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2020年6月2日火曜日

社会で見られる危険な傾向(ハワード・マークス)

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オークツリーのハワード・マークス氏が、前回のメモの追補に当たる文章を5月28日付で公開していました(正味6ページ分)。今回ご紹介する文章では、いわゆる「専門家」の意見を受けとめる際の心がまえが、単刀直入に語られています。前半部のチェックリスト、後半部の結び、いずれにも年長者の知恵が込められており、珠玉の断章だと思います。(日本語は拙訳)

Uncertainty II [PDF] (Oaktree Capital Management)

さらには、専門家の意見を考慮するという意味で、私たちの社会でみられる危険な各種の傾向が働いていないか、いぶかしむ必要があります。例えば、次のようなものがあげられます。

・全般的な教養を有していることと、特定の領域における事実を知っていることを、取り違える。

・事実を知っていることと、本質を見抜く能力が高いことを、取り違える。

・専門家としての能力や本質を見抜く力を有していることと、将来を予測できる能力を、ないまぜにする。

・ある一分野における専門家を指して、あたかもあらゆる分野に知悉(ちしつ)しているとみなす。

・裕福で成功した人たちのことを、上述したような形で信頼する。

そのようなわけで、以前のメモでも触れたように、私は外国へ旅行をしたときに次のような質問をたびたび受けることになります。訪問先の国における経済やその潜在性をどのように考えているか、という質問です。そこで私は、「なぜ私にたずねるのですか。あなたが住んでいる国のことですよ」と答えています。たしかに私は投資や米国のことについて、ある程度は知っています。だからといってなぜ私が、他の分野や外国のことに関する有益な識見を、当然備えていることになるのでしょうか。

テレビに出てくる医師や公的保健機関の高官といった人たちは、経済活動の速やかな再開に対して強く反発しています。彼らは、コロナウィルスの医学的及び公共衛生上の観点に関することや、いかに対処すべきかについて、だれよりも多く知っているかもしれません。その場合彼らの助言は、「どれだけ多くの人を死なせないようにするか」というものになるでしょう。しかしその一方で、彼らは経済学者ではないゆえに、死亡者数を最小限におさえる観点でしか答えていないと受けとめるべきです。経済を再始動させることの重要性や、いかに2つの懸案事項のつりあいをとるかについては、考慮に含めていないかもしれません。

それとは反対に、実業家や経済学者らは経済再開の必要性を説いています。凍結状態にある経済がこうむっている損害を最小限に食い止めたいからです。しかし彼らは、人の命につけられる値段がいくらなのか、わかっているのでしょうか。そしてはっきり言えるのは、[コロナウィルスと経済の]二者が綱引きをする間でどのようにつりあいをとればいいのか、それを決定するアルゴリズムや世間から容認された手順などは存在しない、ということです。つまり専門性が重要なのではなく、判断をどうするかが問題なのです。

Further, in considering expertise, we must be leery of some dangerous tendencies in our society:

to confuse general intelligence with knowledge of the facts relative to a given field,

to confuse factual knowledge with superior insight,

to conflate expertise and insight with the ability to predict the future,

to treat experts in one field as if they're knowledgeable about all others, and

to credit rich and successful people with all of the above.

Thus, as I've described in previous memos, when I travel abroad, I'm often asked what I think of my host countries' economies and their potential. "Why ask me?" I respond, "you live here." Just because I know something about investing and the U.S., why should I necessarily have meaningful insight into other fields and countries?

We see doctors or public health officials on TV who inveigh against quickly reopening the economy. They may well know much more than most about the medical and public health aspects of the coronavirus and how it should be dealt with, and their advice is likely to keep the most people alive. But on the other hand, since they're not economists, we should assume they're only answering from the standpoint of minimizing deaths. They may not take into consideration the importance of restarting the economy or how to balance the two considerations.

On the other hand, we see businesspeople and economists talking about the need to reopen in order to minimize the damage done to the economy by keeping it in a deep freeze. But what do they know about the cost in human lives? And certainly there is no algorithm or accepted process for deciding between the two. It's a matter of judgment, not expertise.

2020年6月1日月曜日

2020年バークシャー株主総会(16)アメリカの失敗に賭けてはならない

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バークシャー・ハサウェイの株主総会より、ここからしばらくは平坦に感じられる話題が続きます。しかし、ウォーレン・バフェットがこのような話を続けている理由を想像してみると、彼が現在抱いている心境が浮き彫りになってくるように思えます。 前回分の投稿はこちらです。(日本語は拙訳)

<ウォーレン・バフェット> しかし1929年に始まって、先ほど何がどうなったかお話ししたように、ダウ平均が380まで戻ってきた1954年までは、試練の時がつづきました。実のところ、人々にはあきらめが交じり、アメリカの可能性を見失っていました。よくよく考えてみれば初めのころと変わらずに、アメリカの発展を止めるものはなにもなかったのですが、ときに中断していたのかもしれません。

なんとも恐ろしい出来事として、一方の諸州がもう一方の諸州と戦いを始めた件がありました。また大恐慌のときにも、再び試練をむかえていたのかもしれません。そして現在も、ある程度は試されているのかもしれません。しかし結局のところ言えるのは、決してアメリカの失敗に賭けてはならない点です。1789年[合衆国憲法発効]当時と同じように、今もそのとおりだとわたしは考えています。例の内戦時にもそうでしたし、大恐慌のどん底にあってもそうでした。


スライドは、まだこのままでお願いします。この件で反論がある方もおられると思いますが、ここで明言しておきたいことがあります。わたしたちは非常に多くの面で不完全です。しかし次のスライドに進みますと、1789年当時のこの国と比べれば、わたしたちが現在暮らしているこの国は良くなりましたし、それと同様に信じがたいほどの豊かな国となりました。あるべき姿からはまだずいぶんと隔たりがありますが、正しい方向へと劇的に歩んできたのです。

(Warren Buffett 52:16)

But you'd had this testing period between 1929 and well really certainly 1954, as indicated by what happened when it got back up to 380, you had this testing period, and people really they'd lost faith to some degree, they just didn't see the potential of what America could do. We found that nothing can stop America when you get right down to it, and it's been true all along, it may have been interrupted.

(Warren Buffett 53:04)

One of the scariest of scenarios, when you had a war with one group of States fighting another group of States, and it may have been tested again in the great depression, and it may be tested now to some degree, but in the end the answer is never bet against America, and that in my view is as true today as it was in 1789, and even was true during the civil war, and the depths of the depression.

(Warren Buffett 53:44)

Now, I'm now about to say something that, and don't change the slide yet, but I'm now about to say something that some of you will be tempted to argue with me about, but I would make the case that we are imperfect in a great, great, great many ways, but I would say, and if you pull up the next slide, that we are now a better country as well as an incredibly more wealthy country than we were in 1789. We're far, far, far from what we should be, will be, but we have gone dramatically in the right direction.

2020年5月31日日曜日

長期投資を心がける際の売却方針について(1)

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今年の1月5日にいただいたコメントで、「トシユキ」さんから次のような問い合わせがありました。

トシユキ 2020年1月5日 15:56 のコメント

最近、私は長期投資の売りのルールについて考えています。バフェットさんに関した本には、よく買いのルールについては詳細に書いてあるのですが、売りには殆ど言及されていない気がします。

バフェットさん自身、素晴らしい銘柄を永久に保有するという話はよく聞くのですが、個人的には永久と言われても少しピンときていません。

そこで、質問なのですが、betseldomさん自身は、銘柄を売買する際には、どういった売りのルールを設けているのでしょうか?損切りなどは取り入れているのでしょう?

まずは、トシユキさんからのお問い合わせに対して返信が遅くなったことをお詫びいたします。もたもたしているうちに世間の事態が急変し、投稿する機会を逃してしまいました。ここにきて、この話題にふさわしくない状況が少なくとも一時的には後退したと思われるため、今のうちにお答えします。

さて、ご質問に対して端的にお答えした後に、長期的な投資を意識しながらも売却に踏み切ったときを省みることで、なんらかの教訓が得られればと思います。

<用語の定義>
話題に進む前に、本ブログで使っている「長期」などの株式投資期間を指す言葉の定義を記しておきます。

・短期: 0-1年
・中期: 1-3年
・長期: 3-10年
・超長期: 10-30年だが、便宜的に「長期」に含める。

ここでは、企業が立案する事業計画上の表現や債券における区分を参考にし、さらには「3」の累乗でほぼ表現できる数を当てはめています。3年間を指して長期投資と呼ぶには短いように感じられるのはその通りで、むしろ7-10年超を長期投資と呼ぶほうがしっくりきます。しかし機械的な定義のほうが客観的で説得力があるため、個人的には上記の基準をとっています。

<売りのルールについて>
売りのルールとして漠然としたものはありますが、厳密な基準はできていません。自分が想定している企業価値の平均値を100としたときに、その周辺で売却する銘柄もありますし、150以上になった時点で売却するものもあります。そもそも企業価値を想定する上で成長性はある程度盛り込んでいますが、購入価格の水準によって譲渡益課税額の割合が異なったり、個人的な理由が他にあるため、銘柄による売却基準が異なっています。

さらに、できるだけ売却したくない銘柄の株価が短期的に高すぎると感じた場合には、信用売りをしてヘッジすることがあります(ただし、気休めにしかなりませんでした)。

<損切りについて>
損切りは実行します。そもそも新規に買う銘柄数が少ない上に上昇相場が続いたので、近年は損切りする局面がそれほどありませんでした。しかし過去記事で取り上げた銘柄に、いくつか例があります。たとえば、クックパッド(2193)やツムラ(4540)です。

クックパッドの場合、事業の方向性が個人的には見通せなくなったことで、株価暴落後ながらも全売却し、投資額に対して大きな比率の損失におわりました。またツムラの場合は、敬愛する企業ではあるものの、事業環境を踏まえると買値に不満が残ったため、購入後それほど間を置かずに、いったん売却することにしました。

2018年の投資をふりかえって(2)全売却銘柄:クックパッド(2193)
2014年の投資をふりかえって(8)その他:日精ASB,任天堂,しまむら,ツムラ

今になって振り返ってみると、ウォーレン・バフェットが触れてきたような投資の基本方針からはずれていると個人的に強く感じた際に、損切りに踏み切っていたように思えます。

投資家が見極めるべき5項目(ウォーレン・バフェット1993年)

超一級の企業ではなくても十分に割安だと思える銘柄は、多くの場合、含み損があっても損切りせずに継続保有します。一方、投資利益はあがりながらも見誤ったと感じられる銘柄は、適宜売却しています。

(つづく)

2020年5月30日土曜日

2020年バークシャー株主総会(15)わが上司ベン・グレアムの答弁

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バークシャー・ハサウェイの株主総会より、前回の投稿から始まった上院銀行委員会の話題がつづきます。(日本語は拙訳)

<ウォーレン・バフェット> 上司だったベン・グレアムは、知りたい情報がいくつかあったので、ニューヨークの図書館へわたしを調べにやらせました。今となれば、彼自身がコンピューターを使って5分で入手できる程度の情報です。わたしがその情報をひっぱり出してくると、参考人だった彼は答弁に向かいました。この報告書の全部に目を通す必要はなかったのですが、今日お話しするくだりが545ページ目のどこに載っているか、覚えています。ベン・グレアムは、かつてわたしが出会った人の中で、もっとも頭の良かった三本指に入る人物です。彼は証券業界の中で大御所とみなされていました。1934年には、古典として知られている『証券分析』を書き著しました。そして1949年には、わたしの人生を変えた一冊『賢明なる投資家』を執筆しました。彼は驚異的な才人でした。

ダウ平均が404ドルの日に、彼は委員会で答弁しました。そのとき準備しておいた書面の冒頭すぐそばには、次のような一続きの文が書かれています。「株式市場は高値を付けている。たしかに割高に見え、実際に高い。しかし、見かけほどは高くない」。そして彼は「実際に高い」と発言したのです。次のスライドに進みますと、その後の米国は強力な追い風を受けて、ダウ平均の値段は昨日の金曜日には下がったものの、スライドを作成した日には24,000ドルに達していました。[ウォーレンがコロンビアを卒業した]当時の1ドルが、今日の100ドルをもたらしたことになります。つまり、その当時にとるべき行動とは、いちずにアメリカを信じ、アメリカを代表する諸企業を信じることでした。ウォール・ストリート・ジャーナル紙を読まなくてもよし、株価を確かめなくてもよし、多額の手数料をだれかに払う必要もありませんでした。「アメリカは確実に奇跡を果たす」と、信じるだけでよかったのです。


(Warren Buffett 50:17)

But Ben Graham, my boss, sent me over to the public library in New York to gather some information for him, something he could do in five minutes with a computer now, and I dug out something, and he went to testify, and on page 545 of this book, I knew where to look, I didn't have to go through it all, but the quote which I remember, and I remember because Ben Graham was one of the three smartest people I've met in my life, and he was the dean of people in securities business, he wrote the classic Security Analysis book in 1934, he wrote the book that changed my life, Intelligent Investor in 1949, he was unbelievably smart.

(Warren Buffett 51:09)

And when he testified, with the Dow at 404, he had one line in there right toward the start in his written testimony, and he said, "The stock market is high, looks high, it is high, but it's not as high as it looks." But he said, "It is high." And since that time, if we'll turn to the next slide, of course, we felt the American tailwind at full force, and the Dow, well let's see, when the Dow was ... it went down on Friday, but when we made the slide it was about 24,000 so you're looking at a market today that has produced $100 for every dollar, all you did was you had to believe in American just by a cross-section of America, you didn't have to read the Wall Street Journal, you didn't have to look up the price of your stock, you didn't have to pay a lot of money in fees to anybody, you just had to believe that the American miracle was intact.

2020年5月29日金曜日

ヴォルテールは、かく語れり(ハワード・マークス)

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ハワード・マークスが書いた今回のメモから、最後の引用になります。まとめ編です。前回分の投稿はこちらです。(日本語は拙訳)

この件について考えるほどに、結論はいっそう明確になります。

・この世は不確かな場所である。

・現代を生きる人々にとって、今ほど不確かな時期はない。

・どのような未来のほうが良いのか、ほとんどの人にはわからない。

・しかしながら、投資が扱うのは未来のことだけであり、つまるところ投資家は未来について決断せざるを得ない。

・投資において自信を持つことは不可欠だが、過剰になれば身を亡ぼしかねない。

・大きな話題をとりあげるほど(世界・経済・市場・通貨・金利)、卓越した知識を備えられる可能性は小さくなる。

・小さな話題(企業・産業・証券)においても、大きな話題に関する仮定を踏まえた上で状況を判断せざるを得ない。そのため、こちらも不確かである。

・不確かな状況で理知的に行動できる能力は、もっとも重要なスキルのひとつである。

・そのように行動したければ、みずからの予測力の限界や、提示された予測が他のものと比較してどれだけ信頼できるかを、理解すべきである。

・それができない人は、おそらく無鉄砲な行動をとっているのだ。

[経済評論家の]ニール・アーウィンは、先に引用した文章の4ページ目で次のように書いています。

「これほど不確かな状況で、今後5年間あるいは5か月間だとしても、世界経済がどのような趨勢をたどるのか自信満々に予測するのは、なんともおろかなことである」

あるいはすでにヴォルテール[フランスの啓蒙家]が、250年前に正鵠を射ています。「疑念の心は平安ならず。されど、自信は愚劣の極みなり」と。

The more I think about it, the bottom line is clear:

- The world is an uncertain place.

- It’s more uncertain today than at any other time in our lifetimes.

- Few people know what the future holds much better than others.

- And yet investing deals entirely with the future, meaning investors can’t avoid making decisions about it.

- Confidence is indispensable in investing, but too much of it can be lethal.

- The bigger the topic (world, economy, markets, currencies and rates) the less possible it is to achieve superior knowledge.

- Even our decisions about smaller things (companies, industries and securities) have to be conditioned on assumptions regarding the bigger things, so they, too, are uncertain.

- The ability to deal intelligently with uncertainty is one of the most important skills.

- In doing so, we should understand the limitations on our foresight and whether a given forecast is more or less dependable than most.

- Anyone who fails to do so is probably riding for a fall.

As Neil Irwin wrote in the article cited on page 4:

It would be foolish, amid such uncertainty, to make overly confident predictions about how the world economic order will look in five years, or even five months.

Or maybe Voltaire said it best 250 years ago: Doubt is not a pleasant condition, but certainty is absurd.