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2012年12月12日水曜日

ほんまはこいつ賢いんちゃうか(山中伸弥教授)

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ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授の聞き語りが新刊で出ていたので、読んでみました。『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』という本です。そのなかで「逆から考える」好例が語られていたので、ご紹介します。

僕らはこの24個の中に、確信するほどではないものの、初期化に必要な遺伝子があるかもしれないと予想していました。そこで24個を1個ずつ、レトロウイルスという遺伝子の運び手を使って、皮膚の細胞(正確には繊維芽細胞)に送りこんでみました。しかし、皮膚の細胞は初期化せず、ES細胞のような細胞はできませんでした。途方に暮れていたところ、ぼくと一緒に奈良先端大から京大に移ってくれた高橋君が驚くべき提案をしました。

「まあ、先生、とりあえず24個いっぺんに入れてみますから」

これがなぜ驚くべきことかというと、遺伝子を外から細胞に送りこんでも、ちゃんとその細胞が取り込んでくれる確率はそんなに高くなく、だいたい数千個のうち1個くらいの割合です。もし遺伝子2個同時であれば取りこまれる確率はもっと低くなる。まして24個なんてできるはずがない。そう考えるのがふつうの生物学研究者です。その点、もともと工学部出身の高橋君はふつうの生物学研究者にはできない発想ができたのだと思います。

実際に24個すべて入れたところ、なんとES細胞に似たものができました。(p.113)


わたしだったら、頭ごなしに確率的に考えてしまい、このような柔軟な発想はできないと思います。24個いっぺんに入れることで、予期せぬ相互作用が生じたのでしょうか。ビジネスの世界では「やってみなけりゃわからない」という言葉をきくことが多いですが、複雑な状況が手詰まりのときには実は有効な選択肢なのかもしれませんね。

そしてもうひとつ、工学部出身にふさわしい秀逸なアイデアが続きます。

24個の中に初期化因子があることは間違いありませんでした。しかし、その中の1個だけではないことも明らかでした。それでは2個か。しかし24個から2個を選ぶ組み合わせの数は24 * 23 ÷ 2で276通りもある。もし3個なら、24 * 23 * 22 ÷ 6で2024通り。こんなにたくさん実験できません。そう考えあぐねていたところ、またしても高橋君が驚くべき提案をしてくれたのです。

「そんなに考えないで、1個ずつ除いていったらええんやないですか」

これを聞いたとき、「ほんまはこいつ賢いんちゃうか」と思いました。24個から1番目の遺伝子を抜いて23個を入れる、次に2番目の遺伝子を抜いた23個を入れるという具合に、1個ずつ抜いていきます。もし本当に重要な遺伝子なら1個欠けても初期化できなくなってしまう。まさにコロンブスの卵のような発想でした。まあ、ぼくも一晩考えれば思いついていたとは思いますが。(p.114)


組合せの回数を減らす取り組みとしては、品質工学(タグチ・メソッド)がよく知られていますが、この高橋さんのアイデアも美しいまでに実学的ですね。個人的な経験を振り返ってみれば、こういうアイデアはいったん頭を冷やした後や第三者からだと出やすいものと感じています。

ところで、新聞を読まないこともあって、山中教授の人となりを知りませんでした。が、本書を読んだかぎりでは、いい意味で普通のおじさんらしい印象を受けました。それほど歳がいっていないせいでしょうか、まだ大きな仕事が残っているとの強い意気込みが感じられる方です。

2012年12月10日月曜日

なかなか2回も当てられない(ハワード・マークス)

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前回に続いて、ハワード・マークスの著書『投資で一番大切な20の教え』の話題です。同氏は将来を確率的にとらえた上で意思決定するよう説いていますが、そのプロセスと結果のあいだに横たわる溝に対する見方を引用します。

多くの人は未来が不確実性で覆われていることを認めているが、少なくとも過去は既知で不動だと感じている。しょせん過去は歴史であり、絶対であり、不変だ。だが[ナシム・ニコラス・]タレブは、実際に起こったことは、起きる可能性があったことの小さな集まりに過ぎないと指摘している。したがって、ある計略あるいは行動が(実現した環境下で)良い結果をもたらしたとしても、その背景にあった決断が賢明であったとは限らないのだ。

もしかすると、最終的にその決断を成功に導いたのは、起きるとはまったく考えられていなかった出来事であり、運が良かっただけかもしれない。だとすれば、(結果的にうまくいった)その決断は軽率だった可能性もある。そして、数多くの「違った歴史」のどれかが実現していれば、その決断は誤ったものになっていたかもしれない。(p.237)


すぐれた決断というのは、論理的で知力に秀でた情報通の人が下した決断で、その時点、つまり結果がわかる前の段階において、すぐれているとみなされたものだ。(中略)

損失リスクの場合と同様に、ある決断が正しいものとなるかどうかを左右する多くの要因は、あらかじめ知ったり、数値化したりすることができない。堅実な分析に基づいて、すぐれた決断を下したにもかかわらず、異常事態によって不利益を被った者がいたのか、またヤマを張ったことで利益をあげた者がいたのかを確実に知るのは、事が起きたあとでも難しいかもしれない。つまり、誰が最良の決断を下したのかを知ることは困難なのだ。一方で、過去のリターンは容易に評価できるため、誰が最も儲かる決断を下したのかはわかりやすい。「すぐれた決断」と「儲かる決断」は混同されがちだが、洞察力のある投資家はその違いを十分に認識しているはずだ。

長期的には、すぐれた決断が投資利益をもたらすと信じるほかない。だが短期的には、すぐれた決断が投資利益につながらなかったとしても、冷静に振る舞わなければならない。(p.239)


「世界は、習熟することや予測することが可能な、秩序だったプロセスの中で動いている」と思い込んでいる投資家はプロ、アマを問わず多い。これらの投資家は、物事につきまとうランダム性と、将来の成り行きに関する確率分布を無視している。このため、自分が予測するたった一つのシナリオに基づいて行動する道を選ぶ。それでうまくいくこともあるが(その投資家は称賛されるだろう)、長期的な成功をもたらすほどの一貫した成果はあげられない。注目すべきは、経済予測でも投資戦略でも、その時々でみごとに的中させる者が必ずいるが、同じ人物が2回ということはまれだ。最も成功している投資家とは、大半の場合に「だいたい当たっている」者であり、それが他の投資家よりもはるかにすぐれた点なのだ。(p.310)


確率の話題は、本ブログで何度か取り上げています。たとえば、チャーリー・マンガーが勧めているやりかたは、将来のシナリオを描く際に順列・組み合わせを使うといったものです(過去記事)。

2012年12月8日土曜日

絶対に負けないはずだった(ハワード・マークス)

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ファンド・マネージャーのハワード・マークスを過去記事「投資の世界で生き残る公式」でとりあげましたが、コメント欄でisさんが彼の著作が翻訳されていることを教えてくださいました。その『投資で一番大切な20の教え』を読了しました。書かれている内容はオーソドックスですんなりと受けとめられるものばかりですが、重要なのは、投資業界の生存競争に生き残り、現時点で預かり資産800億ドル(日本円で6兆円超)の実績をあげている彼によって書かれたことでしょう。

今回ご紹介するのは、「リスク」を話題にした章であげられた逸話のひとつです。

「最悪の場合の」予測という言葉を何かと耳にするが、実際に起きた状況はそれよりもっと悪かったということがしばしばある。父からよく聞いた話を紹介しよう。いつも負けてばかりのギャンブラーがいた。ある日、馬が一頭しか出場しない競馬のことを知り、借金をつぎ込んでその馬に賭けた。しかし、馬はコースを半周したところでフェンスを越えて逃げてしまった。(p.88)

2012年12月6日木曜日

ソーセージ・マクバフェット(ウォーレン・バフェット)

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バークシャー・ハサウェイが買収した新聞社のサイトOmaha.comに、ウォーレン・バフェットの「食」に関する話題がでていました。ときにウォーレンは、ソーセージ・ビスケットを2つ買い、中身のパティを重ねて、ひとつにまとめて食べるとのこと。名付けて「ソーセージ・マクバフェット」(Sausage McBuffett)だそうです。

A traveling Buffett talks taxes, elephants - and less weighty topics (Omaha.com)

もうひとつ、こちらはまじめな話題です。買収候補として求める巨大企業のことを、ウォーレンは"elephant"と喩えています。市場価値が2000億ドル超[1兆6千億円]の企業が該当するようですが、これに関する一節を引用します。(日本語は拙訳)

「その規模の会社でしたら、全部わかります」、バフェットは司会のチャーリー・ローズに答えた。「つまり、すべての象を見張っているということです」。さらにバフェットはこう言った。もしCEOが会社を売りたいと連絡してきたら「5秒か10秒で」返答できます、と。

"I'm familiar with all the companies when you get to that size," Buffett told Rose. "I mean, I've seen all the elephants." If a CEO calls and says a company is for sale, Buffett said, he can make an offer in "five or 10 seconds."

過去記事「10秒ください」の発言と整合していますね。ところで、ソーセージ・ビスケットなる食べ物のことを初めて知りました。

2012年12月5日水曜日

若者の車離れはどうなるのか(GMO)

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ジェレミー・グランサムのGMOで、日本の情勢や日本株の見通しを概説したホワイト・ペーパーが公表されていました。このところグランサムは日本株を推していましたが、この文章でも日本企業の見通しは前向きです。

今回はそのなかで登場した日本の「若者の車離れ」について、一節を引用します。(日本語は拙訳)

Japan: After the Quake, After the Floods (GMO)

いくつかのデータによれば、若年層で自家用車の保有率が低下している原因として、低調な所得の伸び率(車を購入できない)、好ましからざる世帯構成(同居している親の車を借りる)、都市化の進展(駐車場不足)などが示されている。このことから、問題なのは車に対する興味ではなく、所得不足によるものであり、景気が上向いて若年層にも所帯を持つのに十分な蓄えができ、郊外へ転居するようになれば、この問題は解決するかもしれない。(p.4)

Some data hint at this, but any weakness in car ownership among younger people may also reflect factors such as weak income growth (cannot buy a car), weak household formation (living at the parents’ house and borrowing the parents’ car), and increased urbanization (no place to park a car). Rather than a lack of enthusiasm for cars, the problem may be a lack of income, solved once the economy picks up and the young have enough money to get married and move to the suburbs.


個人的には、少し楽観的かなという印象を受けました。たとえば、祖父母や両親からの生前贈与で自家用車を購入すると全額が所得控除される、というように税制が変更されれば、少しは消費動向が変わるかもしれませんね。すみません、ただの妄想です。

なお、総務省の「平成21年全国消費実態調査」と平成11年の同調査を比較したところ、たしかに30歳未満や30-39歳の世帯では、単身者および二人以上世帯のいずれも保有率は減少しています。