ot

2012年7月17日火曜日

売掛債権とは本物のカネではない(大竹愼一)

2 件のコメント:
常々拝見しているブログ『賢明なる投資!バフェる!グレアムる!フィッシャる!』で売掛金の話題がとりあげられていましたので、今回は同じ話題になります。たまたま手に取った本からの引用になりますが、題名は『おカネの法則』。2003年の初版と、不況で苦しむ経営者向けの内容ですが、個人的にはオーソドックスなものと感じました。著者の大竹愼一氏はアメリカでファンドマネージャーをやっているとのこと、その筋では有名な方のようです。売掛金回収や顧客の検収を待つときのゴタゴタは、そういった職務上の責任を実際に負ったことのある方にとっては日常茶飯事のことと思いますが、たまには正論もいかがでしょうか。

まずは、著者からみた売掛金の位置づけです。

私が企業のバランスシートを見るときは、真っ先に、売掛債権と買掛債務の項目に注意して、その企業の問題点をそこからえぐり出そうとするのが常である。なぜなら、キャッシュフローを大きく変動させる要因の主なものが流動資産で、その中でも最大なものは、売掛債権と在庫の残高だからである。

私の考えでは、この売掛債権は最も重要な要素であるにもかかわらず、経営者が最も軽く見ているものである。言い換えれば、今回の不況に生き残るには、売掛債権を減らすことによって流動資産を圧縮し続けることが重要である。さもないと回転差(期間差)資金がなくなって、資金繰りが急速に悪化してしまうからだ。売掛債権とは本物のカネではない。そういう意味で、経営者は「現金」というものが経営にとって、とても意味の深いものだということを肝に銘じる必要がある。

そして、私が売掛金にこだわるのは、あくまでも売上の性格をつかまえたいからである。もちろん売上が立たないと、利益は出ない。しかし、売上が増えたとしても、利益が増えるとは限らないことに注目せねばならない。

無理に売上を増やそうとすると、大幅な値引き販売になったり、売上の回収期間が長くなったり、金利負担が増えたり、あるいは取引先が倒産して焦げ付いたりすることがある。これはお客の顔色を見ながら、二割引、三割引と売値を割り引いていく日本の伝統商法ではよくあることだ。とくに、この長い不況の中で、販売条件をさらに悪くしてでも、売上を取ろうとする企業が多い。

しかし、こういう商売をやっていると、次第に本当の利益がわからなくなってくる。

いわゆる、骨折り損のくたびれ儲けになって、忙しそうにみんな働いているが、働けば働くほど、知らぬうちに損が累積していく。こういう会社が資金繰りに苦しめば、たちどころに倒産してしまう。(p.109)


次は、売掛金の質を向上させる管理会計の一例です。

医薬品卸大手の東邦薬品・故松谷義範会長は、売掛債権のコントロールに長けた名経営者であった。これまでの医薬品卸業界は、得意先である医師へ売り込むために、極端な増量サービスや長期の手形決済などで対応するのが常であった。

業界ではプロパーと呼ばれる営業マンは、自社の薬品をなんとか買ってもらおうと、他社との増量競争や手形の延長競争に走り、利益なき繁忙を続けていたのである。

そこで、松谷会長は、売掛債権の回収期間の適正水準を設け、水準を超える債権については、独自の金利をかけ、予定粗利益額から金利分を差し引く仕組みをつくったのである。回収の遅い売上について名目上では多少の利益が出ていても、金利を引かれると赤字になる。

それによって、給料やボーナスにまで反映させる仕組みだから、たちどころに営業マンの意識を変えることに成功したのである。

不況が深刻になればなるほど、営業マンは目先の売上を取るために、法外な値引きや回収の長期化に走りがちになる。ここで経営者が、売上のもつ恐ろしい性格を知っていれば、利益の出ない売上や回収できそうもない売上をいかに減らすかに腐心するはずだ。(p.111)


ところで、引用元の本は定価が約10,000円と、いい値段がつけられています。図書館向きの本です。この手の本が高価なのは、たとえばセミナーの場で販売するからでしょうかね。

2012年7月14日土曜日

帰り道をまちがえる(チャーリー・マンガー)

3 件のコメント:
Poor Charlie's Almanack』に掲載されているチャーリー・マンガーの写真には、本を手にした姿がいくつかあります。なかでもわたしのお気に入りは、歩きながら本を読んでいる写真です。今回の引用は、そんなチャーリーの思索的日常生活を息子デイヴィッドが書き記したものです(David Borthwick; 再婚した妻の連れ子)(日本語は拙訳)。

毎晩のように、父はお気に入りの椅子に座って何かを読むのに没頭していました。このときの様子はおもしろおかしいとしか言いようがありませんでした。はしゃぎまわる小さな子供たち、騒々しいTVの音、夕食の準備ができたと呼ぶ母さんの声。そういうのが父の耳にはほとんど入っていなかったのです。

何かを読んでいないときでも、父は静かに深く考えこむことがよくありました。たとえば、モリーとウェンディー[娘たち]をむかえに行ってパサデナへ帰るいつもの道でも、母さんが正しい方向へ指示しないと、まちがってサン・バーナーディノにいく道へ進んでしまったものです。そのようなときに父が何を考えていたのか、わたしにはわかりません。ですが、アメフトの試合やゴルフでの打ち損じを思い起こしていたわけではありませんでした。父が成功した要因はいろいろあるでしょうが、自分が熟考しているところに割り込んでくるじゃまものを固く閉め出すことができたのも、それらと同じように重要なことだったと思います。父の関心をひくことには楽しみがある一方で、歯がゆいところもあったものでした。

You have a dead-on comedic take on Father night after night in his favorite chair poring over something, all but deaf to the roughhousing younger children, a blaring TV, and Mom trying to summon him to dinner.

Even when not reading, Father was often so deep in contemplation that a routine drive to take Molly and Wendy back to Pasadena could have turned into an excursion to San Bernardino without Mom calling out the correct freeway turnoffs. Whatever was on his mind, it wasn't the outcome of a football game or a botched golf shot. Father's ability to Chinese wall off the most intrusive distractions from whatever mental task he was engaged in - a practice alternately amusing and irritating if you were trying to get his attention - accounts as much as anything else for his success.


蛇足ですが、わたしも歩きながら読書派です。自転車読書もやりますが、ときどき見知らぬ人から叱られています。

2012年7月11日水曜日

若かった頃の株式ポートフォリオ構成比率(ウォーレン・バフェット)

2 件のコメント:
ウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイが保有する株式ポートフォリオの話題を以前取り上げました(過去記事)。今回は、ウォーレンがまだパートナーシップをやっていた頃の株式ポートフォリオの構成比率をご紹介します。1961年度のLetterからの引用です。(日本語は拙訳)

なお、この文章の前段では、投資戦略として3つのカテゴリーに投資している旨を説明しています。今回の話題に登場する一般的な投資の他には、公開買付け等のスペシャル・シチュエーション、それから経営権掌握目的の2つがあります。

最初のカテゴリーに入るのは、まあよくあるやつですが、過小評価された証券への投資です。この手の投資は、企業のポリシーに対して何か物申すわけでもないですし、過小評価が訂正されるのがいつになるかもわかりません。過去何年にもわたって最大の投資先は、このカテゴリーに入るものでした。そのため、他のカテゴリーより多くの利益をあげています。たいていの場合、各銘柄はそれなりのポジションをとります。資産全体の5%から10%ずつを、5~6件の銘柄に投資します。また、その他に10~15件程度の小さめのポジションをとっています。

The first section consists of generally undervalued securities (hereinafter called "generals") where we have nothing to say about corporate policies and no timetable as to when the undervaluation may correct itself. Over the years, this has been our largest category of investment, and more money has been made here than in either of the other categories. We usually have fairly large positions (5% to 10% of our total assets) in each of five or six generals, with smaller positions in another ten or fifteen.


当時も現在も、基本的なところはあまり変わっていないようですね。

2012年7月10日火曜日

規模の経済(チャーリー・マンガー)

0 件のコメント:
チャーリー・マンガーによる世知入門、これから何回か「規模の経済」の話題が続きます。今回はテレビCMの話題がでてきますが、この講演は1990年代のものなので、やや時代を感じさせる指摘となっています。(日本語は拙訳)

たとえば、世界中のすべてのビジネススクールでは、規模の経済がもつ最大の利点は経験曲線効果によるコスト削減だと教えています。人は複雑な作業をこなす場合でも、改善しようと試みたりあるいは金勘定のおもわくが働くことで、効率よく進められるようになります。

大量にこなすのが自分たちであれば、他の人よりうまくなるのは至極当然のことです。これはすごく有利なことで、事業の成否に大きく影響しています。

ここで不完全ではありますが、規模の経済として考えられるものを列挙してみましょう。まずは簡単な幾何学の応用から。何かを収容する巨大なタンクを造るとしましょう。このとき、タンクの外側を覆う鋼板の所要量は2乗のペースで増えていきますが、体積は3乗で増加します。つまり大きく造るほど、鋼板の単位面積あたりの容量は増えることになります。

これと同じで、簡単な幾何学、すなわちありふれた現実世界においても、あらゆる局面で規模の経済が登場します。

たとえば、テレビで流れるCMがそうです。テレビCMは、音声付きのカラー画像が茶の間に入ってきた頃に始まりましたが、これはもう圧倒的でした。当時は放送局が3つしかなく、視聴者のおよそ9割をおさえていたのです。

P&Gの経営者であれば、この新しい広告の手段を使うのに問題はないでしょう。莫大な量の商品が売れるので、全国ネットのテレビCMにかかる高額な広告料でも難なく支払えます。しかし、小さな会社ではこうはいきません。一部だけを買うというのはできないので、使いようがありません。結局のところ、大量に売れる見通しがないかぎり、このもっとも効率的な広告手段であるテレビCMを使うことはできないのです。

For example, one great advantage of scale taught in all of the business schools of the world is cost reductions along the so-called experience curve. Just doing something complicated in more and more volume enables human beings, who are trying to improve and are motivated by the incentives of capitalism, to do it more and more efficiently.

The very nature of things is that if you get a whole lot of volume through your operation, you get better at processing that volume. That's an enormous advantage. And it has a lot to do with which businesses succeed and fail.

Let's go through a list - albeit an incomplete one - of possible advantages of scale. Some come from simple geometry. If you're building a great circular tank, obviously, as you build it bigger, the amount of steel you use in the surface goes up with the square and the cubic volume goes up with the cube. So as you increase the dimensions, you can hold a lot more volume per unit area of steel.

And there are all kinds of things like that where the simple geometry - the simple reality - gives you an advantage of scale.

For example, you can get advantages of scale from TV advertising. When TV advertising first arrived - when talking color pictures first came into our living rooms - it was an unbelievably powerful thing. And in the early days, we had three networks that had whatever it was - say ninety percent of the audience.

Well, if you were Procter & Gamble, you could afford to use this new method of advertising. You could afford the very expensive cost of network television because you were selling so damn many cans and bottles. Some little guy couldn't. And there was no way of buying it in part. Therefore, he couldn't use it. In effect, if you didn't have a big volume, you couldn't use network TV advertising - which was the most effective technique.

2012年7月9日月曜日

(答え)イノベーションで事業の限界をのりこえる例

0 件のコメント:
今回は、前回とりあげた問題「石油産業が限界をこえるために、ITをどのように活用したのか」の回答になります。『探求―エネルギーの世紀』の引用です。

第一の発達は、マイクロプロセッサの急速な進歩が膨大なデータの分析を可能にしたことで、地球物理学者は地下構造の解析を大幅に改善させることができ、探鉱の成功率が向上したことだ。コンピュータの性能が高まると地震探査による地下構造ー層、断層線、キャップロック、トラップーの測量を、二次元ではなく三次元で行なえるようになった。三次元の地下構造測量によって、失敗がなくなるわけではないが、地下資源探査技師たちは深い地中の地質についてずっとよく理解できるようになった。

第二の発達は、水平掘削の到来だった。従来の油井は垂直に掘削していたが、数千メートル垂直に掘ってから、角度をつけ、場合によっては真横に掘ることもできるようになった。精密に制御し、数メートルごとに高性能の機器で計測しながら掘削する。これにより、原油を採掘しやすくなり、したがって生産量も増えた。

第三の大躍進は、ソフトウェアとコンピュータによる可視化の発達だった。石油産業で応用されたこのCAD/CAM(コンピュータ支援設計・コンピュータ支援製造)テクノロジーは、建設費10億ドルの海上油田の細部に至るまでコンピュータの画面上で設計できるようにした。さらに、最初の鋼板の溶接がはじめられる前から、その施設の弾性や効率をさまざまな角度から検証することができるようになった。

1990年代にはいると、情報・通信テクノロジーが普及し、通信コストが画期的に安くなったため、地球物理学者たちは世界各地にいながらにして、仮想チームとして作業することができた。ある場所におけるある分野の経験や知識が、他の場所で同様の問題を解こうとしているものたちに、瞬時に教えられる。そんなわけで、当時、ある企業のCEOはいささか誇張をこめて、科学者とエンジニアは「学習を重ねなくても、経験が蓄積される」と表現している。

こうしたさまざまなテクノロジーの進歩により、企業はすこし前までは達成できなかった物事ーたとえば、あらたな有望鉱区を見つける、以前なら開発できなかったような油田に取り組む、より複雑なプロジェクトに着手する、石油採掘量を増やす、まったく新しい油田を切り拓くといったことーができるようになった。(上巻 p.26)

今回の例ではテクノロジーがビジネスの限界を広げていますが、それぞれの企業や業界によって、いろいろな限界の乗り越え方があるかと思います。一株式投資家としては、各企業のとりくみに耳を傾け、進捗を見守ると同時に、事業の持つ可能性を自分なりに見定めた上で、投資候補の企業をトレードオフする必要があると思います。「事業の持つ可能性」は経営者の手腕によるところもありますが、気になっている企業の経営動向を適宜確認していると温度差はさまざまで、おもしろいものです。

ところで、上の引用にあった「学習を重ねなくても、経験が蓄積される」は、失敗事例にもうまく当てはまっているものなのか、気になるところではあります。