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2018年9月12日水曜日

中国が米国にもたらした、ささやかで劇的な日常(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーのインタビューのつづきです。今回は質問者が投げかけた下世話な問いに対して、チャーリー・マンガーは直接的には答えず、そのかわりにコスモポリタニズム的な話題を展開しています。前回分の投稿はこちらです。(日本語は拙訳)

なお文中に登場する著作『プーア・チャーリーの暦(Poor Charlie’s Almanack)』は、チャーリーの主要な講演をまとめた本です(ほかに、チャーリーに関連する文章も掲載されています)。ご存知とは思いますが、本ブログでは同書に含まれる全講演を訳出してあります。それらの記事に関する目次は以下のとおりです。ただし「講演その11: 誤判断の心理学(Talk 11: The Psychology of Human Misjudgment)」は抄訳にとどめていたため、遠からず全訳に取り組むつもりです。

(目次)チャーリー・マンガーの主要記事

<質問者> バークシャーの年次総会に参加するために、今年は1万名を超える中国人がオマハにやってきました。総会では中国に関する話題がよく取り上げられています。マンガーさんのお話しでは、「中国の将来は非常に明るく、中国での潜在的な投資先をこれまでに探してきた」とのことでした。それでは、現在の中国は投資環境の面でどういった時期にあるとお考えですか。現在の中国市場は、ちょうど米国市場の1973年や1974年、あるいは1982年のような段階でしょうか。また中国で物色されているのは、どの領域のものでしょうか。

<チャーリー・マンガー> 実に奇妙な事態だということは承知していますよ。ニューヨーク・タイムズ紙からは、「なぜバークシャー・ハサウェイやチャーリー・マンガーが、かの人々に人気があるのか」という質問を受けました。例の書物『プーア・チャーリーの暦(Poor Charlie’s Almanack)』のせいもあるでしょうが、それではなぜ中国人はあの本を好むのでしょうか。その答えは儒教を感じさせるからだと思いますね。中国には儒教の教えが深く根差しています。裕福だったり権力を有していたとしても、礼節を重んじることが要求されます。絶えず学ぶことを忘れず、品格と分別をもって行動することを良しとします。年を経てさらに充実し、働き続けるわけです。そういった教えはひとつの国に限定されはしませんが、おどろくべきことにウォーレン・バフェットや私が、儒教的な価値観を重要視してきたさまざまな人たちと同じように振舞ってきたのも事実です。

それから、ウォーレンや私が実のところ中国人を好んでいる、という理由もありますよ。もちろん人間とは自分を好む相手のことを好むものです。それでは、なぜオマハの二人組が中国人をひいきにするのだと思いますか。実は、多くの中国人が理解していない点があるのですね。米国人という観点から中国をながめると、こんな感じになるのですよ。中国人がはじめてやってきたころ、ここではシエラネバダ山脈を越える大陸横断鉄道を敷設しようとしていました。冬のさなかにひどい山道を通って険しい山々を越えようとする仕事で、だれにも果たせませんでした。不可能でした。人々が死に至ったのも、ひどく難事業だったからです。そこで、1万5千人ほどの中国人労働者が呼ばれました。当時の彼らは奴隷も同然でした。その労働者を冬季の山へと送り込み、鉄道を敷設するように言い渡しました。すると彼らは成し遂げたのです。アメリカ人だけでは成し得なかったことをです。もちろんそのことが非常に好ましい印象を残しました。そして月日は流れ、現在はアジアからの移民がたくさんやってきています。そういったアジア出身の人たちが米国で何を成し遂げたでしょうか。アジアからやってきた人たちは早々に、医者や法律家、学者、事業家などになりました。目ざましい成功をおさめました。以前の交響楽団をみれば、中国人は含まれていなかったものです。しかし今日では、練習をしている人たちをながめたときに、難易度の高いあらゆる楽器をうかがえば、そこには中国人の顔がみられます。この国で大きな成功を収めつつある人には有名な人たちもおり、当然ながらそのことは大きな問題とはなっていません。ですから、我々が中国人を好むのも当たり前と言えるわけです。

私が思うに、中国本土で暮らす普通の人たちは、米国でうまくいっている中国のイメージがどのようなものかを理解していませんね。これから極端な話をしますが、だれも想像していなかったでしょうし、だれも口にしたことがないことです。それというのも、かつて中国ではひどい貧困が続きましたし、人口が多すぎました。そこで、アメリカ人の夫婦が子宝に恵まれなければ、中国へおもむいて非常に貧しい家庭から中国人の女の子を養女に迎えることができました。ほどなくすると、米国における主要なあらゆる都市の人たちは、遠い中国の農地で産まれた望まれぬ女の子を引き取ってきたことで、「良い赤ちゃんを迎え入れた」と考えるようになりました。そういった赤ん坊は平均してみると、米国人の子供たちよりも健全に成長していきます。だから養子を欲しがる人たちはだれもが、米国の子供を欲しがらないのです。彼らが求めるのは中国人の女の子です。ことごとく立派に育ったからですね。中国本土の人たちは、それがどれだけ極端なことだったのか理解していません。米国におけるあらゆる町で起きてきたことなのですよ。米国のあらゆる私立学校では、中国の田舎から棄てられた女の子たちであふれています。彼女たちが取る成績はオールA、そのうえ表彰も受けています。当然ながら、このことは良い印象をもたらしました。全米でみられる、実に劇的なできごとですよ。

Question: There are more than 10,000 Chinese who came to Omaha to attend this year’s Berkshire’s annual meeting. China is a focus among those topics. Mr. Munger mentioned that the future of China would be very bright and you had already looked for potential targets in China. What kind of investment environment period is China now in? Is China’s market like the U.S. market in 1973, 1974 or even 1982? And what areas have you looked at to find your potential targets in China?

Munger: I know it’s very peculiar, and The New York Times asked me why are these people so interested in Berkshire Hathaway and Charlie Munger. Partly the book ("Poor Charlie’s Almanac"), yes, but why do the Chinese like the book? I think the answer is it sounds Confucian. China has a deep Confucian ethos. They want people to act modestly even though they are rich and powerful. They want people to constantly keep learning and behave with dignity and reason, and improves as they get old and keep working. Those lessons are not confined to one country. But it just happens that Warren Buffett and I act like much of the people who take Confucianism very seriously.

The other reason is that Warren and I really like the Chinese. And of course everybody likes people who like them. Now you say, why have the Chinese got so popular with the couple of Omaha boys? There’s something that a lot of Chinese don’t understand. If you look at China with a viewpoint of a U.S. citizen, here is what you see. The Chinese first came in here, trying to build the Sierra, the trans-continental railroad, in the winter through horrible passes in the steep mountains. Nobody could do it. It was impossible. They were dying and it was just too hard. So they brought in like 15,000 Chinese labors, who in those days were practically slaves, and they took those labors to the mountains in the winter and said you build the railroad. And they did. And the Americans couldn’t do it by themselves. That of course made a very favorable impression. While fade in fade out, now we have Asians immigrants. What have those Asians done in America? Well they come in and rapidly become doctors, lawyers, professors, businessmen and so forth, and succeeded mightily. If we go to a symphony orchestra, which used to have no Chinese. Every instrument that’s hard to play, and pick someone that are doing practice, you look up the instruments, there’s a Chinese face. Of course we find people popular who are succeeding so much in our country and not causing a lot of troubles. So naturally we like the Chinese.

And I don’t think the ordinary person on mainland China understands what an image of success China has in the United States. And the most extreme thing of all, nobody could have anticipated and nobody ever talks about it, it’s because there was so much poverty in China and it was so overpopulated, if an American couple were unable to have children of their own, they can always go to China and adopt a Chinese girl of a very poor family. So in every important city of America, people soon learned they got better babies, taking the unwanted Chinese girls from the remote Chinese farms. Those babies on average work out better than their own children. So everybody if they want to adopt a child they don’t want an American child. They want a Chinese girl. And of course all those girls worked out well. And most people in China don’t realize how extreme that’s been. That’s happened in every American city. Every American private school is full of the discarded Chinese girls from the Chinese countryside. They are getting all As and winning prizes. Of course they made a favorable impression. It’s just dramatic it’s all over America.

2 件のコメント:

ひろゆき さんのコメント...

いつも素晴らしい翻訳をありがとうございます!難しそうな話をここまで上手に翻訳できるなんて凄いことです。心より尊敬と感謝を申し上げます!

betseldom さんのコメント...

ひろゆきさん、はじめまして。過分なコメントをいただき、ありがとうございました。

訳出する際には、原文の持つ熱量をできるだけ再現することに留意しつつ作業を進めているつもりです。今回は少なくともひろゆきさんには、そのねらいが果たせたのかもしれません。うれしさと安堵が入り混じった気持ちでおります。

またよろしくお願いします。それでは失礼します。