今回引用するのは同書で紹介されている経営者のひとり、ケーブルテレビ業界のTCI社でCEOを務めていたジョン・マローン氏の話題です(現在はリバティメディア社などの会長)。
この時期、マローンは新しい財務と業務の規律を導入し、各部門の責任者に、利益率を維持しながら毎年加入者を10%増やすことができれば、彼らの独立性を尊重すると約束した。TCIの質素で起業家的な文化は、この時期に本部から現場へと広がっていった。
TCIの本部や、アメリカのメディア勢力図を書き換える業界の最大手の本部にはとても見えなかった。事務所は質実剛健で、少ない幹部とそれ以上に少ない秘書がビニール張りの床に置いた剥げた金属製のデスクで働いていた。受け付けは一人しかおらず、あとは自動音声の留守番電話で対応していた。TCIの幹部がそろって出張に出ても宿泊はたいていモーテル(車庫付きの簡易宿泊所)で、COO(最高執行責任者)のJ.C.スパークマンによれば「当時はホリデイ・インに泊まるのがたまの贅沢でした」。(中略)
各部門の責任者は、目標を達成していればかなりの自治権を与えられていた。反対に、月間目標が達成できなかった部門の責任者は、社内を飛び回っているCOOの訪問をたびたび受け、パフォーマンスが劣っていればすぐに差し替えられた。(p.143)
資本を配分するには高リターンの選択肢がたくさんあり、マローンはそれを最適に組み合わせてTCIの資産を構築していった。彼の経歴からも分かるように、マローンは冷静で合理的でまるで外科医のように正確に資本を配分していったのである。彼は、魅力的なリターンであれば、どれほど複雑で型破りな投資でも検討し、工学的な思考で、リターンが優れた計画だけを実行した。面白いことに、彼はスプレッドシートは使わず、リターンが簡単に計算できる計画を好んだ。「コンピューターには細かいデータがたくさん必要ですが……私はプログラマーではなく数学者です。正しくあるべきですが、厳密でなくともよいのです」と語ったこともある。(p.162)
しかし、彼は安値でしか買わず、TCIの買収計画の基礎となる単純なルール――番組制作費の割引と人員削減が終わった時点で見込めるキャッシュフローの5倍までしか支払わない――を持っていた。この分析は、たった1枚の紙があれば計算できた(紙ナプキンの裏で計算することもあった)。高度な予想モデルなどは必要ないのである。
重要なのは予想の精度と期待した相乗効果を生み出せるかどうかであり、マローンとスパークマンの事業チームは新たに買収した会社の不要コストを削減するための高度な訓練を受けていた。(p.165)
TCIの事業は驚くほど分権化されており、スパークマンが引退した1995年でも1200万人の加入者を擁するこの会社の本部には17人の社員しかいなかった。マローンのいつもの率直な言いかたによれば、「スタッフの数が多ければよいというものではありません。ほとんどの人間は、あとからとやかく言うだけの連中です」。(p.169)
