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2015年5月14日木曜日

財務分析を邪魔立てする単純連想効果(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーの講演「2003年に露呈した巨大金融不祥事について」の7回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

彼らがはじめに望んだ点は、20年間にわたって大きな中断をはさむことなく「都度やんわり方式」を継続することでした。

次に望んだ点は、クァント・テック社の報告利益が20年間全体を通して毎年ほぼ同じ割合で増えていくことでした。というのも彼らは、「報告利益の年間成長率が一度たりとも大幅に変動しなければ、機関投資家の代表者たる財務アナリストが同社の株式を高く評価するだろう」と信じていたからです。

3つ目は、報告利益の信頼性を守りたかったので、「クァント・テック社の売上げのうち40%以上を発電所設計業務が占めている」などと報告して投資家を不審がらせることは、まるで望んでいなかった点です。それが20年目だとしてもです。

クァント・テック社の経営陣としては「真正の売上及び利益のどちらも20年間にわたって20%ずつ増加する」と仮定していたので、それらの要求を満たす計算はたやすく行えました。かつて創業者が報告していた年間成長率は20%でした。そのかわりに彼らが即座に決定した数字は28%でした。自分たちの考案した「都度やんわり方式」を使って、クァント・テック社の報告利益を増加させるのです。

この「現代的な金融工学」による大いなる計略が、クァント・テック社を悲劇へ向かわせることになります。人の手になる軽蔑すべき策略が、試みを成就させた先例はほとんどないのです。さて、クァント・テック社の報告利益は年率28%ずつ毎回増加していき、監査した会計士はそれを承認しました。同社の会計報告を批判する者はいませんでした。そうでない人がわずかにいたものの、彼らに対する世間一般の見方は「非現実的で、あまりにも理屈っぽく、厭世的な変人」というものでした。クァント・テック社が「年率28%ずつ堅調に利益成長した」と報告する際に、その信頼性を維持する上で大きく貢献することになったのが、配当を決して支払わないという創業者の方針でした。手元にある現金等価物がおどろくほどに多額だったため、パブロフの示した単純連想効果、すなわち現実認識をしばしば鈍らせるものがうまく機能し、報告利益に含まれるまやかしの要素を検出する邪魔をしました。

First, they wanted to be able to continue their "dollop by dollop system" without major discontinuities for twenty years.

Second, they wanted Quant Tech's reported earnings to go up by roughly the same percentage each year throughout the whole twenty years because they believed that financial analysts, representing institutional investors, would value Quant Tech's stock higher if reported annual earnings growth never significantly varied.

Third, to protect credibility for reported earnings, they never wanted to strain credulity of investors by reporting, even in their twentieth year, that Quant Tech was earning more than forty percent of revenues from designing power plants.

With these requirements, the math was easy, given the officers' assumption that Quant Tech's non-phony earnings and revenues were both going to grow at twenty percent per year for twenty years. The officers quickly decided to use their "dollop by dollop system" to make Quant Tech's reported earnings increase by twenty-eight percent per year instead of the twenty percent that would have been reported by the founder.

And so, the great scheme of "modern financial engineering" went forward toward tragedy at Quant Tech. And few disreputable schemes of man have ever worked better in achieving what was attempted. Quant Tech's reported earnings, certified by its accountants, increased regularly at twenty-eight percent per year. No one criticized Quant Tech's financial reporting except a few people widely regarded as impractical, overly theoretical, misanthropic cranks. It turned out that the founder's policy of never paying dividends, which was continued, greatly helped in preserving credibility for Quant Tech's reports that its earnings were rising steadily at twenty-eight percent per year. With cash equivalents on hand so remarkably high, the Pavlovian mere-association effects that so often impair reality recognition served well to prevent detection of the phony element in reported earnings.

2015年5月12日火曜日

CEOに必要な資質とは(『破天荒な経営者たち』)

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数回前の投稿でご紹介した著書『破天荒な経営者たち』からもう1点ご紹介します。今回引用するのは、ラルストン・ピュリーナ社のCEOだったビル・スティーリッツ氏の話題です。なおペットフード会社の同社は、2001年にネスレに買収されました。

買収に関しては節約志向で、大型入札で株価がつり上がるよりも機を見て市場で買うことを好んだ。そして、常にPER(株価収益率)が周期的な安値を付けたときに買収を行った。(中略)

スティーリッツは、自社株買いのリターンがほかの資本投資、特に買収を判断するときの基準になると考えていた。長年彼の補佐役を務めたパット・モケイヒーによれば、「投資判断には、常に自社株買いのリターンというハードルが使われました。もし、買収によってある程度の精度でこのリターンを上回ることができそうならば、それは実行する価値があると判断されました」。(中略)

スティーリッツは、控えめに見ても魅力的なリターンを生みそうな会社のみを買うべきだと考えていた。彼は、詳細な金融モデルなど当てにせず、いくつかの重要な変数――市場成長率、競争、業務改善が可能か、そしてもちろん現金を生み出すカ――のみを考慮して判断を下していた。彼によれば「私はいくつかの重要な想定のみに注目して判断を下していました。まず調べるのは、市場の潜在的なトレンドの成長率と競争状況です」。(p.216)

スティーリッツは独立心が強く、外部からの助言はまったく受け入れなかった。彼は、CEOの資質としてカリスマ性は過大評価されていると考えていた。必要なのは分析力と独立的思考で、「それがなければ、CEOは銀行とCFO(最高財務責任者)の言うなりです」。彼は、多くのCEOがこのような分析力が必要ない部門(法務、マーケティング、製造、販売など)の出身だということを理解していた。しかしそのうえで、この能力がなければCEOとしては非常に不利だと考えていた。彼の信条は単純で、「リーダーシップとは分析力です」。(p.220)

2015年5月10日日曜日

2015年バークシャー・ハサウェイ株主総会;IBMについて

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2015年5月2日(土)にバークシャー・ハサウェイの年次株主総会が開催されました。質疑応答のメモが公開され始めたので、例によって拙訳でのご紹介も少しずつ進めたいと思います。今回引用する文章の原文は、以下のメモからお借りします。(日本語は拙訳)

BERKSHIRE HATHAWAY ANNUAL MEETING 2015 [PDF] (作成者: SUDEEP MENON氏)

また速報形式の文章は、Wall Street Journalなどで公開されています。

Recap: The 2015 Berkshire Hathaway Annual Meeting (WSJ)

<質問4> IBMからは手を引くように、とウォーレンに話しましたか。

<マンガー> していません。IBMは非常に興味深い企業ですよ。すごい適応力があります。あの会社はパンチカードの商売を席巻していましたが、やがてPCのビジネスも手がけました。非常に信頼できる会社です。強大で称賛に足る企業ですね。一時的な逆風下にあったので、十分納得できる値段で買いましたよ。

<バフェット> (IBMに対する二人の)投票結果は2対0です。手の内は明かさないほうがうまくいきます。わたしどもや同社がこれからも株を買うでしょうから、値段は安いほうがうれしいです。手の内を明かすのであれば、持ち株上位4社については悲観的な話をしたいところです。自分の売買状況を語りたがる人は理解に苦しみますね。

<マンガー> ウォーレン、そのとおり。世間がちょくちょくまちがってくれなかったら、我々はそれほどの金持ちにはなれなかったね。(笑)

Q4: Question for Charlie. Did you try to talk Warren out of IBM?

CM: I did not. I think IBM is a very interesting corporation, very adaptable. They dominated the punch card business but it has been a mixed bag with the PC business. I think IBM is a very creditable company, an enormous enterprise, and an admirable enterprise. They were undergoing a temporary reversal and we bought at a very reasonable price.

WB: It was a two to nothing vote [on IBM]. [We are] better off not talking our book. Either we or the company will be buying back stock in the future and we'd like the price to be lower. If we were to [talk our book], we would rather say pessimistic things about all four of our biggest holdings. I am not sure why people keep talking their book.

CM: Warren, if people weren't so often wrong, we wouldn't be so rich. [Laughter]

備考です。ウォーレンがCNBCのインタビューに応じた際に、IBMのワトソンについて触れています。以下のリンク先に映像があります。ワトソンと後継者を絡めたジョークは、いかにもウォーレンらしいです。

Watson enormously valuable future: Buffett (Yahoo! Finance; CNBC video)

2015年5月8日金曜日

米FRBのバブル・トリオ(ジェレミー・グランサム)

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GMOのレター(2015年第1四半期)が公開されていました。昨日のニュースでFRBのイェレン議長の発言が話題になっていましたが、それと交錯する話題を引用します。(日本語は拙訳)

Are We the Stranded Asset? (and other updates) [PDF] (GMO Quarterly Letter 1Q 2015)

米国市場に関する現時点での短評: まだバブルではないが、いずれそうなるとの私見

奇妙にも操作されたこの世界でカギとなるのは、FRBが上昇相場の側についている間は強気派にかなりの望みがある点です。グリーンスパン、バーナンキ、そしてイェレンとつづく時代をとおして、FRBはバブルが最大限に膨張するまで資産価格の上昇をとめませんでした。2000年に米国成長株、そして2006年に米国住宅市場で起こったことは、驚くなかれ、実のところ3シグマの出来事だったのです。これらは米国史上飛び抜けて巨大な株式バブルと住宅バブルでした。またイェレンは前任者らと同じように、資産効果を生み出すために資産価格を押し上げるFRBの役割を誇示してきました。さらにこれまでの彼女は、「いかなる資産バブルの可能性であっても阻止する責務を感じない」とする彼らの見解とも同じようです。私からすれば、FRBが資産[価格]を動かす力を持っていることは認識できるわけですから(ただし経済を加速する力としては、がっかりするほど限定的です)、経済面での国際的な大事件が生じない以上、現在のFRBは今再びバブルが頂点に達するまで資産価格を刺激しつづけることを志向かつ決定した、と考えても筋が通っていると思われます。そして現時点ではまだその段階に至っていないのです。(PDFファイル9ページ目)

A brief update on the U.S. market: still not bubbling yet, but I think it will

The key point here is that in our strange, manipulated world, as long as the Fed is on the side of a strong market there is considerable hope for the bulls. In the Greenspan/Bernanke/Yellen Era, the Fed historically did not stop its asset price pushing until fully-fledged bubbles had occurred, as they did in U.S. growth stocks in 2000 and in U.S. housing in 2006. Both of these were in fact stunning three-sigma events, by far the biggest equity bubble and housing bubble in U.S. history. Yellen, like both of her predecessors, has bragged about the Fed's role in pushing up asset prices in order to get a wealth effect. Thus far, she seems to also share their view on feeling no responsibility to interfere with any asset bubble that may form. For me, recognizing the power of the Fed to move assets (although desperately limited power to boost the economy), it seems logical to assume that absent a major international economic accident, the current Fed is bound and determined to continue stimulating asset prices until we once again have a fully-fledged bubble. And we are not there yet.

上記のような市場予測のほかに、彼が取りあげる話題には人口問題や資源問題などがあります。超長期的な視点からながめることが多く、個人的には興味ぶかく読んでいます。

2015年5月6日水曜日

バリュー投資家の方へおすすめの一冊『破天荒な経営者たち』

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チャーリー・マンガーの推薦書"The Outsiders"(過去記事)の翻訳書が出ていたことを指摘してくれたのは、いつもコメントをつけてくださるブロンコさんでした(過去記事のコメント欄)。邦題は『破天荒な経営者たち』、発行元はパンローリング社です。別の翻訳書『千年投資の公理』を取りあげたときに同社のことを「わざと売れないように題名をつける会社」と書きましたが(過去記事)、本書もその路線に足を踏み入れていると思います。邦題だけでなく、装丁(表紙のデザイン)のほうも購買意欲を削いでいるようにみえるからです。前置きが長くなりましたが、結論は題名に記したとおりです。バリュー投資家のみなさんには、一読されることを強くお勧めする一冊です。資金を投じる価値がある企業の経営者とはどのような人たちなのか、その実例を示しているからです。

今回引用するのは同書で紹介されている経営者のひとり、ケーブルテレビ業界のTCI社でCEOを務めていたジョン・マローン氏の話題です(現在はリバティメディア社などの会長)。

この時期、マローンは新しい財務と業務の規律を導入し、各部門の責任者に、利益率を維持しながら毎年加入者を10%増やすことができれば、彼らの独立性を尊重すると約束した。TCIの質素で起業家的な文化は、この時期に本部から現場へと広がっていった。

TCIの本部や、アメリカのメディア勢力図を書き換える業界の最大手の本部にはとても見えなかった。事務所は質実剛健で、少ない幹部とそれ以上に少ない秘書がビニール張りの床に置いた剥げた金属製のデスクで働いていた。受け付けは一人しかおらず、あとは自動音声の留守番電話で対応していた。TCIの幹部がそろって出張に出ても宿泊はたいていモーテル(車庫付きの簡易宿泊所)で、COO(最高執行責任者)のJ.C.スパークマンによれば「当時はホリデイ・インに泊まるのがたまの贅沢でした」。(中略)

各部門の責任者は、目標を達成していればかなりの自治権を与えられていた。反対に、月間目標が達成できなかった部門の責任者は、社内を飛び回っているCOOの訪問をたびたび受け、パフォーマンスが劣っていればすぐに差し替えられた。(p.143)

資本を配分するには高リターンの選択肢がたくさんあり、マローンはそれを最適に組み合わせてTCIの資産を構築していった。彼の経歴からも分かるように、マローンは冷静で合理的でまるで外科医のように正確に資本を配分していったのである。彼は、魅力的なリターンであれば、どれほど複雑で型破りな投資でも検討し、工学的な思考で、リターンが優れた計画だけを実行した。面白いことに、彼はスプレッドシートは使わず、リターンが簡単に計算できる計画を好んだ。「コンピューターには細かいデータがたくさん必要ですが……私はプログラマーではなく数学者です。正しくあるべきですが、厳密でなくともよいのです」と語ったこともある。(p.162)

しかし、彼は安値でしか買わず、TCIの買収計画の基礎となる単純なルール――番組制作費の割引と人員削減が終わった時点で見込めるキャッシュフローの5倍までしか支払わない――を持っていた。この分析は、たった1枚の紙があれば計算できた(紙ナプキンの裏で計算することもあった)。高度な予想モデルなどは必要ないのである。

重要なのは予想の精度と期待した相乗効果を生み出せるかどうかであり、マローンとスパークマンの事業チームは新たに買収した会社の不要コストを削減するための高度な訓練を受けていた。(p.165)

TCIの事業は驚くほど分権化されており、スパークマンが引退した1995年でも1200万人の加入者を擁するこの会社の本部には17人の社員しかいなかった。マローンのいつもの率直な言いかたによれば、「スタッフの数が多ければよいというものではありません。ほとんどの人間は、あとからとやかく言うだけの連中です」。(p.169)