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2012年9月3日月曜日

ワシントンDCを水没させるには

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少し前の投稿で南極の氷の話題を取り上げましたが(過去記事)、最近読んだ本『2050年の世界地図―迫りくるニュー・ノースの時代』では地球温暖化による「氷の崩壊」のほうを取り上げていたのでご紹介します。

非常に懸念されるのは、西南極氷床の崩壊だ。この広大な一帯は海にせり出す氷のミニチュア大陸のようで、大部分は海面の下にある岩盤まで凍っている。この氷床が崩壊すれば、非常に多くの南極の氷河が海へ向かって進みはじめ、最後には世界の平均海面をおよそ5メートル上昇させる。過去にも同じことが起きたという地質学的証拠があり、再び起きるとしたら、とくにアメリカは打撃を受けるだろう。さまざまな理由で、世界の平均海面の上昇は、どの海域でも同じように上昇するわけではない--平均より上昇するところと、平均を下回るところが出てくる。そうした氷床の崩壊は、メキシコ湾岸と東海岸を平均以上に浸水させ、マイアミ、ワシントンDC、ニューオリンズ、およびメキシコ湾岸の大半を水没させるだろう。気候の魔物という話になると、西南極氷床はその魔物が潜む醜いランプだ。(p.307)


本書では地球温暖化によって変わりゆく北方諸国の将来をテーマとしていますが、話題が多岐にわたっていて、人口問題、資源・エネルギー問題、水問題、少数民族問題なども取り上げられています。なお、この手の本をたびたび読む理由は、食糧関連の投資先をみつけたいという思いもあるからです。ジェレミー・グランサム(過去記事)やジム・ロジャーズといった投資家の影響を受けています。

2012年7月27日金曜日

(問題)逆向きに考えると簡単に解けます

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Yahoo Japanで紹介されていた頭の体操クイズ、よくあるマッチ棒のならびかえ問題です。はじめは直感的に解いてみようとしたものの、どうもうまくいきません。そこで、やっかいな問題を解く秘訣「逆向きに考える」をやってみました。自分で感心してもしょうがないのですが、あっさり解けました。引用元のサイトでは回答も載っていますので、ぜひ逆から解いてみてはいかがでしょうか。

【頭の体操クイズ】マッチ棒を2本動かして、5つの正方形を4つにして下さい


ミッションはいたってシンプル。上の画像に写し出されたマッチ棒16本のうち、2本だけを動かして、5つの正方形を4つの正方形にしてほしい。

ここで守って頂きたいルールは、4つの正方形は「すべて同じ大きさ」でなければならないということ。ひとつの正方形だけ大きかったり、小さかったりしてはダメ。4つの正方形すべてが、同じ大きさでなければならない。またこの他にも、次のルールを守って頂きたい。

1.マッチ棒を重ねてはダメ
2.マッチ棒はすべて正方形の一辺として使わなければならない

「逆向きに考える」ことについては、本ブログでたびたびとりあげています(過去記事の例: チャーリー・マンガーの名言「逆だ、いつでも逆からやるんだ」ダーウィンの「逆ひねり」)。

2012年7月9日月曜日

(答え)イノベーションで事業の限界をのりこえる例

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今回は、前回とりあげた問題「石油産業が限界をこえるために、ITをどのように活用したのか」の回答になります。『探求―エネルギーの世紀』の引用です。

第一の発達は、マイクロプロセッサの急速な進歩が膨大なデータの分析を可能にしたことで、地球物理学者は地下構造の解析を大幅に改善させることができ、探鉱の成功率が向上したことだ。コンピュータの性能が高まると地震探査による地下構造ー層、断層線、キャップロック、トラップーの測量を、二次元ではなく三次元で行なえるようになった。三次元の地下構造測量によって、失敗がなくなるわけではないが、地下資源探査技師たちは深い地中の地質についてずっとよく理解できるようになった。

第二の発達は、水平掘削の到来だった。従来の油井は垂直に掘削していたが、数千メートル垂直に掘ってから、角度をつけ、場合によっては真横に掘ることもできるようになった。精密に制御し、数メートルごとに高性能の機器で計測しながら掘削する。これにより、原油を採掘しやすくなり、したがって生産量も増えた。

第三の大躍進は、ソフトウェアとコンピュータによる可視化の発達だった。石油産業で応用されたこのCAD/CAM(コンピュータ支援設計・コンピュータ支援製造)テクノロジーは、建設費10億ドルの海上油田の細部に至るまでコンピュータの画面上で設計できるようにした。さらに、最初の鋼板の溶接がはじめられる前から、その施設の弾性や効率をさまざまな角度から検証することができるようになった。

1990年代にはいると、情報・通信テクノロジーが普及し、通信コストが画期的に安くなったため、地球物理学者たちは世界各地にいながらにして、仮想チームとして作業することができた。ある場所におけるある分野の経験や知識が、他の場所で同様の問題を解こうとしているものたちに、瞬時に教えられる。そんなわけで、当時、ある企業のCEOはいささか誇張をこめて、科学者とエンジニアは「学習を重ねなくても、経験が蓄積される」と表現している。

こうしたさまざまなテクノロジーの進歩により、企業はすこし前までは達成できなかった物事ーたとえば、あらたな有望鉱区を見つける、以前なら開発できなかったような油田に取り組む、より複雑なプロジェクトに着手する、石油採掘量を増やす、まったく新しい油田を切り拓くといったことーができるようになった。(上巻 p.26)

今回の例ではテクノロジーがビジネスの限界を広げていますが、それぞれの企業や業界によって、いろいろな限界の乗り越え方があるかと思います。一株式投資家としては、各企業のとりくみに耳を傾け、進捗を見守ると同時に、事業の持つ可能性を自分なりに見定めた上で、投資候補の企業をトレードオフする必要があると思います。「事業の持つ可能性」は経営者の手腕によるところもありますが、気になっている企業の経営動向を適宜確認していると温度差はさまざまで、おもしろいものです。

ところで、上の引用にあった「学習を重ねなくても、経験が蓄積される」は、失敗事例にもうまく当てはまっているものなのか、気になるところではあります。

2012年7月7日土曜日

(問題)イノベーションで事業の限界をのりこえる例

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投資候補の企業価値をおしはかる際には、事業の将来性を見極めようとするものです。そのとき、マーケットの大きさや価格競争、ライフサイクルなどを考えると、一事業や一製品群からの売上や収益はいずれ限界にぶつかると想定するのは、妥当な見方と思います。限界という観点でみると一見わかりやすいのが資源系の企業です。原油や天然ガスのような地下資源を扱う川上の企業となれば、限りある可採埋蔵量が企業価値に直結しています。

一方でそういった限界をのりこえる人たちは、ねばりづよい工夫をみせてくれます。彼らの努力は投資家による評価をのりこえ、新たな価値を拓きます。今回ご紹介するのは以前にもとりあげた『探求―エネルギーの世紀』からで、石油産業がITを活用して果たしたイノベーションの一例です。

石油産業の歴史を通じて、テクノロジーの発達はこれが限度で、業界の”道路の突き当たり”が見えてくるという説が、しじゅう口にされてきた。すると新しいテクノロジーが現われて、能力を飛躍的に拡大させる。その図式が何度もくりかえされてきた。(上巻 p.26)

この文につづいて、どのような取り組みやイノベーションによって限界を超えたのか、具体的に説明されています。答えのほうは次回にご紹介しますので、どんな手が打たれたのか、お考えになってみてください。本書では3つの事例が挙げられていますが、次のようなことをねらって実行されています。

1. 埋蔵資源を掘り当てる確率を高める(開発成功率の向上)
2. 掘削時の取りこぼしをへらす(採収率の向上)
3. 設備投資や保守コストをさげる(損益分岐点の改善)

2012年6月2日土曜日

「ベンチャーキャピタル」の名前の由来

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読んでいる本『探求―エネルギーの世紀』で、「ベンチャーキャピタル」という名称が生まれた経緯が書かれていたのでご紹介します。

現代のベンチャーキャピタルに似通ったものは、第二次世界大戦直前に出現した。J.H.ホイットニー&カンパニーという独創的な会社の運用資産には、オレンジジュースの<ミニッツメイド>、テクニカラー社、映画『風と共に去りぬ』への出資などが含まれていた。言い伝えによれば、J.H.ホイットニーのパートナーが、この新型投資の最初の名称を考えたというー"プライベート・アドベンチャー・キャピタル"というものだった。しかし、響きがよくなかった。リスクが極端に大きく、無謀であるかのように思えた。責任ある受託者が、思慮深く管理するよう任されたカネを使って、"冒険"に乗り出すわけがない。そこで、それを縮めて、単純かつ廉直な"ベンチャーキャピタル"という名称に変えた。(下巻 p.225)


はずかしながら、わたしが投資している企業の1社が「アドベンチャー」状態です。何年間も成果が実っておらず、果実が得られるには今後も数年間は待つ必要があります。しかも成功する保証はありません。ウォーレン・バフェットならば、絶対に近寄らない投資先です。いずれは、わたしの失敗投資の事例としてご紹介するつもりです。

2012年5月27日日曜日

習慣を変えると連鎖反応がうまれる

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雑誌The Economist 2012/4/7号の書評で興味深いものがありましたので、一部をご紹介します。本の題名は『The Power of Habit』、習慣がもたらす影響力を取り上げたものです。(日本語は拙訳)

第二編では組織の話題が取り上げられている。著者のダヒッグ氏は、かなめとなる習慣をいくつか変えたことによって、経営陣が会社全体を変革できた例を紹介している。アルミ最大手のアルコアでは、ポール・オニールがゼロ災害を徹底させたことから始まり、同社を変革した。またスターバックスのハワード・シュルツは従業員に対して顧客サービスに注力するようにしむけたことで、同社は喫茶店業界の巨人となった。このように、かなめとなる習慣を変えると連鎖反応がうまれ、新たな習慣が組織全体へ波及するのみならず、他の習慣をも変えていくのである。

The second part of the book concentrates on organisations. Mr Duhigg shows how managers can change entire firms by changing a handful of “keystone habits”. Paul O’Neill transformed Alcoa, an aluminium giant, by aiming to establish a perfect safety record. Howard Schultz turned Starbucks into a coffee superpower by focusing his employees on customer service. Changing these “keystone habits” creates a chain reaction, with the new habits rippling through the organisation and changing other habits as they go.

成功している企業をみると、クセが強く感じられるところもあります。たとえば、ファナック、キーエンス、京セラといった企業はわかりやすいですね。しかし、そのクセはまぎれもなく企業文化にしみこみ、さまざまな習慣を生み出していることでしょう。そしてクセが強いほど他社は模倣しにくく、競争優位の源泉にもなっているのかもしれません(過去記事)。

「強いクセは、すなわちニッチである」と捉えれば、その企業が生き残るのかどうかを判断する材料にも使えそうです。

*

前回記事であげた問題の回答は「厚生労働省が推定に用いた数量はドッグフードの消費量であった」でした。引用元の本は『いかにして問題をとくか・実践活用編』です(p.82)。そういえば、我が家で猫を飼っていた頃にはペットショップにせっせと通い、サイエンス・ダイエットを買い求めていました。

2012年5月21日月曜日

安くなくても、まあいいでしょう(マイケル・ポーター)

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企業戦略を分析する上でマイケル・ポーターの「5つの競争要因」は使いやすいフレームワークです。投資先の弱点探しをする際には、わたしも頻繁に使っています。詳しい説明がなされている同氏の著書『競争の戦略』は企業戦略の定番教科書ですが、投資家にとっても役立つものです。先日取り上げた『企業戦略論 競争優位の構築と持続』でも、大きく取り上げられていました。

要約すると5つの競争要因とは、企業の生き残りを考える際には次の5つの観点で考えるとよい、というものです。
  1. 既存企業同士の競争
  2. 新規参入者の脅威
  3. サプライヤーの交渉力
  4. 買い手の交渉力
  5. 代替品や代替サービスの脅威
少し前のDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー誌を読んでいて、同書の入門的な記事がありましたので、ご紹介します。2011年6月号に掲載されているポーター自身の論文「[改訂]競争の戦略」です。今回はその文章から「買い手の価格感度」の話題を引用します。

まずは、企業が高い収益性を保つ要因のいくつかについて。
先端技術やイノベーションは、それだけで業界構造を魅力的(または魅力に乏しいもの)にするわけではない。ありふれたローテク業界でも、買い手の価格感度が低い、スイッチング・コストが高い、あるいは規模の経済のために参入障壁が高い場合には、ソフトウェア業界やインターネット業界などライバルたちを呼び寄せる魅力度の高い業界よりも、よほど収益性が高い。(p.47)

スイッチング・コストや規模の経済は、以前に本ブログでも軽く取り上げています(過去記事1過去記事2)。もうひとつ、「買い手の価格感度が低い」という表現が登場していますが、これは買う側のほうが、うるさく値下げを迫らなかったり、そのままの値段で買ってくれたり、さらには値上げを容認してくれるといった意味ですね。ありがたいお客さまです。以下では、その具体的な傾向を説明しています。
製品が買い手の原価構造や支出において取るに足らない程度であれば、一般的に買い手の価格感度は低くなる。

儲かっており、現金も潤沢な買い手は、一般的に価格感度が低い。

調達する製品しだいで品質に大きな影響を生じる場合、買い手は通常あまり価格にこだわらない。たとえば、大手映画制作会社が撮影用の高品質カメラを購入またはレンタルする場合、価格は気にせず、最新機能付きで信頼性の高いものを選ぶ。

その業界の製品やサービスが、パフォーマンスの向上あるいは人件費や原材料費などのコスト削減によって、通常の何倍も儲かる場合には、買い手はたいてい価格よりも品質に関心があるといえる。たとえば投資銀行業務など、パフォーマンスが低いとコスト高や面倒な事態を招きかねないサービスには、価格にこだわらない傾向がある。(p.42)

個人的には、価格感度の低さは投資候補企業のMoat(経済的堀)をはかる上で重要視している要因です。この要因は、スイッチング・コストやチャーリー・マンガー言うところの心理学的な傾向と合わさることによって、相乗効果を発揮するものと捉えています。

2012年5月18日金曜日

御社の強みはなんですか

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前々回は『企業戦略論 競争優位の構築と持続』から「製品差別化」の源泉の話題を取り上げましたが、今回はそれより上位概念の「競争優位」の源泉について引用します。

1つの戦略を実行するコストを相対的に理解しようとする際、一般に企業は2つの誤りを犯す可能性がある。1つは、自社のコントロールする経営資源の独自性を過大評価してしまうことである。たしかに個々の企業の歴史はすべて独自のものであり、まったく同じマネジメント・チームは2つとして存在しない。だが、これをもってその企業の保有する経営資源やケイパビリティが稀少であるとはならない。似たような業界で似たような歴史を経験してきている企業は、多くの場合同じようなものを醸成してきているものだ。もしも企業が自社の経営資源やケイパビリティの稀少性を過大評価してしまうと、その企業は自社の競争優位を獲得する能力も過大評価してしまうことになる。

たとえば、自社の競争優位の最も重要な源泉は何かと問われて、多くの企業は、そのトップ経営陣の質の高さ、保有する技術の質の高さ、そして自社の企業活動のすべてにわたって最高を追求するコミットメントの強さなどを列挙するだろう。だが、それらの企業が今度は競合他社のほうはどうか、と聞かれれば、競合も同じように質の高いマネジメント・チームや、質の高い技術や、最高を求めるコミットメントを持っていると認めるだろう。つまり、これら3つの属性は競争均衡の源泉とはなり得ても、競争優位の源泉とはなり得ないのである。(上巻 p.284)

決算説明会などの資料で自社の強みを謳っているのを読むことがありますが、個人的には「なるほど、そういうものなのか」と鵜呑みにしがちです。あれは営業トークのようなもの、と冷静に捉えるべきなのですね。本当のところは何が強みなのか、それは長持ちするだろうか、といった疑問をいだき、客観的に自答できるよう訓練していきたいものです。

2012年5月15日火曜日

製品差別化戦略と模倣コスト

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少し古い本ですが『企業戦略論 競争優位の構築と持続』(3分冊)を読んでいます。邦訳では副題にまわっていますが、原書のほうのタイトルは『Gaining and Sustaining Competitive Advantage』と投資家好みの直球です。また原書は第4版まで改訂されていますが、かなりいい値段がついています。

さて、今回は中巻から「製品差別化」について引用します。

まずは、製品やサービスを差別化する利点と注意点です。
製品差別化戦略を実行することにより、企業は自社の製品やサービスに対し、平均総コストを上回る価格を付与でき、それによって経済価値を生み出すことができる。製品の差別化に成功した企業は、外部環境のさまざまな脅威を減らし、かつ外部環境に存在する機会を活用することができる。しかし、ある戦略がその企業に単に経済価値をもたらすのみならず、持続的競争優位を生じさせるには、その戦略が稀少で模倣コストの大きな内部組織上の強みと弱みに裏打ちされていなければならない。
(p.138)

次に、製品やサービスを差別化する代表例です。他社がそれらを模倣しようとするときの難易度を3つの観点で評価しています。(*マークが多いほど、模倣コストが高くなる傾向)。

#製品差別化の源泉歴史的経路依存性因果関係不明性社会的複雑性
1製品の特徴や機能---
2製品の品揃え***
3他企業との連携*-**
4製品のカスタマイゼーション*-**
5製品の複雑性*-*
6消費者マーケティング-**-
7機能横断的なリンケージ****
8タイミング****-
9ロケーション***--
10評判********
11流通チャネル*****
12アフターサービスとサポート****

3つの観点の説明は、次のとおりです。
  • 歴史的経路依存性
    企業がたどってきた歴史的経緯に独自のものがあり、模倣コストに影響すること。
  • 因果関係不明性
    因果関係はよくわからないが、競争優位に関係すること。
  • 社会的複雑性
    企業がシステマチックに管理したりコントロールしたりする能力の限界を超えているようなこと。たとえば、企業内におけるマネジャーたちの相互コミュニケーション能力、企業文化、サプライヤーや顧客の間での自社の評判などである。

模倣コストが高くつくと評価されているものの中に、8.タイミングと10.評判が含まれているのが興味ぶかいです。「タイミング」は先行者有利の好例ですし、一方の「評判」は時間をかけて築くものです。大成功している企業を思い浮かべると、そのどちらも兼ね備えているように思えてきます。

2012年4月24日火曜日

ブラジルが一緒に詰めて輸出しているもの

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前回記事に続いて『食の終焉』からの引用の最終回です。今回は農業や畜産業で成長著しいブラジルについてです。

農家がいまだに分厚い表土の恩恵を受けているアメリカ中西部や黒海地方とは違い、南米の森林地帯の多くは表土が薄く、有機物の少ない強酸性の土壌であるため、開墾され作付けが行われても、ほかの地域で行われてきたような集約的農業に十分に耐えられない。そのような土地では、有機物の消失が急速に進み、それによって収穫量が徐々に落ち込み、表土流出の危険性が高まると、農家はその土地を放棄して新しい土地に移るしかないが、そのためにまた新たな森林伐採が必要となる。言ってみれば、ブラジルは輸出する大豆の袋や冷凍鶏肉の箱の中に、安い労働力やすでに逼迫している水資源や土資源を一緒に詰めて輸出しているようなものなのだ。

育種の専門家で、中南米で調査を行ったジョージア大学のチャールズ・ブラマー(Charles Brummer)教授は言う。「ブラジルが次の100年も作付け面積を増やせると考えるのは馬鹿げている。彼らは沼地を干拓したり、森林の伐採をさらに進めたりすることはできるだろう。しかし、それはすでに彼らが、延命措置によって生きていることを意味している」(p.399)

ブラジルはこれからの経済成長が期待されている大国として明るい面ばかりみていましたが、それなりの影がかくれているのですね。

2012年4月22日日曜日

スナック菓子が食事を占める割合

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前回の記事に続いて『食の終焉』からの引用です。今回は食品メーカーのマーケティングやR&Dについてです。

まずはブランドについて。
ほとんどの加工食品において(ついでに言えば、ほとんどあらゆる消費者製品についてもこれはいえる)、消費者は首位のブランドをあたかもそれがより高い価値を持つ製品であるかのように扱い、その価値を手に入れるためであれば、消費者は喜んで割高の代金を支払ってくれる。具体的には、消費者は売上トップのブランドには2位のブランドよりも最大4パーセントまでの割高な代金を、3位のブランドよりも7パーセント余分な代金を支払う意思がある。その3つの製品が本質的に同一のものであったとしてもだ。(p.97)

次は嗜好に関する研究結果です。
ネスレ、クラフト、ハインツなどの会社は、味と嗜好の謎をデータ化することに成功した。それだけでなく、私たちが何を好んで食べるか、そしてそれをなぜ好むのか、その理由まで、私たち自身が認識している以上に、彼らは私たちのことをよく理解している。彼らは塩味やカリカリ感への嗜好性が性別、年齢、民族性、国民性によってどう変わるかも、正確に把握している。年長者は味蕾の衰えもあって濃い味を好み、アジア人は塩気のあるパリッとしたスナックに目がなく、アメリカ人は新しい味に夢中になりやすいが、マカロニやミートローフのような「郷愁を感じさせる味」にも弱く、これまで慣れ親しんだ味からそう簡単には離れられないことも、彼らはすべてお見通しなのだ。(p.102)

「慣れ親しんだ味からそう簡単には離れられない」理由を、ネスレ社のあるマネージャーは次のように説明しています。
「人間はこと食べ物のことになると、昔からとても保守的にできています。かつて狩猟採集民だった頃から、何か急な味の変化を感じ取ったとき、それを何かの警告として受け取る習性が身に付いているからです」
(p.84)

最後は、スナック菓子のマーケット調査結果です。
世界中の食品販売を分析しているイギリスのデータモニター(Datamonitor)社は、平均的なアメリカ人は3日に1回は朝食を抜いていて、さらに昼食と夕食を抜く回数も増え始めていると分析している。このような傾向は消費者の健康には恐ろしく悪いことだが、食品会社にとってみればまた新たなチャンスの訪れを意味している。消費者が日常の食事の回数を減らせば、それを補完するために、利益率の高い食物カテゴリーであるスナック菓子を多く食べるようになるからだ。データモニター社によると、現在アメリカでは、スナック菓子がすべての食事の約半分を占めるまでになっているという。(p.105)

2012年4月21日土曜日

インスタントコーヒーのあけぼの

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投資に役立つヒントを求めて、マクロな視点の本も少しずつ読んできました。水資源、食糧、省資源、気候、地球温暖化、大企業の社会的問題といったものです。最近読んだ本『食の終焉』はこれらの話題を包含するような力作です。本書の主題は、ビジネスに取り込まれてしまった「食」を様々な観点からとらえ、警鐘をならすことにあります。情報量が多い本は消化不良でおわったり、主旨がふらつくことがありますが、本書にはあてはまりません。著者はひとつひとつの話題をそれなりに掘り下げ、互いをつなぎあわせ、自らの主張を織り込み、読みごたえのある文書をつくりあげています。邦訳のほうも、幅広い分野にわたる原文に追いつくだけでなく、なめらかな日本語へと置き換えています。ビジネスや世界情勢を理解するのに役立つ知識はもちろん、社会や我々の中にある闇をみつめるきっかけも得られるでしょう。個人的には、今年読んだ中でベスト3に入れたい本です(これから読む本も含めて)。

同書の中から印象に残った文章をいくつかご紹介します。今回はインスタントコーヒー商業化のいきさつについてです。

もちろん、消費者の時間不足だけが食品メーカーをインスタントコーヒーなどのお手軽食品の開発に駆り立てたわけではない。そもそも、ネスレがインスタントコーヒーを考案したのは、消費者が手軽に入れられるコーヒーを望んでいたからではなく、コーヒー豆の価格が生の状態で売るには安くなり過ぎたからだった。1930年代、ブラジルのコーヒー農園はアメリカの穀物農場のように非常に広大になったため生産効率が高くなり、コーヒー豆の市場はだぶついていた。コーヒー相場は大幅に下落し、ブラジル人はコーヒー豆を機関車の燃料として燃やすほど持て余していた。困ったコーヒー産業の関係者たちは、需要喚起を願って、もっと消費者に手軽なコーヒー製品を開発するようネスレに懇願した。コーヒーの加工は初めてだったが(当時ネスレは主に牛乳を扱う会社だった)、その時のネスレの幹部らの推測は正しかった。余った豆をもっと手軽に使えるような形に変えることができれば、消費者はより多くのコーヒーを飲むだけでなく、喜んで生の豆の相場よりも高い金額を支払うだろうと考えたのだ。

このように未加工の農産物を加工して利益をもたらすような製品に変換することを「付加価値」と呼ぶが、この程度のことは今日、あらゆる商品を対象に当たり前のように行われているため、それが食品加工産業の成功とその特性に、どれほど中心的な役割を果たしてきたかをついつい見逃しがちである。穀物相場の下落は農場主の首を絞めていたかもしれないが、安い穀物をコーンフレークやキンダーミールに変えることで加工費を原材料費に上乗せして受け取っていたケロッグやネスレなどの加工業者には、逆の効果があった。確かに千年以上前から職人たちは穀物や牛乳、肉に付加価値を付けてきた。ワインから発酵という付加価値をなくせばただのブドウである。しかし大量生産と市場出荷という新しい手段のおかげで、付加価値は、未加工農産物の生産者が手に入れられなかった潜在的利益を食品会社にもたらした。(p.92)

2012年3月14日水曜日

ブラック・マンデー前夜(ウォーレン・バフェット)

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1987年の株価大暴落は10月19日ブラック・マンデーで有名です。1日の下落率が22%、日経平均10,000円の感覚では7,800円まで下がることになります。ウォーレン・バフェットにとっては重要な年で、この下落がコカ・コーラ社に投資するきっかけとなりました。今回は、ウォーレンの「株主へのみなさんへ」から数字を拾い、ブラック・マンデー前のバークシャー・ハサウェイの動きをまとめてみました。

まずは市場の動きとして、ダウ工業平均のチャートを載せました。暴落前の2年間は株価が大きく上昇し、ざっと2倍になっています。








一方のウォーレンです。「1987年の春には主要銘柄を残して他の株式は処分した」とどこかで読んだ記憶があり、そのときには「身を引くのが上手だな」と感じていたのですが、今回調べてみると若干事情が異なりました。どうやらウォーレンが1987年に売却した普通株はそれほどではなく、大半は手つかずのままだったようです。「永久保有銘柄」と宣言して保有し続けたABC、GEICO、ワシントン・ポストが、株式ポートフォリオの大半を占めていたからです。一方、その他の企業は前年の1986年までにはあらかた処分し、保有比率が小さくなっていました。








この傾向から得た、個人的な教訓は次の3つです。

1.真に価値ある企業を見つけ、機会を見て集中投資する。
2.株価が大きく上昇すれば、継続保有に値しない企業の株式は処分する。
3.機会の高まりとともに、それなりの余裕資金を準備する。

日本市場はまだ息を吹き返したばかりです。この観察が何かの役に立つのは、ずいぶん先になりそうです。

なお、上の図には挙げていませんが、優先株としては1987年に「問題児」ソロモン・ブラザーズに7億ドルを投資しています。

2012年3月6日火曜日

企業の目的とは何か

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前にご紹介した赤門マネジメント・レビューの論文長期存続ものづくり‘中企業’の群発(岸本 太一)を読んでいて目にとまった文章をご紹介します。この論考の筆者は中小企業の製造業経営者と接する中で、彼らが抱いている「企業の目的」とは何か、を肌身に感じています。よく言われることではありますが、研究者によるフィールドワークの成果ゆえ、生の声が感じられます。

ペンローズや既存の戦略論の学者は「利潤の最大化」を企業の目的と仮定して、理論の構築を行なっている。しかし、私が現場で見た国内ものづくり‘中企業’の目的は、どうもそれだけではない。「従業員(家族) の雇用の確保」および「企業(家業) の存続」といった目的も強く存在するように見受けられた。特に‘中の小’企業では、「利潤最大化」よりこれらの目的を優先していることを感じさせるコメントに、数多く遭遇した。また、「長期存続と成長がトレードオフとなる状況に、これまで何度も直面してきた」という話も何度も伺った。そのひとつが、第2 節で紹介した豊田周辺地域に所在する自動車2次サプライヤーにおける海外展開と国内開発能力維持のトレードオフの話であった。やはり、(日本製造業の)‘中企業’と大企業は同じ企業という生き物でも、種がやや異なるのであろう。 (PDFファイルのp.37)

中小企業では資本と経営が一体となっていることが多いので、自分たちのニッチを見つけてそこで暮らすことができれば、どれだけ成長を望むかは経営者すなわち資本家次第です。長く存続してきた中小企業は大きくは成長できなかったかもしれませんが、生き残ってきたという実績があります。あるいは成長したいという誘惑よりも、もっと充実したものをみつけたのかもしれません。

株式を公開したり資本参加を募った企業は、一転して投資家から冷徹な扱いを受けます。うまくいけば喝采が、そうでなければ非難が待っています。投資家と経営者の距離が離れるだけで、二者の関係は大きく変わるものです。「信用」という言葉は、実に重い意味を持っていますね。

競争に明けくれ、利益があがらず、行き先に迷っている大企業はいったいどこへ行けばよいのでしょう。その答えは、上にもあげた「ニッチ」という言葉にあると思います。つまり、人とは違う自分の居場所を探す、それに尽きるのではないでしょうか。

2012年3月2日金曜日

こわくて眠れなかったんだよ(ジョリー・オルソン51歳)

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アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルの記事Investors' Sell Signal: Surging U.S. Stocksで、株式投資信託の資金状況の記事がありました。最近の相場の上昇とは反対に、個人投資家は解約傾向が続いているとしています。以下の右図でピンク色の棒がマイナス側にでており、ファンドからの資金流出を示しています。

(出典:The Wall Street Journal)









記事中のインタビューに応じている人は、株式を売って債券を買っているとのことです。51歳になるエンジニアの彼は、こうも話しています。(日本語は拙訳)

「2009年の春に、どんなにひどい思いをしてたか、思い出すようにしてるんだ」、彼は危機当時の安値に言及した。
「こわくて眠れなかったんだよ。今は状況が逆になっているけど、上がったのと同じように下がるのも速いんじゃないの」

"I remind myself of how bad it felt in March 2009," he said, referring to the crisis-era low. "I just didn't sleep because it was horrible. Now, we're on the other side of that swing and this could just as easily go down as it could go up."

上記の記事にならって、日本の状況がどうなっているか、グラフにしてみました。原資料は投資信託協会がとりまとめている公募投資信託の資産増減状況(実額)になります。








赤線が株式投資信託への資金の純流入出額を示しています。アメリカと違って、日本で大きく流出超になった時期は、2008年10月と、この2011年10月以降です。2011年4月にもそうでしたが、大震災直後のためと思われます。短期的な変動はともかく、こうして長期間の傾向をみると2006年から2007年にかけた活況ぶりがよくわかりますね。

2012年2月7日火曜日

専門家の予測能力は高いのか?

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今回も「競争優位で勝つ統計学---わずかな差を大きな勝利に変える方法」からの引用です。専門家の意思決定の質に関する孫引きになります。

専門家の直感が未来を予測する力については、これまで多くの研究がなされてきた。その結果は、専門家の直感に大きな信頼を寄せる人々にとっては少しばかり期待はずれなものだ。カリフォルニア大学バークレー校組織行動学教授だったフィリップ・テトロックは著書『専門家の政治判断、その真価を問う』で、専門家は一般的に思われているほど予測能力が高いわけではないと示唆している。彼は、専門家は自己の見解を述べたりプレゼンテーションをする方法には長けているが、それはどちらかというと表面的な要素にすぎず、客観的に見ると意思決定の質の面では往々にして物足りないと述べる。多くの場合その原因は、過剰な自信から目の前の問題に対する十分な検討を怠っていることにある。つまり、データを軽視し、綿密な調査よりも似たような場面での経験に依存する傾向にあるというのだ。

これが本章の教訓だ。優れた意思決定の根底には、例外なく何らかのデータと、特定の状況についての綿密な調査結果が存在する。その工程はスプレッドシートやコンピューターの分析結果としては残らないかもしれないが、あくまでも科学であって技ではない。(p.272)


この一文は専門家の持つ知見やテクニックを疑うものではなく、人間の脳に潜む落とし穴を指摘したものと捉えられます。特定の分野に特化するほど接する情報が見慣れたものになり、意思決定が短絡になる。チャーリー・マンガーが言うところの「疑念を払う傾向」の一面であり、また「自意識過剰の傾向(Excessive Self-Regard Tendency)」でもあります。ファインマンのやりかたも思い出されます。

2012年2月6日月曜日

(答え)戦闘機の防御性能を高めるには; 選択バイアスについて

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まずは、前回とりあげた問題の回答です。

調査の対象は戦闘から帰還した機体に限られているので、攻撃を受けた戦闘機の一部しか見ていないのだ。さらに重大な問題は、実は調査されていない戦闘機の方が重要なサンプルだということだ。補強が必要な箇所を特定するには、基地に戻れないほど致命的な損傷を受けた戦闘機を調査しなければならない。

これは選択バイアスの典型的な例だ。一部のデータにのみ着目したことで誤った結論を導いている。 (p.76)


正解された方が多いと思いますが、いかがでしたでしょうか。このように文書にまとめて改まった形で問題が提起されると、人は冷静に解決できるように思います。どこかのスイッチが入ってモードが切りかわり、バイアスがかからないよう注意するのでしょうか。一方、自分だけなのかもしれませんが、実生活で短時間で判断を迫られる場合には、問題解決がずっと下手になります。あとになってじっくり考えるとアイデアがわくのに、その場では出てこない。チャーリー・マンガーのいう「人は速やかに疑念を払う」を地でいっています。

本書に戻りますと、著者のジェフリー・マーは、バイアスを起こさないためにデータ収集の指針を記しています。以下に引用します。

軍関係者が帰還した戦闘機だけでなくすべての戦闘機を調査していたなら、機体の補強すべき部分についてかなり異なった結論に至っただろう。確証バイアス[参考記事1,参考記事2]と選択バイアスの具体例は、過去のデータを漫然と眺めるだけではいけないことを教えてくれる。肝心なのは過去のすべてのデータに目を配ることだ。もちろん、データとして適切なサンプルを選び出すことも重要である。

では、データが適切であるという確信を得るにはどうすればよいか。一言で言えば、データを見るときは一部ではなく、必ず全体を見よということだ。

(中略)

それでは、データ収集においてよく見られる失敗を避けるため、いくつかのルールを設けよう。まずは、これまでに述べたバイアスを回避するにはどうすべきか。確証バイアスを回避するには、自説を裏付けるデータだけでなく、あらゆるデータを客観的に検討することが重要だ。選択バイアスを避けるには、包括的なデータを揃える必要がある。意識的であろうとなかろうと、抽出されるデータは母集団の一部を無視したものであってはならない。どちらのバイアスについても、原則は可能なかぎり多くのデータを検討することだ。

だが、ここで興味深い問題が生じる。データの重みは一律ではないということだ。データには、それ自体は客観的かつ包括的であるのに、将来を予測する力をほとんど持たないものもある。そして、将来を予測する力こそが私たちがデータに期待する最も重要な特徴だ。データは将来の予測に役立つものでなくてはならない。 (p.77)


ただし、いかによいデータがそろっていても解釈するのは人間ですから、データ収集プロセスだけではバイアスを完全には回避できないと思います。意思決定の際にもバイアス回避の仕組みが必要ですね。

(2012/2/26追記)コメント欄に、raccoon様よりマンガーの「まるごと抜粋」があります。そちらも、どうぞご覧になってください。


2012年2月5日日曜日

(問題)戦闘機の防御性能を高めるには

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今読んでいる本『競争優位で勝つ統計学---わずかな差を大きな勝利に変える方法』は、統計の知識を駆使してブラックジャックで大勝ちをおさめたMIT出身のジェフリー・マーによるものです。客観的なデータの重要性を説くだけでなく、人間が陥りやすい心理上のバイアスについても触れています。今回は、同書からバイアスの一例を引用します。ちょっとした問いですので、どこが誤っているのかお考えになってください。答えは次回にご紹介します。

[第二次世界大戦において]アメリカ軍が帰還した戦闘機の損傷を調査したところ、「機体の部位によって敵の攻撃を数多く受ける箇所とそうでない箇所がある」ことがわかった。そこで、機体の銃痕のパターンの分析結果をもとに、戦闘機の防御性能を高めるため、攻撃を受けやすい部分を補強した。

いかにも理にかなっているようだが、この分析には明らかな欠陥がある。(p.75)

2012年2月1日水曜日

自然災害リスクの王様、東京

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この報告書「Megacities ? Megarisks Trends and challenges for insurance and risk management」(2005年版)を知ったのは数年前のことでした。作成したのは、Munich Re.(ミュンヘン再保険)、巨大災害リスクを飯の種のひとつにしている会社です。少し前の資料なのでご存知の方も多いかもしれませんが、世界中の50の大都市における自然災害リスクが定量化され、掲載されています。東京(圏)はリスクの指標となる数値が710で最高値でした。これは次に大きいサンフランシスコ湾岸の167を大きく引き離し、「最も高くつく都市」となっています。

浜岡原発が稼動している限り、東海地震が心配されている東京が1位なのは当然だろうと捉えていました。むしろ「遠い国でも、ちゃんと日本のことを見ているんだな」と感じたものです。まあ、再保険屋なので当たり前ですね。昨年の大地震以降、浜岡原発での発電はとまっているため、東京のリスクは以前よりは小さくなっているでしょうが、再保険業界では別の観点も含めた上でリスクを再評価していることでしょう。

ところで、同報告書にあった写真(下のものです)が頭に残っていたので、今回は地震ではなく、富士山噴火リスクについてご紹介します。内閣府の富士山火山防災協議会が作成した富士山ハザードマップ検討委員会報告書から、想定される被害についてです。








7. 噴火の被害想定 (7.54MB / PDF)
・(鉄道) 車輪やレールの導電不良による障害や踏み切り障害等による輸送の混乱
・(航空) 空気中の火山灰による運行不能
・(電気・ガス) 交通の被害等による機能低下
・(水道) 水の濁りが浄水場の排水処理能力を上回り、給水量が減少
・(畑作物) 2cm以上の降灰がある範囲では1年間収穫が出来なくなる
・(稲作) 0.5mmの降灰がある範囲では1年間収穫が出来なくなる
・(健康) 目・鼻・咽・気管支の異常(最大1,250万人に影響。有珠山等の事例から、2cm以上の降灰がある範囲では、何らかの健康被害が出るとした)

雨が降った場合には、電気は「碍子からの漏電による停電(最大約100万世帯)」と被害が拡大(桜島の事例より1cm 以上の降灰がある範囲で停電が起こり、その被害率は18%とした)
降灰が想定される地域はこの資料にあります。









この手の被害予測は当てるのが難しいでしょうから、被害感の参考資料として捉えています。

また地震や火山噴火リスクはいつ起こるかわからないので、個人的には投資面で大がかりなヘッジはしていません。あえて挙げると、固定資産の再建にお金がかかりすぎる企業には近寄らないことと、大きな事件が起きて市場が暴落したときに買える資金をそれなりに残しておくこと、の2点です。

最後に、前にも挙げましたが富士山の近い会社ファナックの有価証券報告書から、同社のリスク認識です。
12 一極集中によるリスク
当社商品は資本財であり、研究所、工場を日本国内に集中させ、そこで開発、製造された製品を全世界に供給することにより、効率化を図っております。
地震、富士山噴火等の自然災害や、長時間にわたる停電などが発生した場合に、当社の開発、製造能力に対する影響を完全に防止または軽減できる保証はありません。また当社工場から各市場への納入途上において何らかのトラブルが発生した場合、物流コストの増加や納入遅延による売上の機会損失などが生じ得ます。(後略)

2012年1月7日土曜日

驚くほど突然に訪れる(水が世界を支配する)

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読んでいる本『水が世界を支配する』で示唆的な文章に目がとまったのでご紹介します。

歴史では何度も繰り返されてきたことだが、昔からの水工学に安住するだけの社会は、水問題に立ち向かって画期的な解決策を見つけた国家や文明にかならず追い越される。イスラムは、まずは中国の帆船に、ついで中国が海から退却したあと、ポルトガルの探検家バスコ・ダ・ガマがインド洋に乗り入れた一四九八年以降のヨーロッパ船に、対抗できなかった。イスラム教徒がビザンチン帝国とペルシャを転覆させたときもそうだが、一つの文明がほかの文明を追い越す瞬間は、驚くほど突然に訪れる。力の蓄積はひそかになされ、やがてあらゆるところで一気に表面化するからだ。ヨーロッパの航海技術や造船業、海上兵器の発達は、安価で速く安全な海上輸送と貿易の機会を着々と広げてはいたのだが、バスコ・ダ・ガマの船団が喜望峰をまわりインド洋を横切ってインドのカリカットの港に入るまでは、公然と知れわたることがなかっただけなのだ。
(p.147)

株式投資で考えると、これから勢いを増す企業を見つけたいのは人情ですが、ウォーレン・バフェットやチャーリー・マンガーであれば反対で、逆転されにくい企業を見つけるほうに力を注ぐでしょうね。