2014年2月16日日曜日
バークシャー・ハサウェイの現金比率
<金融資産における現金比率>
はじめの図はおもな金融資産(現預金、債券、株式)の構成比を示したものです。ここで「その他の投資」という項目も登場していますが、2008年以降に大きく発生しています。これはゴールドマン・サックスやGE社などへの優先株投資の割合が大きいため、債券に近いものとみなしました。
この図からは次のようなことがみてとれます。
1. 現預金の比率は低下傾向
しかし、金融危機以降は横ばいがつづいています。
2. 2013年9月末時点で、現預金や債券の割合は全体の4割程度
債券投資のうちの1/3は外国政府債で、もう1/3は一般企業の債券です。米国財務省証券や地方政府債の比率は大きくありません。その意味で、完全に流動的であるとは言いきれない保有構成です。
3. 現預金や債券比率が相対的に高水準だったのは2004-2006年
当時は純利益も横ばい基調であり、そのせいか株価も停滞していました。
この図をもとにすれば、バークシャーにおける現金+債券の比率は4割程度に達していると判断できます。
<総資産における現金比率>
しかしバークシャーにはもうひとつ重要な側面が残っています。買収した事業会社に関する資産です。それら子会社の資産を含めた上でバークシャーの資本配分の推移を示したものが、次の図です。
さきほどの観察と大きく変わるのが次の2点です。
1. 事業会社の割合が増加
現預金等の比率が低下すると共に、特に2006年から事業会社の比率が増加しつづけています。これはおもにエネルギー会社で株式転換したり鉄道会社を買収し、さらに資本を継続投下したためです。ここで留意したいのは、それら企業自身も借入れを行っていることです。そのため、グロスの資産という観点ではレバレッジがかかっています。
2. 現預金や債券等の割合は10%強まで低下
このことから、バークシャーの資本政策からは次のようなねらいがうかがえます。
1. 相対取引でビジネスを買うことに活路を見いだすこと
現在のバークシャーの資本規模では、それを有効に生かせる機会が株式市場ではなかなかみつからない、と解釈できます。2008年の金融危機のときには投資する機会があったと思われますが、多くはゴールドマンやGEといった企業へ優先株の形で投資されました。これには、金融危機を側面から救済する目的があったのかもしれません。それでもさらなる下落に備えて余剰現金を残す必要があり、結局は1987年のコカ・コーラ的な買いには到らなかったのかと想像します。
2. 償却期間の長い投資を早い段階で実行すること
よく言われるように、今後予想されるインフレに備えて先払いしたほうが有利な投資にバークシャーは注目しているようにみえます(鉄道やエネルギー会社)。そのためには、安くはない値段であっても、相対取引によって早めに機会を手にしておいたほうがよいと判断しているように思えます。
個人的には、このアイデアは参考にしていきたいと感じています。「ゴールドに投資するよりもビジネスに投資したほうがよい」と発言した真意が感じられるやりかただとも思います(過去記事)。
<総資産の構成(金額ベース)>
最後の図です。上の図は資産を比率ベースで示していますが、絶対額ベースにすると以下の図になります。
この図をみると、現預金+債券の絶対額は微増しています。増加した余剰資金を消化するのが精一杯のようにもみえます。
<おわりに>
バークシャーのことを「ウォーレン・バフェットの投資会社」と表現されることがあります。その表現が当たっているのもたしかですが、もうひとつの側面を見落とさないようにしたいと感じています。それはバークシャーが時と共に変容し、今では「ユニークな性質をもった、そこそこ普通の持ち株会社」になったことです。自分自身の資産管理の観点では、先に取り上げたスティーブン・ローミック的なやりかたはわかりやすく、親しみを感じます。しかし資本配分の究極である当社の姿にも、全部まるごとではないにせよ、学べる点は十分に残されていると思います。
2014年2月14日金曜日
もう少しつぎこめば、きっとうまくいくはず(チャーリー・マンガー)
<質問者> 「バークシャーが航空業界に投資したのはやってはならない好例だ」、とウォーレン・バフェットが言っていました。まちがった決定をくだしたのは、どのように考えを連ねた結果なのでしょうか。
<マンガー> 「普通株に投資して儲かること請け合い」とする理屈でUSエアー社の株を買ったわけではありません。株主に報いるという点では、航空業界の歴史はひどいものですからね。義務償還条項付きの優先株を買ったのです。これは事実上、USエアーへの貸し出しです。そして普通株への転換請求権がついていました。
株主にとってすばらしい投資先だとは考えていませんでした。支払い条件、つまり固定利率の配当と義務償還に対して十分な利益をあげられると考えていたのです。事業が悪化して信用不安に陥り、我々が享受していた高利率が脅かされるとは予想していませんでした。そうです、まさに破産寸前までいきました。もう数か月でおしまいのところでした。しかし、そこから立ち直りました。我々の投資はたぶん全額返ってきて、クーポンも満額受け取れると思います。しかし、この件は失敗でしたね。(編注: バークシャーは結局、USエアーに対する投資の全額を回収できた)
我々が学んできたことや過去のふるまいを知ったからといって、たくさん失敗しないで済むようになるとは考えないでください。「他人より失敗をへらせたり、まちがいを速やかに正す方法が学べる」、私が話しているのはこれだけです。しかし満ち足りた生活を送ろうとするには、多くの失敗をすることは避けられませんね。
まちがいを犯したらうまく対処できること。実のところ、これも人生におけるコツのひとつです。心の中で物事を否定したときに、そのあやまちに対処できないのは破産へと向かう典型的な道すじです。何かに対して深くかかわる、つまり労力をかけたり、資金を投じたとしましょう。しかし、そうすればするほど一貫性の原理が強烈に働いて、「絶対うまくいくさ。もう少しつぎこめば、きっとうまくいくはず」と考えるようになります。[参考記事]
さらに加わるのが、はく奪に対して過剰反応する一連の傾向です。「もうひと押しできないと、すべてがおじゃんだぞ」。このように人は破産していきます。踏みとどまれない、考え直せない、そして自分にこう言い聞かせられないのです。「これがまるごと終わりになっても大丈夫、またいちからやれるさ。破産するのが怖いからといって、追いつづける必要はないはずだ」。[参考記事]
Q: Warren Buffet has said that the investment Berkshire made in an airline was a good example of what not to do. What chain of thinking led to that wrong decision?
We were not buying stock in USAir on the theory that the common shareholders were certain to prosper - because the history of the airline business in terms of taking care of shareholders has been terrible. It was a preferred stock with a mandatory redemption. In effect, we were loaning money to USAir, and we had this equity kicker.
We weren't guessing whether it would be a great place for the shareholders. We were guessing whether it would remain prosperous enough to pay off a credit instrument - carrying a fixed dividend and a mandatory redemption. And we guessed that the business would not get so bad that we'd have a credit threat for which we were not being adequately compensated by the high rate we were getting. At it happened, USAir went right to the brink of going broke. It was hanging by a thread for several months. It's since come back. And we'll probably get all our money back plus the whole coupon. But it was a mistake. (Editor's note: Berkshire did indeed come out whole on its USAir investment.)
I don't want you to think we have any way of learning or behaving so you won't make a lot of mistakes. I'm just saying that you can learn to make fewer mistakes than other people - and how to fix your mistakes faster when you do make them. But there's no way that you can live an adequate life without (making) many mistakes.
In fact, one trick in life is to get so you can handle mistakes. Failure to handle psychological denial is a common way for people to go broke. You've made an enormous commitment to something. You've poured effort and money in. And the more you put in, the more that the whole consistency principle makes you think, "Now it has to work. If I put in just a little more, then it'll work."
And deprival super-reaction syndrome also comes in: You're going to lose the whole thing if you don't put in a little more. People go broke that way - because they can't stop, rethink, and say, "I can afford to write this one off and live to fight again. I don't have to pursue this thing as an obsession - in a way that will break me."
2014年2月12日水曜日
風にさからって進もう(スティーブン・ローミック)
FPA Crescent Fund Quarterly Commentary 4th Quarter (January 22, 2014) [PDF]
強風が吹く世の中ですが、我々は風に逆らうところがあります。つまり向かい風のときに買い、追い風のときに売りがちだという点です。現在は後者の傾向が強く、ご察しのように我々が株式に資金を投じている割合は、2013年には減少しました。好ましい市場環境だったので、16件の買い持ちポジションを売却しました。1つだけ損失を出しましたが、平均利益は買値の64%でした。また新規に9件を投資しました。その結果、市場が上昇しつづければ残念なこととなりますが、我々の正味株式資産の割合は1年前の61.3%から51.8%へ減少しました。我々の場合、株式の割合を決めるのは株式の価値とリスク対報酬によってであり。株式市場の動向ではありません。仮に明日の株価を今教えてくれたとしても、リスク対報酬の観点で興味をひかなければ、当然ながら我々は売り越すことになります。
現在は安い状況ではありません。GDPと比較した割合でみると、株価は頂点間近に迫っています。これより高かったのはドットコム・バブルの絶頂期だけです。
we live in a windy world but we're in the habit of leaning into it. We tend to buy with the wind in our face, and sell with it at our backs. Right now, there's more of the latter so, as you'd expect, our equity exposure declined during 2013. The favorable market allowed us to sell sixteen long equity positions during the year, at an average gain of 64% from cost, with just one generating a loss. We initiated nine new positions. The byproduct of this - unfortunate if the market continues to rally - is that our net equity exposure declined to 51.8%, down from 61.3% a year ago. We will let valuation and risk/reward guide our exposure, not the stock market. If the market gives us tomorrow's prices today and the risk/reward becomes unattractive, then we are unsurprisingly net sellers.
Things aren't cheap. Equity values, as a percentage of GDP, are near their peaks. The only time they were higher was at the apex of the dot com bubble.
過去記事「株式時価総額とGDPの比較グラフ」でも似たようなグラフをご紹介しています。そちらのグラフとは変動幅が若干異なっているようですが、傾向としては同じ方向を指し示しています。
2014年2月10日月曜日
公園のながめをあきらめきれない(ベノワ・マンデルブロ)
科学者の伝記を読む理由はいつも同じで、偉大な業績を成した人物はどのように考えてどのように判断するのか参考にしたいからです。しかし本書ではその種の話題はあまり登場せず、第二次世界大戦期だった若者時代の逃避行や、独自の学者経歴を歩んでいく顛末・心境を中心につづられていました。その意味では当初のねらいに即した本ではなかったのですが、個人的に興味を持っている主題「逃げる」ことが少なからず描かれており、逆にそちらの話に引きこまれました。翻訳者の影響なのかもしれませんが、著者の文体は抑制が効いていて浮わついたところが少ないように感じられ、全般的に共感できる文章でした。今回はその「逃げる」ことについて本書から引用します。
最初の引用はナチス・ドイツがポーランドに侵攻する前のことで、マンデルブロの一家がワルシャワからパリへ逃げる話です。
二度と帰らない覚悟でこの地を離れるべきか? 私の年齢を考えると、タイミングは完璧だった。その一方で、パリに行った場合には父の身分がどうなるかわからず、母は仕事をやめて収入も手放さなくてはならないとすれば、ひどくまずいタイミングでもあった。しかしミルカの一件で迷いが消えた。ポーランドは両親が息子たちのために望む国ではなかったのだ。決断が下された。(中略)
両親の恐れていたあらゆることがポーランドで忌まわしい現実となる前に、二人の大胆な計画が功を奏した。私たちは南フランスへ行って土地の人のようなふるまいや話し方をして、その地でたくさんの誠実な友人を得た。(中略)
知り合いの中で、フランスへ移って生き延びることができたのは私たちだけだった。たいていの人は、ぐずぐずしているうちに状況がひどく悪化してしまった。ワルシャワ時代の知人で生き残ったのは二人だけだ。私たちの上の階に住んでいたプラウデ夫人は夫を亡くしたが、戦争が終わってから私と同い年の娘を連れてパリへやって来た。そして私の母に連絡をとり、友だち付き合いを再開した。ほかの人たちは貴重な陶磁器を手放せなかったり、べーゼンドルファーのコンサートグランドピアノが売却できなかったり、あるいは窓から見える公園の眺めをあきらめられなかったりして、動きがとれなかったらしい。母はそんな話にぞっとしながらも、感情を隠したまま耳を傾けていた。(p.79)
つぎはドイツ占領下のフランスで起きた彼の父親の話です。
フランスがドイツに占領されていたころのことだが、父の賢さと独立心と勇気を物語るエピソードがある。父は最終的な死の収容所へ連行される前の一時収容所に入れられていた。ある日、フランスのレジスタンス部隊が突入して警備兵を制圧した。ゲートを開放することはできるが収容所を防護することはできないと叫んだかと思うと、みんな逃げろと言って立ち去った。父は最寄りの町を目指して歩く収容者たちの長い列に加わったが、不吉な気配を察してわき道に入った。するとおののく父の目の前で、警備兵から連絡を受けたナチス武装親衛隊のシュトゥーカ爆撃機が、収容者たちを地上掃射した。父は家に帰り着くまでずっと細い道を選び、寝るときは人気のない小屋を見つけた。父以外で戦争を生き延びた人たちも、死の収容所へ向かう集団にいて逃げ道に気づいたら、即座にそこへ飛び込んだと言っている。父はまさにそういう人間だった。(p.42)
最後の話は、パリからフランスの中部へさらに避難したころの生活の様子です。
川を下った兵器工場のそばの平らな土地に小さなアパートがあり、その最上階に格安の貸間が見つかった。避難民支援の一環として、基本的な家具類は支給された。レオンと私は狭苦しい台所兼食堂で寝た。暖房用のストーブで料理もした。両親の部屋も暖まるようにと境のドアを開け放っても、漆喰と麦わらの混ざった三方の壁が丘陵地の外気に触れているので、部屋は冷えきってしまう。冬場には室内につららができた。一階にトルコ式トイレが一つあり、玄関には冷水しか出ない蛇口があった。言うまでもないが、浴室はなかった。(中略)
父はいつもメモをとりながら熱心に本を読んでいた。次にどんな運命が降りかかるかわからないということを忘れず、ぼろぼろの古い本で英語の書き方を勉強していた(「備えあれば憂いなし、だからな」)。何年もあとで私が見つけた革製のブリーフケースの中に、父の膨大な学習帳のうち数冊が奇跡的に残っていた。(p.110)
蛇足ですが、我が家では暖房を入れていないので、今年は寒い思いをしています。板張りの部屋の窓際に敷いた布団に入りこんだときには、マンデルブロのつららを思い返しています。
2014年2月8日土曜日
地獄の底がふさわしい(チャーリー・マンガー)
メディケアの例で示したように、人間の作ったシステムであれば何であれ、策略が生じます。これは人の心理に深く根ざすところによるものです。そして謀りごとをする中で、巧みな才能が姿をあらわします。ゲーム理論には大いなる潜在力があるからですね。それゆえに、カリフォルニアの労災補償制度では策略が芸術的な域まで達し、結局はうまく機能しませんでした。システムにおいて策を講じるうちに、人は不正というものを学びます。これは社会の発展にとって良きことでしょうか。経済の発展につながるでしょうか。断じて否と言えます。容易にごまかしがきくシステムを設計した人は、地獄の底へ落ちるのがふさわしいでしょう[ダンテ『神曲』の地獄界第九圏]。
わたしの友人一族が経営する会社は、トラック・トレーラー業界の8%を占めていました。彼はちょうどカリフォルニアでの最後の工場を閉めたところでした。テキサスにも一つありましたが、そちらの状況はもっと悪く、労災にかかる費用が賃金比にして2ケタ台の割合に達していました。トラック・トレーラーの製造では、それほどの利益は出せません。彼は工場を閉鎖し、ユタ州のオグデンへ移転しました、モルモン教徒が大勢いる土地です。彼らは大家族を養い、災害補償で駆け引きなどしない人たちでした。労災費用は賃金の2%分でした。
彼のテキサス工場を占めていたラテン系の人たちは、モルモン教徒とくらべてうまれつき不正直だったり悪人だったのでしょうか。いいえ、ちがいます。単に、不正を働けば報われるように動機づけが構成されていたからです。それは無知な議員によって制定されたものです。ロースクールを卒業した者ばかりだというのに、自分たちが社会発展の足をひっぱっているとは考えなかったのです。うそをついたりごまかすことがもたらす二次的・三次的効果を考慮しなかったのですね。このことがあらゆる場所で起こるようになると経済学はこの件で持ちきりになり、これからもずっとつづくかのようになりました。
Anyway, as the Medicare example showed, all human systems are gamed, for reasons rooted deeply in psychology, and great skill is displayed in the gaming because game theory has so much potential. That's what's wrong with the workers' comp system in California. Gaming has been raised to an art form. In the course of gaming the system, people learn to be crooked. Is this good for civilization? Is it good for economic performance? Hell, no. The people who design easily gameable systems belong in the lowest circle of hell.
I've got a friend whose family controls about eight percent of the truck trailer market. He just closed his last factory in California, and he had one in Texas that was even worse. The workers' comp cost in his Texas plant got to be double-digit percentages of payroll. Well, there's no such profit in making truck trailers. He closed his plant and moved it to Ogden, Utah, where a bunch of believing Mormons are raising big families and don't game the workers' comp system. The workers' comp expense is two percent of payroll.
Are the Latinos who were peopling his plant in Texas intrinsically dishonest or bad compared to the Mormons? No. It's just the incentive structure that so rewards all this fraud is put in place by these ignorant legislatures, many members of which have been to law school, and they just don't think about what terrible things they're doing to the civilization because they don't take into account the second-order effects and the third-order effects in lying and cheating. So, this happens everywhere, and when economics is full of it, it is just like the rest of life.




