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2017年11月28日火曜日

ウォーレン・バフェットの時間管理術(GuruFocus記事より)

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投資関連の記事を掲載しているサイトGuruFocusで、「ウォーレン・バフェットから学んだ時間管理術」に関する記事が投稿されていました。取りあげられている5つの話題のうち、個人的に感心したのが最初にあげられた「2リスト・ストラテジー」です。以前どこかで似た文章を読んだような気もしますが、改めて学ぶ価値のある教訓だと感じました。(日本語は拙訳)

Life-Changing Time Management Lessons I've Learned From Warren Buffett (GuruFocus)

2リスト・ストラテジー

マイク・フリント氏は、バフェット専属の航空機パイロットを10年間務めていた人物である(同氏は4人の米国大統領のパイロットだったこともあるので、すぐれた腕の持ち主だと言っても言い過ぎではないと思う)。フリント氏によれば、職業人生上の優先順位のことをバフェットと話していたときに、3段階の手順を踏んでほしいと言われたそうだ。

具体的な手順は次のとおりである。

<その1> はじめにバフェットはフリント氏に対して、職歴上の目標のうち上位25件を書きだしてほしいと言った。フリントは少し時間をかけて、それらを書き下した。(注: みなさんも短時間でこの作業を完了できるだろう。たとえば、今週中に達成したい25件を書きだすわけだ)

<その2> つづいてバフェットはフリントに対して、その一覧にある目標を読み直し、重要なもの5件に丸印を付けてほしいと頼んだ。今度もフリント氏はいくばくか時間をかけて一覧を読み進め、もっとも重要な目標5件を選んだ。

(注: これを自宅でやっているのであれば、読み進めるのをいったんやめて、その3に進む前に上記の2つを実行してほしい)

<その3> この時点でフリント氏は2つの一覧を手にしていた。一覧Aには丸印を付けた5件があり、一覧Bには丸印の付いていない20件があった。

上位5件の目標はただちに取り組める、とフリント氏は認めた。そのときバフェットが2つめの一覧のことをたずねてきた。「丸印を付けなかったほうはどうなっていますか」。

フリント氏は答えた。「ええ、上位5件はわたしがまず集中すべきことですが、他の20件も次点級ながら遠からずのものですね。それなりに重要ですから、折に触れて少しずつ取り組むつもりです。急ぎの課題ではありませんが、しっかりやるように計画します」。

しかしバフェットは次のように返答した。「いや、ちがいますよ、マイク。丸印を付けなかった項目は、すなわち『是が非でも回避すべき課題一式』なのです。そういった課題が何であれ、上位5件を終わらせるまでは関心を向けてはいけませんよ」。

The “two-list” strategy.

Mike Flint was Buffett's personal airplane pilot for 10 years. (Flint has also flown four US Presidents, so I think we can safely say he is good at his job.) According to Flint, he was talking about his career priorities with Buffett when his boss asked the pilot to go through a 3-step exercise.

Here's how it works…

STEP 1: Buffett started by asking Flint to write down his top 25 career goals. So, Flint took some time and wrote them down. (Note: you could also complete this exercise with goals for a shorter timeline. For example, write down the top 25 things you want to accomplish this week.)

STEP 2: Then, Buffett asked Flint to review his list and circle his top 5 goals. Again, Flint took some time, made his way through the list, and eventually decided on his 5 most important goals.

Note: If you're following along at home, pause right now and do these first two steps before moving on to Step 3.

STEP 3: At this point, Flint had two lists. The 5 items he had circled were List A and the 20 items he had not circled were List B.

Flint confirmed that he would start working on his top 5 goals right away. And that's when Buffett asked him about the second list, “And what about the ones you didn't circle?”

Flint replied, “Well, the top 5 are my primary focus, but the other 20 come in a close second. They are still important so I’ll work on those intermittently as I see fit. They are not as urgent, but I still plan to give them a dedicated effort.”

To which Buffett replied, “No. You’ve got it wrong, Mike. Everything you didn’t circle just became your Avoid-At-All-Cost list. No matter what, these things get no attention from you until you’ve succeeded with your top 5.”

2017年11月24日金曜日

問題解決の技法(2)よく似た問題をさがせ(クロード・シャノン)

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数学者クロード・シャノンが行った問題解決に関する講演について、2回目の投稿です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

(前項と)非常によく似た手順ですが、似たような既知の問題を探るやりかたもあります。これは、次のように図式的に言い表せると思います。まず、自分の抱えている問題Pに対して、おそらく未発見の解Sがあるとします。その領域に携わり経験を積んでいれば、ある程度似ている問題P'とそれに対する発見済の解S'について、見聞きしたことがあるでしょう。そうとなれば、あとはP'とPの間にある類似性を見つけた上で、同じ類似性をS'とSの間に見出し、取り組んでいる問題に対する解へと立ち戻ればよいだけです。そもそも成すべきことはそれだけなのかもしれません。経験を積んでいれば、すでに求められた何千もの解を知っているものです。当該領域における経験が必要なのは、それがためなのです。頭の中にP'やらS'やらが散り散りとであれ満たされていれば、取り組んでいる問題Pに対してある程度近いものを見つけられますし、つづいて解Sに似たS'へと向きを変え、やがてはSへと立ち戻れるわけです。どのような類の思索をめぐらす場合でも、大きな跳躍を1回果たすよりは、小さな跳躍を2回重ねるほうがずっと容易だと思います。

A very similar device is seeking similar known problems. I think I could illustrate this schematically in this way. You have a problem P here and there is a solution S which you do not know yet perhaps over here. If you have experience in the field represented, that you are working in, you may perhaps know of a somewhat similar problem, call it P', which has already been solved and which has a solution, S', all you need to do - all you may have to do is find the analogy from P' here to P and the same analogy from S' to S in order to get back to the solution of the given problem. This is the reason why experience in a field is so important that if you are experienced in a field, you will know thousands of problems that have been solved. Your mental matrix will be filled with P's and S's unconnected here and you can find one which is tolerably close to the P that you are trying to solve and go over to the corresponding S' in order to go back to the S you’re after. It seems to be much easier to make two small jumps than the one big jump in any kind of mental thinking.

今回の話題は昨今の表現で言うところの「パターンの再利用」であり、わかりやすい話題だったかと思います。一方、この手の話が登場すると即座に思い返されるのが、チャーリー・マンガーの説く「学際的メンタル・モデル」です(過去記事多数)。上の文章では類似性を見つける際に「特定の領域」と限定していますが、チャーリーの場合は領域を超えた類似性の存在に焦点を当てています。おそらくシャノン氏は聞き手にとって理解しやすい水準に話題を設定したものと思われますが、スケール(規模)の面でチャーリーの主張と補完的なところがおもしろいと感じました。シャノン氏の主張は同程度のスケールでみられる類似性の水平的繰り返しと読める一方で、チャーリーの主張は異分野すなわち別のスケールに対して適用すべき垂直的繰り返し(フラクタル)と受けとめることもできます。単なる個人的解釈にすぎませんが、チャーリーの哲学をまた一歩理解できたような気がしました。

2017年11月20日月曜日

2017年デイリー・ジャーナル株主総会(2)「とびっきり効果」の発見

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デイリー・ジャーナル社の2017年株主総会でチャーリー・マンガーが交わした質疑応答から、二つめの引用です。今回は、チャーリーが残した指折りの知的成果である「とびっきり効果」(Lollapalooza effect)についてです。前回分の投稿はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問13> 現在起こっているできごとで、気にかかっていることは何ですか。またそれらを特定するために、とびっきり効果のような学際的アプローチをどのように使っておられますか。

<チャーリー・マンガー> かつて私は、心理学のことを何もわかっていなかったものです。しかしそれは自分の手抜かりだと気づき、心理学の主要な初級教科書を3冊買って通読しました。私が「とびっきり効果」という用語を生みだしたのは、その時分でした。もちろんですが、まるでなっていない心理学者よりも、チャーリー・マンガーたる自分のほうがうまくやれると考えましたよ。とびっきり効果はどの本にも書いておらず、みずから思いついたアイデアのひとつです。これは、3つや4つの動向が同一の状況下で同時に働いたときに生じます。線形ではない働きをみせたとき、とびっきりな効果が生じたと言えるわけですね。[参考記事]

ところが心理学の研究者たちは、4つや5つの物事が同時に発生する実験を行うことができませんでした。彼らにしてみれば、実に複雑だったからですね。論文も出せませんでした。それゆえ彼らは、己の専門領域における最も重要なことを無視し通したわけです。もちろんながら、重要なことは他にもありましたよ。心理学を他のあらゆるものと総合する仕事です。ところが心理学の専門家である彼らは、「ほかのあらゆる物事」についてまるでわかっていなかったのです。これはやっかいですね。他の物事を知らずして、わかっている物事と総合するなどできませんよ。だから私がとびっきりな問題へ達することになったわけです。まあ実際のところ、その後も私は一人ぼっちでしたがね(笑)。彼の領域で名が通っているわけでもないですし。さはさりながら、私の考えは正当無欠なものですよ。[参考記事12]

Question 13: Question about Lollapalooza effects. What current event is causing you concern and how can you use that inter-disciplinary approach to spot them?

Charlie: Well, I coined that term the “Lollapalooza effect” because when I realized I didn't know any psychology and that was a mistake on my part, I bought the three main text books for introductory psychology and I read through them. And of course being Charlie Munger, I decided that the psychologists were doing it all wrong and I could do it better. And one of the ideas that I came up with which wasn't in any of the books was that the Lollapalooza effects came when 3 or 4 of the tendencies were operating at once in the same situation. I could see that it wasn't linear, you've got Lollapalooza effects.

But the psychology people couldn't do experiments that were 4 or 5 things happening at once because it got too complicated for them and they couldn't publish. So they were ignoring the most important thing in their own profession. And of course the other thing that was important was to synthesize psychology with all else. And the trouble with the psychology profession is that they don't know anything about ‘all else'. And you can't synthesize one thing you know with something you don't if you don't know the other thing. So that's why I came up with that Lollapalooza stuff. And by the way, I've been lonely ever since. (laughter) I'm not making any ground there. And by the way, I'm totally right.

2017年11月16日木曜日

経済予測のおもな役割(ジョン・ケネス・ガルブレイス)

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Clipper Fundという名のバリュー志向のファンドがあります。一昔前にその動向を追いかけていたのですが、2006年にマネージャーが変更になると公表されてからは遠ざかっていました。最近になって何とはなしにWebサイトにアクセスしたところ、現マネージャーの名前に不意を突かれました。その名もクリストファー・デービス氏、『デービス王朝 知られざる偉大な投資家一族』で取り上げられている一族の3代目でした。

例によって同書の内容はきれいさっぱり忘れましたが、好印象だけは残っていました。そこでClipperのサイトに掲載されている文章を読んでみたところ、なるほどと感じる部分がありました。ポートフォリオ構成(上位からバークシャー、アルファベット、アマゾン)や現金比率をみると、バリュー志向派の代表格であるFPAファンドやセス・クラーマンとは対極的な位置づけにあるように思えます。しかし競争優位性や複利成長を長期的視点でとらえて資金を投じているとすれば、バリューに焦点を当てて投資しているとも考えられます。きちんと読み込んではいませんが、おそらくそこにデービス家の投資哲学があるのでしょう。

(個人的には、いわゆるバリュー対グロースという対比はしていません。よく言われるように、「バリュー投資」という言葉自体が同義語反復だと受けとめています。看板に掲げているのはご容赦ください)

さて今回は、同氏が書いた第二四半期のレビューから一部を引用してご紹介します(日本語は拙訳)。なお邦題のセンスから予想がつくと思いますが、上記翻訳書の出版元はパンローリング社です。

SEMI-ANNUAL REVIEW 2017 (Clipper Fund) [PDF]

投資の見通し

- 短期的予測へ応じるのではなく、長期的な観点に立ったポートフォリオを構築すること。今日の市場でみられるリスク要因には、利益率が頂点に達した企業、長期債、割高な配当銘柄がある。-

偶像破壊的な経済学者として知られたジョン・ケネス・ガルブレイスが示した風刺に、次のような有名なものがあります。「経済予測の主たる役割とは、『占星術は敬服すべきものだ』と思わせることである」。下図において[掲載省略]、ウォール街の選りすぐりのストラテジストが予測する株式市場の年次リターン率を実績値と対比していますが、そこにはガルブレイスの持つ見識の深慮さが示されています。図をみれば楽観的すぎる予測の年もあれば、悲観的すぎる年もあります。しかし予測が正しかったことは一度もありませんでした。

これと同じように、金利が動く方向や通貨の変動動向、経済指標や地政学上のできごとといった短期的予測の多くにおいても、予測というものが不可能なことが当てはまります。成功をめざす投資家は将来起こり得る幅広い可能性に備えるべきで、そういった役に立たない予測に反応すべきではありません。それゆえに、長期的視点に立ったポートフォリオを運用することは、大洋航海向けの船舶を建造することと似ていると言えるでしょう。各種の状況は予測不能であるからにして、免れぬ嵐に耐える強さを有しながら、目的地へ到着できるに足る船速を兼ね備えねばなりません。私たちは無意味な予測ではなく有意義な備えをすることに力を注いできました。そうすることで、投資家の財産を何十年間にもわたって築き上げてきました。

投資先セクターや経済、市場、資産クラスは、長期的な周期を通じて変動するものがほとんどですから、現在はそのどこに位置するのか把握することが投資家の取るべき最初の一歩になります。周期における好ましい部分の大半において、熱に浮かされた投資家によって価格がバブルへと向かいがちです。他方で周期の谷にやってくると投資家は悲観的になり、価格は割安の色を深めます。長期投資家にとってみれば、周期上の頂点とはリスクを意味するものですが、周期上の深部では好機が訪れてくるものです。

その周期構成のリスク側において頂点に達しようとする3つの領域が、今日ではみられます。ひとつめは、8年以上続いてきた景気拡大のおかげで企業の利益率が過去最高に達した点です。平均的な企業における利益成長や株価にとっては、この潮流はすばらしい追い風となってきました。逆に、周期の反対側に回る頃には、多くの企業において利益が減少するでしょうし、株価もそれに伴うでしょう。私たちはポートフォリオを構成する上でこのリスクを踏まえ、利益率の面で好ましい見通しを有している企業を入念に選択し、他方で利益率低下がいっそう見込まれる大多数の企業を避けるように注力しています。

ふたつめは、昨年に何度か上昇したものの、金利が50年来の低水準を保ちつづけている点です。その結果、多くの投資家が債券を「安全」なものとみなし、いつの日か利率が上昇する際には債券価格が下落することを忘れてしまいました。現実問題として、上昇率が1%という比較的小さな幅であっても、長期債の価格は20%以上切り落とされるでしょう。下図に示すように[掲載省略]、今日の債券の評価額には株式と比較するとかなりの昂ぶりが織り込まれています。そのため、株式は今後何十年にもわたって債券よりも大幅に良好なリターンをあげると思われます。

最後となる3つめは、現在の株式市場において投資家が配当利回りに熱をあげている点です。その結果、いわゆる「配当夢中株」が大幅に過大評価されている例が数多く見られます。たとえば、もっとも広範に保有されている配当重視型の投資信託及びETFにおいて、最大規模の構成銘柄は実にPER25倍で現在売買されています。しかしそれらの企業では、配当金を賄うために利益の83%が費やされているのです。衝撃的なのは、そういった企業の売上高が、この5年間にわたって年率1.2%ずつ減少してきた事実です。このように、企業における利益率、金利、そして「配当夢中株」は、周期上の極端な地点へ接近していると思われます。それらの3点は、私たちがポートフォリオに持ち込まないよう慎重に対処しているリスクの典型たるものです。

Investment Outlook

- Avoid reacting to short-term forecasts; instead build a portfolio for the long term. Risks in today’s market include companies with peak profit margins, long-term bonds and overvalued dividend darlings. -

The iconoclastic economist John Kenneth Galbraith famously quipped the “primary function of economic forecasting is to make astrology look respectable.” By contrasting the predictions of Wall Street’s top strategists for annual stock market returns with what actually happened, the chart below shows the wisdom of Galbraith’s insight. In some years, the predictions proved too optimistic and in others too pessimistic. But at no point, did the forecasts get it right.

The same unpredictability applies to many short-term forecasts including those related to the direction of interest rates, currency moves, economic indicators, and geopolitical events. Instead of reacting to such useless forecasts, successful investors must be prepared for a wide range of possible outcomes. In this way, managing a portfolio for the long term is similar to building a ship for an ocean crossing. Because conditions may be unpredictable, investors must balance the strength needed to endure the inevitable storms with the speed required to reach their destination. By focusing on sensible preparation rather than worthless predictions we have built wealth for our investors over decades.

Since most sectors, economies, markets, and asset classes move through long cycles, the first step for investors is understanding where they are in the cycle. In the most favorable parts of cycles, prices tend toward bubbles as investors become euphoric. In the troughs of cycles, prices move toward bargain levels as investors become pessimistic. For long-term investors, cyclical peaks represent risk and cyclical troughs present opportunities.

Today, on the risk side of the equation, three areas appear to be approaching cyclical peaks. First, following more than eight years of economic expansion, corporate profit margins have reached an all-time high. This trend has provided a wonderful tailwind for the average company’s earnings growth and stock price. The other side of this cycle could lead to lower earnings at many companies with their share prices likely to follow suit. Recognizing this risk, we have focused our Portfolio on carefully selected companies with a favorable outlook for profit margins while avoiding the majority of companies where we believe margin compression is more likely.

Second, despite some uptick over the last year, interest rates remain near 50 year lows. As a result, many investors have come to view bonds as “safe,” forgetting that when interest rates eventually rise, bond prices will fall. In fact, a relatively modest 1% increase in interest rates would lop more than 20% off the price of a long-term bond. As shown in the chart below, bond valuations today reflect considerable euphoria compared to stocks. As a result, stocks are likely to produce far better returns than bonds in the decades ahead.

Third, within the stock market, investors have become infatuated by current dividend yield. As a result many of the so-called dividend darlings seem significantly overvalued. For example, the largest positions in the most widely held dividend mutual funds and exchange traded funds (ETFs) currently trade at a heady 25 times earnings while paying out 83% of earnings to cover their dividends. Shockingly, over the last five years, the revenue at these companies has actually declined at a rate of 1.2% per year. As with profit margins and interest rates, these dividend darlings seem to be approaching a cyclical extreme and therefore represent a risk we are careful to avoid in our Portfolio.

2017年11月12日日曜日

問題解決の技法(1)単純化せよ(クロード・シャノン)

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クロード・シャノンという人物の名前は、ITや工学を専門としている方であれば見聞きしたことがあるかと思います。彼がどの領域で業績を残したのか、私自身はその程度しか知りませんでしたが、たまたま彼の講演記事を目にして興味を持つようになりました。今年の夏に刊行された伝記『A Mind at Play』が好評のようで、その流れで彼の業績や発言が見直され、めぐりめぐってここに至ったことになります。

今回からの一連の投稿では、その講演で取り上げられた「問題解決に使える考え方」の各々について、拙訳付きでご紹介します。なお原文テキストは、以下のサイトを参照しました。

Creative Thinking (Claude Shannon at Bell Lab. March 20, 1952)

まずはじめにお話ししたいのは、「単純化」という考え方です。解決すべき問題はどのような種類のものでもかまいません。たとえば、機器の設計や物理学上の理論構築、数学における定理の証明といった種類のものが挙げられます。「そういった問題からあらゆることを排除しつつ、本質となる部分だけを残すように努める」やりかたが、きわめて有効的だと思います。つまり、大きさを切り詰めるわけです。取りくむ問題がなんであっても、本質的でないあらゆるたぐいのデータがある程度つきまとい、混乱のもととなっていることがほとんどです。そこで、その問題をいくつかの主たる論点へと落とし込めれば、何をやろうとしているのかいっそう明確に理解できるようになり、おそらくは解をみつけられることでしょう。それがために、追究していた問題を剥ぎとることになるかもしれません。当初とりくんでいた問題とは似つかない場所にまで単純化するかもしれません。しかし多くの場合において、単純な問題の解を出せたことで、最初に取りくんでいた問題に対する解に到達するまで、解を洗練させていくことができるものです。

The first one that I might speak of is the idea of simplification. Suppose that you are given a problem to solve, I don’t care what kind of a problem - a machine to design, or a physical theory to develop, or a mathematical theorem to prove, or something of that kind - probably a very powerful approach to this is to attempt to eliminate everything from the problem except the essentials; that is, cut it down to size. Almost every problem that you come across is befuddled with all kinds of extraneous data of one sort or another; and if you can bring this problem down into the main issues, you can see more clearly what you’re trying to do and perhaps find a solution. Now, in so doing, you may have stripped away the problem that you’re after. You may have simplified it to a point that it doesn’t even resemble the problem that you started with; but very often if you can solve this simple problem, you can add refinements to the solution of this until you get back to the solution of the one you started with.

この手の話題は本ブログでくりかえし取り上げています。言うまでもないかもしれませんが、そこには二つのねらいがあります。第一に、卓越した人物が共通して取りあげる話題はなおさら重要だ、と再認識すること。第二に、重要なことはそらで言えるようになり、日常的に使いこなせること(過去記事の例1例2)。個人的には、第二のほうが「言うは易く行うは難し」のままです。

2017年11月8日水曜日

歩き出せば口実は浮かぶ(『かくて行動経済学は生まれり』)

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先日取り上げた『かくて行動経済学は生まれり』から、今回は「逃げる」話題について2点ご紹介します。ひとつめは「日常生活における逃げ」についてです。エイモス・トヴェルスキーに関する話です。

ものを頼まれたら(パーティーに行く、スピーチをする、何かを手伝うなど)、たとえそのときは承諾しようと思っても、すぐに返事をするべきではないと、エイモスはよく言っていた。考える時間を1日とるだけで、前の日には引き受けようと思っていた誘いの多くを断りたくなることに、きっと驚くはずだ。これと一緒に編み出したのが、ある場所から逃げ出すための方法だ。退屈な会議やカクテルパーティーにつかまってしまって、そこから逃げ出す口実が思い浮かばないことはよくある。だがエイモスは、どんな集まりであれ、帰りたいと思ったら立ち上がり、そこから離れることをルールとしていた。歩き始めてしまえばいくらでもアイデアは浮かび、口実がすらすらと出てくると彼は言う。(p. 221)

もうひとつは、本ブログで何度か取り上げているテーマ「虐殺からの逃亡」についてです。こちらはダニエル・カーネマンが子供だった頃の逸話です。

その後、彼らは命を守るためにまた町を離れ、コートダジュールのカーニュ・シュル・メールへ向かった。そこはあるフランス軍の大佐が所有している場所だった。それから数か月間、ダニエルはその狭い地域から出ることはなかった。彼は本とともに時間を過ごした。『80日間世界一周』を何度も何度も読み、イギリスのすべてのもの、特に主人公のフィリアス・フォッグに夢中になった。フランス人大佐が残していった本棚には、ヴェルダンの塹壕戦についてのレポートがぎっしり詰まっていて、ダニエルはそれもすべて読んだ。(中略)

ヴィシー政府と、報奨金目当ての人々の協力で、ドイツは前より簡単にユダヤ人狩りができるようになった。ダニエルの父は糖尿病を患っていたが、治療を受けるほうが、病気を放置するよりも危険だった。そしてふたたび彼らは逃亡した。はじめはホテルに滞在していたが、とうとう鶏舎に逃げ込んだ。その鶏舎は、リモージュ郊外の小さな村の酒場の裏にあった。そこにはドイツ兵はいなかった。いたのは民兵団だけだ。彼らはドイツに協力してユダヤ人を捕まえ、フランスのレジスタンスを根絶やしにするのに手を貸していた。

父親がどうやってその場所を見つけたのかダニエルにはわからなかったが、ロレアルの創始者が関わっていたのは間違いないだろう。会社から食料がずっと送られていたからだ。両親は部屋の真ん中に仕切りを立て、ダニエルと姉が多少のプライバシーを保てるようにしてくれたが、鶏舎はそもそも人が住むところではない。冬が寒さが厳しく、ドアが凍って開かなくなった。姉はコンロの上で寝ようとして服を焦がした。(p. 57)

2017年11月4日土曜日

2017年デイリー・ジャーナル株主総会(1)チャーリー・マンガーかく語りき

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バークシャー・ハサウェイの株主総会では、チャーリー・マンガーはウォーレン・バフェットの引き立て役としておとなしくしていますが、チャーリーが会長を務めるデイリー・ジャーナルの総会ではかなりの別人ぶりで、堂々とした独り舞台をみせています。距離が狭いこともあるせいか、参列者からの笑い声も頻繁にあがり、米国で一番楽しい総会かもしれません。


と、そのようなことを書けるのも、Youtubeに投稿されている映像を自宅で観られるからです。こちらのリンク先映像では投稿者の方が質疑項目ごとの目次を作成されており、ありがたいばかりです。(参列者爆笑シーンの一例は23分過ぎ)

Billionaire Charlie Munger: Advice for Business and Life (2017) (Youtube)

また別の方のサイトにはトランスクリプトがあります。

Charlie Munger: Full Transcript of Daily Journal Annual Meeting 2017 (HTML)

今回からの投稿では、今年の2月に開催された株主総会での質疑応答の様子を、上記の資料からご紹介します。今回の話題は、「ウォーレンが学び続けたことがバークシャー成功の要因だった」とする質疑の後半部分です(上記トランスクリプトのQ14)。バークシャーが2006年にイスカル社を買収したときの価格水準の話題と、航空会社への投資の話題です。(日本語は拙訳)

<チャーリー・マンガー> ベン・グレアムならば、イスカル社を買うようなことはしませんでしたよ。簿価の5倍になる金額を支払うのは、グレアムのやりかたではなかったですからね。ウォーレンはグレアムのもとで学びましたが、その後もずっとうまく学んだわけです。私自身も上手に学んできました。このゲームのいいところは、際限なく学び続けられる点ですね。実際のところ、今でもそうしていますから。

今や我々は、「突如として航空会社株を買うようになったのか」と報道されているのですよ。航空会社という商売について過去に我々がなんと発言していたか、覚えていますか。「そこまでひどいビジネスがあるとは、ご冗談でしょう」と考えていたのです。それが今では、航空会社関連の持ち株すべてを合わせると、中小の航空会社を1社分保有していることになります。我々は同じことを鉄道会社でもやりました。「鉄道なんてちっとも良かないね。事業者が多すぎて、トラックとの競争もあるし...」と言ったものです。80年間にわたってひどいビジネスだったことはたしかです。しかし彼の業界にはとうとう4つの大会社しか残っておらず、うまいビジネスへと変わりました。それと似たようなことが航空会社でも起きているわけですよ。

Ben Graham would have never bought Iscar. He paid 5 times book or something for Iscar. It wasn’t in the Graham play. And Warren who learned under Graham, just, he learned better over time. And I’ve learned better. The nice thing about the game we’re in, is that you can keep learning. And we’re still doing it.

Imagine we’re in the press…for all of a sudden (buying) airline stocks? What have we said about the airline business? We thought it was a joke it was such a terrible business. And now if you put all of those stocks together we own one minor airline. We did the same thing in railroads, we said “railroads are no damn good, you know there’s too many of them, truck competition…” And we were right it was a terrible business for about 80 years. But finally they got down to four big railroads and it was a better business. And something similar is happening in the airline business.

工具メーカーのイスカルに対して簿価の5倍を払ったという事実は、初見あるいは見逃していました。あくまでも個人的な見積もりですが、簿価5倍の買収水準はPER25倍から30倍になったとも考えられます。ウォーレンであれば出し渋りそうな金額です。しかし、うろ覚えですがイスカルの買収はチャーリーが熱を入れていたと記憶しています。そうだとすれば、ある程度の高値は納得できます。元から非公開企業だったのでイスカルの経営実態はよくわからないままですが、バークシャーの年次報告書によれば従業員数がこの10年間でほぼ倍増しており、着実に成長している様子がうかがえます。