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2015年4月26日日曜日

エクソンモービル前CEO;短期の価格予測は重視しない(『石油の帝国』)

投資候補として石油ガス業界に注目していることもあり、業界の筆頭企業エクソンモービル社を取りあげた著書『石油の帝国』を少し前に読了しました。同社や業界環境を知ることができたのはもちろんですが、ある種のエンターテイメントとしても楽しんで読めました。同社のことは以前から「あつかましい企業」の最右翼とみなしていました。本書を読み始めてもその通りで、むしろ想像していた以上にあつかましい企業行動の描写がつづきます。主役がアンチヒーロー的な存在なので感情移入しづらく、読みにくさをはらんでいる反面、サスペンス小説や映画のような展開が目白押しで、意図せずして話に引き込まれました。そしてある話題では当社を応援している自分に気づき(ベネズエラの案件)、著者の巧みな文章と構成に感心させられました。

今回は同書から一部を引用します。はじめは、同社の社風を表した3か所の文章です。

エクソンのように世界的に散らばった事務所や製油所、油田等で何万人もの従業員を抱えた大規模で多様性に富んだ会社においては、「規律ある結果を得るための唯一の方法は、やりすぎるくらい徹底することだ。つまり、机をたたき脅しをかけなければ、これだけ大規模な従業員たちは易きに流れ、凡庸な結果しか残せない」と彼は考えた。[前CEOのレイモンド氏](p.46)

ブッシュ政権による野心的なエネルギー外交が開始されたころのエクソンモービルのプーチン政権との関係はこのような状態だった。サハリンは成功裏に船出した。しかし、そこには条件をめぐる厳しい闘いがあった。ロシア流の脅しとはったりによる交渉カルチャーは、エクソンモービルが得意とするものでもあった。エクソンモービルとロシアは、似た者同士だった。初期の厳しい交渉姿勢こそがプーチンをサハリンに歩み寄らせた、と幹部たちは確信していた。(p.257)

ブッシュは、アメリカ政府は石油外交としてプーチンの再交渉要求を押し返す用意がある、と言った。ティラソン[現CEO]は大統領に謝意を表したが、その後、ワシントン事務所を通じて、手出しをしないことを要望する、とブッシュ政権に伝えてきた。エクソンモービルのKストリート事務所がホワイトハウスに伝えたことは、要するに、プーチンは我々が相手にしている各国元首の中では比較的おとなしいほうであり、自分たちで処理したほうが上手くいく、ということだった。(p.417)

もうひとつは、同社による需給予測や価格予測についてです。なお同社のWebサイトでは一般向けの需給予測資料『The Outlook for Energy: A View to 2040』[PDF]を公開しています。わたしも参考にしています。

エクソンモービルの経営戦略企画部門の書庫には、1940年代ごろからの、エネルギー需要と石油価格についての20年予測が所蔵されていた。(中略)分析の結果判明したことは、1980年代に、エクソンの予測担当者たちは将来について半分正しく半分間違っていた、ということだった。彼らは、2000年の世界のエネルギー消費量見通しについては、わずか1パーセントの誤差で正確に予想していた。特筆すべき成功だった。しかしながら、石油価格の見通しについては大きく外していた。1970年代の急変動や高騰を踏まえて予想した価格トレンドは高すぎた。この失敗を分析してみて、レイモンドたちは2つの結論にたどり着いた。1つ目は、新たな油層の発見を助ける技術革新をあまりにも軽視していたことだった。これがグローバルな供給を増やし価格を抑えていた。2つ目は、地政学的な変化が石油価格に及ぼす影響が非常に大きいため、需要と供給の均衡のみに依拠した通常の価格見通しは現実的ではない、ということである。(中略)「我々は短期の価格予測はできない。ではどうやってビジネスをするのか?」レイモンドは同僚に尋ねた。答えは、「堅実でムラなく管理すること、そしてファンダメンタルを正しく保つようにすることだ」と返事が返ってきた。価格を予測することよりも、レイモンドは量を予測することに力を入れた。世界の消費者が必要とする石油その他エネルギー資源の量及び供給可能な量である。(p.304)

蛇足の話題です。上の文章で「あつかましい」企業と書きましたが、これは私企業が存続発展する上での必要条件ととらえています(少なくとも一時的には)。社会人道的には称賛しかねるものの、生物学的な見方をすれば「あつかましさ」が種(しゅ)の相対的な適応度を高めると考えるからです。名を成した大企業をあげれば、それぞれのニッチで「あつかましさ」を発揮した歴史が思い当たります。従業員に対して(京都系等の部品メーカー)、下請け企業に対して(自動車OEMメーカー)、国民に対して(大銀行)、世界に対して(エクソンやロッキード・マーティン)、パートナー企業に対して(任天堂)、競合他社に対して(マイクロソフトやインテル)、消費者に対して(製薬・嗜好品メーカーや公益企業)、子会社のCEOをよいしょして(ウォーレン・バフェット)。大切なのは「あつかましさ」が度を越さないことです。いかにして変曲点のこちら側に踏みとどまるか。経営をアートと呼ぶのもそのひとつだと思います。

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