現在のバークシャー
現在のバークシャーは、さまざまな領域に広がるコングロマリットとなりました。そしてその領域をさらに広げようと取り組み続けています。
コングロマリットに対する投資家の評判がひどいことは、認めておくべきです。そうなるだけの資格が十分にあるからです。そこでまずコングロマリットが不人気な理由を説明してから、なぜコングロマリットの形態が容易には消えない巨大な優位をバークシャーにもたらすのか描くことにします。
わたしがビジネスの世界に入ってから、コングロマリットが極端な人気を享受した時期が何度かありました。一番ばかげていた時期が1960年代末です。当時のコングロマリットのCEOがやればよい手順は単純なものでした。コングロマリットの経営者らはまず、本人の個性、広告宣伝、疑わしき会計のいずれか、場合によってはそれらすべてを使って、自社の株がたとえばPER20倍へと巣立つように操作します。そしてすかさず株式を追加発行し、その資金でPER10程度の値段が付いている事業を買収します。会計上の処理としては「持分プーリング法」をすみやかに適用します。根底にある事業の価値はビタ一文変わらないものの、EPSは自動的に増加します。その上昇を以って、経営の天才である証拠とするのです。次に彼らは投資家に対して、「この種の才能があるのだから、買収者たる企業のPERは維持されて当然、もっといえば拡大すべきだ」と説明します。そして最後に「この手続きは際限なく繰り返され、それゆえにEPSがずっと増え続ける」と約束するのです。
1960年代が終わるころになると、ウォール街はこのまやかしを激しく愛するようになりました。EPSを上昇させる工作をする際に疑わしい操作が行われだすと、特にそれらの曲芸によって合併話が生じ、投資銀行家に莫大な手数料が入るとなれば、ウォール街の住人にはいつでも疑うことをやめる用意があります。また会計監査人は、コングロマリット企業の会計処理に対して嬉々として聖水をふりまき、ときには良い数字をさらに絞り出す方法を示唆することもありました。楽に儲かるお金があふれ出したことで、多くの人の倫理的感覚が洗い流されてしまったのです。
拡大するコングロマリットにおいてEPSが増加したのは、PERの差異を活用することにありました。そのためコングロマリットのCEOは、低いPERで売られている事業を探す必要がありました。もちろんそういった事業とは、長期的見通しが暗い平凡な類いの企業です。しかし彼らは底値買いを狙うように仕向けられていたので、コングロマリットの有する事業群はたいていの場合、ますますガラクタとなっていきました。しかし投資家にとってはそれはほとんど問題ではなく、買収の頻度がどれだけ多いか、プーリング法でどれだけ利益が増えるかのほうが大切でした。
褒めそやす報道が、合併活動によって生じた大騒ぎを煽りました。ITTやリットン・インダストリーズ、ガルフ&ウェスタン、LTVといった各社がもてはやされ、そのCEOらは有名人となったのです。(一時期有名だったそれらのコングロマリットは、ずっと前に消えてしまいました。「すべてのナポレオンには、いつもウォーターゲートが待っている」とはヨギ・ベラの言葉です)[成り上がった皇帝には、いつもスキャンダルが待っている]
当時はあらゆる類いの会計操作が、正当化されるか過小評価されていました。その多くの透明性はお話しになりませんでした。実際のところ、拡大するコングロマリットのかじ取りに会計の魔術師を加えることは多大なプラスになる、と考えられていたのです。そのような状況にある株主は、事業成績の実態がどれだけ悪くなっても、報告利益は決して失望するものではないことを確信できました。
1960年代の末に参加したある会合で、買収好きなCEOがみずからの「大胆かつ創造的な会計処理」を自慢していました。聴衆のアナリストはそれにうなづく人ばかりで、事業の結果がどうであろうと予測を外さない経営者を見つけた、と考えていました。
しかし最後には時計の針が12時を指し、すべてはカボチャとネズミに戻りました。チェーン・レターとちょうど同じように、割高な値段で株式を連続発行するそのビジネスモデルは、ほぼまちがいなく富を再分配するものであり、決して富を生み出すものではないことが、いまひとたび明らかになったのです。それにもかかわらず、わたしたちの国ではどちらの現象も周期的に流行します。それはすべての仕掛け人がみる夢です。また、注意深く組み立てられた別の様子をまとって現われることがよくあります。それでも結末はいつも同じです。だまされやすい人のお金が詐欺師へと移ってしまうのです。ただしチェーン・レターとは違って、株の場合には膨大な金額が強奪されることもあります。
BPLそしてバークシャーは、株式を発行して無茶をやる企業に投資したことはありません。そのふるまいは、次のような事情を示す確実な一面だからです。つまり経営者が何かを仕掛けたがっていたり、あやしい会計処理をしていたり、株価が過大評価されていたり、そして非常によくあるように何もかもが不誠実、といったことをです。(PDFファイル28ページ目)
Berkshire Today
Berkshire is now a sprawling conglomerate, constantly trying to sprawl further.
Conglomerates, it should be acknowledged, have a terrible reputation with investors. And they richly deserve it. Let me first explain why they are in the doghouse, and then I will go on to describe why the conglomerate form brings huge and enduring advantages to Berkshire.
Since I entered the business world, conglomerates have enjoyed several periods of extreme popularity, the silliest of which occurred in the late 1960s. The drill for conglomerate CEOs then was simple: By personality, promotion or dubious accounting - and often by all three - these managers drove a fledgling conglomerate's stock to, say, 20 times earnings and then issued shares as fast as possible to acquire another business selling at ten-or-so times earnings. They immediately applied "pooling" accounting to the acquisition, which - with not a dime's worth of change in the underlying businesses - automatically increased per-share earnings, and used the rise as proof of managerial genius. They next explained to investors that this sort of talent justified the maintenance, or even the enhancement, of the acquirer's p/e multiple. And, finally, they promised to endlessly repeat this procedure and thereby create ever-increasing per-share earnings.
Wall Street's love affair with this hocus-pocus intensified as the 1960s rolled by. The Street's denizens are always ready to suspend disbelief when dubious maneuvers are used to manufacture rising per-share earnings, particularly if these acrobatics produce mergers that generate huge fees for investment bankers. Auditors willingly sprinkled their holy water on the conglomerates' accounting and sometimes even made suggestions as to how to further juice the numbers. For many, gushers of easy money washed away ethical sensitivities.
Since the per-share earnings gains of an expanding conglomerate came from exploiting p/e differences, its CEO had to search for businesses selling at low multiples of earnings. These, of course, were characteristically mediocre businesses with poor long-term prospects. This incentive to bottom-fish usually led to a conglomerate's collection of underlying businesses becoming more and more junky. That mattered little to investors: It was deal velocity and pooling accounting they looked to for increased earnings.
The resulting firestorm of merger activity was fanned by an adoring press. Companies such as ITT, Litton Industries, Gulf & Western, and LTV were lionized, and their CEOs became celebrities. (These once-famous conglomerates are now long gone. As Yogi Berra said, "Every Napoleon meets his Watergate.")
Back then, accounting shenanigans of all sorts - many of them ridiculously transparent - were excused or overlooked. Indeed, having an accounting wizard at the helm of an expanding conglomerate was viewed as a huge plus: Shareholders in those instances could be sure that reported earnings would never disappoint, no matter how bad the operating realities of the business might become.
In the late 1960s, I attended a meeting at which an acquisitive CEO bragged of his "bold, imaginative accounting." Most of the analysts listening responded with approving nods, seeing themselves as having found a manager whose forecasts were certain to be met, whatever the business results might be.
Eventually, however, the clock struck twelve, and everything turned to pumpkins and mice. Once again, it became evident that business models based on the serial issuances of overpriced shares - just like chain-letter models - most assuredly redistribute wealth, but in no way create it. Both phenomena, nevertheless, periodically blossom in our country - they are every promoter's dream - though often they appear in a carefully-crafted disguise. The ending is always the same: Money flows from the gullible to the fraudster. And with stocks, unlike chain letters, the sums hijacked can be staggering.
At both BPL and Berkshire, we have never invested in companies that are hell-bent on issuing shares. That behavior is one of the surest indicators of a promotion-minded management, weak accounting, a stock that is overpriced and - all too often - outright dishonesty.
2015年3月8日日曜日
2014年度バフェットからの手紙(7)なぜコングロマリットなのか(前)
ウォーレン・バフェットによる2014年度「バフェットからの手紙」、今回から「第2部バークシャー現在編」です。改めて言うことではないですが、ウォーレンの文章はどこを切っても金太郎、ではなくて、どこを読んでも勉強になりますね。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)
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2 件のコメント:
はじめまして。
大変参考になりました!
質問なのですが,この引用元は,何かの書籍からでしょうか?
私,初学者なものなので,できれば教えて下さい。
カブガモさん、はじめまして。コメントをありがとうございました。
ご質問の件ですが、この訳文は書籍から引用したものではなく、わたしが個人的に翻訳したものです。以下の過去記事で触れましたが、ウォーレン・バフェットの書いた原文のPDFファイルは、2月28日にバークシャー・ハサウェイのWebサイト上に公開されています。
2014年度バフェットからの手紙(1)これから50年間のバークシャー(前)
http://betseldom.blogspot.jp/2015/03/buffett-letter-2014-next-50-years-1.html
また過去の「バフェットからの手紙」もいくつか翻訳しています。それらの記事の目次を用意しています。以下のリンク先です。
(目次)バフェットの主要記事
http://betseldom.blogspot.jp/p/blog-page_8.html
なにかありましたら、またお問い合わせ頂ければと存じます。
それでは失礼します。
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