ot

2012年4月25日水曜日

自分のやりかたで解く(リチャード・ファインマン)

2 件のコメント:
最近読んだ本『ファインマンさんの流儀』は、彼の業績や評判を軸に展開される伝記です。物理のことはだいたい忘れてますし、量子物理学の話にはほとんどついていけませんでしたが、ファインマンの天才ぶりはよくわかりました。

今回は同書からの引用で、ファインマンのやりかたについてです。チャーリー・マンガーは様々なモデルを使いこなすことの利点を説いていますが、なかでも基礎的な学問を重視しています(過去記事)。自分のやり方にこだわるファインマンが、その好例をみせてくれます。

実際、リヒスがほんとうにその会社、<シンキング・マシンズ>社を始めたとき、ファインマンは1983年の夏じゅう、ボストンで(カール[息子]と共に)過ごさせてくれと申し出た。ただし、ヒリスの願いに沿って自分の科学専門知識に基づいて、全般的で曖昧な「助言」をすることについては、そんなことは「でたらめの山」だからできないと言って拒否し、なにか「具体的な仕事」をくれと要求した。結局彼は、並行計算が実際にちゃんと行えるようにするために個々のルーターに必要なコンピュータ・チップの数は何個かという問題に対する解を導き出した。彼が導き出したこの解がすばらしかったのは、伝統的なコンピュータ・サイエンスの技法を一切使わず、その代わりに、熱力学や統計力学を含む物理学のさまざまな考え方を使って定式化されたものだったからだ。そして、なお重要なことに、その会社のほかのコンピュータ技術者たちが出した推定値とは一致しなかったけれども、実際にはファインマンのほうが正しかったのであった。(p.340)

2012年4月24日火曜日

ブラジルが一緒に詰めて輸出しているもの

0 件のコメント:
前回記事に続いて『食の終焉』からの引用の最終回です。今回は農業や畜産業で成長著しいブラジルについてです。

農家がいまだに分厚い表土の恩恵を受けているアメリカ中西部や黒海地方とは違い、南米の森林地帯の多くは表土が薄く、有機物の少ない強酸性の土壌であるため、開墾され作付けが行われても、ほかの地域で行われてきたような集約的農業に十分に耐えられない。そのような土地では、有機物の消失が急速に進み、それによって収穫量が徐々に落ち込み、表土流出の危険性が高まると、農家はその土地を放棄して新しい土地に移るしかないが、そのためにまた新たな森林伐採が必要となる。言ってみれば、ブラジルは輸出する大豆の袋や冷凍鶏肉の箱の中に、安い労働力やすでに逼迫している水資源や土資源を一緒に詰めて輸出しているようなものなのだ。

育種の専門家で、中南米で調査を行ったジョージア大学のチャールズ・ブラマー(Charles Brummer)教授は言う。「ブラジルが次の100年も作付け面積を増やせると考えるのは馬鹿げている。彼らは沼地を干拓したり、森林の伐採をさらに進めたりすることはできるだろう。しかし、それはすでに彼らが、延命措置によって生きていることを意味している」(p.399)

ブラジルはこれからの経済成長が期待されている大国として明るい面ばかりみていましたが、それなりの影がかくれているのですね。

2012年4月22日日曜日

スナック菓子が食事を占める割合

2 件のコメント:
前回の記事に続いて『食の終焉』からの引用です。今回は食品メーカーのマーケティングやR&Dについてです。

まずはブランドについて。
ほとんどの加工食品において(ついでに言えば、ほとんどあらゆる消費者製品についてもこれはいえる)、消費者は首位のブランドをあたかもそれがより高い価値を持つ製品であるかのように扱い、その価値を手に入れるためであれば、消費者は喜んで割高の代金を支払ってくれる。具体的には、消費者は売上トップのブランドには2位のブランドよりも最大4パーセントまでの割高な代金を、3位のブランドよりも7パーセント余分な代金を支払う意思がある。その3つの製品が本質的に同一のものであったとしてもだ。(p.97)

次は嗜好に関する研究結果です。
ネスレ、クラフト、ハインツなどの会社は、味と嗜好の謎をデータ化することに成功した。それだけでなく、私たちが何を好んで食べるか、そしてそれをなぜ好むのか、その理由まで、私たち自身が認識している以上に、彼らは私たちのことをよく理解している。彼らは塩味やカリカリ感への嗜好性が性別、年齢、民族性、国民性によってどう変わるかも、正確に把握している。年長者は味蕾の衰えもあって濃い味を好み、アジア人は塩気のあるパリッとしたスナックに目がなく、アメリカ人は新しい味に夢中になりやすいが、マカロニやミートローフのような「郷愁を感じさせる味」にも弱く、これまで慣れ親しんだ味からそう簡単には離れられないことも、彼らはすべてお見通しなのだ。(p.102)

「慣れ親しんだ味からそう簡単には離れられない」理由を、ネスレ社のあるマネージャーは次のように説明しています。
「人間はこと食べ物のことになると、昔からとても保守的にできています。かつて狩猟採集民だった頃から、何か急な味の変化を感じ取ったとき、それを何かの警告として受け取る習性が身に付いているからです」
(p.84)

最後は、スナック菓子のマーケット調査結果です。
世界中の食品販売を分析しているイギリスのデータモニター(Datamonitor)社は、平均的なアメリカ人は3日に1回は朝食を抜いていて、さらに昼食と夕食を抜く回数も増え始めていると分析している。このような傾向は消費者の健康には恐ろしく悪いことだが、食品会社にとってみればまた新たなチャンスの訪れを意味している。消費者が日常の食事の回数を減らせば、それを補完するために、利益率の高い食物カテゴリーであるスナック菓子を多く食べるようになるからだ。データモニター社によると、現在アメリカでは、スナック菓子がすべての食事の約半分を占めるまでになっているという。(p.105)

2012年4月21日土曜日

インスタントコーヒーのあけぼの

0 件のコメント:
投資に役立つヒントを求めて、マクロな視点の本も少しずつ読んできました。水資源、食糧、省資源、気候、地球温暖化、大企業の社会的問題といったものです。最近読んだ本『食の終焉』はこれらの話題を包含するような力作です。本書の主題は、ビジネスに取り込まれてしまった「食」を様々な観点からとらえ、警鐘をならすことにあります。情報量が多い本は消化不良でおわったり、主旨がふらつくことがありますが、本書にはあてはまりません。著者はひとつひとつの話題をそれなりに掘り下げ、互いをつなぎあわせ、自らの主張を織り込み、読みごたえのある文書をつくりあげています。邦訳のほうも、幅広い分野にわたる原文に追いつくだけでなく、なめらかな日本語へと置き換えています。ビジネスや世界情勢を理解するのに役立つ知識はもちろん、社会や我々の中にある闇をみつめるきっかけも得られるでしょう。個人的には、今年読んだ中でベスト3に入れたい本です(これから読む本も含めて)。

同書の中から印象に残った文章をいくつかご紹介します。今回はインスタントコーヒー商業化のいきさつについてです。

もちろん、消費者の時間不足だけが食品メーカーをインスタントコーヒーなどのお手軽食品の開発に駆り立てたわけではない。そもそも、ネスレがインスタントコーヒーを考案したのは、消費者が手軽に入れられるコーヒーを望んでいたからではなく、コーヒー豆の価格が生の状態で売るには安くなり過ぎたからだった。1930年代、ブラジルのコーヒー農園はアメリカの穀物農場のように非常に広大になったため生産効率が高くなり、コーヒー豆の市場はだぶついていた。コーヒー相場は大幅に下落し、ブラジル人はコーヒー豆を機関車の燃料として燃やすほど持て余していた。困ったコーヒー産業の関係者たちは、需要喚起を願って、もっと消費者に手軽なコーヒー製品を開発するようネスレに懇願した。コーヒーの加工は初めてだったが(当時ネスレは主に牛乳を扱う会社だった)、その時のネスレの幹部らの推測は正しかった。余った豆をもっと手軽に使えるような形に変えることができれば、消費者はより多くのコーヒーを飲むだけでなく、喜んで生の豆の相場よりも高い金額を支払うだろうと考えたのだ。

このように未加工の農産物を加工して利益をもたらすような製品に変換することを「付加価値」と呼ぶが、この程度のことは今日、あらゆる商品を対象に当たり前のように行われているため、それが食品加工産業の成功とその特性に、どれほど中心的な役割を果たしてきたかをついつい見逃しがちである。穀物相場の下落は農場主の首を絞めていたかもしれないが、安い穀物をコーンフレークやキンダーミールに変えることで加工費を原材料費に上乗せして受け取っていたケロッグやネスレなどの加工業者には、逆の効果があった。確かに千年以上前から職人たちは穀物や牛乳、肉に付加価値を付けてきた。ワインから発酵という付加価値をなくせばただのブドウである。しかし大量生産と市場出荷という新しい手段のおかげで、付加価値は、未加工農産物の生産者が手に入れられなかった潜在的利益を食品会社にもたらした。(p.92)

2012年4月20日金曜日

TOPIX Core30ひとかじり (5)パナソニック

0 件のコメント:
当社は消費者向け製品も多く、おなじみの企業なので、詳細に立ち入る必要はないかと思います。そこで今回は以下の3点に着目して、当社の現状把握としておきます。

1.セグメント毎の営業利益率
当社ではセグメントという表現で事業を大きく分けています。どれも売上高が1兆円を超えるものばかりです。セグメントというよりも、企業グループといった趣きです。以下の表は少し前の2010年度の営業成績です。

#セグメント製品例売上高(10億円)営業利益(10億円)営業利益率(%)
1デジタルAVCネットワークテレビ、デジカメ3,3031143.5%
2アプライアンス冷蔵庫1,275927.2%
3電工・パナホームLED、住宅1,735724.2%
4デバイス半導体926323.6%
5三洋電機電池全般1,561△ 8-0.5%
6その他FA機器1,197524.4%
(出典:当社アニュアルレポート DATA BOOK 2011)

質のほうに目を向けると、いずれのセグメントでも営業利益率が10%に届いていません。以前取り上げた信越化学工業のような企業とくらべると(過去記事)、業種も規模も違いますが水をあけられています。


2.事業毎の営業利益率

下の図は、もっと細分化された事業レベルでの営業利益率のイメージです。ただし、上の表とは時期が異なっており、2011年度第3四半期までの営業成績です。

(出典:当社プレゼンテーション「収益力強化の取組み」 スライドp.4)










当社の不振ぶりが昨今騒がれていますが、その元凶がひとめでわかります。左側が赤字事業で、テレビ及び半導体です。


3.テレビ事業について
なぜテレビ事業が急激に失速したのか。液晶テレビのような家電製品の安値販売に対して、世間では「コモディティー化」と呼んでいますが、特に国内での販売状況を見ると需給バランスの悪化が目につきます。2011年夏の地上波デジタル移行に向けて、テレビ製造各社が進んだ道を振り返ってみましょう。

下の図は、ここ数年間の国内での薄型テレビの販売台数実績をまとめたものです。調査会社の資料ではなく、各製造会社のIR資料から独自に推測したものなので、精度はかなり大雑把です。また主要4社のみ対象としています。







国内の世帯数は約5,000万世帯で(総務省統計から)、1世帯あたりのテレビ保有台数は2.5台です(平成19年3月の消費動向調査から)。このことから、マーケットの大きさは12,000万台前後とみられます。それに対して、上記の図では2010年度末には7,000万台に達しており、それ以前に販売されていた台数も含めれば、飽和するのが遠くない状況です。買い替えサイクルは約10年なので、飽和後に期待できる年間販売台数は1,200万台強。この図の4社で均等に分け合っても、1社あたり300万台です。

この図は過去の実績をさかのぼってまとめたものですが、各社で薄型テレビのマーケティングや事業戦略を練る際には、このような需給予測は行っていたはずです。精度はずっと高いものでしょう。国内マーケットはいずれは縮小し、設備過剰に陥ることも予想されていたでしょう。それなのに、なぜ今回のような道を選んだのか。個人的にはその一つとして、前回記事で取り上げた「競合動向を軽視」していた可能性を挙げたいと思います。「そうではない。自社が売らなければ他社を利する」とゲーム理論的に考えたのかもしれません。真偽のほどはわかりませんが、2,000億円の減損は小さくはありません(出典: 2011年度第3四半期決算概要スライドp.11)。既に払ったお金であればサンクコストに過ぎませんが、お金の使い方という観点では当社を見る目は厳しくなったのではないでしょうか。