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2013年1月11日金曜日

企業戦略を成功に導くには(ルイス・ガースナー)

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いまさらですが、IBM再生の立役者ルイス・ガースナーの自伝『巨象も踊る』を読んでいます。少し前の投稿で、低迷した企業が復活できる例をウォーレン・バフェットが挙げていますが、当社の場合は「ど真ん中」の本業が苦しんだことから、ウォーレンの事例とは異なる部類だと捉えています。

経営者に関する本はたまに手に取りますが、かざらない文章にひきこまれました。本書には印象に残る文章がいろいろありますが、「こういうのを待っていた」ともっとも感じたものを、今回はご紹介します。世の経営者に対してだけでなく、自分自身の日常を叱咤するようにも聞こえました。

実行能力、つまり物事をやりとげ、実現する能力は、すぐれた経営者の能力のなかで、もっとも評価されていない部分だ。わたしは経営コンサルタントだったころ、数多くの企業の数多くの戦略の策定に加わった。ここで、経営コンサルタント業界の小さな暗い秘密をお教えしよう。ある企業のために独自の戦略を策定するのは極端にむずかしいし、業界の他社の動きとはまったく違う戦略を策定した場合、それはおそらくきわめてリスクの高いものなのだ。その理由はこうだ。どの業界も経済モデル、顧客が表明する期待、競争構造によって枠組みが決まっており、これらの要因は周知のことだし、短期間に変えることはできない。

したがって、独自の戦略を開発するのはきわめてむずかしいし、開発できたとしても、それを他社に真似されないようにするのはさらにむずかしい。たしかに、コスト構造や特許で、他社の追随を許さない強みをもつ企業がないわけではない。ブランド力も競争上の強力な武器になり、競合他社はこの面で業界のリーダーに追いつこうと必死になっている。しかし、これらの優位が他社にとって永遠に越えられない壁になることはめったにない。

結局のところ、どの競争相手も基本的におなじ武器で戦っていることが多い。ほとんどの業界で、業績向上の原動力になる要因、成功をもたらす要因を5つから6つ指摘できる。たとえば、小売り業界でマーチャンダイジング、ブランド・イメージ、不動産コストが決定的な要因であることはだれでも知っている。この業界で成功するための新たな道筋を見つけ出すのは、不可能ではないまでも、きわめてむずかしい。ドット・コム小売り企業の華々しい失敗は、業界の基礎的要因を棚上げにできないことを示す好例である。

したがって実行こそが、成功に導く戦略のなかで決定的な部分なのだ。やり遂げること、正しくやりとげること、競争相手よりうまくやりとげることが、将来の新しいビジョンを夢想するより、はるかに重要である。

世界の偉大な企業はいずれも、日々の実行で競争相手に差をつけている。市場で、工場で、物流で、在庫管理で、その他もろもろのすべての点で差をつけている。偉大な企業が競争相手との激闘を避けられるほど、真似のできない強みをもっているケースはめったにない。(p.302)


もうひとつ、こちらはおまけです。RJRナビスコの経営者だったルーがIBMに移ることが決まって、勤務前に同社の会議に出席したときの追憶です。

大きな会議室に案内されて、本社経営会議に出席した。本社の経営幹部が50人ほど集まっていた。女性が何を着ていたかは覚えていないが、会議に出席していた男性が全員、白いシャツを着ていたのが印象的だった。例外がひとりいた。わたしだけ、ブルーのシャツを着ていた。IBMの経営幹部としては、常識を大きく逸脱する服装だったのだ。(何週間か経って、同じ会議があった。わたしだけが白いシャツで、他の全員が色物のシャツだった)。(p.39)

2013年1月9日水曜日

一文で済ませていいのですか(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーによるハーヴァード・ウェストレイク高校での講話、その2です。前回から続く文章です。(日本語は拙訳)

経済学に端を発したこれらの概念は企業財務の世界へと進み、資本資産価格モデルをつくりあげました。これまた、たわごとに過ぎないものです。しかし我々の子供の代ではみんな教わってますし、ロースクールでもとりあげています。たとえ理解していない人でも、仏教のマントラのように繰り返せたものです。これを覚えて試験の時にそのまま反復できた人には、Aなどの成績が与えられました。ご察しのとおり、こういう人たちが社会に出ると、良識や思慮ある考え方を脅かすものです。しかし、ハーヴァード大学などでこの件に関わっている人は、誰もそんなことを気にかけたりしませんでした。頭のいい人たちがそのようなひどく馬鹿げたことをするのは何ゆえと思いますか。

無理やりひねりだすことはありません。生きていれば、そういった重要な教訓を含んだ非常識な事例が度々とびだしてきて、驚かせてくれるものですから。ポール・サミュエルソンと共に取り組んでいたのも、ものすごく頭のいい人たちですよ。アラン・グリーンスパンも、ポール・サミュエルソンほどではないですが、ずば抜けていました。その後、彼らは他のアイデアもいろいろ考えだして経済学の世界に広めました。しかし良いアイデアだったものの、概して言えば十分な影響は及ぼしませんでした。15年ほど前の私はそういったアイデアを知らなかったため、経済学の入門レベルの教科書で有名なものを3冊通読しました。経済学の単位はひとつも履修したことがなかったのです。サミュエルソンの本の後継たる、かの有名なグレゴリー・マンキューの本では「賢明な人は機会費用によって意思決定する」と20ページ目に書かれています。しかし1000ページにわたる中で機会費用に触れられているのは、これっきりでした。ここで是が非でも申し上げておきたいのですが、いろいろ取り上げられている他のたわごとと比べたら、機会費用という考えには一文では済まされないほどの価値があると思います。

バークシャー・ハサウェイでは常々[音声不明瞭]考えがでてきても、2秒ちょうどで足蹴にしてきました。すでに手にしている機会のほうが新たにきたものより良いとわかっていたら、新しいほうを検討するのに2秒も費やしたいと思いますか。ここにいるみなさんは、そんなことはしないところから来られた方ばかりと承知しています。馬とうさぎと何かもうひとつ手に入れたら、あとはうさぎが手持ちの機会費用をくらべてどれを即座に除外したらよいか考えてくれるでしょう。しかし、責任範囲の違うところが考えることですから、分散しておいてもらう等が必要です。機会などどうでもいいと考えるのは楽ですが、ひとつに限るのではなく、よりよい結果を得るための異なる手段をいくつもさがすことが大切です。

現実の生活において正しく意思決定する方法は、機会費用に基づいて行うことです。結婚しようとするならば、かなうかぎりの最善の配偶者をむかえるべきです。人生の他のことについてもまったく同じです。実りある人生をおくりたいならばそれらを見極めなければなりませんし、そうしたくなければ、よき成果を得ないように努めねばなりません。売込み上手な人ならば、うまく手にいれられるでしょう。

Then these ideas from economics drifted into corporate finance, and they got the capital asset pricing model -- also pure drivel. They taught it to all of our children and the law schools picked it up. They didn't understand it, but they could repeat it like a mantra from Buddhism, and people would learn it and regurgitate it on the examinations and they'd get As and so forth. Of course, they got out into the real world and they were menaces to decency and sound thinking. That didn't bother the people at Harvard [University] or any of the people that were doing it. And you say, how can smart people do such immensely dumb things?

You don't have to make this stuff up. Life will constantly surprise you with these ridiculous examples which teach important lessons. These are seriously smart people who took up with Paul Samuelson. Alan Greenspan is a seriously smart person although not as smart as Paul Samuelson. Then they got other ideas and these spread, and the good ideas that are buried in economics by and large weren't emphasized enough. I don't know, 15 years ago or so, I rifled through the three leading textbooks in introductory economics - I'd never taken a course in the subject - and I read through them. About the 20th page of Mankiw's famous book, which succeeded Samuelson's famous book, the guy says smart people make their decisions based on opportunity costs. Well, that was the last time opportunity cost was discussed in 1,000 pages. I want to tell you that compared to the other drivel that was discussed, opportunity cost deserves more than one sentence.

Berkshire Hathaway is constantly kicking off ideas [audio unintelligible] in about two seconds flat. We know we've got opportunity X, which is better than the new opportunity. Why do we want to waste two seconds thinking about the new opportunity? Many of you come from places that don't do that. You've got to have one horse, one rabbit, one something or rather, and that rabbit is going to be thinking about something which would be ruled out immediately by an opportunity cost available generally to the place ? but, it's a different department. You have to be diversified and so on and so on. It's easy to drift into this idea that opportunities don't matter, you've got so many different ways of doing things that are better. It isn't better.

The right way to make decisions in practical life is based on your opportunity cost. When you get married, you have to choose the best [spouse] you can find that will have you. The rest of life is the same damn way. You have to figure these things out if you want good results in life, and if you don't, well, you have to pretend that you can get good results in life. If you have enough sales ability, maybe you can get by with it.


文中にでてくるマンキューの本とは『マンキュー経済学』と思われます。日本版はミクロ編とマクロ編の二分冊になっていますが、機会費用は基本原理のひとつとして紹介されているため、どちらにも同じ文章が載せられています。ミクロ編ではp.7に第2原理として書かれています。

「あるものの費用は、それを得るために放棄したものの価値である」


なおチャーリーが読んだものが第何版なのか不明ですが、日本版の第2版ではミクロ編p.76にも比較優位の話題とともに機会費用が登場しています。

2013年1月7日月曜日

ピュグマリオンとなりたい(ウォーレン・バフェット)

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個人的な話ですが、市場全体が上昇傾向のときには、株価が低迷していたり大きく下落している銘柄ばかり気になる傾向があります。今年の自戒の意味も込めて、今回はウォーレン・バフェットの1980年度「株主へのみなさんへ」から「再起を図る企業」の話題を引用します。おなじみの文章が登場していますし、少し前に取り上げたチャーリー・マンガーの文章とも重なっています(過去記事)。(日本語は拙訳)

わたしどもは過去の報告書で、再起をかけたビジネスを買収して経営しても、たいていは残念な結果に終わることを記してきました。幾多の産業に文字どおり何百もの再起をはかる案件があるとは、以前から申し上げてきたとおりです。そのような案件に参画したり傍観してきましたが、得られた成果は期待にこたえるものではありませんでした。結局のところ、すばらしい才能で評判を博している経営者が、根本的な経済性がよろしくないと知れているビジネスに取り組んでも、ごくわずかの例外を除けば評判が変わらないのはビジネスのほうだ、と考えるに至りました。

1976年に破産の背戸際から再起したことを鑑みれば、GEICO(ガイコ)社は例外のひとつに挙げられるかと思います。たしかに同社を蘇生させるには、すぐれた経営手腕が欠かせませんでした。その年に加わったジャック・バーンによって、やるべき仕事が数多くなされています。

しかし、GEICOが享受してきた事業自体の持つ本質的な優位性、すなわち同社が驚嘆すべき成功をおさめてきた理由そのものは、財務や経営上の問題の海に沈みながらも、いまだ変わらずに会社の中に残されていました。GEICOは、広大な自動車保険の市場において低コストで営業できるしくみになっていました。一方、他の大半の企業では環境に順応しようとしても、マーケティング上の構造自体が足をひっぱっていたのです。GEICOは持ち前の力を発揮することで、顧客に対して通常ならぬ価値を提供できました。同時に、会社としても通常ならぬ利益をあげることができました。同社では何十年にもわたって、このようにやってきたのです。70年代中盤にトラブルに陥ったのは、この根本的な経済的特性が縮小したり消失したせいではありませんでした。

この問題によって当時のGEICOは、あたかもアメリカン・エキスプレスが1964年のサラダ・オイルの不祥事の後に陥ったような状況をむかえました。両社とも財務面で大穴を開けてしまったことで、当惑させられる類いの企業とみられていたのです。しかし、会社に内在されている卓越した経済性はなくなっていませんでした。抜きんでたフランチャイズを有する事業に部分切除可能な腫瘍が付いている、GEICOとアメリカン・エキスプレスの状況とはそういうものだったのです。手練れの外科医を必要としていたのはたしかですが、経営陣が企業版ピュグマリオンとして成就するのを希求しているような真の「再起」案件とは、区別すべきものでした。

We have written in past reports about the disappointments that usually result from purchase and operation of "turnaround" businesses. Literally hundreds of turnaround possibilities in dozens of industries have been described to us over the years and, either as participants or as observers, we have tracked performance against expectations. Our conclusion is that, with few exceptions, when a management with a reputation for brilliance tackles a business with a reputation for poor fundamental economics, it is the reputation of the business that remains intact.

GEICO may appear to be an exception, having been turned around from the very edge of bankruptcy in 1976. It certainly is true that managerial brilliance was needed for its resuscitation, and that Jack Byrne, upon arrival in that year, supplied that ingredient in abundance.

But it also is true that the fundamental business advantage that GEICO had enjoyed ‐ an advantage that previously had produced staggering success ‐ was still intact within the company, although submerged in a sea of financial and operating troubles. GEICO was designed to be the low‐cost operation in an enormous marketplace (auto insurance) populated largely by companies whose marketing structures restricted adaptation. Run as designed, it could offer unusual value to its customers while earning unusual returns for itself. For decades it had been run in just this manner. Its troubles in the mid‐70s were not produced by any diminution or disappearance of this essential economic advantage.

GEICO's problems at that time put it in a position analogous to that of American Express in 1964 following the salad oil scandal. Both were one-of-a-kind companies, temporarily reeling from the effects of a fiscal blow that did not destroy their exceptional underlying economics. The GEICO and American Express situations, extraordinary business franchises with a localized excisable cancer (needing, to be sure, a skilled surgeon), should be distinguished from the true "turnaround" situation in which the managers expect - and need - to pull off a corporate Pygmalion.

2013年1月5日土曜日

これを聞いただけでもダボスに来た甲斐があった(ダニエル・カーネマン)

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心理学者ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』からもうひとつだけ、今回は下巻から引用します(前回の引用はこちら)。自信過剰を抑える工夫の一例です。

自信過剰からくる楽観主義をトレーニングによって克服できるだろうか。この点に関して、私は楽観的にはなれない。自分の判断の不正確さを考慮して数字を見積もる訓練などが行われているが、さしたる効果は上がっていない。

よく挙げられる例に、ロイヤルダッチ・シェル社の地質調査技師のケースがある。すでに結果の判明している過去の探査例を学習させたところ、技師たちは自分の判断に過剰な自信を抱かなくなったという。このほか、裁判官に対立する仮説も考慮するよう指導した結果、自信過剰がいくらか抑えられた(しかしなくなったわけではない)という報告もある。だが、自信過剰はシステム1の本来的な性質に由来するのであり、いくらか手なずけることはできても、完全に支配することはできない。問題なのは、判断の裏付けとなる情報の質や量がどうあれ、自分がこしらえ上げたストーリーが首尾一貫していさえすれば、主観的な自信が形成されることである。

組織であれば、楽観主義をうまく抑えられるかもしれない。また個人の集団よりは一人の個人のほうが抑えやすいだろう。そのために一番よいと考えられるのは、私の「敵対的な共同研究者」ゲーリー・クラインが考え出した方法である。やり方は簡単で、何か重要な決定に立ち至ったとき、まだそれを正式に公表しないうちに、その決定をよく知っている人たちに集まってもらう。そして、「いまが1年後だと想像してください。私たちは、さきほど決めた計画を実行しました。すると大失敗に終わりました。どんなふうに失敗したのか、5-10分でその経過を簡単にまとめてください」と頼む。クラインはこの方法を「死亡前死因分析(premortem)」と名付けている。

クラインのこのアイデアには、たいていの人が感嘆する。ダボス会議の場で私がこれを話題にしたところ、後ろにいた誰かが「これを聞いただけでもダボスに来た甲斐があった」と呟いたものである(あとになって、その人は国際的な大企業のCEOであることがわかった)。死亡前死因分析には、大きなメリットが2つある。一つは、決定の方向性がはっきりしてくると多くのチームは集団志向に陥りがちになるが、それを克服できることである。もう一つは、事情をよく知っている人の想像力を望ましい方向に解放できることである。

チームがある決定に収束するにつれ、その方向性に対する疑念は次第に表明しにくくなり、しまいにはチームやリーダーに対する忠誠心の欠如とみなされるようになる。とりわけリーダーが、無思慮に自分の意向を明らかにした場合がそうだ。こうして懐疑的な見方が排除されると、集団内に自信過剰が生まれ、その決定の支持者だけが声高に意見を言うようになる。死亡前死因分析のよいところは、懐疑的な見方に正統性を与えることだ。さらに、その決定の支持者にも、それまで見落としていた要因がありうると考えさせる効果がある。死亡前死因分析は万能薬ではないし、予想外の不快な事態を完全に防げるわけでもない。だが少なくとも、「見たものがすべて」という思い込みと無批判の楽観主義というバイアスのかかった計画から、いくらかは損害を減らす役に立つことだろう。(p.52)


以前とり上げた『Seeking Wisdom』のフィルター6でも、同様のアイデアが使われています(過去記事)。

2013年1月4日金曜日

実用的な考え方を実際に考えてみると?(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーの伝記『投資参謀マンガー』を読んだのは10年ぐらい前のことです。当時は節約生活にも慣れてきて、この本を読むために隣町の図書館まで自転車をこいで行ったものです。チャーリーのことは「ウォーレン・バフェットの右腕」ぐらいとしか知らなかったのですが、「実はすごい人」らしき文章をどこかで読み、この本にも目を通しておきたいと考えました。急いでページを繰ったので図書館で読み終えましたが、帰宅の時刻が迫ってきたころに読んだ文章が、チャーリーの講演"Practical Thought About Practical Thought?"の翻訳でした。これはコカ・コーラ社をモデルにして、巨大企業を一から作り上げるにはどうしたらよいか思考実験したものです。読了直後には文章の価値をまったく理解できず、「チャーリー・マンガーとは、こじつけめいた話をする人なんだな」と感じました。

それから10年たちました。理解はとぼとぼ、実践はまだまだ、の調子ですが、この文章は自分なりに翻訳してみたいと想いつづけてきました。今回が第1回目のこのシリーズでは、"Practical Thought About Practical Thought?"を何回かにわけて翻訳します。参考にすべき同書が手元にないので誤訳や珍訳が続出するかと思いますが、ご勘弁ください。

実用的な考え方を実際に考えてみると?
非公式な講話 1996年7月20日

Practical Thought About Practical Thought?
An Informal Talk, July 20, 1996

今回お話しする話題は「実用的な考え方を実際に考えてみるとどうなるか?」、そうです、疑問文としています。私はこれまでずっと経験を積んできた中で、すごく単純ながら問題解決に役に立つ普遍的なアイデアをいろいろと習得してきました。今日はまず、そのうちの5つをお話しして、そのあとにスケールの大きな課題をとりあげます。あらかじめ話しておきますと、この課題は2百万ドルの元手を2兆ドルに増やそうとするものです。実際になしとげようとする成果としては、十分なものでしょう。この課題に取り組む上で、先に話す有用なる普遍的アイデアを使っていきます。この話題では、ものごとを考える方法としてどのようなものが優れているのか探っていきますが、今日の狙いは教育的なことにあるので、この事例に含まれている重要な教訓を最後に示し、話をしめくくりたいと思います。

さて最初の有用なアイデアは、「問題を楽に考えるには、たいていの場合、肝心でわかりきった疑問からとりかかるのが最良のやりかたである」ということです。

次の有用なアイデアは、ガリレオが到達した結論をまねることです。「科学によって現実を解き明かそうとすると、往々にして数学の力に頼らざるを得ないものだ。まるで、数学とは神の言語であるかのように」。ガリレオが抱いていたこの心持ちは、現実的な俗世間でもうまく働きます。我らの暮らす社会では、数字が苦手のままでいると、目隠しして百人一首大会に出場するような局面がみられるものです。

3番目の有用なアイデアは、「問題を考える際には順方向にやるだけではダメで、逆方向からも考えなければならない」ということです。純朴そうな人がこう言うように、やるべきです。「おいらがどこで死ぬのか教えてくれ。そこには絶対に行かねえからさ」。現実問題として、順方向に考えるだけでは解けない問題はたくさんあります。だからこそ偉大なる代数学者のカール・ヤコビは、ことあるごとに言ったのです。「逆だ、いつでも逆からやるんだ」と。ピタゴラス学派の教徒は逆に考えることで、「2の平方根は無理数である」ことを証明しました。[背理法のこと]

4番目の有用なアイデアは、こうです。「学問によって説明される根本的な知恵こそ、最良かつ最も実用的な知恵である」。これを使うにあたっては、きわめて重要な制約があります。それは学際的に考えなければならないことです。そして、あらゆる基礎的科目の初級段階で容易に習得できる概念のすべてを、日常的に使わなければなりません。そういった根本的なアイデアを使って問題解決を試みる際には、学術界や官僚主義のはびこる様々なビジネスの場でみられるような、限定して取り組むやりかたはいけません。こういった世界では、分野そのまた分野へとひどく細分化され、自分の領域を超えた企てはどんなものでも、厳しくご法度とされているからです。そうではなく、ベン・フランクリンが『プーア・リチャードの暦』で示した処方箋をふまえて、学際的に考えるべきです。「うまくやりたければ自分でやること。それがいやなら、人にやってもらうこと」。

時としてプロの助言を買うことがあるように、何かを考える際に他人に頼りっぱなしだと、自分のわかるわずかな範囲を超えてしまえば、様々な災難を背負いこむ羽目になるでしょう。こみいった調整が困難なだけではありません。劇作家ジョージ・バーナード・ショーの作品に登場する人物のせりふを思い起こさせるような事態にも直面します。「結局のところ、あらゆる職業は部外者に対して仕組まれた陰謀なのだ」。実のところ、この登場人物はショーが毛嫌いしていたものを、そのときは控えめにみていたのです。たいていの場合、特定の領域のプロが助言者として、不正な行為を意識的に行うわけではありません。そうではなく、無意識にバイアスが働くことによって問題を生じさせています。彼の経済的な動機付けは顧客のものとは異なっているので、 顧客の目的を達成するという意味で、正しく認識できなくなってしまうのです。また次の警句が示している心理的な欠陥も、のしかかってくるでしょう。「手持ちの道具がかなづちだけだと、あらゆるものが釘に見える」。

5番目の有用なアイデアは、「まさに甚大なる効果、すなわち『とびっきり』な効果を生み出すには、通常いくつもの要因を組み合わせなければならない」ということです。たとえば結核は、少なくとも以前には、3種類の薬を定期的に併用することしか抑える術がありませんでした。ほかの「とびっきり」効果についても、飛行機が飛ぶのと同じように、同様のパターンを踏襲しています。

The title of my talk is “Practical Thought About Practical Thought?” - with a question mark at the end. In a long career, I have assimilated various ultrasimple general notions that I find helpful in solving problems. Five of these helpful notions I will now describe. After that, I will present to you a problem of extreme scale. Indeed, the problem will involve turning start-up capital of $2 million into $2 trillion, a sum large enough to represent a practical achievement. Then, I will try to solve the problem, assisted by my helpful general notions. Following that, I will suggest that there are important educational implications in my demonstration. I will so finish because my objective is educational, my game today being a search for better methods of thought.

The first helpful notion is that it is usually best to simplify problems by deciding big “no-brainer” questions first.

The second helpful notion mimics Galileo's conclusion that scientific reality is often revealed only by math as if math was the language of God. Galileo's attitude also works well in messy, practical life. Without numerical fluency, in the part of life most of us inhabit, you are like a one-legged man in an ass-kicking contest.

The third helpful notion is that it is not enough to think problems through forward. You must also think in reverse, much like the rustic who wanted to know where he was going to die so that he'd never go there. Indeed, many problems can't be solved forward. And that is why the great algebraist Carl Jacobi so often said, “Invert, always invert.” And why the Pythagorean thought in reverse to prove that the square root of two was irrational number.

The fourth helpful notion is that the best and most practical wisdom is elementary academic wisdom. But there is one extremely important qualification: You must think in a multidisciplinary manner. You must routinely use all the easy-to-learn concepts from the freshman course in every basic subject. Where elementary ideas will serve, your problem solving must not be limited, as academia and many business bureaucracies are limited, by extreme balkanization into disciplines and subdisciplines, with strong taboos against any venture outside assigned territory. Instead, you must do your multidisciplinary thinking in accord with Ben Franklin's prescription in Poor Richard: “If you want it done, go. If not, send.”

If, in your thinking, you rely entirely on others, often through purchase of professional advice, whenever outside a small territory of your own, you will suffer much calamity. And it is not just difficulties in complex coordination that will do you in. you will also suffer from the reality evoked by the Shavian character who said, “In the last analysis, every profession is a conspiracy against the laity.” Indeed, a Shavian character, for once, understated the horrors of something Shaw didn't like. It is not usually the conscious malfeasance of your narrow professional adviser that does you in. Instead, your troubles come from his subconscious bias. His cognition will often be impaired, for your purposes, by financial incentives different from yours. And he will also suffer from the psychological defect caught by the proverb: “To a man with a hammer, every problem looks like a nail.”

The fifth helpful notion is that really big effects, lollapalooza effects, will often come only from large combinations of factors. For instance, tuberculosis was tamed, at least for a long time, only by routine, combined use in each case of three different drugs. And other lollapalooza effects, like the flight of an airplane, follow a similar pattern.