ot

2014年11月30日日曜日

人間はそもそも常に希望を抱く(『脳科学は人格を変えられるか?』)

0 件のコメント:
少し前に『脳科学は人格を変えられるか?』(著者:エレーヌ・フォックス)を読みました。題名からある程度予想できるように、本書では楽観主義者と悲観主義者の違いを脳科学の面から明らかにして、楽観的な精神を築いて維持するにはどうすればよいかを考察しています。ここで言う「楽観」とは単なるお気楽な心持ちを示しているのではなく、前途にある人生を真摯にとらえた、健やかな見方です。

本書は内容がしっかりしているだけでなく、文章の構成も巧みで、よみやすく書かれています。地味な題名に地味な表紙と、売れない条件が揃っていますが、広くお勧めしたい良い本だと思います。個人的には、今年のベスト3に入れたい作品です。

それではまず今回は「楽観」に関する文章をいくつか引用します。

あらゆる生物にとって生き残る可能性を最大化する手段は、食物や性交などの<良きもの>に接近すること、そして捕食者や毒などの<危険なもの>を避けることだ。人間のさまざまな行動や複雑な生態はすべて、これらふたつの習性から生まれていると言ってもいい。 (p.38)

シュネイルラは実験室と野外の双方で行ったすべての観察と実験の結果から、あらゆる生物を結ぶ原理は、食物と安全な場所を見つけようという衝動(=報奨への接近)と、何かに食われないようにする衝動(=危険の回避)の二つに尽きると結論した。ハトであろうとネズミであろうと馬であろうと、はたまたヒトであろうと、報奨に「接近する」ことと脅威を「避ける」ことは、行動の最大の動機づけだといえる。 (p.40)

上で引用した内容はあたりまえのことながら、チャーリー・マンガーは心理学の話題を展開した際に筆頭に挙げていました(過去記事)。いちばん大切なことをいちばん初めに説明するというのは、チャーリーであれば当然の理にかなったやりかたです。

次の3つの引用は、楽観という感情が人間に埋め込まれた避けがたい性質であることを説明しています。

サニーブレインの中でもっとも活発にはたらいている化学的メッセンジャーはドーパミン、そしてアヘンと似たはたらきをする脳内物質のオピオイドだ。側坐核を構成する細胞にはこのドーパミンとオピオイドのどちらかが含まれており、これらの神経伝達物質の活動こそが、人間がさまざまな経験を楽しんだり欲したりするのを促している。これらは、サニーブレイン全体のエンジンルームでいわばオイルの役目を果たしており、楽観をつくりあげる基本要素のひとつだ。 (p.72)

なぜ人々は、こんなふうに抑えがたい楽観を抱くのだろう? 地球規模の問題が目の前に山積しているのに、なぜそれでも未来を楽観できるのだろう? その答えは、複雑かつ興味深い。謎のひとつは、人間の脳がそもそも未来に常に希望を抱くように配線されていることだ。

これまで見てきたように、サニーブレインの重要なはたらきのひとつは、究極の報奨に向けてつねに人間を駆り立てることだ。楽観は、人間が生き延びるために自然が磨きあげた重要なメカニズムであり、そのおかげでわたしたちは、ものごとがみな悪いほうに向かっているように見えるときでさえ前に進んでいくことができる。 (p.86)

なぜ人間の脳は、こんなに楽観的な方向にかたむいているのだろうか? ひとつの理由はこの楽観こそが、毎朝人間が寝床から起き上がるのを可能にする力だからだ。楽観とは本質的には認知上のトリックだ。このトリックのおかげで人は、懸案事項や起こりうる問題や予想外の危機を過剰に心配しなくてすむ。 (p.87)

最後の引用です。こちらも重要な指摘です。

男性は進化論的な観点からいえば、できるだけ多くの相手と交尾しなければ生存競争を勝ち残れない。だからたった1回でも「つがう」チャンスを逃すことは大きな痛手になる。いっぽう相手から拒絶される痛みはほんの一瞬で、さして高くはつかない。だから男性にとって自分の魅力を過信するのは、きちんと採算のあう行為なのだ。かくして楽観主義の種は、それが現実をふまえていようがいまいが、広く蒔かれていくわけだ。 (p.89)

2014年11月28日金曜日

2014年デイリー・ジャーナル株主総会(2)何かまちがっていますか

0 件のコメント:
バークシャー・ハサウェイの株主総会ではチャーリー・マンガーはあまりしゃべらないようですが、デイリー・ジャーナル社の株主総会ではちがいます。いつもご紹介している講演のように、鋭い意見を飛ばしています。今回からは、参加者との質疑応答をご紹介します。まずはいきなり核心の話題、彼の持論である長期集中投資についてです。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問> ゆたかに暮らせるだけのお金ができてからは、個人としてはどれだけの投資リスクを負いましたか。

<マンガー> マンガー家の資金は、ほとんどがバークシャー・ハサウェイかコストコか、アジアに投資するファンドに投じています。デイリー・ジャーナル社への投資は勘定に入れていません。アスタリスクで示す程度の割合ですから(笑)。資金をうまく扱えると考えている人は、別のやりかたで運用しようと考えるかもしれません。彼らにしてみれば、「マンガーは自分のしていることがわかっとらん、まったくもって考えられん、あれは我々のモデルには合わん」というわけです。しかし正しいのは私で、まちがいは彼らのほうだと思いますよ。

銘柄選びをうまくできるほどに聡明ならば、3つの銘柄で十分です。そのどれをとっても、みなさんの御一家を営々と支えつづけてくれるでしょう。必要な金額の1000倍も所有していれば、たとえばある年に他人の資産が10%増えたのに自分は5%減ったところで、だからどうだというのでしょうか。そういった頭のおかしな判断をする人は、実のところ他人を妬んではいません。問題なのは顧客です。他の人と同じだけ成果があがらないと、彼らの首を切るからです。おかしなやりかたですよ、みんなで同じメリーゴーランドに乗ろうというわけですから。そういうのはまったく興味がないですね。こうして待っていれば、手持ちの証券は日々新高値を付けてくれます。このやりかたで何かまちがっていますか。

Q. How much investment risk did you take personally once you had made enough money to live well?

Munger: Most of the Munger money - I don't count the Daily Journal, it's just a little asterisk (laughter) - is in Berkshire Hathaway, Costco (ticker: COST), and an Asian fund. Now, you could go to the rest of finance, they think they know how to handle money, and they'd say it's totally unthinkable, Munger doesn't know what the hell he's doing. Doesn't fit our models. But I'm right and they're wrong.

If you're shrewd enough to choose well, three holdings - any one of which would support your family in perpetuity - is enough security. What difference does it make if somebody else in some year goes up 10% and you go down 5%, when you've got 1000 times more than you need anyway? The people who make these crazy decisions don't actually have envy: what they have is clients who will fire them if they don't get the same results as everybody else. That is a crazy system. Everybody gets on the same merry-go-round. I never had any interest. As I sit here, all my securities are making new highs every day. Am I doing it wrong?

2014年11月26日水曜日

IBMで考えた戦略(前CEOサム・パルミサーノ)

2 件のコメント:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー2014/12月号に、IBMの前CEOだったサミュエル・パルミサーノ氏のインタビュー記事「投資家をマネジメントする」が掲載されていました。今回は、同記事から一部を引用します。

サムが敷いた路線は、基本的には現CEOのバージニア・ロメッティ女史にも受け継がれていると捉えています。そのため彼の意見は、IBMにおけるマネジメントの現状を代弁しているように思えました。なお、本家であるHarvard Business Reviewに原文が掲載されたのは今年の6月号です。

まずは、対話を通じて主要な機関投資家から受けた要望についてです。

大株主の意見に耳を傾ければ、自社の戦略に合致した方法でうまく対応できることに私は気づきました。彼らは基本的には、株主にも配慮して資本を配分してほしいと申し入れているだけでした。売上げの伸びよりも、利益率の拡大やキャッシュの創出を求めていたのです。なぜなら、企業がキャッシュを生み出せば、自社株買いや配当という形で株主に還元されると心得ていたからです。だれも価値が見出せない、無意味な大型買収に走るようなことはないと百も承知なのです。 (p.43)

つぎは、IT企業のライフサイクルについてです。

企業は創業後、私が「第一幕」と呼ぶ段階を経験します。商品がヒットしたり、大成功を収めたりする第1フェーズです。現時点でも、グーグルやフェイスブックのように大成功している企業があります。このような企業はアイデアに秀で、かなりの収益を上げているでしょうが、たちまち第2幕が必要になります。はたして第2幕は、時価総額をたとえば300億ドルから1000億ドルに押し上げてくれるでしょうか。これは、少々やっかいです。マイクロソフトが現在直面しているのは、この種の課題です。 (p.46)

最後は、戦略の策定や実行についてです。

とにかく、すべてを整合させることです。まず着手すべきは戦略です。IBMの場合、利益率と創出価値がより高い事業に移行するという戦略を策定しました。すなわち、陳腐化しつつある事業から撤退し、価値を生み出せると判断した事業分野に進出するというものです。アナリティクスやクラウド、ビッグデータ、つまり数々のソフトウェアがこれに当たります。その次に、投資家が「その戦略は私にも成果をもたらす」と言えるような財務モデルに戦略を転換しなければなりませんでした。そのうえで、この財務モデルを経営システムに焼き直して、各事業部門がそのロード・マップを実行できるようなプランを策定しなければなりません。さらに報酬体系を整備し、戦略の成功可能性を高める必要がありました。つまり、戦略を起点として、端から端までをしっかり結びつけたのです。 (p.47)

IBMの企業戦略と聞けば、過去記事で取りあげたルイス・ガースナーの言葉が思い返されます。

2014年11月24日月曜日

ウォーレン・バフェットから最初に学んだこと(メリンダ・ゲイツ)

0 件のコメント:
ビル・ゲイツの奥さんであるメリンダが、ウォーレン・バフェットについて語った短い文章がありました。翻訳するほどの長さではありませんが、いつものやりかたでご紹介します。(日本語は拙訳)

Melinda Gates: Warren Buffett Taught Me How To Be A Good Friend (Business Insider)

なお上記の引用元は完全にオリジナルな記事ではなく、元ネタはFortuneの記事から抜粋したとのことです。Fortuneの記事へのリンクはこちらです。(ちなみに、こちらではウォーレン自身の別の話題も登場しています)

ビルといっしょにウォーレン・バフェットにはじめてお会いして間もない頃に、彼が友人をわたしたちに紹介してくれたことも、強く印象に残っています。ウォーレンの友人はこれ以上は望めないほどのすばらしい方ばかりでした。彼は生涯を通じてそのような交友関係を築いてきたのでしょうね。そのとき「これは、わたしも友人関係を育まなきゃ」と心から感じました。

ウォーレンは友人に対してちょっとしたことをしてあげるのですね。たとえば考えたり読んだりした記事を送ったりなどです。そういうことが、わたしが友人との関係を考える上で参考になりました。

One of the things I was most impressed about when Bill and I met Warren Buffett very early on was he introduced us to his friends. And Warren has the most high quality set of friends you could meet, and these are friends that he has had over his lifetime. And it really got me thinking, "wow, I better cultivate my friends."

Warren does little things with his friends, like he will send you an article of something he is thinking about, reading about. That was a way to help me think about my friends.

2014年11月22日土曜日

お粗末だった私の経歴(チャーリー・マンガー)

0 件のコメント:
チャーリー・マンガーが1998年に行った講演「慈善財団における資産運用の現状」の6回目、最終回です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

締めくくりとして、論争を招くであろう予測と、同じく論争を呼びそうな見解を述べます。

まずは、論争を招く予測のほうです。もしみなさんの中でバークシャー・ハサウェイとよく似た投資方針をとる人がいて、ずっとのちになってからそれを振り返ってみれば、何もしないようにとウォーレン・バフェットを説得できなかったとしても、後悔するところはないでしょう。一方バークシャーにとっては、投資上の競争相手がいっそう賢明になるわけですから、後悔する所以となります。しかし実際には、他の人が聡明になったせいでどのように不利になろうと、バークシャーが悔いることはありません。我々が概してこの世の現実をどう捉えているのか、他の人に対して参考にしてはどうかと勧めているのですから。結局我々は、自分たちが手にできる成功を望んでいるに過ぎないわけです。

次も批判を呼ぶと思いますが、私の見解では「財団の間では、複雑で費用が高くつく投資形態は重視しないように検討することが、もっと一般的になる」と思います。私の疑念に反してそのような形態がうまくいくようになっても、資産運用という仕事の大半には反社会的な影響が根深く及ぶでしょう。それと言うのも、その仕事が今現在つづいている有害な潮流を悪化させるからです。すなわちこの国の道徳的な若者の頭脳を、儲けの大きい資産運用の世界やそこに付随する現代的な軋轢へとますます引き寄せている傾向のことです。それは、他者に対してもっと多くの価値をもたらす仕事とは異なる種類のものです。資産運用という仕事はお手本を示していません。初期のチャーリー・マンガーが歩んだ経歴は、若い人からすればお粗末な事例でした。資本主義社会からもぎ取った見返りとしての、社会に対する貢献が不十分だったからです。しかし、他の人の似たような経歴はもっと悪いですね。

そのような事例を頼りにするよりも、財団にとってはもっと建設的な選択肢があります。賢明さゆえに称賛を集めている国内企業の数社へと、長期的に集中投資するやりかたです。

そうだとすれば、どうしてベン・フランクリンのやりかたを模倣しないのでしょうか。結局のところベンという人は、社会に貢献するという点で上手い成果をあげましたし、また相当な投資家でもありました。お手本にするならば、バーニー・コーンフェルドよりもベンのほうがずっと優れていると思いますよ。さあ、どちらを選ぶかはみなさん次第です。(おわり)

To conclude, I will make one controversial prediction and one controversial argument.

The controversial prediction is that, if some of you make your investment style more like Berkshire Hathaway's, in a long-term retrospect, you will be unlikely to have cause for regret, even if you can't get Warren Buffett to work for nothing. Instead, Berkshire will have cause for regret as it faces more intelligent investment competition. But Berkshire won't actually regret any disadvantage from your enlightenment. We only want what success we can get despite encouraging others to share our general views about reality.

My controversial argument is an additional consideration weighing against the complex, high-cost investment modalities becoming ever more popular at foundations. Even if, contrary to my suspicions, such modalities should turn out to work pretty well, most of the money-making activity would contain profoundly antisocial effects. This would be so because the activity would exacerbate the current, harmful trend in which ever more of the nation's ethical young brainpower is attracted into lucrative money management and its attendant modern frictions, as distinguished from work providing much more value to others. Money management does not create the right examples. Early Charlie Munger is a horrible career model for the young because not enough was delivered to civilization in return for what was wrested from capitalism. And other similar career models are even worse.

Rather than encourage such models, a more constructive choice at foundations is long-term investment concentration in a few domestic corporations that are wisely admired.

Why not thus imitate Ben Franklin? After all, old Ben was very effective in doing public good. And he was a pretty good investor, too. Better his model, I think, than Bernie Cornfeld's. The choice is plainly yours to make.

2014年11月20日木曜日

バークシャー・ハサウェイ、IBM株保有状況の推移(2014年9月末まで)

0 件のコメント:
バークシャー・ハサウェイが保有する公開企業の株式のうち、時価ベースでの上位3社はウェルズ・ファーゴ、コカ・コーラそしてIBMです(2014年9月末時点)。今回はそのうちのIBMの話題です。

IT企業であるIBMはウォーレン・バフェットが手を出さないできた種類の企業ですが、2011年からバークシャーのポートフォリオに加わりました。意外さを説明しておきたかったのか、彼の想いはいわゆる「バフェットからの手紙」で触れられています(過去記事)。

そのIBMは今年度第3四半期の業績が悪く、直前には180ドル近辺だった株価が160ドル強まで下落しました(Google Finance)。実績PERは10倍強と、興味が出てくる水準です。そこで今回は、ウォーレンがIBMの株価水準をどう捉えてきたのか想像する材料のひとつとして、バークシャーがIBM株を購入してきた推移(四半期ごと)をグラフにしました。情報源は、同社が提出した報告書13F-HRです。

EDGAR Search Results - BERKSHIRE HATHAWAY INC Filing Type: 13F-HR


グラフをみれば明らかなように、大半は2011年の間に購入されています。当時の平均購入単価はざっと170ドル前後でしょうか。その後株価がやや上昇したせいか、追加購入ペースは激減しました。しかし今回の株価下落で、ふりだしの水準に戻りました。ただしEPSをくらべると、2010年度は11.52ドルに対して2013年度は14.94ドルと、株主から見た収益力は30%ほど増加しています(ちなみに純利益は、148.33億ドルから164.83億ドルへと11%増加)。さて注目のウォーレン・バフェット氏、IBM株を追加購入するのでしょうか。次回の13F-HRが楽しみです。

(蛇足ですが、個人的にはIBMはここ数年にわたって継続監視しており、この株価水準は興味を持っています。しかし現在は別の投資対象を注視しているので、今のところIBMは見送るつもりです)

2014年11月18日火曜日

2015年の株式市場を予想する(ボブ・ロドリゲス)

0 件のコメント:
ボブ・ロドリゲスは「慎重派」のマネージャーとして何度もとりあげています。初期の頃に書いたように、彼は早い時期から警告を出すタイプなので、ただの怖がりな投資家に思えるかもしれません。しかし彼のファンドの長期的な成績は見事なもので、攻守のバランスに長けていると感じています。今回は久しぶりになる彼のインタビュー記事(刺激的な題名です)から、一部を引用します。(日本語は拙訳)

Bob Rodriguez: New Great Recession Coming in 3 Years (ThinkAdvisor)

<質問> 市場や経済について、どのようにお考えですか。

<ロドリゲス> 現在のわたしたちは予想以上に長生きしています。市場が下落したら、たくさんの資産運用マネージャー等が海へと流され、陸に戻ることはないでしょう。これから2018年のあいだに、それが起こると思います。

<質問> それはなぜですか。

<ロドリゲス> 連邦政府が支出を統制していないからです。また、この2年間に生じた投資上のリターンは、その60%がPERの上昇によるもので、利益成長もかなりの金融的な操作によって達成されています、連邦政府や企業による操作です。わたしはこの2年間、座して言いつづけてきたものです。「みなさん!わかっているのですか!」と。 (1ページ目)

THINKADVISOR: What's your take on the market and the economy?

ROBERT RODRIGUEZ: We're living on borrowed time. When this market breaks, you're going to see so many money managers and others washed out to sea who will never see land again. It will happen between now and 2018.

Why?

The federal government isn't controlling their spending. For the past two years, 60% of investment returns have been a function of P/E expansion. Earnings growth is being driven by a fair amount of financial engineering on the part of the Federal Reserve and corporations. I'm sitting here for two years saying, "Hel-lo! Doesn't anybody get this?"

<質問> [想定読者である]投資顧問のみなさんへ、何か助言をお願いします。

<ロドリゲス> 私が生きているのは現在のこの場ではなく、5年や10年先の世界です。これまでいつもそうしてきました。これからの2年間では、いろいろなことが起こると思います。これをお読みのみなさんは、リスクの大きな資産に投じられているかもしれません。では、今投資している資産には、今後2、3年間に生じるであろう価格変動を補えるだけの十分な安全余裕があるとお考えですか。もしそう思うなら、それは喜ばしいことです。しかしそう思えないのであれば、おそらく資産配分の中に現金や流動性がもっと必要なのだと思います。

<質問> ご自身のポートフォリオはどのような状況ですか。

<ロドリゲス> この7月を最後に、株式へ直接投資している分はすべて売却しました。株式への直接投資をまったくしないのは、この43年間ではじめてです。ただし当社の投資信託を通じては保有しています。 (2ページ目)

What's your advice to advisors?

I don't live in the here and now; I live five and 10 years in the future and always have. Lots of things will be coming together in the next two years. Your readership [could] be deployed in risky assets: Do you believe the assets you're invested in compensate you with sufficient margin of safety for the volatility of what's likely to transpire in the next two to three years? If the answer is yes, be happy. If the answer is no, then maybe you need more cash or liquidity in your asset-allocation structure.

What's in your own portfolio?

I sold my last direct ownership stock in July of this year. So, for the first time in 43 years, I don't own any equities directly. I own stocks through our mutual funds.

<質問> 生き残っていくために、どのような戦略を使って市場で儲けを出すのですか。

<ロドリゲス> 長期的な投資で成功をおさめるには、備えるべき5つの要素があります。1番目は「規律」です。証券を分析する際には規律を持つ必要があります。2番目は「辛抱」です。証券が魅力的な状態になるのを待つわけです。その次がいちばんむずしくて、「勇気」です。だれもがやめろというときに、踏み切れる勇気が必要です。つづいて来るのが再び「辛抱」することで、証券に投資した成果があがるのをじっと待つ必要があります。

<質問> そして最後のひとつは?

<ロドリゲス> 最後はまたもや「規律」です。売り時を正しくわかっているときに売る、また自分の下した分析が誤っているときに売る、そのような守るべき規律です。全体をまとめると、「規律」が2つ、「辛抱」が2つ、そして「勇気」を加えます。それらを混ぜ合わせれば、投資家として長期的な成功をおさめられると思います。 (2ページ目)

What strategy do you live by to make money in the market?

Being successful in longer-term investing requires five elements. The first is discipline: You have to have discipline in how you analyze your securities. The second is patience to wait for those securities to present themselves in an attractive way. Next is the most difficult: courage. You have to have the courage to execute when all else says don't. Then you need patience again - to allow those investments to work out over a period of time.

And finally?

You need discipline again to sell because you've been correct or to sell because your analysis has been incorrect. So you have to have double doses of discipline, double doses of patience; and then you mix in courage. With that concoction, the odds are you'll be a successful investor longer term.

<質問> 2015年の株式市場はどうなると予想していますか。

<ロドリゲス> それは下がりますよ。今とくらべて2割や3割は楽に下がると思いますね。 (3ページ目)

What's your forecast for the stock market in 2015?

Lower! It will be easily 20% or 30% lower from what it is now.

2014年11月16日日曜日

慈善財団は何銘柄に分散投資すればよいか(チャーリー・マンガー)

0 件のコメント:
チャーリー・マンガーが1998年に行った講演「慈善財団における資産運用の現状」の5回目です。今回の内容は、まさにチャーリーの中心教義です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

「株式投資においてインデックスに連動させることは、論理的なやりかたではない」、そうわかるほどに頭のいい人に対して多大な分散を義務付ける伝統的な見解がありますが、大いに疑問ですね。そのような見方は、ひどいまちがいだと思います。

米国において、長期にわたって優秀な国内企業3社だけにほとんどすべての財産を投資しつづけた人や組織は、手堅くも裕福になっています。そのような資産の保有者であれば、他の投資家が何かで成功しようが失敗しようが、いつだって気にしませんよ。特にそうなのは、バークシャーのようなやりかた、つまり「コストを抑えたり、長期的な効果を重視する認識を欠かさず、選りすぐりへと集中することによって、長期的に優れた成績をあげられる」、これが理に適ったものだと確信しているときです。

もっと言えば、一族や財団が株式1銘柄に90%[の資産]を集中させておくことが、場合によっては合理的な選択になると私は考えています。実際、マンガー家にはこの方針におおむね従ってほしいと願っていますよ。ここで触れておきたいのがウッドラフ家[コカ・コーラ社を買収した]の財団です。彼らはほぼ90%を創始者のコカ・コーラ株に集中させてきました。それが極めて賢明だったことは実証済ですね。米国のあらゆる財団が創始者の株を一切売却せずにいたら、どのような歩みになったでしょうか。それを計算するのは、さぞ興味ぶかいことでしょう。今よりもずっと良い結果になった財団が非常に多いと思いますよ。しかし、こう述べる人がいるかもしれません。「分散することによって、未発だった惨事に備えてかけるべき保険を不要なものにしたのですよ」と。それに対しては、こうお答えしましょう。「相対的な影響力を失う以上に悪いことが財団にはあります。だから、裕福な組織が長期的な成果をなるべく大きくしたいと願うのであれば、裕福な個人と同様に自腹で保険をたくさんかけておくべきです」。

さらに言えば、この世の良きことのすべてが財団からの寄付によってなされるわけではありません。財団の投資対象である企業が営む日常的な業務は、良き成果をそれ以上にあげているものです。そして、投資家に対して平均以上の長期的な見通しを与えるという点において、他をしのいでうまくやれる企業があります。ですから、財団が投資を大幅に集中させて投資先を称賛したり寵愛しても、ばかばかしいとか、おろかだとか、不道徳だとか、不法だとは、私は考えません。実際ベン・フランクリンは、遺言によって創設される慈善寄付がそのような投資を実践するようにと要求したものです。

バークシャーが株式投資で実践していることのもうひとつの観点は、比較対照するに値します。これまでバークシャーでは、外国の企業へ直接投資することはほとんどありませんでした。一方、財団では外国への投資が多々みられます。

このような乖離が生じた経緯については、ピーター・ドラッカーの「他の権利やほとんどの他国とくらべて、米国の文化や法制度は株主の権利に対して殊に好ましい」とする見解に賛同すると申し上げたいところです。実際多くの外国では、一般株主にとって好都合なことはなんであろうと優先順位が非常に低く、他の領域の支持者のほうが序列が前になっています。私が思うに、多くの機関投資家がこの要因を軽視しています。たぶん、現代的な金融手法では定量的な検討が容易にはできないからでしょう。しかし、ある「熟練者」が他の種類の威力をうまく測定できるからと言って、威力が損なわれない重要な要因もあります。一般論としては外国へ直接投資するよりも、バークシャーの流儀、つまりコカ・コーラやジレットのような企業を通じて外国経済に参画するほうを好む傾向が私にはあります。

I have more than skepticism regarding the orthodox view that huge diversification is a must for those wise enough so that indexation is not the logical mode for equity investment. I think the orthodox view is grossly mistaken.

In the United States, a person or institution with almost all wealth invested long-term, in just three fine domestic corporations, is securely rich. And why should such an owner care if, at any time, most other investors are faring somewhat better or worse? And particularly so when he rationally believes, like Berkshire, that his long-term results will be superior by reason of his lower costs, required emphasis on long-term effects, and concentration in his most preferred choices.

I go even further. I think it can be a rational choice, in some situations, for a family or a foundation to remain ninety percent concentrated in one equity. Indeed, I hope the Mungers follow roughly this course. And I note that the Woodruff foundations have, so far, proven extremely wise to retain an approximately ninety percent concentration in the founder's Coca-Cola stock. It would be interesting to calculate just how all American foundations would have fared if they had never sold a share of founder's stock. Very many, I think, would now be much better off. But, you may say, the diversifiers simply took out insurance against a catastrophe that didn't occur. And I reply: There are worse things than some foundation's losing relative clout in the world, and rich institutions, like rich individuals, should do a lot of self-insurance if they want to maximize long-term results.

Furthermore, all the good in the world is not done by foundation donations. Much more good is done through the ordinary business operations of the corporations in which the foundations invest. And some corporations do much more good than others in a way that gives investors therein better-than-average long-term prospects. And I don't consider it foolish, stupid, evil, or illegal for a foundation to greatly concentrate investment in what it admires or even loves. Indeed, Ben Franklin required just such an investment practice for the charitable endowment created by his will.

One other aspect of Berkshire's equity investment practice deserves comparative mention. So far, there has been almost no direct foreign investment at Berkshire and much foreign investment at foundations.

Regarding this divergent history, I wish to say that I agree with Peter Drucker that the culture and legal systems of the United States are especially favorable to shareholder interests compared to other interests and compared to most other countries. Indeed, there are many other countries where any good going to public shareholders has a very low priority and almost every other constituency stands higher in line. This factor, I think, is underweighed at many investment institutions, probably because it does not easily lead to quantitative thinking using modern financial technique. But some important factor doesn't lose share of force just because some "expert" can better measure other types of force. Generally, I tend to prefer over direct foreign investment Berkshire's practice of participating in foreign economies through the likes of Coca-Cola and Gillette.

2014年11月14日金曜日

2013年度バフェットからの手紙 - (付録)企業年金制度について(5)

0 件のコメント:
ウォーレン・バフェットがワシントン・ポストのキャサリン・グラハム向けに書いた企業年金制度に関する注意について、5回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

あらゆる年金制度に共通する資産運用上の問題

年金を給付することを決定したら、どのように支払えばよいでしょうか。法的あるいは堅実なビジネス上の慣行によれば、約束を履行できるように十分秩序だった形で一貫した基準の資金を分別管理することが要求されています。この方法をとれば、職務を果たしてくれている期間は従業員に給料を払い、それと共に定期預金口座を開設して(全体としてであり、個人ごとではありません)、引退時に年金を購入するために利子を複利で増やします(もちろん、実際に購入する年金制度はほとんどありません。単に年金基金が請け合うことを意味するものです)。これによって、退職以降の期間を通じて支払うとした約束から放免されます。ですから、現時点でわたしたちに発生する費用や必要な現金は(定期預金口座で得られる収入の見積もりが、退職率や給与の上昇動向や寿命などの見積もりと同じように正確であれば)、「引退するまで従業員を雇用する総コストが、むしろ現役時代以降にも同じように広がる」ことを示すわけです。

(このように事前に積み立てる方式では、現在実行された仕事に対してかかる費用を、現時点で全額対応させています。これは社会保障制度とは対照的です。そちらのやりかたは基本的に、現在の現役世代に課税して、そこから現在の引退世代へ支払っています。これはありていに言えば、現在国内で生産された製品やサービスの一部を、生産者の手から引退者や約束された人に対して移転しているだけです。もしそのようなシステムが非常に長期間にわたって有効的であれば、そして人口動態がほどほど一定で、かつ約束の内容もほどほど一定で、さらにはインフレが生じなければ、そのような賦課年金方式によって発生する実質的な影響は、事前積立方式と大きくは変わらないでしょう。しかし、そのような状況は生じません。それらはさまざまな問題を引き起こす可能性があるからです。それには、インフレを悪化させたり、それゆえに私的年金の経済性にとってマイナスの副次的影響をもたらす、といった問題も含みます)

連邦政府とは異なって、事業を営む企業では「定期預金口座」を設ける必要があります。それは年金制度へ適切に資金を用意するために、投資から得られる利益を蓄積したり、ある種の資産運用を行うためのものです。そのため、年金資産に対して資産運用上の決定を下す必要があるわけです。 (p.122)

The Investment Management Problem Inherent in All Pension Plans

Once having committed to provide pensions, how do we pay? The law and prudent business practice mandate that we start putting aside funds on a fairly orderly and consistent basis from which we can fulfill our promises. In this manner we pay the employee currently while he is being productive for the company, and we simultaneously set up a savings account (collectively, not individually) which will accumulate at interest so as to purchase an annuity (not actually "purchased" in most plans, of course, just assured by the pension fund) for him at retirement which will discharge our promise to pay him throughout his non-productive years. Thus, our current cost and current cash requirements (if our estimates are accurate as to what we will earn on the savings account as well as other estimates regarding turnover, salary escalation, longevity, etc.) will reflect his total lifetime employment costs to us spread rather evenly over his productive years.

(This advance funding treatment, matching full current costs against current production, contrasts with the Social Security Plan's program which essentially taxes current producers to pay current non-producers. This simply means moving a portion of current national output of goods and services over from those who produced it to those who are non-producing, and to whom promises have been made. If such a system had been in effect for a very long time, the demographic profile remained fairly constant, the promises remained fairly constant, and there was no inflation, the net effect from such a pay-as-you-go approach would not substantially differ from an advance funding basis. However, these conditions do not exist which may make for various problems - including some that exacerbate inflation and thus have negative fall-out for the economics of private plans.)

Because a business corporation, unlike the Federal government, has to create a "savings account" - an investment accumulating and investment management operation of some sort - to properly fund its pension plan, it must make investment management decisions with respect to pension plan assets.

2014年11月12日水曜日

チャーリー・マンガーの炉辺談話(6)燃やしたほうがマシだった

0 件のコメント:
米ウォール・ストリート・ジャーナルのブログで、ジェイソン・ツヴァイク氏がチャーリー・マンガーにインタビューした記事、今回が最後です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問> 会計について

<マンガー> 今や会計事務所では(2002年のサーベンズ・オクスリー法や2010年のドッド・フランク法が成立し、当局による規制が実施されたことで)、非常に多くの人間を雇わざるを得なくなりました。ですから必要な新人をまるごと採用するには、基準を下げないといけない状況になったのです。政府は会計士に対して警吏たれと要求しますが、警察官ができるほどに聡明な人はわずかです。会計士に警察をやらせようなどと期待してはいけません。会計事務所は会計士を統率する倫理的な心構えを持つべきです。あらゆる企業は、たとえ完璧に合法だとしても自社にとって相応しくないことは、長々と書き連ねておくべきです。監査役を警吏にしてしまうと、監査上の対立が増すごとに会計士と顧客の間で緊張が高まります。すると多くのことが隠匿され、コストは増加し、結局だれにとっても悪い事態へと進むことになります。

On accounting:

Accounting firms now [in the wake of regulatory requirements under the Sarbanes-Oxley Act of 2002 and the Dodd-Frank Act of 2010] have had to hire so many people that they have had to go way down in the bucket to get all these new employees. The government is asking accountants to be policemen, but the number of people smart enough to be qualified for policing is too low. We shouldn't be expecting accountants to do the policing. Firms should have the ethical gumption to police themselves: Every company ought to have a long list of things that are beneath it even though they are perfectly legal. Every time you increase the antagonism of the audit by making the auditors the policemen, you increase the tension between the accountants and the clients. More things end up getting hidden, costs go up, everyone ends up worse off.

<質問> 新聞業界の凋落について

<マンガー> この国で新聞業界が果たしてきた役割は、まぎれもなく卓越したものでした。言論界は何十年にもわたって、もう一つの政府、それもおよそ優れた規範として機能してきたのです。新聞社を経営していた人たちの多くは、最高の倫理基準を抱き、社会の利益に関する純粋な良識を備えていました。新聞が死にゆく様を目のあたりにして、この社会が迎える将来を案じています。いったい何が新聞の代わりを果たすことになるのか、まだわかりません。しかし、悪くなるのは目に見えています。

On the decline of newspapers:

The role that newspapers played in this country has been absolutely remarkable. The Fourth Estate functioned for decades like another, almost better form of government in which many newspapers were run by people of the highest ethical standards and a genuine sense of the public interest. With newspapers dying, I worry about the future of the republic. We don't know yet what's going to replace them, but we do already know it's going to be bad.

<質問> 資産運用業界で多く見られるばかばかしさについて

<マンガー> 2000年当時の話ですが、ベンチャーキャピタル・ファンドは総額にして10兆円もの資金を集め、インターネット関連の新興企業に注ぎこみました。10兆円ですよ。そうするぐらいなら、最低でも5兆円は桶にでも放り込んで、溶接バーナーで燃やしたほうがマシでしたよ。あれは、手数料で商売している資産運用会社によくある狂ったやり方です。だれもが資産運用のマネージャーをやりたがります。できるだけたくさん資金を集めて、狂ったようにトレードしあって、結局は上前をはねたいのですね。知り合いのある男で非常に頭が良くて有能な投資家がいますが、彼にこう質問したことがあります。「顧客の機関投資家には、どれだけリターンをあげるつもりだと説明しているのかね」。彼が答えました。「20%ですよ」。なんとも呆れました。それが不可能なことを彼は承知しているはずです。しかし彼はこう続けました。「チャーリー、いいですか。もし低い数字を示せば、一銭も投資してくれないのですよ」。資産運用業界というのはイカれてますね。

On the absurdity of much of the money-management industry:

Back in 2000, venture-capital funds raised $100 billion and put it into Internet startups - $100 billion! They would have been better off taking at least $50 billion of it, putting it into bushel baskets and lighting it on fire with an acetylene torch. That's the kind of madness you get with fee-driven investment management. Everyone wants to be an investment manager, raise the maximum amount of money, trade like mad with one another, and then just scrape the fees off the top. I know one guy, he's extremely smart and a very capable investor. I asked him, ‘What returns do you tell your institutional clients you will earn for them?' He said, ‘20%.' I couldn't believe it, because he knows that's impossible. But he said, ‘Charlie, if I gave them a lower number, they wouldn't give me any money to invest!' The investment-management business is insane.

<質問> 機関投資家や個人投資家が行うデリバティブや株式の高速トレードについて

<マンガー> あれでは幼児殺しですね。ラスベガスで店をやっている人が善人に見えますよ。

On rapid trading of derivatives and stocks by institutions and individuals:

It's like the slaughter of the innocents. It makes the people who run Las Vegas seem like good people.

2014年11月10日月曜日

ブタによって浪費される学生時代(リチャード・ドーキンス)

0 件のコメント:
前々回に取り上げた『好奇心の赴くままに ドーキンス自伝I』から、さらに引用します。最初は、遺伝子同士がどのように相互関連するのか比喩を使って表現した文章です。本ブログでよく取り上げる話題「モデル同士の相互作用」に通じるものがあり、ひとつの見方として参考になると思います(過去記事1, 過去記事2, 過去記事3)。

私の遺伝学のチューターだったロバート・クリードは、変わり者で女性嫌いの唯美主義者、E・B・フォードの生徒であり、フォード自身は偉大なR・A・フィッシャーから大きな影響を受けていて、私たちはみなフォードから、フィッシャーに戻れと教えられた。私はこうしたチューターから、そしてフォード博士自身の講義から、遺伝子は体に及ぼす影響に関しては、原子のように孤立しているのではないことを学んだ。むしろ、一つの遺伝子の効果は、ゲノム内の他の遺伝子から成る「背景」によって条件づけられているのである。つまり、遺伝子は互いの効果を修正しあっているのである。のちに私自身がチューターになったとき、私はこのことを生徒たちに説明するために一つのアナロジーを考えついた。体は、天井に並んだフックに取り付けた無数の紐によってほぼ水平に吊るされた1枚のベッド・シーツの形によって表される。それぞれ1本の紐は1つの遺伝子を表す。遺伝子の突然変異は、天井に取り付けられた紐の張り具合で表される。しかし -- ここがこのアナロジーの重要な部分だが -- 、それぞれの紐は、下に吊るされたシーツに孤立して取り付けられているわけではない。むしろ、それは複雑なあやとりのように、多数の他の紐と絡まり合っている。このことは、どれか1つの紐に絡んでいる他のすべての紐の張り具合にも、あやとり全体に及ぶ一連の連鎖反応によって、同時に変化が起こる。そして結果としてシーツ(体)の形は、各遺伝子がシーツの「自分の」小さな単一の部分に個別に作用することによってではなく、すべての遺伝子の相互作用によって影響を受ける。体は肉屋の各部名称の図のように、対応する特定の遺伝子に「切り分け」できるようなものではない。むしろ、1つの遺伝子が、他の遺伝子との相互作用によって体全体に影響を与えうるのである。この喩え話を精巧にしたいなら、あやとりを横から引っ張ることによる環境的 -- 非遺伝的な -- 影響を取り込めばいい。 (p.246)

次の引用はドーキンスの啓蒙者魂を規定するような、ガリレオ・ガリレイにまつわるエピソードです。

アーサーはまた、ガリレオについてけっして忘れられない話をしてくれたが、それはルネサンス科学のどこが新しいかを要約するものだった。ガリレオは一人の学識者に、自分の望遠鏡を通して天文学的現象を見せていた。その紳士は概略、次のようなことを言ったとされる。「先生、あなたの望遠鏡による実演は非常に説得力がありますから、もしアリストテレスが積極的に逆のことを言っているのでなければ、私はあなたを信じます」。現在なら、誰か権威と考えられている人間がただ断言しただけのことのほうが好ましいからと言って、実際の観察によるあるいは実験による証拠を、きっぱりと退けることのできる人間が誰かいれば、きっと驚くだろう -- あるいは驚くべきだ。しかし、これが要点なのだ。変わったのはそこだった。 (p.248)

上の引用でドーキンスは、現代科学がなしとげた進歩を評価しています。しかし同時に、非ハード・サイエンス的な領域に対して反省をうながしているようにも読めました。

最後の引用です。こちらもなかなか厳しいご意見です。

ときどき思うのだが、学生時代は、十代で無駄に浪費されるにはあまりにももったいない。ひょっとすれば、熱心な教師たちは、ブタの前に真珠を投げる代わりに、生徒たちが真珠の美しさを評価できるだけの大人になるよう教える機会を与えられるべきなのかもしれない。 (p.204)

2014年11月8日土曜日

慈善財団における賢明な投資方針(チャーリー・マンガー)

0 件のコメント:
チャーリー・マンガーが1998年に行った講演「慈善財団における資産運用の現状」の4回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

現代的な選択肢として、少なくとも3つが考えられます。

第一は、財団が投資顧問と手を切り、投資先を株式インデックスへと変更して売買回転数を減らすやりかたです。

第二は、財団がバークシャー・ハサウェイの先例をたどるやりかたです。ことに評判の良い内国企業に対して事実上完全にパッシブに投資することで、胴元へ毎年支払う費用合計を0.1%未満へ抑えます。このプロセスをとれば、外部からの助言を仰ぐ理由は見当たりません。手数料を払うというのは、あくまでも投資顧問会社の優秀な人を適切に使うためです。召使いとは主人にとって役に立つ道具たるもので、道理に反する報酬によって自らに仕えるものではありません。それでは、まるで「いかれ帽子屋のお茶会」ですよ。

第三は、財団が借入れを使わずに証券へ投資することに加えて、以下のいくつかを行う有限責任組合へ投資して補完するやりかたです。初期段階のハイテク企業へ借入れなしで投資すること、借入れを使って企業買収を行うこと、借入れを使って株式の相対価値アービトラージを行うこと、そしてあらゆる証券・デリバティブで借入れを使ったアービトラージ[原文はconvergence trades]やエキゾチックなトレードを行うこと、が考えられます。

平均的な財団にとって、現在行っている借入れなしでの株式投資よりも賢明な選択肢とは、第一案のインデックス投資だと私は考えます。その理由は、インデックス連動型証券の提供者が示してくれているので明白ですね。特にそうなのは、現在胴元へ支払っている額が年率にして年初資産の1パーセントを超えている場合です。ほとんどだれもがそちらに鞍替えしてしまえば、インデックス投資で良い成果をあげられるのも終わりとなりますが、それでもまあ、かなりの期間はそれでうまくいくでしょう。

第三の選択肢はこじゃれた有責組合に投資するものでしたが、今日の話題の範囲を大幅に超えています。ただし、これだけは触れておきましょう。マンガー家の財団ではそれほど投資していないですし、LBO(レバレッジド・バイアウト)ファンドで考慮すべき2つの点は少しも触れたことはありません。

LBOファンドを思案する上でまず念頭におくべき点は、大きな借入れを使って諸企業をまるごと100パーセント買収する点です。ハッパをかける旗振り役が2階層あるので(最初の階層が経営陣で、もう1階層がLBOファンドのジェネラル・パートナーです)、株式インデックスが低迷する場合にはそれを凌駕できるかはなんとも言えません。本質的には、証券に相当するものを借入れを使って買うという点で、LBOファンドはうまい方法です。しかし株式の成績が悪いと、負債によって惨事を招く可能性があります。特にそうなのは、全般的なビジネスの状況が悪いがために株価が低迷する場合です。

2番目に考慮すべき点は、LBOの被買収候補に対する競争が激しくなることです。たとえば、その候補がすぐれたサービスを提供する企業だとしましょう、GE社が子会社のクレジット会社を使えば、年間100億ドル分以上を全額借金で買うことができます。支払う利息は、米国政府が支払うのとくらべてごくわずかに高いだけで済みます。この種のことは普通の競争では済まずに、大競争へとつながります。今日では、大から小まで非常に多数のLBOファンドがあります。どこも資金たっぷりのところばかりで、どこかを買収すればジェネラル・パートナーが大きな報奨を得られるようになっています。加えて、企業からの買い圧力も増しています。たとえばGEのような企業は、負債と株式を組み合わせることができます。

つまるところLBOの領域では、ひそかに隠れた証券同士の共分散があるわけです。それは、全般的なビジネスの状況が悪いときに災難を招くものです。その上、今や競争は激烈です。

私も一度有責組合を運営していたことがありますが、時間の制約があるのでこの件に言及するのはおわりにして、次に進みましょう。財団向け選択肢の第二案について、もっとつっこんだ話をします。これはバークシャー・ハサウェイがとっている投資慣行をよく模倣するものです。非常に限られた株式を選択して証券ポートフォリオを組み、売買回転率を事実上ゼロのまま保つわけですね。このことから、次なる疑問「財団ではどれだけ分散投資するのが望ましいのか」が生じます。

There are at least three modern choices:

1. The foundation can both dispense with its consultants and reduce its investment turnover as it changes to indexed investment in equities.

2. The foundation can follow the example of Berkshire Hathaway, and thus get total annual croupier costs below one-tenth of one percent of principal per annum, by investing with virtually total passivity in a very few much-admired domestic corporations. And there is no reason why some outside advice can't be used in this process. All the fee payer has to do is suitably control the high talent in investment counseling organizations so that the servant becomes the useful tool of its master, instead of serving itself under the perverse incentives of a sort of Mad Hatter's Tea Party.

3. The foundation can supplement unleveraged investment in marketable equities with investment in limited partnerships that do some combination of the following: unleveraged investment in high-tech corporations in their infancy; leveraged investments in corporate buy-outs; leveraged relative value trades in equities; and leveraged convergence trades and other exotic trades in all kinds of securities and derivatives.

For the obvious reasons given by purveyors of indexed equities, I think choice (1), indexing, is a wiser choice for the average foundation than what it is now doing in unleveraged equity investment. And particularly so, as its present total croupier costs exceed one percent of principal per annum. Indexing can't work well forever if almost everybody turns to it. But it will work all right for a long time.

Choice (3), investment in fancy limited partnerships, is largely beyond the scope of this talk. I will only say that the Munger Foundation does not so invest and briefly mention two considerations bearing on LBO funds.

The first consideration bearing on LBO funds is that buying one hundred percent of corporations with much financial leverage and two layers of promotional carry (one for the management and one for the general partners in the LBO fund) is no sure thing to outperform equity indexes in the future if equity indexes perform poorly in the future. In substance, a LBO fund is a better way of buying equivalents of marketable equities on margin, and the debt could prove disastrous if future marketable equity performance is bad. And particularly so, if the bad performance comes from generally bad business conditions.

The second consideration is increasing competition for LBO candidates. For instance, if the LBO candidates are good service corporations, General Electric can now buy more than $10 billion worth per year in GE's credit corporation, with one hundred percent debt financing at an interest rate only slightly higher than the U.S. Government is paying. This sort of thing is not ordinary competition, but supercompetition. And there are now very many LBO funds, both large and small, mostly awash in money and with general partners highly incentivized to buy something. In addition, there is increased buying competition from corporations other than GE using some combination of debt and equity.

In short, in the LBO field, there is a buried covariance with marketable equities - toward disaster in generally bad business conditions - and competition is now extreme.

Given time limitation, I can say no more about limited partnerships, one of which I once ran. This leaves for extensive discussion only foundation choice (2), more imitation of the investment practices of Berkshire Hathaway in maintaining marketable equity portfolios with virtually zero turnover and with only a very few stocks chosen. This brings us to the question of how much investment diversification is desirable at foundations.

2014年11月6日木曜日

オックスフォードが私をつくりあげた(『ドーキンス自伝I』)

0 件のコメント:
進化生物学者リチャード・ドーキンスの自伝『好奇心の赴くままに ドーキンス自伝I』を読みました。出世作『利己的な遺伝子』を読んで以来、彼の著作は少しずつ手にするようにしています。彼の主張や熱情と同じように、情緒ゆたかな文体は濃厚なところがあり、読み手を選ぶかもしれません(わたしは好きです)。今回引用する話題は「学ぶことについて」です。

オックスフォード大学が私をつくりあげたと書いたが、本当は私をつくりあげたのはその個別指導(チュートリアル)システムであり、これはたまたま、オックスフォード大学とケンブリッジ大学に特有のものだった。オックスフォードの動物学課程には講義や実験室での実習ももちろんあったが、それらは他のどこの大学と比べてとりわけ驚くようなものではなかった。いい講義もあれば、よくない講義もあったが、私にとってはほとんど大差がなかった。というのも、私はまだ講義に出ることの意味がわかっていなかったからである。それは情報を受け入れるということではないはずで、したがって、私がそれまでしていたこと(そして事実上すべての大学生がいまでもしていること)、つまり考えるための配慮がまったく残されないまま奴隷のようにノートを取ることには、なんの意味もない。この習慣から私が離れることができた唯一の機会は、かつてペンを持ってくるのを忘れてきたときだった。(中略)

その1回の講義については私はノートを取らず、ただ聴く--そして考える--だけにした。それはとりわけいい講義ではなかったが、私は、そこから他の講義--なかにはもっとずっといい講義もあった--よりもずっと多くを得た。なぜなら、ペンがないことが、私に聴いて考える自由を与えてくれたからだ。しかし私は自らの教訓を学び取り、以後の講義でノートを取るのを止めるだけの分別はなかった。

理屈のうえでは、講義ノートを取るのは試験勉強のために使うためのはずだが、私は自分のノートを見返すことはけっしてなかったし、同級生のほとんどもそうしていなかったのではないかと思う。講義の目的は情報を伝えることではないはずだ。そのためには書籍や図書館があり、今日ではインターネットもある。講義は刺激を与え、思考を呼び起こすべきである。あなたは、優れた講師が目の前で独り言を言い、思考に触手を伸ばし、高名な歴史学者A・J・P・テイラーのように、何もないところから何かを掴むのを観察しているのだ。独りごとを言い、内省し、熟考し、明晰にするために言い換え、ためらい、それから把握し、ペースを変え、考えるために休む優れた講師は、問題を考える方法、それについての情熱を伝える方法に関して、一つの役割モデルになりうる。もし講師が、だらだら読むように情報を伝えるのなら、聴き手はそれを読んでいるのと同じことだろう--たぶん、講師自身の本で。

ノートを取るなという私の忠告は、少しばかり誇張しすぎだ。もし、講師が独創的な考え、あなたに考えさせるような衝撃的なことを言ったのなら、そのときはぜひとも、後でそれについて考える、あるいは何かを探すために、メモを書いておくべきだ。 (p.239)

私はヒトデの配管についての最低限の事実は覚えているが、問題なのは事実ではない。問題は、それを発見するよう私たちに仕向ける方法なのだ。私たちがしたのは、教科書をくわしく勉強するだけではなかった。図書館に行って新旧の書物を調べ、その話題について自分が世界の権威に可能な限り近づくまで、もとの研究論文の軌跡を1週間でたどっていった(現在なら、この作業の多くをインターネットでするだろう)。毎週の個別指導で刺激を与えられる以上、ヒトデの水力学について、あるいはどんな話題についてであれ、単に本を読むだけですむことはないのである。その1週間、私は寝て、食べて、ヒトデの水力学の夢を見ていたことを思いだす。管足が私の瞼の下を行進し、水圧で動く叉棘(さきょく)が探り、海水が朦朧とした私の脳の中を脈動していった。小論文を書くのは心の浄化(カタルシス)であり、このまるまる1週間を正当化するのが、この個別指導なのだ。そしてまた次の週には新しい話題が出され、新しいイメージの祭りが図書館で呼び起こされるだろう。私たちは教育されつつあった……。そして私は、今日自分にいささかでも文才が備わっているとみなされるならば、その大半がこの週ごとに課された訓練の賜(たまもの)であると信じている。 (p.245)

最後はおまけです。リチャード・ドーキンスが生まれたのは1941年で、大英帝国が傾きはじめたばかりの時期でした。生誕の地はアフリカのケニアで、幼少期の思い出のほとんどはアフリカで占められています。次の引用は、アフリカならではのエピソードです。

ときどき私は[ドーキンスの母親]、隣のレノックス・ブラウンの農場に伝言を届けに、ボニーと呼ばれていたルビーの持ち馬で送り出された。はじめてその家に行ったとき、ボーイが、メンサヒブと呼んでいた大きな応接間を私に見せてくれた。その部屋は、私が待っているあいだ、輝く日の光を遮るために降ろされた安っぽいカーテンのために暗かったが、突然、私は自分一人ではないことに気づいた。ソファーに体をすっかり伸ばして横たわる一頭の巨大な雌のライオンがいて、私に向かって大きなあくびをしたのだ! 私はほとんど身がすくんでしまった。そのとき、レノックス・ブラウン夫人が入ってきて、ライオンをピシャリと打って、ソファーから押しのけた。私は伝言を渡して家を辞した。 (p.80)

2014年11月4日火曜日

チャーリー・マンガーの炉辺談話(5)度胸も必要ですよ

0 件のコメント:
米ウォール・ストリート・ジャーナルのブログで、ジェイソン・ツヴァイク氏がチャーリー・マンガーにインタビューした記事のつづきです。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問> 2009年3月に何十億円もの資金を、どのように銀行株へ投入したのか。(参考記事)

<マンガー> ただ資金を注ぎこんだだけですよ。目新しいものは何もありません。あれは40年に一度の好機でした。強みや知識を持つと共に度胸も備わるように、それらをうまく両立させる必要があります。能力に長けていても踏み出す勇気がなければダメですし、度胸は満点でも自分の土俵がわかっていなければ身を亡ぼします。しかし、自分が何を知らないのかよく知るようになるにつれて、度胸があることの価値は増していきます。プロのマネー・マネージャーに大学へ行かせる子供が4人いて、4千万円や1億円などの年収をとっていれば、「度胸があればなあ」とは到底考えない人ばかりでしょう。彼らの気がかりは、自分が生き残ることです。そして生き残るためには、目立つことはしないものです。

On how he sank tens of millions of dollars into bank stocks in March 2009:

We just put the money in. It didn't take any novel thought. It was a once-in-40-year opportunity. You have to strike the right balance between competency or knowledge on the one hand and gumption on the other. Too much competency and no gumption is no good. And if you don't know your circle of competence, then too much gumption will get you killed. But the more you know the limits to your knowledge, the more valuable gumption is. For most professional money managers, if you've got four children to put through college and you're earning $400,000 or $1 million or whatever, the last thing in the world you would want to be worried about is having gumption. You care about survival, and the way you survive is just not doing anything that might make you stand out.

2014年11月2日日曜日

2013年度バフェットからの手紙 - (付録)企業年金制度について(4)

0 件のコメント:
ウォーレン・バフェットがワシントン・ポストのキャサリン・グラハム向けに書いた企業年金制度に関する注意について、4回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

「地震的なリスク」 [想像を超えたリスクの意]

1920年初めに大きなインフレが起きたドイツでは、ダイムラー・ベンツ(メルセデス)社全体に対して市場が付けていた値段は自動車300台分でした。過去になされた投資のほとんどはほぼ無価値とみなされましたし、給与水準は過去とくらべると天文学的な数字になりました。そのような状況あるいはそこまで極端ではない状況でも、企業が負担するいかなる年金給付も、これには現在の給与水準だけでなく以前の勤務時の状況も関係しますが、事業の現在価値(利益創出力)だけでほとんどを保証しなければなりません。事前に拠出した資金は消え失せているわけです。

たとえば給与(や生活費)が年率25%上昇し、一方で年金基金は年率10%の利益をあげるとします。この仮定は英国でみられる現状とくらべて、とんでもなく離れた数字ではありません。そのような状況では、引退のために備えておいた基金は早々に、約束した給付内容に比して縮小しはじめます。年金制度に拠出された資金から毎月購入できるハンバーガーの数は、基金の運用で得られる配当や利子を含んだ上でも、減少していきます。

年金制度を検討する際にこの種の「地震リスク」のことを考えようとする人は、核戦争について多くの時間を割いて考えようとする人と同じで、ほとんどいないでしょう。「最終的な支払額に制限を設けずに、生活費の変化に基づいて給付を連動させるか、あるいは既退職者への給付を引きあげることで、インフレに対する絶対的な保護を多数の人に保証する」、そのような無制限の年金債務を想定するどの企業でも、「想像もできないような」インフレを想定した計算を行い、さらにはきちんと検討すべきだと思います。これはわたしの「前言バイアス」が働いているからか、あるいは数字を好む性向によるものかもしれません。それでもわたしはそう信じています。

そのようなわけで、民間の年金制度にとって2桁のインフレが継続する可能性は、まさに破壊的なものです。投資で得られるリターンよりも大幅に高い割合で給与が増加すると、もし最終給与額を基準にして年金給付額を決めていれば、債務分の資金を事前に用意しておくことは事実上不可能となります(あるいは引退の生活費増加を基準にしていればもっと高くつきます。これは最近のゴムやアルミニウムの契約条件と似ています)。これは否応なく、社会保障制度のような存在になることを意味します。ただし徴税する権利はありません。もし本当にそのような存在になったとすれば、企業が販売する製品の価格に対して、従業員に払う現在の賃金や過去の従業員に対する約束が反映されたとしても、今後の製品購入者は支払うことにやぶさかではないでしょう。事業によっては、それらのコストを売値に転嫁することが許された経済的性質を有しているところもあります。しかしそうでなければ、大きな問題を背負うことになります。全体としてみれば、わたしたちの事業[ワシントン・ポスト社]はそのような状況下では相対的に良好なビジネスだと信じております。しかし、この問題は投資というプロセスでは解決できないと思います。片手落ちにならぬよう申し上げますが、これは現金の持つ購買力が大幅に低下した場合に劇的なまでに上昇するような年金制度上の約束を作成する際には注意が必要だ、と促すものです。わたしに解決策があるわけではありません。

それではここからは、経済の世界というものが不確かなことは承知の上で、その世界において実施されている資金の拠出や投資行動で、少なくとも過去と同程度には適切だと思われる例を取りあげてみましょう。 (p.121)

The "Earthquake Risk"

In Germany, in the great inflation of the early 1920s, the entire Daimler Benz (Mercedes) Automobile Company was selling in the market for the price of 300 motor cars. Almost all past investments were nearly worthless, and current salary levels were astronomical in relation to past history. Under such conditions, or conditions far short of such an extreme, the burden of any pension benefits owed by a business, which are based on current salary levels though related to much earlier service in employment, must be backed almost exclusively by the current value (earning power) of the business. Advance funding simply evaporates.

For example, assume that salaries (and the cost of living) are moving upward at 25% per year and the pension fund is earning 10% per year - a set of assumptions not ridiculously different from what exists in England at the moment. Under such conditions, funds put aside for retirement immediately begin to shrink in relation to promised benefits. Every month fewer hamburgers can be purchased from the funds contributed to the pension plan - even after accumulating dividends and interest on the funds.

Almost no one chooses to think about this sort of "earthquake risk" in dealing with pension plans, any more than people choose to spend much time thinking about nuclear war. It may be my earlier-mentioned bias, or my mathematical bent, but I believe some "unthinkable" inflation-related calculations should be made - and even considered - before any company assumes open-ended pension obligations guaranteeing a large number of persons absolute protection against inflation by gearing benefits without limit to final pay or escalating benefits to persons already retired, based on changes in the cost of living.

Thus, the really devastating possibility regarding private pension plans is sustained double-digit inflation. When salaries move ahead at a substantially higher rate than investment returns and benefits are tied to final salaries (or, even more expensively, cost-of-living increases after retirement as in recent rubber and aluminum contracts), it is virtually impossible to pre-fund obligations. Like it or not, you become much like the Social Security Fund, absent the power to tax. Should that occur, future purchasers of the products of the company must be willing to do so at prices that reflect not only the wages of current workers, but the promises to past workers. Some businesses will have economic characteristics allowing them to pass along these costs, but others will have major troubles. On balance, I believe we are in relatively favorable businesses under such circumstances. I do not believe this problem can be solved by the investment process. I mention it for completeness, not because I have answers - and to urge caution in making pension benefit promises subject to dramatic escalation through substantial attrition in the purchasing power of money.

Now let's look at funding and investment behavior appropriate to an economic world at least reasonably similar to the past, recognizing that such a world is far from a certainty.