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2012年2月12日日曜日

めざましい成功を収めるには(マイケル・バーリ)

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遅まきながらマイケル・バーリという投資家のことを知りました。サブプライム・ローン危機を題材にした『世紀の空売り』に登場する隻眼の相場師です。Vanity Fairに同書の抜粋が紹介されており、シリコン・バレーの自宅のオフィスで撮影された彼の写真が印象に残っていました。住宅バブルが傾くほうに賭けた彼ですが、本来は根っからのバリュー投資家です。今回は同書からの引用になります。

まずは、マネー・マネージャーになる前の彼に対する寸評です。

「何よりまず、マイク・バーリはいつこんなことをしているんだ、って思ったよ。本業は研修医だろう?こっちの目に入るのは、彼の一日のうち医者じゃない部分だけで、なのにすごいとしか言いようがない。バーリは自分の取引内容をみんなに公開している。みんなはリアルタイムでそれをまねしてる。ドットコム・バブルのまっただ中に、バリュー投資を実践しているんだ。バリュー志向の株を買ってて、それはうちの会社も同じなんだが、うちは損をしている。顧客も失ってる。ぽっと出てきたバーリは、勝ち続けだ。利回り50パーセント。常識はずれだよ。人間わざじゃない。あっけに取られて見てたのは、うちの会社だけじゃないだろう」 (p.71)


次はバーリの発言です。

投資は一個の定石に煎じ詰められるものではないし、ひとつのロールモデルから習得できるものでもない、というのがバーリの考えだった。バフェットについて学べば学ぶほど、そのまねはできないという思いが強くなった。バフェットから得られた教訓は、めざましい成功を収めたければ、めざましい非凡さを身につけよというものだ。バーリは言う。

「偉大な投資家になろうと思ったら、自分の身の丈にあった流儀を持たなくてはなりません。ウォーレン・バフェットは、ベン・グレアムのよいところを全部学び取りながら、ベン・グレアムのまねをせず、自分の道へ足を踏み出し、自分のやりかたで、自分のルールで、金を動かしました。そのことに気づいたとき、わたしはすぐに、偉大な投資家になる方法を教えてくれる学校などないという真理を胸に刻みました。そんな学校があったら、世界一人気のある学校になって、とてつもなく高い授業料を取ることでしょう。だから、そんな学校は存在しないんです」

投資とは、自分ひとりの力で、自分にしかできないやりかたで、学ぶべきものなのだ。 (p.68)


彼のプライベート・ファンドのWebサイトはこちらです。メディアで取り上げられた記事や寄稿へのリンクが載せられています。また過去の年次報告書を読むと、けっこうな下落だった2001年に55%のゲインをあげています。見事です。

2012年2月11日土曜日

ゴールドや債券よりも株式がよい理由(ウォーレン・バフェット)

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ウォーレン・バフェットはアメリカの経済金融誌Fortuneに時折寄稿していますが、今週号(2/27)の記事Warren Buffett: Why stocks beat gold and bondsでは代表的な投資先3つ(株式、債券、金)のうち、株式がよいことを改めて説いています。ウォーレンがきまぐれに話題を取り上げることは少ないので、それなりのサインや警鐘をこめているかと思われます。一部を抜粋してご紹介します。(日本語は拙訳)

まずは債券などの通貨ベースの投資についてです。

通貨に裏付けられた投資先としては、MMF、債券、モーゲージ証券、銀行預金などがあります。それらはたいてい安全な投資とみなされていますが、実際は最も危険な資産に含まれるものです。ベータ[=価格変動の相対的な度合い]はゼロかもしれませんが、リスク[=バフェット言うところの購買力の低下]は大きいのです。

数世紀にわたって、それらの投資対象は多くの国で投資家の購買力を低下させてきました。発行条件通りに利息が支払われ、満期償還されてもです。この好ましからぬ事態は、今後も繰り返されることでしょう。各国政府は貨幣の究極的な価値を決定しますが、ときにはシステミックな要因が働いて、インフレを招くような政策をとらせることにもなるでしょう。が、そのような政策は、ときには手のつけようがなくなるものです。

Investments that are denominated in a given currency include money-market funds, bonds, mortgages, bank deposits, and other instruments. Most of these currency-based investments are thought of as "safe." In truth they are among the most dangerous of assets. Their beta may be zero, but their risk is huge.

Over the past century these instruments have destroyed the purchasing power of investors in many countries, even as these holders continued to receive timely payments of interest and principal. This ugly result, moreover, will forever recur. Governments determine the ultimate value of money, and systemic forces will sometimes cause them to gravitate to policies that produce inflation. From time to time such policies spin out of control.


現在の状況では、通貨関連の投資には手を出したくありません。それでも、バークシャーとしては、主に短期のものになりますが、その手の投資先に多大な資金を投じています。

Under today's conditions, therefore, I do not like currency-based investments. Even so, Berkshire holds significant amounts of them, primarily of the short-term variety.


次に、ゴールドへの投資についてです。

この手の投資が成功するには、買い手が増えていかなければなりません。同様にその買い手たちも、これからも別の買い手が増えると信じているからこそ、集まってくるのです。つまり保有者たちの心にあるのは、資産自体が何かを生みだすかではなく、むしろ他人がもっと熱心に欲するだろうと信じていることなのです。まあ、ゴールドはこれからもじっとしたままでしょうが。

This type of investment requires an expanding pool of buyers, who, in turn, are enticed because they believe the buying pool will expand still further. Owners are not inspired by what the asset itself can produce -- it will remain lifeless forever -- but rather by the belief that others will desire it even more avidly in the future.


確かに、ゴールドは産業用や装飾用にも使われています。しかし、それらの需要は限られており、新産金を吸収できるほどではありません。

True, gold has some industrial and decorative utility, but the demand for these purposes is both limited and incapable of soaking up new production.


今日では、世界中のゴールドは合計で17万トンになります。これを全て集めて溶かすと、一辺が20メートル強の立方体をつくれます。野球場の内野にすっぽり入るような感じの大きさです。現在の価格が1オンス1,750ドルなので、立方体全部では約750兆円です。この立方体を「金の山」[pile Au]と呼びましょう。

次に、同じ金額をかけて「商いの山」[pile Business]を作ってみましょう。まずアメリカ合衆国の全ての農地を買い上げます。総面積は160万平方キロメートルで[=およそ日本4個分]、毎年の生産高は16兆円になります。それからエクソン・モービル16社分を付け足します。同社は純利益3.2兆円で、世界で最も利益をあげている企業です。それだけ買っても、手元にはまだ80兆円残ります(これだけ派手に買い物をした後ですから、すっからかんになったとは感じないでください) 。どうでしょう、750兆円を持っている投資家が「商いの山」をやめて「金の山」を選ぶなんて、想像がつくでしょうか。

Today the world's gold stock is about 170,000 metric tons. If all of this gold were melded together, it would form a cube of about 68 feet per side. (Picture it fitting comfortably within a baseball infield.) At $1,750 per ounce -- gold's price as I write this -- its value would be about $9.6 trillion. Call this cube pile A.

Let's now create a pile B costing an equal amount. For that, we could buy all U.S. cropland (400 million acres with output of about $200 billion annually), plus 16 Exxon Mobils (the world's most profitable company, one earning more than $40 billion annually). After these purchases, we would have about $1 trillion left over for walking-around money (no sense feeling strapped after this buying binge). Can you imagine an investor with $9.6 trillion selecting pile A over pile B?


最後に、株式投資についてです。

我が国のビジネスは、市民の求める商品やサービスを効率的に提供し続けるでしょう。たとえてみると商業的な「牛」といえるものですが、世紀をこえて生き永らえ、ますます大量の「ミルク」を出してくれるのです。その価値は交換手段[=貨幣]によってではなく、どれだけ「ミルク」を出してくれるかで決まるものでしょう。ミルクの売上から得られる利益は複利で増えて飼い主へ報います。20世紀の間に、ダウ平均が66から11,497へ上昇したようにです。(それから、配当も山ほどありました)

Our country's businesses will continue to efficiently deliver goods and services wanted by our citizens. Metaphorically, these commercial "cows" will live for centuries and give ever greater quantities of "milk" to boot. Their value will be determined not by the medium of exchange but rather by their capacity to deliver milk. Proceeds from the sale of the milk will compound for the owners of the cows, just as they did during the 20th century when the Dow increased from 66 to 11,497 (and paid loads of dividends as well).


バークシャーは、第一級のビジネスをより多く所有することを目標としています。できればまるごと所有したいのですが、それなりの量の株式を保有することもあります。この種の投資はある程度の期間でみれば、先にあげた3種類の投資の中で大きな勝ちをおさめるものと信じています。そして、ずっと大切なのは、もっとも安全だろうということです。

Berkshire's goal will be to increase its ownership of first-class businesses. Our first choice will be to own them in their entirety -- but we will also be owners by way of holding sizable amounts of marketable stocks. I believe that over any extended period of time this category of investing will prove to be the runaway winner among the three we've examined. More important, it will be by far the safest.


ウォーレンの主張は常に一貫しており、少し先の未来をみすえています。必ず当たるわけではないですが、彼やチャーリー・マンガーによる予兆めいた発言には、耳を傾けたいと思います。個人的には少しばかり銀に投資しているので、ちょっと耳の痛い話でした。

2012年2月9日木曜日

TOPIX Core30ひとかじり(4) コマツ

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当社の本社所在地は、東京都港区赤坂二丁目3番6号。最寄り駅は東京メトロ銀座線溜池山王駅で、出てすぐのところです。溜池の交差点に面しているビルとは気がつきませんでした。Googleの写真をみると、竣工時の年代を感じさせるビルです。屋上の庭園は有名なようですね。

さて、本題になります。今回は有価証券報告書と20-Fを読んでみました。またキャタピラーの10-Kも若干参考にしました。

(1)現在の業績
好調です。今期末の予想では、売上高2兆円、純利益が1,860億円です。一方の前期実績は、1.84兆円と1,500億円でした。中国市場は低迷していますが、鉱山部門が世界的に好調を維持しています。目につくのが地域別売上構成。偏りが少ないです。意図したものでしょうが、見事な手綱さばきです。

(出典:当社Webサイト)








業界での位置づけは第2位。最大手キャタピラーには離されていますが、後続の日立建機、Volvo、CNH、斗山、現代、John Deere等は、売上や純利益で大きく離しています。両社の築いたMoatは大きいものと思われます。

(2)この10年間の上げ潮にうまくのった
以前からジム・ロジャーズが主張していた通りになりましたが、商品の強気相場が続いています。例えば、以下はLMEの銅価格です。1998年から2012年初までのチャートで、1目盛が1年です。2000年当初は停滞していましたが、2003年頃からは上昇基調です。








建設・鉱山機械業界は恩恵にあずかったようで、当社の売上高は10年前と比べて2倍になっています。キャタピラーの売上も同様に推移しています。









(3)従業員一人あたりの生産性が高い
当社対キャタピラーの比較ですが、一人当たり売上高(2010年度)は、およそ45対33。一方、純利益になると3.8対2.1です。相対的には、高付加価値で勝負していることになります。(1ドル=80円で換算)

(4)KOMTRAX
機器の稼働監視を行う本システムは当社の強みとして謳われていますが、他社でも同様のシステムを展開しています。しかし当社は導入時期が早く、稼動台数は1年半ほど前の時点で17万台になっています。先行者利益を享受できていると考えられます。

(出典:当社WebサイトのKOMTRAX紹介映像より)








例えば、野路社長によるKOMTRAXの紹介映像が当社Webサイトに掲載されており、その中でKOMTRAXで収集した稼動データを3ヶ月間先までの生産計画立案に使っていると発言されています(6分40秒)。「母数が大きいと、的確な分析がしやすくなる」とも。需要予測が的確であれば、サブASSYなどの部材を無駄なく先行手配できるようになり、納期がタイトな受注競争では戦いやすくなります。

(5)今後の見通し
中長期のマクロ要因がどうなるのかうまく判断できませんが、どちらかといえば追い風と思われます。特に主力のアジア太平洋地域は、大きな伸びしろが期待できそうです。

(6)株価について
現時点の株価(2,100円強)は、やや割安な程度にみえます。もちろん、商品市況が一時的にでも大きく下落すれば、当社株価もそれに追随するでしょう。しかし、当社の強力なMoatと今後のマクロ環境(資源高と新興国開発)を考えると、10年スパンでみれば安心して投資できる企業と思われます。

2012年2月8日水曜日

こんな仕事もしています(ウォーレン・バフェット)

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先月の1/23のTime誌、表紙はウォーレン・バフェットでした。タイトルはThe Optimist、景気が厳しい時期でも落ち込まない方です。今回の引用は彼の習慣を語る、ほんの一節です。(日本語は拙訳)

バフェットの小さなオフィスの給湯室にあるのは、古ぼけた木製のテーブル、人工皮革のL字ソファ、Formicaのカウンターだ。ちなみに、彼はいつも空室の電気を消してまわっている。

The company canteen in his small office suite, where he has a habit of walking around turning off lights in empty rooms, features a beat-up wooden table, a faux-leather sectional couch and Formica countertops.
(p.22)

なお、こちらのサイトではウォーレンのオフィスを訪れたときの写真が掲載されています。奥の壁には、お父さんのハワードの写真が飾ってありますね。

2012年2月7日火曜日

専門家の予測能力は高いのか?

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今回も「競争優位で勝つ統計学---わずかな差を大きな勝利に変える方法」からの引用です。専門家の意思決定の質に関する孫引きになります。

専門家の直感が未来を予測する力については、これまで多くの研究がなされてきた。その結果は、専門家の直感に大きな信頼を寄せる人々にとっては少しばかり期待はずれなものだ。カリフォルニア大学バークレー校組織行動学教授だったフィリップ・テトロックは著書『専門家の政治判断、その真価を問う』で、専門家は一般的に思われているほど予測能力が高いわけではないと示唆している。彼は、専門家は自己の見解を述べたりプレゼンテーションをする方法には長けているが、それはどちらかというと表面的な要素にすぎず、客観的に見ると意思決定の質の面では往々にして物足りないと述べる。多くの場合その原因は、過剰な自信から目の前の問題に対する十分な検討を怠っていることにある。つまり、データを軽視し、綿密な調査よりも似たような場面での経験に依存する傾向にあるというのだ。

これが本章の教訓だ。優れた意思決定の根底には、例外なく何らかのデータと、特定の状況についての綿密な調査結果が存在する。その工程はスプレッドシートやコンピューターの分析結果としては残らないかもしれないが、あくまでも科学であって技ではない。(p.272)


この一文は専門家の持つ知見やテクニックを疑うものではなく、人間の脳に潜む落とし穴を指摘したものと捉えられます。特定の分野に特化するほど接する情報が見慣れたものになり、意思決定が短絡になる。チャーリー・マンガーが言うところの「疑念を払う傾向」の一面であり、また「自意識過剰の傾向(Excessive Self-Regard Tendency)」でもあります。ファインマンのやりかたも思い出されます。