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2015年5月6日水曜日

バリュー投資家の方へおすすめの一冊『破天荒な経営者たち』

チャーリー・マンガーの推薦書"The Outsiders"(過去記事)の翻訳書が出ていたことを指摘してくれたのは、いつもコメントをつけてくださるブロンコさんでした(過去記事のコメント欄)。邦題は『破天荒な経営者たち』、発行元はパンローリング社です。別の翻訳書『千年投資の公理』を取りあげたときに同社のことを「わざと売れないように題名をつける会社」と書きましたが(過去記事)、本書もその路線に足を踏み入れていると思います。邦題だけでなく、装丁(表紙のデザイン)のほうも購買意欲を削いでいるようにみえるからです。前置きが長くなりましたが、結論は題名に記したとおりです。バリュー投資家のみなさんには、一読されることを強くお勧めする一冊です。資金を投じる価値がある企業の経営者とはどのような人たちなのか、その実例を示しているからです。

今回引用するのは同書で紹介されている経営者のひとり、ケーブルテレビ業界のTCI社でCEOを務めていたジョン・マローン氏の話題です(現在はリバティメディア社などの会長)。

この時期、マローンは新しい財務と業務の規律を導入し、各部門の責任者に、利益率を維持しながら毎年加入者を10%増やすことができれば、彼らの独立性を尊重すると約束した。TCIの質素で起業家的な文化は、この時期に本部から現場へと広がっていった。

TCIの本部や、アメリカのメディア勢力図を書き換える業界の最大手の本部にはとても見えなかった。事務所は質実剛健で、少ない幹部とそれ以上に少ない秘書がビニール張りの床に置いた剥げた金属製のデスクで働いていた。受け付けは一人しかおらず、あとは自動音声の留守番電話で対応していた。TCIの幹部がそろって出張に出ても宿泊はたいていモーテル(車庫付きの簡易宿泊所)で、COO(最高執行責任者)のJ.C.スパークマンによれば「当時はホリデイ・インに泊まるのがたまの贅沢でした」。(中略)

各部門の責任者は、目標を達成していればかなりの自治権を与えられていた。反対に、月間目標が達成できなかった部門の責任者は、社内を飛び回っているCOOの訪問をたびたび受け、パフォーマンスが劣っていればすぐに差し替えられた。(p.143)

資本を配分するには高リターンの選択肢がたくさんあり、マローンはそれを最適に組み合わせてTCIの資産を構築していった。彼の経歴からも分かるように、マローンは冷静で合理的でまるで外科医のように正確に資本を配分していったのである。彼は、魅力的なリターンであれば、どれほど複雑で型破りな投資でも検討し、工学的な思考で、リターンが優れた計画だけを実行した。面白いことに、彼はスプレッドシートは使わず、リターンが簡単に計算できる計画を好んだ。「コンピューターには細かいデータがたくさん必要ですが……私はプログラマーではなく数学者です。正しくあるべきですが、厳密でなくともよいのです」と語ったこともある。(p.162)

しかし、彼は安値でしか買わず、TCIの買収計画の基礎となる単純なルール――番組制作費の割引と人員削減が終わった時点で見込めるキャッシュフローの5倍までしか支払わない――を持っていた。この分析は、たった1枚の紙があれば計算できた(紙ナプキンの裏で計算することもあった)。高度な予想モデルなどは必要ないのである。

重要なのは予想の精度と期待した相乗効果を生み出せるかどうかであり、マローンとスパークマンの事業チームは新たに買収した会社の不要コストを削減するための高度な訓練を受けていた。(p.165)

TCIの事業は驚くほど分権化されており、スパークマンが引退した1995年でも1200万人の加入者を擁するこの会社の本部には17人の社員しかいなかった。マローンのいつもの率直な言いかたによれば、「スタッフの数が多ければよいというものではありません。ほとんどの人間は、あとからとやかく言うだけの連中です」。(p.169)

4 件のコメント:

ブロンコ さんのコメント...

この本を通じてジョン・マローンに魅せられた私は、主に欧州でケーブルネットワーク事業を行うリバティ・グローバルに投資しました。リバティ・グローバルの財務レバレッジを存分に活用した財務方針や買収による規模拡大(ケーブルネットワークは規模の経済が存分に働く)、赤字の純利益による税負担軽減、莫大な減価償却と設備投資の支出抑制によるフリーキャッシュフローの最大化がTCIを彷彿とさせるからです(ケーブルネットワーク事業がマイケル・ポーターのファイブフォースの観点から魅力的であることも大きな要因のひとつです)。
また、この本で取り上げられていたトランスダイムグループにも投資をしました。航空機ビジネスに対する強すぎる追い風(景気回復や富の分散、原油安等)がどこまで続くかは分かりませんが、キャッシュフロー重視の経営スタイルが維持される限り保有し続けようと思います。

betseldom さんのコメント...

ブロンコさん、こんにちは。

本書に関連した投資状況をご説明くださり、どうもありがとうございます。「TCIを彷彿とさせる」と書かれましたが、ぜひ参考にさせて頂きます。リバティ・グローバル社もマローン氏が会長を務めているので、本書のような経営方針がとられているでしょうから、楽しみな会社ですね。

昨年だったかLongleaf(ファンド)の四半期報告を読んだ際に、リバティメディアやマローン氏の話題が取り上げられていました。その際には気づかなかったのですが、彼はバリュー投資家の人気者だったようですね。遅ればせながら、今後はマローン氏の動向を観察していくつもりです。

またトランスダイムグループのほうも同じように勉強の対象にしていきたいと思います。キャッシュフローに限らず、見事な業績をあげていますね。

本書は読みがいのある作品でした。ブロンコさんのご紹介がなければ、いつまでも知らずにいたかもしれません。どうもありがとうございました。

またよろしくお願いします。

投資男 さんのコメント...

betseldomさん
バリュー投資の方にお勧めという事で、推薦書を読みたいのですが、まだ購入には至らず読めていません。
図書館でも借りたいのですが近くに置いてなくて、もどかしい状態です。

とても理性的で合理的な判断をしている経営者のお話のようで、早く読んでみたいところです。

これからも、おすすめ本の話題があれば紹介してもらえるとうれしいです。楽しみにブログを拝見しております。

betseldom さんのコメント...

投資男さん、こんにちは。コメントをありがとうございます。

投資男さんであれば、気に入ってくださる本だと思います。理性的で合理的、倹約家で良識派、独立思考で進取気質な人物ばかりです。ウォーレン・バフェットやチャーリー・マンガー以外にも、そのような人物が活躍されている。本書はそれを教えてくれました。ぜひ読んでみてください。

『若き商人への手紙』は、わたしも楽しんで読んだ記憶があります。プア・リチャードの文体は好みです。

またよろしくお願いします。それでは失礼します。