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2012年9月18日火曜日

TOPIX Core30ひとかじり(2)任天堂(Wii Uマーケティングの分析)

数日前に、当社の新製品である据置型ゲーム機Wii Uの発売日と価格が発表されました。今回は同製品のマーケティング戦略に込められたねらいを分析します。その際に、チャーリー・マンガーの「誤判断の心理学」で登場する心理学的要因を切り口としてみました。なお据置機の主戦場はアメリカ市場であるため、ここでは同市場でのマーケティングを中心にとりあげています。

1. 過去に販売した製品からの値上げ幅の抑制
Wii Uの初期販売モデルは2種類になりました。最小製品構成のベーシック版は白色の筐体で、各種オプションが追加されたデラックス版(日本名ではプレミアム版)は黒色です。ここでは、まず白色ベーシック版を対象に話を進めます。



値ごろ感を確かめるために、当社が販売した据置機過去2世代の発売時期と価格をふりかえります。発売時期はひとつ前のゲームキューブが2001年、現行機Wiiが2006年でした。また価格は、日本市場ではゲームキューブ、Wiiのいずれも25,000円、そしてWii Uも同額になりました。一方アメリカでは、ゲームキューブ200ドル、Wii250ドル(Wii Sportsソフト同梱)、そしてWii Uが300ドルです。値上げの幅は日本ではゼロ、アメリカではインフレを考慮すると許容できる範囲にとどまっています。コントローラーがタブレット型になったので、アメリカの消費者からみてもこの値段は納得できる程度と思われます。そのため、Wii Uは年末商戦での購入候補として検討の対象にあげられるだろうと推測します。(心理学: 対比に誤って反応する傾向終始一貫する傾向)

価格政策は当社においても最重要事項のひとつで、携帯機3DSでは大失敗しました(過去記事)。今回は当社の伝統に立ち返り、消費者の声を意識して大幅な低価格を提示してきたと思われます。

2. 2種類のモデルによる価格政策
アメリカ市場では白色ベーシック版が300ドル、黒色デラックス版が350ドルとなりました。この製品政策・価格政策には2段階の心理学的要因が考慮されているように思われます。まずは白色ベーシック版において過去製品とくらべて納得してもらえる価格を提示し、消費者に安心感を抱いてもらい、潜在意識にある警戒感を解きます。その上で価格の高い黒色デラックス版を提示します。黒と白の価格差は50ドルで、黒には以下の製品及び特典が追加されています。

・内臓メモリーのアップグレード(8GB -> 32GB)
・各種設置台
・ソフトダウンロード購入時のポイントバック権利
ニンテンドーランド(自社製ソフト)


消費者の視点では、追加費用50ドルに対してどれだけの見返りがあるかを考えるものです。追加分それぞれの価格を合計するとどうなるか、どうやら50ドルを超えそうだ、と計算するでしょう。つまり追加分の費用よりも利益のほうが大きいと判断することで、黒色デラックス版はお買い得だと考えるようになります。(心理学: 自尊心過剰の傾向疑わない傾向)

このような2段階を踏むことによって、Wii Uを購入してもよいと消費者に考えさせた上で、さらに黒色デラックス版を選んでもらえるように誘導している、と見受けられます。

また「白、黒」というわかりやすい形で製品を階層化するのも効果的です。主要な購入決定者である子供さんにとっては、友達と違う色を持つことの意味がわかっているからです。(心理学: 羨望・嫉妬する傾向)

なお、当社が実施している製品発表では「黒、白」の順で並べています。上に書いた「白、黒」の順とは逆になっています。これは単に重要な製品を先に出しているのかもしれませんし、わたしの考えがまったくの見当違いなのかもしれません。

話を戻して、今度は任天堂側の視点からみると、黒色デラックス版を当初から販売することには4つの大きな利点があります。

第一に、『ニンテンドーランド』という戦略的役割を担ったソフトを同梱販売することです。このソフトはミニゲーム集で、当社の各看板ソフトに登場するキャラクターが集まったものです。ミニゲームという特性を生かし、タブレット型コントローラーによる新しい遊び方に親しんでもらうことで、Wii Uの独自性を訴えます(「タブレットがあると、ドキドキ感が違うね」)。そして特に「カジュアル」とよばれる顧客層に、やや知名度の劣るキャラクターを認知してもらうことで、それらが登場する本編のソフトを購入するよう誘導します(「ゼルダの新作ゲームがでるのか。ニンテンドーランドのと同じなら、やってみたいね」)。(心理学: 好奇心愛好/愛情の傾向)

第二に、ソフトを抱き合わせ販売することで、安定的に利益が確保できることです。新ハード立ち上げ期なので、1本でも多くソフトを売りたいという当社の願いを実現するものです。

第三は想像の域を超えませんが、黒色デラックス版を購入する消費者が「自分が買ったのはあくまでもおまけつきのハード本体だ」と考えることで、別のソフトを追加購入する機会を追求できることです。

最後の利点は長期的なもので、黒色の350ドルという価格帯を既成事実化することです。これによって目先の利益を追求するだけでなく、将来の価格帯引き上げをうかがうことができます。(心理学: 対比に誤って反応する傾向)

3. Wiiの後継製品である利点の活用
「Wii」というブランドがそのまま使えるのは大きな利点です。これは名目にとどまらず、実質を伴ったものになっています。まず、既存のWiiソフトがそのまま使えるというのはユーザーにとって大きな利点です。以下では、もうひとつの利点「Wiiに付属されていたり追加購入したコントローラーなどがそのまま使える」ことについて、考えてみます。

第一に、Wii Uに同梱すべき付属品を減らせるので、名目上の製品価格をおさえられます。これは消費者及び当社の両方にとって利益となります。

第二に、「前に買ったものが無駄にならずに使える」というお得感・正義感を呼びおこすことです。これは消費者の心理に訴えるもので、Wii U購入の動機付けを手助けします。

第三に、購入検討者が新型機Wii Uに対して抱く心理的な壁を低くできることです。Wiiで慣れた操作性がそのまま生かせるとなれば、タブレット型コントローラーに対する漠然とした不安感を、ある程度おさえることができます。そのため少なくとも任天堂社内では、従来のコントローラーも活躍できるように、意図的にソフトを設計していると予想されます。

4. ソフトの品揃え
この年末商戦にアメリカで投入されるWii U新作ソフトは、同時発売及び年内発売の合計で20~30本が見込まれています。Wii当時には20本台半ばでしたので、似たような規模です。消費者にとっては自分が楽しめるソフトがあれば十分ですが、品揃えの多さはハード選定に影響します(心理学: 単なる連想に動かされる傾向)。粒選りの大ヒット作をだすのが当社の基本戦略ですが、新ハード立ち上げ期にはソフトの種類が多いことは追い風になるでしょう。

おわりに
当社はWii Uのマーケティング戦略の中核に、見た目の上で大きな対比がうまれる「白と黒」を据えてきました。またここでは触れませんでしたが、ソーシャル・ネットワーク機能やテレビ連携にも大きく挑戦しています。はたしてこれが功を奏するのか、それともiPadのような汎用タブレットに屈するのか。年末商戦とそれにつづく来期の動向がおおいに注目されます。

余談ですが、当社の株式は継続保有しており、過去記事の時点から少し追加しました。現在の平均購入単価は9,000円弱です。再び8,000円に迫ることがあれば買い増ししたいところです。

4 件のコメント:

ブロンコ さんのコメント...

== 任天堂 ==
過去に任天堂は投資基準を満たしていないとの記載がありましたが、それでも8000円というもはや根拠を失った金額を目安に買い増ししてしまうのは、ロバート・チャルディーニ氏の言うコミットメントと一貫性にbetseldomさん自身が支配されているからでしょうかね。わたしにもよくあることです。

betseldom さんのコメント...

== ブロンコさん、ありがとうございます ==
ブロンコさん、はじめまして。
本ブログをご覧頂き、また貴重なご指摘を頂戴し、どうもありがとうございました。チャルディーニの名前もあげられており、ブロンコさんは造詣の深いお方かと存じます。当方は浅学な上にそれほど経験もなく、このようなご指摘を頂けたことに感謝しております。ちょうどよい機会ですので、ご指摘の内容に沿いながら、補足の説明を致します。
・「過去に任天堂は投資基準を満たしていない」について
この一文は、以下の投稿で記述したものかと思います。
TOPIX Core30ひとかじり(2)任天堂(岩田社長の円高の見解) http://betseldom.blogspot.com/2012/06/mf-15topix-core302.html
「これまでの自分の投資基準からはずれた企業なので、あまり入れ込まないように注意しています」
以下の投稿はその前段にあたるもので、「これまでの投資基準からはずれた企業に投資する」ことをひっそりと宣言しています。
波があっても気にしませんよ http://betseldom.blogspot.com/2011/10/mf-21.html
「ディフェンシブの銘柄に集中投資してきました。しかし、最近の株価下落には食指が動き、いわゆる景気敏感株にも注目しています」
つまり「これまでの投資基準」とは自分が投資してきた銘柄、すなわち景気変動の影響がなるべく小さい企業で、それなりのMoatがあり、かつ割安なものを指しています。しかし昨年ぐらいから、ほかにもよい機会があるのではないか、特に景気などの影響をうけやすい企業は相対的に過小評価されているのではと考えるようになってきました。それで理由で、今回の任天堂のような景気敏感株あるいは循環型企業を投資対象に加えつつあるのが、この1,2年間の状況です。
そのため「あまり入れ込まないように注意する」という言葉は、既に投資している主力銘柄のようには株式を買わない、ということを示しています。
・「8000円というもはや根拠を失った金額」
任天堂の企業価値を評価するには顧客のロイヤルティーや社内の人的資産を考慮すべきでしょうが、個人的にはそれらをうまく判断できません。そのため、最低限の線として財務面から割安となる目安をつけることにしました。
まず第一線ですが、PBR1倍を基準としました。2011年度末の時点で正確には9,300円ですが、株価10,000円を下回れば割安の領域とみなしました。これに触れた過去の投稿はつぎのとおりです。
TOPIX Core30ひとかじり(2)任天堂(2011年度決算説明会) http://betseldom.blogspot.com/2012/05/mf-02topix-core3022011.html
「10,000円は、やや割安と捉えています」
つぎに第二線としては、負債控除後の純金融資産(現金・有価証券・売掛金 - 負債合計)を基準としました。これは個人的に指標としているもので、この金額を割り込めば大幅な割安と捉えています。これは株価7,000円弱に相当します。この金額は以下の投稿で触れています。
TOPIX Core30ひとかじり(2)任天堂(2011年度第3四半期決算の雑感) http://betseldom.blogspot.com/2012/01/mf-28topix-core30220113.html
「6,500円に近づくほど買いの機会と考えています。その前には、自社株買いが決議されるとは思いますが」
Wii U発売前の段階では7,000円以下にはならないだろうと思いましたが、投資前の資金計画上はそこまで下がることを想定して、株価が5-10%下落する毎に買い増ししていく方針をとりました。この方針に従っていれば「あまり入れ込んでいない」状態ですし、方針に反して多く買ったり、買い上がったりするのは「入れ込んでいる」となります。当初予定していた次の買い増し金額が8,000円弱でした。
・「コミットメントと一貫性に自分自身が支配されている」
まさに的確なご指摘とうけとめています。良くも悪くも一貫性を旨として生きております。それが仇になってしまい、非合理的な判断を投資に含めることはよくあります。いずれご紹介するつもりですが、株価が下落するとどこまでも買い増しする傾向が強い、と自己評価しています。ですからブロンコさんのご指摘のとおり、任天堂に対する評価がまるで見当違いなのに資金を引き揚げないで、6000円、5000円と買い増ししていく可能性はとても大きいと予想できます。
ウォーレン・バフェットが大成功した理由のひとつは、チャーリー・マンガーの苦言をうけとめる合理性があったからだと捉えています。ブロンコさんから頂いたご指摘を機会に、自分の判断が誤っている可能性とその影響を改めて考え直したいと存じます。
今後もどうぞよろしくお願い致します。
それでは失礼致します。

Tammy&co さんのコメント...

== はじめまして。 ==
はじめてコメントさせていただきます。
優れた投資家のブログを探していたところ、このブログに行きつきました。
betseldomさんもさることながら、コメントされる方もかなりのレベルの投資家かと思いました。投資家のブログでチャルディーニの心理学の観点からの意見交換がなされているのを初めて見、思わずコメントしてしまったところです。
betseldomさんはブログという行動を伴う形で任天堂に投資するというパブリックコメントを行っておられます。betseldomさんは過去のブログから判断するところ優れたバリュー投資家に違いありませんので、任天堂の調査にかなりの時間と労力をかけられ、かつ、自分の意志によって投資の決断をされたかと思います。
これらはまさにチャルディーニの一貫性の原理が作用する条件(一定の行動、公への発表、意思決定に至るまでの苦労・努力、強制ではない自発的意思)を満たしているものであり、betseldomさんの一貫性を信条とされている点と合わさってさらに強力なものになろうかと思います。
「乗り込んだ船が慢性的に浸水していると気づいたとき、より前向きな対処法は浸水部をふさいでまわることより、船を乗り換えることだ。」
「穴にはまっていると気付いた時、一番大切なのは、掘るのをやめることだ。 」
これらはウォーレン・バフェットが自らの失敗から学んだ言葉ですが、一貫性の原則が強く作用すると合理的な判断ができなくなり、この言葉の通りにはなかなか行動できなくなります。(その後、バフェット自身も同様の失敗を何度も犯していることからも明らかです。)
私自身、任天堂に対する知識等はまったく持ち合わせておりませんので、任天堂に対して何か意見を述べることはできませんが、一貫性の原則にだけは十分に注意をしていただけたらと思う次第です。
大変長くなりましたが、今後も勉強させていただきたいと思いますのでよろしくお願いします。

betseldom さんのコメント...

== Tammy&coさん、ありがとうございます ==
Tammy&coさん、はじめまして。
貴重なお時間を割いてコメントしてくださり、どうもありがとうございました。
Tammy&coさんやみなさんから頂いたコメントは、いずれも大切なものと捉えております。投資という知的作業を進める上で、自分とは異なる視点からのご意見や、第三者としてご指摘を頂けるという機会は、得がたいものです。時間をかけて反芻していくつもりです。
チャルディーニの条件を列挙してくださりましたが、自分でも照らしあわせたところ、すべてのものに合致していました(調査自体は楽しんでやっておりますが)。ご心配頂きましたように、危うさをはらんでいる状態かと自己認識しました。先だってブロンコさんからもご指摘を頂いているので、この件は大きな課題と受けとめるようにします。
任天堂が「慢性的に浸水」しているかどうかは、とても興味深い話題かと思います。「身重」になった印象はありますが、それ以上に、水が入り込んできているか注視しなければいけないという時点で、投資対象としてはあまり誉められたものではない、と自分でも感じています。
今後も、おかしな認識や意思決定が顔をのぞかせていたり、Tammy&coさんのご興味をひくようなものがありましたら、またコメントを頂ければありがたく存じます。
これからも、どうぞよろしくお願い致します。
それでは失礼します。