ot

2012年4月14日土曜日

これは最低だな(チャーリー・マンガー)

0 件のコメント:
過去記事「順列や組み合わせ」に続いて、チャーリー・マンガーが世知にあげているのが「会計」です。なお、本シリーズの先頭にあたる過去記事はこちらです。(日本語は拙訳)

当然ですが、会計の知識は不可欠です。ビジネスの現場で語られる言葉ですからね。この有用な概念は、文明社会の発展に寄与しました。かつて地中海世界を経済力で席巻したヴェニスでうまれ育ったとのことですが、しかし複式簿記はすごい発明ですね。

会計を理解するのはそれほど難しくはありません。

ですが、会計にも限界があることは重々承知しておくべきです。会計で表される数字は大雑把なもので、あくまでも出発点に過ぎないからです。限界を知るのも、それほど難しくありません。例えば、ジェット機の耐用年数はと聞かれたら、大体のところで予想するしかないでしょう。償却率をそれっぽい数字に決めるでしょうが、だからといって自分でひねり出した予想が現実に即したものになってくれるわけではありません。

会計の限界について、わたしの好きな逸話があります。カール・ブラウンというすばらしい事業家の話です。彼はC. F. ブラウン・エンジニアリングという原油の精製プラントを設計、施工する会社をおこしました。この手のビジネスは技術的な難易度がかなり高いのですが、ブラウン氏は職人芸を発揮して、納期を守り、爆発事故を起こすこともなく、効率の高いプラントを建設してきました。

生粋のドイツ人気質をもっていたブラウン氏には、一風かわったところがありました。たとえば、標準的な会計規則をプラント施工の仕事に適用するところをみて、「これは最低だな」とした一件。

彼は経理屋をみんなお払い箱にし、技術者たちに向かって言ったのです。「これからは、うちの作業にあうように、会計のほうをあわせていくことにする」。そして時がたってみると、会計規則のほうがカール・ブラウン氏のやりかたを採用することになりました。彼は、会計の重要性だけでなく、その限界を知ることも大切だと示してくれたのです。並はずれた強い意志と能力を兼ね備えた人でした。

Obviously, you have to know accounting. It's the language of practical business life. It was a very useful thing to deliver to civilization. I've heard it came to civilization through Venice, which, of course, was once the great commercial power in the Mediterranean. However, double-entry bookkeeping was a hell of an invention.

And it's not that hard to understand

But you have to know enough about it to understand its limitations - because although accounting is the starting place, it's only a crude approximation. And it's not very hard to understand its limitations. For example, everyone can see that you have to more or less just guess at the useful life of a jet airplane or anything like that. Just because you express the depreciation rate in neat numbers doesn't make it anything you really know.

In terms of the limitations of accounting, one of my favorite stories involves a very great businessman named Carl Braun who created the C. F. Braun Engineering Company. It designed and build oil refineries - which is very hard to do. And Braun would get them to come in on time and not blow up and have efficiencies and so forth. This is a major art.

And Braun, being the thorough Teutonic type that he was, had a number of quirks. And one of them was that he took a look at standard accounting and the way it was applied to building oil refineries, and he said, “This is asinine.”

So he threw all of his accountants out, and he took engineers and said, “Now, we'll devise our own system of accounting to handle this process.” And, in due time, accounting adopted a lot of Carl Braun's notions. So he was a formidably willful and talented man who demonstrated both the importance of accounting and the importance of knowing its limitations.


余談ですが、私の場合、株式投資を始めたころは会計のことはあまりわかっていませんでした。財務諸表を読んで企業分析のまねごとをするうちに、知識を少しずつ身につけていったものです。そのうち、仕事の関係で簿記や決算に携わる機会がありました。実際に仕訳をしたり、固定資産の減価償却費を計算したり、税額を計算したりすることで、財務会計の基本を体で理解できました。チャーリーが言うように難しい概念ではないのですが、実際に手を動かすことで、いろいろ合点できるところがありました。貸借対照表が巨大な恒等式であることを肌身で感じられたのは、自分にとってよい経験でした。

そのこともあって、企業分析を行う際には損益計算書だけでなく、貸借対照表も大いに気にします。資産がどのように使われているのか調べるのは、財務面での安全余裕を確認するだけでなく、ビジネスの性質を理解したり、経営陣の金銭意識を推し量るのに役立つからです。

2012年4月13日金曜日

(映像)華麗なるスローイング(ウォーレン・バフェット)

0 件のコメント:
ウォーレン・バフェットは中学・高校時代に、新聞配達に熱を入れていたのは有名な話です。もちろん、お金を稼ぐためです。まさか、その彼の技をみられるようになるとは、思ってもみませんでした。今回は3/31(土)に開催されたOmaha Press Club Showからで、技あり、歌ありの楽しいセッションです。個人的には、一投目が気にいってます(12秒ごろ)。

2012年4月11日水曜日

企業はすばらしくても自分はがっかり(アーノルド・ヴァンデンバーグ)

0 件のコメント:
前回に続いて、アーノルド・ヴァンデンバーグのインタビュー記事から引用します。今回は、質の高いビジネスについてです。

(質問)
「質が高い」とはどういうことでしょうか。どんな要因があれば質の高いビジネスだと呼べるのでしょうか。

(アーノルド)
本当に質の高い企業とは、真のフランチャイズを持っており、価格決定力があって、うらやましいほどの競争力を持ち、バランス・シートが強固で、対資本利益率が高く、時の試練にも耐える文化が築かれているものです。みなさんも異論はないでしょう。ただし、あくまでも理想の話で、そういう理想的な企業を安く買える機会は、まずやってこないだろうと思います。一方、わたしどもが挙げた利益のほとんどは、この理想像には当てはまらない企業からですが、安く買えたことで投資としては理想的なものとなりました。結局のところ、よい価値を手にいれるにはどうすればよいでしょう。我々も努力していますが、すばらしい企業を買うというだけでは十分ではありません。よい値段で買うことも欠かせないのです。そうしないと、安心して投資できる企業を保有しても、ひどいリターンに終わるかもしれないのです。正しい値段で買っていないと、企業はすばらしくても自分はがっかり、そうなるかもしれないことを忘れないでください。

(Q)
How do you define “high quality?” What factors will make you think a company has a high quality business?

(A; Van Den Berg)
Companies that are of real high quality have a true franchise, have pricing power, an enviable competitive position, a strong balance sheet, earn a good return on capital and equity, and have a culture that can stand the test of time. I am sure that most of your readers would agree with this. This is the ideal, but very rarely do you have the opportunity to buy the ideal at cheap prices. Most of our returns have been by companies that did not fit this category of the ideal, but the price made it an ideal investment. However, in order to get a good value, which is what we are looking for, it is not sufficient to just have a great company; you also need to buy it at good price. If not, you may end up with a comfort stock that gives you a mediocre return. Always remember that even a great company can disappoint you, especially if it is not bought right.

2012年4月10日火曜日

わたしも慎重です(アーノルド・ヴァンデンバーグ)

0 件のコメント:
私の好きなファンド・マネージャーにアーノルド・ヴァンデンバーグ(Arnold Van Den Berg)という人がいます。ボブ・ロドリゲスほどではないですが慎重派のバリュー投資家で、彼のファンドCentury Managementの読み物はいつも楽しみにしています。彼の文章を読んだのがきっかけで、昨年からマイクロソフト(MSFT)へ投資しています。

今回は、昨年11月にアーノルドが応じたインタビュー記事GuruFocus Interview with Investor Arnold Van Den Bergからの引用で、弱気相場についてです。彼の見立てでは、アメリカの株式市場はまだ弱気相場のまっただなかです。ただし、5,6年経った後に大きな強気相場がくる可能性も示唆しています。(日本語は拙訳)

時間がたてば、リターンを決めるのは買値です。質の高い企業をPER1ケタで買えれば、先行きが不透明で不安定なときでも儲けることができます。もちろんビジネスからの利益は現実のもので継続的にあげられるべきですが、そうであれば適正な値段を払ってもリスクを見込んだことになります。現金を保有する選択をしてもそれが誤っていることもあるので、あらゆるリスクをヘッジできるわけではありません。が、企業価値の面ではヘッジできると考えます。株のバブルのあとには必ず弱気相場がやってきます。弱気相場になると、低金利のような相場を盛り上げた要因は、一時的あるいは少ししか効果を発揮しなくなります。利益面で成長しても、平均PERのほうは低くなっています。ですから、株価があがっても1,2年たつと低いレベルに戻っていき、それがまた繰り返されます。弱気相場の間には、株価がすごく上昇するというのはないかもしれません。PERでみて安い株でも、もっと安くなることはよくあります。西暦2000年以来、まさに我々が目の当たりにしてきたものです。弱気相場も最後になると、PERはとても低い水準まで下がります。そこでようやく次の強気相場が始まるのです。

弱気相場がどれぐらい続くかですが、平均的には16年間ぐらいです。その調子ですと[2000年が始まりとすると]、あと5年かそこらは残っています。偶然ですが、先ほどコメントした不動産や失業率や財政危機にめどが立つ時期と一致しています。このような状況下で投資をするには、あくまでも個々の企業毎の価値に焦点を当てるのが大切です。安く買って適正株価に近づいたら売ることで、こんな時分でも利益をあげることはできます。注意しないといけないのは、PERは低めに考えないといけないので、ふつうのときほどには株価はあがらないでしょう。そしてお買い得がみつからなければ、現金のままでいることです。

Over time, price determines return. Buying high quality companies at single digit P/Es gives us the opportunity to make money, even in an uncertain and unstable environment. Obviously the profits have to be real and sustainable, but assuming those two conditions are met, if we buy companies at the right price, we are discounting the risks. We can’t hedge every risk (even cash can be a bad investment), but we can hedge valuation. Stock bubbles are always followed by a bear market. A major characteristic of bear markets is that things that would normally cause the market to explode - like low interest rates - have either minimal or temporary effects. In bear markets, earnings could continue to grow, but multiples become compressed. This causes stock valuations to trade up one to two years, but then revert back to low levels and start the cycle over. Over the duration of the bear market, the prices of stocks may not significantly appreciate. Stocks that may look cheap on a multiple basis may often get even cheaper. This is exactly what we have been seeing since 2000. At the end of the bear market, multiples have compressed to very low levels. This sets the stage for the next bull market.

How much longer will we be in this bear market? Bear markets typically last about sixteen years, so I would say that we have about five more years to go. This coincides with our earlier comments on how long we think it will take for the real estate, unemployment, and fiscal problems to be reconciled. The way to invest in this kind of environment is to stay focused on the valuations of individual companies. You can still make money in this environment by buying stocks when they are cheap and selling when they are near fair value (remember that multiples are compressing, so stocks won’t go as high as one would expect in a normal environment). When bargains can’t be found, hold cash.


ボブ・ロドリゲスの見解と通じるものがありますね(過去記事)。ただ、個人的には日本の株式相場についてはもっと楽観的です。地震による原発リスクは依然残っていますが。

2012年4月8日日曜日

かなりの世間知らずですね(ウォーレン・バフェット)

2 件のコメント:
今回は将来の予測について、ウォーレン・バフェットによる1995年開催のバークシャー・ハサウェイ株主総会での発言をご紹介します。おなじみ『Seeking Wisdom』で孫引きされているものです。(日本語は拙訳)

わたしは今後の予測とか業績予想といったものは気にしません。あたかも精確にみえますが、そう思えるだけでしょせんは作り立てたものです。細かな点にこだわっているほど、よく注意したほうがいいですね。わたしどもは予想をしないかわりに、過去の実績のほうをずっと気にかけ、なるべく深く調べるようにしています。これまでの実績が思わしくないのに今後の見通しが華々しいような企業の話がきても、見送ることにしています。

ビジネスを買おうとする際に、売り手や仲介者が出してくるような将来予測をなぜ参考にするのでしょうか。その手の予測に意味があるとは思えません。あてにしてもしょうがないです。

将来どうなるのか自分で考えていないところへ、ビジネスを売りたい人や仲介手数料を稼ぎたい人がやってきて「このビジネスは、将来こうなりますよ」と説明する。そんなときにふむふむと耳を傾けるのは、かなりの世間知らずだと思います。

I have no use whatsoever for projections or forecasts. They create an illusion of apparent precision. The more meticulous they are, the more concerned you should be. We never look at projections, but we care very much about, and look very deeply at, track records. If a company has a lousy track record, but a very bright future, we will miss the opportunity ...

I do not understand why any buyer of a business looks at a bunch of projections put together by a seller or his agent. You can almost say that it's naive to think that those projections have any utility whatsoever. We're just not interested.

If we don't have some idea ourselves of what the future is, to sit there and listen to some other guy who's trying to sell us the business or get a commission on it tell us what the future's going to be - like I say, it's very naive.
(p.52)

一見するとウォーレンのこの発言は、決定木を使った分析(過去記事)と矛盾していると感じるかもしれません。決定木の役割は不確実な将来を確率的に描くことなので、ある種の予測をしているでしょうと。しかし立ちどまって考えてみると、ウォーレンはやはり過去を重視しているように思えます。予測の中核となるのは、あくまでも過去の実績から延長線をひいた未来であって、それ以外に想定される未来は悲観的なリスクを盛り込むために使う。例えば、これまで年率10%成長しているところを、0%成長やマイナス成長といったシナリオを確率的に盛り込む。あるいは別の大きなリスクを想定してみるなどが挙げられます。

真偽のほどはウォーレンに聞いてみないとわかりませんが、決定木を使った確率的な未来の捉え方を自分なりに見直せるような気がしてきました。ちなみに、ロバート・ルービンはこのような考え方を「蓋然的思考」と呼んでいるようです(過去記事)。