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2015年5月20日水曜日

2015年バークシャー株主総会;「バフェット指数」について

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5月2日に開催されたバークシャー・ハサウェイの年次株主総会から、いわゆる「バフェット指数」の話題です。引用元は前回と同じく、ヘンダーショット女史のメモになります。(拙訳では会話調に変更しています)

<質問9> バフェットさんは以前に、価格水準を評価する基準として、GDP比でみた株式時価総額の割合あるいはGDP比でみた企業利益の割合が高いと言われていました。それでは、現在の市場における評価額は高すぎだと思いますか。(参考記事)

<バフェット> GDPに対する利益水準の割合については、社会のある領域においては問題になるかもしれません。しかし米国のビジネスは、多くの企業が強いられている「ひどく」不利な税率もかかわらず、好調な年がつづいてきました。実のところは、米国企業が見事なほどに発展しつづけてきたからです。もう一方のGDP比での時価総額は、そのときの金利環境に大きく影響されます。現在は米国で極端な低金利になっており、ヨーロッパではマイナス金利です。これは、多くの人がありえないと考えていた状況です。国債の利回りが1%であれば、かつて5%だったときとくらべて[企業]利益はずっと大きな価値があります。機会費用は、実質的に収入の得られない債券を保有するか、株を保有するかのいずれかになるわけです。投資家が株式の価値を見定める際には、金利が信じられないほど低い世界にいるという文脈に立った上で、その低金利がいつまでつづくかを決める必要があります。日本で起きたように何十年も金利が低いままであれば、株価は安いと受けとめられるでしょう。しかし金利が通常の水準まで反転すれば、株価の水準は高いと思われるようになります。

<マンガー> 我々は予想をはずしたわけですよ。ならば、将来どうなるかを我々に訊くのは一体どうしたものですかね。

<バフェット> わたしたちはマクロに基づいて取引を決めません。マクロ要因によって買収をやめた記憶はひとつも思い当たりません。わかっているのは、1年後や2年後にどうなるかわからないことです。しかしバークシャーがよい事業を保有しているのであれば、実のところそれで違いが生じるわけではありません。買収を決める上で考慮にいれる重要な点は、事業がどれだけ強力なmoatを有しており、将来の利益率がどうなっていくのかを判断することです。お抱えのエコノミストが一人いる企業は、従業員が一人余計だと思いますね(笑)。

A shareholder noted that several valuation metrics Buffett has mentioned before such as market capitalization as a percentage of GDP and corporate profits as a percentage of GDP are at high levels. He asked if Buffett thought overall stock market valuations were too high?

While profits/GDP might be a concern for segments of society, Buffett remarked that American business has done well in recent years, despite the "terrible" disadvantage of U.S. tax rates claimed by many companies. The fact is American business has prospered incredibly. The stock market capitalization/GDP is very much affected by the fact we live in an interest rate environment that many would have thought was impossible with extremely low interest rates in the U.S. and negative interest rates in Europe. Profits are worth a whole lot more if the Government bond yield is 1% than if the yield were 5%. The opportunity cost is owning bonds earning practically nothing or stocks. Investors need to look at stock values in the context of a world with incredibly low interest rates and determine how long low interest rates will likely prevail. If interest rates remain low for decades like they did in Japan, stocks will look cheap. If interest rates revert to normal levels, stock valuations would appear high.

Charlie asked, "Since we failed to predict what did happen, why would anyone ask us what our prediction is for the future?"

Buffett said they don't make deals based on macro factors. He can't recall a time ever where Berkshire turned down an acquisition due to macro factors. He said, "We know we don't know what the next 12 or 24 months will look like." It really doesn't make a difference if Berkshire is holding a good business. The important consideration in making acquisitions is determining how strong the competitive moat of the business is and what will be the profitability over time. He joked, "We think any company that has an economist has one employee too many."

2015年5月18日月曜日

S&P500の70年間をふりかえる(スティーブン・ローミック)

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ときどき取りあげるミューチュアルファンドFPAは「ディープ・バリュー」という言葉が当てはまるバリュー志向のファンドです。一般的に、強気相場が深まるにつれてバリュー志向のファンドは相対的な成績が低迷し、顧客や資金が引き揚げられがちです。スティーブン・ローミック氏がマネージャーを務めるFPAの旗艦ファンドCrescentの成績も、3月末時点での年間リターンが4.67%と、S&P500の12.73%を大きく下回りました。しかし、手持ちの現金等価物の比率が44%であることを考えれば、納得できる数字です。手腕が高く評価されているせいか資金の流出はみられないようですが、顧客は微妙な心境でしょう。今回ご紹介するのは、そんな彼が第一四半期のレターで転載していた図で(原典はソシエテ・ジェネラルのAlbert Edwards氏)、S&P500の強気相場がつづいた期間を示すものです。現在の市場は、第2次世界大戦以降の70年間で最長のブル・マーケットだそうです。

S&P500指数の強気相場継続期間(月数)

引用元: Quarterly Commentaries: Capital Fund 3/31/2015 [PDF] (FPA)

もうひとつ、こちらはYahoo! Financeからで、S&P500指数のチャートです。上の図とほぼ同じ期間を示しています。

S&P500指数のチャート(1950/1-2015/5)

スティーブン・ローミック氏の図をみると、総じて弱気相場のほうが短期間で終わっています。これは、彼のようなバリュー投資家が行動に移れる期間は相対的に短いことを暗示しています。まさしく「待つのが仕事、特技は辛抱」です。

しかし個人的に経験した2回の下落相場は、それなりに長くてきつい期間だったと記憶しています。安く買ってもますます下がる、その毎日のくりかえしです。ところが利益の源泉はそこにあるのですから、ハワード・マークスの言葉「重要なことは、すべて直観に反する」が示すとおりですね(参考記事)。

2015年5月16日土曜日

2015年バークシャー株主総会;コカ・コーラについて

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5月2日に開催されたバークシャー・ハサウェイの年次株主総会でのメモから、コカ・コーラ社などの話題です。チャーリー・マンガーはみじかい出番ながら、絶好調のジョークです。今回の引用元は、わたしが敬愛している投資アドバイザー、イングリッド・ヘンダーショット女史のものを中心にしました。なおメモの文体が三人称のため、拙訳では一人称へ置き換えています。前回分にあたる投稿はこちらです。

Berkshire Hathaway 2015 Annual Meeting Notes BY INGRID R. HENDERSHOT, CFA [PDF] (Hendershot Investments, Inc.)

砂糖の消費に関する質疑応答

<質問7> 医療コストが増加するなかで、砂糖を大量に消費する影響を社会はますます認知するようになりました。これはコカ・コーラ社やハインツやクラフトを囲むmoat[モート; 経済的な堀]を狭めることになるでしょうか。

<バフェット> 現在の潮流にもかかわらず、コカ・コーラにはとてつもなく大きなmoatがあります。世界で今日消費されているコカ・コーラ製品は、[約]250ml換算で19億8,000万杯になります。どの食品会社や飲料会社も、消費者の示す好みに合わせながらやっていくものです。消費者を無視してうまくいく企業はありません。20年後には、今以上に大量のコカ・コーラ製品が消費されていると思います。1940年代にはコカ・コーラの成長は終わったと言う人たちがいました。1988年にバークシャーがコカ・コーラ社の株式を買ったときにも、世間の心は同社の利益率のほうを向いていませんでした。わたしの場合、日々摂っているカロリーの1/4はコーラを飲んでまかなっています(笑)。どの1/4かはわかりませんが(笑)。もしブロッコリーと芽キャベツが出てきたら、きっと長生きできません。食事が近づくたびに牢屋に入れられるようなものです。

<マンガー> 砂糖は非常に有用な物質ですよ。動脈が軟化するのを早期から予防しますからね(笑)。それによって私の人生が縮まっていれば、養老院でのヨダレ生活が何カ月か短くて済んだはずです。

<バフェット> 食事はいつも楽しんできましたが、その手の緑黄色野菜を食べさせられた祖父のものは例外でした。ところで食品に対する嗜好は変化してきましたが、ある種の食品がいかに長続きするかは注目に値します。バークシャー・ハサウェイは30年以上前にジェネラル・フーズの最大株主でした。まさにそのすばらしいブランドが、今ではクラフトの一部になっています。ハインツというブランドは1869年にさかのぼります。ケチャップは1870年代から始まりました。コカ・コーラは1886年からです。「たくさんの人が今後何十年にもわたって、これまでと同じものを好みつづける」、そうなる可能性のほうがかなり高いと思います。コカ・コーラとくらべると、ホール・フーズ[オーガニック食品などをあつかうスーパー]で買ったものを飲む人たちには笑顔がみられません(笑)。わたしが好きなのは、みんなが買っているブランドのほうです。

SUGAR CONSUMPTION

With society attuned to greater sugar consumption in rising health costs, Buffett was asked whether this was narrowing the moat around Coke, Heinz and Kraft.

Buffett answered that Coke has an enormously wide moat, despite current trends. Buffett said 1.98 billion 8 oz. servings of Coke products were consumed in the world today. All food and beverage companies will adjust to expressed preferences of consumers as they go along. No company does well ignoring consumers. Twenty years from now, there will be more Coke cases consumed than there are now. In the 1940's, folks also said Coke's growth was over. In 1988, when Berkshire bought its Coke shares, people again were not enthused over the company's profitability. Buffett noted that a quarter of the calories he consumes each day come from Coke. He joked, "If I'd been eating broccoli and Brussels sprouts, I wouldn't have lived as long. It would be like going to jail when I approached meals."

Charlie said sugar is an enormously helpful substance that prevents premature softening of the arteries. He dryly added, "If it shortens my life, I've avoided a few months dribbling at a nursing home."

Buffett remarked, "I have enjoyed every meal I had except at my grandfather's when he made me eat those damn green vegetables." Buffett noted while there have been shifts in preferences for food; it is remarkable how durable some foods are. Berkshire Hathaway was the largest shareholder of General Foods 30-plus years ago. Those same terrific brands are at Kraft today. Heinz brands go back to 1869. Ketchup came out in the 1870s. Coke brands go back to 1886. It's a pretty good bet a lot of people will like the same things decades from now. Buffett joked, "When I compare drinking Coke to something that someone would sell me from Whole Foods, I don't see smiles on the people at Whole Foods." Buffett concluded, "I like the brands we are buying."

2015年5月14日木曜日

財務分析を邪魔立てする単純連想効果(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーの講演「2003年に露呈した巨大金融不祥事について」の7回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

彼らがはじめに望んだ点は、20年間にわたって大きな中断をはさむことなく「都度やんわり方式」を継続することでした。

次に望んだ点は、クァント・テック社の報告利益が20年間全体を通して毎年ほぼ同じ割合で増えていくことでした。というのも彼らは、「報告利益の年間成長率が一度たりとも大幅に変動しなければ、機関投資家の代表者たる財務アナリストが同社の株式を高く評価するだろう」と信じていたからです。

3つ目は、報告利益の信頼性を守りたかったので、「クァント・テック社の売上げのうち40%以上を発電所設計業務が占めている」などと報告して投資家を不審がらせることは、まるで望んでいなかった点です。それが20年目だとしてもです。

クァント・テック社の経営陣としては「真正の売上及び利益のどちらも20年間にわたって20%ずつ増加する」と仮定していたので、それらの要求を満たす計算はたやすく行えました。かつて創業者が報告していた年間成長率は20%でした。そのかわりに彼らが即座に決定した数字は28%でした。自分たちの考案した「都度やんわり方式」を使って、クァント・テック社の報告利益を増加させるのです。

この「現代的な金融工学」による大いなる計略が、クァント・テック社を悲劇へ向かわせることになります。人の手になる軽蔑すべき策略が、試みを成就させた先例はほとんどないのです。さて、クァント・テック社の報告利益は年率28%ずつ毎回増加していき、監査した会計士はそれを承認しました。同社の会計報告を批判する者はいませんでした。そうでない人がわずかにいたものの、彼らに対する世間一般の見方は「非現実的で、あまりにも理屈っぽく、厭世的な変人」というものでした。クァント・テック社が「年率28%ずつ堅調に利益成長した」と報告する際に、その信頼性を維持する上で大きく貢献することになったのが、配当を決して支払わないという創業者の方針でした。手元にある現金等価物がおどろくほどに多額だったため、パブロフの示した単純連想効果、すなわち現実認識をしばしば鈍らせるものがうまく機能し、報告利益に含まれるまやかしの要素を検出する邪魔をしました。

First, they wanted to be able to continue their "dollop by dollop system" without major discontinuities for twenty years.

Second, they wanted Quant Tech's reported earnings to go up by roughly the same percentage each year throughout the whole twenty years because they believed that financial analysts, representing institutional investors, would value Quant Tech's stock higher if reported annual earnings growth never significantly varied.

Third, to protect credibility for reported earnings, they never wanted to strain credulity of investors by reporting, even in their twentieth year, that Quant Tech was earning more than forty percent of revenues from designing power plants.

With these requirements, the math was easy, given the officers' assumption that Quant Tech's non-phony earnings and revenues were both going to grow at twenty percent per year for twenty years. The officers quickly decided to use their "dollop by dollop system" to make Quant Tech's reported earnings increase by twenty-eight percent per year instead of the twenty percent that would have been reported by the founder.

And so, the great scheme of "modern financial engineering" went forward toward tragedy at Quant Tech. And few disreputable schemes of man have ever worked better in achieving what was attempted. Quant Tech's reported earnings, certified by its accountants, increased regularly at twenty-eight percent per year. No one criticized Quant Tech's financial reporting except a few people widely regarded as impractical, overly theoretical, misanthropic cranks. It turned out that the founder's policy of never paying dividends, which was continued, greatly helped in preserving credibility for Quant Tech's reports that its earnings were rising steadily at twenty-eight percent per year. With cash equivalents on hand so remarkably high, the Pavlovian mere-association effects that so often impair reality recognition served well to prevent detection of the phony element in reported earnings.

2015年5月12日火曜日

CEOに必要な資質とは(『破天荒な経営者たち』)

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数回前の投稿でご紹介した著書『破天荒な経営者たち』からもう1点ご紹介します。今回引用するのは、ラルストン・ピュリーナ社のCEOだったビル・スティーリッツ氏の話題です。なおペットフード会社の同社は、2001年にネスレに買収されました。

買収に関しては節約志向で、大型入札で株価がつり上がるよりも機を見て市場で買うことを好んだ。そして、常にPER(株価収益率)が周期的な安値を付けたときに買収を行った。(中略)

スティーリッツは、自社株買いのリターンがほかの資本投資、特に買収を判断するときの基準になると考えていた。長年彼の補佐役を務めたパット・モケイヒーによれば、「投資判断には、常に自社株買いのリターンというハードルが使われました。もし、買収によってある程度の精度でこのリターンを上回ることができそうならば、それは実行する価値があると判断されました」。(中略)

スティーリッツは、控えめに見ても魅力的なリターンを生みそうな会社のみを買うべきだと考えていた。彼は、詳細な金融モデルなど当てにせず、いくつかの重要な変数――市場成長率、競争、業務改善が可能か、そしてもちろん現金を生み出すカ――のみを考慮して判断を下していた。彼によれば「私はいくつかの重要な想定のみに注目して判断を下していました。まず調べるのは、市場の潜在的なトレンドの成長率と競争状況です」。(p.216)

スティーリッツは独立心が強く、外部からの助言はまったく受け入れなかった。彼は、CEOの資質としてカリスマ性は過大評価されていると考えていた。必要なのは分析力と独立的思考で、「それがなければ、CEOは銀行とCFO(最高財務責任者)の言うなりです」。彼は、多くのCEOがこのような分析力が必要ない部門(法務、マーケティング、製造、販売など)の出身だということを理解していた。しかしそのうえで、この能力がなければCEOとしては非常に不利だと考えていた。彼の信条は単純で、「リーダーシップとは分析力です」。(p.220)