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2017年11月4日土曜日

2017年デイリー・ジャーナル株主総会(1)チャーリー・マンガーかく語りき

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バークシャー・ハサウェイの株主総会では、チャーリー・マンガーはウォーレン・バフェットの引き立て役としておとなしくしていますが、チャーリーが会長を務めるデイリー・ジャーナルの総会ではかなりの別人ぶりで、堂々とした独り舞台をみせています。距離が狭いこともあるせいか、参列者からの笑い声も頻繁にあがり、米国で一番楽しい総会かもしれません。


と、そのようなことを書けるのも、Youtubeに投稿されている映像を自宅で観られるからです。こちらのリンク先映像では投稿者の方が質疑項目ごとの目次を作成されており、ありがたいばかりです。(参列者爆笑シーンの一例は23分過ぎ)

Billionaire Charlie Munger: Advice for Business and Life (2017) (Youtube)

また別の方のサイトにはトランスクリプトがあります。

Charlie Munger: Full Transcript of Daily Journal Annual Meeting 2017 (HTML)

今回からの投稿では、今年の2月に開催された株主総会での質疑応答の様子を、上記の資料からご紹介します。今回の話題は、「ウォーレンが学び続けたことがバークシャー成功の要因だった」とする質疑の後半部分です(上記トランスクリプトのQ14)。バークシャーが2006年にイスカル社を買収したときの価格水準の話題と、航空会社への投資の話題です。(日本語は拙訳)

<チャーリー・マンガー> ベン・グレアムならば、イスカル社を買うようなことはしませんでしたよ。簿価の5倍になる金額を支払うのは、グレアムのやりかたではなかったですからね。ウォーレンはグレアムのもとで学びましたが、その後もずっとうまく学んだわけです。私自身も上手に学んできました。このゲームのいいところは、際限なく学び続けられる点ですね。実際のところ、今でもそうしていますから。

今や我々は、「突如として航空会社株を買うようになったのか」と報道されているのですよ。航空会社という商売について過去に我々がなんと発言していたか、覚えていますか。「そこまでひどいビジネスがあるとは、ご冗談でしょう」と考えていたのです。それが今では、航空会社関連の持ち株すべてを合わせると、中小の航空会社を1社分保有していることになります。我々は同じことを鉄道会社でもやりました。「鉄道なんてちっとも良かないね。事業者が多すぎて、トラックとの競争もあるし...」と言ったものです。80年間にわたってひどいビジネスだったことはたしかです。しかし彼の業界にはとうとう4つの大会社しか残っておらず、うまいビジネスへと変わりました。それと似たようなことが航空会社でも起きているわけですよ。

Ben Graham would have never bought Iscar. He paid 5 times book or something for Iscar. It wasn’t in the Graham play. And Warren who learned under Graham, just, he learned better over time. And I’ve learned better. The nice thing about the game we’re in, is that you can keep learning. And we’re still doing it.

Imagine we’re in the press…for all of a sudden (buying) airline stocks? What have we said about the airline business? We thought it was a joke it was such a terrible business. And now if you put all of those stocks together we own one minor airline. We did the same thing in railroads, we said “railroads are no damn good, you know there’s too many of them, truck competition…” And we were right it was a terrible business for about 80 years. But finally they got down to four big railroads and it was a better business. And something similar is happening in the airline business.

工具メーカーのイスカルに対して簿価の5倍を払ったという事実は、初見あるいは見逃していました。あくまでも個人的な見積もりですが、簿価5倍の買収水準はPER25倍から30倍になったとも考えられます。ウォーレンであれば出し渋りそうな金額です。しかし、うろ覚えですがイスカルの買収はチャーリーが熱を入れていたと記憶しています。そうだとすれば、ある程度の高値は納得できます。元から非公開企業だったのでイスカルの経営実態はよくわからないままですが、バークシャーの年次報告書によれば従業員数がこの10年間でほぼ倍増しており、着実に成長している様子がうかがえます。

2017年10月28日土曜日

『かくて行動経済学は生まれり』(マイケル・ルイス)

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『マネー・ボール』の著者マイケル・ルイスの新しい翻訳書『かくて行動経済学は生まれり』を読みました。『マネー・ボール』でデータに基づく意思決定を取り上げた彼は、本書では人間が意思決定を行う際の矛盾に焦点を移し、昨今よく取りあげられている行動経済学の大家ダニエル・カーネマン(過去記事)と、その研究パートナーだった人物エイモス・トヴェルスキーが歩んだ学者人生や兵役生活、研究成果などをたどっています。

おもしろさという点ではマネー・ボールのほうが上をいくと思いますが、本書には評価したい側面があります。「二人の天才を取りあげたこと」は言うまでもありませんが、「天才同士の協調がどのように進められるのかを描いたこと」がそうです。「天才同士が協調して物事にあたる過程や、そこから生まれるもの」については大いに興味がありました。その典型が、ウォーレン・バフェットとチャーリー・マンガーの協調によってバークシャー・ハサウェイが大きく発展した件です。その意味で本書は、予想外のうれしい一冊でした。

今回は、これからお読みになる方の楽しみを損なわない程度に、一部をご紹介します。最初に引用するのは、エイモス・トヴェルスキーの天才ぶりに触れた箇所です。

「(前略)彼は物理学のことを何も知らないのに、道端で物理学者に出会って30分話すだけで、物理学について、その物理学者が知らないことを話すことができた。わたしは最初、彼をきわめて底の浅い人物だと思った。つまり表面をごまかしてとりつくろっているだけなのだと。でもそれは間違いだった。ごまかしなんかじゃなかったんだ」(p. 111)

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エイモスの科学のあり方は、少しずつ積み上げていくというものではなかった」とリッチ・ゴンザレスは言う。「一気に飛躍して進む。既存の理論的枠組みを見つけ、その一般命題を見つける。そしてそれをぶち壊すんだ。彼自身も否定的なスタイルで科学をしていると思っていた。実際、彼は否定的という言葉をよく使った」。それがエイモスのやり方だった。他人の間違いを指摘してやり直す。そしてそのうちに、他にも間違いがあったことがわかるのだ。(p. 127)

次の引用は、さまざまなヒューリスティック(代表性や利用可能性といった、経験を踏まえて判断すること)によって、人があやまった予測をする過程を取り上げた箇所です。この種の話題は、本ブログでも何度か取り上げています。

どんな状況でも、不確実性の程度を判断するさい、人は"無言のうちに憶測"をすると彼らは述べている。「たとえばある企業の利益を予測するときは、その会社がふつうの操業状態であることを前提として推測をする」と、彼らのメモにある。「人はその条件が戦争やサボタージュ、不況、あるいはライバル会社の倒産などで、劇的に変化する可能性を考えない」。ここには明らかに、もう一つの間違いの原因がある。人は自分がわかっていないことをわかっていないというだけでなく、自分たちの無知を判断材料として考慮しようとしないのだ。(p. 216)

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現実の生活で遭遇する多くの複雑な問題、たとえばエジプトがイスラエルに侵攻するかどうか、あるいは夫が他の女のもとに走るかどうかといった問題を前にしたとき、人は頭の中でシナリオを組み立てる。そしてわたしたちが記憶をもとにつくりあげた物語が、確率の計算に取って代わってしまうのだ。「説得力のあるシナリオができると、将来を予測する思考が制限される可能性が高い」と、ダニエルとエイモスは書いている。「不確実な状況がいったんある形で知覚、解釈されると、他の形で見ることは難しくなる」

しかし自分でつくりあげた物語は、材料の利用可能性によってバイアスがかけられている。彼らは「未来のイメージは過去の経験からつくられる」と書いた。これは歴史の重要性についてのサンタヤーナの有名な言葉、「過去を覚えていられない者は、それを繰り返すそしりを受ける」の逆をいくものだ。過去についての記憶が、将来についての判断を歪めかねないと、彼らは言っているのだ。「われわれはよく、ある結果が生じる可能性はほとんど、あるいは絶対にないという判断をくだすが、それはその結果を引き起こす原因となる一連の出来事を想像できないからだ。欠陥は、わたしたちの想像力にある」(p. 219)

備考です。ナシーム・ニコラス・タレブは、想像力を発揮して未来を予測することの難しさについて触れていました。そして、エクスポージャーを予測するほうが容易だとしています(過去記事)。カーネマンのような先達がみつけた知見を踏まえた上での洞察でしょうから、参考にすべき見解だと受け止めています。

2017年10月24日火曜日

いずれ来たる下落を見やった投資家3名の言葉

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今回は、バリュー志向のマネージャーが市場の下落について最近触れていた文章を3つご紹介します。(日本語は拙訳)

はじめは、バリュー・ファンドFPAクレセントのマネージャーとしてよく取り上げているスティーブン・ローミック氏の文章です。彼が書いた第3四半期の顧客向けレター[PDF]から引用します。

たいていの場合、わたしたちが株価を追いかけるのは下落しているときだけです。しかし資金があふれ返っている現在の世界は、喜んで金額を上積みする投資家ばかりの状況です。そのようなわけでわたしたちは、クレセント・ファンドが旨とする保守的な姿勢を維持する道を選んでいるわけです。

「辛抱強く書き物を読み、経営者と対話し、きちんと考える」、これが取り得る最良の道だと確信します。[先日亡くなった]トム・ペティが書いたように、そして私たちもちょうど1年前の結びで書いたように、「待っている間がいちばんつらい」ものです。

We typically only chase price when it is falling. Today though, a world awash in capital has found investors willing to pay ever higher prices. We, therefore, prefer to maintain Crescent’s conservative posture.

We believe the best course is to patiently read, speak to business managers, and just think. As Mr. Petty wrote and as we closed exactly a year ago, “The waiting is the hardest part.”

次はウォーリー・ワイツ氏の文章です。「オマハのバリュー・マネージャー」として知られる人物で、彼についても何度か取り上げたことがあります。こちらも第3四半期の顧客向けレターからの引用です。

投資の世界では、こんな古いジョークがあります。新しく登場した巨大なビジネスの盛衰過程において、成長が鈍化して楽観的過ぎた見通しが実現不可能だったとわかると、成長株投資家は持ち株をGARP投資家(Growth At a Reasonable Price; 成長株を妥当な金額で買う)へ売却します。つづいてその株はバリュー投資家へ売られ、最終的にはどん底バリューを待ち受けていた連中の手にわたる、という筋書きです。それぞれの段階において買い手となる者は、「失望は一時的にすぎない、あるいは株価が下落したおかげで十分に割安になっている」と評価します。その際に、深刻な問題を抱えた「落下するナイフ」と、一時的に誤解されている割安な証券とを判別できること、それが決め手となります。

There is an old joke in the investment business that in the life cycle of a great new business, as growth slows and overly optimistic projections fail to materialize, growth investors sell to GARP (growth at a reasonable price) buyers, who sell to value investors, with the shares ultimately ending up in the hands of the deep value crowd. At each stage, the new buyers are making the assessment that the disappointment is temporary or that the stock price has declined enough to create a bargain. The trick is to be able to distinguish between the seriously troubled “falling knife” and the temporarily misunderstood undervalued security.

最後がチャーリー・マンガーです。今年の2月に開催されたデイリー・ジャーナル社の株主総会で彼が発言した内容です。

私からすれば、市場の下落は人生に付き物だと考えますね。長期にわたってこのゲームに関わるつもりならば、そうする必要がでてきます。値段が半分まで下落したときでも、やたらと思い悩まずにやり過ごせますよ。より良い生き方を心がけていれば、資産半減の事態となっても、沈着冷静・端麗優雅に受け流せるでしょう。下落を回避しようとは試みないように。結局はやって来ることです。「自分には来ない」と言う人は、十分果敢に投資していないからですよ。

I regard it as a part of manhood. If you’re going to be in this game for the long haul which is the way to do it. You better be able to handle a 50% decline without fussing too much. Conduct your life so you can handle a 50% decline with aplomb and grace. Don’t try to avoid it. It will come. And if it doesn’t come I’d say your not being aggressive enough”.

2017年10月20日金曜日

2017年バークシャー株主総会(8)バフェットにも矛盾点はある

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バークシャー・ハサウェイ年次株主総会の質疑応答から、生産性向上に関する話題です。この話題はおなじみとなっており、たとえば2015年度の「バフェットからの手紙」で大きく取り上げていました。(日本語は拙訳)

3Gキャピタル社における極端なコスト削減策について

<質問> バークシャーは3Gキャピタル社と提携して取引に参加していますが、彼らが極端なまでにコスト削減をして、何千人もの職を減らしている件について、どのようにお考えですか。

<ウォーレン・バフェット> 3G社の経営陣はかなり近い距離から見てきました。基本的に彼らは、「保有する会社は可能な限り生産的であるべし」との信念を持っています。もちろんですが、この会場におられるみなさんにとっても、オマハの人にとっても、アメリカ中の人にとっても、社会全体の発展は生産性の上昇によってもたらされています。もし生産性に変化がなかったとしたら、現代人の生活は1776年の建国当時の人たちと同じままだったでしょう。3Gの人たちは、そのことをすごい速さで実行しているわけです。彼らの取り組みは非常に巧みで、以前よりも少ない人数で運営することによって生産性を高めています。鉄鋼業界であれ、自動車業界であれ、あらゆる産業でそのような取り組みがなされてきました。そのおかげで、今のように生活水準が向上したわけです。

ちなみにバークシャーが買収する際には、すでに効率的に運営されている企業が望ましいと考えています。率直に言って、わたしどもは生産性を高めるプロセスをまるで楽しめません。心地よく感じられないのです。しかし、そういった取り組みは会社を発展させるためのものです。ひとりの人が消費できる量を2倍に増やそうとしても、一人当たりの生産性を改善させるなんらかの方法がなければ、手の打ちようがありません。「政治的な成り行きが事業に影響しかねない」という理由で、そちらの面から悩みそうだと考えているのでしたら、賢明かどうかはともかくとして、うまいご質問だと思います。そのものずばりの答えなのかわかりませんが、彼らは生産性に焦点を当てて非常に賢明なやりかたで取り組んでいるだけではなく、製品の改善やイノベーションや経営陣に対する様々な要望についても相当なまでに注力していることは、申し上げられます。昼食の際にクラフト・ハインツのチーズケーキを食べてみてください。3Gが抱く基本戦術では、生産性向上と同様に、製品の改良やイノベーションがまさしく大きな部分を占めているという点で、同意してくださると思います。

個人的な話をしますと、何千人もの従業員がいた織物事業に携わっていたころに、ある程度の時間をかけて事業から撤退したことがあります。雇用を増やす事業にくらべると、雇用を減らす事業は楽しくないものです。たしかチャーリーと相談して、「実際に人員を削減して生産性を向上させることを主たる利得とする企業は、バークシャーの買収対象から外す」ことを決めたと覚えています。しかし生産性向上を検討することは、社会全体からすれば望ましいことだと思いますし、3Gの人たちの仕事ぶりも見事だと思います。

<チャーリー・マンガー> 生産性を向上させることに、悪いところは何もないですよ。その一方で、「正しいからといって、即実行することにはつながらない」と理屈づけ、非生産的な意見を表明する例がいろいろと見受けられますね。

<ウォーレン・バフェット> その通りだと思います。

(PDFファイルのp. 27。Yahoo! Finance映像では4:24:20)

3G CAPITAL’S EXTREME COST CUTTING

Q. Berkshire partners with 3G Capital on deals. What do you think of their extreme cost cutting and elimination of thousands of jobs?

Warren Buffett: Essentially, 3G management - I’ve watched them very close - is basically they believe in having a company as productive as possible, and of course, the gains in this world for the people in this room and the people in Omaha and the people throughout America have come from gains through productivity. If there had been no change in productivity, we would be living the same life as people lived in 1776. The 3G people do it very fast, and they’re very good making a business productive with fewer people than operated it before. We’ve been doing that in every industry whether it’s steel or cars. That’s why we live as well as we do.

We at Berkshire prefer to buy companies that are already run efficiently. Frankly, we don’t enjoy the process at all of getting more productive. It’s not pleasant, but it is what enabled the company to progress. Nobody has figured a way to double people’s consumption per capita without in some way improving productivity per capita. It’s a good question, and whether it’s smart overall if you think you’re going to suffer politically because political consequences do hit businesses. I don’t know that I can answer the question categorically, but I can tell you they not only focus on productivity and do it in a very intelligent way but also focus to a terrific degree on product improvement, innovation and all of the other things that you want a management to focus on. At lunchtime if you had the Kraft Heinz cheesecake, you will agree with me that product improvement and innovation is just as much a part of the 3G playbook as productivity.

Personally, we have been through the process of being in a textile business that employed a couple thousand people and went out of business over a period of time. It’s just not as much fun to be in a business that cuts jobs rather than a business that adds jobs. Charlie and I would probably forgo having Berkshire buy businesses where the main benefits would come from increasing productivity by actually having fewer workers. I think it is pro social to think in terms of improving productivity, and I think the people at 3G do a very good job.

Charlie Munger: I don’t see anything wrong with increasing productivity. On the other hand, there’s a lot of counter-productivity publicity to doing it. Just because you’re right doesn’t mean you should always do it.

Warren Buffett: I agree with that.

2017年10月16日月曜日

現在の株高を説明する2つの要因(ジェレミー・グランサム)

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資産運用会社GMOのジェレミー・グランサム氏は、慎重派のマネージャーとして何度か取り上げてきました。しかし昨年後半あたりからの彼は警戒的な主張を弱め、市場の続伸を是認(あるいは諦観)するような見解を述べています。今回は、GMOが四半期ごとに公表しているレターから引用します。統計好きの彼らしく、「2つの指標が市場参加者の心理をあたため続けてきたことが、株高を導いている」と説明しています。(日本語は拙訳)

Why Are Stock Market Prices So High? (GMO Quarterly Letter 2Q 2017) [PDF]

投資や経済の世界では、この20年の間にほぼすべてのことが変化したものの、不変だったものがひとつあります。それは「人間の性質」です。私たちはそのことを多かれ少なかれ証明できますし、少なくとも株式市場における場合はそうだと言えます。

15年前に[同僚の]ベン・インカーと共に、S&P500のPER水準がどのように遷移するかを説明しようと考えて単純なモデルを構築しましたが、最近になって変更を加えました。ただしそのモデルは、PERの水準が理にかなっていることや相応であることを正当化したり、あるいは将来の株価を予測したりすることを狙ったものではありません。影響を及ぼす主たる要因に対して、市場がどのような典型的反応を示してきたのか、その傾向を表すだけのものです。モデルに含まれる要因のうち、格別に重要なものが2つあります。ひとつめが利益率で、高い値のほうが望ましいです。もうひとつがインフレーションで、こちらは安定的かつ低い値が望まれますが、低すぎる場合は除きます。(中略)

直近20年間で生じた大きな変化を理解するために試みてきたことから飛躍すると、まったくもって行動的な取り組みだけとなりました。妥当か否かはともかくとして、投資家は高い利益率にご執心ですし、微々たるものであっても安定した成長を好みます。その反対にインフレーションを嫌います。1925年から1997年の間、投資家の考えはずっとそうでした。そして新たな時代である1997年から2017年の間にも、まったく同じ考えを抱いてきました。つまり投資家の振る舞いという意味からすれば、「新たな時代に入った」とは到底言えません。相関係数にして0.9と、高い精度で以前と同じことを繰り返しています。1929年そして1965年に生じた市場の頂点では、どちらにおいても非常に短い期間でしたが、利益率とインフレの両方が好ましい数字でした。それとは対照的に、1997年から2017年に至るまでのほぼすべての期間において、投資家にとって好ましい状況がつづきました。ただし範疇外として、市場が下落した非常に短い期間が二度ありましたが。

市場とはこれほど容易に説明できるものなのでしょうか。まあ、実に92年分ありますからね。それでは私たち投資家は、この情報をもとに何ができるのか考えてみましょう。まずひとつ言えるのは、もし利益率やインフレ率が従来の標準的水準に戻る時期がやってくるとすれば、市場のPERも従来の平均へと実際に回帰するでしょう。反対にそのような期間がめぐってこないのであれば、PERはおそらく高いままでしょう。またそれとは別にわかることとして、市場の暴落を期待するのであれば、(2008年から2009年に起こったように)利益率が大幅に下落するか、(1979年から81年当時のように)インフレ率が劇的に上昇し続けるか、あるいはそれらの強力な組み合わせが起こるのを待つべきです。当然ながらそのいずれも起こる可能性はありますが、たぶん起こらないと思われますし、少なくともここしばらくはないと思います。

PERの遷移を説明するために私たちがとった行動的アプローチは、過去に試みてきた「各種要因のごった煮」よりも単純な公式で済みます。しかし少し前に書いたレター「鳴動ならんや、さめざめと」[原題はNot With A Bang But A Whimper。T.S.エリオットの詩の一部]のパート1やパート2で触れた論議と著しく似ています。どちらのアプローチにおいても支配的なのが、利益率の役割です。利益率が上昇することで利益の額を直接増加させるのみならず、利益額に適用されるPER倍率も上昇させます。同様にインフレも、どちらのアプローチでも2番目に強力な要因です。もちろんながら低インフレは金利を低下させ、「ごった煮」に含まれる重要な要素になると思われます。(PDFファイル10ページ)

In an investing and economic world in which almost everything seems to have changed in the last 20 years, one thing has remained constant: human nature. And, we can more or less prove it. At least in the case of the stock market.

Ben Inker and I designed a simple model 15 years ago to explain the shifts in P/E levels of the S&P 500. Recently we updated it. Our model does not attempt to justify the P/E levels as logical or deserved, nor does it attempt to predict future prices. It just shows what has tended to be the market’s typical response over the years to major market factors. By far, the two most important of these are profit margins, the higher the better, and inflation, where stable and lower is better, except not too low.

Now, cutting across that previous attempt to understand these major changes in our new 20-year era, comes an entirely behavioral approach. Whether sensibly or not, investors love high margins and like stable growth even if it’s modest, and hate inflation. They felt this way from 1925 to 1997 and they felt exactly the same way in our new era of 1997 to 2017. So, behaviorally it is absolutely not a new era. It is precisely - to a 0.90 correlation - the same ole same ole. The peaks of 1929 and 1965 delivered favorable margins and inflation inputs but for a very short while in both cases. In contrast, the period of 1997 to 2017 has delivered to investors their preferred conditions almost the entire time, with only two very quick time-outs for market breaks.

Can the market really be this easy to explain? Well, it has been for 92 years! And what can we investors do with this information? It tells us that if we re-enter a period of old normal profits and old normal inflation, the market’s P/E will indeed mean revert to its old average. And if we don’t re-enter such a period, the P/Es are likely to stay high. It tells us separately that if we expect a market crash, we should also expect to have a crash in margins (as we did in 2008-09) or a truly dramatic rise in sustained inflation (as we did in 1979-81) or some powerful combination. All of which is possible of course, but I think improbable, at least in the near term.

This behavioral approach to explaining shifts in P/Es is certainly a much simpler equation than my previous stew-of-factors approach. But it does have some powerful similarities to my earlier arguments found in Parts 1 and 2 of “Not With A Bang But A Whimper." In both approaches, the role of profit margins is dominant. Improved margins not only move the earnings up directly, but also the P/E multiplier applied to those earnings. Inflation is also a strong secondary factor in both approaches, for low inflation, of course, drives down the interest rates, which appear to be an important ingredient in the stew.

直近2回の暴落(2000年からのITバブル崩壊と2007年からの世界金融危機)を「非常に短い下落期間」とまとめるあたりは、さすがに投資界の重鎮です。長期的にみればたしかにその通りですが、思い切った投資ができるのは個人的にはそのような時期しかないので、「非常に短い期間」に備えて流動性に気を遣うこのごろです。