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2012年1月25日水曜日

あるファンドの始まり(ウォルター・シュロス)

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ウォルター・シュロスは、ウォーレン・バフェットの講演「グレアム・ドッド村の大投資家たち」で紹介されたファンド・マネージャーです。バフェットと共にグレアムのパートナーシップで働いていた経歴を持つ大ベテランです。バフェットやチャーリー・マンガーとは投資方針が異なりますが、見事な実績を残しています。今回はバフェットの伝記「The Snowball: Warren Buffett and the Business of Life」から個人的に気に入っている箇所を引用します。シュロスが独り立ちしようとする場面です。(手元に邦訳がないため、日本語は拙訳です。誤訳がありましたら、後ほど訂正します)

ウォルター・シュロスは、そのての催しに声をかけられることがなかった。パートナーには登用されない、奉公あがりの雇われ人とみなされていたからだ。[パートナーの]ジェリー・ニューマンは他人に優しさをみせるような人間ではなかったが、それに輪をかけてシュロスを冷遇していた。そのため、シュロスには妻と2人の小さな子供がいたのだが、とうとう自ら辞めることを決意した。グレアムにはなかなか言い出せずにいたが、1955年の終わりに投資パートナーシップを立ち上げた。出資者から集めた資金はUS$100,000[=現在価値で約8,000万円]、バフェットがのちに認めるように、それらの出資者はエリス島で呼びかけたところに応じた者たちだった。

バフェットは、シュロスがグレアムのやり方をまねてうまくやるのは間違いないと思い、自身のファンドを立ち上げた心意気を賞賛した。ただ資金が少なすぎて家族を食わせてやれないのではとウォルターのことを心配したが、それでもバフェットは自分の資金をシュロスのパートナーシップにすこしも出資しなかった。グレアム・ニューマン[・パートナーシップ]に出資しなかったのと同じように、自分のお金を他人に投資してもらうなど論外だったからだ。

Walter Schloss was not invited to events like these. He had been pigeonholed as a journeyman employee who would never rise to partnership. Jerry Newman, who rarely bothered to be kind to anyone, treated Schloss with more than his usual contempt, so Schloss, married with two young children, decided to strike out on his own. It took him a while to get up the nerve to tell Graham, but by the end of 1955 he had started his own investment partnership, funded with
$100,000 raised from a group of partners whose names, as Buffett later put it, “were straight from a roll call at Ellis island."

Buffett was certain that Schloss could apply Graham’s methods successfully and admired him for having the guts to set up his own firm. Though he worried that “Big Walter” was starting out with so little capital that he would not be able to feed his family. Buffett put not a dime of his own money into Schloss’s partnership, just as he had not invested in Graham-Newman. It would be unthinkable for Warren Buffet to let someone else invest his money.
(p.197)

シュロスの横顔、今では90歳代半ばのはず。「The Snowball」からお借りした画像です。
(バフェットの友人ウォルター・シュロス氏、自身の90歳の誕生祝いの夜にブギを踊る。2006年)




2012年1月24日火曜日

どのようにして相対性理論に到達したのか(アインシュタイン)

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ウォーレン・バフェットやチャーリー・マンガーは、年次報告書や株主総会でお勧めの本を紹介することがあります。伝記マニアのチャーリーがアインシュタインの伝記を紹介するのは順当なところでしょう。チャーリーお勧めの本の邦訳『アインシュタイン その生涯と宇宙』が昨年出版されましたが、下巻について出版事情のすったもんだがあったようなので、ようやく手にとっているところです。今回ご紹介するのは、アインシュタインが相対性理論を発見するに至った経緯や背景を数段落に要約した箇所です。

「新しいアイデアが突然頭に浮かんだ。それもかなり直感的なやり方で」とアインシュタインは語ったことがある。ただし次の言葉を直ぐに付け加えた。「直感とはそれ以前の知的経験の結果にすぎないのだが」

アインシュタインの相対性理論の発見は、一〇年に及ぶ知的思索と個人的経験に基づく直感から生まれたものである。最も重要で明らかなことは、著者の私が思うには、理論物理学に対する深い理解と知識である。彼はまた目に見える形の思考実験を行う能力にも助けられた。その能力はアーラウ時代の教育で培われたものだ。それから彼には哲学の基礎がある。ヒュームとマッハの哲学から、彼は観測できないものに対する懐疑精神を育てた。そしてこの懐疑精神は権威を疑問視するという彼の生まれつきの反骨精神に根ざしていた。

以下に述べるいろんな要素の混合が、物理的状況を可視化する能力、概念の核心をえぐり出す能力を増強し、彼の人生における技術的背景になっている。たとえば叔父のヤコブが発電機のなかの運動するコイルと磁石をよりよいものにするのを助けたこと。時計あわせに関する特許申請に溢れていた特許局で働いた経験。懐疑精神を推奨した上司。ベルンの時計塔近く、駅近く、電報局の近くに住んでいたこと。ヨーロッパでは時間帯内の時計を合わせるために電気信号を使っていたこと。話し相手としての技術者である友人のミケーレ・ベッソの存在。彼はアインシュタインとともに特許局で働き、電気器具の特許を調べていたのだ。

これらの影響の順序づけはもちろん主観的なものだ。結局アインシュタイン自身もどのようにして問題を解いたか、はっきりしなかった。「どのようにして相対性理論に到達したかは簡単には言えない。私の考えに動機付けをあたえた非常にたくさんの隠れた複雑な要素がある」と彼は語っている。
(上巻 p.181)


チャーリーが主張するところの「ほとんどの人より、うまくいくやりかた」と重なるように思えます。

ところで、本書(原著)はWescoの2007年株主総会でチャーリーから推薦されたものです。参加したファンド・マネージャーのティルソンがノートをとってくれています

I read the new biography of Einstein by Isaacson [Einstein: His Life and Universe]. I’ve read all the Einstein biographies, and this is by far the best - a very interesting book.(p.20)


2012年1月23日月曜日

誤判断の心理学(4)人はなぜ疑わないのか(チャーリー・マンガー)

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当たり前と考えていた仮定が実は落とし穴だった、という経験を数多くしてきました。あとになってから甘さを指摘するのは簡単ですが、前もって気がつくのは、なかなか難しいことです。今回も、個人的には身につまされる話題です。

人間の心理学的傾向その4
疑いをもたないようにする傾向
Doubt-Avoidance Tendency

人間の脳には、結論をみつけるといつまでも疑念を抱かないようにする仕組みがあります。

動物が長きに渡って、速やかに疑念を振り払う方向へ進化してきたのは言うまでもないでしょう。つまり、捕食者に狙われている獲物にとって、どうしたらよいか決めるのに時間をかけるのは、明らかに非生産的なことの一つだからです。ですから人間にとっても、疑いを持つことを避けようとするのは、ヒト以前の古きご先祖様の系譜をたどれば納得のいくものです。

結論に達して早々に疑念を払う傾向が強すぎるため、判事や陪審員にはそれを抑えるよう強制されています。すなわち、判決をきめる前には時間をおくこと。さらには、結論を出す前に、客観視という「仮面」をつけているように振舞うことを要求されます。この「仮面」が、正しく客観視するのを手助けするのです。この件は、次の話題である「終始一貫しようとする傾向」でも取り上げます。

The brain of man is programmed with a tendency to quickly remove doubt by reaching some decision.

It is easy to see how evolution would make animals, over the eons, drift toward such quick elimination of doubt. After all, the one thing that is surely counterproductive for a prey animal that is threatened by a predator is to take a long time in deciding what to do. And so man's Doubt-Avoidance Tendency is quite consistent with the history of his ancient, nonhuman ancestors.

So pronounced is the tendency in man to quickly remove doubt by reaching some decision that behavior to counter the tendency is required from judges and jurors. Here, delay before decision making is forced. And one is required to so comport himself, prior to conclusion time, so that he is wearing a “mask” of objectivity. And the “mask” works to help real objectivity along, as we shall see when we next consider man's Inconsistency-Avoidance Tendency.

2012年1月21日土曜日

実に愚かしい罪(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーは人の生き方について指針となる発言をすることがありますが、なかでも妬むことを厳しく戒めています。おなじみの「Poor Charlie's Almanack」からの引用で、チャーリーの発言をティルソンがメモしたものです。(日本語は拙訳)

普通の投資アドバイザーなら賛成しないかもしれませんが、自分の資産がまあ満足できるほどになっていて、誰か他の人が、たとえばリスキーな株式に投資して、より速くお金持ちになろうとしていても、そんなことは気にしないのが正しいのです。自分より速く金持ちになる人がいるのが当たり前のことで、別に悲しむことではありません。

Here's one truth that perhaps your typical investment counselor would disagree with: If you're comfortably rich and someone else is getting richer faster than you by, for example, investing in risky stocks, so what?! Someone will always be getting richer faster than you. This is not a tragedy.


自分より速く金を稼ぐ人のことを気にかけるのは、大罪の一つです。この「妬み」というのは実に愚かしい罪で、これだけが、[7つの大罪のうち]自分にとって何も楽しいことがないものです。つらいばかりで、ちっとも楽しくない。そんな思いを抱えている人たちに加わりたいとは思わないでしょう。

The idea of caring that someone is making money faster [than you are] is one of the deadly sins. Envy is a really stupid sin because it's the only one you could never possibly have any fun at. There's a lot of pain and no fun. Why would you want to get on that trolley?


2012年1月18日水曜日

雑音には耳を貸さず、何が起きているかをみきわめる(ブランデス)

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ブランデス(Brandes Investment Partners)はアメリカの著名なファンドで、運用資産は2.5兆円(=329億ドル)にのぼります。日本株にも積極的に投資しています。そういえば、小野薬品工業の大株主になっていたのを覚えています。EDINETをみると、少し前に同社の持ち株比率を5%未満に下げていたようですね。

今回は日本株に対する彼らの見解(How have Brandes' Japan holdings performed since the earthquake and tsunami in March 2011?)をご紹介します。あっという間に終わる1分半の映像ですが、強気の姿勢です。

・地震と津波は日本にとって確かに大きな出来事でしたが、長期投資家としては雑音には耳を貸さず、何が起きているかをみきわめる必要があります。企業によって、それぞれ事情は異なっているからです。

・今回の地震と津波以後、日本の企業は以前よりも環境の変化に強くなっています。また、この2年間で日本企業の株価は世界中で最も割安になりました。

・いま日本株でお買い得なのは、世界規模で通用する企業なのに、どの評価基準からみても割安なものがあります。その生産能力や技術は、世界で通用するものです。また日経[平均銘柄]の半数以上はNet cashの金額で取引されています。財務状況はきわめて強固です。

(Net cash: 現預金 + 有価証券 - 有利子負債 - 退職引当金のことか?)

東日本大震災以降の日本は、一般の欧米人には危ない国だと思われているでしょうから、日本株を推奨するマネージャーはそれなりに大変でしょうね。