「自分で痛い目にあうよりも、他人の過ちから学べるほうがいい」とチャーリー・マンガーは言っていますが、当たり前の処世訓ではあります。でも他人がそのとおりに従っているのかは正直よくわかりません。みなさんにお聞きしたいところです。個人的にはさんざん懲りてきたので、本気で取り組むべき教えだと痛感しています。
そういった例は世の中にいくつもあるはずですが、知っているものを挙げると例えば工学の世界では畑村教授のような人が中心となって失敗学が提唱されています。製造業の現場では「ポカヨケ」や「安全第一」といった言葉はおなじみです。レビュープロセスや、最近注目のチェックリストも失敗に基づいています。
一方、投資の世界では華やかな成功が目立つものですが、本ブログではチャーリーの教えに従って、「失敗を避けること」に重点をおいて目を向けたいと考えています。このシリーズでは、私がおかしてきた投資の失敗例をいくつかご紹介します。第1回目は、損失金額が最大だった投資(というか投機)です。
■背景
時期は2005年のはじめになります。2003年3月に株式市場が底打ちし、株価が大きく上昇中だった頃です。当時はアメリカに上場されている株式を中心に買っていたのですが、2年近くにわたって相場が上昇しているのをみて、そろそろ下降するのではないかと懸念していました。
ITバブルが終わって時間が経っていないのにアメリカやイギリスの不動産相場が盛況になっており、遠からず景気が冷え込むと予想していたのです。
■実行した投資
当時の手持ちの株式はまだ割安で、手放すつもりはありませんでした。どうしようかと思案していた頃に、あるバリュー・ファンド・マネージャーのプレゼンが目につきました。ナスダックの代表銘柄100社をトラッキングするインデックスQQQのputオプションを買う戦略です。
オプション取引になじみのない方に、要点だけ説明します。株式等のオプションにはcallとputの2種類があり、putを買うのは株を空売りするのと似ています。価格が下がるとオプションの価値が上がるのです。「下落相場に備えた期間限定の掛け捨て損失保険」と考えるとイメージが少し近いです。
オプションの行使時期は2006年初や2007年初としました。2003年3月からすると3,4年後になるので、上昇相場はその頃には終わっているものと当て推量したのです。ベンジャミン・グレアムのThe Intelligent Investorを読んでおり、過去(1970年以前)の相場の周期を参考にしていました。
■投資結果
投資結果は完敗です。下図のように、QQQの価格は2007年末に向かって上昇し続けました。私の買ったputオプションの行使価格から大きく離れてしまい、結局は大幅に目減りした価格でオプションを売ることになりました。QQQの他にS&P500インデックス(SPY)もputを買っており、損失の合計は約$50,000。当時の為替レートにすると500万円強になりました。
■教訓
さて、高い授業料を払って何を学んだのでしょうか。
1. 自分の考えが間違っているとしたらどうなるか、前もって考える
当時はアメリカの景気が大きく冷え込むことを確信を持って予測していました。その通りの結果になりましたが、時期は大はずれでした。そもそも景気は変動するものなので、景気後退は誰にでも予測できます。ふりかえってみれば、自分の思考回路に致命的な誤りがありました。今でも同じように、私が間違う確率はゼロではありませんし、かなり高いはずです。
2. マーケットの動きは読めない
自分の投資スタイルである現物株のバイ・アンド・ホールドであれば、価格が上がればそのまま保有し、価格が下がれば適宜追加投資して平均買い単価を下げられます。つまり、企業分析をきちんと行っていれば、価格の動きは投資元本の安全には影響しにくいものです。しかし、時期に賭けるとなると話は別です。景気はともかくとしても、自分の判断がマーケットの動きを捉えていなければ、元本を無駄にしてしまうリスクがあります。この例では、そのとおりになってしまいました。私には、マーケットの動きも読めないのです。
3. 他人の意見をうのみにしない
実は、意見を参考にしたファンド・マネージャーとはティルソンです。実績からみると彼はまだひよっこに過ぎなかったのですが、勝手に感じ入ってしまい、自分できちんと考えることを放棄してしまいました。無意識に、彼のスタイルに憧れていたのかもしれません。他人の意見をうのみにした例は他にもあります。よくない傾向が私にはあるのだと思います。他人の投資アイディアを参考にするのは悪くはないのですが、自分自身で調べきれていない甘さがあります。
■追記(2011/12/25 11:00)
保険目的でputオプションを買うのであれば、手持ちの現物株の価格が上昇し、損失を相殺するものです。残念ながら、このときは目論んだとおりにはいきませんでした。が、思わぬ銘柄が上昇し、結果的には損失を減らせました。CEFという銘柄に投資していたのです。これは金銀の現物に投資するファンドで、銀ETFのSLVが登場する以前は、銀投資といえばこのファンドが有名でした。ナスダック100と金銀の相関関係は弱いようで、現時点のCEFのベータは0.28です。たまたま損失を減らせましたが、この件は大きな失敗として記憶に残っています。
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