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2015年6月20日土曜日

(解答)いいアイディアを生み出す方法(『149人の美しいセオリー』)

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前回の投稿でとりあげた問題に対する解答の文章です。

エレガントなやり方はこうだ。小魚の群れが出てきたら、一飲みにするかわりに、海底を泳いでお腹で泥をならし、逃げ込む巣穴をふさいでしまう。これで食べ放題だ。

ここから何を学べるだろうか。いいアイディアを思いつくには、ダメなアイディアは捨てることだ。秘訣は、簡単で明白だが非効率なやり方を封印して、よりよい解決法が降りてくるようにすること。これがはるか昔、突然変異と自然淘汰の何らかの作用を通じて、大きな魚に起きたことなのだ。早く食べるとか、一口を大きくするといった、当たり前の発想をこねくり回すのはやめて、プランAを捨てれば、プランBが浮かんでくる。あなたが人間なら、二つ目の解決法もうまくいかなければ、それも封印して待ってみよう。三つ目が意識下に現われ、そのまた次が現われ、やがては難攻不落の課題も解決できる。たとえその過程で、直感的に明らかな前提のほとんどを封印しなければいけないとしても。

素人目には、いいアイディアはまるで魔法、稲妻のごとき知的跳躍のように映る。けれどもそれは、先述のようなプロセスの繰り返しの結果であり、魅力的だがミスリーディングな前提を捨てる経験を十分に積んだ結果である可能性が高い。非凡な発想は、実は平凡な発想の中から徐々に姿を現すものなのだ。(中略)

最高の頭脳を持つ者たちが何十年、何百年と挑み続けても古典的課題を解決できないのは、彼らが文化的にあまりに根深い前提に囚われていて、それを覆すことを思いつきもしないか、あるいはそもそも前提の存在にすら気づかないからだろう。だが、文化的文脈は変化する。昨日まで当たり前に思えたことが、今日や明日には、控えめに言っても疑わしく見えてくる。遅かれ早かれ、先人と比べて決して才能に恵まれているわけではないが、根本的に間違った前提という枷を持たない誰かが、あっけなく解決法を思いつくだろう。(p.381)

2015年6月18日木曜日

(問題)いいアイディアを生み出す方法(『149人の美しいセオリー』)

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今年の早いうちに読んだ本『知のトップランナー149人の美しいセオリー』は、「あなたのお気に入りの、深遠で、エレガントで、美しい説明は何ですか?」という題目に対して寄せられたエッセイ集です。学術界で活躍する人たちが主に筆をとっているので、本質的な内容自体は勉強になります。しかしむずかしい主題を短い字数にまとめ、そこから翻訳された日本語を読むわけですから、明瞭明快な文章とは言いにくいところがあります。そうではあるものの、興味の範囲を広げる水先案内としては有用な一冊だと思います(ちなみに、創発についても取りあげられていました)。

今回引用するのは、ニュースクール大学の教授マーセル・キンズボーン氏が書いたエッセイです。解答の部分は次回の投稿でご紹介します。

いいアイディアを生み出すのに、人間である必要はない。あなたが魚でもかまわない。

ミクロネシアの浅い海域に、小魚を食べる大きな魚がいる。小魚は泥の中の巣穴に住んでいるが、餌を食べるときにはわらわらと出てくる。大きな魚は小魚を1匹ずつ平らげようとするが、食べ始めたとたん、小魚たちはさっさと巣穴に戻ってしまう。さて、どうしたものか。

私はもう何年も授業でこの問題を出しているが、私の記憶が確かなら、大きな魚と同じ名案を考え出した学生はたった1人しかいない。(p.381)

蛇足ですが、わたしの出した答えは自己採点で20点といったところでした。

2015年6月16日火曜日

2015年バークシャー株主総会;テレダイン社のシングルトン氏について

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少し前の投稿でご紹介した本『破天荒な経営者たち』に登場していたテレダイン社の元CEOヘンリー・シングルトンのことが、5月2日に開催されたバークシャー・ハサウェイの年次株主総会でも話題になっていました。その箇所をご紹介します。なお、このシリーズの前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問> コングロマリットだったテレダイン社がほぐれたことから学んだことはありますか。

<バフェット> テレダインのCEOだったヘンリー・シングルトンを観察することで、いろんなことを学びました。

<マンガー> シングルトンは我々よりもずっと頭のいい人物でしたよ。彼は目隠しでチェスを指すことができました。しかし投資の面ではバフェットのほうがシングルトンよりうまくやりました。いつも証券のことを考えていたからですね。(笑いながら)シングルトンとくらべると知能指数はかなり劣っていましたが、ウォーレンはうまくやってこられたのです。シングルトンは主要な重役たちを動機づけるのに非常に巧妙なやりかたをしました。ところが最後には3つの事業部がスキャンダルを起こしてしまいました。まちがった動機づけをしたせいで、政府との取引で度が過ぎたのです。

<バフェット> 動機づけが大きな力を持つことをわたしたちは信じています。ですが、隠れた動機づけによってまちがった行動を導くことがないように気をつけています。良識のある人物が誤った行動を起こしてしまう例を一度ならず見てきました。CEOに忠義立てして、数字を達成しようとしたせいです。「金銭的な報酬やエゴを満足させようとして誤った行動をとってしまう」、バークシャーではそうさせる誘因を撲滅するように努めています。

<マンガー> ヘンリーはバークシャーの株式と引き換えにテレダインを売却したがっていましたよ。(含み笑いをしながら)彼はとことん賢明だったわけです。(後略)

Buffett was asked what he learned from the unwinding of the Teledyne conglomerate. Buffett said he learned a lot from watching Henry Singleton, the CEO of Teledyne.

Charlie added that Singleton was a lot smarter than either of them. He played chess blindfolded. However, Buffett did better than Singleton in investing as Buffett was always thinking about securities. Charlie laughed, "Warren was able to get by with his horrible deficit in IQ to Singleton." Singleton had very clever incentives for key executives. In the end, he had three different departments get into scandals. They went too far in dealing with the government due to the wrong incentives being put into place.

Buffett added that they believe in the power of incentives. However, they try to avoid hidden incentives that make people misbehave. He noted that they have seen more than once really decent people misbehave because they felt there was a loyalty to their CEO to deliver certain numbers. At Berkshire, they try to eliminate incentives that would cause people to misbehave for financial rewards or ego satisfaction.

Charlie noted at the end, Henry wanted to sell Teledyne to Berkshire for Berkshire stock. He chuckled, "He was smart to the end."

2015年6月14日日曜日

創発とは(『わたしはどこにあるのか』)

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読了したばかりの本『〈わたし〉はどこにあるのか: ガザニガ脳科学講義』は「人間の意識」とはどのようなものなのか、科学的な説明を試みている著作です。そのなかで説明されていた「創発」という概念をはじめて知りました。チャーリー・マンガーが主張する「とびっきり効果」(Lollapalooza effect)と似ており、印象に残りました(参考記事の例)。今回は創発を説明した箇所を引用します。

創発とはミクロレベルの複雑系において、平衡からはほど遠い状態(無作為の事象が増幅される)で、自己組織化(創造的かつ自然発生的な順応志向のふるまい)が行なわれた結果、それまで存在しなかった新しい性質を持つ構造が出現し、マクロレベルで新しい秩序が形成されることだ。創発には「弱い創発」と「強い創発」の2種類がある。弱い創発とは、元素レベルの相互作用の結果、新しい性質が出現すること。創発された性質は個々の要素に還元できる。つまりレベルが進んでいった段階を把握できるわけで、決定論的な立場と言える。これに対して強い創発では、新たに出現した性質は部分の総和以上なので還元できない。無作為の事象が拡大していくので、基礎的な理論や、別レベルの構造を支配する法則を理解したところで、性質の法則性が予測できない。(p.155)

こちらはおまけで、物理学者ファインマンの発言です。

物理学者が尻尾を巻き、決定論の裏口からこっそり逃げ出したのは、カオス理論も一因だが、量子力学と創発によるところが大きい。リチャード・ファインマンが、1961年にカリフォルニア工科大学の新入生を前に行った講演の中で、こう宣言したのは有名な話だ。「その通り!物理学は降参した。特定の状況で何が起こるのか、予測する術を我々は持たないし、そんなことは不可能だと分かった―予測できるのは異なる事象ごとの確率だけだ。自然界を理解したいという物理学の理想が削られたと言わざるを得ない。ある意味後退でもあるが、それを避ける方法を誰も見つけられなかった……だから当面は、確率計算に専念するとしよう。『当面』といったものの、永遠に続きそうな気がしてならない。この謎を解明するのは不可能であり、これが自然の真の姿なのだ」(p.158)

2015年6月12日金曜日

2015年デイリー・ジャーナル株主総会(6)ポスコ社について

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デイリー・ジャーナル社の株主総会の記事から、チャーリー・マンガーの質疑応答です。前回分と同様にPart2の記事から引用します。(日本語は拙訳)

<質問> デイリー・ジャーナル社が保有するポスコ社の株式についてどう考えておられるのか、お聞かせください。

<マンガー> 非常に興味深い事例ですよ。世界がいかに厳しいところなのか、実際に現われていますね。ポスコは世界中で最も効率的な製鉄会社です。非常に長い期間にわたって、自国内の市場をほぼ独占してきました。にもかかわらず、世界中のどこも持たない非常に重要な製鉄技術を有するにもかかわらず、ふつうの一般的な製鉄会社と同じようにポスコは製品を販売しているのです。

激しい競争がつづく現代の社会では、コモディティー化を避けるのは非常に難しいことです。ダウ・ケミカル社のようなところでもそうでした。博士号を有する化学者を何千人と擁していたものの、彼らが生み出した複雑な化学製品はすべてコモディティーと化してしまいました。ポスコを築いた人たちと同様に有能かつ明晰だった人たちが直面したのは、低調な市場や好ましくない価格といったことだったのです。

コモディティー化したビジネスで儲けを出すことがどれだけ難しくて危険か。また、巨大な優位性があると考えたもののうち、どれだけ多くの事業がコモディティー化しうるのか。この件はそういったことを示していますね。ポスコの例をあげたことで、あなたはこの会合に対してすばらしい貢献を果たしましたよ。どれだけ難しいことなのか、ポスコの秀逸な事例はまさに示しています。これはだれにとっても、考える材料になりますね。

Q: Would you give us your thoughts on the Posco [PKX] position in the Daily Journal Portfolio?

Mr. Munger: It's a very interesting example, as a matter of fact, that shows how hard the world is. That is the most efficient steel company in the world, and it had pretty close to a local monopoly of a whole country for a long, long time. In spite of that, in spite of having some very important steel technology they have that nobody else in the world has, Posco is selling like an ordinary commoditized steel company.

It's very hard to avoid being commoditized in high powered competition in the modern world. In places like Dow Chemical [DOW], have all our complex chemical products commoditized in spite of the fact they've got thousands of PhD chemists, and people as talented and brilliant as the people who created Posco just find the markets low and the prices bad and so forth.

It shows how hard and dangerous it is to make money in a commoditized business, and how many businesses that you formerly thought were hugely advantaged can be commoditized. So, you've done a wonderful service to this meeting by raising the case of Posco. Posco's an excellent example for everybody to think about. It really shows how hard it is.

チャーリー・マンガーに対して「日本のことを不勉強だ」と、以前の投稿で書いたことがあります。今回の質疑応答でもその一面が現われているように思えてなりません。ただし、製鉄業界やポスコ社や新日鉄について調べたことがほとんどないので、わたしのほうが事実を正しく把握できていないのかもしれません。そうだとすれば、すなおに謝りたいと思います。

ミクロな点でチャーリーに異議申し立てしましたが、マクロな視点でとらえれば今回もチャーリーの見解は的確だと思います。有用な科学技術や知識は、歴史上のあらゆる場所で分析・移転・流用・盗用されてきたはずです。「製品自体あるいは製造プロセスの優位性によって、いつまでも勝ち続けることはむずかしい」、この重要な忠告を忘れないようにしたいと改めて感じました。