ot

2012年10月8日月曜日

波に乗ってどこまでも(チャーリー・マンガー)

0 件のコメント:
チャーリー・マンガーの世知、今回は「先行者利益」の話です。(日本語は拙訳)

私が興味深く感じているミクロ経済学のもうひとつのモデルをお話ししましょう。我々の文明で起こっているように技術が急速に進歩すると、私が呼ぶところの「競争による破滅」が生じます。たとえばすばらしい馬車用鞭の工場をやっているとします。しかし突然あるときから、小型の自動車が登場します。こうなると馬車用鞭の商売におわりがくるのは、それほど遠くのことではないでしょう。ほかの商売に鞍替えするか、あるいはお陀仏となるかです。このようなことが何度も何度も繰り返されてきたのです。

そのような新事業が登場したときに先駆者だった人には巨大な優位がもたらされます。これを私は「波乗り」モデルと呼んでいます。サーファーが立ち上がってそのまま波に乗っていけば、ずっと長い時間にわたって進むことができます。ですが波がなければ、浅瀬でまちぼうけです。

しかし波を正しく捉えることができれば長い距離がかせげます。マイクロソフトやインテルやその手の人たちがそうでした。初期の頃のNCRも同じでした。

キャッシュ・レジスター[レジ]は、文明における偉大な貢献のひとつでした。このすばらしい話をふりかえってみましょう。パターソンは小さな小売店をやっていましたが、利益をあげていませんでした。あるとき彼は粗野なつくりのレジを買い受け、店の仕事で使うことにしました。すると突然、これまで赤字だったのが利益をあげられるようになったのです。というのも、従業員がお金を盗むのがずっと難しくなったからですね。

しかしパターソンは「これは店の商売に役立つぞ」とは考えずに、こう考えたのです。「レジを売る商売でいこう」、そうしてできた会社がNCRでした。(中略)

もちろんですが投資家が探すべきは、まさしくこういうことなのです。長き人生の間には、知恵を築き、そういった企業をさがそうとする決意をもてば、そのような機会のうち少なくとも何度かは大きな利益をあげられるでしょう。いずれにしても、「波に乗る」とはとても強力なモデルです。

Then there's another model from microeconomics that I find very interesting. When technology moves as fast as it does in a civilization like ours, you get a phenomenon that I call competitive destruction. You know, you have the finest buggy whip factory, and, all of a sudden, 「in」 comes this little horseless carriage. And before too many years go by, your buggy whip business is dead. You either get into a different business or you're dead - you're destroyed. It happens again and again and again.

And when these new businesses come in, there are huge advantages for the early birds. And when you're an early bird, there's a model that I call “surfing” - when a surfer gets up and catches the wave and just stays there, he can go a long, long time. But if he gets off the wave, he becomes mired in shallows.

But people get long runs when they're right on the edge of the wave, whether it's Microsoft or Intel or all kinds of people, including National Cash Register in the early days.

The cash register was one of the great contributions to civilization. It's a wonderful story. Patterson was a small retail merchant who didn't make any money. One day, somebody sold him a crude cash register, which he put into his retail operation. And it instantly changed from losing money to earning a profit because it made it so much harder for the employees to steal.

But Patterson, having the kind of mind that he did, didn't think, “Oh, good for my retail business.” He thought, “I'm going into the cash register business.” And, of course, he created National Cash Register.

And, of course, that's exactly what an investor should be looking for. In a long life, you can expect to profit heavily from at least a few of those opportunities if you develop the wisdom and will to seize them. At any rate, “surfing” is a very powerful model.


肝心な箇所を省略しましたが、NCRは当時のアメリカで大成功をおさめた企業でした。Wikipediaによれば、1925年のIPOによる資金調達は、アメリカ史上最大規模だったとのことです。

2012年10月6日土曜日

誤判断の心理学(17)パブロフの犬、後伝(チャーリー・マンガー)

0 件のコメント:
チャーリー・マンガーの誤判断の心理学、今回は非日常的な話題で、人の認識が大きく変わるときの話です。現代は大きな災害が続く時期のまっただ中ですから、人の心の大きな変動は理解しやすいのかもしれません。(日本語は拙訳)

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その17)ストレスによって引き起こされる傾向
Seventeen: Stress-Influence Tendency

脅威などによってストレスが突然かかると、体の中にアドレナリンがみなぎるのがわかります。これは、急激な反応ができるように体に喚起するものです。また心理学のイロハに通じている人であれば、ストレスが社会的証明の傾向をより強めることがわかっているでしょう。

やや知名度は劣りますがそれでもよく知られている現象として、大きなストレスが機能不全を招く一方、テストを受ける時のような軽いストレスがかかるときには、能力が若干改善することがあります。

しかし鬱を招くよりももっと強いストレスがかかるとどうなるのかは、ほとんど知られていません。たとえば、急性のストレスによる鬱が思考停止をもたらすことはよく知られています。長く続きがちな極度の悲観をもたらすとともに、行動停止状態にもなってしまいがちな現象です。しかしこれもよく知られていることですが、そういった類の鬱は幸運なことに、逆転できる症状の一例なのです。現代的な薬が登場する前でさえも、ウィンストン・チャーチルやサミュエル・ジョンソンといった鬱を患っていた多くの人が、偉大なる業績をなしとげました。

強いストレスによって引き起こされる非鬱病性の神経衰弱のことはほとんど知られていませんが、少なくとも1つは例外があります。パブロフが70~80代のときに行った研究です。パブロフがノーベル賞を受賞したのはまだ若い頃で、犬を使った消化生理学の業績に対して贈られました。犬がみせた単なる関連による反応[条件反射
]の業績によって、彼は世界的に有名になったのです。当初は唾液を出す犬の話でしたが、現代の広告がやっているような単なる関連がひきおこす行動上の大きな変化は、今日では「パブロフの」条件反射によると表現されることがよくあります。

パブロフの最後の研究があらわにしたものは特に興味深いものでした。レニングラードでは1920年代に大洪水が発生したのですが、パブロフは当時、たくさんの犬をカゴの中で飼っていました。パブロフの条件付けと標準的な報酬に対する反応を組み合わせることで、犬たちは自分の習慣をそれぞれ固有のものに変更されていました。洪水の水が押し寄せて引いたときに、多くの犬は自分の鼻とカゴの最上部の間に空気がほとんどなくなる状態にさらされ、これが最大級のストレスとなりました。その出来事のあとまもなく、パブロフは多くの犬が以前のようには振舞わないことに気がつきました。たとえば調教師になついていた犬が、嫌うようになっていたのです。この結果は現代における認識反転を思い起こさせます。最近好きになったものが突如カルトに変わることで、それまで両親を慕っていた人が突然憎むようになるような例です。パブロフの犬が予期せぬ極端な変化をとげたことは、どんなに優れた実験科学者をも好奇心ではちきれんばかりとするでしょう。実のところ、パブロフの反応がそうでした。しかしパブロフと同じように行動した科学者は多くありませんでした。

Everyone recognizes that sudden stress, for instance from a threat, will cause a rush of adrenaline in the human body, prompting faster and more extreme reaction. And everyone who has taken Psych 101 knows that stress makes Social-Proof Tendency more powerful.

In a phenomenon less well recognized but still widely known, light stress can slightly improve performance - say, in examinations - whereas heavy stress causes dysfunction.

But few people know more about really heavy stress than that it can cause depression. For instance, most people know that an “acute stress depression” makes thinking dysfunctional because it causes an extreme of pessimism, often extended in length and usually accompanied by activity-stopping fatigue. Fortunately, as most people also know, such a depression is one of mankind's more reversible ailments. Even before modern drugs were available, many people afflicted by depression, such as Winston Churchill and Samuel Johnson, gained great achievement in life.

Most people know very little about nondepressive mental breakdowns influenced by heavy stress. But there is at least one exception, involving the work of Pavlov when he was in his seventies and eighties. Pavlov had won a Nobel Prize early in life by using dogs to work out the physiology of digestion,. Then he became world-famous by working out mere-association responses in dogs, initially salivating dogs - so much so that changes in behavior triggered by mere-association, like those caused by much modern advertisement, are today often said to come from “Pavlovian” conditioning.

What happened to cause Pavlov's last work was especially interesting. During the great Leningrad Flood of the 1920s, Pavlov had many dogs in cages. Their habits had been transformed, by a combination of his “Pavlovian conditioning” plus standard reword responses, into distinct and different patterns. As the waters of the flood came up and receded, many dogs reached a point where they had almost no airspace between their noses and the tops of their cages. This subjected them to maximum stress. Immediately thereafter, Pavlov noticed that many of the dogs were no longer behaving as they had. The dog that formerly had liked his trainer now disliked him, for example. This result reminds one of modern cognition reversals in which a person's love of his parents suddenly becomes hate, as new love has been shifted suddenly to a cult. The unanticipated, extreme changes in Pavlov's dogs would have driven any good experimental scientist into a near-frenzy of curiosity. That was indeed Pavlov's reaction. But not may scientists would have done what Pavlov next did.

2012年10月4日木曜日

何が売られているかを知らないモスクワ市民

0 件のコメント:
『群れはなぜ同じ方向を目指すのか?』からのご紹介、今回で最後です。前々回前回をつなげるような話題です。

私たち人間が使い古された道を選ぶのは、主に道に迷うのを避けるためだ。だがアリなどの集団で移動する動物には、もっと重大な目的がある--最善の餌のありかを見つけ、最善の隠れ処を獲得し、何よりも探索中に食べられてしまうのを避けることだ。

こうした動物たちは、事情に通じた近隣の仲間の行動を模倣することによって、目的を達成する可能性を高めることができる。しかし、どの仲間が事情に通じているかをどうやって知るのだろう。現実的な手がかりは、他に真似をしている仲間がどれくらいいるかというところに見つかる。

1980年代、共産主義体制がうまく機能しなくなり生活必需品が慢性的に供給不足になっていた頃、モスクワ市民が利用した手がかりもそれだった。当時のモスクワを歩いていたとしよう。店の外に立っているのが1人か2人なら黙って通り過ぎるかもしれない。だがそれが3人4人となると、その店に売るものがあることの合図となり、他の人も急いで列に加わろうとするので、カスケード効果で行列があっという間に長くなる。何が売られているかを知っている人はほとんどいないというのに!

このカスケード効果は、動物行動学者がクォーラム反応[定足数反応]と呼んでいるものだ。クォーラム反応とは、簡単に言うと、各個体がある選択肢を選ぶ可能性が、すでにその選択肢を選んでいる近隣の個体の数とともに急速に(非線形的に)高まることで、集団はそれを通じて合意に達する(人間の脳神経細胞も、周囲の神経細胞の活動に対して同様の反応を示している)。(p.122)


余談ですが、本書の原題は"The Perfect Swarm"です。シャレが効いていて、楽しいですね。

2012年10月3日水曜日

尻振りダンスだけではない(ミツバチの群れ)

0 件のコメント:
前回に続いて『群れはなぜ同じ方向を目指すのか?』からの引用です。今回は、ミツバチの群れが目標に向かう事例です。

群れにいる個々のミツバチは、「回避」、「整列」、「引き寄せ」という例の3つの基本則に従っているが、全体としての群れには、イナゴの群れには見られなかったものがある--斥候が見つけてきた目標に向かってまっすぐ飛んで行けるという能力だ。ミツバチの群れがこの能力を発揮する様子は、群知能が創発する過程を解明するための第一の手がかりである。

「ああ、あれだ。ミツバチが目標を見つける方法ならよく知っている。有名な尻振りダンスを使うんだろ?」とあなたは思われたかもしれない。このダンスは、餌のありかや新しい巣の候補地などの何らかの目的地を仲間に伝えるために、斥候が使う手段である。斥候は、まるでディスコで踊る若者のように、腹部を振りながら8の字に移動する。ダンスの初めに斥候が進んだ方向が目標の方角を指し、腹部を振る速さが距離を知らせる。

だが残念ながら、この説明ではミツバチの群れが目標に到達できる十分な答えにはならない。なぜなら、ダンスはディスコ同様の暗い巣の中で行われるので、近くのミツバチ(全体のうち5パーセントほど)にしか見えず、ほとんどのハチは何も知らずに飛び立っていくことになるからだ。それに、ダンスを見たミツバチが先頭に立って仲間に方向を教えるわけでもない。そうしたミツバチは群れの中心にいて、他のハチと一緒に飛んでいるのだ。では、群れはどうやって目標を見つけるのだろう?(中略)

シミュレーションから明らかになったのは、目標を知っているミツバチが群れをうまく導くためには、他の仲間に自分が事情に通じていることを明かす必要も、売り込む必要もないということだった。目標を知っている個体がほんのわずかでもいれば、しかるべき方向に素早く移動するだけで、他の大多数の何も知らないミツバチの集団を導くことができるのである。そうした誘導はカスケード効果[ドミノ倒しのような波及的な作用のこと]を通じて行われ、それによって、何も知らないミツバチが、近隣の個体が向かう方向を目指すようになる。したがって方向を知っているミツバチがわずかしかいなくても、レイノルズの3つの規則、「回避」、「整列」、「引き寄せ」があれば、そのミツバチが向かう方向に群れ全体が進むことになる。

わずかな数の個体によって先導されるという現象は、コンピュータ・モデルで実験した人々によれば、「単純に、知っている個体と知らない個体の間の情報格差に応じて」生じるという。すなわち、目的地を明瞭に思い描き、そこに到達する方法をはっきりと知っている匿名の個体がわずかでもいれば、集団内の他の個体は、自分がついていっていることも知らぬまま、それに従って目的地へと向かうことになるのだ。そのとき必要なのは、意識しようとしまいと他の個体たちが集団にとどまりたいと望んでいること、そして、相反する目的地をもっていないことだけである。(中略)

コンピュータによるシミュレーションからは、さらに「集団を一定の正確さで導くのに必要な、事情に通じた個体の比率は、集団が大きくなるほど小さくなる」ことが明らかになっている。先の学生の実験では、200人の集団で10人(全体のわずか5%)が事情を知っていれば、90%の確率で集団を目標に導くことができた。(p.48)

2012年10月2日火曜日

怒涛が押し寄せる音が聞こえた(ダム決壊の日)

2 件のコメント:
最近読んだ本『群れはなぜ同じ方向を目指すのか?』で興味深い話がいくつか取り上げられていたので、ご紹介します。今回は物理学で登場する概念「臨界」についてです。

作家のジェイムズ・サーバーは、『ダム決壊の日』という自伝的な文章を書いているが、そこに描かれたような連鎖反応からも、そういう結果が生じることがある。きっかけは、一人の住民が逃げているのが目撃されたことだった。たったそれだけのことによって、心配するようなことはないと何度も念を押されたにもかかわらず、オハイオ州コロンバス東部の住民全員がありもしない津波から逃げ出したのである。サーバー一家もその脱出組の中にいた。「最初の半マイルのうちに、町の住民のほとんど全員が追い越していった」とサーバーは言う。パニックに陥ったある人は、背後から「怒涛が押し寄せる」音を聞きさえしたそうだ。だが、結局それはローラースケートの音だった。

パニックが起きたのは、最初に逃げた人を見て何人かの住民が逃げ始め、今度はその住民が、さらにまた何人かが逃げる元になり……、ということが繰り返されたからだ。この過程は住民全員が逃げ出すまで続いたのである。原子爆弾の内部でもこれと同じ過程が進行する。原子爆弾では、まずある原子核が崩壊して、近くの原子核を何個か分裂させるだけのエネルギーをもった高エネルギーの中性子を放出する。それが他の原子核を分裂させ、分裂した原子核がそれぞれまたさらに何個かを分裂させるだけの中性子を生む。こうして次々とドミノが倒れて、中性子の数と放出されたエネルギーの量が指数関数的に増大すると、大爆発となるのである。(p.28)


「臨界」については、以下の過去記事でも取り上げています。
なお、たしかに本書では群れに関する話題が登場しますが、全体的な内容としては副題「群知能と意思決定の科学」のほうが適切な表現かと思います。群れ以外の話題もいろいろ登場します。