最終的な「賭け」の結果は、次のようになりました。
暦年 ファンドA ファンドB ファンドC ファンドD ファンドE S&Pファンド 2008 -16.5% -22.3% -21.3% -29.3% -30.1% -37.0% 2009 11.3% 14.5% 21.4% 16.5% 16.8% 26.6% 2010 5.9% 6.8% 13.3% 4.9% 11.9% 15.1% 2011 -6.3% -1.3% 5.9% -6.3% -2.8% 2.1% 2012 3.4% 9.6% 5.7% 6.2% 9.1% 16.0% 2013 10.5% 15.2% 8.8% 14.2% 14.4% 32.3% 2014 4.7% 4.0% 18.9% 0.7% -2.1% 13.6% 2015 1.6% 2.5% 5.4% 1.4% -5.0% 1.4% 2016 -3.2% 1.9% -1.7% 2.5% 4.4% 11.9% 2017 12.2% 10.6% 15.6% N/A 18.0% 21.8% 累計 21.7% 42.3% 87.7% 2.8% 27.0% 125.8% 年率 2.0% 3.6% 6.5% 0.3% 2.4% 8.5%
(注)プロテジェ・パートナーズとの合意によって、各ファンド・オブ・ファンズの名称は非公開としました。ただしわたし自身は、年次監査報告を受け取っています。なお2016年のファンドA・B・Cの数字は、昨年記載した内容から若干改訂しました。またファンドDは2017年中に解散したため、年間損益率の平均値は運営されていた9年間の成績をもとに算出してあります。
5本のファンド・オブ・ファンズは素早い駆け出しをみせ、2008年にはどれもがインデックス・ファンドを負かしました。しかしその後はまるでうまくいきませんでした。つづく9年間はどの年も、ファンド・オブ・ファンズ全体としてみればインデックス・ファンドから遅れを取ったのです。
あえて申し上げておきますが、その10年の間で株式市場の動向に異例なところは何もありませんでした。2007年の終わりごろに投資の「専門家」各氏に依頼して、普通株の長期的収益率を予想してもらえば、その平均値は8.5%に近い数字になったでしょう。これはS&P500が実際に記録した数字です。そのような環境であれば、儲けをあげるのは易しいことです。実際のところ、ウォール街の「助力者」たちが手にした総額は、びっくり仰天の金額でした。しかしながらその人たちが大いに潤った一方で、彼らに資金を投じた多くの投資家にとっては、失われた10年間となりました。
投資の成績はたゆたうものですが、手数料を遠慮されることはありません。
* * * * * * * * * * * *
今回の「賭け」によって、投資におけるもうひとつの重要な教訓があらわになりました。市場はおおむね合理的ですが、ときにおかしな行動をとります。その際に現れる機会をつかむには、まばゆい知性は必要ありません。経済学の学位も、アルファやベータといったウォール街で使われる専門用語になじんでいる必要もありません。そうではなく投資家に必要なのは、群集心理にみられる恐怖や熱狂から距離をおき、一握りの単純なファンダメンタルを凝視できる力です。かなりの期間にわたって、平凡と思われたりあるいはアホとさえ思われたりする道を、あえて選べる心持ちも欠かせません。
プロテジェとわたしは当初、最終的に必要な100万ドルを用意するために、財務省発行の額面50万ドルの割引債(ストリップスと呼ばれることがあります)をそれぞれ購入しました。その債券を買う価格が、それぞれ31万8,250ドルだったのです。これは1ドルに対して64セントを若干下回る値段でした。この金額を払うことで、10年後に50万ドルずつを受け取る算段でした。
その名称からおわかりになると思いますが、両者が買った債券には利子が支払われません。しかし(割り引いた値段で購入しているため)、満期まで保有すれば年率にして4.56%の利益が得られます。当初は年ごとに得られるリターンだけを考えており、2017年末に債券が満期を迎えることで、賭けの勝者側が指定する慈善先に100万ドルを贈るつもりでした。
しかし購入した後になって、債券市場で実に奇妙なことが起こりました。2012年の11月に、満期日まで残り5年ほどとなったわたしたちの債券が、額面価格の95.7%で買われていたのです。その値段になると、満期までの利回りは年率1%以下でした。正確には0.88%でした。
なんとも貧相なリターンなので、わたしたちが債券に投資していることが、米国株に投資するのとくらべてひどく間抜けなように思えました。S&P500であれば、すなわちそれは「米国におけるビジネスを時価総額によって適宜重みづけした大断面」のようなものですが、株主資本(つまり純資産)利益率にして年率10%を大きく上回る稼ぎを、長期間にわたってあげてきたのですから。
2012年11月、つまりわたしたちがこの件を考え直した時点で、S&P500に投資することで受け取れる配当金のリターンは年率2.5%、つまりわたしたちが購入した財務省証券の利回りの約3倍でした。しかも配当金が増額されていくのは、まず間違いないと言えました。それだけではなく、500社を構成する各社は莫大な資金を留保していました。各社はその資金を使って事業を拡大したり、よくあるように自社株を買い戻すことでしょう。どちらであろうと、いずれは1株当たり利益を大幅に増加させるはずです。1776年以来いつもそうだったように、いかなる困難な時期が来ようと、米国経済は前進し続けてきたのです。
2012年の末に債券と株式の間で評価の釣り合いが大幅に乱れたことで、プロテジェとわたしは次の点を合意しました。「両者が購入した債券を当初の予定より5年早く売却し、得られた資金でバークシャーのB株を11,200株買うこと」です。その結果、ガールズ・インクのオマハ事務所が先月受け取った金額は、当初望まれていた100万ドルではなく、222万2,279ドルとなりました。
お断りしておきますが、2012年に債券から乗り換えた後のバークシャーが、きわだった業績を残したわけではありません。しかし傑出する必要はなかったのです。結局のところ、バークシャー株からあがる利益が、年間利回り0.88%の債券に勝てばいいだけのことでした。獅子奮迅の働きは不要でした。
債券をバークシャー株に交換することの唯一のリスクは、2017年末の株式市場が極端に弱い事態にめぐり合ってしまうことでした。しかしその可能性は非常に小さい(いつであろうといくらかは存在します)だろうと、両者ともに考えていました。そう結論付けた理由は2つあります。ひとつめは、2012年末のバークシャー株が妥当な値段だったことです。ふたつめは、「賭け」が終わりとなるまでの5年間のうちに、バークシャーがほぼ確実に資産を大幅に蓄積させると考えられたからです。ただし、そうではあっても交換によって生じる、今回の慈善に関するあらゆるリスクを排除するために、2017年末にバークシャーの11,200株を売却しても100万ドルに満たない場合には、わたしが不足分を埋め合わせる旨、合意しました。(PDFファイル11ページ目)
(この節、まだつづきます)
Here’s the final scorecard for the bet:
[The performance chart is omitted by the blog author.]
Footnote: Under my agreement with Protege Partners, the names of these funds-of-funds have never been publicly disclosed. I, however, have received their annual audits from Protege. The 2016 figures for funds A, B and C were revised slightly from those originally reported last year. Fund D was liquidated in 2017; its average annual gain is calculated for the nine years of its operation.
The five funds-of-funds got off to a fast start, each beating the index fund in 2008. Then the roof fell in. In every one of the nine years that followed, the funds-of-funds as a whole trailed the index fund.
Let me emphasize that there was nothing aberrational about stock-market behavior over the ten-year stretch. If a poll of investment “experts” had been asked late in 2007 for a forecast of long-term common-stock returns, their guesses would have likely averaged close to the 8.5% actually delivered by the S&P 500. Making money in that environment should have been easy. Indeed, Wall Street “helpers” earned staggering sums. While this group prospered, however, many of their investors experienced a lost decade.
Performance comes, performance goes. Fees never falter.
* * * * * * * * * * * *
The bet illuminated another important investment lesson: Though markets are generally rational, they occasionally do crazy things. Seizing the opportunities then offered does not require great intelligence, a degree in economics or a familiarity with Wall Street jargon such as alpha and beta. What investors then need instead is an ability to both disregard mob fears or enthusiasms and to focus on a few simple fundamentals. A willingness to look unimaginative for a sustained period - or even to look foolish - is also essential.
Originally, Protege and I each funded our portion of the ultimate $1 million prize by purchasing $500,000 face amount of zero-coupon U.S. Treasury bonds (sometimes called “strips”). These bonds cost each of us $318,250 - a bit less than 64¢ on the dollar - with the $500,000 payable in ten years.
As the name implies, the bonds we acquired paid no interest, but (because of the discount at which they were purchased) delivered a 4.56% annual return if held to maturity. Protege and I originally intended to do no more than tally the annual returns and distribute $1 million to the winning charity when the bonds matured late in 2017.
After our purchase, however, some very strange things took place in the bond market. By November 2012, our bonds - now with about five years to go before they matured - were selling for 95.7% of their face value. At that price, their annual yield to maturity was less than 1%. Or, to be precise, .88%.
Given that pathetic return, our bonds had become a dumb - a really dumb - investment compared to American equities. Over time, the S&P 500 - which mirrors a huge cross-section of American business, appropriately weighted by market value - has earned far more than 10% annually on shareholders’ equity (net worth).
In November 2012, as we were considering all this, the cash return from dividends on the S&P 500 was 2.5% annually, about triple the yield on our U.S. Treasury bond. These dividend payments were almost certain to grow. Beyond that, huge sums were being retained by the companies comprising the 500. These businesses would use their retained earnings to expand their operations and, frequently, to repurchase their shares as well. Either course would, over time, substantially increase earnings-per-share. And - as has been the case since 1776 - whatever its problems of the minute, the American economy was going to move forward.
Presented late in 2012 with the extraordinary valuation mismatch between bonds and equities, Protege and I agreed to sell the bonds we had bought five years earlier and use the proceeds to buy 11,200 Berkshire “B” shares. The result: Girls Inc. of Omaha found itself receiving $2,222,279 last month rather than the $1 million it had originally hoped for.
Berkshire, it should be emphasized, has not performed brilliantly since the 2012 substitution. But brilliance wasn’t needed: After all, Berkshire’s gain only had to beat that annual .88% bond bogey - hardly a Herculean achievement.
The only risk in the bonds-to-Berkshire switch was that yearend 2017 would coincide with an exceptionally weak stock market. Protege and I felt this possibility (which always exists) was very low. Two factors dictated this conclusion: The reasonable price of Berkshire in late 2012, and the large asset build-up that was almost certain to occur at Berkshire during the five years that remained before the bet would be settled. Even so, to eliminate all risk to the charities from the switch, I agreed to make up any shortfall if sales of the 11,200 Berkshire shares at yearend 2017 didn’t produce at least $1 million.
2018年2月28日水曜日
2017年度バフェットからの手紙(3)バカだねと思われることが必要なとき
2017年度「バフェットからの手紙」から、前回に続いて「賭け」の話題です。(日本語は拙訳)
2018年2月27日火曜日
2017年度バフェットからの手紙(2)10年越しの賭けの結果
2017年度「バフェットからの手紙」からの引用が続きます。今回からの話題は、ウォーレンが前年度にとりあげた「賭け」の続きです(日本語は拙訳)。やはり今回も、この話題が一般(=非株主)向けのメイン・テーマだと思います。本シリーズの前回分投稿はこちらです。
なお、前年度分を紹介した投稿は以下のとおりです。未読の方は先に読まれることをお勧めします。
・2016年度バフェットからの手紙(3)100歳になっても生きているだろうか
・2016年度バフェットからの手紙(4)S&P500ファンドの威力
・2016年度バフェットからの手紙(5)手数料は眠らない
・2016年度バフェットからの手紙(6)アクティブ勢VSパッシブ勢
・2016年度バフェットからの手紙(7)あのサルのように運が良ければ
・2016年度バフェットからの手紙(8)金持ちはどう感じているのか
・2016年度バフェットからの手紙(9)金持ちが熟練者と出会うとき
なお、前年度分を紹介した投稿は以下のとおりです。未読の方は先に読まれることをお勧めします。
・2016年度バフェットからの手紙(3)100歳になっても生きているだろうか
・2016年度バフェットからの手紙(4)S&P500ファンドの威力
・2016年度バフェットからの手紙(5)手数料は眠らない
・2016年度バフェットからの手紙(6)アクティブ勢VSパッシブ勢
・2016年度バフェットからの手紙(7)あのサルのように運が良ければ
・2016年度バフェットからの手紙(8)金持ちはどう感じているのか
・2016年度バフェットからの手紙(9)金持ちが熟練者と出会うとき
終わりをむかえた「例の賭け」から得られた、投資に関する意外な教訓
2007年12月19日にわたしが始めた10年越しの賭けについて、9割がた進んだ昨年の段階で、詳細な報告をしました(年次報告書に含めたその全文は、今回の年次報告書[PDF]の24-26ページに再掲してあります)。そして今では最終的な数字がそろいました。さまざまな観点において目を見張る結果でした。
賭けを始めた理由は2つありました。ひとつめは、わたしが拠出する31万8,250ドルをもとに、不相応なほど大きな金額に増やしたかったためです。わたしの予想する通りにものごとが進めば、2018年の初めにガールズ・インクのオマハ事務所へ寄付されることになる資金です。ふたつめは、わたしが確信していることを広く知ってもらいたかったからです。つまりそれは、「アクティブな運用者が関わらないS&P500のインデックス・ファンドを選ぶことで、実質的に費用のかからない投資となるわたしのやりかたが、ほとんどの資産運用のプロよりも優れた成績を、いずれは達成する」という考えです。ただしその「助力者」たる方々は、敬意を払われた上に、金銭面での見返りも厚遇されるとは思いますが。
この問題に取り組むことには、はなはだしく重要な意味があります。米国の投資家は毎年多額の費用を投資助言者へ支払っています。さまざまな階層にわたるがゆえの費用が課されることもよくあります。そのような投資家を全体としてとらえたときに、はたして支払った金額にふさわしい対価を受けているのでしょうか。実際のところ、助言者に対する総支出に対してなにかを受け取っているのでしょうか。
賭けの相手となったプロテジェ・パートナーズはS&P500の成績を上回ることをねらって、5本の「ファンド・オブ・ファンズ」を選択しました。彼らが選んだこの数が、少ないということはありません。ファンド・オブ・ファンズを5本選んだということは、結局のところ200本のヘッジ・ファンドへ投資することになったからです。
ウォール街では投資助言会社として知られているプロテジェは、実質的に5名の投資専門家を選んだことになります。さらには各々がヘッジ・ファンドを運営している、投資の専門家を数百名抱えたことになります。これは、「頭脳とアドレナリンと自信に満ちたエリートからなる要員のそろった集団」ということになります。
5本のファンド・オブ・ファンズそれぞれを運営するマネージャーには、さらに有利な点がありました。みずからのポートフォリオに含まれているヘッジ・ファンドを、10年の間に入れ替えることができた点です。実際のところ彼らは、新たな「スター」へ資金を投下し、その一方で運用者の神通力が失われたヘッジ・ファンドからは資金を引き揚げました。
プロテジェ側の役者諸氏は、成功に対する大きな見返りを約束されていました。ファンド・オブ・ファンズの運営者だけでなく、選択された各ヘッジ・ファンドの運営者も、儲けの大幅な部分が分配されることになっていたのです。たとえそれが単に市場全体が上昇したときであっても、です。(わたしたちがバークシャーを経営し始めた以降で10年にわたる期間を考えたとき、1年ずつずらすと都合43回ありましたが、S&P500はそのすべてにおいて、プラスだった年数がマイナスだった年数を上回りました)
成功に応じて受けられるそういった見返りは、本来は強調すべきところを、おいしくて巨大なケーキの上に塗り伸ばされていました。たとえファンドが10年の間に投資家の資金を失ったとしても、運用者諸氏は大金持ちになることができたでしょう。資産額に対する割合が、平均にして「驚きの2.5%前後」にのぼる固定手数料を、ファンド・オブ・ファンズへ投資する者が毎年支払うとなれば、それも実現する話です。その手数料の一部はファンド・オブ・ファンズ5本の各運用者へ、そして残りは下位にあたるヘッジ・ファンドの200名超にのぼる運用者へとわたったのです。(PDFファイル10ページ目)
(この節、つづく)
“The Bet” is Over and Has Delivered an Unforeseen Investment Lesson
Last year, at the 90% mark, I gave you a detailed report on a ten-year bet I had made on December 19, 2007. (The full discussion from last year’s annual report is reprinted on pages 24 - 26.) Now I have the final tally - and, in several respects, it’s an eye-opener.
I made the bet for two reasons: (1) to leverage my outlay of $318,250 into a disproportionately larger sum that - if things turned out as I expected - would be distributed in early 2018 to Girls Inc. of Omaha; and (2) to publicize my conviction that my pick - a virtually cost-free investment in an unmanaged S&P 500 index fund - would, over time, deliver better results than those achieved by most investment professionals, however well-regarded and incentivized those “helpers” may be.
Addressing this question is of enormous importance. American investors pay staggering sums annually to advisors, often incurring several layers of consequential costs. In the aggregate, do these investors get their money’s worth? Indeed, again in the aggregate, do investors get anything for their outlays?
Protege Partners, my counterparty to the bet, picked five “funds-of-funds” that it expected to overperform the S&P 500. That was not a small sample. Those five funds-of-funds in turn owned interests in more than 200 hedge funds.
Essentially, Protege, an advisory firm that knew its way around Wall Street, selected five investment experts who, in turn, employed several hundred other investment experts, each managing his or her own hedge fund. This assemblage was an elite crew, loaded with brains, adrenaline and confidence.
The managers of the five funds-of-funds possessed a further advantage: They could - and did - rearrange their portfolios of hedge funds during the ten years, investing with new “stars” while exiting their positions in hedge funds whose managers had lost their touch.
Every actor on Protege’s side was highly incentivized: Both the fund-of-funds managers and the hedge-fund managers they selected significantly shared in gains, even those achieved simply because the market generally moves upwards. (In 100% of the 43 ten-year periods since we took control of Berkshire, years with gains by the S&P 500 exceeded loss years.)
Those performance incentives, it should be emphasized, were frosting on a huge and tasty cake: Even if the funds lost money for their investors during the decade, their managers could grow very rich. That would occur because fixed fees averaging a staggering 2.5% of assets or so were paid every year by the fund-of-funds’ investors, with part of these fees going to the managers at the five funds-of-funds and the balance going to the 200-plus managers of the underlying hedge funds.
2018年2月26日月曜日
2017年度バフェットからの手紙(1)減税及び会計基準変更による影響
バークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェットが、2/24(土)付けで2017年度の「バフェットからの手紙」を公開しています。今回は全16ページと、少なくとも今世紀に入ってから最も短いレターです。一読した印象も「地味であっさり」といったところですが、よく考えれば大切な文章も当然ながら見受けられます。これからまじめに読み込むつもりです。
今回は冒頭の文章から、拙訳付きでご紹介します。言葉通り、バークシャーの株主に向けた話題です。
SHAREHOLDER LETTER 2017 [PDF] (Berkshire Hathaway)
今回は冒頭の文章から、拙訳付きでご紹介します。言葉通り、バークシャーの株主に向けた話題です。
SHAREHOLDER LETTER 2017 [PDF] (Berkshire Hathaway)
バークシャー・ハサウェイの株主のみなさんへ、
2017年度において、バークシャーの純資産は653億ドル増加しました。その結果、クラスA株及びクラスB株のいずれにおいても、1株当たりの簿価は23%増えています。過去53年間において(すなわち現経営陣が就任した後のことですが)、1株当たりの簿価は19ドルから21万1,750ドルに増加しました。これは年率にして19.1%の増加率になります。
巻頭にあげた[業績推移の]表は、30年間にわたって同じ書式を使ってきました。しかし2017年度は、これまでのお決まりから大きく逸脱しています。バークシャー内で達成したこと以外のものが、当社利益の大幅な部分を占めたからです。
そうではあるものの、650億ドルになる利益は現実のものですから、ご安心ください。ただし、バークシャー自身の活動によって得た金額は、360億ドルにとどまっています。残りの290億ドルは、議会が連邦税法を改定したことによって、12月にもたらされたものです。(税務的な面によってバークシャーが得た利益に関する詳細は、年次報告書のK32やK-89~K-90ページをご参照ください)
そのような財務上の事実があることをお断りしましたので、早速バークシャーの経営状況についてご説明したいと思います。しかし、もう1件だけお待ちください。GAAP(米国会計基準)に規定された新たな会計基準について、触れておかねばならないからです。この改定によって今後提出される四半期及び年次の会計報告では、バークシャーの純利益の数字が大幅に変形したものとなります。それによってメディアに登場する解説者や投資家が誤解してしまうことが、たびたび生じると思われます。
新たな規則は、「株式投資における未実現損益の期間増減額を、純利益の数字へ含めて報告書に記載しなければならない」点を要求しています。そのことで、GAAPに準拠する当社の経営成績は、実に荒々しく気まぐれに変動することになるでしょう。バークシャーは市場で取引されている株式を1,700億ドル保有しています(ただしクラフト・ハインツ社の当社持ち分を除く)。それら持ち株の評価額は、四半期ごとの会計期間において100億ドル以上容易に変動します。そのような規模で旋回する数字を報告利益に加えることは、当社の営業成績を描き出すまさしく重要な数字を台無しにします。バークシャーが示す「稼ぎ」は、分析しようにも役に立たないものとなるでしょう。
この新たな規則によって、コミュニケーション上の問題も併せて生じます。この問題は以前からも存在していました。「[証券売却時の]実現損益を当社の純利益に含めるように」と、会計規則が強制していたからです。そのため、過去の四半期及び年度ごとの決算発表の際には、「それらの実現益には気を取られないように」とみなさんに常々警告してきました。なぜならば未実現損益と同様に、その数字も不規則に変動するからです。
証券を売却した理由の大半は、その時期にそうするのが賢明だと思えたからでした。「なんとかして報告利益に影響させたい」と考えたわけではありません。その結果、ポートフォリオ全体が残念な成績の間に大幅な実現益を計上したことが、当社では往々にしてありました(その反対もありました)。
未実現益に関する新たな規則は、実現益に適用されている現行の規則がもたらした歪曲を、一層悪化させると思われます。そのため、みなさんが納得のいく数字を得られるように、それに必要な調整値を四半期ごとに説明する労苦を、わたしたちは背負うことになります。しかし決算発表時に映像で流れる解説はたちまち反応を受けがちですし、新聞の見出しでは必ずと言っていいほど前年比でみたGAAP純利益の増減に焦点を当てています。その結果、メディアはときに数字を強調した報道を行い、多くの読者や視聴者を不必要に怖がらせたり、煽り立てたりします。
わたしたちはこの問題を緩和するために、「決算報告の発表時期を、金曜日の遅い時刻つまり市場が終了してから少し後、あるいは土曜日の早朝にする」との慣習をつづけたいと考えています。それによって市場が開く月曜日までに、みなさんが分析にかける時間をなるべく多くとれるようになり、また資産運用者たるプロの方々が自分たちの見解を含めた解説を配布する余裕ができるでしょう。そうだとしても、会計のことがチンプンカンプンな株主の間では、かなりの戸惑いが生じると思われます。
バークシャーがもっとも心を砕いていること、それは1株当たり調整後利益を生む力を増加させることです。その指標はわたしだけではなく、長きにわたるパートナーであるチャーリー・マンガーも傾注しています。またみなさんもそうであってほしい、と両名とも望んでいます。それでは、引き続いて2017年度の星取表を説明します。(PDFファイル2ページ目)
To the Shareholders of Berkshire Hathaway Inc.:
Berkshire’s gain in net worth during 2017 was $65.3 billion, which increased the per-share book value of both our Class A and Class B stock by 23%. Over the last 53 years (that is, since present management took over), per-share book value has grown from $19 to $211,750, a rate of 19.1% compounded annually.
The format of that opening paragraph has been standard for 30 years. But 2017 was far from standard: A large portion of our gain did not come from anything we accomplished at Berkshire.
The $65 billion gain is nonetheless real - rest assured of that. But only $36 billion came from Berkshire’s operations. The remaining $29 billion was delivered to us in December when Congress rewrote the U.S. Tax Code. (Details of Berkshire’s tax-related gain appear on page K-32 and pages K-89 - K-90.)
After stating those fiscal facts, I would prefer to turn immediately to discussing Berkshire’s operations. But, in still another interruption, I must first tell you about a new accounting rule - a generally accepted accounting principle (GAAP) - that in future quarterly and annual reports will severely distort Berkshire’s net income figures and very often mislead commentators and investors.
The new rule says that the net change in unrealized investment gains and losses in stocks we hold must be included in all net income figures we report to you. That requirement will produce some truly wild and capricious swings in our GAAP bottom-line. Berkshire owns $170 billion of marketable stocks (not including our shares of Kraft Heinz), and the value of these holdings can easily swing by $10 billion or more within a quarterly reporting period. Including gyrations of that magnitude in reported net income will swamp the truly important numbers that describe our operating performance. For analytical purposes, Berkshire’s “bottom-line” will be useless.
The new rule compounds the communication problems we have long had in dealing with the realized gains (or losses) that accounting rules compel us to include in our net income. In past quarterly and annual press releases, we have regularly warned you not to pay attention to these realized gains, because they - just like our unrealized gains - fluctuate randomly.
That’s largely because we sell securities when that seems the intelligent thing to do, not because we are trying to influence earnings in any way. As a result, we sometimes have reported substantial realized gains for a period when our portfolio, overall, performed poorly (or the converse).
With the new rule about unrealized gains exacerbating the distortion caused by the existing rules applying to realized gains, we will take pains every quarter to explain the adjustments you need in order to make sense of our numbers. But televised commentary on earnings releases is often instantaneous with their receipt, and newspaper headlines almost always focus on the year-over-year change in GAAP net income. Consequently, media reports sometimes highlight figures that unnecessarily frighten or encourage many readers or viewers.
We will attempt to alleviate this problem by continuing our practice of publishing financial reports late on Friday, well after the markets close, or early on Saturday morning. That will allow you maximum time for analysis and give investment professionals the opportunity to deliver informed commentary before markets open on Monday. Nevertheless, I expect considerable confusion among shareholders for whom accounting is a foreign language.
At Berkshire what counts most are increases in our normalized per-share earning power. That metric is what Charlie Munger, my long-time partner, and I focus on - and we hope that you do, too. Our scorecard for 2017 follows.
2018年2月24日土曜日
ヨギ・ベラの卓見(ウォーリー・ワイツ)
前回の投稿につづいて、ウォーリー・ワイツのインタビュー記事を引用します。今回の話題は「価格決定力」と「価値評価」についてです。ウォーレン・バフェットと同じように、ちょっとした冗談を折り込むのがワイツ氏も上手ですね。マネー・マネージャーとしての研鑽を積んでおられるようです。(日本語は拙訳)
さて本日2月24日(土)の夜10時には、バークシャー・ハサウェイの年次報告書(及び「バフェットからの手紙」)が公開される予定です。新たな副会長2名の件は、必ずや取り上げられることでしょう。また現在の金利環境についても触れそうな印象があります。そして、アップル社や暗号通貨の話題は登場するでしょうか。
<ロトンティ> 最近お書きになった文章の中で、「ほとんどの業界において企業側の価格決定力が弱くなった。それというのも、インターネットを利用して価格をすみやかに比較できる能力を、買い手側が手にしたからだ」としています。それではどのような種類の企業であれば、今もなお強力な価格決定力を確実に持っていると思いますか。
<ワイツ> 強力な価格決定力とは、手元に維持するのが難しいものです。今でもそれが存在すると考えられるのは、たとえばライセンスに守られた独自製品やニッチ製品、フランチャイズ契約、特許が挙げられます。また莫大な初期投資を必要とする事業であれば、優位性があるかもしれません。しかし資本がごく安価に調達できたり横溢している時期に、安全といえる企業はほとんどないでしょう。ほかには「ネットワーク効果」が発揮されることで、市場を「勝者の総取り」によって独占できるかもしれません。しかしこれも優位性が営々とつづくものは、きわめてわずかです。
<ロトンティ> 価値評価をどのように考えていますか。ディスカウンティド・キャッシュ・フロー(DCF)分析を使いますか。売却金額を定めていますか。また、好みの評価指標がありますか。たとえばPER、PBR、フリー・キャッシュ・フロー(FCF)利回りはどうですか。
<ワイツ> 私たちが信奉している理論が2つあります。第一に、「事業の価値は、将来得られるキャッシュ・フローを現在価値に割り引いたものである」こと。第二に、「事業価値は、いずれ株価に反映されるであろう」ことです。しかしヨギ・ベラが言ったように、「理論と実践に理論上の違いはないが、実践してみると違いはある」ものです。
おなじみの評価指標は、様々な文脈を考慮して使わなければ、ほとんど意味がありません。DCF分析も同様にかなり鈍い道具で、「科学的精度を有する」という幻想を生み出しかねません。以前からの冗談でこんなものがあります。「DCFで使う割引率と掛けて、ハッブル宇宙望遠鏡と解く」。その心は、「数度動かせば、別の惑星系が見える」。
そうであれ、私たちが念入りに調べる企業については、DCFモデルを必ず作成しています。ただしモデルが一点の場所として示す「価値」は、すなわち購入に踏み切れと指示するものではありません。しかしモデルを構築するアナリストはその作業を通じて、当該企業がどのように機能しているか必然的に理解することになります。またモデルが存在すること自体によって、私たちの投資検討チームが企業の魅力や価値を議論・討議しやすくなります。
FCFについて一点申し上げますと、その定義は使う人それぞれによって異なっています。私たちは「随意利用可能な」キャッシュ・フローの意味で使っています。これは保守・保全費用を支払った後の現金収支[原文はcash earnings]を指しており、成長を期した投資費用は含みません。一例をあげると、ホテルは客室を定期的に改装する必要がありますが、これは保守・保全費用になります。一方、新規の客室棟を建て増す場合は成長投資、すなわち「随意」分となります(この差異は財務諸表上で明確ではないこともありますが、違いがある点を認識しておくことが大切です)。
「売却目標」についてですが、企業価値の見積もりや計算に変更があったり、株価が満額あるいは割高だと思われたり、さらには資本投下先としてもっと魅力的な対象が他にある場合に売却します。
JR: You recently wrote that the pricing power of companies in most industries has decreased because of the shopper’s ability to quickly compare prices using the Internet. Which types of companies do you believe still have strong pricing power?
WW: Strong pricing power is hard to come by. Unique products and niches protected by licenses, franchise agreements, patents, etc. still exist. Businesses that require huge, upfront capital investments can have an advantage, but in a period of very cheap and abundant capital, few companies are safe. “Network effects” can lead to “winner take all” market dominance, but again, very few advantages are permanent.
JR: How do you think about valuation? Do you use discounted cash flow analysis? Do you set sell targets? Do you have a preferred valuation ratio such as price-to-earnings (P/E), price-to-book (P/B), free cash flow (FCF) yield?
WW: We believe in the theory that (1) the value of a business is the present value of its future cash flows and that (2) business value is likely to eventually be reflected in its stock price. However, as Yogi said, “In theory there is no difference between theory and practice. In practice, there is.”
Popular valuation ratios mean very little without lots of context. Discounted cash flow analysis is also a very blunt instrument which can create the illusion of scientific precision. There’s an old joke that DCF discount rates are like the Hubble Telescope…move it a couple of degrees and you’re in a different solar system.”
We do make DCF models on all the companies we get serious about, though. While the single point “value” that comes out of the model doesn’t dictate our buying decision, building the model forces the analyst to understand how the business works and the model itself facilitates discussion/debate among our investment team about the attractiveness and value of the business.
One note on “FCF”: Practitioners differ on the definition of “free cash flow.” We talk about “discretionary” cash flow. That is, cash earnings after maintenance capex but before growth investments. For example, regular refurbishment of hotel rooms is required - maintenance capex. Adding a new wing of rooms is discretionary - growth capex. (The difference may not always be clear from financial statements but the distinction is important.)
As for “sell targets,” we sell if our estimate or calculations change, if a stock becomes fully/over-valued, or if we have a more attractive alternative use of the capital.
さて本日2月24日(土)の夜10時には、バークシャー・ハサウェイの年次報告書(及び「バフェットからの手紙」)が公開される予定です。新たな副会長2名の件は、必ずや取り上げられることでしょう。また現在の金利環境についても触れそうな印象があります。そして、アップル社や暗号通貨の話題は登場するでしょうか。
2018年2月20日火曜日
バリュー投資家ウォーリー・ワイツのインタビュー
ときどき取り上げるバリュー志向のファンド・マネージャー、ウォーリー・ワイツ氏が顧客向けレターの最新版を公開していました。そのなかで、株式投資情報サイトのモトリー・フールから受けたインタビュー記事が転載されていますので、一部をご紹介します。(日本語は拙訳)
Value Matters: Fourth Quarter 2017 Letter to Investors (Weitz Investment Management, Inc.)
ここからがインタビュー記事になります。
質の高いビジネス(high-quality business)に関する話題は、過去記事でも何度か登場しています。たとえば、以下のような記事があります。
・企業はすばらしくても自分はがっかり(アーノルド・ヴァンデンバーグ)
・レストランを品定めするように(ジョン・テンプルトン)
Value Matters: Fourth Quarter 2017 Letter to Investors (Weitz Investment Management, Inc.)
(前略)その一方で、投資からのリターンがなだらかに、あるいは想定可能なスケジュールにもとづいて得られることはありません。株式市場から「冷や飯を食わされる」期間がしばらく続くことには、すっかり慣れっこになっています。私たちの場合、「安い株を買い、高い株を売る」ことのどちらも、早い時期に実行することがよくあります。しかし作為的な低金利環境がここまで継続していることや、[証券が]高い評価を受けている現状や経済及び地政学的なリスクに直面しても投資家が無頓着でいることを過小評価していました。その結果、慎重を期した私たちのポートフォリオに対して、相対的リターンという意味でマイナスの影響をもたらしました。
そのようなやりかたで私たちが投資するのは、「長期にわたる投資期間でみたときに、成功する確率を最大化できる」と考えているからです。顧客であるみなさんから寄せられた資金は、大学進学にかかる費用や引退後に快適な生活水準を保つといった長期的な目標に向けたものと受けとめています。そのため、短期的な成績競争には重きを置いていません(資産が大幅に増加する年があっても、やぶさかではありませんが)。
(中略)
自分たちの投資プロセスやそれを実践する能力については、満足しています。それが不朽の原則にもとづいているからです。そして、「論理的に価値を測定できる資産は、高低どちらへも誤った値付けが必ず生じる」と考えています。なぜならば、「投資家はときに感情に従い、高値で買って安値で売る」ものだからです。ウォーレン・バフェットが言っているように、私たちのやるべきことは「他人が恐れをなすときに買い、他人が欲深いときに売る」ことにあります。先だってモトリー・フールから受けたインタビューの記事を、以下に一部再掲します。私たちの取り組むバリュー投資がどのようなものなのか、思い起こす際のお役に立てれば幸いです。
On the other hand, investment returns do not arrive smoothly or on a predictable schedule. We are very accustomed to being “out of step” with the stock market for stretches of time. We are often early both in buying cheap stocks and selling expensive ones. However, we underestimated the persistency of artificially low interest rates as well as investor complacency in the face of high valuations and both economic and geopolitical risks. As a result, our overly cautious portfolio positioning has had a negative impact on our relative returns.
The reason we invest the way we do is that we think it gives us the highest probability of success over long investment periods. We are investing client capital with an eye to funding long-term goals such as college education and improving the quality of life in retirement. We are not focused on short-term performance contests (though we are not opposed to outsized annual gains from time to time).
We feel good about our investment process and our ability to implement it because we think it is based on timeless principles. We believe that assets with logically measurable values become mispriced—both on the high and low sides—because investors’ emotions lead them to, on occasion, buy high and sell low. Our job, as Warren Buffett has said, is to “buy when others are fearful and to sell when they are being greedy.” A portion of our recent interview published by The Motley Fool is reproduced on the following pages. Hopefully, it will provide a good reminder of how we approach our version of value investing.
ここからがインタビュー記事になります。
ワイツ資産管理会社における連携作業及び利益について
創業者ウォーリー・ワイツが語る、見込み投資先のみつけかたと評価方法
2017年11月、モトリー・フール社ジョン・ロトンティ記
<ジョン・ロトンティ> 質の高いビジネスをどのように定義していますか。
<ウォーリー・ワイツ> ある著名な投資家がすばらしいビジネスについて次のように定義したことがあります。「原価は1円、売値は100円。そして中毒性があること」。この冗談はやがて魅力を失います、次の一言が付け加えられてからですね。「ただし顧客の命を奪うこと」。おそらくだれもが次のような事業を保有したいと考えることでしょう。まずは、大幅な競争優位性(バフェット言うところの「濠」(moat))を持っていること。2番目に、余剰の現金を生み出すこと。3番目に、当該事業において高いリターンを生み出す再投資の機会を有していること。そして4番目に、経営者が誠実であると共に、強力な資本配分の能力を持っており、株主を事業上のパートナーとして処遇し、長期的視点から1株当たりの企業価値を成長させることに注力する人物であること、です。
<ロトンティ> 投資に関するチェックリストをお使いですか。もしそうであれば、どのような項目をあげられているのか、少しばかり教えていただけないでしょうか。
<ワイツ> 正式なリストは作成していません。しかし作るとすれば、「質の高いビジネス」に関する属性が筆頭にくると思います。「生存能力」や「支配力の継続性」に関する項目がいくつか来るでしょう。「慎重な形で」借り入れを活用することは気にしませんが、会社の財務が十分な強靭さを持ち、想像し得るほぼすべての困難時にも耐えられる点は要求します。「パラシュートは、ほぼ常に開いていますから」では不十分です。スカイダイビングをするつもりはありません。
<ロトンティ> どのようにして投資対象の範囲を狭めているのか、またその範囲がどれほど広いものなのか、ご説明いただけますか。
<ワイツ> 正式のスクリーニングはあまりやりません。しかし10名からなるアナリストとポートフォリオ・マネージャーは、各々が投資候補の案を収集しています。読み物をしたり、各社と対話をしたり、投資業界内で話を交わしたり(バイサイド[機関投資家]とセルサイド[証券会社]の両方)などです。そして、あげられた投資候補について調査分析し、議論します。そのような精査を通過したものが、購入対象となったり、あるいは価格が適切と思われる時期が来たときに実際に投資する対象として、「待機」リストに加えられます。
<ロトンティ> 好みの業界や、あるいは避けている業界がありますか。
<ワイツ> 理屈の上では、投資候補に対して広く柔軟性をもって取り組んでいます。しかしながら、その企業がどのように機能しているのか理解できることが不可欠ですし、5年から10年後にどんな様子になっており、その期間内にどれだけの現金を生み出せるのか、それらを妥当に見積もれることも必要です。「予測可能であること」を要求するので、コモディティー関連あるいは競争が厳しくて急激に変化するビジネスには、あまり興味がありません。「軽資本」で済み、ケーブルテレビのような継続契約のビジネスのほうが好みです。正味で現金を生み出し、そこそこの借入で済む企業がいいですね。
[以降もインタビューは続く]
Collaboration and Profit at Weitz Investment Management
Founder Wally Weitz talks about how he finds and evaluates potential investments.
By John Rotonti • The Motley Fool • November 2017
John Rotonti:How do you define a high-quality business?
Wally Weitz: One well-known investor used to define a great business as one whose product cost a penny, sold for a dollar, and was addicting. That joke lost its appeal when people began to add, “but it kills its customers.” We would probably all like to own businesses that (1) have significant competitive advantages (Buffett’s “moat,”) (2) generate excess cash, (3) have high return reinvestment opportunities in the business, and (4) management with integrity and strong capital allocation skills who treat shareholders like partners in the business and who focus on long-term growth in the per share value of the business.
JR: Do you use an investing checklist? If so, would you mind sharing a few of those checks?
WW: We don’t have a formal list. If we did, the attributes of a “high-quality business” listed in No. 1 would be on it. There would also be some “viability” and “staying power” items. We are fine with the “prudent” use of leverage, but we insist that a company’s balance sheet be strong enough to withstand almost any conceivable type of adversity. “The parachute almost always opens” is not good enough—we don’t go sky-diving.
JR: Please explain how you narrow down your investable universe and how large that universe is.
WW: We do not do much formal screening, but each of our ten analysts and portfolio managers collects potential ideas from reading, interacting with other companies, talking to others in the investment business (both buy side and sell side), etc. Potential ideas are researched and discussed. Those that survive scrutiny may be bought or placed on the “on-deck” list for future investment when the price is right.
JR: Are there any industries you tend to prefer? Or avoid?
WW: We have great theoretical flexibility in what we may invest in. However, we need to be able to understand how the business works, to be able to make a reasonable estimate of what it will look like in 5-10 years and how much cash it will generate over that period. The need for predictability tends to lessen our interest in commodity related or highly competitive and rapidly changing businesses. We tend to favor “capital-light” and subscription businesses like cable TV. We like net cash generators and companies with modest leverage.
質の高いビジネス(high-quality business)に関する話題は、過去記事でも何度か登場しています。たとえば、以下のような記事があります。
・企業はすばらしくても自分はがっかり(アーノルド・ヴァンデンバーグ)
・レストランを品定めするように(ジョン・テンプルトン)
2018年2月16日金曜日
2017年の投資をふりかえって(3)サンリオ(8136)
(当社について前回とりあげた過去記事はこちらです。また本シリーズの前回分記事はこちらです)
当社の株を買ったのは2014年5月で、株価が大きく下落した時期でした。少なからぬリスクがあると承知はしていましたが、その後懸念していたリスクが発現し、昨年2017年6月に全売却するまでの投資成績は、散々な結果に終わりました。本投稿では当社における近年の業績を振り返り、教訓を書き記しておきます。
<株価動向と投資成績について>
現在の株価は1,900円前後です。一方、株の全売却時は2,100円程度でした。平均購入単価は約2,600円で、現物買い持ちだけをみた投資成績は赤字でした。受取配当金とつなぎ売りをしていた時期の利益も含めれば赤字ではないものの、それでも黒字幅はおしるし程度のものでした。投下した資金の割合が小さかったため、ポートフォリオ全体でみた資本効率にはほとんど影響していませんが、結果的には実行する意味のない投資でした。
下図の株価チャート上に、取引時期を示してあります。赤矢印が株式購入、青が売却、緑がつなぎ売り、黄がその買戻しです。
<業績の概要>
当社が営む主な事業形態は以下の3つです。
a. 自社キャラクターを活用した物販
b. 自社キャラクターのライセンス
c. テーマパーク
当社の前副社長であり、次代を担うはずだった辻邦彦氏(故人)は経営上の重要課題として「b. 自社キャラクターのライセンス」事業の強化を掲げていました。そこで2008年に社外から鳩山玲人(れひと)氏を迎え入れ、海外展開を強力に推進して、劇的な増収増益を果たしました。
しかし2014年初に前社長が突然死去したことで、当社の創業者で故人の父親でもある辻信太郎社長が実権を握り直しました。そして鳩山氏が加わった以降の成長路線を覆し、みずからが従来進めていた路線に回帰しました。そのなかで、海外ライセンス事業における鳩山氏主導体制をやめてしまいました。それ以降、すなわちポスト鳩山時代における業績は下図のようになります。
鳩山時代に積み上げられた海外ライセンス契約からの利益は、年を追うごとに減少しています。鳩山氏が注力していた欧州及び米州のライセンス事業が壊滅的で、元の木阿弥となりました。業績不振の理由として当初は『アナと雪の女王』の影響を挙げていましたが、俯瞰してとらえると鳩山氏の尽力が失われたことが大きな要因だと想像します。
なお業績に関してアジア向けライセンスが伸長していること、そして国内アトラクション(=テーマパーク)の赤字幅が縮小してきた点は評価できます。しかし欧米ライセンスの退潮を埋めるまでには至っていません。
経営陣としての権限や海外での担当領域を剥奪されていった鳩山氏は、それでもアニメーションに関する新規事業の責任者として在籍していました。しかし、とうとう2016年5月に取締役を退任されました。退任発表日の翌日に株を全処分すべきでしたが、その事実を真剣に受け止めていなかったせいで、機会をのがしました。
<教訓>
当たり前のことですが、「一般投資家の利益を考えない経営がなされている企業に、投資してはならない」ことを実感しました。鳩山氏以前の時代と同じように、当社における最大のリスクは「経営者リスク」であることを再認識しました。
話は変わりますが、ときに簡易生命表(PDF)を参照することがあります。たとえば、しまむらの創業者である島村恒俊氏は、まもなく92歳になります(生年月日はWikipediaによる)。92歳の平均余命は3.65年となっています。一方、サンリオの現社長は12月に90歳になったところです。90歳の平均余命は4.28年です。
当社の株を買ったのは2014年5月で、株価が大きく下落した時期でした。少なからぬリスクがあると承知はしていましたが、その後懸念していたリスクが発現し、昨年2017年6月に全売却するまでの投資成績は、散々な結果に終わりました。本投稿では当社における近年の業績を振り返り、教訓を書き記しておきます。
<株価動向と投資成績について>
現在の株価は1,900円前後です。一方、株の全売却時は2,100円程度でした。平均購入単価は約2,600円で、現物買い持ちだけをみた投資成績は赤字でした。受取配当金とつなぎ売りをしていた時期の利益も含めれば赤字ではないものの、それでも黒字幅はおしるし程度のものでした。投下した資金の割合が小さかったため、ポートフォリオ全体でみた資本効率にはほとんど影響していませんが、結果的には実行する意味のない投資でした。
下図の株価チャート上に、取引時期を示してあります。赤矢印が株式購入、青が売却、緑がつなぎ売り、黄がその買戻しです。
サンリオ株価チャート(2013-2017年) |
<業績の概要>
当社が営む主な事業形態は以下の3つです。
a. 自社キャラクターを活用した物販
b. 自社キャラクターのライセンス
c. テーマパーク
当社の前副社長であり、次代を担うはずだった辻邦彦氏(故人)は経営上の重要課題として「b. 自社キャラクターのライセンス」事業の強化を掲げていました。そこで2008年に社外から鳩山玲人(れひと)氏を迎え入れ、海外展開を強力に推進して、劇的な増収増益を果たしました。
(再掲)サンリオ営業利益の推移(2013年度まで) |
しかし2014年初に前社長が突然死去したことで、当社の創業者で故人の父親でもある辻信太郎社長が実権を握り直しました。そして鳩山氏が加わった以降の成長路線を覆し、みずからが従来進めていた路線に回帰しました。そのなかで、海外ライセンス事業における鳩山氏主導体制をやめてしまいました。それ以降、すなわちポスト鳩山時代における業績は下図のようになります。
サンリオ営業利益の推移(2016年度まで) |
鳩山時代に積み上げられた海外ライセンス契約からの利益は、年を追うごとに減少しています。鳩山氏が注力していた欧州及び米州のライセンス事業が壊滅的で、元の木阿弥となりました。業績不振の理由として当初は『アナと雪の女王』の影響を挙げていましたが、俯瞰してとらえると鳩山氏の尽力が失われたことが大きな要因だと想像します。
なお業績に関してアジア向けライセンスが伸長していること、そして国内アトラクション(=テーマパーク)の赤字幅が縮小してきた点は評価できます。しかし欧米ライセンスの退潮を埋めるまでには至っていません。
経営陣としての権限や海外での担当領域を剥奪されていった鳩山氏は、それでもアニメーションに関する新規事業の責任者として在籍していました。しかし、とうとう2016年5月に取締役を退任されました。退任発表日の翌日に株を全処分すべきでしたが、その事実を真剣に受け止めていなかったせいで、機会をのがしました。
<教訓>
当たり前のことですが、「一般投資家の利益を考えない経営がなされている企業に、投資してはならない」ことを実感しました。鳩山氏以前の時代と同じように、当社における最大のリスクは「経営者リスク」であることを再認識しました。
話は変わりますが、ときに簡易生命表(PDF)を参照することがあります。たとえば、しまむらの創業者である島村恒俊氏は、まもなく92歳になります(生年月日はWikipediaによる)。92歳の平均余命は3.65年となっています。一方、サンリオの現社長は12月に90歳になったところです。90歳の平均余命は4.28年です。
2018年2月12日月曜日
問題解決の技法(6)逆から考えよ(クロード・シャノン)
数学者クロード・シャノンが行った問題解決に関する講演について、最終回です。今回の話題は本ブログでよく取り上げるものですが(ラベル「逆にやる」を参照ください)、いつもとは別の天才が取り上げていることでも、その威力がうかがえます。前回分はこちらです。なお、意味段落での改行を追加しました。(日本語は拙訳)
もうひとつ触れておきたいやりかたがあります、数学上の研究をする際にたびたび出くわすものですが、問題を逆向きに考える方法です。ある前提条件Pに基づいて解Sを求めようとして、煮詰まっているとしましょう。そのとき、その問題を反転させて、「解Sは問題を解く上での所与の定理や公理、あるいは定数である」と仮定するのです。その上で、前提条件Pを求めるための術を考え出します。それが正しいやりかただと想像してみてください。するとその方向から問題を解くほうが、かえって易しいことに気づくかと思います。適切で単刀直入な道筋がみつかります。そうだとすれば、その問題を小さく分割した個々において、同じように考えることも多分に可能でしょう。別の例で言えば、たとえば印をつけた道筋がこうあって、このように中継していく点があちらへ続いているとします。そのとき、小さな段階ごとに反転させるやりかたがとれるでしょうから、証明するまでの困難な段階はおそらく3つか4つで済むものと思います。
設計の作業でも、同じことができると思います。私はコンピューターを設計することが時折あり、その種類は多岐にわたりました。そのなかで、ある所与の数量をもとに、ある数を計算させたいと考えたものがありました。それは「ニム」という名の石取りゲームを実行する機械となりますが、実に難しい仕事だとわかりました。この種の計算は実現可能ではあるものの、極めて多数のリレー[継電器]が必要になります。しかし「問題を反転させたらどうなるか」と考えた結果、もし所与のものと望まれる結果を入れ替えれば、至極簡単に実現できることがわかりました。さらにその考え方を発展させ、フィードバックを使うようにしました。そうすることで当初よりもずっと単純な設計になりました。つまり望まれる結果を起点にして戻ってくる際に、所与の入力値に合致するまでその値を使い続けるわけです。ですからその機械の内部では、利用者が実際に入力した数を得るまでは、さらにはPに照らした際に正しい手順である数に達するまでは、複数の数値を含む範囲Sをとりつつ、逆方向から動作しています。
このように、さきに触れた思想に基づいて解を求める方法を説明しましたが、大多数のみなさんにはひどく退屈だったのではないでしょうか。そこで、本日持参したこの装置をお見せしたいと思います。今回お話しした設計に関連する問題が、一つ二つ仕込んであります。これまでお話ししてきたことが反映してあると思いますので、この周りに集まってごらんになってください。この机の周りにみなさんが一度に集まれるかどうかは、何とも言えませんが。(おわり)
Now one other thing I would like to bring out which I run across quite frequently in mathematical work is the idea of inversion of the problem. You are trying to obtain the solution S on the basis of the premises P and then you can’t do it. Well, turn the problem over supposing that S were the given proposition, the given axioms, or the given numbers in the problem and what you are trying to obtain is P. Just imagine that that were the case. Then you will find that it is relatively easy to solve the problem in that direction. You find a fairly direct route. If so, it’s often possible to invent it in small batches. In other words, you’ve got a path marked out here - there you got relays you sent this way. You can see how to invert these things in small stages and perhaps three or four only difficult steps in the proof.
Now I think the same thing can happen in design work. Sometimes I have had the experience of designing computing machines of various sorts in which I wanted to compute certain numbers out of certain given quantities. This happened to be a machine that played the game of nim and it turned out that it seemed to be quite difficult. If [typo for It?] took quite a number of relays to do this particular calculation although it could be done. But then I got the idea that if I inverted the problem, it would have been very easy to do - if the given and required results had been interchanged; and that idea led to a way of doing it which was far simpler than the first design. The way of doing it was doing it by feedback; that is, you start with the required result and run it back until - run it through its value until it matches the given input. So the machine itself was worked backward putting range S over the numbers until it had the number that you actually had and, at that point, until it reached the number such that P shows you the correct way.
Well, now the solution for this philosophy which is probably very boring to most of you. I’d like now to show you this machine which I brought along and go into one or two of the problems which were connected with the design of that because I think they illustrate some of these things I’ve been talking about. In order to see this, you’ll have to come up around it; so, I wonder whether you will all come up around the table now.
2018年2月8日木曜日
かつて私も早すぎた(ハワード・マークス)
前回の投稿につづいて、ハワード・マークスの最新メモから、これで最後の引用です。(日本語は拙訳)
「早すぎる」予測については、以下の過去記事でも取り上げています。
・連続正解数1回(ハワード・マークス)
・早すぎることと誤っていることが区別できないとき(セス・クラーマン)
経済活動が好調な時期には、リスクが頭をもたげることはなく、リスクを取る者が大儲けします。そしてリスクの小さな別の候補はリターンの魅力に欠けるため、投資家は良識を脱ぎ捨ててしまい、「値段が高いことは、自分にとって問題ではない」と判断します。これは往々にしてあやまちとなりますが、そうなるまでに何年もかかることがあります。
箔をつけるために、その見方を支持する文章を引用します。
「マクロ的環境が今後も良好である限り、株価は『発行者の利益成長、それゆえ本源的価値の成長』を大きく上回る勢いで引き続き上昇しうる」、そのような見解に基づいているせいか、市場はきわめて快適な場所のようです。また市場参加者の中で適切な価値評価水準、つまり資産とその価格を繋ぐものに気をとめる者はごくわずかです。そのような状況が重なっていることから、私たちは「いずれ必ずや悪い結末に至る」と考えています..。
安定した経済や、低水準の金利、莫大なキャッシュフロー、楽観視著しい投資家、といった今日みられる諸要素が組み合わさることで、「巧拙どちらの投資対象にも資本は向けられ、『リスクは敬遠すべきもの』とはほとんど捉えられることのない」環境が創り出されました。
顧客向けのメモ「あなたは投資家、それとも投機家?」の中で、私がこの文章を書いたのは1997年のことです。現在の私と同じように、当時の私も慎重でした。そして「実はそれで正しかった」、そうなるまでに3年近くかかりました。これは「書いたときには間違っていた」という意味ではありません..。時期が早すぎたのです。(p. 4)
At times when the economy does well, risk doesn’t rear its head, risk-takers prosper and the returns on low-risk alternatives are unattractive, investors tend to drop their prudence and conclude that high prices aren’t a problem in and of themselves. This usually turns out to be a mistake, but it can take years.
For authority, I’ll cite a passage that seconds that view:
The market seems extremely comfortable with the proposition that as long as the macro-environment remains benign, stocks prices can continue to appreciate at rates that far outstrip the growth of their issuers’ profits, and thus the growth of their intrinsic value. Few market participants seem concerned about appropriate valuation levels - the relationship between assets and their prices - and this is a condition that we think must eventually have negative consequences. . . .
Today’s combination of a stable economy, low interest rates, enormous cash flows and strong investor optimism has created a climate in which capital is available for both good investments and bad, and in which risk is rarely seen as something to be shunned.
I wrote that in 1997, in a clients-only memo entitled “Are You an Investor or a Speculator?” I was cautionary then, like I am now. And it took almost three years for that to turn out to be correct. That doesn’t mean it wasn’t correct when it was written . . . just early.
「早すぎる」予測については、以下の過去記事でも取り上げています。
・連続正解数1回(ハワード・マークス)
・早すぎることと誤っていることが区別できないとき(セス・クラーマン)
2018年2月4日日曜日
今日の市場について両面から考える(悲観面)(ハワード・マークス)
ハワード・マークスのメモから、前回のつづきです。(日本語は拙訳)
<悲観視すべき諸要素> 前述した楽観的要素とは反対に、悲観的なものをみると、「(a)見通しは明るいものの、悪化する恐れのあるファンダメンタル上の要因」あるいは「(b)そういった順風なマクロ的要因ゆえに高値を付けられている価格や、その価格を生み出している投資家の行動」を取り巻く要素ばかりです。
・差し迫った見通しではないにせよ、不確実さそのものを表しており、懸念を持ち始めるべき事柄が散見されます。具体的には、「長期的にみた経済の成長性が鈍化する可能性や、金利およびインフレ率が上昇する可能性、景気への刺激をねらいとしてきた金融政策が反転したことや連銀による市場操作が証券の売越しへと転じたことによる影響、自動化が進展することによる雇用に対する影響、中国の成長に依存する世界的な状況、政治および地政学的なテール・リスク[発生確率は微小ながらも、甚大な影響を及ぼすリスク]」があげられます。しかし市場が上昇するにつれ、それらの話題はいずれも取りざたされなくなったようです。
・金利は上昇していくでしょうが(ほとんどの資産クラスにおいて競争を生じさせ、資産価格が低下する理由となります)、どれだけ上がるのかはわかりません。
・マクロ的な経済環境を特徴づける要素には、「息の長い」あるいは「著しく上昇した」と表現されているものが見受けられます。たとえば現在の景気回復は、過去最長の部類に入ります。GDP成長率はこの十年間にみられた振れ幅のなかで最上位に位置しますし、利益率は平均を大きく上回っています。この状況は今後も継続し、さらには向上するかもしれませんが、その可能性は低いと思います。また「今後1年半にわたって景気は後退しない」との雰囲気がただよっていますが、もしそうなれば今回の景気回復は1850年以来最長となります。もちろん不可能ではないですが、やはりその可能性は低いと思います。
・価値評価を表す数値のほとんどが、著しく割高か(株式時価総額対GDPを示したバフェット指数や、PSR、VIX、債券利回り、プライベート・エクイティーが事業を売買する際の[収益に対する金額の]倍率、不動産における還元利回り)、あるいは史上最大級の値(PER、CAPE別名シラーP/E)を付けています。過去をふりかえると、それらの水準に至った後の経済活動は落ちこんでいました。それゆえに、今日において投資に踏み切るかどうかを判断する際には、「今回はこれまでと違う」という信念に頼らざるを得ません。
・大多数の資産クラスにおける見込みリターン率は、史上最低の水準です。
・今ここにある「低リターン率の世界」において、それでも好成績をしぼりだそうとする投資家は、私が呼ぶところの「好リスク的行動」に手を染めている状況にあります。彼らは資産を高値で買い付け、リスキーかつ貧弱に組み上げた判断を受け入れています。そのような空気の中で「慎重な」投資家が伝統的な安全基準を主張するのは、むずかしいことです。ですから、そういったリスクを是認したくない投資家は(つまり「ダンスは勘弁」な人は)、蚊帳の外でたたずむことになるかもしれません。
・その結果、私が7月に出したメモの中で「市場は高値ながらも、続伸すると思われる」と記したことに対して、好意的な反応が数多くあげられました。しかし「資産や市場が高値だと感じつつも、なお上昇する可能性があると考えるがゆえに継続保有する」、そのような行動がどれほど健全だと言えるでしょうか。「置いてきぼりを避けたい」[英略称:FOMO]ことも、投資家が大胆果敢になる大きな理由となります。ただしその行動は、もっとも危険でもあります。
・市場のみせる挙動は、投資家側がどれだけ均衡がとれているかを示唆しています。それは現実離れしている(それゆえに反転しがち)と言えるかもしれません。たとえば2017年は「S&P500が高値から安値へと下落する際に、3%以上さがったことが一度もなかった」史上初めての年でした。同様に年後半の6か月間でみたときに、VIX指数(S&P500指数のオプション価格から示唆される価格変動性の水準を示す指標)の終値が10未満となった日数が40日間を超えました。6か月間でみたときに7回以上そこまで低かったことは、過去に例がありません(ニューヨーク・タイムズ、1月14日付記事より)。
・今日では投資上の判断をくだす際に、「現金や財務省証券から得られる、お話にならない程度のリターンとくらべた相対リターン」に基づくことが多いようです。また「割高な市場はさらに進む」と信じ込み、さらには「置いてきぼりを食いたくない」との思いも影響していることでしょう。これは絶対リターンや、本源的価値と比較した上での妥当な価格に基づく行動ではありません。それゆえに現在は、私の同僚であるジュリオ・ハレラがかつて述べた状況になっています。「価値評価の技は打ち捨てられ、今やモメンタムがすべてを決める」と。(p. 2)
Negatives - As opposed to the positives listed above, most of the negatives surround either (a) positive fundamental factors that have the potential to deteriorate or (b) the high prices being paid for those macro-positives, and the investor behavior creating those prices.
* While the outlook isn’t dire, a number of subjects do represent genuine uncertainties and provide basis for concern: the possibility of slow long-term economic growth, the potential for rising interest rates and inflation, the impact of reversing stimulative monetary policy and the Fed switching to being a net seller of securities, the implications for employment as automation increases, the world’s dependence on China’s growth, and political and geopolitical tail risks. As the markets have risen, talk of all these things seems to have gone quiet.
* We know interest rates are likely to rise (creating competition for most asset classes and arguing for lower asset prices).We just don’t know by how much.
* Some of the elements characterizing the macro-economic environment can be described as “long in the tooth” or “unusually elevated.” For example, the current recovery is one of the longest ever; the GDP growth rate is at the top of the range for the last decade; and profit margins are well above average. Things like these can continue or even get better, but the odds are against it. It feels as if we may get through the next 18 months without a recession, but if we do, that’ll make this the longest recovery since the 1850s. Certainly not impossible, but against the odds.
* Most valuation parameters are either the richest ever (Buffett ratio of stock market capitalization to GDP, price-to-sales ratio, the VIX, bond yields, private equity transaction multiples, real estate capitalization ratios) or among the highest in history (p/e ratios, Shiller cycle-adjusted p/e ratio). In the past, levels like these were followed by downturns. Thus a decision to invest today has to rely on the belief that “it’s different this time.”
* Prospective returns in the vast majority of asset classes are some of the lowest in history.
* The need of investors to wring out good returns in this “low-return world” is causing them to engage in what I call pro-risk behavior. They’re paying high prices for assets and accepting risky and poorly structured propositions. In such a climate, it’s hard for “prudent” investors to insist on traditional levels of safety. Investors who don’t want to sign on for risk (that is, who “refuse to dance”) can be constrained to the sidelines.
* As a result, we see a lot of the reaction that greeted my July memo: “the market’s expensive, but I think it has further to go.” How healthy can it be when investors think an asset or market is rich but they’re holding anyway because they think it might go up some more? Fear of missing out (or “FOMO”) is one of the more powerful reasons for investor aggressiveness, and also one of the most dangerous.
* Market behavior implies a level of equanimity on investors’ part that could prove unrealistic (and thus subject to reversal). For example, 2017 was the first year in history in which the S&P 500 didn’t decline from high to low by more than 3% at least once. Likewise, in a six-month period late in the year, the VIX (an indicator of the level of volatility implied by investors’ pricing of S&P 500 options) closed below a reading of ten more than 40 days; never before had it done so more than six times in a six-month period (The New York Times, January 14).
* It appears many investment decisions are being made today on the basis of relative return, the unacceptability of the returns on cash and Treasurys, the belief that the overpriced market may have further to go, and FOMO. That is, they’re not being based on absolute returns or the fairness of price relative to intrinsic value. Thus, as my colleague Julio Herrera said the other day, “valuation is a lost art; today it’s all about momentum.”
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