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2014年1月20日月曜日

2013年の投資をふりかえって(5)継続投資銘柄:任天堂

任天堂 (7974)

当社について昨年(2012年分)投稿したものはこちらです。

<事業の状況>
-- 「広く、深く」のどちらも達成できなかったWii U --

先週の金曜日1月17日に、当社は今期業績予想を下方修正しました(当社発表資料[PDF])。当初予想で売上高9,200億円・営業利益1,000億円だったのが、修正後は売上高5,900億円・営業損失350億円に減額されました。ここでは当社製品の販売状況を過去の業績とくらべることで、「営業損失350億円」が示す意味をとらえてみます。

1. 携帯機3DSのハード累計販売台数とソフト販売本数の推移
まずは当社の事業の片輪である3DSのハード販売状況をみてみます。以下のグラフは、当社が手がけてきた携帯機ごとにハードがどれだけ売れたか累積台数を示したものです。なお、これらのデータは当社Webサイトに掲示されているものですが、ゲームボーイのハード売上データについては情報が欠落しているため、当方が補完しました。


ここからわかることが2つあります。まずは「DSはとびぬけた成功をおさめた」ことで、もうひとつは「3DSの普及速度は4機種の中で最低水準である」ことです。前者はよしとして、問題なのは後者です。当社の経営陣は「普及率がよくない製品をどう対処するのか」を考える必要があるからです。スマートフォンと競合していることを考慮すれば3DSの状況はそれなりに評価できる、と個人的には感じています。しかしゲームボーイアドバンスからDSへ移行した時期をふまえると、経営陣は次世代機を投入する時期をさぐりはじめているかもしれません。

つぎにソフトの販売状況です。これは累積ではなく、単年度ごとに示しています。


こちらもDS時代は大成功していますが、ここでは2003年度に注目してみます。当時はゲームボーイアドバンスの4年目で、現在の3DSの4年目と状況が似ています。2003年度の販売本数は、今期2013年度とほぼ同じ水準です。

2. 据置機Wii Uのハード累計販売台数とソフトウェア販売本数の推移
つぎに業績低迷の元凶であるWii Uについて、上記と同じようにハード及びソフト販売数のグラフを示します。

(ハード販売台数; ニンテンドウ64のデータは当方が補完)

(ソフト販売本数)

こちらは一目瞭然で、ハードそして特にソフトが過去の実績を大きく下回っています。昨年の投稿で「WiiUはそこそこ売れている」と書きましたが、その認識は短絡的でした。発売当初の好調な売れ行きは、任天堂ファンが買ったためととらえるべきでした。

今期はWiiソフトがまだ売れているため、それが合算されることで救われています。今期の販売本数の見通しは携帯機でくらべたように2003年度と同水準であり、そして2000年や2001年、2005年度よりも上回ってはいます。そのため、この数字だけをみると仕方がないかと感じられるかもしれませんが、あとでふれるように問題なのは利益の額です。販売本数が低調だったそれら3年間は、ここ数年間とくらべると多大な利益をあげています。

このようにハード及びソフトの販売数を過去の実績と比較することで、だれにでもわかるひとつの仮説が浮かびます。それは「任天堂ファンやそれに準じる顧客は、並みの任天堂製品でも買う。それ以外の一般消費者は、劇的な任天堂製品だけを買う」です。

3. 営業利益の推移
以下のグラフは年度ごとの営業利益を示したものです(青線)。営業利益を求めるための数字として売上総利益(緑色)と販売管理費(桃色)を棒グラフで示しています。なお今期2013年度分の数字は、当社の公開した情報をもとに当方が推定した値を含んでいます。


Wiiが売れていた2006年から2010年度を除いてみれば、今期の売上総利益(予想)は2005年度以前とそれほど変わっていません。しかし違っているのは販売費及び管理費です。たとえば2003年度とくらべて倍増規模(1,000億円 -> 2,000億円(当方の推定値))となっています。粗利でみれば今期は2003年度とくらべてそれほど低い数値ではありませんが、販管費を支えるだけの稼ぎがあがらない見込みです。

4. 研究開発費の推移
上述した販管費について、以下のグラフではそれに占める研究開発費などの割合を2003年度と2012年度で比較しています。


これをみると、研究開発費が大きく増加しているのがわかります。この費用は主にソフト開発要員(社内、社外)の人件費だと思われます。2003年度から2012年度までの約10年間で社員数が2,000名ほど増えていることがそれを裏付けています。これは社内の研究開発やマーケティング体制に見合うだけの売上を達成できていないことを意味します。つまりチャーリー・マンガー的に言えば「人手をかけてソフトを作っているが、顧客の絶対数が変わっていない。つまり利益が株主へ流れるのではなく、(豊かなユーザー体験として)利用者に流れている」とみることもできます(過去記事)。

短期的な業績回復をめざすのであれば、まずコスト削減に手をつけるのが一般的です。たとえば売れ筋でない製品開発を中止したり、外注分を内製化したり、人員を削減したり、拠点を統廃合して余剰資産を売却したり、新規投資を凍結したり、など。しかし岩田社長の打った手のひとつはその逆でした。岩田社長の会見内容の発表によれば、研究開発費を期初予定より150億円上積みしたとのことです(当方が出した2013年度推定値には、この増分を加えています)。彼が確約した「営業利益1,000億円」とくらべると150億円は「たいしたことのない」金額ですから、自分の失点を埋めるよりは将来の利益をねらって早めに動いたのかもしれません。蛇足ですが、150億円のうちの120億円を人件費に使えるとすると、一人あたりコストが2,000万円/年であれば600名を開発に回せる計算になります。

増額した研究開発費で来期は好転するのか。わたしには読めません。自社開発を中心とするソフトの数がそろうことで消費者が動き始めるのかもしれません。また消費者が今期に購入したハード台数分は普及が進むため、それに応じたソフト販売の上積みは期待できます。もちろん、当社はそう尽力すべきでしょう。しかし岩田社長が発言している「1本のソフトで状況を変える」ことが実現する確率は、かなり低めに見積もったほうがよいのではと感じています。

<株価の状況>
年初時点が9,070円で、年末が14,010円でした。上昇率は54.5%です。しかし下方修正した今となっては、昨年の株価よりも本日1/20(月)からの動向が焦点になるでしょう。ちなみに、下方修正前である1/17(金)の終値は14,645円でした。


<当社に対する投資方針>
上の図に示したように安値で追加購入し(図中の赤矢印)、株価上昇に伴って段階的に売却しました(青矢印)。過去の投稿やコメントで触れたように、当社の株式を購入する際には現預金等資産とおおまかな利益予測にもとづいて企業価値の範囲を想定しました。その下限に達していない金額の段階から、安全をみて順次売却しました。売却した理由は、当社を評価する上で現預金等の資産を重視した一方、期待される利益の回復はまだ不透明な状況なので、株価上昇を機会とみたからです。

なお、売らずに残してある分は当面は保有する予定です。いつになるかはわかりませんが、時満ちて「劇的な」ハードやソフトを発表するのが当社の伝統です。その可能性を期待値として評価したい想いがあります。また岩田社長が一般的な「手堅い」経営手段にこだわらないこともよくわかりましたが、Wii Uの推移をもう少しみたいとも感じています。一方で株価が1万円を割り込めば、買い戻しを検討するつもりです。

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