まずは脳が恐怖を感じるしくみについてです。
以前の投稿で引用した文章には「視床下部」という言葉がありましたが、これは上の文章(3行目)の「脳幹」に含まれる部位です。恐怖を感じたとき(あるいは、後に述べるように、怒りを感じたとき)、あなたの心臓は激しく鼓動する。それは、副腎の滑車が動きだし、扁桃体から、より原始的な部分である脳幹に、信号が送られるからだ。「恐怖モジュール」と呼ばれるこのシステムは、主に、「逃走」か(頻度は低いものの)「闘争」によって捕食者に対処するために進化したものだが、脅威を感じただけで発動する厄介なシステムでもある。恐怖やそれに先立つ衝動は、周囲の状況を誤解している場合さえある。扁桃体の一部は、常時、「怖い、怖い」というシグナルを出しているらしい。そして、ほとんどの場合、扁桃体の他の部分がそのような信号を抑えている。だが、恐怖を引き起こすものを見たり、聞いたり、経験したりすると、その抑制は解除され、脳の中で爆発が起きたかのように、瞬時に恐怖が全身を駆けめぐるのである。(p.161)
次の引用は「人間が恐怖を感じるようになった経緯」についてです。いまさらと思われるかもしれませんが、本書のような視点で改めてふりかえってみると、われわれの身体がどのようにできているのか、ずっと納得できます。
人間と大型の捕食動物の歴史の大半において、わたしたちは間違いなく獲物であり、そのことが数百万年前に進化した脳内の恐怖モジュールを持続させ、人類が進化するにつれてそれはより精巧なものになっていった。わたしたちの系統に捕食者を見つけようとするなら、4本の足とトカゲのような尻尾を持ち、体が鱗に覆われていた時代にさかのぼらなければならないだろう。当時でさえわたしたちは、捕食者であると同時に被食者であったはずだ。3億年にわたってわたしたちは「やめて! 食べないで!」と叫ぶ動物だったのだ。
また4つの根拠から、人間はつい最近まで食べられていたことがわかっている。1つ目は、実際に人間が捕食された事件が数多く記録されていることだ。植民地時代のインドでは、トラは1年に1万5,000人以上の人を食べていたらしい。またアフリカでは、タンザニアだけで1990年から2004年の間に、少なくとも563人がライオンに殺された。トラやライオンだけではない。ピューマ(≒クーガー)も人を食べる。ジャイアント・イーグルは人間の子どもを食べる。さまざまな種のクマも人を食べる。オオカミ、ヒョウ、アリゲーター、クロコダイル、サメ、そしてヘビまでもが人間、特に子どもを食べる。しかもこうした事件は、捕食者の数も種類も少なくなった近年になっても起きているのだ。(p.163)
人間はじつに無防備な動物であり、足を1本なくしたヌーやおとなしい乳牛を別にすれば、足を骨折したり歯をなくしたりした捕食動物にとって、唯一、簡単に捕まえられる獲物なのだ。わたしたちは暗いところではほとんど何も見えないので、祖先たちは夜、洞窟にいるときに音が聞こえたら、しゃがみ込んで耳をすまし、もしそれがトラやクマなどの大型肉食動物であれば、どうか他の人を先に食べてくれるようにと祈った。(p.162)
なお題名から察して、本書の話題は寄生虫ばかりと想像されるかもしれませんが、その話題は前半部だけです。それ以外にも人類の過去を振り返った上で、さまざまな話題を展開しています。内容はむずかしくなく、楽しんで読める一冊です。
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