3四半期連続で下方修正が出るとは予想していませんでした。
昨日の業績予想修正で、当社の今期の業績予想が650億円の純損失となりました。娯楽産業が勢いのビジネスであり、ハイリスク・ハイリターンなのは岩田社長自身が折に触れて述べていますが、今期はすべての悪い目が揃ってしまったようです。テンプルトン卿は「見通しが最悪のものに目をつけよ」といっていますが、当社の現状はそれに近いといっていいでしょう。
さて、当社の今期の業績悪化の原因ですが、個人的には以下に集約されると考えます。
1. 新型ハードウェアの発表時期の悪さ(据置型Wii Uと携帯型3DSが重なったこと)
2. 3DSの主力ソフトウェア発売時期の遅れ(売上低迷と値下げへつながる)
3. ドル安及びユーロ安による為替評価損
前にもあげましたが、岩田社長も以下のように同じような認識をされているようです。
それから、会社、社員の仕事という意味では、やはり今回のことで、「(ゲームビジネスでは)たった一つ歯車が狂うだけで、会社のビジネスがこんなに変わるのだ」ということを、任天堂という組織全体が今思い知っているわけですから、そのことをむしろ今後に活かさないといけないと私は思っています。そういうことが教訓となり、任天堂が、タイミング、あえてこの言葉を使いますが、「天の時を逃さない会社になるのだ」というのが私の決意でございます。多分に精神論的ですが、ご理解ください。
さて、ある方は業績不振の一因として為替政策を次のように批判されています(
引用元はこちら)。
<Q 3-2>為替差損について、円より強いお金はない状態なので、外貨建て貯金をやめてほしい。任天堂は、ユーロ建てとドル建ての預金をたくさん持っているということで、毎回損をしたと聞くと頭がいたくなる。
<A 3-2 岩田社長>
為替差損が出ており、これは、当然決算の数字が悪い方向に振れるわけですから、その一年一年を見ると(資産を外貨建てで持つことが)適切であるとは言えないとおっしゃることもよく分かります。また、任天堂は今、売上の8割以上が海外ですから、海外で売り上げた時に、その売上というのは必ず一度外貨で入って参ります。そこで、その外貨で入ってきたものを、どのように会社として保持しておくべきか。もちろん、為替差損をなくすということだけに注目いたしますと、その時点で入ってきた瞬間にすべて円に替えれば、為替差損を後で被ることが一番少ないというメリットがございますが、一方で為替というのは常に変動いたします。確かに、この2年強の間、非常に円高基調で進みましたので、その結果、手持ちの外貨建て資産は評価替えをするとどんどん目減りしています。円換算すると、数字上の額が減るわけです。そしてそれは、会計上の決算の数字を悪くします。しかし一方で、為替というのは必ず一定の周期で振れる要素も持っています。私は、今確かに日米欧の通貨の中で円が最強であるという評価をされているということについては否定いたしませんが、その一方で、経済の現状、あるいは今の日本は、これから人口減少が起こっていかざるを得ない人口構成の国であること、その他を考えた時に、円が強いまま未来永劫続いていくとは必ずしも考えられない状況です。私どもとしては、「為替による変動をどうやってヘッジするか」というポイントをまず考えることと、それから「日米欧の基軸通貨をどのようなバランスで持つのか」ということの方が重要だと思っていますので、そういう意味で配分は(過去と)変えております。あるいは、任天堂はこれまで、円建てで支払って製造したものを外貨で売って、外貨の収入を得て、という形でビジネスを展開してきましたが、ここ数年の間に、仕入れに関してはドル建てでの仕入れを非常に大きく増やし、結果、毎期の収益において、ドルの変動に対する影響を以前に比べてはるかに小さくできるようになりました。しかし、残念ながらユーロ建ての支払いを喜んで受けてくださる取引先がまだ大手では見つかっていないこともあり、(ヨーロッパ)現地での売上が上がる一方、支払いには使えず、ユーロばかりがたまってしまうという現状が今起きやすくなっていまして、このユーロを定期的にどの通貨に変えて持つべきかということは当然議論すべきだと思います。確かに、「毎期の為替差損を生じさせないために外貨建ての資産運用は一切やめるべきだ」というご意見は、もちろんご意見として、われわれも考えていかないといけないことだと思いますが、一方で、これからはなおのこと、いつどの国の基軸通貨が不安定になるか分からない、不確実な時代になったわけですから、私たちは、むしろ複数の基軸通貨をバランスよく持つことが、任天堂がどんな場合にも備えを持つ上で最も妥当ではないかと思っています。長い目で見ていただくと、為替差損・差益のバランスがとれていくはずだと思っています。
上のような批判とは逆に、当社を日本企業と捉えるのではなく、アメリカ企業と考えてみるのはどうでしょうか。経営やクリエイターに日本人を登用し、日本の株式市場に上場していると捉えるのです。所在地別セグメントでみると、売上高のいちばん大きいのが南北アメリカ大陸です。また主要3市場(アメリカ、欧州、日本)の中では日本がもっとも売上が小さく、また販管費の割合でも日本単体は5割程度なので、「日本企業」とこだわる必然性は大きくないと思います。そうなれば、少なくとも為替差異はドルベースでみることができます。現在のようにドル安になればNintendo株の日本円換算は安くなりますが、先のことはわかりません。長期的にみれば為替は、相対的にどれだけ国力を維持できるかの問題です。先の批判に岩田社長が答えているように、現経営陣は当社の未来が日本だけに帰するとは考えていません。ですから、当社の株主として判断しなければならないことのひとつに、マクロレベルの観点が加わっているわけです。マクロが読めない投資家は、当社に投資しないほうがよいかもしれません。
一方、為替以外の経営上の失敗(上記の1,2)ですが、今後も同じことをくりかえすかどうかは経営者次第です。個人的には、次はよくなるだろうと予想しています。この手の過ちを繰り返すような人材にはみえないからです。当社の財務基盤があれば少なくとも1回の失敗は許されますし、そもそも経営陣も、そのリスクを踏まえた財務政策をとっています。
また、もうひとつの経営上の懸念である競合スマートフォンですが、これは消費者がプラットフォームを購入するかの問題で、ゲームやシステム自体の課題とは別とみることもできます。つまり、それらの出来がよければ乗り越えられる、ということです。任天堂ブランドを構築している以上、乗り越えられない壁ではない、と感じています。
さて、いよいよWii Uの登場が2012年の年末と発表されました。それまでの売上をどうやってあげるのか、現行機種Wiiの売上をどうするのか、はたまた3DSの売上で逃げ切るのか、今年の任天堂の動向と株価は目が離せなくなってきました。当社にはまだ投資していませんが、6,500円に近づくほど買いの機会と考えています。その前には、自社株買いが決議されるとは思いますが。