数学的に言えば、ロトくじは合法的な賭け事のなかで圧倒的に客の分が悪い。どれほどがめついスロットマシンでも、還元率は85パーセントくらいはある。ところがイギリスの国営ロトくじの還元率は、およそ50パーセントだ。くじの売上金の一部を賞金にまわすだけなので、くじの運営者にリスクは生じない。イギリス国営ロトくじでは、売上金の半分が賞金に充てられる。
しかしまれに、ロトくじがきわめて有利な賭け事となる場合もある。こうなるのは、賞金が次回に持ち越される「キャリーオーバー」によって、生じうる数字の組み合わせをすべて買う費用よりも賞金のほうが高くなったときだ。この場合、すべての組み合わせを買えば、そのなかには確実に当選の組み合わせも入ることになる。ここでリスクとなるのは、ほかにも同じ組み合わせを買った人がいて、1等の賞金を分配するはめになる可能性だけだ。ただし、全部の組み合わせを買うというやり方は、それを実行する力があるかどうかにかかっている。理論的にも現実的にも、きわめて難しいことなのだ。(中略)
メルボルンに落ち着くと、マンデルはロトくじ購入の国際シンジケートを設立した。会員から十分な資金を集めて、すべての組み合わせを買いたいと思うロトくじがあれば買えるようにしたのだ。世界中のロトくじを調べて、賞金のキャリーオーバーがすべての組み合わせの購入費用と比べて3倍以上になっているものを探した。そして1992年、ヴァージニア州営ロトくじに目をつけた。1口1ドルで、数字の組み合わせは700万通りあり、1等賞金が2800万ドル近くに達していた。マンデルは行動を開始した。オーストラリアで申込用紙を印刷し、コンピューターを使って700万通りの組み合わせをすべて記入して、アメリカへ航空便で送った。すると1等が当たり、さらに2等以下も13万5000本当たった。(中略)
マンデルはすでにロトくじ購入から引退し、南太平洋の熱帯の島で暮らしている。(p.458)
2012年9月25日火曜日
きわめて有利なときに賭ける(経済学者ステファン・マンデル)
最近読んでいる本『素晴らしき数学世界』で興味をひかれた箇所があったので、ご紹介します。投資ではなくギャンブルの話題ですが、その確率的思考と絶妙な行動力は参考になります。文中に登場するステファン・マンデル氏は、ルーマニア出身の経済学者です。
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