私が紹介するひとつめのエピソードは、1902年生まれの大学教授で、私の指導教官だった人にまつわるものである。1956年にその教授が私に語ってくれたのは、教授の昔の記憶、つまり、移動手段が馬車から自動車へ変わっていくのを目にしたときの記憶である。その時代に、アメリカの都市部で成長した人々が感じていたことについて、その老齢の教授が自分の記憶にあることを私に教えてくれたのである。その当時、私の指導教官をはじめ、同年配の人々は、この移動手段の変化をおおいに歓迎したそうである。町から馬糞が消え、町が清潔になる、と思われたからだそうである。馬のひづめの騒々しい音も消え、町が静かになると思われたからだそうである。もちろん、車がもたらしたのは、清潔な町でもなければ、静かな町でもない、大気汚染と騒音の町だった、という事実を後知恵的に知っている、いまの時代のわれわれからみれば、当時の人々の発想が愚かに思える。しかし、われわれは、この老教授の記憶から、大きなメッセージを受け取ることもできるのである。それは、技術革新はつねに、当初期待されたメリットに加え、予想外の問題をももたらし得るということである。(上巻p.403)
こちらはおまけです。チャーリー・マンガーが推薦する著者らしい見解が述べられています。
さて、最後になったが、私の3つ目の提案は、加齢にともなう心身の変化、心身の強みと弱みの変化を理解し、いかにうまく活用するかにかかわる提案である。このように複雑で広範囲におよぶ変化について、きちんとした証拠も示さずに、十把一絡げ的な概括論を述べるリスクをあえて冒すが、傾向として、加齢とともに下降する心身の属性には、以下のようなものがある--熱意、競争心、体力および持久力、集中維持力、問題解決のための論理的思考の構築力(したがって、DNA構造や純粋数学理論にかかわる問題の研究は、40歳以下の学者に任せたほうがよい)。もちろん、心身の属性のなかには、加齢とともに向上するものもあり、それらは以下のようなものである--専門分野にかかわる知見や経験、人間や人間関係についての理解力、自分のエゴを抑えて他人を助ける力、多面的知識データベースが関与する複雑な問題の解決のための学際的思考の組み合わせ力などである(したがって、種の起源に関する研究、生物地理学的分布に関する研究、比較歴史学に関する研究などは、40歳以上の学者に任せたほうがよい)。(同p.404)
ジャレド・ダイアモンド氏とチャーリーはどちらもロサンゼルス在住なので、親交があるのかもしれませんね。
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