waumbec. The most gruesome was Dexter Shoe. When we purchased the company in 1993, it had a terrific record and in no way looked to me like a cigar butt. Its competitive strengths, however, were soon to evaporate because of foreign competition. And I simply didn't see that coming.
Consequently, Berkshire paid $433 million for Dexter and, rather promptly, its value went to zero. GAAP accounting, however, doesn't come close to recording the magnitude of my error. The fact is that I gave Berkshire stock to the sellers of Dexter rather than cash, and the shares I used for the purchase are now worth about $5.7 billion. As a financial disaster, this one deserves a spot in the Guinness Book of World Records.
Several of my subsequent errors also involved the use of Berkshire shares to purchase businesses whose earnings were destined to simply limp along. Mistakes of that kind are deadly. Trading shares of a wonderful business - which Berkshire most certainly is - for ownership of a so-so business irreparably destroys value.
We've also suffered financially when this mistake has been committed by companies whose shares Berkshire has owned (with the errors sometimes occurring while I was serving as a director). Too often CEOs seem blind to an elementary reality: The intrinsic value of the shares you give in an acquisition must not be greater than the intrinsic value of the business you receive.
I've yet to see an investment banker quantify this all-important math when he is presenting a stock-for-stock deal to the board of a potential acquirer. Instead, the banker's focus will be on describing "customary" premiums-to-market-price that are currently being paid for acquisitions - an absolutely asinine way to evaluate the attractiveness of an acquisition - or whether the deal will increase the acquirer's earnings-per-share (which in itself should be far from determinative). In striving to achieve the desired per-share number, a panting CEO and his "helpers" will often conjure up fanciful "synergies." (As a director of 19 companies over the years, I've never heard "dis-synergies" mentioned, though I've witnessed plenty of these once deals have closed.) Post mortems of acquisitions, in which reality is honestly compared to the original projections, are rare in American boardrooms. They should instead be standard practice.
I can promise you that long after I'm gone, Berkshire's CEO and Board will carefully make intrinsic value calculations before issuing shares in any acquisitions. You can't get rich trading a hundred-dollar bill for eight tens (even if your advisor has handed you an expensive "fairness" opinion endorsing that swap).
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Overall, Berkshire's acquisitions have worked out well - and very well in the case of a few large ones. So, too, have our investments in marketable securities. The latter are always valued on our balance sheet at their market prices so any gains - including those unrealized - are immediately reflected in our net worth. But the businesses we buy outright are never revalued upward on our balance sheet, even when we could sell them for many billions of dollars more than their carrying value. The unrecorded gains in the value of Berkshire's subsidiaries have become huge, with these growing at a particularly fast pace in the last decade.
Listening to Charlie has paid off.
2015年3月7日土曜日
2014年度バフェットからの手紙(6)今日のバークシャーを描いた男(後)
ウォーレン・バフェットによる2014年度「バフェットからの手紙」を取りあげています。「第2部バークシャー過去編」は今回までで、次回からは「現在編」です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)
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2 件のコメント:
betseldomさん
ブログいつも楽しみに拝見させていただいております!!
バフェットの手紙 2014年度版は記念すべき50年目ですので、集大成となっておりますね。
バークシャーの歴史や、現在、未来と続く内容、非常に興味深いです。
「そこそこの事業をすばらしい値段で買う、そのやりかたは忘れなさい。そうではなく、すばらしい事業をそこそこの値段で買うのだよ」という言葉がバークシャーを設計してきたのですね。
考え方を変えることは、早々できませんが、変化できたからこそ今のバークシャーがあるという事を再認識しました。
直近で読んだ「投資の科学」に載っていたダーウィンの言葉を思い出しながら翻訳を読んでいました。
「最も強い種や最も賢い種が生き残るのではなく、最も変化に順応できる種が生き残るのである。」
変化に順応していきたいものです。(といっても原則を変えていきたいとは思っていませんが・・・)
これからも有用な内容楽しみにしております。
投資男さん、こんにちは。コメントをありがとうございます。
ウォーレンやチャーリーの両氏は、才能や成果はともに超一流ですし、行動や人格も第一級だと感じています。そのような人物から教えを受けるのは、たとえ文章の形であっても、他に望みようのない貴重な機会だと思います。日本語というフィルターを通過させていますが、拠りどころを必要とするみなさんに読んでもらえれば、と思いながら翻訳しています。
「投資の科学」は我が家にもあります。が、原書のMore Than You Knowも持っているという、我が家で唯一の和洋が揃った著作です。(実はどちらも頂いたものです)
いつもお読みくださってありがとうございます。またよろしくお願いします。
それでは失礼します。
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