前々回の投稿ではスティーブン・ローミックが率いるファンドの現金比率を取り上げました。今回はウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイについて過去10年間ほどの推移をみてみます。原資料は同社の10-K及び10-Qです。
<金融資産における現金比率>
はじめの図はおもな金融資産(現預金、債券、株式)の構成比を示したものです。ここで「その他の投資」という項目も登場していますが、2008年以降に大きく発生しています。これはゴールドマン・サックスやGE社などへの優先株投資の割合が大きいため、債券に近いものとみなしました。
この図からは次のようなことがみてとれます。
1. 現預金の比率は低下傾向
しかし、金融危機以降は横ばいがつづいています。
2. 2013年9月末時点で、現預金や債券の割合は全体の4割程度
債券投資のうちの1/3は外国政府債で、もう1/3は一般企業の債券です。米国財務省証券や地方政府債の比率は大きくありません。その意味で、完全に流動的であるとは言いきれない保有構成です。
3. 現預金や債券比率が相対的に高水準だったのは2004-2006年
当時は純利益も横ばい基調であり、そのせいか株価も停滞していました。
この図をもとにすれば、バークシャーにおける現金+債券の比率は4割程度に達していると判断できます。
<総資産における現金比率>
しかしバークシャーにはもうひとつ重要な側面が残っています。買収した事業会社に関する資産です。それら子会社の資産を含めた上でバークシャーの資本配分の推移を示したものが、次の図です。
さきほどの観察と大きく変わるのが次の2点です。
1. 事業会社の割合が増加
現預金等の比率が低下すると共に、特に2006年から事業会社の比率が増加しつづけています。これはおもにエネルギー会社で株式転換したり鉄道会社を買収し、さらに資本を継続投下したためです。ここで留意したいのは、それら企業自身も借入れを行っていることです。そのため、グロスの資産という観点ではレバレッジがかかっています。
2. 現預金や債券等の割合は10%強まで低下
このことから、バークシャーの資本政策からは次のようなねらいがうかがえます。
1. 相対取引でビジネスを買うことに活路を見いだすこと
現在のバークシャーの資本規模では、それを有効に生かせる機会が株式市場ではなかなかみつからない、と解釈できます。2008年の金融危機のときには投資する機会があったと思われますが、多くはゴールドマンやGEといった企業へ優先株の形で投資されました。これには、金融危機を側面から救済する目的があったのかもしれません。それでもさらなる下落に備えて余剰現金を残す必要があり、結局は1987年のコカ・コーラ的な買いには到らなかったのかと想像します。
2. 償却期間の長い投資を早い段階で実行すること
よく言われるように、今後予想されるインフレに備えて先払いしたほうが有利な投資にバークシャーは注目しているようにみえます(鉄道やエネルギー会社)。そのためには、安くはない値段であっても、相対取引によって早めに機会を手にしておいたほうがよいと判断しているように思えます。
個人的には、このアイデアは参考にしていきたいと感じています。「ゴールドに投資するよりもビジネスに投資したほうがよい」と発言した真意が感じられるやりかただとも思います(過去記事)。
<総資産の構成(金額ベース)>
最後の図です。上の図は資産を比率ベースで示していますが、絶対額ベースにすると以下の図になります。
この図をみると、現預金+債券の絶対額は微増しています。増加した余剰資金を消化するのが精一杯のようにもみえます。
<おわりに>
バークシャーのことを「ウォーレン・バフェットの投資会社」と表現されることがあります。その表現が当たっているのもたしかですが、もうひとつの側面を見落とさないようにしたいと感じています。それはバークシャーが時と共に変容し、今では「ユニークな性質をもった、そこそこ普通の持ち株会社」になったことです。自分自身の資産管理の観点では、先に取り上げたスティーブン・ローミック的なやりかたはわかりやすく、親しみを感じます。しかし資本配分の究極である当社の姿にも、全部まるごとではないにせよ、学べる点は十分に残されていると思います。
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