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2015年6月14日日曜日

創発とは(『わたしはどこにあるのか』)

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読了したばかりの本『〈わたし〉はどこにあるのか: ガザニガ脳科学講義』は「人間の意識」とはどのようなものなのか、科学的な説明を試みている著作です。そのなかで説明されていた「創発」という概念をはじめて知りました。チャーリー・マンガーが主張する「とびっきり効果」(Lollapalooza effect)と似ており、印象に残りました(参考記事の例)。今回は創発を説明した箇所を引用します。

創発とはミクロレベルの複雑系において、平衡からはほど遠い状態(無作為の事象が増幅される)で、自己組織化(創造的かつ自然発生的な順応志向のふるまい)が行なわれた結果、それまで存在しなかった新しい性質を持つ構造が出現し、マクロレベルで新しい秩序が形成されることだ。創発には「弱い創発」と「強い創発」の2種類がある。弱い創発とは、元素レベルの相互作用の結果、新しい性質が出現すること。創発された性質は個々の要素に還元できる。つまりレベルが進んでいった段階を把握できるわけで、決定論的な立場と言える。これに対して強い創発では、新たに出現した性質は部分の総和以上なので還元できない。無作為の事象が拡大していくので、基礎的な理論や、別レベルの構造を支配する法則を理解したところで、性質の法則性が予測できない。(p.155)

こちらはおまけで、物理学者ファインマンの発言です。

物理学者が尻尾を巻き、決定論の裏口からこっそり逃げ出したのは、カオス理論も一因だが、量子力学と創発によるところが大きい。リチャード・ファインマンが、1961年にカリフォルニア工科大学の新入生を前に行った講演の中で、こう宣言したのは有名な話だ。「その通り!物理学は降参した。特定の状況で何が起こるのか、予測する術を我々は持たないし、そんなことは不可能だと分かった―予測できるのは異なる事象ごとの確率だけだ。自然界を理解したいという物理学の理想が削られたと言わざるを得ない。ある意味後退でもあるが、それを避ける方法を誰も見つけられなかった……だから当面は、確率計算に専念するとしよう。『当面』といったものの、永遠に続きそうな気がしてならない。この謎を解明するのは不可能であり、これが自然の真の姿なのだ」(p.158)

2015年6月12日金曜日

2015年デイリー・ジャーナル株主総会(6)ポスコ社について

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デイリー・ジャーナル社の株主総会の記事から、チャーリー・マンガーの質疑応答です。前回分と同様にPart2の記事から引用します。(日本語は拙訳)

<質問> デイリー・ジャーナル社が保有するポスコ社の株式についてどう考えておられるのか、お聞かせください。

<マンガー> 非常に興味深い事例ですよ。世界がいかに厳しいところなのか、実際に現われていますね。ポスコは世界中で最も効率的な製鉄会社です。非常に長い期間にわたって、自国内の市場をほぼ独占してきました。にもかかわらず、世界中のどこも持たない非常に重要な製鉄技術を有するにもかかわらず、ふつうの一般的な製鉄会社と同じようにポスコは製品を販売しているのです。

激しい競争がつづく現代の社会では、コモディティー化を避けるのは非常に難しいことです。ダウ・ケミカル社のようなところでもそうでした。博士号を有する化学者を何千人と擁していたものの、彼らが生み出した複雑な化学製品はすべてコモディティーと化してしまいました。ポスコを築いた人たちと同様に有能かつ明晰だった人たちが直面したのは、低調な市場や好ましくない価格といったことだったのです。

コモディティー化したビジネスで儲けを出すことがどれだけ難しくて危険か。また、巨大な優位性があると考えたもののうち、どれだけ多くの事業がコモディティー化しうるのか。この件はそういったことを示していますね。ポスコの例をあげたことで、あなたはこの会合に対してすばらしい貢献を果たしましたよ。どれだけ難しいことなのか、ポスコの秀逸な事例はまさに示しています。これはだれにとっても、考える材料になりますね。

Q: Would you give us your thoughts on the Posco [PKX] position in the Daily Journal Portfolio?

Mr. Munger: It's a very interesting example, as a matter of fact, that shows how hard the world is. That is the most efficient steel company in the world, and it had pretty close to a local monopoly of a whole country for a long, long time. In spite of that, in spite of having some very important steel technology they have that nobody else in the world has, Posco is selling like an ordinary commoditized steel company.

It's very hard to avoid being commoditized in high powered competition in the modern world. In places like Dow Chemical [DOW], have all our complex chemical products commoditized in spite of the fact they've got thousands of PhD chemists, and people as talented and brilliant as the people who created Posco just find the markets low and the prices bad and so forth.

It shows how hard and dangerous it is to make money in a commoditized business, and how many businesses that you formerly thought were hugely advantaged can be commoditized. So, you've done a wonderful service to this meeting by raising the case of Posco. Posco's an excellent example for everybody to think about. It really shows how hard it is.

チャーリー・マンガーに対して「日本のことを不勉強だ」と、以前の投稿で書いたことがあります。今回の質疑応答でもその一面が現われているように思えてなりません。ただし、製鉄業界やポスコ社や新日鉄について調べたことがほとんどないので、わたしのほうが事実を正しく把握できていないのかもしれません。そうだとすれば、すなおに謝りたいと思います。

ミクロな点でチャーリーに異議申し立てしましたが、マクロな視点でとらえれば今回もチャーリーの見解は的確だと思います。有用な科学技術や知識は、歴史上のあらゆる場所で分析・移転・流用・盗用されてきたはずです。「製品自体あるいは製造プロセスの優位性によって、いつまでも勝ち続けることはむずかしい」、この重要な忠告を忘れないようにしたいと改めて感じました。

2015年6月10日水曜日

2015年バークシャー株主総会;インフレにまつわるジレットの話

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5月2日に開催されたバークシャー・ハサウェイの年次株主総会から、インフレについてです。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問> インフレ環境下で保有するのは何が一番よいですか。

<バフェット> いちばんなのは、一度買ったらそれっきり追加の資本投資がいらないビジネスです。不動産一般がその好例です。55年前に家を自分で建てたり買ったりした出費は一度きりで、それからはインフレーションによって価値が増大したのです。公益関連や鉄道といった事業では、インフレの間は減価償却額に釣り合わないほど資金を食いつづけます。概して言えば、大量の資本投資が必要などんな事業も、得てして儲からないものです。一方、インフレの間に保有するものとしてブランドはすばらしいです。シーズ・キャンディー社はずっと昔にブランドを築きました。インフレ期間中にブランドの価値は増加します。強いブランド力のある製品がことごとくそうなるのと同じです。ジレット社は1939年に全ワールド・シリーズのラジオ放送権を10万ドルで買いました。ヤンキース対レッズを放送した年です。その後何十年もつづいたシリーズによって、ジレット製品に対する印象が形作られました。1939年当時のドルで投資したものが、1960年代から80年代のドルで利益をあげてくれたのです。しかし、何百万という人たちに同じような印象を持ってもらうには、今となってはとても高くつきます。

<マンガー> たしかにそうですけれど、インフレーションが完全に制御不能になってしまうと、最後にどうなるかは誰にもわからないですよ。大恐慌の前にあった2回の大インフレがヒトラーを生みだしたのです。シーズ・キャンディーに望ましいからといって、インフレは望みませんね。

A related question asked which businesses are the best to own in an inflationary environment. Buffett responded the best business is one that you buy once and subsequently do not have to keep making capital investments. Real estate in general is a good example. If you built your own house or bought one 55 years ago, it was a one-time outlay. You then get an inflationary expansion in value. At businesses such as utilities or railroads, they keep eating up more money with depreciation charges inadequate during inflationary times. Any business with a heavy capital investment tends to be a poor business generally. A brand is a wonderful thing to own during inflation. See's Candies built their brand years ago. The value of a brand increases during inflation, as do any strongly branded goods. Gillette bought the entire radio rights to the World Series in 1939 for $100,000 when they broadcast the Yankees vs. Reds. Impressions of Gillette products were made during the Series that lasted for decades. A great investment that was made in 1939 dollars paid off in 1960-1980 dollars. Similar impressions on millions of minds now would cost a fortune.

Charlie agreed but said if inflation ever gets completely out of control, we have no idea how it would end up. The twosome of great inflation followed by the Depression brought us Hitler. He stated, "We don't want inflation because it's good for See's Candies."

2015年6月8日月曜日

肉屋とレジ打ちと法律家とパンケーキ(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーの講演「2003年に露呈した巨大金融不祥事について」の10回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

巨大不祥事を招いた専門家らに対して、公衆は激しい反感を抱きました。当然ながら会計業界がもっとも非難されました。会計原則をさだめる団体の略称は、昔から「FASB」[ファズビー]と呼ばれてきました。しかし今やほとんどの人は「いまだにインキチ会計報告(Financial Accounts Still Bogus)」と解釈しています。

経済学者に対しても大きな批判がむけられました。あやまった会計に対して注意をださず、またそのやりかたが広く使われることでマクロ経済的な悪しき影響が不可避となるのをきちんと警告しなかった、それらに対する批判です。伝統的な経済学者に対する失望があまりに大きかったため、ハーバード大学のジョン・ケネス・ガルブレイスが[俗に言う]ノーベル経済学賞を受賞することになりました。つまるところ彼は以前に、「企業において大規模な横領行為が露見しないまま続くことで、ありがたくも経済を刺激する影響をもたらす」と予言していたのです(参考記事)。2003年に先立つ年に起きたことは、ガルブレイスがかつて予言した内容と非常に近いできごとでした。そしてそれが原因のひとつとなって大きな景気後退が生じました。今となればどちらも理解できると思います。

議会や証券取引委員会が大勢の法律家を使い、その法律家が多大な労力を費やして開示対象の会計文書をとりまとめました。今ではそれがインチキとみられており、「法律家」に関する新たな冗談が一週間ごとに生まれました。一例をあげておきましょう。肉屋が「法律家の評判は見事なまでに外れちまったね」と言うと、レジ係がこう答えたとさ。「で、飛んでくるパンケーキをどれだけ見事に外せたわけ?」

There was huge public antipathy to professions following the Great Scandal. The accounting profession, of course, got the most blame. The rule-making body for accountants had long borne the acronym "F.A.S.B." And now, nearly everyone said this stood for "Financial Accounts Still Bogus".

Economics professors, likewise, drew much criticism for failing to blow the whistle on false accounting and for not sufficiently warning about eventual bad macroeconomic effects of widespread false accounting. So great was the disappointment with conventional economists that Harvard's John Kenneth Galbraith received the Nobel Prize in economics. After all, he had once predicted that massive, undetected corporate embezzlement would have a wonderfully stimulating effect on the economy. And people could now see that something very close to what Galbraith had predicted had actually happened in the years preceding 2003 and had thereafter helped create a big, reactive recession.

With Congress and the SEC so heavily peopled by lawyers, and with lawyers having been so heavily involved in drafting financial disclosure documents now seen as bogus, there was a new "lawyer" joke every week. One such was: "The butcher says ‘The reputation of lawyers has fallen dramatically', and the check-out clerk replies, 'How do you fall dramatically off a pancake?'"

2015年6月6日土曜日

見ざる、聞かざる(スティーブン・ローミック)

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少し前の投稿で取りあげたファンド・マネージャーのスティーブン・ローミックが、好調な他のファンドはどうかとそわそわする顧客をなだめるような文章を書いていました(共著)。一部を引用してご紹介します。(日本語は拙訳)

The Importance of Full Market Cycle Returns [PDF] (FPA)

「市場サイクルの全期間」とは「ある頂点を起点として、そこから15%以上下落したあとに反転し、新高値となる次の頂点に至るまでの期間」と定義することもできます。刊行物やデータ提供業者が市場サイクル全期間あたりのリターンについて、注目しないのは当然としても、発表すらしないことがほとんどです。しかしそれらを理解しておけば、長期的にみたポートフォリオのリターンに寄与しうる、とわたしたちは確信しています。

バークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェットは、2013年度版のレターでこう書いています。「2007年末から2013年末に至る株式市場のサイクルにおいて、当社はS&P500を凌駕しました。今後あらわれる幾多の市場サイクルでも、同じことができればと思っております。それができなければ、そのときのわたしどもは報酬を受けとっていないことでしょう。結局のところ、インデックス・ファンドはいつでも保有できるわけで、そうすればS&P500の成果が保証されるのですから」。

(中略)

2000年あるいは2007年の直前3年間や5年間にめざましい成績をあげた多くのポートフォリオ・マネージャーは、その後の弱気相場でみずからの成績(そしてもっと大切なのは顧客の資本)が大幅に縮小するのをながめることになりました。それとは別に、厳しい環境下で投資元本をうまく護ったポートフォリオ・マネージャーもいました。しかし彼らは市場が割安になったときに資本を適切に投じなかったため、その顧客は市場サイクル全期間でみたリターンが平均以下の成績にとどまってしまいました。

長期志向の投資家にとって、市場の頂点同士のあいまに起こることは単なる雑音にすぎないのかもしれません。そうだとしたら次の図をみてください。そして、ひとつ前の市場サイクル(2000-2007年)でS&P500がどうなったのか、2007年以降つづいている現在の市場サイクルでも同じように考えてみてください。すぐれた企業の株式を保有しているか、あるいは有能な運用者に投資を任せているかしていれば、緑の丸印の間で上下している最中は耳を(ときには目も)覆っていたほうがよかったことがわかると思います。


A full market cycle can be defined as a peak-to-peak period that contains a price decline of at least 15% from the previous market peak, followed by a rebound that establishes a new, higher peak. Few publications or data providers publish, let alone highlight, full market cycle returns, yet we believe understanding them can help the return of your portfolio over the long-term.

Warren Buffett, in Berkshire Hathaway's 2013 Chairman's Letter, wrote "Over the stock market cycle between year ends 2007 and 2013, we overperformed the S&P. Through full cycles in future years, we expect to do that again. If we fail to do so, we will not have earned our pay. After all, you could always own an index fund and be assured of S&P results."

(skipped)

Many portfolio managers with strong trailing three- and five-year performances in 2000 and 2007 saw their records (and, more importantly, their clients' capital) decimated by subsequent bear markets. There are other portfolio managers, however, who successfully protect principal in a weak environment yet fail to adequately commit capital when markets are inexpensive, leaving their clients with a sub-par return over the full cycle.

If you are a long-term investor, what happens in between market peaks may be nothing more than noise. Consider both the current market cycle (2007- to the most recent quarter-end peak), as well as the preceding market cycle (2000-2007) for the S&P 500 in the chart on the following page. If you owned shares in good businesses or invested with capable managers, you were better off covering your ears (and sometimes eyes) through the volatility between the green dots.