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2016年1月26日火曜日

ガルブレイスの好んだ寒々とした世界(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーが2000年にフィランソロピー円卓会議で行った講話の5回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

次にあげたいのは、経済学者の伝統的な考えにおいて、bezzle(ベズル)という考えに含まれる意味を考慮していないことがよくある点です。もう一度言いますよ、「ベ・ズ・ル」です。

この「ベズル」という言葉は「横領(embezzle)」という言葉を短縮したものです。ある期間において未発覚の横領が増加した数量を示すために、ハーバードにいた経済学者ジョン・ケネス・ガルブレイスが考案しました。彼は、1ドル当たりでみた未発覚の横領が、消費に対して非常に強力な刺激を与える様子を観察したことから、この言葉を考え出したのですね。結局は、横領をした者は実入りが増えるので消費を増やしますし、雇用主のほうは自分の資産が消えたとは露ほども知らず、以前と同じように消費するわけです。

しかしガルブレイスは自分の洞察をそれ以上押し進めませんでした。物議を醸すだけにとどめることで満足していたのです。ですから、これから私がガルブレイスの持ち出した「ベズルな」概念を、論理的に考えられる次の段階に進めてみることにしましょう。ケインズが示したように、収入の動きに敏感な経済では、たとえば針子(はりこ)が靴職人へコートを20ドルで売れば、靴職人は消費に回せる金銭が20ドル減りますし、針子のほうは20ドル増えます。この場合、消費全体でみると「とびっきりな」効果は生じません。ところがそこで政府が20ドル札を1枚刷って靴を1足買えば、靴職人は20ドル増えることになり、貧しさを感じる者はいなくなります。さらに靴職人がコートを買って…というプロセスが連続すれば、無限に増えることはないものの、ケインズが言うところの乗数効果が生まれます。これは消費における、ある種の「とびっきりな」効果ですね。それと同じで、未発覚の横領は同規模の誠実な物々交換とくらべて、1ドル当たりでみた消費に対して強い刺激を与えます。スコットランド人であったガルブレイスは、自分の洞察が示した荒涼とした世界を好んでいました。結局のところスコットランド人たる彼は、さだめであって修正のきかぬ出来たての天罰を喜んで受け入れたのです。我々にとってガルブレイスの洞察は心惹かれるものではありません。にもかかわらず、彼の考えが大筋で正しいことは認めなければならないでしょう。

For another thing, the traditional thinking of economists often does not take into account implications from the idea of “bezzle”. Let me repeat: “bezzle,” B-E-Z-Z-L-E.

The word “bezzle” is a contraction of the word “embezzle”, and it was coined by Harvard Economics Professor John Kenneth Galbraith to stand for the increase in any period of undisclosed embezzlement. Galbraith coined the “bezzle” word because he saw that undisclosed embezzlement, per dollar, had a very powerful stimulating effect on spending. After all, the embezzler spends more because he has more income, and his employer spends as before because he doesn’t know any of his assets are gone.

But Galbraith did not push his insight on. He was content to stop with being a stimulating gadfly. So , I will now try to push Galbraith’s “bezzle” concept on to the next logical level. As Keynes showed, in a naive economy relying on earned income, when the seamstress sells a coat to the shoemaker for twenty dollars, the shoemaker has twenty dollars less to spend, and the seamstress has twenty dollars more to spend. There is no lollapalooza effect on aggregate spending. But when the government prints another twenty-dollar bill and uses it to buy a pair of shoes, the shoemaker has another twenty dollars, and no one feels poorer. And when the shoemaker next buys a coat, the process goes on and on, not to an infinite increase, but with what is now called the Keynesian multiplier effect, a sort of lollapalooza effect on spending. Similarly, an undisclosed embezzlement has stronger stimulative effects per dollar on spending than a same-sized honest exchange of goods. Galbraith, being Scottish, liked the bleakness of life demonstrated by his insight. After all, the Scottish enthusiastically accepted the idea of pre-ordained, unfixable infant damnation. But the rest of us don’t like Galbraith’s insight. Nevertheless, we have to recognize that Galbraith was roughly right.

備考です。同じガルブレイスの話題は、過去記事「Febezzlement」でも取りあげています。

2016年1月24日日曜日

望まない習慣に生活を支配される(『脳が冴える勉強法』)

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チャーリー・マンガーやウォーレン・バフェットが好んで使う表現のひとつに、「習慣という鎖は、初めは軽すぎて感じられないが、やがて重くなって壊せなくなる」というものがあります。過去記事で何度かとりあげています(例1例2)。 最近読んだ本『脳が冴える勉強法』でも同じことに触れた箇所がありましたので、以下に引用します。

ヘッブの法則[脳神経ネットワークの同じ箇所に同じ刺激が繰り返し与えられることで、学習がなされる]が重要な意味を持つのは、学習の原理としてだけではありません。人間の行動が強化される原理、つまり習慣化の原理としても、ヘッブの法則は重要な意味を持っています。

習慣化の原理として考えたときに、ヘッブの法則が怖いのは、それが望むと望まざるとにかかわらず、起こってしまう、ということ。本人が望んでいなくても、繰り返した行動がヘッブの法則により強化されてしまう、ということです。

たとえば、デスクについてまずパソコンを起動させる。起動させたら、まずブラウザを立ち上げる。ブラウザを立ち上げたら、何となくニュースサイトを読み始めて、特に興味のない記事までリンクを辿って読んでいく。そういう行動を毎日繰り返したとします(それが悪いことだというわけではありませんが)。

そうすると、その行動を習慣化したいと望んでいるわけではなくても、その行動にまつわる回路が強化されます。デスクにつくというきっかけの行動を取っただけで、後は自動再生されるように、一連の行動をとってしまう。

生活のごく一部にそういう望まない習慣を持っているだけならいいですが、私たちは普段から注意していないと、いつの間にか望まない習慣に生活を支配されている状態になりがちです。

サミュエル・スマイルズの『自助論』の中に、次のような表現が出てきます。

「時間の浪費は、精神に有害な雑草をはびこらせる」

神経学的に翻訳するなら、実際に(脳の中に)はびこるのは、悪習慣の強い回路です。そして、いつの間にかそれに動かされて、膨大な時間を浪費するようになってしまう。

これは若い頃だけの話ではありませんが、若い人の方が残されている人生の時間が長いので、より大きな損失を被るのは確かだと思います。(p.136)

2016年1月22日金曜日

バリュー投資家は難しい時期に恩恵を受ける(セス・クラーマン)

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2009年3月のOID誌に掲載されたセス・クラーマンの講演記事から引用がつづきます。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<クラーマン> 短期的な成績を追求する投資ビジネスに固有の圧力に抵抗でき、狙いを定め続けられるバリュー投資家は、むずかしい時期でさえも利益を上げることのできる多面的で柔軟な各種の道具を備えています。第一に、バリュー投資家はおのれの原則を守って良い時も悪い時も辛抱し続けられるので、割安な銘柄を保有できます。これは根底にある価値よりも割安に買った証券なので、安全余裕を授けられています。ただし保有銘柄の株価が下落しないとか下落などありえない、という意味ではありません。株価が下落すれば買い増しを検討したくなるような、より好ましいバーゲン銘柄になるという意味です。高い割合で借り入れをしている企業の株式や問題を抱えた金融会社、いつまで経っても大きくなれない事業やリスクの大きいジャンク債、そのような証券には手を出さないとする規律を厳格に守ってきたバリュー投資家は、むずかしい時期にはまちがいなく恩恵を受けます。それらの投機的な銘柄を保有している人は、市場が下落するとみずからの選択を早々に後悔することになるでしょう。(p. 2)

Klarman: Value investors who are able to maintain their focus and resist the pressures inherent in the investment business to pursue short-term results have a multifaceted and adaptable tool kit that should allow them to prosper even in difficult times. First, by maintaining their discipline and by remaining patient in good times and bad, value investors own bargains - securities trading at a discount to underlying value which confer a margin of safety. This doesn't mean those holdings can't or won't drop in price; it means that when they decline, they'll be an even better bargain to which you are likely to seek to add. In difficult times, value investors certainly benefit from their relentlessly-kept discipline by having avoided highly-leveraged stocks, troubled financials, perpetually marginal businesses, and risky junk bonds. When the market drops, holders of such speculations quickly regret their choices.

2016年1月20日水曜日

投資家がみせる行動特性で注目すべきもの(ハワード・マークス)

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オークツリーの会長ハワード・マークスが新しいレターを公開しています(1月14日付)。今回引用する箇所は短い文章なので翻訳をつけるまでもないですが、いつもの形でやっています。なお投資雑誌Barron'sのWebサイトでも、全文がそのまま掲載されていました。

On the Couch [PDF] (Oaktree Capital Management)

投資家がみせる行動特性の中でもっとも注目すべきひとつとして、悲観的なものごとが生じてもしばらくの間は見過ごしたり、あるいはその重要性を軽視したりしがちな点が挙げられます。しかし結局は下落の途中で降参し、今度は過剰に反応するのです。私としては、そういった行動の多くは心理的な弱点に因るものであり、そうでなければ出来事が持つ本当の重要性を的確に評価する能力がないことに帰すると考えています。(p. 4)

One of the most notable behavioral traits among investors is their tendency to overlook negatives or understate their significance for a while, and then eventually to capitulate and overreact to them on the downside. I attribute a lot of this to psychological failings and the rest to the inability to appreciate the true significance of events.

2016年1月18日月曜日

さらばシボレー、ようこそキャデラック(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーが2000年にフィランソロピー円卓会議で行った講話の4回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

しかしそのような経済学的考えかたはまちがいなく、現在の実情を相当誤解していますね。まちがった数字を見ていますし、まちがった疑問を投げかけています。それでは究極のアマチュアたる私がもう少し上手なやりかたを、あるいは少なくとも若干は異なるやりかたを大胆にも試みてみましょう。

ひとつめとして、たぶん次の内容で合っていると思いますが、「FRBのデータ群は実際的な障害のせいで年金から生じる影響を適切に考慮していない」とする話を聞いたことがあります。これには401Kや同様の制度などが含まれます。たとえば次のような例を考えてみましょう。ある63歳になる歯科医が私的年金口座でGE株を100万ドル分保有しているとします。ところが株価が上がって持ち分が200万ドルになると、気分がほくほくした歯科医はかなり古くなったシボレーを下取りに出して、新しいキャデラックを現在一般的なタダのような料率のリースで乗り始めます。私からすればこれは言うまでもなく、歯科医の消費行動に大きな「資産効果」が働いています。しかしFRBのデータを使う多数の経済学者にすれば、この状況が歯科医による浪費性の貯蓄取り崩しにみえるのではないですかね。しかし彼や彼と同じような人たちが多額の消費をしたのは、年金にかかわる非常に強力な「資産効果」が働いたからだと思いますよ。ですから、現在生じている年金制度由来の「資産効果」は些細とは程遠いものであり、過去に生じたものよりもずっと巨大であることは間違いないと思います。

I believe that such economic thinking widely misses underlying reality right now. To me, such thinking looks at the wrong numbers and asks the wrong questions. Let me, the ultimate amateur, boldly try to do a little better, or at least a little differently.

For one thing, I have been told, probably correctly, that Federal Reserve data collection, due to practical obstacles, doesn’t properly take into account pension effects, including effects from 401(k) and similar plans. Assume some sixty-three-year-old dentist has $1 million in GE stock in a private pension plan. The stock goes up in value to $2 million, and the dentist, feeling flush, trades in his very old Chevrolet and leases a new Cadillac at the giveaway rate now common. To me, this is an obvious large “wealth effect” in the dentist’s spending. To many economists, using Federal Reserve data, I suspect the occasion looks like profligate dissaving by the dentist. To me, the dentist, and many others like him, seems to be spending a lot more because of a very strong pension-related “wealth effect.” Accordingly, I believe that present-day “wealth effect” from pension plans is far from trivial and much larger than it was in the past.