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2012年2月19日日曜日

誤判断の心理学(5)自縄自縛(チャーリー・マンガー)

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今回は、前回の傾向「疑いをもたないようにする傾向」とつながる話題をご紹介します。併せてお読みください。(日本語は拙訳)

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その5)終始一貫しようとする傾向
Inconsistency-Avoidance Tendency

人の脳は、回路の領域を節約するために変化を厭うようになりました。これは、一貫しないのを避けるという形で現れており、良くも悪くも習慣の面に影響しています。たくさんの悪癖を克服できた人は稀でしょうし、一つも克服できていない人もいるかもしれません。まあ、実のところ誰もが悪い癖をすごくたくさんもっています。よくないと思いつつも、ずっとそのままにしているのです。こんな状況ですから、若い頃に身についた習慣を運命とみる人が多いのも不思議ではありません。[ディケンズのクリスマス・キャロルで]マーリの哀れな幽霊が言った「この世でじぶんがつくった鎖で、じぶんをしばっているのだ」にでてくる鎖とは、習慣のことを指しています。はじめは軽くて感じられないほどですが、やがては硬くて外せなくなってしまうのです。

良き習慣を多く身につけ、悪しき習慣には近寄らないか直してしまう。そのような賢明な生き方ができる者は稀です。ですからここでも、ベンジャミン・フランクリンの『プーア・リチャードの暦』にでてくる大切な教訓の力を借りましょう。「1オンスの予防は、1ポンドの治療と同じ」。フランクリンがいくぶん説いているのは、人には終始一貫しようとする傾向があるので、ついてしまった習慣を改めるよりも、そもそも身につけないようにするほうが楽だ、ということです。

この変化をきらう傾向がゆえに現状維持しやすい例としては、前言、忠誠心、徳性、約束、社会的に認知された役割などが挙げられます。なぜ人の脳が疑念を速やかに払い、変化をきらうように進化したのか、完全にはわかっていません。が、以下の要因が組み合わさり、この変化嫌いを生みだす原動力になった、と私は考えています。

(1) ヒト以前のご先祖様だった時分は、捕食者から生き残るには意思決定の速さが決め手だったので、この変化嫌いが素早く意思決定する際に役立った。

(2) ご先祖様の頃に仲間と協力したほうが生き残りやすかったので、この変化嫌いが役立った。みんなが毎度違う反応を返すようだとなかなか難しいからだ。

(3) 読み書きが始まってから複雑な生活を営む現代に至るまでの限られた世代では、この変化嫌いこそが、進化によって導き出された最高の解決策だった。

The brain of man conserves programming space by being reluctant to change, which is a form of inconsistency avoidance. We see this in all human habits, constructive and destructive. Few people can list a lot of bad habits that they have eliminated, and some people cannot identify even one of these. Instead, practically everyone has a great many bad habits he has long maintained despite their being known as bad. Given this situation, it is not too much in many cases to appraise early-formed habits as destiny. When Marley's miserable ghost says, "I wear the chains I forged in life", he is talking about chains of habit that were too light to be felt before they became too strong to be broken.

The rare life that is wisely lived has in it many good habits maintained and many bad habits avoided or cured. And the great rule that helps here is again from Franklin's Poor Richard's Almanack: "An ounce of prevention is worth a pound of cure." What Franklin is here indicating, in part, is that Inconsistencey-Avoidance Tendency makes it much easier to prevent a habit than change it.

Also tending to be maintained in place by the anti-change tendency of the brain are one's previous conclusions, human loyalties, reputational identity, commitments, accepted role in a civilization, etc. It is not entirely clear why evolution would program into man's brain an anti-change mode alongside his tendency to quickly remove doubt. My guess is the anti-change mode was significantly caused by a combination of the following factors:

(1) It facilitated faster decisions when speed of decision was an important contribution to the survival of nonhuman ancestors that were prey.

(2) It facilitated the survival advantage that our ancestors gained by cooperrating in groups, which would have been more difficult to do if everyone was always changing responses.

(3) It was the best form of solution that evolution could get to in the limited number of generations between the start of literacy and today's complex modern life.


続いてダーウィンの話題です。こちらは以前にご紹介した「逆ひねり」と同様のものです。

最初に出した結論にこだわってしまう縛りから最もうまく自らを解放できた一人が、チャールズ・ダーウィンです。彼は若いうちから、自分の仮説を否定するような証拠がないか徹底的に検討することを、自らに課しました。自説が特によいと思えるときほど、念を入れました。このダーウィンのやり方と対極に来るのが、確証バイアスと呼ばれているものです。いい意味では使われない言葉ですね。ダーウィンは鋭くも、ヒトの持つ知覚上の誤りは、一貫しないのを避ける傾向によるものと認識していました。だからこそ自らのやりかたを律したのです。彼がたくさんの心理学的な洞察例を正しく残してくれたおかげで、最上の知的活動を推し進める際に役立ってきました。

One of the most successful users of an antidote to first conclusion bias was Charles Darwin. He trained himself, early, to intensively consider any evidence tending to disconfirm any hypothesis of his, more so if he thought his hypothesis was a particularly good one. The opposite of what Darwin did is now called confirmation bias, a term of opprobrium. Darwin's practice came from his acute recognition of man's natural cognitive faults arising from Inconsistency-Avoidance Tendency. He provides a great example of psychological insight correctly used to advance some of the finest mental work ever done.


自説にこだわるというのは投資面でもよくあることでしょう。誤った投資先から手を引けなかったり、柳の下に二匹目のどじょうがいると考えたり。最初の結論に縛られてしまうのは、以前ご紹介した他の傾向「愛好/愛情の傾向」や「嫌悪/憎悪の傾向」とあいまって、投資先への評価を誤らせる大きな落とし穴のように思えます。

なお、クリスマス・キャロルの翻訳は、以下の本からお借りしました。
クリスマス・キャロル(岩波少年文庫 村山英太郎訳)

2012年2月18日土曜日

(映像)これが私のオフィスです(ウォーレン・バフェット)

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以前にウォーレン・バフェットのオフィスの写真をご紹介しましたが、奇しくも同じ日にCBSでチャーリー・ローズがウォーレンにインタビューをしていました。オマハのバークシャーのオフィスからです。ウォーレンはあいかわらずのジョーク連発ですが、まじめな会話への切り替わりが自然で、どちらがホストなのか戸惑うほどです。

"Person to Person": Warren Buffett(トランスクリプトあり)



デール・カーネギーの話し方教室を受講したのは伝説的な逸話ですが、壁面に飾られた証書が映像に出てきます(6分過ぎ)。記録マニアのウォーレン、面目躍如です。

彼のしゃべりはテンポが速く、私の耳ではなかなか聴き取れません。最後のジョージ・クルーニーのジョークがいまひとつわからなかったのですが、トランスクリプトを読んでみたら、お得意のパターンのやつでした。

2012年2月17日金曜日

市場は自ら助くる者を助く(ウォーレン・バフェット)

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このところ日本の市場でも株価が上がっていますね。ここ最近の急上昇は目につきますが、日経平均で見ると、1年前と比べても高いといえる水準には達していないのですね。ここから上がるのか下がるのか、先のことはまるでわかりません。蛇足ですが、個人的にはどちらかというと株価が下がるほうが元気がでてきます(カラ元気?)。ウォーレン・バフェットの例の名言と同じです。

さて、今回はそのウォーレン・バフェットによる1982年の「株主の皆さんへ」からの引用です。(日本語は拙訳)

[バークシャーが市場で株式を買って企業を]部分所有するやりかたをうまく続けられるのは、魅力的なビジネスが魅力的な値段で買える場合だけです。それには、ほどほどの株価になっている市場が必要です。市場は、主と同じように「自ら助くる者を助く」のですが、主とちがって、市場は自分が何をしているのかわかっていない者は容赦しません。ですから、素晴らしい企業でも高すぎる株価で買ってしまうと、商売がその後も順調に進んだとしても、投資家にとっては帳消しで終わるかもしれないのです

Our partial-ownership approach can be continued soundly only as long as portions of attractive businesses can be acquired at attractive prices. We need a moderately-priced stock market to assist us in this endeavor. The market, like the Lord, helps those who help themselves. But, unlike the Lord, the market does not forgive those who know not what they do. For the investor, a too-high purchase price for the stock of an excellent company can undo the effects of a subsequent decade of favorable business developments.

一例として、マイクロソフト(MSFT)の10年チャートを挙げました。最近の上昇で若干プラスになりましたが、ほぼ横ばいです(配当は除く)。2002年当時のPERは40前後でした。たしかに高いですね。ちなみに現在のPERは12程度です。

2012年2月16日木曜日

慣れるように習え、そして慣れよ。(チャーリー・マンガー)

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前回取り上げた「学ぶ方法」は、学校だけではなく、企業でも重要視されている話題かと思います。「learning process」のようなキーワードで検索すると、インターネット上でも多くの検索結果が得られます。いずれそのような話題をとりあげるかもしれませんが、しばらくはチャーリー・マンガーの語りを咀嚼しつづけたいと思います。今回の引用は、おなじみの「Poor Charlie's Almanack」から、以前に取り上げた「世の中の働きと驚くほど一致する」に続く文章です。どうやって学べばよいのか、一例を示しています。(日本語は拙訳)

[順列や組み合わせといったやりかたを]無意識のうちには、なかなか実行できないものです。なぜそうなのかは、基本的な心理学に通じていれば、すぐにわかるでしょう。そう、脳の中の神経回路は、長きにわたった遺伝的、文化的な進化によって培われたものであり、パスカルとフェルマーの考えのようにはできていないからです。脳は物事を大雑把に見定めてしまうのです。パスカル・フェルマー的な要素も持ってはいますが、うまく働いていません。

だからこそ、この基礎的な数学[=順列、組み合わせ]を使いやすい形で学び、そして実生活で繰り返し使わなければならないのです。ゴルフがうまくなりたくても、もって生まれた体の動きでは自然にスイングできないのと同じです。ゴルファーとして自分がどこまでやれるのかわかるには、正しい握りを覚え、別のスイングを覚えなければならないのです。

By and large, as it works out, people can't naturally and automatically do this. If you understand elementary psychology, the reason they can't is really quite simple: The basic neural network of the brain is there through broad genetic and cultural evolution. And it's not Fermat/Pascal. It uses a very crude, shortcut-type of approximation. It's got elements of Fermat/Pascal in it. However, it's not good.

So you have to learn in a very usable way this very elementary math and use it routinely in life - just the way if you want to become a golfer, you can't use the natural swing that broad evolution gave you. You have to learn to have a certain grip and swing in a different way to realize your full potential as a golfer.


振り返ってみると、小学校で学んだことはきちんと身についているものです。例えば割り算の筆算だったり、分数の割り算だったり。幾度となく繰り返してきたものです。反対に、大学入試の直前に身につけた大量の知識や解法は、入学後まもなくすると消え失せてしまいました。他方、社会人になって身につけたスキルは、日常的な仕事でいやになるほど使ったせいか、これもよく定着しています。こうしてみると、実際的な形で身についていないのは、チャーリーの説くような基本的な学問(高校レベル)のようです。

それらを再学習する際に「使いやすい形で学び、実生活で繰り返し使う」、まだまだ実践できていないのですが、個人的にはこのテーマにこだわって取り組んでいきたいと考えています。

2012年2月15日水曜日

文明の進歩、自身の向上(チャーリー・マンガー)

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前々回(ゴルフと同じです)、それから前回(最高の助言)と、学ぶことについて取り上げましたが、今回は学び方について、チャーリー・マンガーの一言です。おなじみの「Poor Charlie's Almanack」からの引用です。(日本語は拙訳)

文明が進歩できたのは発明の方法が発明されてからだったように、自分自身を向上させるには、まず学ぶ方法を学ばなければなりません。

Just as civilization can progress only when it invents the method of invention, you can progress only when you learn the method of learning.