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2012年3月17日土曜日

誤判断の心理学(8)羨望・嫉妬する傾向(チャーリー・マンガー)

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今回の傾向は、誰にでもわかりやすいでしょう。ねたみ、そねみ、うらやみなど、微妙な意味の違いはありますが、その手の感情です。(日本語は拙訳)

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その8)羨望・嫉妬する傾向
Eight: Envy/Jealousy Tendency

ときに不足してしまう食料を摂取するように進化した種は、最初に食料をみつけるとそれを得ようと躍起になってしまいがちです。また同じ種の自分以外の者が食料を持っているときにも、いさかいが始まりやすいものです。人の本性に深く根ざしている「羨望・嫉妬する傾向」は、進化をたどると、ここに始まるものだったと思われます。

A member of a species designed through evolutionary process to want often-scarce food is going to be driven strongly toward getting food when it first sees food. And this is going to occur often and tend to create some conflict when the food is seen in the possession of another member of the same species. This is probably the evolutionary origin of the envy/jealousy Tendency that lies so deep in human nature.


羨望や嫉妬は、現代社会でもひどくなっています。大学界を例にとると、たとえば資産運用の担当者や外科の教授が標準的な年俸の何倍もとっているとなれば、おかしな方向に進んでしまうのです。もっと極端なのが、投資銀行や法律事務所のたぐいです。大手の法律事務所あたりでは、羨望や嫉妬からくる混乱を避けて、個人の貢献度合いに差があってもシニアパートナーには一律同じ報酬をだしてきたものです。ウォーレン・バフェットと共に何十年も世間をながめてきましたが、そういえば彼はうまいことを繰り返していました。「世界を動かすのは傲慢かと思いましたが、そうではなくて、他をうらやむ力でした」

And envy/jealousy is also extreme in modern life. For instance, university communities often go bananas when some university employee in money management, or some professor in surgery, gets annual compensation in multiples of the standard professorial salary. And in modern investment banks, law firms, etc., the envy/jealousy effects are usually more extreme than they are in university faculties. Many big law firms, fearing disorder from envy/jealousy, have long treated all senior partners alike in compensation, no matter how different their contributions to firm welfare. As I have shared the observation of life with Warren Buffett over decades, I have heard him wisely say on several occasions: “It is not greed that drives the world, but envy.”


投資家は、この傾向に対して二重に注意する必要があると思います。まずは自分自身について。他人や市場の成績に追いつこうと、あせって自分の意思決定を誤ってしまうリスクが考えられます。もうひとつは投資先の経営者について。同業他社、社会動向、公私にわたるつきあいといったものが、経営者の心をゆさぶります。その経営戦略や設備投資は、本当に会社のためになっているのですか? ウォーレンが言うように、どちらに向かおうとしても企業を動かしているのは、他をうらやむ力なのかもしれませんね。

2012年3月16日金曜日

反射的に、にょきにょきと枝をのばす(チャーリー・マンガー)

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以前に取り上げましたが、チャーリー・マンガーが筆頭に挙げるメンタル・モデルは「順列と組み合わせ」でした。ただし、それを使うのが目的ではなく、狙いは決定木(Decision Tree)を描いて将来の期待値を求めることでしょう。今回もおなじみの「Poor Charlie's Almanack」の続きを引用します。過去記事では、前段にあたる文章をご紹介しています(「世の中の働きと驚くほど一致する」「慣れるように習え、そして慣れよ」)。(日本語は拙訳)

十分というには程遠いですが、多くの教育機関はこのこと[順列や組み合わせの重要性]を認識しています。例えばハーバードのビジネス・スクールでは、初年度のクラスの結束を強める上で、彼らが言うところの「決定木理論」が大きな役割を果たしています。何をやるかと言うと、高校で習う代数を実生活上の問題に適用してみる、これだけです。学生にはこれが好評で、高校時代の数学がふだんの暮らしに役立つんだと感激するわけです。

バフェットとはずっといっしょに働いてきましたが、彼のような同僚がいることの強みはいくつかあって、彼は何かを考えはじめると頭の中で反射的に、順列や組み合わせのような初歩的な計算を行って決定木を作ってしまうのも、そのひとつです。

Many educational institutions ? although not nearly enough ? have realized this. At Harvard Business School, the great quantitative thing that bonds the first-year class together is what they call “decision tree theory.” All they do is take high school algebra and apply it to real life problems. And the students love it. They're amazed to find that high school algebra works in life.

One of the advantages of a fellow like Buffett, whom I've worked with all these years, is that he automatically thinks in terms of decision trees and the elementary math of permutations and combinations.


個人的な話ですが、サイコロやトランプといった抽象度の高い事象には、順列や組み合わせといったモデルは、わりと違和感なく適用できるものです。一方、企業の見通しとなると想像力も洞察力も足りず、頭に思い浮かぶのは、ぱっとしないモデルばかりです。実践の回数を意識的に増やさないと、力が伸びないのでしょうね。

2012年3月15日木曜日

最高のリターンをあげているビジネス(ウォーレン・バフェット)

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今回の話題は「最高のリターンを挙げているビジネス」です。早速ですが、ウォーレン・バフェットによる1987年度「株主のみなさんへ」から引用します。

私どもの経験では、最高のリターンを挙げているビジネスは、5年前10年前とよく似たことを今も続けている企業ばかりです。むろん、経営者がそれに甘んじてよいとは言っておりません。ビジネスには、サービス、製品群、製造技術などを改善する機会がいつでもあるので、それらは取り組むべきでしょう。ですが、度々大きな変化にさらされるビジネスは、大失敗をするリスクも大きくなります。その上、激しく動き続ける、いわば「経済的な」地域に、堅固鉄壁なフランチャイズを築くのは難しいときたものです。そのてのフランチャイズこそ、高いリターンをあげ続けるための鍵なのですが。

Experience, however, indicates that the best business returns are usually achieved by companies that are doing something quite similar today to what they were doing five or ten years ago. That is no argument for managerial complacency. Businesses always have opportunities to improve service, product lines, manufacturing techniques, and the like, and obviously these opportunities should be seized. But a business that constantly encounters major change also encounters many chances for major error. Furthermore, economic terrain that is forever shifting violently is ground on which it is difficult to build a fortress-like business franchise. Such a franchise is usually the key to sustained high returns.


ウォーレンの「5年前10年前云々」はトートロジー的に聞こえますが、別の言い方をすれば「製品やサービスの寿命が長い」ということだと思います。そこを足場に、何らかの強みをいかしてMoatを築く。ウォーレンやチャーリー・マンガーが好むビジネスの姿です。

そういえば、「製品寿命が長い」という戦略は、マニーの社長が強調していたのを思い出します(例えば第51期決算説明会資料のPDFファイルp.18)。同社の株価は最近の上昇相場には追いつけていませんが、間違いなく注目に値する企業のひとつです。

ウォーレンの文章でもうひとつ重要な点が、赤字で示した「度々大きな変化にさらされるビジネスは、大失敗をするリスクも大きくなる」。さりげなく確率論的な表現ですが、ウォーレンもチャーリーも数学好きですので、こういう思考は自然に浮かび上がるのでしょう。

2012年3月14日水曜日

ブラック・マンデー前夜(ウォーレン・バフェット)

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1987年の株価大暴落は10月19日ブラック・マンデーで有名です。1日の下落率が22%、日経平均10,000円の感覚では7,800円まで下がることになります。ウォーレン・バフェットにとっては重要な年で、この下落がコカ・コーラ社に投資するきっかけとなりました。今回は、ウォーレンの「株主へのみなさんへ」から数字を拾い、ブラック・マンデー前のバークシャー・ハサウェイの動きをまとめてみました。

まずは市場の動きとして、ダウ工業平均のチャートを載せました。暴落前の2年間は株価が大きく上昇し、ざっと2倍になっています。








一方のウォーレンです。「1987年の春には主要銘柄を残して他の株式は処分した」とどこかで読んだ記憶があり、そのときには「身を引くのが上手だな」と感じていたのですが、今回調べてみると若干事情が異なりました。どうやらウォーレンが1987年に売却した普通株はそれほどではなく、大半は手つかずのままだったようです。「永久保有銘柄」と宣言して保有し続けたABC、GEICO、ワシントン・ポストが、株式ポートフォリオの大半を占めていたからです。一方、その他の企業は前年の1986年までにはあらかた処分し、保有比率が小さくなっていました。








この傾向から得た、個人的な教訓は次の3つです。

1.真に価値ある企業を見つけ、機会を見て集中投資する。
2.株価が大きく上昇すれば、継続保有に値しない企業の株式は処分する。
3.機会の高まりとともに、それなりの余裕資金を準備する。

日本市場はまだ息を吹き返したばかりです。この観察が何かの役に立つのは、ずいぶん先になりそうです。

なお、上の図には挙げていませんが、優先株としては1987年に「問題児」ソロモン・ブラザーズに7億ドルを投資しています。

2012年3月13日火曜日

辛抱できなくて、何かしたくなったときには(チャーリー・マンガー)

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2000年に開催されたWesco年次総会でのチャーリー・マンガーの発言を引用します。おなじみ「Seeking Wisdom」からの孫引きです。(日本語は拙訳)

我々はより柔軟になりましたし、単にいろいろやっているというだけのアホなことをしでかさないように、ある種の原則を身につけました。じっと辛抱していられなくて何かしたくなれば、それこそやらない、という原則です。

We've got great flexibility and a certain discipline in terms of not doing some foolish thing just to be active - discipline in avoiding just doing any damn thing just because you can't stand inactivity. (p.100)


発言の時期は、ちょうどアメリカでITバブルが峠を越した頃です。この発言の文脈が想像できます。

余談ですが、当時のナスダック指数は4,000-5,000あたりで、今は3,000弱です。ダウ平均は逆に上昇しています。一方の日経平均は当時にピーク20,000円をつけて、現在は10,000円です。