ot

2012年6月27日水曜日

気づかぬ間にオートパイロットが働いている

2 件のコメント:
以前とりあげたセス・クラーマンの話題の中で、「人の脳では2つのシステムが共存して働いている。システムその1は素早く考えるようにできており、システムその2のほうはじっくり考えるようにできている」とする心理学者ダニエル・カーニマンの主張がありました(過去記事)。最近読んだ本『隠れた脳』が、これを主題としていたのでご紹介します。題名から想像できるように、主にシステムその1の働きに焦点をあてています。

今回は、隠れた脳とはどういうものかを説明した箇所を引用します。

なぜ人間は意識的な脳と、隠れた脳の両方を持っているのか、説明する方法はいくつもある。一つ例をあげてみよう。わたしたちの経験には二種類ある。新しい経験と、繰り返されるおなじみの経験だ。意識的な脳は合理的で、慎重で、分析的なので、新しい状況に対処するのが得意だ。しかし状況を理解し、問題を解決するルールを見つけたら、その経験をするたびに考え込む必要はない。見つけたルールを使って、機械的に対処すればよい。こうした作業には、隠れた脳のほうが向いている。決まった作業を効率よく行うため、頭の中で思考の近道をすることをヒューリスティックスというが、隠れた脳はこのヒューリスティックスの達人である。スキルを身につけるということは、たいていの場合、隠れた脳にひとまとまりのルールを教えるということなのだ。初めて自転車に乗るときは、倒れないよう意識を集中しなければならない。しかしバランスを取るためのルールをいったん覚えたら、あとは隠れた脳に作業をすべて任せてしまえばいい。考えなくても、自然にできるようになるのだ。言葉についても同じで、新しい言葉を覚えるときは、一つ一つ単語を覚えたり文法を勉強したりしなければならないが、マスターすれば、苦労して単語を思い出したり、正しい文法を考えたりはしない。 (p.26)

隠れた脳は効率を重視するため、正確さは二の次になるとも述べています。

つづいて、意識にあらわれている脳と隠れた脳が並んで働く場合について。

自分の意見を言えと指示されると、頭の中で意識的な脳と隠れた脳が対峙して議論を始めるが、勝つのは常に意識的な脳だ。理論的な分析は、幼稚なヒューリスティックよりも強いからだ。意識的な脳がパイロットだとすれば、隠れた脳はオートパイロット機能である。パイロットは常にオートパイロットより優先するが、パイロットが注意を払っていないときはオートパイロットの出番となる。 (p.109)


「パイロットが注意を払っていないときはオートパイロットの出番となる」とありますが、チャーリー・マンガーであればもっと厳密に書くのではないでしょうか。「パイロットが気づかぬ間にオートパイロットが働いている」と。つまり、注意しているつもりでも隠れた脳が働くということです。

われわれが失敗をふりかえるとき、「それは想定していなかった」とか「そこまで読めなかった」とか「そもそもの仮定が間違っていた」といった声をあげるものです。頭の中でオートパイロットが働いて近道をしたということですね。それ以前に経験不足ということもあるでしょう。ささいなことならともかく、影響が大きいときにはひと悶着の始まりです。当たり前のことですが、影響が大きい意思決定を行なう際にリスクを下げるには、オートパイロットがおかす誤りをみつけてくれる仕組みが望まれるでしょう。そういえばウォーレン・バフェットも、自分の誤りを指摘してくれるパートナーのことをいつも自慢していますね。

最後になりますが、本書では、実際に起きた各種のできごとを題材に取り上げて話題を展開しながら、隠れた脳がどのように働いているかを検証・考察しています。著者がワシントン・ポスト紙のライターというだけあって、選んだ素材だけでなく、話しの進め方も上手です。翻訳もなめらかです。個人的には惹き込まれた一冊でした。

2012年6月26日火曜日

あなたが秀才かどうかはどうでもよい(リチャード・ファインマン)

0 件のコメント:
仮説・検証とくれば、昨今はコンサルタントの専売特許のような感もありますが、肩肘張らずに考えれば子供でも自然にやっていることですね。先日ご紹介したファインマンの『物理法則はいかにして発見されたか』でも、科学者が新法則を探す際の手順として触れていますのでご紹介します。

一般にいって、私どもはつぎのような手順で新しい法則を捜すのです。初めに推測によってある仮説をたてる。つぎに、それにもとづいて計算を行ない、その仮説からの帰結を調べます。つまり正しいと仮定した法則から何が出るかを見るのです。その計算の結果を自然、すなわち実験、経験につき合わせる。観測と直接に比較してうまく合うかどうかチェックいたします。もし実験と合わなければ、当の仮説は間違いである。この単純きわまる宣言のなかに科学の鍵はあるのです。仮説がどんなに美しかろうと、それは問題ではありません。あなたが秀才かどうか、これはどうでもよい。だれが仮説をたてたか、名前はなんというのか、これも関係ない。もし実験に合わないならば、その仮説はまちがいなのです。これがすべてであります。 (p.239)


こちらはおまけです。「なにが科学的なのか」という命題に対して、やわらかく答えています。ファインマンらしい表現が登場していて楽しい一幕です。

科学畑でない人々は、仮説をたてたり推測をしたりするのを非科学的と思っていることが多いようですが、それは誤りです。何年か前に、私はある街のおやじさんと空飛ぶ円盤について話し合いました。私は科学者だから円盤のことをなんでも知っていると思われたのです! 「空飛ぶ円盤なんてあるとは思いませんな」と私は言いました。おやじさんはこれに反抗して、「空飛ぶ円盤はありえないって? あんた、その証明ができるのかね?」「いや、証明はできません。」私は答えました。「きわめてありそうもないことだと思うだけです。」これを聞くとおやじ、「あんた非科学的だな。証明ができないのに、ありそうもないなんて、どうして言える?」でも、科学的とはこういうことなのです。何がありそうか、何がありそうにないか、これだけ言うのが科学的なので、ことごとに可能か不可能かを証明することではありません。あのとき、おやじにこう言ってやれば私の考えが明確に伝わったかもしれない。「現にこの私をとりまいている世界のことならいくらか知識もあるつもりですが、それから考えると、空飛ぶ円盤を見たという報告は地球人の例のいかれた頭の産物のようです。いかれ加減は既知ですからな。地球外の未知の頭脳の合理的な努力の産物というのよりも、はるかにありそうなことです。」よりいっそうもっともらしく思われるーそれだけのことなのです。 (p.254)

2012年6月25日月曜日

自社株買いの利点(マイケル・モーブッシン)

0 件のコメント:
少し前にご紹介したレッグ・メイソンのストラテジストであるマイケル・モーブッサンが新しいレポートを書いていました。題名は「自社株買いをあらゆる方向からさぐる」(Share Repurchase from All Angles)。前回とりあげたウォーレン・バフェットの引用(過去記事)は、実はこの文章の中に登場していたものです。

今回は、企業の経営者は自社株買いをどのように考えるべきか触れている箇所をご紹介します。なお、このレポートの前半では自社株買いと配当の長短比較もされています。(日本語は拙訳)

自社株買いをしようとする経営陣は次の原則に従わなければなりません。「想定される企業価値より安い値段で買うことができ、なおかつこれに勝る投資の機会が他にない場合に限る」。このきまりの前半では、経営陣は既存株主の価値を最大化する道を模索すべしとしています。後半のほうは優先順位を説いたもので、設備投資や買収といった他の事案とくらべて自社株買いのほうが有利な理由をはっきりさせよとしています。

事業に投資するよりも自社株買いのほうが望ましい時があるのですが、ほとんどの経営者はこの考えに耳を傾けようとしません。というのも、ビジネスを大きくすることが最大の使命と考えているからです。しかし、成長をめざすことが既存株主の長期的価値を最大化させるという目的と合わないこともあります。現にそういう例が見受けられるものです。ほとんどの場合、企業は資本コスト以上の利益が得られるよう事業に資金を投じることで価値を生み出しています。そういった企業活動を通じて価値をつくりだすことが一番重要なのは、たしかにそのとおりでしょう。しかし、既存株主の利益になるという意味では、自社株買いを上手に実施することも理にかなった重要な施策なのです。

自社株買いは企業買収よりも望ましいことがあります。ほとんどの買収案件では、買い手からみると損得なしの値段で決着しているからです。結局のところ得られるのは払った金額(コスト込)に近いところとなるでしょう。そうなってしまう理由は単純です。魅力的な資産が売りに出されるといろんな買い手が集まってくるので、シナジー[買収後のリストラ等]から得られる価値の大半は、買い手ではなくて売り手のものとなってしまうのです。そう考えると、経営陣にとって有利になる可能性を秘めているのは、買収よりも自社株買いのほうです。企業買収の場合、まず買収先の事業継続価値を適切に判断してキャッシュフローを予測します。その上で買収先を支配するのに必要な対価として、想定されるシナジーの現在価値を超えない範囲で上乗せして払える金額を検討します。つまり、2つのハードルを飛び越える必要があります。ひとつめは市場で織りこまれた期待にこたえること、もうひとつはシナジーより低いプレミアムを設定すること。それと比べれば、買収先のキャッシュフローより自社のものを見積もるほうが簡単でしょうし、上手に自社株買いをすればプレミアムを払う必要もありません。それどころか、割安料金で株を取得できることもあるのです。

Executives should follow the golden rule of share buybacks: A company should repurchase its shares only when its stock is trading below its expected value and when no better investment opportunities are available. The first part of this rule reinforces the notion that executives should seek to maximize value for the ongoing shareholders. The second part of the rule addresses prioritization and makes clear that executives should assess the virtue of a buyback against alternative investments, including capital spending and M&A.

Buybacks can be more attractive than investing in the business. Most executives don’t want to hear this because they think that their prime responsibility is to grow the business. But the objective of growth can, and often does, come into conflict with the proper objective of maximizing long-term value for ongoing shareholders. In most cases, companies achieve value creation through operations - investments in the business that earn above the cost of capital. And building value through operations should remain their top priority. But properly executed buybacks can provide a legitimate and significant lever to build value for ongoing shareholders.

Buybacks can be more attractive than M&A. Most M&A deals are close to value neutral for the buyer, which means that they earn something close to the cost of capital. The reason is pretty simple: attractive assets typically lure multiple buyers, so most of the value of synergies goes to the sellers than to the buyers. Buybacks offer executives a potential advantage over M&A. In M&A, a company must properly forecast the cash flows of the target as an ongoing business and then attempt to pay a premium for control that is less than the present value of synergies. So a deal must clear two hurdles: deliver on the expectations already in the market and deliver on a positive spread between the synergies and the premium. It may be easier for an executive to assess the cash flows of his own business than the cash flows of an acquisition target. Further, with smart buybacks the company pays no premium - in fact, the company can acquire the shares at a discount.


「他社」を買収するのではなくて「自社」を買収する。そう考えれば、自社株買いの利点がはっきりと理解できます。恥ずかしながら、これほど単純なことに気がついていませんでした。個人的には、今回の文章には目が開かれました。ウォーレンがIBMに入れ込んでいるのも、納得がいきました。

2012年6月23日土曜日

自社株買いについて(ウォーレン・バフェット)

0 件のコメント:
今回は自己株式購入について、ウォーレン・バフェットによる1984年度「株主のみなさんへ」から引用します。

並はずれた事業を営んでいて財務が安定している企業が市場に目を向けたとき、自社の株が本源的価値よりずっと低い値段で取引されていたら、株主の利益になるもっとも確実な施策は、自社株を買うことでしょう。

When companies with outstanding businesses and comfortable financial positions find their shares selling far below intrinsic value in the marketplace, no alternative action can benefit shareholders as surely as repurchases.

景気が悪く、株価が低迷している時期に自社株買いができる日本企業はどれぐらいあるのでしょうか。前にとりあげたファナックは見事な例でしたが(過去記事)、勉強不足で他の企業が思いあたりません。自分が投資している企業では、成長株が多いという理由もありますが、厳しい時期に自社株買いをするところはありません。平時であれば数年おきに買ってくれる企業がありますが、ウォーレンの基準には少し届いていません。

2012年6月22日金曜日

できるだけ遠くまで拡張する(リチャード・ファインマン)

0 件のコメント:
チャーリー・マンガーは、様々な学問分野で培われてきた原理原則は別のことにも役立つと主張しています(過去記事)。別の学問分野や日常生活、投資の上でも使えるというわけです。今回は、それと似たようなことを物理学者のリチャード・ファインマンが触れていたのでご紹介します。引用元は彼の講演2本が収められた『物理法則はいかにして発見されたか』からです。

まずは主題となる部分です。
粒子とか軌道とかの概念を原子の世界にまで勝手に持ち込んでよいのか、拡張の保証はあるのかと苦情を述べる人がよくあります。心配はご無用、拡張なら何を試みてもよいのです。既知の領域を超えて、すでにわがものとした考え方を乗り越えて、できるだけ遠くまで拡張しなければならない。拡張はすべきものであり、私どもはつねにそれを行なっております。危険なことだというのですか? そうです。危険です。不確かでいけない? その通り、不確かです。しかし、それをあえてしなければ進歩がない。不確かな道ですが、科学を有用なものにするためにはどうしても必要なのです。科学というものは、かつてなされたことのない実験について何ものかを教えてくれるからこそ有用なのです。すでにわかっていることだけ教えてくれるのでは、なんのご利益もありません。テストされた領域の外まで概念を広げることが必要です。 (p.252)

つづいて、アイデアを拡張した具体的な例です。惑星の運動に関するケプラーの第2法則(下図参照)を拡張して、別のものの挙動を説明するのに使っています。文中では「角運動量保存の法則」という別の法則としても言及されています。








数多くの星どもが互いの引力で集まってまいりまして星雲が形成されていくところをご想像ください。初めは、みんな遠くの遠くにあって、中心からの動径は長いのですけれども、動きがのろいために、動径の生成する面積もそれほど大きくはないのです。お互いが近寄ってくるにつれて中心までの距離が小さくなる。星どもみんながうんと真ん中に寄ってきたときの動径はごく短い。そうしますと、毎秒毎秒に前と同じだけの面積を生成するためには、何倍も何倍も速く動かなければならないことになります。星たちは、真中に集まってくるにつれて速度を増し、激しく渦巻くようになるわけです。渦状星雲の形は定性的にはこのようにして理解されるのであります。

スケート選手がスピンをするのも同じようにして理解できます。初めは足を開いてゆっくり走りますが、やがて足をすぼめるとスピンが速くなる。足を開いておけば、毎秒なにがしかの面積を得するのですが、すぼめてしまいますと、その分の面積をかせぐために、ひとりでにスピンが速くなるわけであります。しかし、私は、スケート選手の場合の証明をまだしておりません。スケート選手は筋力を使うのであって、重力ではありません。それでも、角運動量保存の法則はスケート選手にもあてはまるのです。

これはおもしろい問題です。重力の法則みたいに物理のある一隅から導き出した定理が、その実、はるかに広い範囲で正しいことが判明する。こんなことがしばしばあるからおもしろいのです。 (p.68)