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2015年5月10日日曜日

2015年バークシャー・ハサウェイ株主総会;IBMについて

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2015年5月2日(土)にバークシャー・ハサウェイの年次株主総会が開催されました。質疑応答のメモが公開され始めたので、例によって拙訳でのご紹介も少しずつ進めたいと思います。今回引用する文章の原文は、以下のメモからお借りします。(日本語は拙訳)

BERKSHIRE HATHAWAY ANNUAL MEETING 2015 [PDF] (作成者: SUDEEP MENON氏)

また速報形式の文章は、Wall Street Journalなどで公開されています。

Recap: The 2015 Berkshire Hathaway Annual Meeting (WSJ)

<質問4> IBMからは手を引くように、とウォーレンに話しましたか。

<マンガー> していません。IBMは非常に興味深い企業ですよ。すごい適応力があります。あの会社はパンチカードの商売を席巻していましたが、やがてPCのビジネスも手がけました。非常に信頼できる会社です。強大で称賛に足る企業ですね。一時的な逆風下にあったので、十分納得できる値段で買いましたよ。

<バフェット> (IBMに対する二人の)投票結果は2対0です。手の内は明かさないほうがうまくいきます。わたしどもや同社がこれからも株を買うでしょうから、値段は安いほうがうれしいです。手の内を明かすのであれば、持ち株上位4社については悲観的な話をしたいところです。自分の売買状況を語りたがる人は理解に苦しみますね。

<マンガー> ウォーレン、そのとおり。世間がちょくちょくまちがってくれなかったら、我々はそれほどの金持ちにはなれなかったね。(笑)

Q4: Question for Charlie. Did you try to talk Warren out of IBM?

CM: I did not. I think IBM is a very interesting corporation, very adaptable. They dominated the punch card business but it has been a mixed bag with the PC business. I think IBM is a very creditable company, an enormous enterprise, and an admirable enterprise. They were undergoing a temporary reversal and we bought at a very reasonable price.

WB: It was a two to nothing vote [on IBM]. [We are] better off not talking our book. Either we or the company will be buying back stock in the future and we'd like the price to be lower. If we were to [talk our book], we would rather say pessimistic things about all four of our biggest holdings. I am not sure why people keep talking their book.

CM: Warren, if people weren't so often wrong, we wouldn't be so rich. [Laughter]

備考です。ウォーレンがCNBCのインタビューに応じた際に、IBMのワトソンについて触れています。以下のリンク先に映像があります。ワトソンと後継者を絡めたジョークは、いかにもウォーレンらしいです。

Watson enormously valuable future: Buffett (Yahoo! Finance; CNBC video)

2015年5月8日金曜日

米FRBのバブル・トリオ(ジェレミー・グランサム)

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GMOのレター(2015年第1四半期)が公開されていました。昨日のニュースでFRBのイェレン議長の発言が話題になっていましたが、それと交錯する話題を引用します。(日本語は拙訳)

Are We the Stranded Asset? (and other updates) [PDF] (GMO Quarterly Letter 1Q 2015)

米国市場に関する現時点での短評: まだバブルではないが、いずれそうなるとの私見

奇妙にも操作されたこの世界でカギとなるのは、FRBが上昇相場の側についている間は強気派にかなりの望みがある点です。グリーンスパン、バーナンキ、そしてイェレンとつづく時代をとおして、FRBはバブルが最大限に膨張するまで資産価格の上昇をとめませんでした。2000年に米国成長株、そして2006年に米国住宅市場で起こったことは、驚くなかれ、実のところ3シグマの出来事だったのです。これらは米国史上飛び抜けて巨大な株式バブルと住宅バブルでした。またイェレンは前任者らと同じように、資産効果を生み出すために資産価格を押し上げるFRBの役割を誇示してきました。さらにこれまでの彼女は、「いかなる資産バブルの可能性であっても阻止する責務を感じない」とする彼らの見解とも同じようです。私からすれば、FRBが資産[価格]を動かす力を持っていることは認識できるわけですから(ただし経済を加速する力としては、がっかりするほど限定的です)、経済面での国際的な大事件が生じない以上、現在のFRBは今再びバブルが頂点に達するまで資産価格を刺激しつづけることを志向かつ決定した、と考えても筋が通っていると思われます。そして現時点ではまだその段階に至っていないのです。(PDFファイル9ページ目)

A brief update on the U.S. market: still not bubbling yet, but I think it will

The key point here is that in our strange, manipulated world, as long as the Fed is on the side of a strong market there is considerable hope for the bulls. In the Greenspan/Bernanke/Yellen Era, the Fed historically did not stop its asset price pushing until fully-fledged bubbles had occurred, as they did in U.S. growth stocks in 2000 and in U.S. housing in 2006. Both of these were in fact stunning three-sigma events, by far the biggest equity bubble and housing bubble in U.S. history. Yellen, like both of her predecessors, has bragged about the Fed's role in pushing up asset prices in order to get a wealth effect. Thus far, she seems to also share their view on feeling no responsibility to interfere with any asset bubble that may form. For me, recognizing the power of the Fed to move assets (although desperately limited power to boost the economy), it seems logical to assume that absent a major international economic accident, the current Fed is bound and determined to continue stimulating asset prices until we once again have a fully-fledged bubble. And we are not there yet.

上記のような市場予測のほかに、彼が取りあげる話題には人口問題や資源問題などがあります。超長期的な視点からながめることが多く、個人的には興味ぶかく読んでいます。

2015年5月6日水曜日

バリュー投資家の方へおすすめの一冊『破天荒な経営者たち』

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チャーリー・マンガーの推薦書"The Outsiders"(過去記事)の翻訳書が出ていたことを指摘してくれたのは、いつもコメントをつけてくださるブロンコさんでした(過去記事のコメント欄)。邦題は『破天荒な経営者たち』、発行元はパンローリング社です。別の翻訳書『千年投資の公理』を取りあげたときに同社のことを「わざと売れないように題名をつける会社」と書きましたが(過去記事)、本書もその路線に足を踏み入れていると思います。邦題だけでなく、装丁(表紙のデザイン)のほうも購買意欲を削いでいるようにみえるからです。前置きが長くなりましたが、結論は題名に記したとおりです。バリュー投資家のみなさんには、一読されることを強くお勧めする一冊です。資金を投じる価値がある企業の経営者とはどのような人たちなのか、その実例を示しているからです。

今回引用するのは同書で紹介されている経営者のひとり、ケーブルテレビ業界のTCI社でCEOを務めていたジョン・マローン氏の話題です(現在はリバティメディア社などの会長)。

この時期、マローンは新しい財務と業務の規律を導入し、各部門の責任者に、利益率を維持しながら毎年加入者を10%増やすことができれば、彼らの独立性を尊重すると約束した。TCIの質素で起業家的な文化は、この時期に本部から現場へと広がっていった。

TCIの本部や、アメリカのメディア勢力図を書き換える業界の最大手の本部にはとても見えなかった。事務所は質実剛健で、少ない幹部とそれ以上に少ない秘書がビニール張りの床に置いた剥げた金属製のデスクで働いていた。受け付けは一人しかおらず、あとは自動音声の留守番電話で対応していた。TCIの幹部がそろって出張に出ても宿泊はたいていモーテル(車庫付きの簡易宿泊所)で、COO(最高執行責任者)のJ.C.スパークマンによれば「当時はホリデイ・インに泊まるのがたまの贅沢でした」。(中略)

各部門の責任者は、目標を達成していればかなりの自治権を与えられていた。反対に、月間目標が達成できなかった部門の責任者は、社内を飛び回っているCOOの訪問をたびたび受け、パフォーマンスが劣っていればすぐに差し替えられた。(p.143)

資本を配分するには高リターンの選択肢がたくさんあり、マローンはそれを最適に組み合わせてTCIの資産を構築していった。彼の経歴からも分かるように、マローンは冷静で合理的でまるで外科医のように正確に資本を配分していったのである。彼は、魅力的なリターンであれば、どれほど複雑で型破りな投資でも検討し、工学的な思考で、リターンが優れた計画だけを実行した。面白いことに、彼はスプレッドシートは使わず、リターンが簡単に計算できる計画を好んだ。「コンピューターには細かいデータがたくさん必要ですが……私はプログラマーではなく数学者です。正しくあるべきですが、厳密でなくともよいのです」と語ったこともある。(p.162)

しかし、彼は安値でしか買わず、TCIの買収計画の基礎となる単純なルール――番組制作費の割引と人員削減が終わった時点で見込めるキャッシュフローの5倍までしか支払わない――を持っていた。この分析は、たった1枚の紙があれば計算できた(紙ナプキンの裏で計算することもあった)。高度な予想モデルなどは必要ないのである。

重要なのは予想の精度と期待した相乗効果を生み出せるかどうかであり、マローンとスパークマンの事業チームは新たに買収した会社の不要コストを削減するための高度な訓練を受けていた。(p.165)

TCIの事業は驚くほど分権化されており、スパークマンが引退した1995年でも1200万人の加入者を擁するこの会社の本部には17人の社員しかいなかった。マローンのいつもの率直な言いかたによれば、「スタッフの数が多ければよいというものではありません。ほとんどの人間は、あとからとやかく言うだけの連中です」。(p.169)

2015年5月4日月曜日

2015年デイリー・ジャーナル株主総会(4)かつて日本は輸出強国だった

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デイリー・ジャーナル社の株主総会の記事から、チャーリー・マンガーの質疑応答です。Part1の記事から引用しています(過去記事)。なお前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問者> 技術やその発展によって職場が奪われていく社会的変化を、どのようにお考えですか。

<マンガー> それこそ、ここで話題にしている事例ですよ。自由貿易を進めるなかで、良好なコミュニケーションやより効率的なコンテナ船などがあれば、新たな競争が生まれます。政府のおろかなシステムやマルサスの罠によって抑圧されていた非常に有能な人たちが、突如解放されたからですね。もちろん競争のせいで傷つく人もいます。かつてはその特権的な地位を占めていた人たちです。しかしそれはFRBが正しく行動しなかったせいではないです。政治家が不公平だったせいでも、金持ちが貧乏人を適切に遇しなかったせいでもないです。世界が変化したからです。自由貿易や現代技術を手放さなかったり、あるいは極貧にあえぐ農民を解放することをあきらめない以上は、当然ながら限られた教育しか受けていない勤勉な人たちの将来を害することにはなるものの、世界は変化していきます。それをとどめるのは非常にむずかしいことです。

それでも、しがみつこうとする人がいます。「政策を修正すれば対応できる」という考えです。これはギリシャがやろうとしていることですね。ギリシャの解決案は愚劣の極みです。働かない以上は儲からないわけですよ。アメとムチで導かなければならないのに、ムチがなければ全体としてうまく機能しません。

みずからをして金持ちに選ぶことなどできません。ばかげた考えです。もちろんですが、成功している社会では社会的な支援保障制度が整っています。しかし日本に起きたことを考えてください。彼の国はかつてアジアの強大な輸出国家でした。しかし中国と韓国が台頭し、ドイツも前進しました。突如として、それらの国が輸出強国となりました。

すばらしい独占的な地位を占めていても、もっと有能な他人が懸命に働くようになれば、自分のもうけは減ります。しょうもない経済学者らが、日本でFRB型のシステムを動かす方法などを探し続けてきました。それがどれだけばかげているか、考えてみてください。日本が後退した答えは、ずばりわかりきっています。彼らは強力な輸出国でしたが、当時はなかった大競争が生じたからです。日本は品質管理などの面で優れていました。そして他の国もおなじやりかたを覚えたのです。

韓国は自動車産業を一から始めました。毎週84時間労働を10年以上もやってきました。残業にはならないですよ。同時に韓国人の子供はみんな、小学校から帰宅したあとの午後や夜の4時間、家庭教師がつきっきりで勉強しました。教育ママのせいですね。そんな人たちに負けたからといって、驚くのは本物のバカだけですよ。(笑)

Q: What do you think about societal change, because of the labor displacement by technology and the accelerating of that.

Mr. Munger: That's an example of what I'm talking about. If you're going to have free trade and better communication, more efficient container ships and so forth, and there's all this new competition from very talented people who've been held down by stupid governmental systems and Malthusian traps and they're suddenly unleashed, of course that competition hurts the people who formerly were in the privileged position. It isn't because the Federal Reserve didn't do something right, or the politicians are unfair, or the rich people are mistreating the poor. The world has changed. Unless you're going to do away with free trade and modern technology and the liberation of these people who were working in penury on agriculture, of course that's going to hurt the prospects of hard working people with limited education, and it has. It's very hard to fix.

The people are still going, "All you have to do is tinker with the politics and you can fix it." That's what they tried to do in Greece. The Greek solution is idiocy. If we're going to prosper, we have to work. We have to have people subject to carrots and sticks. If you take away the stick the whole system won't work.

You can't vote yourself rich. It's an idiotic idea. Of course, the successful civilizations, they all have a social safety net. Look what happened in Japan. They were the export powerhouse of Asia. Up rose China and Korea, and Germany got way better. All of a sudden they're the export powerhouse.

When you have a wonderful monopolistic position, and then some more talented people work harder, of course you're less rich. These damned economists keep looking for ways to handle the federal reserve system in Japan or something. Think how stupid that is. The solution is really obvious of why they lost. They got huge competition they didn't formerly have when they were the export powerhouse. Japanese were better at quality control and so forth. Then other people learned to play the same game.

Koreans came up from nothing in the auto business. They worked 84 hours a week with no overtime for more than a decade. At the same time every little Korean came home from grade school, and worked with a tutor for four full hours in the afternoon and the evening, driven by these Tiger Moms. Are you surprised when you lose to people like that? Only if you're a total idiot.

[laughter]

チャーリーに対して残念に思うのは、ミクロの部分で日本を不勉強な点です。特に中国に対しては、盲目的なバイアスがかかっているようにも感じられます。一方でもっと残念なのは、大局的な視点でみるとチャーリーの指摘が正しい点です。伸びしろという面で先行者は不利な上、局面を打開するリーダーや統治機構や制度や社会的風土がこの国には育っていないように思います。もちろん、部分的にはすばらしい人材や組織もあるでしょうが、全体的には潜在能力が発揮されていない国だと思います。すべてを悲観してはいませんが、楽観できる部分も多くない。それが日本に対する個人的な見解です。

2015年5月2日土曜日

レーズンもどきも積もれば山となる(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーの講演「2003年に露呈した巨大金融不祥事について」の6回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

新任経営者らは単純に、ボーナスの支給を従業員向けストック・オプション行使益へと毎年少しずつ何年にもわたって移行するのは慎重なやりかただと考えていました。彼らはひそかに、自分たちが採用したこの慎重な計画を「都度やんわり方式」と呼びました。そして次の4つの明白な利点があると信じ込んでいました。

第一に、単年度に上乗せする「まやかし」の利益をごくわずかにとどめることで、大盛りにするより気づかれにくい点です。

第二に、まやかしの利益を毎年わずかずつ上乗せしても長期的にみると大きく積みあがりますが、「都度やんわり方式」によってそれがあいまいになりやすい点です。同社のCFOは内々で次のように言い表していました。「もし私たちがレーズン(干しぶどう)の中へ糞ころを毎年少しずつ混ぜたとしても、それが最終的にすごい量の糞便になるとはおそらくだれも気づかないでしょう」

第三に、社外の会計監査人が何年かにわたって、少しだけまやかしの利益が加わった会計報告を監査承認したとします。しかしいったんそうなれば、その後も同じ割合でまやかしの利益増が含まれている決算書類が出てきても、それを承認しないのはもどかしくて我慢ならないと思われる点です。

そして4番目が、クァント・テック社の経営陣にとって「都度やんわり方式」は軽蔑されにくい、あるいはより深刻な危害につながりにくいと考えられる点です。クァント・テックを除く事実上すべての企業がずっとリベラルなストック・オプション制度を採用していたので、「従業員を惹きつけて維持するには、報酬のうちのわずかな部分をオプション行使の形態へと移行することが不可欠だ」と経営陣はいつでも説明できました。実際のところ、その奇天烈なストック・オプション会計が実施された結果として企業文化が形成されたり株式市場における熱狂が存在している節もあるので、この主張はたぶんに真実であろうと考えたわけです。

それら4つの利点を考慮すると、「都度やんわり方式」は望ましく思えること必然でした。そしてクァント・テック社の経営陣にあとひとつ残されていたのが、まやかしの利益をどれだけの規模で毎年上乗せするかを決めることでした。しかし経営陣らはまずはじめに、満足させたいと考える状態を3つ定めることにしたので、その決定も容易な仕事となったのです。

Plainly, the new officers saw, it would be prudent to shift bonus payments to employee stock option exercise profits in only a moderate amount per year over many years ahead. They privately called the prudent plan they adopted their "dollop by dollop system," which they believed had four obvious advantages:

First, a moderate dollop of phony earnings in any single year would be less likely to be noticed than a large dollop.

Second, the large long-term effect from accumulating many moderate dollops of phony earnings over the years would also tend to be obscured in the "dollop by dollop system." As the CFO pithily and privately said: "If we mix only a moderate minority share of turds with the raisins each year, probably no one will recognize what will ultimately become a very large collection of turds."

Third, the outside accountants, once they had blessed a few financial statements containing earnings increases, only a minority share of which were phony, would probably find it unendurably embarrassing not to bless new financial statements containing only the same phony proportion of reported earnings increase.

Fourth, the "dollop by dollop system" would tend to prevent disgrace, or something more seriously harmful, for Quant Tech's officers. With virtually all corporations except Quant Tech having ever-more-liberal stock option plans, the officers could always explain that a moderate dollop of shift toward compensation in option-exercise form was needed to help attract or retain employees. Indeed, given corporate culture and stock market enthusiasm likely to exist as a consequence of the strange accounting convention for stock options, this claim would often be true.

With these four advantages, the "dollop by dollop system" seemed so clearly desirable that it only remained for Quant Tech's officers to decide how big to make their annual dollops of phony earnings. This decision, too, turned out to be easy. The officers first decided upon three reasonable conditions they wanted satisfied: