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2012年6月25日月曜日

自社株買いの利点(マイケル・モーブッシン)

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少し前にご紹介したレッグ・メイソンのストラテジストであるマイケル・モーブッサンが新しいレポートを書いていました。題名は「自社株買いをあらゆる方向からさぐる」(Share Repurchase from All Angles)。前回とりあげたウォーレン・バフェットの引用(過去記事)は、実はこの文章の中に登場していたものです。

今回は、企業の経営者は自社株買いをどのように考えるべきか触れている箇所をご紹介します。なお、このレポートの前半では自社株買いと配当の長短比較もされています。(日本語は拙訳)

自社株買いをしようとする経営陣は次の原則に従わなければなりません。「想定される企業価値より安い値段で買うことができ、なおかつこれに勝る投資の機会が他にない場合に限る」。このきまりの前半では、経営陣は既存株主の価値を最大化する道を模索すべしとしています。後半のほうは優先順位を説いたもので、設備投資や買収といった他の事案とくらべて自社株買いのほうが有利な理由をはっきりさせよとしています。

事業に投資するよりも自社株買いのほうが望ましい時があるのですが、ほとんどの経営者はこの考えに耳を傾けようとしません。というのも、ビジネスを大きくすることが最大の使命と考えているからです。しかし、成長をめざすことが既存株主の長期的価値を最大化させるという目的と合わないこともあります。現にそういう例が見受けられるものです。ほとんどの場合、企業は資本コスト以上の利益が得られるよう事業に資金を投じることで価値を生み出しています。そういった企業活動を通じて価値をつくりだすことが一番重要なのは、たしかにそのとおりでしょう。しかし、既存株主の利益になるという意味では、自社株買いを上手に実施することも理にかなった重要な施策なのです。

自社株買いは企業買収よりも望ましいことがあります。ほとんどの買収案件では、買い手からみると損得なしの値段で決着しているからです。結局のところ得られるのは払った金額(コスト込)に近いところとなるでしょう。そうなってしまう理由は単純です。魅力的な資産が売りに出されるといろんな買い手が集まってくるので、シナジー[買収後のリストラ等]から得られる価値の大半は、買い手ではなくて売り手のものとなってしまうのです。そう考えると、経営陣にとって有利になる可能性を秘めているのは、買収よりも自社株買いのほうです。企業買収の場合、まず買収先の事業継続価値を適切に判断してキャッシュフローを予測します。その上で買収先を支配するのに必要な対価として、想定されるシナジーの現在価値を超えない範囲で上乗せして払える金額を検討します。つまり、2つのハードルを飛び越える必要があります。ひとつめは市場で織りこまれた期待にこたえること、もうひとつはシナジーより低いプレミアムを設定すること。それと比べれば、買収先のキャッシュフローより自社のものを見積もるほうが簡単でしょうし、上手に自社株買いをすればプレミアムを払う必要もありません。それどころか、割安料金で株を取得できることもあるのです。

Executives should follow the golden rule of share buybacks: A company should repurchase its shares only when its stock is trading below its expected value and when no better investment opportunities are available. The first part of this rule reinforces the notion that executives should seek to maximize value for the ongoing shareholders. The second part of the rule addresses prioritization and makes clear that executives should assess the virtue of a buyback against alternative investments, including capital spending and M&A.

Buybacks can be more attractive than investing in the business. Most executives don’t want to hear this because they think that their prime responsibility is to grow the business. But the objective of growth can, and often does, come into conflict with the proper objective of maximizing long-term value for ongoing shareholders. In most cases, companies achieve value creation through operations - investments in the business that earn above the cost of capital. And building value through operations should remain their top priority. But properly executed buybacks can provide a legitimate and significant lever to build value for ongoing shareholders.

Buybacks can be more attractive than M&A. Most M&A deals are close to value neutral for the buyer, which means that they earn something close to the cost of capital. The reason is pretty simple: attractive assets typically lure multiple buyers, so most of the value of synergies goes to the sellers than to the buyers. Buybacks offer executives a potential advantage over M&A. In M&A, a company must properly forecast the cash flows of the target as an ongoing business and then attempt to pay a premium for control that is less than the present value of synergies. So a deal must clear two hurdles: deliver on the expectations already in the market and deliver on a positive spread between the synergies and the premium. It may be easier for an executive to assess the cash flows of his own business than the cash flows of an acquisition target. Further, with smart buybacks the company pays no premium - in fact, the company can acquire the shares at a discount.


「他社」を買収するのではなくて「自社」を買収する。そう考えれば、自社株買いの利点がはっきりと理解できます。恥ずかしながら、これほど単純なことに気がついていませんでした。個人的には、今回の文章には目が開かれました。ウォーレンがIBMに入れ込んでいるのも、納得がいきました。

2012年6月23日土曜日

自社株買いについて(ウォーレン・バフェット)

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今回は自己株式購入について、ウォーレン・バフェットによる1984年度「株主のみなさんへ」から引用します。

並はずれた事業を営んでいて財務が安定している企業が市場に目を向けたとき、自社の株が本源的価値よりずっと低い値段で取引されていたら、株主の利益になるもっとも確実な施策は、自社株を買うことでしょう。

When companies with outstanding businesses and comfortable financial positions find their shares selling far below intrinsic value in the marketplace, no alternative action can benefit shareholders as surely as repurchases.

景気が悪く、株価が低迷している時期に自社株買いができる日本企業はどれぐらいあるのでしょうか。前にとりあげたファナックは見事な例でしたが(過去記事)、勉強不足で他の企業が思いあたりません。自分が投資している企業では、成長株が多いという理由もありますが、厳しい時期に自社株買いをするところはありません。平時であれば数年おきに買ってくれる企業がありますが、ウォーレンの基準には少し届いていません。

2012年6月22日金曜日

できるだけ遠くまで拡張する(リチャード・ファインマン)

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チャーリー・マンガーは、様々な学問分野で培われてきた原理原則は別のことにも役立つと主張しています(過去記事)。別の学問分野や日常生活、投資の上でも使えるというわけです。今回は、それと似たようなことを物理学者のリチャード・ファインマンが触れていたのでご紹介します。引用元は彼の講演2本が収められた『物理法則はいかにして発見されたか』からです。

まずは主題となる部分です。
粒子とか軌道とかの概念を原子の世界にまで勝手に持ち込んでよいのか、拡張の保証はあるのかと苦情を述べる人がよくあります。心配はご無用、拡張なら何を試みてもよいのです。既知の領域を超えて、すでにわがものとした考え方を乗り越えて、できるだけ遠くまで拡張しなければならない。拡張はすべきものであり、私どもはつねにそれを行なっております。危険なことだというのですか? そうです。危険です。不確かでいけない? その通り、不確かです。しかし、それをあえてしなければ進歩がない。不確かな道ですが、科学を有用なものにするためにはどうしても必要なのです。科学というものは、かつてなされたことのない実験について何ものかを教えてくれるからこそ有用なのです。すでにわかっていることだけ教えてくれるのでは、なんのご利益もありません。テストされた領域の外まで概念を広げることが必要です。 (p.252)

つづいて、アイデアを拡張した具体的な例です。惑星の運動に関するケプラーの第2法則(下図参照)を拡張して、別のものの挙動を説明するのに使っています。文中では「角運動量保存の法則」という別の法則としても言及されています。








数多くの星どもが互いの引力で集まってまいりまして星雲が形成されていくところをご想像ください。初めは、みんな遠くの遠くにあって、中心からの動径は長いのですけれども、動きがのろいために、動径の生成する面積もそれほど大きくはないのです。お互いが近寄ってくるにつれて中心までの距離が小さくなる。星どもみんながうんと真ん中に寄ってきたときの動径はごく短い。そうしますと、毎秒毎秒に前と同じだけの面積を生成するためには、何倍も何倍も速く動かなければならないことになります。星たちは、真中に集まってくるにつれて速度を増し、激しく渦巻くようになるわけです。渦状星雲の形は定性的にはこのようにして理解されるのであります。

スケート選手がスピンをするのも同じようにして理解できます。初めは足を開いてゆっくり走りますが、やがて足をすぼめるとスピンが速くなる。足を開いておけば、毎秒なにがしかの面積を得するのですが、すぼめてしまいますと、その分の面積をかせぐために、ひとりでにスピンが速くなるわけであります。しかし、私は、スケート選手の場合の証明をまだしておりません。スケート選手は筋力を使うのであって、重力ではありません。それでも、角運動量保存の法則はスケート選手にもあてはまるのです。

これはおもしろい問題です。重力の法則みたいに物理のある一隅から導き出した定理が、その実、はるかに広い範囲で正しいことが判明する。こんなことがしばしばあるからおもしろいのです。 (p.68)

2012年6月20日水曜日

深層防護という工学的アプローチ

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少し前に取り上げた『福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書』(過去記事)では、今回の事故で何がまずかったのか、様々な観点から考察しています。今回ご紹介するのは、原子力発電所というシステムの設計や運用に対して、システム工学的な見地から反省をうながした箇所です。

まずは、原発の安全性を確保するための設計上のアプローチ、「深層防護」の説明です。
 高い信頼性を維持するための工学的なコンセプトが、深層防護という考え方である。深層防護とは、英語のDefense in Depthを訳したもので、安全対策を重層的に施して、万が一いくつかの対策が破られても、全体としての安全性を確保するという考え方である。(中略)また、設計時に用意した対策がすべて失敗した場合に備えて、人と環境を放射線の影響から守れるような対策が立てられてきた。 (p.254)

深層防護は、各階層が互いに独立しているべきである。ある階層の効果が、前後の階層に依存すべきではない。つまり、各階層は自分が最後の砦になったつもりで、対策を行わなければならない。こうした思想の下、5つの階層すべてを強化していくことにより、初めて深層防護と呼べるのである。

原子力の危険性を指摘する議論の中には、前段の階層の対策が不十分であるから、防災対策などの後段の階層が必要になるのだ、と考える向きがある。しかし、この議論は、深層防護という工学的アプローチの理解不足に起因するものである。 (p.255)

これを実際に起きたことにあてはめてみると、前段の階層が「地震のゆれを感知して原子炉を安全に停止させた」部分にあたり、後段の階層が「津波等の影響で全交流電源を失った」部分になるかと思います。電源喪失を防護する対策が不十分だったわけです。

では、なぜこのような設計運用が行われてしまったのか、本書のメンバーは以下のように分析しています。
 わが国では、定期検査などの枠組みの中で、個別の機器や構造物の性能が、定期的、かつ詳細に評価されてきた経緯がある。したがって、海外と比較して、個別の機器の信頼性は高い傾向にある。一方で、プラント全体の安全性については、評価が不十分であった可能性が指摘できる。 (p.259)

福島第一原子力発電所も含め、わが国の原子力発電所では、定期安全レビューの中で、内部事象(機器の故障や配管の損傷など)に起因する確率論的安全評価が、自主的に実施されてきた。しかしながら、外部事象(地震等)に起因する確率論的安全評価については、手法が十分確立していなかったこともあり、取り組みが遅れていた。また、規制機関にも、確率論的安全評価の結果を、積極的に規制に活用するという姿勢がなかった。

日本原子力学会標準委員長の宮野廣氏は、「一面から見た安全尺度の採用と過信」を事故の遠因に挙げ、「わが国の原子力発電所では計画外スクラム(停止)の頻度が極めて低いことは、世界的にも有名である。そこに安全神話が形成されてしまったのではないか。…従って、確率論的安全評価(PSA)のニーズが少なく、"せっかく安全だというのに"という思いから取り組みが遅れてしまったのではないか」と述べている。

このことは、深層防護の考え方の根本である防護レベルの独立性が、十分に理解されていなかったことを示している。つまり、第1層の指標である計画外停止頻度だけでなく、第3層の指標である炉心損傷確率についても、より積極的に評価されるべきであった。 (p.260)

工学的な知恵が理解されていなかったという点に、われわれの文明水準の程度が表われているようです。システム工学というのは難しい概念の集まりではなく、むしろ常識や見識と通じるところが多いように思われます。このようなものの見方や考え方は、社会的に大きな影響力をもつ人ほど、いっそう要求されるのではないでしょうか。

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ここからは投資の話になります。まずはチャーリー・マンガーの言葉から。世知を語る中で、信頼できるモデルのひとつとして工学を挙げています。例えば次のような発言です。「工学上の概念としてバックアップ・システムや破断点がありますが、これらはとても強力なモデルです」(過去記事)。ここでは一言で済ませていますが、上に挙げた深層防護とはまさしくバックアップ・システムの一形態です。正しく使えば信頼できるモデルです。

つづいて、ウォーレン・バフェットの言う「投資先を評価する観点」です。順を追ってみると、それぞれの項目が独立しており、重層的に評価できるようになっています。

1. 長期的に見た場合に、ビジネスの特性がどうなっていくのか
株式投資を行う際の最重要の評価項目で、ビジネス自体の質が高いかどうかを問うものです。これによって、長期的なリターンと確実性を判断します。

2. 経営者がビジネスの潜在力を最大限に生かし、キャッシュをうまく活用できるかどうか
せっかくよいビジネスなのに、経営者が足をひっぱることがあります。例えば、むやみにシェア拡大をめざして設備投資したり、関連の少ない新規事業に手を出したり、場当たり的な企業買収を行うといった例。これはビジネスのリターンを悪化させる恐れがあります。
また、絶好の機会なのにキャッシュを使わないのも慎重すぎでしょう。あるいは単なる保身なのかもしれませんが。
ここで問われているのは、企業が持つ複利効果の質です。

3. 経営者がビジネスで得た利益を株主へ還元することを一義とし、無駄づかいしていないかどうか
よくある例は、高い株価で自社株式を買い戻すことです。間の悪い時期に自社ビルを購入するのも、株主にとってはありがたくないかもしれません。質の高いビジネスが稼いだお金をどうやって株主へ返すのか。そのプロセスの質が、ここでは問われています。

4. 株価
ここまでの基準を満たした企業でも、株を買うのに高い金額を払うのは誰にでもできることです。想定リターンに対してどこまで対価を支払うのか。ここでは、投資家が下す判断の質が焦点になります。チャーリーは、すばらしい企業にそこそこの金額を払うのだったら気にすることはないとしていますが、安いに越したことはありません。

このような4階層にわたる深層防護がきちんと働くことで、納得のいくリターンが期待できると共に、元本の安全性も高い投資先が残るのではないでしょうか。ウォーレンやチャーリーの判断基準は何気ないようにみえますが、実はよく考えられているようですね。


2012年6月19日火曜日

成功している投資家とそうでない人の違い(ジョン・テンプルトン)

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ジョン・テンプルトンの「投資で成功するための16のルール」から、今回はルールその11「自分の過ちから学びなさい」の説明文をご紹介します。引用元はこちらです。(日本語は拙訳)

(ルールその11) 自分の過ちから学びなさい

失敗を避ける唯一の方法、それは投資をしないことです。が、実はそれこそ最大の失敗ですね。ですから、落ち込んだりしないで、失敗した自分を許してやってください。なにより、損した分を取り返そうとして、より大きなリスクをとらないことです。そうではなくて、失敗を教訓として学ぶのです。なにがまずかったのか正しく把握し、同じ失敗を繰り返さないためにどうしたらよいのか見定めてください。

「今回はこれまでとは違うんだ」と力説する投資家がいます。それは、投資の歴史においてもっとも高くついてきた言葉を口にしていますね。実のところ、過去に起きた顛末が、また繰り返されているのです。

成功している投資家とそうでない人では何が大きく違うのか。それは、成功している人は自らの過ちや他人の失敗から学んでいるという点なのです。

No. 11 LEARN FROM YOUR MISTAKES

The only way to avoid mistakes is not to invest - which is the biggest mistake of all. So forgive yourself for your errors. Don’t become discouraged, and certainly don’t try to recoup your losses by taking bigger risks. Instead, turn each mistake into a learning experience. Determine exactly what went wrong and how you can avoid the same mistake in the future.

The investor who says, “This time is different,” when in fact it’s virtually a repeat of an earlier situation, has uttered among the four most costly words in the annals of investing.

The big difference between those who are successful and those who are not is that successful people learn from their mistakes and the mistakes of others.


よく聞く話だとお感じになった方、たしかにその通りです。同じような助言を過去に何度か挙げています(「投資で成功するのに大切なこと」「注意!この先危険」)。ここで重要なことが2つあると思います。ひとつめは、著名な投資家が口をそろえて指摘していること。もうひとつは、この助言を受けて自分がどのように行動しているかです。