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2014年6月2日月曜日

学際的能力がいっそう必要な理由(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーが「学際的なやりかた」(Multidisciplinary Approach)を強く勧めていることは、本ブログでもよくとりあげています。今回から始まるこのシリーズでは、学際的能力の重要性や訓練方法などを説いたチャーリーの講演を全訳します。『Poor Charlie's Almanack』に講演その5(Talk Five)として収録されているものです。

なお本講演の和訳は、既に『投資参謀マンガー』に収録されています。お急ぎの方はそちらをご覧ください。同書が手元にないので、いつものように迷訳・珍訳を連発するかもしれませんが、どうぞご了承ください。

専門家に学際的能力がいっそう要求される理由と、そこから学びとれる含意
ハーバード・ロー・スクール1948年度生50周年記念同窓会
1998年4月24日

今日は、いしにえの教育者を思い起こすやりかたに終始しようと思います。ソクラテス式の対話、これを独りで進めます。はじめに5つの問題をあげて、それぞれについて簡単に答えていきます。

1) さまざまな領域で働く専門家には、学際的な能力がさらに必要とされるか。

2) 私たちの受けた教育は十分なほどに学際的だったか。

3) さまざまな分野に関する第一級のソフトサイエンスの世界において、実際的でこの上なく高められた学際的教育を行うのに欠かせない性質とはどのようなものか。

4) この50年間のうちに、叶う限りでの学際性の高みに向かって第一級の学術界はどれだけ近づいたか。

5) [学際性を]もっと迅速に発展させるには、どのような教育的取り組みを行えばよいか。(2014/7/21、この項目のみ改訂)

それでは、最初の疑問「さまざまな領域で働く専門家には、学際的な能力がさらに必要とされるか」からはじめましょう。

この問いに答えるには、いっそう学際的に取り組むほど専門家の認知を改善するのかを、まず判断しなければなりません。まずい認知を正すものは何かを判断できれば、なにゆえにそうなるのかがわかりやすくなります。バーナード・ショーに出てくるある人物が、専門家の問題点を次のように説明しています。「結局のところ、あらゆる専門職とは部外者に対して仕組まれた陰謀なのだ」。ショーが言わせた独りごとには多くの真実が含まれています。16世紀に起きたあるできごとがそれを示しています。当時の聖職者は独占的な職業だったため、聖書を英語に翻訳したウィリアム・ティンダルは火あぶりにされたのです。

その問題提起は、意識的かつ利己的な悪意が主な原因であると言外に伝えています。しかし明らかにショーはそのことを軽視していました。そしてもっと重要なのは、専門家の世界では無意識に生じる心理的傾向が相互に関連して、ひどい効果を頻繁に生み出すことです。なかでも、とびぬけて問題を起こしやすい傾向が2つあります。

1) 動機づけによって生じるバイアス。専門家自身にとってよいことは、顧客ひいては社会発展の点でもよいとする方向へ認知がごく自然に曲げられ、結論を下します。

2) 「かなづちしか持たぬ傾向」。この名前は次の警句からとっています。「手持ちの道具がかなづちだけだと、なんでも釘に見えてくる」。[バカの一つ覚え]

「かなづちしか持たぬ傾向」をある程度まで治す方法は、はっきりしています。多岐にわたる学問分野に関する能力を幅広く身につけていれば、定義上は複数の道具を持つことになり、 「かなづちしか持たぬ傾向」から生じる認知上の悪しき影響を制限できるようになります。さらには私のあげた2つの傾向からくる悪い影響、これは自分自身と他人の両側からきますが、生涯を通じてそれらと戦わなければならないという考えを実践的な心理学から吸収できるまでに学際的になっていれば、世知を築く道において堅実に歩んでいることになります。

ある狭い専門的な一連の教えを「乙」と呼びましょう。一方で、重要かつきわめて有用な各種概念が別のさまざまな分野から得られるとして、それら一式を「甲」とします。当然ですが「甲乙」両方を持ち合わせる専門家は、「乙」しか持たない貧相な人よりも優れていることが多いでしょう。ほかに考えようがないです。それゆえに、さらなる「甲」を得ようとしない言い訳を正当化するには、「そうするのは現実的でないから」と答えるしかありません。必要なのは「乙」のほうで、生活上緊急の用件がほかにあるからというわけです。この「単一学問主義」をとる言い訳はあとで触れますが、他はどうであれ優れた才能を持つ人には筋が通らないと感じられるものです。

The Need for More Multidisciplinary Skills from Professionals: Educational Implications
Fiftieth Reunion of Harvard Law School Class of 1948,
April 24, 1998

Today I am going to engage in a game reminding us of our old professors: Socratic solitaire. I will ask and briefly answer five questions:

1) Do broadscale professionals need more multidisciplinary skill?

2) Was our education sufficiently multidisciplinary?

3) In elite broadscale soft science, what is the essential nature of practicable best-form multidisciplinary education?

4) In the last fifty years, how far has elite academia progressed toward attainable best-form multidisciplinarity?

5) What educational practices would make progress faster?

We start with the question: Do broadscale professionals need more multidisciplinary skill?

To answer the first question, we must first decide whether more multidisciplinarity will improve professional cognition. And, to decide what will cure bad cognition, it will help to know what causes it. One of Bernard Shaw's characters explained professional defects as follows: "In the last analysis, every profession is a conspiracy against the laity." There is a lot of truth in Shaw's diagnosis, as was early demonstrated when in the sixteenth century, the dominant profession, the clergy, burned William Tyndale at the stake for translating the Bible into English.

But Shaw plainly understates the problem in implying that a conscious, self-interested malevolence is the main culprit. More important, there are frequent, terrible effects in professionals from intertwined subconscious mental tendencies, two of which are exceptionally prone to cause trouble:

1) Incentive-caused bias, a natural cognitive drift toward the conclusion that what is good for the professional is good for the client and the wider civilization; and

2) Man-with-a-hammer tendency, with the name taken from the proverb: "To a man with only a hammer, every problem tends to look pretty much like a nail."

One partial cure for man-with-a-hammer tendency is obvious: If a man has a vast set of skills over multiple disciplines, he, by definition, carries multiple tools and, therefore, will limit bad cognitive effects from man-with-a-hammer tendency. Moreover, when he is multidisciplinary enough to absorb from practical psychology the idea that all his life he must fight bad effects from both the tendencies I mentioned, both within himself and from others, he has taken a constructive step on the road to worldly wisdom.

If "A" is narrow professional doctrine and "B" consists of the big, extra-useful concepts from other disciplines, then, clearly, the professional possessing "A" plus "B" will usually be better off than the poor possessor of "A" alone. How could it be otherwise? And thus, the only rational excuse for not acquiring more "B" is that it is not practical to do so, given the man's need for "A" and the other urgent demands in his life. I will later try to demonstrate that this excuse for unidisciplinarity, at least for our most gifted people, is usually unsound.

2014年5月30日金曜日

公立学校体制の重要性について(ウォーレン・バフェット)

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ウォーレン・バフェットが1994年にネブラスカ大学でおこなった講演その24、質疑応答が3件です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問者> 学費を得るにはどのような方法がもっともよいとお考えですか。

<バフェット> いちばんいいのは誰かからもらうことです。実のところわたしも大学の学費は自分では払いませんでした。両親が出してくれたのです。[ネブラスカ大学の]リンカーン・ジャーナル誌のマーク・シークレストさんの元で働いていたのですが、稼いだお金は全部貯金し、証券を買うのに使いました。みなさんにも自分のやれる方法があると思います。親御さんが出してくれるのもいいですし、奨学金を出してくれる先がみつかれば、それもよいでしょう。しかし自分で稼ぐしかないのであれば、そうせざるを得ないと思います。

Q. What do you feel is the best way to get money to pay for college?

A. The best way is to have somebody give it to you. Actually, my parents paid for my college education, so I did not. I worked for Mark Seacrest at the Lincoln Journal, but I took all that money and saved it to buy securities. You do it any way you can. If you've got a parent to give it to you, terrific. If you've got somebody that will give a scholarship to you, terrific. And, if you have to work for it, you know, that's what you have to do.


<質問者> バークシャー・ハサウェイには「バフェット・プレミアム」が上乗せされていると聞いたことがあります。それがどのようなものか、またなぜ存在しているのかご意見をお聞かせください。

<バフェット> これまでと同じように、将来もわたしたちがうまくやるだろうと考えている人がおられます。こう考えてみるとどうでしょう。競馬場に出向いて、過去にすばらしい成績をあげた13歳の馬に賭けるというのは。この例では過去から将来を推定していますが、果たしてそれほどのプレミアムがあるとはわたしには思えません。もちろん単なる個人的な意見ですが。

Q. I've heard the existence of a Buffett premium in regards to Berkshire Hathaway. Could you explain what that is and maybe comment on the reason for its existence.

A. Some people think we will do as well in the future as we have in the past. And, you can compare that to going out to the race track and betting on a 13-year-old horse that had a great record up to then. It's an extrapolation of the past and I don't think there is that much of a premium in it anyway, but that's just my own opinion.


<質問者> 私はカリフォルニアのロサンゼルスに住んでいます。生活するという意味ではかなりひどい場所だと一般的には考えられています。しかしオマハの祖母を訪ねたところ、一人あたりの犯罪発生数はロサンゼルスよりも悪いことがわかりました。50年代や60年代にそこまで犯罪の中心だったかは知りません。しかしバフェットさんは政治的にあるいは資産家として、経済上の取り組みへと立ち返らせたり、スーパーへ買い物を行く途中に殺されないようにするには、どうすればいいと思われますか。

<バフェット> その前提を是が非でも受け入れたいとは思いませんが、かといって無視しているわけでもありません。ある地域社会の犯罪率をよそと比べる際には、かなり微妙なところがあります。たとえば市街地を測定対象にした、ということがあるからです。特にSMSA (標準大都市統計地域; Standard Metropolitan Statistical Area)による人口統計が関係しているとすれば、SMSAは市の中心街を対象にしているのです。さて、犯罪に関する問題がどんなものであっても、わたしには妙案や即効薬を示すことはできません。しかし社会として取り組めるもっとも大切なことは、優れた公立学校体制を維持することだと考えています。いちど失ってしまえば、取り戻すのはとてもむずかしいことですが。だれもがなるべく同じ出発点からスタートできるように、社会として力を尽くすことが不可欠だと思います。

しかし現状はそうなっていません。収入が少ない人の子供とくらべると、わたしの子供のほうがあらゆる優位を手にできる状況です。ここには大きな格差があります。もちろん、持って生まれた能力にも格差はありますし、育った環境でも格差は生じます。しかし、社会から提供される教育に格差があってはならないと思います。都市、特に大都市が次々と優れた公立学校体制を失っていけば、それも大きな一因となってさまざまな社会的問題を将来生み出すことになると思います。もしわたしがなにかひとつやれるとすれば、つまり魔法の杖を振るうことができれば、優れた公立学校体制を築く方法を知りたいものです。宗教的な理由を除けば、自分の子供を私立の学校にやりたいとは誰も考えなくなる仕組みです。良き教育を受けさせたいために私立の学校に通わせる必要がなくなるでしょう。しかしロサンゼルスの公立学校体制は、少なくみても多くの点ですでに崩壊しています。ロサンゼルスに住む友人は公立学校の体制が整っているとは建前として言うものの、自分の子供は私立の学校に行かせています。ワシントンDCで政治家がやっていることとちょうど同じです。連邦の議員で子供を公立校へやっている人は、基本的にはいないと思います。40年前にワシントンDCにいたときにはわたしは公立の学校へ通いましたが、すばらしい学校でした。その学校には上下院の議員の子供が6人かそれ以上いました。現在のワシントンでは、二級とされている体制に入ることをひとたび余儀なくされると 公立校の生徒には同じ機会が回ってこなくなります。この問題を解決する妙案は、わたしには思いつきません。

企業経営や投資のことはこれまで長くやってきましたから 、いろいろわかっています。しかし、だからといって今日の社会的な問題に対してすばらしい洞察を生み出せるわけではありません。ここに慈善における問題のひとつがあります。わたしの資産をもとにした財団の理事もこの問題を抱えることになると思います。ビジネスでは簡単な問題を解決すればよく、絶好球を待つことができます。1,000社もの企業から選ぶ必要はなく、今後もコーラが飲まれ続けるか判断するだけです。そして製造・流通させるために、多額の費用が使われるわけです。慈善や社会的な状況となると、それがちょうど反対になります。あらゆる御しがたい問題、つまり解決するのが実にむずかしかったり、何十年とかかる問題が自分に渡されます。政界で働く人はきわめてむずかしい問題に取り組んでいますが、どんな気持ちなのかよくわかります。彼らが取り組んでいるのは、昨年や一昨年、あるいはそれ以前からずっと解決できずにきた問題なのですから。

わたしが死んだ後にはバフェット財団が慈善活動に携わり、すごく重要であると同時にすごく解決困難な問題に取り組むことになります。彼らにはうまくやってほしいと願っています。どれだけ重要なことが彼らに要求されるのか、また解決したり意思決定するのがどれほどむずかしいものとなるか、わたしにも理解できると思います。うまくやってほしいものですが、彼らのやろうとすることがどれほどむずかしいかは、そのときわたしがどこにいようとも理解できると思います。

Q. Mr. Buffett, I live in Los Angeles, California, which is generally regarded as being a horrible place to live anymore, but visiting my grandmother in Omaha, I find that the crime rate per capita is, I believe, worse than in Los Angeles. I don't know in the 50's and the 60's if crime was not such a forefront thing, but I'm wondering if you either politically or with your own personal fortune have any ideas on how to get us focused back on economic issues and not getting murdered on the way to the supermarket.

A. I don't necessarily want to accept the premise, and I'm not denying the premise. I just think when you compare the crime statistics of one community verses another, that can become quite tricky, because to some extent they are measuring the city, for example. Specifically, you become involved in how much of the population of the SMSA (Standard Metropolitan Statistical Area) is metropolitan in that city. I have no great answer or fast answers to any crime problems. I think the most important single thing society can do something about - although it gets very tough if you've lost it - is to maintain an outstanding public school system. I think it's essential that everyone comes as close to starting at the same starting point as possible in society.

Now, it isn't going to happen, because my kids are going to have all kinds of advantages that some low income person's kids aren't going to have. And, there is a huge disparity. There is also a disparity in the talents they are born with. There is a disparity in the environment they have. But, there shouldn't be a disparity in the education they receive from society. I think to the extent that one city after another - particularly the large ones - have lost a good public school system, that is a big contributing factor to a lot of social problems that follow. If I could do one thing, if I had a magic wand, I would try to figure out a way to have an outstanding public school system where there was no reason for anybody to send their kids, except for religious reasons, to private schools. Private schools wouldn't be needed in order to get a good education. But I know Los Angeles's public school system, at least in many parts, has deteriorated. I have friends out there and they will pay lip service to a good public school system, but they will send their kids to private school, just like our legislators do in Washington, D.C. Essentially, I don't think there is anybody in Congress who sends their kids to the public schools. I went to public school in Washington, D.C. 40 years ago, and it was first class. We had half a dozen or more kids of Senators or Congressmen at that school. Today in Washington, public school students are not getting the same shot at the opportunities in America, if they have been forced into a system that is second class. I don't have great solutions to this problem.

I know something about running business and investing, because I've been doing it for a long time. But, that does not give me great insight into a lot of the social problems of the day. One of the problems with philanthropy - and my foundation's board will have this problem with my funds - is that in business, I get to solve the easy problems. I get to wait for fat pitches. I don't have to make a choice among 1,000 different companies. All I have to do is decide people are going to keep drinking Coke. And, there is a lot of money to be made in manufacturing and distributing it. In philanthropy and in social situations, it's just the reverse. All of the intractable problems - the ones that are really tough to solve, the ones that take decades - are the ones that get thrown at you. That's why I do feel empathy for people in politics, because they are dealing with the toughest problems. They are dealing with problems that people couldn't solve last year, or the year before, or the year before that.

Regarding philanthropy, after I die, the Buffett Foundation will be tackling problems that are terribly important, but also terribly difficult to solve, and I wish them well. And I'll understand how important the requests are that they'll receive, and how terribly difficult it will be to solve, to make decisions, and I wish them well. But I'll understand; wherever I am I'll understand, if they have difficulty accomplishing that.


ウォーレンの意を汲んだのか、ビル・ゲイツの財団では米国内向けの教育支援プログラムを実施しているようです。

College-Ready Education (Bill & Melinda Gates Foundation)

2014年5月28日水曜日

(8136)サンリオの限界、鳩山体制の終わり

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決算説明会の翌日にあたる5月22日(木)、下落基調だったサンリオの株価がさらに暴落しました。終値は前日比16%安の2,598円にとどまりましたが、一時はストップ安2,410円をつけました(Yahoo!株価情報)。当社IRはその状況に対して「アナリストが発表した内容が混乱を招くもととなっている」との見解を示し、誤解を解くように要請しました(当社発表[PDF])。アナリストの発信では「ビジネスモデルの方針転換が利益率の低下につながる可能性がある」とあったそうですが、あえて婉曲な表現にとどめたように感じられます。本心では、「経営の質が低下するリスクがある」と書きたかったのではないでしょうか。

来期予想も増収増益を掲げている当社の「経営の質が低下する」とはどういうことなのか。今回は、ここ数年間のサンリオの動きを踏まえた上で個人的な見解を記述します。

1. 株価の動向と市場の不安
投資家の視点でみたときの当社は、20年来「悩ましい企業」でありつづけました。余剰資金の運用失敗、そしてテーマパーク事業の不振が企業価値を損ねてきたからです。当社の株価に新しい春がやってきたのは2010年でした。当時700円ほどだった株価は成長期待によって4年近く上昇し続け、昨年9月のピーク時には6,000円をつけました。しかし現在は高値の半分を割り込み、2,800円前後まで下落しています。

[サンリオ株価の動向; Google 10年超のチャート]

2. 業績の推移
近年の業績は2008年度を底にして2009年度以降回復し、再成長の軌道に乗りました。利益成長に大きく貢献しているのは海外事業(ほとんどがライセンス供与)です。一方の国内事業(物販、ライセンス、テーマパーク)は当時からほとんど横ばいがつづいています。

[営業利益の推移; 当社説明会資料より。誤差あり]

3. 業績反転の主導者
業績回復のきっかけとなったのは、当社の辻邦彦副社長(故人。後述)が社外から人材を招へいしたことでした。その人物とは、現常務取締役の鳩山玲人(れひと)氏です。高名な一族の一員で1974年生まれの鳩山氏は大学卒業後に三菱商事に入社し、当社にかかわる業務等に携わった後、ハーバードのビジネススクールに進学してMBAを取得しています。また辻邦彦副社長に声をかけられたことで2008年5月に当社に入社し、経営に参画することとなりました。

[鳩山玲人氏; 早稲田大学サイト記事より借用]

現社長の息子である辻邦彦副社長は当社でずっと仕事をしてきました。父親の辻信太郎社長は現在80歳代半ばと高齢であり、副社長が経営管理の実質的な責任者を務めていたものと想像されます。また先日行われた決算説明会(後述)で辻信太郎社長が発言していたように、この6月には辻邦彦副社長の昇進が内々定していました。副社長は父親社長が築いてきた当社の長短両面をよく理解していたはずです。その想いの一部は数年前の有価証券報告書に課題として端的に表現されています。

[2005年度有価証券報告書]
当社グループは、Project2006により売上高指向から利益指向へシフトし、国内外において物販ビジネスの拡大とともにライセンスビジネスに注力し、特に、厳しい現状を踏まえての国内における販売力強化が当面の課題と認識しております。(PDF14ページ目)

辻邦彦副社長が鳩山氏を迎え入れた2008年度を底にして業績が改善しはじめました。海外ライセンス展開が伸長したことが大きく、鳩山氏が少なからず貢献していることがうかがわれます。短中期で成果のあがる戦略を見定めるとともに、欧米の現地法人を指揮し、顧客との直接交渉にも参加してきたようです。自身や鳩山家の人脈も役立ったかもしれません。中期計画(Project2015)は円安の好条件も重なったおかげで、1年前倒しの2013年度に営業利益目標を達成しています。

業績の数字以外にも鳩山氏の貢献度はうかがえます。過去の決算説明会の映像をみると、アナリストからの質問に応じている主役は彼でした。登場する話題は経営全般にわたっており、たとえばM&Aや配当性向といった資本配分、定量的なパフォーマンス管理に基づいた業務の評価・改善、業界でのポジションを意識した上での長期的なビジョン策定の必要性などにも触れていました。このことは、彼が最上層の経営に深くかかわっていたことを裏付けています。

鳩山氏の示す経営管理の方針や戦略実行のやりかたは基本から逸れておらず、聞いていて違和感を感じさせません。アメリカなどの優良企業の経営者と似た雰囲気です。説明内容は具体的で的を外すことが少なく、聞き手に安心感を与えるもので、アナリストからも評価されていたと思います。ただしそのようなやり方はスマートにみえるため、「若造の経営ごっこ」と受けとめられる危うさも負っていたかもしれません。

4. 辻邦彦副社長の死去(2013年11月)
2013年11月20日に辻邦彦副社長が急死しました。以下の報道記事によれば、出張先のロサンゼルスで客死されたとのことです。株価は2013年9月にピークをつけており、副社長が死去された後もひきつづき下落が続き、今日に至っています。

「ハローキティ」サンリオ株急落の陰で御曹司急死 [副社長の写真あり] (週刊文春WEB)

5. 「鳩山ショック」(2014年5月22日)
先週の5月21日に、当社の前期決算発表会が行われました。「この頃思うこと」と題した恒例の説話の中で、辻信太郎社長が当面の経営体制を発表しました。社長自身は留任のままで、辻邦彦副社長の抜けた穴を埋めるために各事業・現地法人の責任者をより前面に立たせ、全体を統括指揮する人物としては江森常務を指名しました。経営企画室長である彼は三菱銀行の出身であり、借入先銀行からの連絡役・お目付け役だと想像します。現在の当社は業績低迷から抜け出して好調な時期に入っています。そのような時期にとられた新体制に対して、説明会に参加していたアナリストからは疑念が度々投げかけられていました。

半年前まで経営改革のリーダーであった鳩山常務はどうやらその責務を解かれたようで、この2年間業績が低迷している欧州担当となりました。欧州は海外事業の中でもっとも利益貢献の大きかった地域でしたが、現在は米州(おもにアメリカ)に逆転されています。市場規模が大きいためにうまくテコ入れできれば大きな利益回復が期待できます。その意味で、鳩山常務を専任として問題対応にあてるのは理に適った判断だと思います。しかし当社の船頭から鳩山常務を外したことは大きな方針転換だと、少なくとも証券業界は受けとめたように感じました。

決算発表会における鳩山常務の様子には興味ぶかい点がありました。ここで比較したいのは、昨年11月6日に開催された第2四半期決算会での振舞いです。アナリストに対する応答は彼が中心になってこなしており、態度や回答内容からは自信がうかがえます。以下の両リンク先に映像があります。

[サンリオ2013年度第2四半期決算説明会; 鳩山常務(左)、江森常務(右)]

そして先日の5月21日に開催された決算説明会での様子です。前回までと大きく違った点を以下に列挙します。

[サンリオ2013年度決算説明会; 鳩山常務(前列左端)、辻社長(同右端)]

(1) 席次がひとつ後退していること(たとえば1:29:20-)
前回までは社長からかぞえて3番目でしたが、今回は4番目になっています(女性秘書を除く)。物理的にも社長から遠い座席に座っています。

(2) アナリストが質問する内容のメモをとらないこと(たとえば1:34:15-1:35:09)
質問に対しては基本的には社長や江森常務が回答し、固有の質問だけ鳩山常務が答えること、と事前に段取りされていたと思われます。しかし、自分が答える必要のない質問でもメモをとって備えておくのは大人が一般的にやることです。この席での鳩山氏はペンをとっておらず、自分には様々な権限がなくなったことを態度で示しています。(第2四半期決算映像では、たとえば54:15-での映像でメモをとっている)

(3) 質疑応答の際の視線の動き(1:31:20-1:33:25)
過去の映像では、鳩山常務はアナリストへ話をする際には視線を頻繁に移動させる傾向がみられます。しかし前回までと今回では、その動き方が大きく異なっています。前回まではメモの内容と質問者の双方に対して交互に視線を向けていました(2013月11月開催の第2四半期決算では、たとえば映像の55:20-)。今回は視線が左右へ泳いでおり、しかも質問者に対して力強くありません。これは潜在意識にある不安が表出したものと個人的には捉えました。この場合、権限や立場が大きく縮小されたことを示すと受けとめることができます。「欧州の立て直しを一時的に命じられたものの、仕事にけりがつけばかつての仕事に戻れる」、彼がそのような約束に基づいていたとすれば、ここで指摘した不安げな様子はみせなかったと思います。

6. 今後のサンリオと鳩山常務
鳩山常務が当社において自分の望む仕事を遂行できる可能性は大きく低下したと想像します。いい話があれば他社へ移る可能性は極めて高いと思われます。一方の辻信太郎社長にとっては、鳩山常務がやめることに異論はないようにみえます。ただし欧州立て直しの観点では鳩山常務の利用価値は大きく、たとえば今後1,2年間は結果が出ることと両建てで待つ手も考えられます。

鳩山常務はコミットメントを旨としており、欧州立て直しはきちんと取り組むと思われます。その仕事に区切りがつく1年後あるいは2年後に向けて、次の活躍の場を探しながら過ごす日々になるものと想像します。あくまでも個人的な見解ですが、鳩山氏にふさわしいのは自分を必要と考えてくれて大きな仕事を任せてくれる環境だと思います。ただし次の職場では、「偉大なるネコちゃん」の力を頼ることはできませんが。

7. 当社の企業価値
当社の営む事業の質は極めて高いために、経営者が大きなミスをするぐらいではなかなか揺らぎません。当社にとってこのことは幸福でもあり不幸でもあります。そして辻邦彦副社長と鳩山氏のコンビが海外ライセンス事業を大幅に強化したことで、この数年間で基礎体力が向上しています。このことは、鳩山常務がいなくても当社がひきつづき成長できる可能性が高いことを意味します。

鳩山常務が欠けることで本当に問題なのは、「当社が大化けする機会が遠ざかり、あるいは喪われる」可能性が高まることです。辻邦彦副社長と鳩山氏の間では、大きな夢を共有していたように思えてなりません。株式市場もそれを期待して評価を高めてきたことでしょう。しかし副社長が亡くなり、そして鳩山常務が外された現在では、当社に対する評価が低下して当然だと思います。しかしそうであっても当社の実力は地に落ちることはなく、「少なくともしばらくは堅実な成長が期待できる質の高い事業」と評価できると考えます。

株価に対する個人的な見解としては、5月22日に暴落した終値2,600円前後は「わずかに割安」な領域に突入したとみています。実際にわたしも22日と23日にわたって当社の株をはじめて購入しました(平均購入単価2,600円強)。株価は現在反転して上昇中ですが、まだ大幅な割安とは言えず、2,600円あるいは先日のストップ安2,410円を割り込んでくる可能性は十分に考えられます。配当利回りを考慮すると下落率は小さくとどまると思いますが、もし厳しく下落すれば買い増しするつもりです。

以下の表は、鳩山常務の去就の観点から決定木を書いて企業価値を算出したものです。意思決定上で重要な要素はほかにもあるはずですが、現在の当社の状況で重要なのは経営の手綱さばきにあると簡略化できれば、このような粗い評価でも何らかの意味はあるだろうと考えています。ただし数字をみれば明らかなように、予定調和的なバイアスがかかっている可能性は承知しているつもりです。

[サンリオ企業価値の評価]

2014年5月26日月曜日

2003年当時のチャーリー・マンガーの予言

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チャーリー・マンガーによる講演『経済学の強みとあやまち』の31回目、今回で最終回です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<男性の質問者> デリバティブ契約の取引から生じる金融危機についてですが、バフェットさんは、精霊が瓶から飛び出し、深酒した分だけ二日酔いもひどくなる、と言っていました。そのシナリオがどのように進むのか、何か予想されていますか。(質問者は勘違いしている。当人はデリバティブについて質問しているが、バフェットはそれに対して「金融版の大量破壊兵器」と言った)

<マンガー> 大惨事を予想して当てるのは、当然ですがきわめてむずかしいことです。しかし確信をもって言えますが、やがて大きな災厄に見舞われます。現在のシステムは無責任すぎて、とても正気とは思えません。改善したと考えているものも、実は直っていません。複雑すぎて私には正しく判断することはできませんが、しかし何兆ドルもの金額が関わっているなど信じがたいものです。その複雑さや、会計処理のむずかしさ、そして動機づけが大きくなりすぎて資産価値やものごとを明確にすることに対して甘い考えを抱いている実態ときたら、とても信じがたい状況です。

デリバティブの契約を解消するのは、苦闘であり時間もかかる仕事です。エンロンがそうしようとしてどうなったかはご存知でしょう。監査済みの純資産が消失したのですよ。この国のデリバティブに関する会計では、得たことのない利益やどこにも存在しない資産が多数報告されているのです。

それから、「横領相当」による影響が大きい上に、デリバティブ取引に際した一般の横領による影響もあります。それらを元に戻すことにも痛みを伴います。痛みがどれほどの規模になるのか、どれだけうまく対処できるのか、わたしには何とも言えません。しかし公正な目で巨大なデリバティブ取引を本気で精査してみれば、ひと月もやればもううんざりだと感じるでしょう。ここはルイス・キャロル(『不思議の国のアリス』の著者)の世界かと、いかれ帽子屋のお茶会かと疑うでしょう。その仕事に携わる人たちがいかに間違ったことを精確に実行しているか、とても信じられないと思います。最低の経済学の先生が神々のように思えるほどです。その上、堕落しているせいでさらなる愚行が生み出されています。『大破局(フィアスコ)』[原題: F.I.A.S.C.O.]という本を読んでみてください。著者のフランク・パートロイは法学の教授であり、過去にはデリバティブのトレーダーだった人ですが、デリバティブ取引の世界がいかに腐敗しているかを内部にいた人間の目から描いています。彼が勤めていた会社は、ウォール街の中でも最大かつ最上とみなされていた一社です。この本を読んでいると胸くそが悪くなりますよ。

<ラジニーシュ・メータ> もう一つ質問をお受けしましょう。次のクラスが控えていますので。次の方、どうぞ。

<男性> カリフォルニア州住民提案13号[固定資産税率の上限制定]の欠陥についてウォーレンは自分が検討したことを発表していましたが、それに対して否定的な反応がありました。さらにそのことで[シュワルツェネッガーからその発言を控えるようにとの]忠告を受けましたが、それに対して彼はどう反応しましたか。ショックを受けたり、おどろいていましたか。

<マンガー> ウォーレンを驚かせるのは至難の業です。もう70歳を過ぎていますからね、彼はいろいろ経験してきましたし、頭の回転が速い人です。概して選挙の前になると、彼はある種の話題を避けるようにしています。ですから私がここにきているわけですよ(笑)。

Male: …financial destruction from trading of derivative contracts. Buffett said that the genie's out of the bottle and the hangover may be proportionate to the binge. Would you speculate for us how that scenario can play out? [The question was garbled, but the person asked about derivatives, which Buffett has called "financial weapons of mass destruction."]

Munger: Well, of course, catastrophe predictions have always been quite difficult to make with success. But I confidently predict that there are big troubles to come. The system is almost insanely irresponsible. And what people think are fixes aren't really fixes. It's so complicated I can't do it justice here - but you can't believe the trillions of dollars involved. You can't believe the complexity. You can't believe how difficult it is to do the accounting. You can't believe how big the incentives are to have wishful thinking about values and wishful thinking about ability to clear.

Running off derivative book is agony and takes time. And you saw what happened when they tried to run off the derivative books at Enron. Its certified net worth vanished. In the derivative books of America, there are a lot of reported profits that were never earned and assets that never existed.

And there are large febezzlement effects and some ordinary embezzlement effects that come from derivative activity. And the reversal of these is going to cause pain. How big the pain will be and how well it will be handled, I can't tell you. But you would be disgusted if you had a fair mind and spent a month really delving into a big derivative operation. You would think it was Lewis Carroll [author of Alice's Adventures in Wonderland]. You would think it was the Mad Hatter's Tea Party. And the false precision of these people is just unbelievable. They make the worst economics professors look like gods. Moreover, there is depravity augmenting the folly. Read the book "F.I.A.S.C.O.", by law professor and former derivatives trader Frank Partnoy, an insider account of depravity in derivative trading at one of the biggest and best-regarded Wall Street firms. The book will turn your stomach.

Rajneesh Mehta: We'll take one more question. There's a class outside that has to come in. So one more question.

Male: Could you describe Warren's reactions to the advice about the negative reaction that he got from musing about defects of California's Prop Thirteen? Was he shocked, surprised?

Munger: It's hard to shock Warren. He's past seventy, he's seen a lot. And his brain works quickly. He generally avoids certain subjects before elections, and that is what I am going to do here. (Laughter).


この講演は2003年10月に行われているので、チャーリーやウォーレンが2008年の金融危機の激しさを正しく予見していたことが確認できます。個人的な邪推ですが、チャーリーが積極的な株式投資を控えていたのは、その見通しがあったことも一因だったように思えます。

2014年5月24日土曜日

2014年バークシャー株主総会;経営者コンビについて

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2014年5月に開催されたバークシャー・ハサウェイの年次株主総会、質疑応答のメモから「経営者コンビ」の話題です。今回の文章も、以前にご紹介したメモから引用しています。(日本語は拙訳)

<質問13:ベッキー・クイック> 後継者の質問はよくあげられますが、チャーリーの後継者は検討されていますか。お二人のような力強いコンビは続くのでしょうか。

<バフェット> わたしにとってチャーリーは「炭坑のカナリア」をしてくれています[先鋒役の意]。チャーリーは先日90歳に達しましたが、どうやら中年期をうまく過ごしているようで、わたしにとっても励みとなっています(笑)。しかしご指摘されたことはわたしも気になっていました。チャーリーの代わりのことを話に出す人はいませんね。わたしのあとを継ぐCEOがだれであろうと、親密な仲間といっしょに仕事をするだろうと思っています。これは実にすばらしい経営方式ですよ。わたしたちがいっしょに働いたことで、バークシャーは成功できました。そのことに疑問の余地はありません(拍手)。[コカ・コーラの]ゴイズエッタとキーオのコンビや、キャップ・シティーズのトム・マーフィーとダン・バークもそうです。お互いの才能を補うものすごい二人が組んだことで、会社は大きく発展しました。これはすばらしい経営のしかたです。しかし他の人ではうまくやれないでしょう。わたしの後継者の代になって数年たっても、だれかと付き合いを持ったりパートナーとなる人がいないとしたら、それはきっとおどろくでしょうね。そういう人がいることで業績が発展しますし、分かちあう楽しさもひろがります。しかしチャーリーの後継者となると、だれも話題にあげませんね。

<チャーリー> この世の中に心配ごとはそれほどないですからね。90歳にもなれば、みんなもうすぐお迎えの時期です。

<バフェット> カナリアが話していますよ(笑)。

Q13: BQ: Successor question is common, but any discussion about a replacement for Charlie? Dynamic duo still?

WB: Charlie is my canary in the coal mine. Charlie recently turned 90, and I find it encouraging how he is handling middle age. [laughter] But now I'm getting sensitive ‐‐ you raised a point ‐‐ they never talk about replacing Charlie. I think likely that whoever replaces me as CEO will have someone they work with very closely, it is a great way to operate. Berkshire is better off because we worked together, there is no question. [clapping] I do think Goizueta & Keogh, Cap Cities Tom Murphy & Dan Burke, and company accomplished far more because of two incredible people with complimentary talents. It is great way to operate. You can't will it to somebody. If a few years after successor takes over, I'd be very surprised if there wasn't some relationship or partnership, it can enhance achievements and the fun they have. But no one has brought up successor to Charlie.

CM: I don't think the world has much to worry about. Most 90 year old men are gone soon enough.

WB: The canary has spoken. [laughter]