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2013年2月24日日曜日

2012年の投資をふりかえって(3)新規・追加投資編(クラレ)

前回(マイクロソフト)に続いて4件目の企業です。

<当社の概要>
当社は投資雑誌などで取り上げられており、個人投資家にも知られている企業と思われますが、事業内容を概括しておきます。社名そのものやランドセルでおなじみだった「クラリーノ」から繊維系を想像させますが、現在の当社の主力製品はプラスチック(合成樹脂)です。ただしそれらは大手化学メーカーの汎用品とくらべると独自性を有しているため、価格競争力を維持し高収益につながっています。

事業セグメント毎の営業成績は次のような割合になります。樹脂事業(プラスチック)が利益の大半をあげています。


部品や部材を扱う優良企業として、日東電工がよく知られています。同社は液晶パネル向け製品を展開したことで、大きく飛躍しました。たとえば偏光版は、市場の多くを住友化学と占めています。偏光板を生産するそれらの企業に対して、当社はプラスチック原料(ポバールフィルム)を提供しています。これは工学的特性が優れていることで、現在でも代替品を排除しています。当社はさらに上流の原料(ポバール)の業界リーダーでもあるため、供給面においても競争力が高く、ポバールフィルムは80%のシェアを確保しています。

もうひとつの主力製品エバール(EVOH樹脂)は、他の一般的なプラスチックよりも空気などの気体をよく遮断する特徴を持っています。従来の代表的な採用先は食品包装材でしたが、最近は自動車の燃料タンクでの採用が増えています。

これらのプラスチック以外にも、独自な特性を持つ製品を展開しています。主なものとして、液状ゴム<クラプレン>、透明で柔軟なアクリル系熱可塑性エラストマー(ゴム)<クラリティ>、高耐熱性樹脂<ジェネスタ>があり、いずれも売上拡大が期待できます。

<投資に至った背景>
日本企業の中では、当社は今後もまずまずの成長が期待できる一社と捉えていたのですが、市場も妥当な評価をしていたため、株式を買うには至っていませんでした。しかし昨年(2012年)は株価が低調に推移したため、割安な金額に達したと判断し、投資することにしました。

1. 主力製品の継続的成長
当社が成長できると考える理由は、主力製品ポバールやエバールがいくつかの観点で利益拡大が期待できるからです。個別にみると第一にあげられるのが、地域的な市場の拡大です。直近の動向としては北米において、生産拠点を拡大したり、川下の企業を買収して展開を進めています。

第二に、適用製品の拡大です。これは、日常的なマーケティングで進められる一般的なものです。が、以前に信越化学の回でも感じたのですが(過去記事)、上流に近い素材製品は市場での認知が進むと代替品への切り替えが起こりにくく、製品ライフサイクルが長期にわたる傾向があります。ポバールやエバールといった製品も、性能を顧客に認知してもらい、既存材料からの切り替えがまだ進行している段階です。軽薄短小化の進展も追い風となっています。マーケットシェアの面でもリードしており、優位な立場にあります。いずれはより高性能な素材に置き換えられたり、価格面で譲歩を余儀なくされるのでしょうが、顧客や適用先が多様で、シェア全体が浸食されるには時間がかかります。

第三が、コスト増に伴う製品価格改定、つまり値上げです。独占・寡占的な地位を活かせる製品については、ナフサ価格の上昇を製品価格へ転嫁することができます。

最後が、生産性向上によるコスト低減です。投資を検討した時点ではこの観点には気づいていませんでした。少し前に読んだ本から受けたアイデアですが(過去記事)、ふりかえってみると当社の説明会で経営陣が「コンパクトな新規設備」と発言していたことが思い出されます。効率化によって利益をしぼりだせるというのは、別の意味で魅力のある事業だとみています。

2. シーズ志向の好循環
研究開発の観点で成功している素材や部品メーカーを観察すると、2つのやりかたがみえます。ひとつは少し先の市場動向を的確にとらえ、すじのよい製品を開発して提供すること。これにあてはまる企業には日東電工やJSRなどが考えられます。マーケティングと研究開発がうまくかみ合った上で経営陣が機動的な采配を発揮することが要求されるため、総合力という意味で模倣しにくい競争力を持つ企業だと評価できます。

もうひとつは、独自の基礎的材料の研究開発や量産化に成功し、応用製品に展開するやりかたです。当社はこちらに当てはまると考えます。このやりかたの評価できる点は、2つの個人的な仮説に基づいています。第一が「独自な基礎材料は、応用の際にも独自の性質をあらわしやすい」とするものです。新規の適用先を探究する際に、独自な特性を持つ材料はそもそも化学組成や構造に特徴があるため、応用したあとでもそれが引き継がれ、思わぬ特性を導き出すのではないかと想像します。第二に「シーズをみきわめて育てる好循環が、企業内のDNAに刻み込まれる」とするものです。一般に、最初の成功を収めて財務的な安定が得られると、ふたたび同じやりかたを志向しやすくなるものです。成功体験に酔って転落することは少なくないので、このサイクル自体は両刃の剣として働きます。しかし第一の仮説が成り立つとしたら、良いサイクルとして働く可能性が高まります。独自性やニッチに生きる道を大切にするようになれば、より自律的な企業文化をはぐくむ可能性を秘めているからです。ただし、現在の当社に対して楽観視しているわけではありません。あくまでも「望ましい可能性が期待できる」という程度です。

3. 好財務
2011年度末の時点で総負債控除後の現金等流動資産がおよそ1,000億円あり、自社株買いや買収に使える点で魅力を感じました。なお当社の有形固定資産純額(除く建設仮勘定)は、約1,300億円です。

<リスク>
1. 次の大型製品がみえないこと
上の図で示したように、利益の大半を樹脂事業(ポバールやエバール)に依存しており、多岐な採用が見込まれる他の基礎的製品は顕在化していません。市場の開発は日々の地道なマーケティングを踏まえたものであり、将来の市場の幅や深さを予想するのは難しいものです。さらに投資家の視点で当社の次世代製品を占うには、専門知識と洞察力が要求されます。その意味で、個人的には次の大型製品の可能性はまったくみえていません。

2. ディスプレイ市場における、液晶から新技術への急速な変化
上記と関連する話題ですが、液晶パネルの偏光板の材料であるポバールフィルムにおいて当社は市場を寡占しており、高水準の利益率を維持していると思われます。そのためディスプレイの市場や技術動向が当社の利益に大きく影響するとみるべきです。直近のニュースで「超複屈折フィルム」を採用した新型液晶パネルがとりあげられていました。これは液晶技術を延命させるのに寄与すると思われる新技術です。しかし、有機ELのような非液晶技術においても革新を目指した研究がすすめられているでしょうから、遠くない時点(たとえば10年以内)で液晶が新技術に置き換えられる可能性は大きいと考えます。

3. 生産拠点の災害リスク
主力生産拠点の岡山事業所は規模が大きく、川上製品を生産していることもあり、災害が発生したときには当社全体でみた製品出荷が滞る恐れがあります。しかし地震リスクの小さい地方であるとともに、国内外に他生産拠点が展開されており、大きなリスクではないと捉えています。

<売買記録>
2012年7月下旬から10月上旬にかけて購入しました。平均購入単価は900円弱で、予想PER9倍程度の金額でした。株価がもっと下落するのに備えていたこともあり、本格的な買い付けには至りませんでした。割安な水準になれば、今後も買い増ししたい銘柄です。

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