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2013年2月24日日曜日

2012年の投資をふりかえって(3)新規・追加投資編(クラレ)

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前回(マイクロソフト)に続いて4件目の企業です。

<当社の概要>
当社は投資雑誌などで取り上げられており、個人投資家にも知られている企業と思われますが、事業内容を概括しておきます。社名そのものやランドセルでおなじみだった「クラリーノ」から繊維系を想像させますが、現在の当社の主力製品はプラスチック(合成樹脂)です。ただしそれらは大手化学メーカーの汎用品とくらべると独自性を有しているため、価格競争力を維持し高収益につながっています。

事業セグメント毎の営業成績は次のような割合になります。樹脂事業(プラスチック)が利益の大半をあげています。


部品や部材を扱う優良企業として、日東電工がよく知られています。同社は液晶パネル向け製品を展開したことで、大きく飛躍しました。たとえば偏光版は、市場の多くを住友化学と占めています。偏光板を生産するそれらの企業に対して、当社はプラスチック原料(ポバールフィルム)を提供しています。これは工学的特性が優れていることで、現在でも代替品を排除しています。当社はさらに上流の原料(ポバール)の業界リーダーでもあるため、供給面においても競争力が高く、ポバールフィルムは80%のシェアを確保しています。

もうひとつの主力製品エバール(EVOH樹脂)は、他の一般的なプラスチックよりも空気などの気体をよく遮断する特徴を持っています。従来の代表的な採用先は食品包装材でしたが、最近は自動車の燃料タンクでの採用が増えています。

これらのプラスチック以外にも、独自な特性を持つ製品を展開しています。主なものとして、液状ゴム<クラプレン>、透明で柔軟なアクリル系熱可塑性エラストマー(ゴム)<クラリティ>、高耐熱性樹脂<ジェネスタ>があり、いずれも売上拡大が期待できます。

<投資に至った背景>
日本企業の中では、当社は今後もまずまずの成長が期待できる一社と捉えていたのですが、市場も妥当な評価をしていたため、株式を買うには至っていませんでした。しかし昨年(2012年)は株価が低調に推移したため、割安な金額に達したと判断し、投資することにしました。

1. 主力製品の継続的成長
当社が成長できると考える理由は、主力製品ポバールやエバールがいくつかの観点で利益拡大が期待できるからです。個別にみると第一にあげられるのが、地域的な市場の拡大です。直近の動向としては北米において、生産拠点を拡大したり、川下の企業を買収して展開を進めています。

第二に、適用製品の拡大です。これは、日常的なマーケティングで進められる一般的なものです。が、以前に信越化学の回でも感じたのですが(過去記事)、上流に近い素材製品は市場での認知が進むと代替品への切り替えが起こりにくく、製品ライフサイクルが長期にわたる傾向があります。ポバールやエバールといった製品も、性能を顧客に認知してもらい、既存材料からの切り替えがまだ進行している段階です。軽薄短小化の進展も追い風となっています。マーケットシェアの面でもリードしており、優位な立場にあります。いずれはより高性能な素材に置き換えられたり、価格面で譲歩を余儀なくされるのでしょうが、顧客や適用先が多様で、シェア全体が浸食されるには時間がかかります。

第三が、コスト増に伴う製品価格改定、つまり値上げです。独占・寡占的な地位を活かせる製品については、ナフサ価格の上昇を製品価格へ転嫁することができます。

最後が、生産性向上によるコスト低減です。投資を検討した時点ではこの観点には気づいていませんでした。少し前に読んだ本から受けたアイデアですが(過去記事)、ふりかえってみると当社の説明会で経営陣が「コンパクトな新規設備」と発言していたことが思い出されます。効率化によって利益をしぼりだせるというのは、別の意味で魅力のある事業だとみています。

2. シーズ志向の好循環
研究開発の観点で成功している素材や部品メーカーを観察すると、2つのやりかたがみえます。ひとつは少し先の市場動向を的確にとらえ、すじのよい製品を開発して提供すること。これにあてはまる企業には日東電工やJSRなどが考えられます。マーケティングと研究開発がうまくかみ合った上で経営陣が機動的な采配を発揮することが要求されるため、総合力という意味で模倣しにくい競争力を持つ企業だと評価できます。

もうひとつは、独自の基礎的材料の研究開発や量産化に成功し、応用製品に展開するやりかたです。当社はこちらに当てはまると考えます。このやりかたの評価できる点は、2つの個人的な仮説に基づいています。第一が「独自な基礎材料は、応用の際にも独自の性質をあらわしやすい」とするものです。新規の適用先を探究する際に、独自な特性を持つ材料はそもそも化学組成や構造に特徴があるため、応用したあとでもそれが引き継がれ、思わぬ特性を導き出すのではないかと想像します。第二に「シーズをみきわめて育てる好循環が、企業内のDNAに刻み込まれる」とするものです。一般に、最初の成功を収めて財務的な安定が得られると、ふたたび同じやりかたを志向しやすくなるものです。成功体験に酔って転落することは少なくないので、このサイクル自体は両刃の剣として働きます。しかし第一の仮説が成り立つとしたら、良いサイクルとして働く可能性が高まります。独自性やニッチに生きる道を大切にするようになれば、より自律的な企業文化をはぐくむ可能性を秘めているからです。ただし、現在の当社に対して楽観視しているわけではありません。あくまでも「望ましい可能性が期待できる」という程度です。

3. 好財務
2011年度末の時点で総負債控除後の現金等流動資産がおよそ1,000億円あり、自社株買いや買収に使える点で魅力を感じました。なお当社の有形固定資産純額(除く建設仮勘定)は、約1,300億円です。

<リスク>
1. 次の大型製品がみえないこと
上の図で示したように、利益の大半を樹脂事業(ポバールやエバール)に依存しており、多岐な採用が見込まれる他の基礎的製品は顕在化していません。市場の開発は日々の地道なマーケティングを踏まえたものであり、将来の市場の幅や深さを予想するのは難しいものです。さらに投資家の視点で当社の次世代製品を占うには、専門知識と洞察力が要求されます。その意味で、個人的には次の大型製品の可能性はまったくみえていません。

2. ディスプレイ市場における、液晶から新技術への急速な変化
上記と関連する話題ですが、液晶パネルの偏光板の材料であるポバールフィルムにおいて当社は市場を寡占しており、高水準の利益率を維持していると思われます。そのためディスプレイの市場や技術動向が当社の利益に大きく影響するとみるべきです。直近のニュースで「超複屈折フィルム」を採用した新型液晶パネルがとりあげられていました。これは液晶技術を延命させるのに寄与すると思われる新技術です。しかし、有機ELのような非液晶技術においても革新を目指した研究がすすめられているでしょうから、遠くない時点(たとえば10年以内)で液晶が新技術に置き換えられる可能性は大きいと考えます。

3. 生産拠点の災害リスク
主力生産拠点の岡山事業所は規模が大きく、川上製品を生産していることもあり、災害が発生したときには当社全体でみた製品出荷が滞る恐れがあります。しかし地震リスクの小さい地方であるとともに、国内外に他生産拠点が展開されており、大きなリスクではないと捉えています。

<売買記録>
2012年7月下旬から10月上旬にかけて購入しました。平均購入単価は900円弱で、予想PER9倍程度の金額でした。株価がもっと下落するのに備えていたこともあり、本格的な買い付けには至りませんでした。割安な水準になれば、今後も買い増ししたい銘柄です。

2013年1月31日木曜日

2012年の投資をふりかえって(3)新規・追加投資編(マイクロソフト)

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前回に続いて3件目の企業です。

<当社の概要>
当社の主力製品WindowsやOfficeは日常的に使われているものなので、細かくはとりあげません。ここでは事業部門ごとの営業利益の推移をみておきます。事業部門は5つあります。Windows、サーバー及び開発ツール、ビジネス向けシステム、娯楽(Xbox)及びデバイス(Phone)、オンライン広告(Bing, MSN)です。


要約すると、Windowsは横ばい、サーバーやビジネス向けシステムは成長中、娯楽はKinectのヒットで浸透し累積損失を取り戻している段階、オンライン広告は赤字継続の上に巨額の買収評価損を計上、となります。

<投資に至った背景>
本ブログで何度か取り上げているファンド・マネージャーに、アーノルド・ヴァンデンバーグという方がいます。読みごたえのある彼のレターは、何年か前から目を通してきました。当社に興味を持ったのは、最近の彼の文章を読んだのがきっかけです。大企業にはあまり投資しない時期が続いていたので、当社の経営状況を確認したのは初めてでした。PERが10倍前後で配当率が3%強と、単純に割安だと感じました。当社の利益の伸び率を調べてみると、グーグルやアップルからは離されていますが、2006年度から2011年度の5年間でEPSは倍増しています(2012年度は多額の評価損があったので対象から外しました)。当社の株式が不人気なのは、人気企業とくらべて低調だからか、それとも将来を見越したせいなのか。どちらにせよ、調べて考える価値のある企業だと判断しました。

当社の業績動向をみるさいに、さきに挙げた5つの事業分野ではなく、顧客種別に分けて考えてみます。消費者向けと企業向けの2つです。

消費者向け部門: Windows、娯楽(Xbox)、オンライン広告(Bing, MSN)
企業向け部門: Windows、サーバー及び開発ツール、ビジネス向けシステム(Office等)、デバイス(Phone)

当社の将来において実現性が高いと考えられるシナリオは、「消費者向け事業は伸び悩むが、企業向け事業は成長する」ものと考えます。この組み合わせであっても、一定の利益を株主に還元してくれるだろうと判断しました。当社が大きく成長したきっかけはMS-DOSやWindows、Officeといった企業向け製品であり、企業向けの商売には強みがあります。反対に、消費者に対するマーケティングや政策は、競合他社とくらべて優れているとは言えません。生え抜きの経営者が指揮をとる間は当社のDNAは変わらず、この傾向は今後もつづくものと予想します。

企業向けの需要が期待できる理由はいくつかあります。第一に、企業におけるIT化は米国で大きく進展していますが、他の国でも同様の道をたどる可能性は高く、マーケットは今後も拡大するものと考えます。当初は低コストの類似製品を選ぶかもしれませんが、組織の規模が大きくなり、対外的な取引が多くなるにつれ、当社製品のようなデファクト・スタンダード的なITシステムに移行するとみます。新興国が先進国を追いかける際にITの利用は梃子として働くため、教育水準の高い国のマーケットはいっそう期待できます。

第二に、当社の製品戦略がITツールの進展やデータ増大の潮流に乗っていることです。主要顧客である大企業や大規模な組織には、規模の大きさが持つ利点があります。IT武装化によって生産性を向上できることも、そのひとつです。規模の経済が効く上にネットワーク効果が働くことで、大きな組織ほど統一的にIT化することで利益を享受できます。当社は先駆者的な製品を開発販売するのではなく、社会的にある程度認知された情報ツールを企業向けに製品化してきました。過去数年分の10-Kを読むと、LyncやSharepointといった企業向けの情報インフラ的製品が売れていることが示されています。これらのシステムの裏側ではデータベース製品SQL Serverが稼働しており、これも毎年のように売上が増加しています。これらに付随して、サーバーOS製品Windows Serverやシステム管理製品System Centerも売れています。とどめはサポートサービスで、これも前述の売上増に従う形で伸長しています。このように、芋づる式に売上をあげられる製品構成がとられています。最後に、これらの製品間あるいはメール製品Exchangeとは連携的に機能しており、他社製品への乗り換えを難しくしています。

その他の増収の機会としては、以下のようなものが考えられます。
・サブスクリプションやライセンス料金の値上げ
・違法コピーから正規品への移行

<リスク>
1. 消費者向けWindowsのシェア低下
各種タブレットが出現したことで、消費者のWindows離れが進みました。この流れが継続し、一定の地点までシェアを失うリスクがあります。すでにWebブラウザーIEのシェアは大幅に低下しており、消費者向けOSの将来を暗示しています。Windowsは企業向けを強く意識した製品なので、守勢に回ると消費者にアピールしにくい側面があります。当社が消費者向け市場で戦い続ける当面の戦略は、タブレットPCを強く推し進め、キラーアプリケーションを開発したり、自陣営にひきつけることと考えます。また当社の持ち味である長期戦を戦いぬき、相手のミスをねばりづよく待つことも必要でしょう。しかし、ITツールに慣れた消費者の移り気を考えると、このマーケットでOSを独占できる時代は終わったようにみえます。さらに当社は、IT業界を席巻した時期に悪いイメージを確立してしまい、消費者に好かれていない歴史を背負っています。本丸である企業向けOSのシェアをある程度守ることができれば、後退もやむを得ないと考えます。

2. ビジネス向けシステムのシェア低下
グーグルにOfficeの顧客をとられ、またクラウドシステムのシェアも獲得できない。このようなシナリオを想定することはできますが、現段階では大きなリスクには至っていません。その理由の筆頭にあげられるのは、よく言われるように、取引上の都合を考えると自社だけが別システムに移行するのは難しい点です。第二に、一般的に企業はITシステムの乗り換えには消極的な点です。製品の印象やマーケティングに反応しやすい消費者とは違って、移行にかかる工数やコストやそれに伴う機会費用、運用開始後のリスクを重視するからです。また従業員(すなわち被雇用者)の立場からみても同様で、たとえば自分の作成したファイルやノウハウから離れたくないといった心理的傾向が働きます。第三に、同等の製品やサービスを当社も提供できることです。なおOfficeの売上の多くは企業向けで、消費者向けは小さな規模にとどまっています。

3. 新市場参入の逸失から始まる、既存事業への脅威
過去をふりかえると、グーグルやアップルといった勢いのある企業は、適切な戦略にもとづいて攻勢をかけてきました。つまり、強者に対して正面から戦うのではなく、周縁を切り崩しながら中央に向けて進出するやりかたです。アップルがWindows向けにもiTunesソフトを無料配布したのはトロイの木馬的な戦略で、消費者向けの新市場を攻略する礎となりました。グーグルはIT技術の進展によって得られた果実を活かして消費者向け市場を身軽に攻め、Web検索や強力な電子メールサービスといった領域を短期間で席巻しました。いずれも、かつて当社が飛躍しはじめた頃の姿と重なるものがあります。一方の当社は守る立場で、周縁で戦うゆえに地力をいかせず、身重なままの戦いを強いられてきました。従業員の質も、相対的に劣ってきているのかもしれません。当社がこのような問題に再び直面するリスクは、ほぼ間違いないでしょう。

<売買記録>
大半は2011年に購入しましたが、2012年の後半にも少し買い増ししました。平均購入単価は26.5$で、現在の株価は28$です。


<おわりに>
当社に投資する理由を書き連ねてきたものの、当社の競争優位性がどこまでつづくのか、確信はもっていません。隆盛を極めたIBMが波から落ちるまでの期間をふりかえると、当社が衰退しはじめる時期もそれほど遠くないかもしれない、という想いはあります。テクノロジー業界ではいつまでも独走できない。当社に向けられた市場の評価は、このような不安が積み重なったものだと思います。

2013年1月14日月曜日

2012年の投資をふりかえって(3)新規・追加投資編(任天堂)

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前回に続いて2件目の企業です。

■任天堂(6157) (当社Webサイト)

<当社の概要>
事業内容は説明するには及びませんので、ここでは事業の現状を自分なりに概括します。

前期(2011年度)は450億円の損失を出しました。新型据置機Wii U発売発表にともなうWiiの失速と、新型携帯機3DSのマーケティング上の失策(価格設定および当初のソフト展開)が重なった結果ですが、大幅値下げを敢行したため、片肺どころか片方のエンジンが逆噴射したともいえる状況でした。

今期(2012年度)ですが、3DSはマスマーケット向けソフト「どうぶつの森」シリーズ新作を日本で発売したことで、国内市場ではハードの普及が軌道にのりました。一方、Wii Uはこの年末から販売を開始しました。先代のWiiには水をあけられていますが、一般的な水準からみれば、そこそこの出だしです。全体的にみれば、業績回復に向けて評価できる一歩を踏み出しています。

来期(2013年度)の目標としては、次の2点が予想されます。第一に、日本以外の市場における3DSの浸透です。もうひとつのマス向けソフト「ポケモン」シリーズ新作を10月に発売すると先日発表しており、今年にかける意気込みを感じさせます。第二に、Wii Uの主戦場である北米において、コアゲーマーへの普及を拡大させ、サードパーティーの参入意欲を維持向上させることです。これは当社の戦略にしたがうもので、次の展示会E3にむけて何らかの策を準備していると思われます。決算説明会で岩田社長が「お金の使い方」について述べていたコメントが思い返されます(過去記事)。

<投資に至った理由>
当社の中長期的な成長性が見通せたわけではなく、単に株価とくらべて企業価値が割安に思えたことが理由です。時価総額1兆2,800億円(株価10,000円)に対して、前期末(2012/3)の負債控除後の純現金有価証券9,000億円弱(一株当たり7,000円弱)を比べると、割安にみえました。およそ4,000億円で当社を買えることになるからです。このような、資産面から値踏みするやりかたはバリュー・トラップにおちいる可能性を秘めていますが、それなりに業績が回復することを前提にしています。確率的に大きくないとみますが、今後2年間ぐらいで一定の業績回復が果たせなければ、資金をひきあげるつもりです。なお長期保有(10年超)の対象としては、評価するのがむずかしい企業と感じています。

売上成長の手段や機会としては、少なくとも次の3点は期待できるとみています。
・市場の拡大(新興国)
・新たなIP(ソフトの新シリーズ)の創出
・インフレに追随した値上げや、競合動向を見据えた上での価格設定

Wiiが登場した2007年3月期以降の累積でみると、純利益合計が約1兆円に対して配当合計が約6,000億円と、利益の過半は株主に還元されています。一方、貸借対照表では土地建物等の有形固定資産や繰延税金資産(純額)が1,000億円ほど増加しています。差額分の資産がどうなったかは、追いきれませんでした。この期間にドルが120円から90円に下がっていますので、外貨建資産の評価減が大きいかもしれません。 このように、少なくともWii時代をみると、得られた利益は株主に還元されたり、目減りした外貨建資産となり、大規模な再投資には回っていません。買収をしてのれんを大きく増やすようなことはしておらず、財務は健全なままですが、投資家として当社を評価する際には、利益の推移が事業の成長とどうかかわるのか、見誤らないように注意する必要を感じます。なお従業員数は、連結ベースで50%増となっています。

<リスク>

・Wii Uの失敗
3,4年先を考慮すれば新型機Wii Uはそこそこ普及していることを期待していますが、Wiiに迫るのは難しいと想像します。あたかも、当社のイノベーションと消費者が製品を受け入れる心情には長期的な共振サイクルがあるかのようです。波に乗っていないと感じる例としては、たとえばWii Uの特徴であるタブレット型コントローラーはiPadなどを連想させて一見わかりやすい面がありますが、逆にiPadを持っているので十分だと思われてしまう位置づけにあることも、そのひとつです。

ただしこの件は、事業上というよりも投資家が企業価値を判断する際のリスクかもしれません。長期的な事業継続を考えるならば、短期的な大成功を追うよりも、たとえばコアゲーマーを取り込んで当社顧客層の厚みを増すといった地道な積み重ねのほうが、正しい道筋かもしれないからです。

・ゲームソフトに対する価格意識の下方方向への変化
岩田社長が指摘したように(岩田聡GDC講演内容の7-8ページ目)、スマートフォンやタブレット端末では無料や安価なゲームをオンラインで気軽に入手できるので、既存ゲームに対する消費者の価格意識が変化するのではと危惧するものです。思い浮かべやすい例としては、100円ショップが登場したことで、日用品に対する品質意識が後退した事例があげられます。

この件は致命傷には至らないのでは、と予想しています。当社製品の主要ユーザーである子供にとっては、テレビゲームはクリスマスのプレゼントやお年玉の使い道として認知されています。それゆえ、「安くない値段とそれを裏付ける品質」にはそれなりの対価を払う価値があるとみなされ、値崩れしにくい傾向が今後も続くものと考えるからです。

・競合他社の拡大
汎用モバイル機器やネットワーク技術の進展によって、ハードの優位性やサービスの独自性が打ち出しにくくなってきました。差別化しようとしても無駄な努力におわるだけでなく、自社の得意な領域から逸れやすくなるリスクがあります。当社は求心力を持続できる企業のほうですが、たとえば業績が思うように回復しない時期に脱線する可能性は否定できません。なお、この件について逆からみると、ハードウェアコストの低下を見込める可能性があります。

・優れた経営者への依存
当社の事業は明らかに水商売的な性格が強いものですが、その反面、たくさんの消費者に認知されている知的消耗品を取り扱うことで、強力な支持を集めています。この競争優位性を表現すれば「強いが脆い」といったところで、経営者の手綱さばきにも細心の注意が求められます。当社は先代の山内氏、現任の岩田氏と、能力の高い経営者のもとで成功をおさめてきました。またゲームクリエイターの「神様」宮本専務も非常に大きな役割を果たしています。このような稀少な人材が次世代にも維持されるかどうかは、顕在化する可能性の大きいリスク要因とみています。

<売買記録>
2012年の5月と7月に買い、平均購入単価は8,930円です。現在の株価は9,070円ですが、その前日には8,590円でした。市場の見方は、まだ懐疑的なようです。

2013年1月1日火曜日

2012年の投資をふりかえって(3)新規・追加投資編(日進工具)

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一昨年(2011年)や昨年(2012年)は、主力の投資先が収穫期に入ってきたこともあり、株価上昇とともに少しずつ売却し、以下のような新規投資先へ資金を向けてきました。バイ・アンド・ホールドを理想としてはいますが、目の前の割安さにひかれる弱さがあります。

投資の基本的な方向性としては、循環的な銘柄を中心にしたいと考えました。その種の銘柄の株価が割安だったことと、将来の景気回復期に向けた投資をしたかったのが大きな理由です。投資先の業界は、自分がそれなりに理解できるものに限定しています。購入ペースはそれほど急いでいないため、投資金額は主力投資先ほどには達していません。株価が下落すれば、適宜買い増しするつもりです。

具体的な投資先企業は、次の5社でした。

・日進工具(6157)
・任天堂(7974)
・マイクロソフト(MSFT)
・クラレ(3405)
・日精エー・エス・ビー機械(6284)

何回かにわけて、各投資先について簡単に触れます。なお記載順序は、投資評価額の大きなものからとしています。

■日進工具(6157) (当社Webサイト)

<当社の概要>
当社は、超精密加工用の超硬工具(マイクロエンドミル)を製造しています。主なユーザーの業種はエレクトロニクスや自動車関連で、金型の製作だけでなく、部品加工にも使われています。同セグメントにおけるシェアは30%強でトップに位置しており、前期は売上高57億円に対して純利益5.3億円と、高い利益率を維持しています。

<投資に至った理由>
当社のことは数年前から継続的に監視してきましたが、PERが低く、余剰現金資産が豊富なことから割安だとみていました。ただし、株式購入までは至りませんでした。

当社の事業展開は、微細加工用の工具に注力しているのが特徴です。スマートフォンに代表されるように、エレクトロニクスの分野では軽薄短小が進展しており、その方向性は継続するものと考えられます。市場環境という面で、当社は追い風に乗っているとみています。

小さな消耗品を作って高く売れているという商売には、いくつかの参入障壁が隠れていると考えています。第一に、市場規模があまり大きくないことで、大企業の本格的な参入時期を遅らせること。第二に、製品の優位性が製造プロセスにも依存するため、組立系の製造業とは異なって容易には模倣しにくいこと。第三として、製品固有の特性や性能がものをいうため、顧客が離れにくい傾向があることです。このような優位性は、医療用の精密消耗器具を製造販売しているマニーや朝日インテックといった企業のものと似ていると感じています。

またよくあることですが、技術の極限を追求する企業には最新の需要情報が集まりやすく、新製品開発を推し進める好循環が当社でも働いているのではないかと推測します。この好循環はチャーリー・マンガーが言うところの自触媒反応的に進み、ユーザー拡大の「波に乗りつづける」原動力になると考えられます。

投資に踏み切る理由として上記のようなものを漠然と考えていたのですが、どこかひっかかるものがあり、二の足を踏んできました。それを覆したのが、2011年の大地震後の当社の対応でした。具体的には、生産再開までの復旧が早かったことと、顧客からの要望を受けてその後は安全在庫を積み増したことの2点です。これによって自分なりに悟りが得られたように感じ、株式購入に踏み切ることにしました。

<リスク>
第一に、主力の製造拠点が仙台1か所のみに集中していることが挙げられます。火災等の災害に見舞われると、バックアップする拠点がありません。小さな企業が生き残るには運が大きく左右するものですが、拠点リスクはその典型かと思います。ただし当社の場合は現金資産が豊富なため、何かがおきても、ある程度までは再起可能とみています。ただしその場合、企業価値が大きく毀損するのは避けられないでしょう。

第二に、他社が本格的に参入することで価格競争を招き、利益水準が低下する恐れがあります。また当社の製品は物理的に接触させて加工する切削工具ですが、他の方式(化学的、電気的、光学的)の技術が大きく進展することで、中長期的に要素技術が切り替わる恐れがあります。個人的な予想ですが、これらのリスクは顕在化するにしても、それほど直近ではなく、5年や10年以上先のことではないかとみています。

第三に、マーケットの限界を個人的に理解できていない点です。微細化というマーケットにどれだけの深みがあるのか、自分の洞察力に自信がありません。

第四は、株式の流動性リスクです。

<売買記録>
以下のチャートのように、震災対応がおちついた2011年秋から買い始め、2012年に何度か買い増ししました。ふだんはあまりしないのですが、当社については買い上がっています。平均購入単価は1,200円弱で(分割調整済)、現在の株価は1,462円、予想PERは7.7倍です。




2012年11月6日火曜日

シーズ・キャンディーの秘密(Fortune)

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以前に、経済誌FortuneのWebサイトに掲載されたチャーリー・マンガーの記事をご紹介しましたが(過去記事)、今回はその本編に該当する記事から印象に残った箇所を引用します。あまりにも有名なバークシャー・ハサウェイの子会社、シーズ・キャンディーの話題です。(日本語は拙訳)

The secrets of See's Candies (Fortune)

・製品の値上げについて

創業以来91年間、同社はほとんど変わっていない。間接費をおさえる一方、同社ブランドを愛してくれる顧客のおかげで、毎年5%までなら値上げすることができる。同社のWebサイトに書き込まれたお菓子に関するレビューを読むと、シーズに対する熱烈な想いが伝わってくる。これはバフェットも例外ではない。彼はこう言っている。「16歳のころに女の子とデートしたときには、ご両親か彼女への手土産として、チョコレートの箱詰めを持っていったでしょう。カリフォルニアでは、ラッセル・ストーバー[競合製品]を持っていくとひっぱたかれますが、シーズを持っていくとキスをうけるのですよ」

The company has changed very little in 91 years, incurs low overhead, and can raise prices by up to 5% each year, thanks to brand loyalty. People are fanatical about See's (read the reviews of any of its candies on its website), and Buffett is no exception. "When you were a 16-year-old, you took a box of candy on your first date with a girl and gave it either to her parents or to her," he says. "In California the girls slap you when you bring Russell Stover, and kiss you when you bring See's."


・2005年からの新CEOについて

キンストラーが初めて職についたのは、バークシャーが1970年に始めたオマハの保険会社コーンハスカー損保[Cornhusker]だった。1991年にはカリフォルニア州サン・マテオにあるサイプレス保険の経営に携わり、そこで9年間勤めた後、今度はシンシナティにあるバークシャーの子会社、制服メーカーのフェックハイマー・ブラザーズへ移った。2005年になって彼は、カリフォルニアへ戻ってシーズの指揮をとるよう、バフェットとマンガーから指名をうけた。そのビジネスのことをほとんど知らなかったと言うキンストラーは、「ただでチョコが食べられるとわかったので、早速...」

Kinstler began his career at Cornhusker Casualty, an Omaha insurance company Berkshire opened in 1970. In 1991 he went to run Cypress Insurance in San Mateo, Calif., for nine years before moving on to Fechheimer Brothers, a Berkshire-owned, Cincinnati-based uniform maker. In 2005, Buffett and Munger tapped him to move back to California and take over See's. Kinstler says he knew little about the business, but jokes, "As soon as I found out I get free candy ..."


・新規開店について

[規模拡大の]計画は野心的なものだが、計数はきちんと把握されている。店舗を新設するときは30万ドル[2400万円]以内に収めることになっているが、キンストラーが言うには「バークシャーの会計では、小数点以下を丸めることさえしません」。3年間で開く新規店舗が30店強であっても、彼はことを慎重に進める。規模を拡大していく際には、新たに進出したマーケットで先行する各店の業績がどうなっているのか、注視するのだ。「これならいけると安心できるまでは、アクセルではなくブレーキの方に足を置いています」。

While the plan is ambitious, it is measured. With each store requiring less than $300,000 to build out, "it's not even a rounded decimal point in Berkshire's financials," Kinstler says. Even as he tries to open more than 30 new stores in three years, he'll do it cautiously, watching how the stores perform in each new market before opening more: "Until I'm very comfortable and convinced, the foot's always ready to be on the brake as opposed to the gas."


・設備投資について

シーズは「保存料無添加」を売り物にしてきた。ゴディバの製品は陳列棚に入れてからも長持ちするね、とはシーズの従業員がよく口にする言葉(この件について、ゴディバからの返答はない)。シーズは昔ながらのよさを訴えることで新たな顧客へアピールしているが、自動化設備と手作りの作業が共存している製造現場の様子は、ちょうどそれに合っている。エプロンとゴーグルを身につけた男たちが、蒸気の立ち込める巨大な釜の中に入ったキャラメルをかきまぜる。平らに伸ばしたラム・ヌガーのかたわらに立つ男は、裁断機に付着しないように植物油を流している。いくらかの機械は使い始めて100年近くになるが、まだ現役だ。1919年に導入された「tinner」がその例で、タフィーチョコを缶に詰める処理を行う。別の工程では新型の機械が大きな音を立てて稼働している。例えばピーナッツ・ブリットルを製造する真新しいロボットは、片方がブリットルをうすく伸ばし、もう片方がそれを裏がえす。2台につけられたあだ名は、Tweety[カナリア]とSylvester[やられ役のネコ]だ。

See's pushes the "no added preservatives" line hard. Employees like to point out that Godiva boxes can stay on shelves much longer (Godiva declined to comment for this article). That See's would try to appeal to new customers by stressing old values matches up nicely with its plants, which run on a balance of automation and live labor. Men in aprons and goggles churn at giant, steaming cauldrons of caramel. Someone stands and shoots vegetable oil onto a sheet of rum nougat so that it won't stick to the slicer. A handful of the machines are nearly 100 years old and still going, like the "tinner" that sorts Toffee-ettes into tins, which is from 1919. In other sections brand-new machines roar along, like the flashy robots that make peanut brittle -- one stretches out the sheets of brittle, the other flips them -- and are nicknamed Tweety and Sylvester.


・規模拡大について

妥当な質問だ。熱烈なファンがついている製品ではよくあるように、シーズに魅力があるのは、あまり売っていないという点が大きい。しかしキンストラーはそれほど心配していない。これまでよりもさまざまな場所で買えるようになることで、いくばくかの顧客が離れたとしても、新規の顧客がそれを補って余りあるだろう、と。彼はクアーズを例にあげる。「わたしがまだ子供だった頃にはコロラドに行かないと買えなかったのですが、それがすごくかっこよかったんですよね」「でもクアーズはその後ずっと大きくなってどこでも手に入るようになりましたが、今のほうがうまくやっていると思います」。

It's a fair question. Like many products with a fervent fan base, the scarcity of See's provides a large part of its appeal. Kinstler isn't too worried. He thinks that if the company does lose some customers as it becomes more readily available, the exposure to new people will be worth it. He points to Coors as an example: "When I was growing up, you had to go to Colorado to get it, and that made it very cool," he says. "But I think Coors is much better off today, now that they expanded and are widely available."

2012年9月22日土曜日

還暦前のわたしのいけない癖(トーマス・J・ワトソン・シニア)

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前回の投稿で「より積極的な経営者であれば、もう一歩進んで谷の局面では買収を行い」とありましたが、昔に読んだ本の一節を思い出しました。今回は、IBMのワトソン・Jrが書いたその本『IBMの息子』から、彼の父親である当時のIBMの社長ワトソン・Srが世界恐慌の最中にくだした決断を引用します。

景気回復は目前に迫っていると信じていた父は、大不況にさいして、思い切った方針を打ちだした--生産の拡大、である。父は困難な時期こそ事業拡大の好機ととらえたのだ。販売が落ち込んで工場の稼動率が落ちると、父は、需要の回復に備えて倉庫に予備部品をどんどんためこむように命じた。営業部門にはよりいっそう販売を強化するよう促して、セールスマンの採用を増やした。後年、父が好んで語ってくれたエピソードに、次のようなものがある。ある日、父は画廊を訪ねた折りに、統計機分野におけるIBMの最大のライヴァル、レミントン・ランド社の総帥、ジム・ランドとばったり鉢合わせしたのだそうだ。大不況が泥沼の状態に陥っていた1933年のことである。さしもの父も参っていると見たのだろう、ランドはこう声をかけてきたという。「やあ、トム、君はまだセールスマンを雇っているのかね?」
父は答えた。「ああ、雇っているとも」
「そいつは驚きだ!」ランドは首をふった。「いまやどの企業も社員を一時解雇しているというのに、きみは新規にセールスマンを雇っているというわけか。それは豪気なことだな」
「私もこの道一筋でやってきた男だよ、ジム」父は答えた。「そしてもうすぐ60になる。この人生の節目を迎えた男にはいろいろなことが起きるものでね。急に飲酒に耽りだす者もいれば、若い女性に入れ揚げる者もいる。わたしのいけない癖はセールスマンを雇うことなんだ。だから、これからも雇いつづけるつもりさ」

これが別の業種だったら、父は破産していたかもしれない。けれども、IBMに関するかぎり、父の方針は正しかった--それに、幸運にも恵まれたと言っていいだろう。ニュー・ディールの間に、IBMの規模は倍に成長したのだ。1933年のはじめに全国産業復興法が成立すると、全企業は突然連邦政府に対し、史上未曾有の膨大な情報を提供しなければならなくなった。それを処理するために、政府官庁はIBMの機械を数百台と必要とした--ルーズヴェルトの、福祉、価格統制、公共事業計画を軌道にのせるためには、それしか方法がなかった。1935年に実施された社会保障のおかげで、"アンクル・サム"はIBMの最大の顧客となったのだ。膨大な情報に呑み込まれないようにする数少ない方法の一つは、IBMに電話を入れることだった。こうして、アメリカ全土の基本的な統計が、穿孔カードに入れられたのだった。(上巻 p.60)

2012年9月18日火曜日

TOPIX Core30ひとかじり(2)任天堂(Wii Uマーケティングの分析)

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数日前に、当社の新製品である据置型ゲーム機Wii Uの発売日と価格が発表されました。今回は同製品のマーケティング戦略に込められたねらいを分析します。その際に、チャーリー・マンガーの「誤判断の心理学」で登場する心理学的要因を切り口としてみました。なお据置機の主戦場はアメリカ市場であるため、ここでは同市場でのマーケティングを中心にとりあげています。

1. 過去に販売した製品からの値上げ幅の抑制
Wii Uの初期販売モデルは2種類になりました。最小製品構成のベーシック版は白色の筐体で、各種オプションが追加されたデラックス版(日本名ではプレミアム版)は黒色です。ここでは、まず白色ベーシック版を対象に話を進めます。



値ごろ感を確かめるために、当社が販売した据置機過去2世代の発売時期と価格をふりかえります。発売時期はひとつ前のゲームキューブが2001年、現行機Wiiが2006年でした。また価格は、日本市場ではゲームキューブ、Wiiのいずれも25,000円、そしてWii Uも同額になりました。一方アメリカでは、ゲームキューブ200ドル、Wii250ドル(Wii Sportsソフト同梱)、そしてWii Uが300ドルです。値上げの幅は日本ではゼロ、アメリカではインフレを考慮すると許容できる範囲にとどまっています。コントローラーがタブレット型になったので、アメリカの消費者からみてもこの値段は納得できる程度と思われます。そのため、Wii Uは年末商戦での購入候補として検討の対象にあげられるだろうと推測します。(心理学: 対比に誤って反応する傾向終始一貫する傾向)

価格政策は当社においても最重要事項のひとつで、携帯機3DSでは大失敗しました(過去記事)。今回は当社の伝統に立ち返り、消費者の声を意識して大幅な低価格を提示してきたと思われます。

2. 2種類のモデルによる価格政策
アメリカ市場では白色ベーシック版が300ドル、黒色デラックス版が350ドルとなりました。この製品政策・価格政策には2段階の心理学的要因が考慮されているように思われます。まずは白色ベーシック版において過去製品とくらべて納得してもらえる価格を提示し、消費者に安心感を抱いてもらい、潜在意識にある警戒感を解きます。その上で価格の高い黒色デラックス版を提示します。黒と白の価格差は50ドルで、黒には以下の製品及び特典が追加されています。

・内臓メモリーのアップグレード(8GB -> 32GB)
・各種設置台
・ソフトダウンロード購入時のポイントバック権利
ニンテンドーランド(自社製ソフト)


消費者の視点では、追加費用50ドルに対してどれだけの見返りがあるかを考えるものです。追加分それぞれの価格を合計するとどうなるか、どうやら50ドルを超えそうだ、と計算するでしょう。つまり追加分の費用よりも利益のほうが大きいと判断することで、黒色デラックス版はお買い得だと考えるようになります。(心理学: 自尊心過剰の傾向疑わない傾向)

このような2段階を踏むことによって、Wii Uを購入してもよいと消費者に考えさせた上で、さらに黒色デラックス版を選んでもらえるように誘導している、と見受けられます。

また「白、黒」というわかりやすい形で製品を階層化するのも効果的です。主要な購入決定者である子供さんにとっては、友達と違う色を持つことの意味がわかっているからです。(心理学: 羨望・嫉妬する傾向)

なお、当社が実施している製品発表では「黒、白」の順で並べています。上に書いた「白、黒」の順とは逆になっています。これは単に重要な製品を先に出しているのかもしれませんし、わたしの考えがまったくの見当違いなのかもしれません。

話を戻して、今度は任天堂側の視点からみると、黒色デラックス版を当初から販売することには4つの大きな利点があります。

第一に、『ニンテンドーランド』という戦略的役割を担ったソフトを同梱販売することです。このソフトはミニゲーム集で、当社の各看板ソフトに登場するキャラクターが集まったものです。ミニゲームという特性を生かし、タブレット型コントローラーによる新しい遊び方に親しんでもらうことで、Wii Uの独自性を訴えます(「タブレットがあると、ドキドキ感が違うね」)。そして特に「カジュアル」とよばれる顧客層に、やや知名度の劣るキャラクターを認知してもらうことで、それらが登場する本編のソフトを購入するよう誘導します(「ゼルダの新作ゲームがでるのか。ニンテンドーランドのと同じなら、やってみたいね」)。(心理学: 好奇心愛好/愛情の傾向)

第二に、ソフトを抱き合わせ販売することで、安定的に利益が確保できることです。新ハード立ち上げ期なので、1本でも多くソフトを売りたいという当社の願いを実現するものです。

第三は想像の域を超えませんが、黒色デラックス版を購入する消費者が「自分が買ったのはあくまでもおまけつきのハード本体だ」と考えることで、別のソフトを追加購入する機会を追求できることです。

最後の利点は長期的なもので、黒色の350ドルという価格帯を既成事実化することです。これによって目先の利益を追求するだけでなく、将来の価格帯引き上げをうかがうことができます。(心理学: 対比に誤って反応する傾向)

3. Wiiの後継製品である利点の活用
「Wii」というブランドがそのまま使えるのは大きな利点です。これは名目にとどまらず、実質を伴ったものになっています。まず、既存のWiiソフトがそのまま使えるというのはユーザーにとって大きな利点です。以下では、もうひとつの利点「Wiiに付属されていたり追加購入したコントローラーなどがそのまま使える」ことについて、考えてみます。

第一に、Wii Uに同梱すべき付属品を減らせるので、名目上の製品価格をおさえられます。これは消費者及び当社の両方にとって利益となります。

第二に、「前に買ったものが無駄にならずに使える」というお得感・正義感を呼びおこすことです。これは消費者の心理に訴えるもので、Wii U購入の動機付けを手助けします。

第三に、購入検討者が新型機Wii Uに対して抱く心理的な壁を低くできることです。Wiiで慣れた操作性がそのまま生かせるとなれば、タブレット型コントローラーに対する漠然とした不安感を、ある程度おさえることができます。そのため少なくとも任天堂社内では、従来のコントローラーも活躍できるように、意図的にソフトを設計していると予想されます。

4. ソフトの品揃え
この年末商戦にアメリカで投入されるWii U新作ソフトは、同時発売及び年内発売の合計で20~30本が見込まれています。Wii当時には20本台半ばでしたので、似たような規模です。消費者にとっては自分が楽しめるソフトがあれば十分ですが、品揃えの多さはハード選定に影響します(心理学: 単なる連想に動かされる傾向)。粒選りの大ヒット作をだすのが当社の基本戦略ですが、新ハード立ち上げ期にはソフトの種類が多いことは追い風になるでしょう。

おわりに
当社はWii Uのマーケティング戦略の中核に、見た目の上で大きな対比がうまれる「白と黒」を据えてきました。またここでは触れませんでしたが、ソーシャル・ネットワーク機能やテレビ連携にも大きく挑戦しています。はたしてこれが功を奏するのか、それともiPadのような汎用タブレットに屈するのか。年末商戦とそれにつづく来期の動向がおおいに注目されます。

余談ですが、当社の株式は継続保有しており、過去記事の時点から少し追加しました。現在の平均購入単価は9,000円弱です。再び8,000円に迫ることがあれば買い増ししたいところです。

2012年7月20日金曜日

B/Sを読む(5310東洋炭素、2012/5月期)

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前回の投稿ではB/Sの重要性にふれました。今回は、最近気になったB/Sの具体的な例をとりあげて分析します。対象企業は東洋炭素株式会社(5310)です。

(1) 東洋炭素について
社名が示すとおり、当社では炭素を素材とする製品を製造しています。当社の製品は電気伝導性や熱伝導性、機械的特性がすぐれていることから、たとえば半導体製造装置やシリコン製造炉で使われる部材として産業用に使われています。製品の品質が物性に依存するため、製造工程やプロセス上のノウハウが重要で、当社の属する業界は国際競争力を失わずに比較的高い利益率を守っています。同業他社の東海カーボンなども同水準の利益をあげています。

当社は香川県を発祥とする独立系の企業で、2006年に株式公開されました。創業者一族が株式の半数近くを保有しており、取締役会会長は創業家の近藤純子氏がつとめています。

個人的には、当社のような利益率が高い材料系のメーカーは注視しています。当社を知ったのは昨年の末ごろで、あまりなじんでいないため、少しずつ情報を蓄えているところです。

(2) 経営成績
ここでは直近2期の数字を挙げました。

(単位:千円)前々期(2011年5月期)前期(2012年5月期)
売上高  37,557,80138,714,106
営業利益 5,868,2296,055,421
純利益 3,699,5713,466,829

減益決算となりましたが、収益性は変わっていません。売上高当期純利益率 は9.0%と、まずまずの水準を保っています。

(3) 決算短信を読む
前期の決算短信をひととおり読みすすめたところ、次の2点がひっかかりました。ひとつは会計方針の変更で、もうひとつは製品在庫の増加傾向です。

・会計方針の変更
次期の見通し(PDFファイル4ページ目)で、次のような記述がありました。

当社グループの有形固定資産の減価償却方法は、国内では主として定率法で行っておりましたが、次期より定額法へ変更します。この変更により減価償却費は約23億円減少する見込みです。

ご存知のとおり、定率法は直近の費用負担が大きく、次第に小さくなっていく方式です。そのため、定額法に変更することは、費用負担を将来へ繰り延べることになります。

今期の業績として営業利益55億円(前期比9.2%減)を見込んでいますので(PDFファイル1ページ目)、この変更がなければ今期の予想営業利益は30億円強になります。これは前期の60億円と比べると半減に近い数字です。

競合動向が変化したなどの合理的な理由があれば、この変更はすんなり納得できるものですが、手持ちの情報では判断しきれません。不明なものは厳しくみるとすれば、この件は将来の帳簿上の利益を先食いしたものと捉えられます。

・製品在庫の増加
連結貸借対照表(PDFファイル12ページ目)によれば、製品在庫の期末評価額は以下のようになっています。

(単位:千円)前々期(2011年5月期)前期(2012年5月期)
商品及び製品  4,761,6187,315,218

絶対額ベースで25億円、前年比では50%以上増加しており、よい傾向ではありません。大きな受注が控えているのであればこれも納得できますが、受注残は漸減傾向なので(PDFファイル27ページ目)、その可能性は低いと思われます。これは、需要予測が大きくはずれたか、あるいは決算数字をつくったものと想像してしまいます。製造業の会計では、当期に発生した固定費でも製品在庫として棚卸資産の勘定項目にある間は費用として認識されません。固定費が重くて困った年度にこのやりかたをとれば、つまり作りすぎをしておけば、費用を先送りすることができます。翌期の需要を平準化する目的で先行生産するのであれば理にかなった行動といえますが、それでは意図を判断する一材料として過去の経営状況をふりかえってみましょう。

以下の図は当社の棚卸資産の推移です。適正水準を判断するために、あわせて売上高の推移も載せています。これをみると、ここ数年間で棚卸資産が相対的に増加しているのがわかります。また製品在庫については、前期の伸びが大きいこともわかります。このことから、前期の製品在庫ひいては棚卸資産全体が適正水準から離れていると考えられます。つまり、数年前から資産の過剰な拡大基調が続いていたということです。







ただし、当社としても過剰在庫リスクは認識しており、有価証券報告書で喚起しています。前々期分(2011/5月期)の有価証券報告書では次のように記載されています(PDFファイル20ページ目)。

当企業グループでは、等方性黒鉛材料の需要予測を毎月行い、生産計画を作成することで、過剰在庫を持たないように努めておりますが、予想以上に等方性黒鉛材料の需要が落ち込んだ場合には、製品自体に系時変化はないものの一時的に過剰在庫となる可能性があります。

(4)B/Sを読む
最後になりましたが、貸借対照表を読んでみます。「読む」というからには以前のものと比較します。前期(2012年5月期)(PDFファイル12ページ目)と2009年5月期(PDFファイル46ページ目)をくらべてみてください。大きな違いに気づかれると思います。この数年間で資産をふくらませる方向で経営してきたのがみてとれます。流動資産と固定資産のどちらも増加しているのですが、2つの点が気になります。ひとつは、上に挙げたように棚卸資産の割合が大きくなっていること、そしてもうひとつは、現預金残高が縮小し、借入金が増えていることです。このツケを払う日がくるのかこないのか。前回前々回の投稿を読み返すと、当社にとって興味深い時期はまさしくこれからと感じます。

ここでさらなる観点を加えておきます。上でとりあげた2009年5月期の決算が終わってまもなく、同年8月に新社長が就任しています(人事異動のお知らせ)。近藤尚孝氏という方で、創業者である故近藤照久氏の娘婿であり、会長近藤純子氏からみると義弟にあたる人物です。その社長が、今年の5月末日付けで社長及び取締役を辞任しました(人事異動のお知らせ)。健康上の理由ということです。

2012年7月3日火曜日

自社株買いの例(4973日本高純度化学)

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今回は、投資候補として追い続けている企業の一社、日本高純度化学をとりあげます。少し前の投稿で「自分の投資している企業で、厳しい時期に自社株買いをするところはない」と書きましたが(過去記事)、当社はそのような自社株買いを積極的に実施しています。

貴金属めっき液製造のリーダーである当社は、利益率が高いことから優良企業として知られています。社員数45名で純利益が7億円弱なので、1人あたり約1,500万円の利益をあげています。ファナックの約2,600万円には及びませんが、悪くない成績です。

当社の利益の源泉はめっき液の化学組成にあることから、事業の性格はマーケティング及びR&D重視型です。新薬に力を入れている製薬会社と似ており、知的努力を重ねた末の知識の結晶が大きな利益をうみだします。そのため、経営資源として重要視しているのは有能な人材であり、資産規模は一定程度あればひとまず十分、と経営陣は認識しています。

そのような背景の下、経営陣は事業で挙げた利益を積極的に株主へ還元しています。配当金の利回りは4%超とそれなりに目を引きます。そして自社株買いのほうも見るに値します。直近では、株式市場が全般的に低迷した昨年末に実施しています。昨年度の総株主還元性向は100%を超え、純利益を超える資産を株主へ還元しています。

もう少し過去にさかのぼり、当社が自社株買いを実施したタイミングを確認してみます。当社のWebサイトによれば、取締役会で自己株式取得が3回決議されていますが、いずれも株価が低迷している時期に実施されています。








株を買うタイミングは申し分なしのようです。あとは株価自体が割安だったかどうかですが、現段階でのPERが13.5(今年度見込み)程度なので、高くはないが安いというほどでもない、といったところでしょうか。急いで買う必要はなかったかもしれませんが、経営陣自らが当社の将来性を高く評価しているのかもしれません。総合的にみれば、経営陣は株主を重視しているように思います。

いずれは当社に投資したいと考えてから何年かたちましたが、相対的な割安さがもうひとつで踏みだせていません。機会がくるかどうかわかりませんが、これからも動向を追っていきたい企業です。

2012年6月15日金曜日

TOPIX Core30ひとかじり(2)任天堂(岩田社長、円高の見解)

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任天堂の経営陣が、E3でアナリスト向けにプレゼンテーションを行った様子が公開されています。その中で、現在の円高をどのように捉えているか岩田社長が答えていますので、ご紹介します。引用元は、2012 E3 アナリスト Q&Aセッション質疑応答4ページ目です。

<A10 岩田社長>
(前半省略)
ただ一方で、かなり長いレンジで考えますと、国のファンダメンタルズ(経済指標)から考えて、今の為替レートが今のまま長く続くというようには私は見ておりません。また潮目が変わるときが必ず来ると思っており、そのときのことも考えながらいろいろな対策をしています。二度と元に戻れないような方法を選ぶのが正しいとは思っていません。

この質疑に限らず、アナリストが当社の今後の業績に不安を抱いているのが、全体を通して感じられます。個人的には、そこに機会があるとみて、当社の株式を若干買い始めています。平均購入単価は9,550円で、現在の価格は9,000円前後。8,700円まで下げたことがあるので、少し早かったようです。次の買い増しは、それよりもう少し下の予定です。ただし、当社はこれまでの自分の投資基準からはずれた企業なので、あまり入れ込まないように注意しています。

もうひとつおまけです。財務体質を生かす機会はあるのかという主旨の質問に対する、岩田社長の回答です。投資家好みの言葉がでてきています。引用元は1ページ目です。

<A3 岩田社長>
まず、任天堂の強固な財務体質をどう生かすべきかということに関してはさまざまな可能性を考えています。

(中略)

来年お会いするときまでに、「任天堂はお金の使い方が下手だ」と言われないように努力したいと思います。

2012年6月1日金曜日

会社の物品を私用で使ったら(ウォーレン・バフェット)

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ウォーレン・バフェットはバークシャー・ハサウェイの会長兼CEOでありながら、もらっている報酬が低いことで有名です。USドルベースで10万ドル、現在の日本円に換算すると800万円です。「そうはいっても、経費は使いたい放題じゃないの?」と感じた方のために、今回は同社の株主総会招集通知(2012年5月開催分)からご紹介します。

報酬に関する分析

バフェット氏及びマンガー氏の両名は、必要に応じてバークシャーの従業員の助力を得ており、かつ/または、私用目的で使った郵便や電話等の些少な物品及びサービスをバークシャーに負担させている。そのため両名は、バークシャーが支払った費用以上の金額を年度毎に返還している。2011年度分としてバフェット氏がバークシャーに返還した金額は5万ドル[400万円]、マンガー氏は5,500ドル[44万円]である。またバークシャーは、この5年間にわたって身辺保護のためにバフェット氏に対してセキュリティー・サービスを提供してきたが、2011年度の費用は34万6,925ドル[2,800万円弱]だった。この金額は「報酬の要約」において、バフェット氏に関する「その他の費用」に含めてある。なお、多くの大企業では経営トップのために費用のかさむセキュリティー専門の部署を設けているが、各社の株主総会招集通知書面ではその費用細目は公開されていない。バフェット氏及びマンガー氏の両名は社有車を使用せず、あるいは支払が当社名義のクラブには所属していない。さらに両名は社有の航空機を商用目的に限って使用し、私用では使っていない。両名は個人名義でネットジェット[プライベートジェットを扱うバークシャーの子会社]を分割所有し、正規の費用を負担している。

Compensation Discussion and Analysis

Both Mr. Buffett and Mr. Munger will on occasion utilize Berkshire personnel and/or have Berkshire pay for minor items such as postage or phone calls that are personal. Mr. Buffett and Mr. Munger reimburse Berkshire for these costs by making an annual payment to Berkshire in an amount that is equal to or greater than the costs that Berkshire has incurred on their behalf. During 2011, Mr. Buffett reimbursed Berkshire $50,000 and Mr. Munger reimbursed Berkshire $5,500. For about five years Berkshire has provided personal and home security services for Mr. Buffett. The cost for these services was $346,925 in 2011 and is reflected in the Summary Compensation Table as a component of Mr. Buffett’s “All Other Compensation.” It should be noted that many large companies maintain security departments that provide costly services to top executives but for which no itemization is provided in their proxy statements. Mr. Buffett and Mr. Munger do not use Company cars or belong to clubs to which the Company pays dues. It should also be noted that neither Mr. Buffett nor Mr. Munger utilizes corporate-owned aircraft for personal use. Each of them is personally a fractional NetJets owner, paying standard rates, and they use Berkshire-owned aircraft for business purposes only. (p.9)


報酬の返還額に個性が出ているのがおもしろいです。ウォーレンは公私半々といった姿勢ですが、チャーリーは細かく考えているようにみえます。1年が53週間なので1週間あたり100ドルとするか、あるいは1年間に11ヶ月働くとして1ヶ月あたり500ドルとするか。単にわたしの考えすぎかもしれません。

ところで、ウォーレンにセキュリティー・サービスがついているのは、2007年9月に強盗が自宅に侵入しようとした事件があったので、それを踏まえたものと思われます(CNN Money記事)。

2012年5月2日水曜日

TOPIX Core30ひとかじり(2)任天堂(2011年度決算説明会)

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当社のことを1月下旬に取り上げたときは、株価が10,000円に近づいていました(過去記事)。その後、市場の回復と共に株価は上昇しましたが、ここにきて10,000円近辺に戻ってきました。来期の業績予想がもうひとつだったからとのことですが、個人的には第一四半期もWii買い控えによる低迷が続くものと予想しています。

今回は、2011年度決算説明会での岩田社長の質疑応答から、マーケット・セグメンテーションの話題を引用します。チャーリー・マンガーも指摘する心理学的傾向のひとつが登場しています(過去記事)。

<A7 岩田社長>
新しいお客様を獲得しようとして重視した点と、ゲームを趣味としてお楽しみいただいているお客様に満足していただくために重視した点において、少し偏りがあり過ぎたために、「Wiiというゲーム機は自分たちのものではない」と感じられ、「少々魅力的なソフトが出ても遊んでみる気になれない」というムードをつくってしまったことも事実だと思います。今回、過去のニンテンドーDSやWiiの時と比べて、ニンテンドー3DSでは、いわゆるユーザー拡大型のソフトウェア展開が遅いように見えているということについては、ある程度考えてやっていることでもあります。最初にお客様が、「この機械は自分たちのものではない」と受けとめられた場合、後からその認知を変えることはとても難しいということを私たちは学んでいます。そのため、まず私たちは「幅の広さと深さを両立させたい」と申し上げてニンテンドー3DSやWii Uを展開し、ニンテンドーDSやWiiの時には幅の広さについては多くの方にご評価いただきましたが、奥の深さという点でみなさんに満足いただけたとは言い切れませんので、今度は奥の深さでも、幅でも満足していただきたいと考えています。そのためには、まず深さから始めようということがあり、今のニンテンドー3DSのソフト展開となっていますので、今後についてはこれから変わっていきます。この幅の広さと深さの両方を充実させることで、一つのプラットフォームでより幅広いお客様に満足していただけるようにしたいと思います。Wii Uで考えていることも基本的に同じです。そういうことを継続していった時に、世帯当たりのプレイ人数も多くなり、ユーザー人口の増加とともに、持続力のあるマーケットをつくることができるのではないかと思っています。今申し上げたような形でニンテンドー3DSやWii Uが今後どうなっていくのか、これからお目にかけたいと思います。

個人的には、Wii Uは戦略的にもっとも重要な製品として位置づけられている、と受けとめています。6月に開催されるE3での続報が楽しみですが、現在の株価にも少し魅力を感じます。10,000円は、やや割安と捉えています。

2012年4月20日金曜日

TOPIX Core30ひとかじり (5)パナソニック

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当社は消費者向け製品も多く、おなじみの企業なので、詳細に立ち入る必要はないかと思います。そこで今回は以下の3点に着目して、当社の現状把握としておきます。

1.セグメント毎の営業利益率
当社ではセグメントという表現で事業を大きく分けています。どれも売上高が1兆円を超えるものばかりです。セグメントというよりも、企業グループといった趣きです。以下の表は少し前の2010年度の営業成績です。

#セグメント製品例売上高(10億円)営業利益(10億円)営業利益率(%)
1デジタルAVCネットワークテレビ、デジカメ3,3031143.5%
2アプライアンス冷蔵庫1,275927.2%
3電工・パナホームLED、住宅1,735724.2%
4デバイス半導体926323.6%
5三洋電機電池全般1,561△ 8-0.5%
6その他FA機器1,197524.4%
(出典:当社アニュアルレポート DATA BOOK 2011)

質のほうに目を向けると、いずれのセグメントでも営業利益率が10%に届いていません。以前取り上げた信越化学工業のような企業とくらべると(過去記事)、業種も規模も違いますが水をあけられています。


2.事業毎の営業利益率

下の図は、もっと細分化された事業レベルでの営業利益率のイメージです。ただし、上の表とは時期が異なっており、2011年度第3四半期までの営業成績です。

(出典:当社プレゼンテーション「収益力強化の取組み」 スライドp.4)










当社の不振ぶりが昨今騒がれていますが、その元凶がひとめでわかります。左側が赤字事業で、テレビ及び半導体です。


3.テレビ事業について
なぜテレビ事業が急激に失速したのか。液晶テレビのような家電製品の安値販売に対して、世間では「コモディティー化」と呼んでいますが、特に国内での販売状況を見ると需給バランスの悪化が目につきます。2011年夏の地上波デジタル移行に向けて、テレビ製造各社が進んだ道を振り返ってみましょう。

下の図は、ここ数年間の国内での薄型テレビの販売台数実績をまとめたものです。調査会社の資料ではなく、各製造会社のIR資料から独自に推測したものなので、精度はかなり大雑把です。また主要4社のみ対象としています。







国内の世帯数は約5,000万世帯で(総務省統計から)、1世帯あたりのテレビ保有台数は2.5台です(平成19年3月の消費動向調査から)。このことから、マーケットの大きさは12,000万台前後とみられます。それに対して、上記の図では2010年度末には7,000万台に達しており、それ以前に販売されていた台数も含めれば、飽和するのが遠くない状況です。買い替えサイクルは約10年なので、飽和後に期待できる年間販売台数は1,200万台強。この図の4社で均等に分け合っても、1社あたり300万台です。

この図は過去の実績をさかのぼってまとめたものですが、各社で薄型テレビのマーケティングや事業戦略を練る際には、このような需給予測は行っていたはずです。精度はずっと高いものでしょう。国内マーケットはいずれは縮小し、設備過剰に陥ることも予想されていたでしょう。それなのに、なぜ今回のような道を選んだのか。個人的にはその一つとして、前回記事で取り上げた「競合動向を軽視」していた可能性を挙げたいと思います。「そうではない。自社が売らなければ他社を利する」とゲーム理論的に考えたのかもしれません。真偽のほどはわかりませんが、2,000億円の減損は小さくはありません(出典: 2011年度第3四半期決算概要スライドp.11)。既に払ったお金であればサンクコストに過ぎませんが、お金の使い方という観点では当社を見る目は厳しくなったのではないでしょうか。

2012年2月28日火曜日

バークシャー・ハサウェイの株式ポートフォリオ(2011年度末)

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ウォーレン・バフェットによる「株主のみなさんへ」には保有株式(普通株)の一覧が掲載されています(PDFのp.15)。以下に、2011年度分の保有株式の比率を図にしました。








株式ポートフォリオのおよそ半分を3銘柄で占めています。また上位10銘柄になると、80%占めることになります。ほどほどに集中投資ですね。この他にもワラントを保有しており、例えばBank of Americaの分を全て行使して株式を取得したら、AmexとP&Gの間に追加されます。残りのワラントはGoldman SachsとGEです。

余談ですが、我が家の株式ポートフォリオ配分も似たような比率になっています。3銘柄で半分です。個人的には上位2,3銘柄で半分ぐらいになるのが、調べものや考えるのが集中できてやりやすいです。

2012年2月22日水曜日

TOPIX Core30ひとかじり(2)任天堂(過去の価格政策)

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最近読んだ本『ニンテンドー・イン・アメリカ: 世界を制した驚異の創造力』で、過去の新ゲーム機発売前の価格政策に触れている文章がありましたので、ご紹介します。

まずはファミコンです。
山内は、ファミコンはヒットすると確信していたので、アーケード部門を廃止し、資金と経験をファミコンに集中投下した。価格は、山内が決して譲歩できない重要なポイントだった。ファミコンは安くしなければならない--市場のどの製品よりも安く。確かに、アップルのリサやゼロックスのスターは最高級マシンだったが、価格が高すぎたために大失敗に終わった。

山内は1万円を切る小売価格にして、その上利益を出そうとした。これは言わば二部料金制のビジネスモデルにおいて、基本料金からも大きな利益を期待するようなものだ。たとえば、このビジネスモデルでよく知られる剃刀メーカーのジレット社では、1度しか買わない剃刀本体の価格を安く、継続的に買わなければならない刃の価格を高く設定している。山内はゲームとゲーム機の両方で儲けたいと主張した。 (p.78)

次はゲームボーイです。
横井は、着脱式のカートリッジが使える携帯型ゲーム機ができないものかとブレーンストーミングをはじめる。実は以前にも考えたことがあったのだが、当時は満足なものができなかった。表示が不鮮明で、なにしろ馬鹿高い。適正価格、ハードウェアの能力、プレイのしやすさ、消費者の興味関心--横井はこれらをよく理解していた。今度はできるはずだ。

ファミコンと同様、価格は何よりも重要だった。安さは絶対条件だったが、安っぽい作りではだめだ。横井は、発売直後で高価な、実績のない先端的な技術ではなく、既存の技術を利用するよう強く主張した。彼の哲学である「枯れた技術の水平思考」とは、既存の技術や部品を新しいアイデアで活かすという意味だ。テクノロジー、メモリ、トランジスタ。あらゆるものがどんどん小さく、安くなっている。ではなぜわざわざ高い最新の部品を採用して、そのコストを顧客に転嫁しなければならないのだ?これは島国の経済学の初歩だ。材料を輸入し、付加価値をつけ、利益が出る価格で売る。

たとえば、液晶画面のバックライトなど問題外だった。高価でバッテリーを食う上に重い。確かにゲームボーイ(この機械の呼び名だ)は暗いところでは遊べないと苦情が来るだろう。だが軽く安くバッテリーが長持ちする製品という条件のほうが、バックライトの長所より重要だった。

さらに驚いたことに、液晶画面はカラーではなかった。カラーもバッテリーを消耗するので、横井はグレーというか、ソ連の軍服のようなオリーブグリーン一色のモノクロ画面を提案したのだ。彼はシャープがこのグレー画面の開発に莫大な投資をするのを、胃が痛くなる思いで見ていた。シャープの初期製品は画面を正面から見ると非常に見づらく、見る角度によっては室内や太陽の光が映り込んでしまうような状態だった。

だが横井とシャープは最後の最後でやり遂げる。4階調の緑がかったグレーがきちんと表示されるようになったのだ。「ほうれん草ペーストの色」とライバル企業が広告で馬鹿にした色だ。横井はそうした雑音などまったく気にかけなかった。ゲームボーイにはイヤホンがついているので、よりプライベートにゲームを楽しめ、サウンドもモノラルではなくステレオにできる。バッテリー寿命も延びた。1つの電池パックで約40時間プレイできる。通信ケーブルを使えば2人同時プレイも可能だった。その他にもカートリッジをロックするスイッチなどさまざまな工夫をこらしたので、耐久性も上がり、なおかつスマートなゲーム機になった。

(中略)

ゲームボーイ本体も売れ続け、1億1800万台と言う驚異的な数に達する。 (p.126)

昨年発売された新型機3DSは、当初は価格が25,000円だったため、普及に苦労しました(値下げ後の現在は15,000円)。もちろん、楽しめるソフトがそろっていなかったことも大きな原因でしょう。ですが本書を読むと、製品価格も同じように、当社の経営層が細心の注意を払って意思決定してきた課題のようです。昨年の3DSの失敗で、岩田社長は前社長の山内氏にお灸をすえられたのでは、と邪推してしまいます。

今年の新製品Wii Uでは同じミスを繰り返さないはずです。思わず財布のひもがゆるむような、魅力的な価格をつけてくるでしょうか。

2012年2月9日木曜日

TOPIX Core30ひとかじり(4) コマツ

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当社の本社所在地は、東京都港区赤坂二丁目3番6号。最寄り駅は東京メトロ銀座線溜池山王駅で、出てすぐのところです。溜池の交差点に面しているビルとは気がつきませんでした。Googleの写真をみると、竣工時の年代を感じさせるビルです。屋上の庭園は有名なようですね。

さて、本題になります。今回は有価証券報告書と20-Fを読んでみました。またキャタピラーの10-Kも若干参考にしました。

(1)現在の業績
好調です。今期末の予想では、売上高2兆円、純利益が1,860億円です。一方の前期実績は、1.84兆円と1,500億円でした。中国市場は低迷していますが、鉱山部門が世界的に好調を維持しています。目につくのが地域別売上構成。偏りが少ないです。意図したものでしょうが、見事な手綱さばきです。

(出典:当社Webサイト)








業界での位置づけは第2位。最大手キャタピラーには離されていますが、後続の日立建機、Volvo、CNH、斗山、現代、John Deere等は、売上や純利益で大きく離しています。両社の築いたMoatは大きいものと思われます。

(2)この10年間の上げ潮にうまくのった
以前からジム・ロジャーズが主張していた通りになりましたが、商品の強気相場が続いています。例えば、以下はLMEの銅価格です。1998年から2012年初までのチャートで、1目盛が1年です。2000年当初は停滞していましたが、2003年頃からは上昇基調です。








建設・鉱山機械業界は恩恵にあずかったようで、当社の売上高は10年前と比べて2倍になっています。キャタピラーの売上も同様に推移しています。









(3)従業員一人あたりの生産性が高い
当社対キャタピラーの比較ですが、一人当たり売上高(2010年度)は、およそ45対33。一方、純利益になると3.8対2.1です。相対的には、高付加価値で勝負していることになります。(1ドル=80円で換算)

(4)KOMTRAX
機器の稼働監視を行う本システムは当社の強みとして謳われていますが、他社でも同様のシステムを展開しています。しかし当社は導入時期が早く、稼動台数は1年半ほど前の時点で17万台になっています。先行者利益を享受できていると考えられます。

(出典:当社WebサイトのKOMTRAX紹介映像より)








例えば、野路社長によるKOMTRAXの紹介映像が当社Webサイトに掲載されており、その中でKOMTRAXで収集した稼動データを3ヶ月間先までの生産計画立案に使っていると発言されています(6分40秒)。「母数が大きいと、的確な分析がしやすくなる」とも。需要予測が的確であれば、サブASSYなどの部材を無駄なく先行手配できるようになり、納期がタイトな受注競争では戦いやすくなります。

(5)今後の見通し
中長期のマクロ要因がどうなるのかうまく判断できませんが、どちらかといえば追い風と思われます。特に主力のアジア太平洋地域は、大きな伸びしろが期待できそうです。

(6)株価について
現時点の株価(2,100円強)は、やや割安な程度にみえます。もちろん、商品市況が一時的にでも大きく下落すれば、当社株価もそれに追随するでしょう。しかし、当社の強力なMoatと今後のマクロ環境(資源高と新興国開発)を考えると、10年スパンでみれば安心して投資できる企業と思われます。

2012年2月2日木曜日

ディスプレイ用ガラスの今期見通し(コーニング)

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日東電工や旭硝子といった、注目している液晶関連企業の株価が安いです。同じように、ディスプレイ用のガラスでトップ・シェアの米コーニングも安いです。こちらもPBR1倍を割っています。今回ご紹介するのは、1/25に発表された同社年次決算で、CFOの発言した今後の見通しです。コーニングジャパンのWebサイトからの引用です。

ディスプレイ業界は過渡期を迎えており、今後の成長および収益予想の見直しを進めています。顧客の経済的負担軽減を支援するために、顧客と密接に協力しガラス価格の値下げを行っています。これを受けて、前年の第4四半期同様、2012年第1四半期のガラス価格は大幅に低下するでしょう。この2四半期を合わせると、2桁台の大幅な価格低下を予想しています。こうした価格設定および製造能力に関する決定が、これ以降の四半期に、より安定した価格低下の状態に戻る一助となればよいと思っています。

私たちの行った製造能力引き下げにより、液晶ディスプレイ用ガラスの供給量は、エンドマーケットの需要量により近づいたと考えています。当社の小売需要とサプライチェーンの動向予想が正しければ、今年のどこかの時点で、世界のガラスの供給量と需要量のバランスが取れるはずです。コーニングでは、製造能力を元に戻すタイミングとそのペースを注意深く検討していきます。

(中略)

液晶ディスプレイ事業およびダウコーニングのポリシリコン事業が過渡期を迎えていることから、当社は収益の点で新たな段階に近づいていると考えています。今後、この新たな水準から、収益増を図っていく計画を立てています。

(中略)

ディスプレイテクノロジー部門の売上高の伸長は望めませんが、今後も、大きな収益およびキャッシュを生み出すものと予想しています。

液晶ディスプレイの商売が転換期を迎えたのかもしれませんが、見通しがよくない企業にこそ投資の機会が眠っているかもしれないので、これらの企業は今後も注視していくつもりです。

液晶テレビにまつわる蛇足になりますが、ずいぶん前から自宅にテレビがなかったので、出張先のオープン間もないビジネスホテルで大画面の液晶テレビを初めてみたときは、小さな驚きでした。毛穴まで見えるのかよ..。

2012年1月28日土曜日

TOPIX Core30ひとかじり(2)任天堂(2011年度第3四半期決算の雑感)

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3四半期連続で下方修正が出るとは予想していませんでした。昨日の業績予想修正で、当社の今期の業績予想が650億円の純損失となりました。娯楽産業が勢いのビジネスであり、ハイリスク・ハイリターンなのは岩田社長自身が折に触れて述べていますが、今期はすべての悪い目が揃ってしまったようです。テンプルトン卿は「見通しが最悪のものに目をつけよ」といっていますが、当社の現状はそれに近いといっていいでしょう。

さて、当社の今期の業績悪化の原因ですが、個人的には以下に集約されると考えます。

1. 新型ハードウェアの発表時期の悪さ(据置型Wii Uと携帯型3DSが重なったこと)
2. 3DSの主力ソフトウェア発売時期の遅れ(売上低迷と値下げへつながる)
3. ドル安及びユーロ安による為替評価損

前にもあげましたが、岩田社長も以下のように同じような認識をされているようです。
それから、会社、社員の仕事という意味では、やはり今回のことで、「(ゲームビジネスでは)たった一つ歯車が狂うだけで、会社のビジネスがこんなに変わるのだ」ということを、任天堂という組織全体が今思い知っているわけですから、そのことをむしろ今後に活かさないといけないと私は思っています。そういうことが教訓となり、任天堂が、タイミング、あえてこの言葉を使いますが、「天の時を逃さない会社になるのだ」というのが私の決意でございます。多分に精神論的ですが、ご理解ください。

さて、ある方は業績不振の一因として為替政策を次のように批判されています(引用元はこちら)。
<Q 3-2>為替差損について、円より強いお金はない状態なので、外貨建て貯金をやめてほしい。任天堂は、ユーロ建てとドル建ての預金をたくさん持っているということで、毎回損をしたと聞くと頭がいたくなる。

<A 3-2 岩田社長>
為替差損が出ており、これは、当然決算の数字が悪い方向に振れるわけですから、その一年一年を見ると(資産を外貨建てで持つことが)適切であるとは言えないとおっしゃることもよく分かります。また、任天堂は今、売上の8割以上が海外ですから、海外で売り上げた時に、その売上というのは必ず一度外貨で入って参ります。そこで、その外貨で入ってきたものを、どのように会社として保持しておくべきか。もちろん、為替差損をなくすということだけに注目いたしますと、その時点で入ってきた瞬間にすべて円に替えれば、為替差損を後で被ることが一番少ないというメリットがございますが、一方で為替というのは常に変動いたします。確かに、この2年強の間、非常に円高基調で進みましたので、その結果、手持ちの外貨建て資産は評価替えをするとどんどん目減りしています。円換算すると、数字上の額が減るわけです。そしてそれは、会計上の決算の数字を悪くします。しかし一方で、為替というのは必ず一定の周期で振れる要素も持っています。私は、今確かに日米欧の通貨の中で円が最強であるという評価をされているということについては否定いたしませんが、その一方で、経済の現状、あるいは今の日本は、これから人口減少が起こっていかざるを得ない人口構成の国であること、その他を考えた時に、円が強いまま未来永劫続いていくとは必ずしも考えられない状況です。私どもとしては、「為替による変動をどうやってヘッジするか」というポイントをまず考えることと、それから「日米欧の基軸通貨をどのようなバランスで持つのか」ということの方が重要だと思っていますので、そういう意味で配分は(過去と)変えております。あるいは、任天堂はこれまで、円建てで支払って製造したものを外貨で売って、外貨の収入を得て、という形でビジネスを展開してきましたが、ここ数年の間に、仕入れに関してはドル建てでの仕入れを非常に大きく増やし、結果、毎期の収益において、ドルの変動に対する影響を以前に比べてはるかに小さくできるようになりました。しかし、残念ながらユーロ建ての支払いを喜んで受けてくださる取引先がまだ大手では見つかっていないこともあり、(ヨーロッパ)現地での売上が上がる一方、支払いには使えず、ユーロばかりがたまってしまうという現状が今起きやすくなっていまして、このユーロを定期的にどの通貨に変えて持つべきかということは当然議論すべきだと思います。確かに、「毎期の為替差損を生じさせないために外貨建ての資産運用は一切やめるべきだ」というご意見は、もちろんご意見として、われわれも考えていかないといけないことだと思いますが、一方で、これからはなおのこと、いつどの国の基軸通貨が不安定になるか分からない、不確実な時代になったわけですから、私たちは、むしろ複数の基軸通貨をバランスよく持つことが、任天堂がどんな場合にも備えを持つ上で最も妥当ではないかと思っています。長い目で見ていただくと、為替差損・差益のバランスがとれていくはずだと思っています。

上のような批判とは逆に、当社を日本企業と捉えるのではなく、アメリカ企業と考えてみるのはどうでしょうか。経営やクリエイターに日本人を登用し、日本の株式市場に上場していると捉えるのです。所在地別セグメントでみると、売上高のいちばん大きいのが南北アメリカ大陸です。また主要3市場(アメリカ、欧州、日本)の中では日本がもっとも売上が小さく、また販管費の割合でも日本単体は5割程度なので、「日本企業」とこだわる必然性は大きくないと思います。そうなれば、少なくとも為替差異はドルベースでみることができます。現在のようにドル安になればNintendo株の日本円換算は安くなりますが、先のことはわかりません。長期的にみれば為替は、相対的にどれだけ国力を維持できるかの問題です。先の批判に岩田社長が答えているように、現経営陣は当社の未来が日本だけに帰するとは考えていません。ですから、当社の株主として判断しなければならないことのひとつに、マクロレベルの観点が加わっているわけです。マクロが読めない投資家は、当社に投資しないほうがよいかもしれません。

一方、為替以外の経営上の失敗(上記の1,2)ですが、今後も同じことをくりかえすかどうかは経営者次第です。個人的には、次はよくなるだろうと予想しています。この手の過ちを繰り返すような人材にはみえないからです。当社の財務基盤があれば少なくとも1回の失敗は許されますし、そもそも経営陣も、そのリスクを踏まえた財務政策をとっています。

また、もうひとつの経営上の懸念である競合スマートフォンですが、これは消費者がプラットフォームを購入するかの問題で、ゲームやシステム自体の課題とは別とみることもできます。つまり、それらの出来がよければ乗り越えられる、ということです。任天堂ブランドを構築している以上、乗り越えられない壁ではない、と感じています。

さて、いよいよWii Uの登場が2012年の年末と発表されました。それまでの売上をどうやってあげるのか、現行機種Wiiの売上をどうするのか、はたまた3DSの売上で逃げ切るのか、今年の任天堂の動向と株価は目が離せなくなってきました。当社にはまだ投資していませんが、6,500円に近づくほど買いの機会と考えています。その前には、自社株買いが決議されるとは思いますが。

2012年1月17日火曜日

TOPIX Core30ひとかじり(3)信越化学工業

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株式市場で人気の高い企業だったのでこれまで近づかないでいました。昨年、書店で平積みになっていた金川会長の新刊を手にとる機会がありましたが、自信や義務感にあふれた言葉が連ねられていました。こうして当社の事業成績を振り返ってみると、それも納得できます。

さて、当社の有価証券報告書や事業報告書を一読して印象に残った点を挙げます。

1. 各事業部門がおしなべて高収益体質
当社の中核事業は5つで、塩化ビニル樹脂・化成品、半導体シリコン、シリコーン、機能性化学品(セルロースなど)、電子・機能材料ですが、おしなべて営業利益率が10%を超えています。2011年度の上半期では、鹿島工場が被災した塩ビ事業は8.3%と低調ですが、そのほかは順に17.0%, 24.7%, 16.6%, 24.5%となっています。各事業の年間売上規模は1,000-3,000億円であり、成長余地が残されています。

2. 赤字を出さない
下の図は1997年度からの一株当たり純利益と配当の推移を示したものです。それ以前の年度は、当社のWebサイトには掲載されていませんでした。一目瞭然ですが、景気後退の時期でも黒字を継続しています。しかもそれなりの水準を保っています。配当も増配基調です。ここ10年間では減配していません。








3. 10年以上前から事業が継続している
原材料に近い川上の産業では製品ライフサイクルが長いものですが、当社の中核事業も10年以上前からのもので、高収益を維持し続けています。1997年度の決算短信をみても、塩ビ、シリコーン、セルロース誘導体、半導体シリコン、合成石英製品、希土類磁石等のように、現在も主力の製品がならんでいます。それらの既存事業は、生産規模の拡大、企業買収、不採算事業からの撤退等によって収益を拡大してきました。なかでも塩ビ及びシリコン関連製品では原料部門を強化しており、垂直統合によって規模拡大と利益率維持をめざしているように見受けられます。

財務や事業内容を簡単にみた上で現時点の株価3,700円を判断すると、半額まではいかないにしても割安な水準だと感じます。10年チャートをみると昔の株価に戻っていますが、純資産はこの10年強で倍増しています。生産能力も増強されており、次の好況期に備えています。前回のテンプルトン卿の教え「優良企業の中から割安なものを選びなさい」がよくあてはまる企業の一つではないでしょうか。

2012年1月14日土曜日

もはやサル社長ではない

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アメリカの経済紙Businessweekはよく知られている雑誌で、日本でいうところの東洋経済や週刊ダイヤモンドのようなものです。今週号の同誌の表紙ですが、なんと、マイクロソフトCEOのスティーブ・バルマーが登場していました。個人的にはマイクロソフト(MSFT)の株式を保有しているので気になる人物なのですが、世間的には悪役ムードの強い人です。彼の奇行(というか、パフォーマンス)をとりあげた映像もYouTubeにあります。最近の注目はアップルやグーグル、そしてIPO必至のフェースブックあたりですが、大衆経済紙がマイクロソフトに焦点をあてるのはなぜなのでしょうかね。












今回は同誌の記事から、マイクロソフトとバルマーの業績概要を引用します。(日本語は拙訳)

過去十数年にわたって、マイクロソフトの売上は3兆円から5.5兆円へと増加し[USドルベースでは2.8倍]、純利益は215%増の1兆8,000億円となった。その大半は、バルマー以前から続いているWindowsとOffice資産のおかげだ。彼自身の業績といえば、データセンタービジネスにおいて無名に等しかった同社を主要業者にまで押し上げたこと、またXboxもバルマーによるもので、エンターテインメント事業で7,000億円の売上をあげている。年次ベースの利益成長でいえば、バルマーの成績(16.4%)は、伝説的なCEOとされるGEのジャック・ウェルチ(11.2%)やIBMのルイス・ガースナー(2%)を超えている。

Over the past 10 years, Microsoft’s annual revenue has surged from $25 billion to $70 billion, while its net income has increased 215 percent to $23 billion. Much of these gains have come from the Windows and Office franchises Ballmer inherited. That said, he’s moved Microsoft from a virtual nonentity in data centers to a dominant player, building a business that brought in $6.6 billion in profit last year. The Xbox also came to life under Ballmer and anchors the company’s $8.9 billion entertainment and devices division. Measured by total annual profit growth, Ballmer’s performance (16.4 percent) surpasses those of such legendary CEOs as GE’s Jack Welch (11.2 percent) and IBM’s (IBM) Louis V. Gerstner Jr. (2 percent).

もしバルマーが会社の利益に大きく貢献しているのであれば、素晴らしい経営者に恵まれたマイクロソフトは買いでしょうし、そうでなければマイクロソフトは比類なきビジネス特性を持っているので、これまた買いだと思います。冗談ぽくみえるかもしれませんが、いちおうまじめです。同社は、私が投資するアメリカ企業3社のうちの1つなのです。