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2015年11月16日月曜日

ニッチとは居心地の良い場所(日東電工髙﨑社長)

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今週号の日経ビジネス(2015年11月16日号 No.1816)で日東電工がとりあげられていました。髙﨑社長のインタビュー記事もあり、興味深い内容でした。同社の強みが感じられた文章を以下に引用します。

はじめは髙﨑社長の発言です。

<問> ニッチを重視すると言っても、ニッチな分野は市場規模も限られます。どう稼ぐのでしょうか。

<答> もうかるかどうかではなく、もうけるんですよ。ニッチと言うと「隙間」というイメージがあるかもしれませんが、我々の考え方はちょっと違います。市場規模が小さいというより、競合がなかなか入れない「居心地の良い場所」が我々の定義するニッチです。

ここを守り続ければいずれ大きな事業に育つ可能性もある。今は大きな収益基盤となっている液晶パネル向けの偏光板だって 、最初は電卓など小さい市場からスタートしているんです。

<問> 模倣対策はどうしているんですか。

<答> そこは、ビジネスモデルから特許でバチッと押さえます。過去にたくさん苦い汁を吸っていますからね。

特許で守らなければ、どんなに良い物ができても、すぐまねされて、あっという間に追いつかれます。それこそ世界中で特許を取っておかないと戦えない。攻めの特許戦略が必要なんです。(p. 80)

もうひとつはCTOの西岡氏による説明です。

「『こんな製品があればいいのに』と思ったお客さんは、それを作ってくれそうな企業に相談する。結果的に、様々な分野で市場シェアの高い製品を抱える我々の元に、顧客ニーズが集まるようになる。そうした情報を照らし合わせることで、ものになりそうな技術、なりにくそうな技術の見極めができる」(p. 75)

蛇足です。数年前に当社へ投資してから少しずつ売却し、現在は1単元を残すのみです。名残惜しくて売り切れない。当社もそんな企業のひとつです。

2015年11月14日土曜日

反証と知恵とチェックリスト(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーが2007年に南カリフォルニア大学グールド・ロースクールの卒業式で述べた祝辞の13回目です。今回はチャーリーおなじみのテーマです。短くまとめられた発言ですが、リンク先の過去記事では詳しく説明されています。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

客観性を保つことのできる定型的なやりかたに従っていれば、当然ながら認知の面でとても有益です。ダーウィンが反証することに熱を入れたのはだれもが知っているとおりですね。自分が信じて愛した考えに対してこそ、彼は熱心に反証を試みたのです[参考記事]。できるだけ正しく考えることが人生だとすれば、そのような手順は欠かせません。そしてもうひとつ必要なのが、チェックリストを使って確認することです。これはたくさんのあやまちを防いでくれますよ。パイロットだけのものではないのです[参考記事]。多岐にわたる基礎的な知恵を身につけるだけでなく、その知恵を頭の中のチェックリストに並べて使うことです。そこまでうまくいく方法は、他にはありません。

Engaging in routines that allow you to maintain objectivity are of course, very helpful to cognition. We all remember that Darwin paid special attention to disconfirming evidence, particularly when it disconfirmed something he believed and loved. Routines like that are required if a life is to maximize correct thinking. And one also needs checklist routines. They prevent a lot of errors, and not just for pilots. You should not only possess wide-ranging elementary wisdom but also go through mental checklist routines in using it. There is no other procedure that will work as well.

2015年11月12日木曜日

善意が最悪につながるとき(『人と企業はどこで間違えるのか?』)

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遅ればせながら『人と企業はどこで間違えるのか?』を読みました。本書はビル・ゲイツが推薦した本として知られていますが、さらに元をたどればウォーレン・バフェットにたどりつくとのことです。本書では米国経済界で起こった10件の出来事(原書Business Adventuresでは12件)が節度ある文章で語られており、自然と引き込まれました。今回引用するのは1962年5月に起きた株式市場の暴落後に、ある株式ブローカーが書き残した文章です。

私たちはブローカーならではの憂鬱も抱えていた。顧客は誰もが裕福というわけではない。にもかかわらず、私たちの助言のせいで多大な損失を被っているのだ。信じてもらえないかもしれないが、他人の金を失うことはどうしようもなく嫌なものだ。あの暴落が起きるまで、相場は12年間も上昇し続けてきた。誰でも10年ものあいだ、自分や顧客にひたすら利益ばかりもたらしてきたら、自分はとてつもなく有能だと思うようになる。自分はすごい、金儲けの達人だ、と。しかし相場が崩れ、無力さが露呈した。あのとき誰もがいくばくかの自信を失い、すぐにはそれを取り戻すことができなかった。どうやら市場が受けた衝撃は、ブローカーがデ・ラ・ヴェガの提唱する次の基本ルールを守るべきだったと後悔するほど大きかったようだ--「株の売買についてはけっして助言してはならない。なぜなら、洞察力が鈍ったとき、善意の助言が最悪の結果につながることがあるからだ」(p.322)

参考までに当時のS&P指数のチャートを転載します。1929年は別格として、第2次大戦後の上昇がつづく期間では急激な下落だったようにみえます。

(出典) The Intelligent Investor (4th Revised Edition)

こちらはおまけです。上述の話とは別のもので、アメリカ政府で原子力委員会の委員長などを務めた人物デビッド・リリエンソール氏に関する章からです。民間企業の経営者へと転身した彼が、ストック・オプションで財産を築いたことについて抱いていた想いです。

「(前段省略)ここ数年、『金持ちになるってどんな気分だ』としょっちゅう訊かれます。最初は暗に非難されているようで気分が悪かったのですが、もう慣れました。今ではとくにどうこう思わないと答えています。本音はというと……ただし、これを言うと傲慢に聞こえるでしょうが……」

「いいえ、ちっとも傲慢じゃないわ」、リリエンソール夫人が先回りして言った。

「いや、傲慢さ。だが、とにかく言わせてもらうなら」とリリエンソールは続けた。「ある程度の財産があれば、お金はそれほど重要だとは思いません」

「私はそうは思わないわ」と夫人は反論した。「お金が重要じゃないと言えるのは若いうちよ。若ければなんとか頑張れますから気にならないでしょう。でも、歳をとってくるとお金があれば何かと心強いものです」(p.268)

2015年11月10日火曜日

所得格差について(ウォーレン・バフェット)

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ウォーレン・バフェットが今年の2月にウェスタン・オンタリオ大学の学生と面会した際の質疑応答その5です。今回は2件分の質疑です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問5> あなたとマンガーさんは今後50年間の展望を書かれたとのことですが、実のところどうなっていくのでしょうか。

<バフェット> これまでの50年間を通じて、容易に拡張していける事業を買うことに専念してきました。そのように企業を買収したことで、容易に拡張できるものを築けたと信じています。またわたしたちが保有しているのは、妥当な水準で成長することができ、正しい形態や文化を持った事業でもあります。

<質問6> 所得格差[原文はincome inequality]についてどのようにお考えですか。

<バフェット> 所得の平等性[原文はincome equality]はますます悪化すると思います。ですが、「所得格差」という言葉には誤りがあります。平等になることを目指すべきとしているからです。目指すところは機会の平等です。しかし資本主義が発展するほど、下位10%や20%の人はいっそう取り残されていくと感じるでしょう。これは、社会がより専門化してきたからそうなったと言えます。農業の時代だったころには、IQが150の人と80の人で所得の差をみても、ひどくはありませんでした。農作業をする人がほとんどだったからですね。その後、製造業の時代に移って専門化が若干進んだものの、まだ大丈夫でした。そして現在の市場構造は、特定の技能を持った人が有利になっています。たとえばボクシングの場合、TVが登場する前には1回の拳闘試合で最強のボクサーが得ていた金額は6千ドルほどだったでしょう。しかし今やマニー・パッキャオ対フロイド・メイウェザー・ジュニアの試合では、数億ドルになると思います。つまり、まずはTVを発明した人がいましたし、その後にボクシングの試合興行で金を儲ける人がでてきたわけです。

所得格差に影響する大きな要因として税制も挙げられます。大金持ちを優遇するよう、大幅に歪められています。申告ベースによる収入の上位400名が払っている税率は20%を下回っています。

実際のところ、市場システムでは不平等を正すことはできません。ですが、わたしたちが持つシステムの中では最良のものだと思います。

Question 5: Both you and Mr. Munger are writing down your 50-year visions. What are these visions going to be?

Over the past 50 years, we've always focused on buying companies that are scalable. With the companies that we've acquired, we believe we have created something very scalable. We also have the right form, culture and business to grow at a reasonable rate over time.

Question #6: How do you feel about income inequality?

Answer #6: Income equality will get worse but the term income inequality is in itself flawed because implies that equality is something we should aspire to. We should aspire towards equal opportunity. But as capitalism moves forward, the bottom 10% or 20% will find themselves further and further behind. This is because society has become much more specialized. Back in the farming days, the income difference between someone with an IQ of 150 vs. someone with an IQ of 80 would not have been disastrous, since most people could do farm work. Then we moved into manufacturing, a bit more specialized, but still okay. Now the market structure is giving more advantage to people with particular skills. Take the example of boxing. Before the advent of TV, the best boxers may be getting six thousand dollars per fight. Now we have Manny and Mayweather, who will be fighting for hundreds of millions. Someone came along and invented TV, and then someone figured out how to promote the fight and make money.

Another big factor that affects income inequality is the tax code, which is largely skewed to favour the super rich. The top 400 gross income earners based on their tax returns pay less than 20% tax.

So the market system doesn't really address inequality. However, it is the best system that we have.

同様の内容を扱った過去記事(ウォーレンの講演)として、「社会への貢献度とそれに対する報酬について」があります。

2015年11月8日日曜日

投資家にウソをついたのではない(『HARD THINGS』)

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少し前に『HARD THINGS』という本を読みました。著者のベン・ホロウィッツはネットスケープのマーク・アンドリーセンとITベンチャー企業を経営し、事業を大企業へ売却することに成功した人物です。畏敬すべき経歴に聞こえるかもしれませんが、事業経営の内情はIT企業によくあるドタバタの連続です。IT業界で働く人であれば(ベンチャー企業であればなおさら)、肯きたくなる局面が何度もでてきます。その意味で個人的には「激動の時期を駆け抜けた、あるCEOの回顧録」として読みました。

さて今回は、同書で何度か取り上げられているアンディ・グローブ(インテルの元CEO)の発言を引用します。

2001年の大インターネットバブルの最終時期、大手IT企業が軒並み四半期目標を大幅に下回ったときに、なぜ誰もバブル崩壊を予知できなかったのかと考えた。2000年4月のドットコム不況のあと、シスコ、シーベル、HPなどは、自分たちの顧客の多くが壁にぶつかるのを見て、すぐに景気後退に気づいたはず、とあなたは考えるかもしれない。しかし、おそらく史上最大規模の早期警告システムが作動していたにもかかわらず、どのCEOも強気の予測を繰り返した。自分たちの四半期が劇的に吹き飛ばされる寸前まで。私はアンディに、なぜ偉大なCEOたちが、迫りくる自らの運命についてウソをつくのか尋ねてみた。

彼らは投資家にウソをついたのではなく、自分にウソをついていたのだとアンディは言った。

アンディは、人間、特にものをつくる人たちは、良い先行指標にしか耳を貸さないと説明した。たとえば、CEOは自社サービスの登録者数が通常の月間成長率を25パーセント上回ったと聞けば、切迫した需要の大波に耐えられるよう、すぐにエンジニアを追加するだろう。一方、登録者数が25パーセント減少すれば、CEOは同じくらい熱心かつ緊急に、言い訳の説明をするだろう。「この月は低調だった。休日が4日もあり、ユーザーインタフェース(UI)を変更したことによってさまざまな問題が起きた。どうか、パニックにならないでほしい!」

どちらの先行指標も誤りだったかもしれないし、正しかったかもしれないが、この架空のCEOはほぼすべてのCEOと同様に、ポジティブな指標に対してのみ行動を起こし、ネガティブな指標に対しては、説明を探すだけだ。(参考記事)(p.128)