正味現在価値分析、そして将来のキャッシュフローを予測することのむずかしさ
将来のキャッシュフローが合理的に予測され、かつ適切な割引率が選択されていれば、正味現在価値(NPV)分析はもっとも正確厳密な手法の一つとなる。しかし残念なことに将来のキャッシュフローは不確実で、もっと状況が悪くなることもある。さらに、どの割引率をえらぶかでいくぶん恣意的になりやすい。そういった要因が重なるので、正味現在価値を分析することは一般にむずかしい作業だし、結果も不正確なものとなる。
価値分析が容易だという点で申し分ないのは、年金というビジネスだろう。年金は、毎年一定額あるいは堅実な率で増加する現金を生みだすからだ。しかし実世界のビジネスでは、たとえ最上の企業であっても残念ながら年金のようにはいかない。難攻不落の市場のニッチを占めて一貫して高いリターンをうみだす企業などほとんどなく、どこも熾烈な競争のただなかにある。売上高や費用が少しでも変化すれば、利益への影響はずっと大きな割合となる。うまくやりとげられることよりも、失敗するかもしれないことのほうがはるかに多い。事業の不確実さに対応することは企業経営を担う者の役割だ。しかし不確実性を制御したり予防することは一般にマネジメントの能力を超えているため、投資家はそれを期待すべきではない。
事業によっては他よりもずっと安定しているものがあり、その場合は予測しやすくなるが、事業から得られる将来のキャッシュフローを評価するというのは、たいていは推理ごっこにすぎない。かなり幅広な限界線のこちら側を除けば将来は予測できない、これが本書でたびたび登場するテーマである。コカ・コーラ社は来年も炭酸飲料が売れるだろうか。もちろん、そのとおり。では、今年の売上げを超えるだろうか。まあ、かなりの確率でそうだろう。というのは、1980年以来毎年達成しているからだ。しかしどれぐらいかとなると、それほどはっきりしなくなる。売上げから得られる利益はいくらかとなれば、なおさらだ。価格政策、価格変更に伴う需要の変化、競合動向、法人税の改定といった数々の要因は、すべて利益率に影響しうる。何年にもわたる将来の売上げや利益を予測するとなれば、さらに不確実になる。事業の将来予測を狂わせる要因が非常に多いからだ。
Present-Value Analysis and the Difficulty of Forecasting Future Cash Flow
When future cash flows are reasonably predictable and an appropriate discount rate can be chosen, NPV analysis is one of the most accurate and precise methods of valuation. Unfortunately future cash flows are usually uncertain, often highly so. Moreover, the choice of a discount rate can be somewhat arbitrary. These factors together typically make present-value analysis an imprecise and difficult task.
A perfect business in terms of the simplicity of valuation would be an annuity; an annuity generates an annual stream of cash that either remains constant or grows at a steady rate every year. Real businesses, even the best ones, are unfortunately not annuities. Few businesses occupy impenetrable market niches and generate consistently high returns, and most are subject to intense competition. Small changes in either revenues or expenses cause far greater percentage changes in profits. The number of things that can go wrong greatly exceeds the number that can go right. Responding to business uncertainty is the job of corporate management. However, controlling or preventing uncertainty is generally beyond management's ability and should not be expected by investors.
Although some businesses are more stable than others and therefore more predictable, estimating future cash flow for a business is usually a guessing game. A recurring theme in this book is that the future is not predictable, except within fairly wide boundaries. Will Coca-Cola sell soda next year? Of course. Will it sell more than this year? Pretty definitely, since it has done so every year since 1980. How much more is not so clear. How much the company will earn from selling it is even less clear; factors such as pricing, the sensitivity of demand to changes in price, competitors' actions, and changes in corporate tax rates all may affect profitability. Forecasting sales or profits many years into the future is considerably more imprecise, and a great many factors can derail any business forecast.
2013年10月18日金曜日
将来を予測するのはむずかしい(セス・クラーマン)
ファンド・マネージャーのセス・クラーマンの著書『Margin of Safety』から、前回のつづきをご紹介します。第8章「事業価値の算出という技」(The Art of Business Valuation)からの引用です。(日本語は拙訳)
登録:
コメントの投稿 (Atom)
2 件のコメント:
== No title ==
fairly wide boundariesって、わからないこととわかることが混在している領域が広いことを意味しているのでしょうか。
だとしたら、バフェットの能力の輪よりも、より具体的な気がするのですが。
== fairly wide boundaries(bfさんへ) ==
bfさん、コメントありがとうございます。
"fairly wide boundaries"は訳出に悩んだ箇所で、語義をどうとらえればよいのか、あまり自信がありません。わたし個人の見解を申し上げれば、bfさんがご指摘された文言どおりになります。そもそもまちがった翻訳であれば、どなたかご指摘くださればありがたく存じます。
宗教家の残した教えを後世の人間があれこれ解釈するのと同じ、と常々感じてはいますが、あえてその道を進みますと、セス・クラーマンは検討対象をおおまかに次の3つに分類しているととらえました。
(1) ほぼ確信をもって判断できる(=限界線のこちら側)
(2) 重要なことはなにも知らない(=限界線の向こう側)
(3) その他(=幅広な限界線。確信度0%超から100%未満まで虹のように層別される)
これに基づき、さらに深入りして次のような類型化をしてみます。
・ウォーレン・バフェットは、(1)の領域を広げるタイプ
・チャーリー・マンガーは、(1)をしぼりこむあるいは厳選するタイプ
・セス・クラーマンは、リスクとリターンを計算しながら、(3)からシケモクを拾うタイプ
まるで役に立たない返答でもうしわけございません。
先日もそうでしたが、bfさんには対訳を確認していただき、当方としてはすなおにうれしいです。ありがとうございました。
またよろしくお願いします。
コメントを投稿