本書では市場における価格変動サイクルの話にとどまらず、そのサイクルを構成する主要成分としていくつかのサブ・サイクルをあげています。そしてそれぞれについて事実や経験をもとに著者自身の見解を説明しています。具体的には、景気サイクル、企業収益サイクル、投資家自身の心理的サイクル、リスク管理面でのサイクル、信用サイクルなどです。これは言い換えれば、「市場価格の変動サイクルは、それらサブ・サイクルの合成や相互作用によって生じる」となります。この見解は本書の中核をなすもので、たしかに勉強になりました。その上でさらに参考になったのは、「個々のサブ・サイクル要因がどのようなベクトルを有しているかを考慮すべきだ」と示唆している点です。各サブ・サイクルの位相はある程度そろいやすいと思いますが、そうならないときに、世間一般とは違う自分独自の判断をくだす基盤となってくれる見方だと感じました。
さて、同書から今回引用する文章は、彼が率いるファンドであるオークツリーが投資に踏み切るタイミングについてです。個人的には、本書を読んで得られた即物的な大きな成果のひとつでした。今回は前半部だけ引用し、後半部は次回の投稿で取り上げます。残された後半の内容がどのようなものなのか、どうぞ想像してみてください。
2008年終盤の情勢を振り返っているところだが、このあたりで投資家が市場の底へと向かっている時期に、そして市場の底でどう振る舞うのかについて、話しておきたい。
そもそも底とは何か。サイクルの中で最も価格が低くなったところである。つまり底は、パニックに陥った資産保有者の最後の一人が資産を売った日、あるいは買い手よりも売り手が優勢だった最後の日と考えることができる。理由はさておき、価格が下がった最後の日であり、一番下に達した日である(もちろん、このような表現はかなり誇張されている。「底」や「頂点」といった言葉が表すのはたった1日ではなく、ある程度の期間だ。したがって「最後の日」と表現するのは、言葉のあやみたいなものである)。底を起点として価格は上昇する。それは、降伏し、売りに動く資産保有者がもはや存在しないから、あるいは売り手の売りたいという気持ちよりも、買い手の買いたいという気持ちがまさったから、である。
そこで次に出てくる疑問は「いつ買いはじめればよいのか?」である。以前の章で「落下するナイフ」という表現を用いたが、これは非常に重要な概念を表している。相場が滝のような勢いで下落しているとき、投資家はしばしば「落下するナイフを掴もうとはしない」という言葉を耳にするかもしれない。別の言い方をすると、「下落トレンドが続いていて、いつ歯止めがかかるかは知りようがない。底に達したと確信できるまで買わなくてよいのではないか」である。(p. 315)
(つづく)
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