数日前に、当社の新製品である
据置型ゲーム機Wii Uの発売日と価格が発表されました。今回は同製品のマーケティング戦略に込められたねらいを分析します。その際に、チャーリー・マンガーの「
誤判断の心理学」で登場する心理学的要因を切り口としてみました。なお据置機の主戦場はアメリカ市場であるため、ここでは同市場でのマーケティングを中心にとりあげています。
1. 過去に販売した製品からの値上げ幅の抑制
Wii Uの初期販売モデルは2種類になりました。最小製品構成のベーシック版は白色の筐体で、各種オプションが追加されたデラックス版(日本名ではプレミアム版)は黒色です。ここでは、まず白色ベーシック版を対象に話を進めます。

値ごろ感を確かめるために、当社が販売した据置機過去2世代の発売時期と価格をふりかえります。発売時期はひとつ前のゲームキューブが2001年、現行機Wiiが2006年でした。また価格は、日本市場ではゲームキューブ、Wiiのいずれも25,000円、そしてWii Uも同額になりました。一方アメリカでは、ゲームキューブ200ドル、Wii250ドル(Wii Sportsソフト同梱)、そしてWii Uが300ドルです。値上げの幅は日本ではゼロ、アメリカではインフレを考慮すると許容できる範囲にとどまっています。コントローラーがタブレット型になったので、アメリカの消費者からみてもこの値段は納得できる程度と思われます。そのため、Wii Uは年末商戦での購入候補として検討の対象にあげられるだろうと推測します。(心理学:
対比に誤って反応する傾向、
終始一貫する傾向)
価格政策は当社においても最重要事項のひとつで、携帯機3DSでは大失敗しました(
過去記事)。今回は当社の伝統に立ち返り、消費者の声を意識して大幅な低価格を提示してきたと思われます。
2. 2種類のモデルによる価格政策
アメリカ市場では白色ベーシック版が300ドル、黒色デラックス版が350ドルとなりました。この製品政策・価格政策には2段階の心理学的要因が考慮されているように思われます。まずは白色ベーシック版において過去製品とくらべて納得してもらえる価格を提示し、消費者に安心感を抱いてもらい、潜在意識にある警戒感を解きます。その上で価格の高い黒色デラックス版を提示します。黒と白の価格差は50ドルで、
黒には以下の製品及び特典が追加されています。
・内臓メモリーのアップグレード(8GB -> 32GB)
・各種設置台
・ソフトダウンロード購入時のポイントバック権利
・
ニンテンドーランド(自社製ソフト)
消費者の視点では、追加費用50ドルに対してどれだけの見返りがあるかを考えるものです。追加分それぞれの価格を合計するとどうなるか、どうやら50ドルを超えそうだ、と計算するでしょう。つまり追加分の費用よりも利益のほうが大きいと判断することで、黒色デラックス版はお買い得だと考えるようになります。(心理学:
自尊心過剰の傾向、
疑わない傾向)
このような2段階を踏むことによって、Wii Uを購入してもよいと消費者に考えさせた上で、さらに黒色デラックス版を選んでもらえるように誘導している、と見受けられます。
また「白、黒」というわかりやすい形で製品を階層化するのも効果的です。主要な購入決定者である子供さんにとっては、友達と違う色を持つことの意味がわかっているからです。(心理学:
羨望・嫉妬する傾向)
なお、当社が実施している製品発表では「黒、白」の順で並べています。上に書いた「白、黒」の順とは逆になっています。これは単に重要な製品を先に出しているのかもしれませんし、わたしの考えがまったくの見当違いなのかもしれません。
話を戻して、今度は任天堂側の視点からみると、黒色デラックス版を当初から販売することには4つの大きな利点があります。
第一に、『ニンテンドーランド』という戦略的役割を担ったソフトを同梱販売することです。このソフトはミニゲーム集で、当社の各看板ソフトに登場するキャラクターが集まったものです。ミニゲームという特性を生かし、タブレット型コントローラーによる新しい遊び方に親しんでもらうことで、Wii Uの独自性を訴えます(「タブレットがあると、ドキドキ感が違うね」)。そして特に「カジュアル」とよばれる顧客層に、やや知名度の劣るキャラクターを認知してもらうことで、それらが登場する本編のソフトを購入するよう誘導します(「ゼルダの新作ゲームがでるのか。ニンテンドーランドのと同じなら、やってみたいね」)。(心理学:
好奇心愛好/愛情の傾向)
第二に、ソフトを抱き合わせ販売することで、安定的に利益が確保できることです。新ハード立ち上げ期なので、1本でも多くソフトを売りたいという当社の願いを実現するものです。
第三は想像の域を超えませんが、黒色デラックス版を購入する消費者が「自分が買ったのはあくまでもおまけつきのハード本体だ」と考えることで、別のソフトを追加購入する機会を追求できることです。
最後の利点は長期的なもので、黒色の350ドルという価格帯を既成事実化することです。これによって目先の利益を追求するだけでなく、将来の価格帯引き上げをうかがうことができます。(心理学:
対比に誤って反応する傾向)
3. Wiiの後継製品である利点の活用
「Wii」というブランドがそのまま使えるのは大きな利点です。これは名目にとどまらず、実質を伴ったものになっています。まず、既存のWiiソフトがそのまま使えるというのはユーザーにとって大きな利点です。以下では、もうひとつの利点「Wiiに付属されていたり追加購入したコントローラーなどがそのまま使える」ことについて、考えてみます。
第一に、Wii Uに同梱すべき付属品を減らせるので、名目上の製品価格をおさえられます。これは消費者及び当社の両方にとって利益となります。
第二に、「前に買ったものが無駄にならずに使える」というお得感・正義感を呼びおこすことです。これは消費者の心理に訴えるもので、Wii U購入の動機付けを手助けします。
第三に、購入検討者が新型機Wii Uに対して抱く心理的な壁を低くできることです。Wiiで慣れた操作性がそのまま生かせるとなれば、タブレット型コントローラーに対する漠然とした不安感を、ある程度おさえることができます。そのため少なくとも任天堂社内では、従来のコントローラーも活躍できるように、意図的にソフトを設計していると予想されます。
4. ソフトの品揃え
この年末商戦にアメリカで投入されるWii U新作ソフトは、同時発売及び年内発売の合計で20~30本が見込まれています。Wii当時には20本台半ばでしたので、似たような規模です。消費者にとっては自分が楽しめるソフトがあれば十分ですが、品揃えの多さはハード選定に影響します(心理学:
単なる連想に動かされる傾向)。粒選りの大ヒット作をだすのが当社の基本戦略ですが、新ハード立ち上げ期にはソフトの種類が多いことは追い風になるでしょう。
おわりに
当社はWii Uのマーケティング戦略の中核に、見た目の上で大きな対比がうまれる「白と黒」を据えてきました。またここでは触れませんでしたが、ソーシャル・ネットワーク機能やテレビ連携にも大きく挑戦しています。はたしてこれが功を奏するのか、それともiPadのような汎用タブレットに屈するのか。年末商戦とそれにつづく来期の動向がおおいに注目されます。
余談ですが、当社の株式は継続保有しており、
過去記事の時点から少し追加しました。現在の平均購入単価は9,000円弱です。再び8,000円に迫ることがあれば買い増ししたいところです。