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2014年10月30日木曜日

物理学を理解するには(リチャード・ファインマン)

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ファインマン物理学(第3巻)電磁気学』を拾い読みしていたところ、示唆に富んだ文章があったのでご紹介します。なお、原文はカルテックのWebサイトで公開されています(ただし、巻構成は日本語版と異なります)。

The Feynman Lectures on Physics (California Institute of Technology)

物理学者が問題をいくつかの見方からみるために手段を必要とする。現実の物理現象の正確な解析は大へん複雑なのが普通であって、物理的状態のどれをとっても複雑すぎて、微分方程式を解いて直接に解析できないほどである。しかし条件のちがう場合に対する解の性格についてある感覚を持っていれば、体系の振舞について適切な理解をもつことは可能である。場の線、容量、抵抗、インダクタンスなどの概念はこの目的に極めて役に立つ。従ってこれらの分析に今後かなりの時間を使うことになる。こうして、電磁気の事情がちがうときに何が起こるかについてある感覚をもつようになる。しかしながら、場の線のような発見的な模型で、すべての場合に適切で正確なものは一つもない。法則を表す正確な方法は唯一つしかなく、それは微分方程式を使う方法である。これは基礎的であり、我々の知る限り正確という利点をもつ。諸君がもし微分方程式を知っていれば、いつでも微分方程式に立ちもどればよい。習い残したことなど決してないのだから。

事情がちがうとき、何が起こるかを知るまでには少し時間がかかる。そのためには方程式を解かねばならない。方程式を解くたびに、解の性質について少し覚えることになる。解を覚えておくためには、場の線とかその他の概念を使って勉強するのは役に立つ。このようにして実際に方程式を"理解"できるようになる。数学と物理学のちがいはここにある。数学者や非常に数学的な心を持つ人は物理を"勉強"するとき迷ってしまうが、それは物理学を見失うからである。彼等はいう。"いいですか、これらの微分方程式 -- マクスウェル方程式 -- は電磁気学のすべてです。方程式に含まれていないものは何もないと物理学者は言います。なるほど方程式は複雑ですが、要するに数学的な等式にすぎません。従って方程式を数学的に理解し尽くせば、物理学を理解することになる筈です"。 残念なことにそうはいかない。物理をこういう考えで勉強する数学者 -- こういう人が沢山いた -- は物理学に貢献することがなく、実は数学にも貢献することがないのが普通である。彼等が失敗するのは、現実の世界の物理的状態は非常に複雑であるので、方程式のもっと広い理解が必要となるからである。

方程式を理解するとはどういうことか -- つまり、厳密に数学的な意味以上に -- これについてはディラックが次のように言っている。"実際には解かないで解の性質を知る方法があるとき私は方程式の意味を理解する"。従って、方程式を解かないで与えられた情況の下で何が起こるべきかを知る方法をもつときに、この情況に応用された方程式を"理解"しているのだ。物理的な理解は全く非数学的、不確実で不精確なものであるが、物理学者にとっては絶対に必要である。 (p.14)

前回などの投稿で、チャーリー・マンガーが「物理学はとても役に立つ」といった発言をしていますが、その一端がうかがえる文章だと思います。またものごとを考える際の一例として、p.11では「一番便利な眺め方は何か」を問うべきだと記しています。これも重要な示唆ですね。(関連記事)

もうひとつ、こちらはおまけです。

人類の歴史という長い眼から、たとえば今から1万年後の世界から眺めたら、19世紀の一番顕著な事件がマクスウェルによる電磁気法則の発見であったと判断されることはほとんど間違いない。アメリカの南北戦争も同じ頃のこの科学上の事件に比べたら色あせて一地方の取るに足らぬ事件になってしまうであろう。 (p.13)

世紀の天才ファインマンは、人類が遠い将来まで存続する可能性をどのように推し量ったのでしょうか。いずれ機会があれば考え直してみたい設問です。

2014年10月28日火曜日

ノーベル物理学賞の中村修二氏とチャーリー・マンガーがつながるところ

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次の1月にはチャーリー・マンガーは91歳になります。社会貢献はやや急ぎ足のようで、Forbesの記事から引用します。(日本語は拙訳)

Charles Munger, Buffett's Right Hand, Donates $65 million to Theoretical Physics Institute (Forbes)

(KITP ResidenceのWebサイトより)

バークシャー・ハサウェイの副会長を務めるビリオネアのチャーリー・マンガーはこの金曜日に、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)理論物理学科の発展を支援するために6,500万ドルを寄付すると発表した。寄付金は、同校カブリ理論物理学研究所付きの来訪者用宿舎を建設するために充当される。なお同校所属の物理学者[中村修二氏]が、今月のはじめに2014年ノーベル物理学賞を受賞した。

今回マンガーから贈与される資金は、個人からの寄付としては同校史上最大のものである。

「この宿舎はUCSBにとって極めて有用なものになるでしょう。最善を尽くした建物として、物理学者が経験できる最良のものを提供するようになります。これ以上の場所は他では望めないと思います」。発表の中でマンガーはそう語った。「物理学者がお互いを知り、話を交わし、信頼しあうことから得られるものは、莫大なものになります。このことは実に何十年も前から認識されていたものの、ずっと実現できませんでした。今や世界中にいる仲間を集めることができます。そうして集まった人たちがお互いに発展を促せるようになるのです」。

(中略)

「私の人生において、物理学は非常に有益なものでした。その論理や、それ自身が持つ能力ゆえにです」。つづけてマンガーはこう語った。「微積分とニュートンの法則が組み合わさることで何ができるのか、それによって自分に解決できるものは何か。それらをひとたび理解すれば、物事を正しく成就させる科学の持つ力に対して深く畏れ入ることでしょう。物理学は付随的な便益も生み出すのです。 物理の世界で『科学の威力』を実感できるほどには、他の領域で感じることはできないと思います」。(関連記事)

Berkshire Hathaway vice-chairman and billionaire Charles Munger is giving $65 million to support the growth of the theoretical physics department of University of California Santa Barbara. The donation, announced Friday, will help construct a visitor-housing building at the university's Kavli Institute for Theoretical Physics, where a professor won the 2014 Nobel Prize in Physics earlier this month.

Munger's gift is the largest individual donation in the university's history.

"This residence is going to be hugely helpful to UCSB. This building will be about as good as it can get and offer as good an experience as a physicist can have - and I don't think you could have a better place on earth to do it," Munger said in the announcement. "Physicists gain enormously from knowing one another and talking to one another and trusting one another. That's been recognized for a great many decades, but for a long time it just wasn't feasible. Now we can get people together from all over the world and these people can cross-fertilize each other."

"Physics has enormously helped me in life - the logic and power of it," Munger said in the announcement. "Once you see what a combination of calculus and Newton's laws will do and the things you can work out, you get an awesome appreciation for the power of getting things in science right. It has collateral benefits for people. And I don't think you get a feeling for the power of science - not with the same strength - anywhere else than you do in physics."

UCSBのWebサイト、ホームページではお二人の写真が並んでいました。

(UCSBのWebサイト、2014年10月27日付)

2014年10月26日日曜日

2014年バークシャー株主総会; ウェルズ・ファーゴを選んだ理由

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2014年5月に開催されたバークシャー・ハサウェイの年次株主総会で、ウォーレン・バフェットが2008年の世界金融危機当時に下した投資判断をふりかえります。興味ぶかい内容です。(日本語は拙訳)

<質問33> 投資先の候補をどのように比較しているのか、もう少しご説明頂けますか。2008年や2009年には、お気に入り銘柄を買い増しすることもできました。当時とった行動と比較して、コカ・コーラ社やムーディーズ社のような企業を買い増していればどうだったでしょうか。もっと集中したポートフォリオのほうが、バークシャーはより大きな成果をあげられたのではないでしょうか。

<バフェット> それは、わたしたちが気にいっている銘柄が2008や2009年にどれだけ打ちのめされていたかによります。しかし2008年に相当な金額を費やしたのは早すぎでした。160億ドルを使ったのが2008年の9月や10月でしたが、市場の底はそれよりもかなり下まで行きました。またMars社の案件[リグリー社買収]で60億ドルを出しましたが、その件も動くのが早かったと思います。「じっと待ち構えて、底に達した時点で一度に資金を投入する」、そうしていれば全然違う結果だったと思います。目をみはるタイミングになっていた可能性もありますが、どうすればそうできるのかは、わたしたちには到底わかりえないことです。しかし2009年10月に買ったBNSFは、やがて当社の大きな部分を占めることになると思います。ハーレーダヴィッドソン社の債券を利率15%で買ったのは、株式を買っておくべきでした。しかし、いつであってもそれが現実というものでしょう。現在のわたしたちの規模や範囲からすれば、すばらしい経営陣が率いる良い事業を妥当な金額で買い、長期にわたってその会社を発展させることができれば、と考えています。ただし事業を加える際には、株式を追加発行せずに済ませたいですね。過去を顧みれば、以前よりはうまくできるだろうと思います。このゲームでは引き続きうまくやれると思っていますが、永々と続けられるわけではありません。しかし興味をひくものはまだ残されています。

<マンガー> [バークシャーでは]非公開の子会社が大きな割合を占めるようになってきました。昔は株式の額のほうが大きくて子会社はそうではなかったのですが、今では子会社のほうが大きいですね。

<バフェット> 株の成否は[バークシャーの成績として]純資産に現れますし、事業の成否は将来得られる利益に現われます。ですから、あちこちへと渡り歩く必要はありません。わたしたちが次の段階へと進んだからですね。

<マンガー> 我々がささやかな資金で投資していた頃は、どん底のときにいくらかは買うことができました。しかし今となっては、意味があるほどの株数をその値段で買うことはできません。一方、事業を買うときには大きなポジションをとれます。こうせざるを得なくなったのも、我々が過去に成功したせいです。アルバータ州[カナダ]の送電線を買う案件、あれはいいですね。ひどいことは何も起きないですよ。

<バフェット> そうなったとしても、わたしたちにはわからないでしょうね。

<マンガー> 我々は適応してきましたし、変化が生じたことで我々にとってずいぶんと有利に働きました。今後も望ましい変化が起こるかもしれません。物事が移り変わることは不可避なのですから、どうやってそれに適応するかがカギとなるわけです。

<バフェット> わたしたちはこの数年間にウェルズ・ファーゴの株をかなり買いました。ですが増えた資産のほとんどは、それより質の低い諸銀行を買ったおかげでした。彼らが回復するには、経済が好転する必要があったのですね。しかしウェルズ・ファーゴを買うとなれば100%安心できますが、他を買う場合の安心感は50%です。それで、いちばん安心できるほうを選んだわけです。

Q33: Station 11. Philadelphia. Fund manager. Can you expand on how you compare investment opportunity? When you can buy more of a favorite in 2008/2009, how did case of more of company like Coke or Moody's, compare with other things which you did. Could Berkshire have achieved more with more concentrated portfolio?

WB: Depends on which favorite name we had was hit harder in 2008/2009. I spent a considerable amount too early in 2008, and bottom was quite a bit lower than Sept and Oct of 2008 when we spent $16bil. We were also committed to $6bil of Mars funding, which we had committed earlier. We didn't do as remotely as well if we had kept powder dry and spent it all at once at bottom. Timing could have been improved dramatically, but we will never be able to figure out how to do it. But we bought BNSF in Oct 2009 which will be enormous part of our future. When we bought HD bonds at 15 we should have bought the stock, but that will always be the case. What we want to do at our present size and scope, we want to buy good businesses with great management at a reasonable price and try to build them over time. We want to be able to add them without issuing shares. Looking back we can do it better than we've done it. I feel the game is still a viable one, but it can't be forever. But still has juice left in it.

CM: Private businesses have gotten to be a bigger portion. We used to be worth more in stock, not privates, but now bigger in privates.

WB: When right on stocks, shows up in net worth, and when right on businesses it shows up in future earnings. It doesn't require us going from flower to flower. We've moved into phase 2.

CM: When we were just investing modest amount of capital we could get a little bit at the bottom, but there is no significant volume of shares at that price. When we buy businesses we get large positions. We are forced into this by past success. I love buying transmission lines in Alberta. Nothing horrible will happen.

WB: If it does we won't know it.

CM: We have adapted and the changes have been very much in our interest. There may be future changes just as desirable. Since change is inevitable, how you adapt to it is the key.

WB: We've bought a fair amount of Wells Fargo over last few years. But the most money was made by buying banks of lesser quality. They needed better economy to recover. But we felt 100% comfortable buying Wells Fargo, and 50% comfortable somewhere else, so we went where we were most comfortable.

2014年10月24日金曜日

手間をかけた決断で大損をしたGM(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーが1998年に行った講演「慈善財団における資産運用の現状」の3回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

しかしみなさんはこう考えるかもしれません。「私の財団では寄付金の集まりは良好だし、最高の人材を集めており、投資上のあらゆる問題に対処する際には熟慮の上で客観性を重視したプロ意識を以って取り組んでいる。だから少なくとも平均以上のはずだろう」と。それでは私からはこうお答えしましょう。プロ意識とみなされるものが行き過ぎると、そのせいでひどい目にあうことが往々にしてみられます。そうなる理由はずばり、慎重な手続きを踏むこと自体が、結論に対して過剰な自信を持つきっかけとなりやすいからです。

つい最近ゼネラルモーターズ(GM)がそのような過ちを犯し、とびっきりな顛末となりました。手の込んだ消費者調査を実施して、行き過ぎたプロ根性を発揮した結果、[ピックアップ・]トラックには4つめのドアを付けないと結論を下したのです。そのトラックは、5名がゆったり乗れる乗用車に相当することも狙って設計されたものですよ。一方の競合他社はもっと基本的なやりかたをしました。実際に5人が車から乗り降りする様子を観察したのですね。さらには、5名が快適に乗れる乗用車ではドアが4つとも利用されていることに、彼らは気がつきました。生き物とは一般に定型動作にはなるべく労力をかけず、ずっと享受してきた便益を捨て去りたいとは考えないものだ、とわかったのです。GMが下したお粗末な、やがては何百億円も吹き飛ばすことになる決定を吟味した際に、私の脳裏にさっと浮かんだ言葉はわずかに2語だけでした。そのひとつが「やれやれ」です。

同じように最近の話ですが、「ロングターム・キャピタル・マネジメント」という名で知られているヘッジファンドが、極度な借り入れに依存する手法を過信したために、つぶれてしまいました。主要な人物のIQの平均は、間違いなく160はあるにもかかわらずです。頭が切れて徹底的に働く人たちでしたが、自信過剰がもたらす職業上の災厄からは逃れられませんでした。彼らのような人たちは、自分たちには卓越した才能と手法があると自己評価し、それゆえに選んだ一層困難な旅路をさまよってしまうことがよくあります。

ものごとを考える上で用心を重ねるのは良いことばかりではなく、それによって過ちが加わることもあります。それを苛立たしく感じるのは当然でしょう。しかし良きこととは、ほとんどにおいて望ましからぬ「副作用」を有しているものです。これはものごとを考える際でも例外ではありません。それを防ぐ最良の方法とは、次の言葉に示される心がまえを抱いた最上の物理学者たちが、体系的な自己批判を徹底するやりかたです。ノーベル物理学賞を受賞したリチャード・ファインマンによる言葉です。「最初にくる原則とは、自分自身をごまかさないこと。なんといっても、自分をだますのがいちばん楽だからね」。

しかし異常なほどに現実的な財団がファインマンのように考えることで、投資による成果が将来低迷するのを恐れたとしましょう。なぜかと言えば、「借入れをせずに株式へ投資しても、投資にかかる全費用を控除した上で株式インデックスを凌駕できる」と仮定したくないからです。それというのも、単に財団が「ファンド・オブ・ファンズ」の道を選んでいるからですね。売買回転率が高い上に、自らを平均以上とみなしている何層もの投資顧問を使っているわけです。さて、それではこの怖がりの財団が明るい見通しを得るには、どのような選択肢が考えられるでしょうか。

But, you may think, my foundation, at least, will be above average. It is well endowed, hires the best, and considers all investment issues at length and with objective professionalism. And to this I respond that an excess of what seems like professionalism will often hurt you horribly - precisely because the careful procedures themselves often lead to overconfidence in their outcome.

General Motors recently made just such a mistake, and it was a lollapalooza. Using fancy consumer surveys, its excess of professionalism, it concluded not to put a fourth door in a truck designed to serve also as the equivalent of a comfortable five-passenger car. Its competitors, more basic, had actually seen five people enter and exit cars. Moreover they had noticed that people were used to four doors in a comfortable five-passenger car and that biological creatures ordinarily prefer effort minimization in routine activies and don't like removals of long-enjoyed benefits. There are only two words that come instantly to mind in reviewing General Motors' horrible decision, which has blown many hundreds of millions of dollars. And one of those words is: "oops."

Similarly, the hedge fund known as "Long-Term Capital Management" recently collapsed through overconfidence in its highly leveraged methods, despite I.Q.'s of its principals that must have averaged 160. Smart, hardworking people aren't exempted from professional disasters from overconfidence. Often, they just go around in the more difficult voyages they choose, relying on their self-appraisals that they have superior talents and methods.

It is, of course, irritating that extra care in thinking is not all good but also introduces extra error. But most good things have undesired "side effects," and thinking is no exception. The best defense is that of the best physicists, who systematically criticize themselves to an extreme degree, using a mindset described by Nobel laureate Richard Feynman as follows: "The first principle is that you must not fool yourself, and you're the easiest person to fool."

But suppose that an abnormally realistic foundation, thinking like Feynman, fears a poor future investment outcome because it is unwilling to assume that its unleveraged equities will outperform equity indexes, minus all investment costs, merely because the foundation has adopted the approach of becoming a "fund of funds," with much investment turnover and layers of consultants that consider themselves above average. What are this fearful foundation's options as it seeks improved prospects?

(後席ドアあり)

(後席ドアなし)

2014年10月22日水曜日

2013年度バフェットからの手紙 - (付録)企業年金制度について(3)

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ウォーレン・バフェットがワシントン・ポストのキャサリン・グラハム向けに書いた企業年金制度に関する注意について、3回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

保険数理上の基本的な諸原理に関する説明

ここで、理解しておくに値する保険数理的な原理を説明します。ただし専門用語や注記に頼らずに、あなたのご家庭を例にしてみましょう。さて、反故にできない約束をあなたが個人的に交わしたとします。たとえば4人のお手伝いさんに対して、65歳[定年]に達したらそれ以降は毎月300ドルの年金を支払うとの約束です。話をかんたんにするために、全員の現在の年齢は55歳としておきます。さて、約束したのが今だとすれば、まさしく今日からあなたの純資産は70,000ドル減ったことになります。(単純化するために、性別などの要因は無視しています。たとえば女性は長生きするのでその分費用がかかりますし、また65歳以前に亡くなることもあります。それらを考慮した計算こそ、アクチュアリーが輝く時です)

なぜたちまちのうちに70,000ドル分を損したことになるのでしょうか。70,000ドルを手元から除けて7%の利息がつく投資へ回し、得られた利息はそのまま複利で増やすとしたら、元手とした資金は10年後、つまりお手伝いさんが65歳に達した時にはだいたい140,000ドルまで増えることになります。年間3,600ドルを受け取れる終身年金を買うには、一人あたり35,000ドルが必要です。それで140,000ドル全額が使われます。つまりそのような約束をすれば、今後10年間はびた一文払う必要はないのですが、法的あるいは道義的な義務が発生して、今日の時点で支出を計上しなければなりません。その金額が70,000ドルです。

それではここから話しをもう一歩進めましょう。お手伝いさんはそれぞれ毎月600ドルの給料を得ているとします。そして定年退職後に毎月300ドルの年金を支払う代わりに、退職時給与の50%を[毎月支払う金額として]約束するとします。もし給与の増加率が年率7.2%だと仮定すると、その数字は往々にしてそうなると思われる値ですが、65歳になったときには毎月1,200ドルの給料を受け取ることになります。その場合お手伝いさんにした約束を果たすには、年金を買う費用として一人あたり70,000ドルが必要です。すると現在の給料50%分から定年退職時の給料50%へと約束を変更したことで、現時点で実際に計上すべき費用は、当初元手のちょうど2倍分に変わります。つまり現時点で手元から除けておく金額は70,000ドルではなく、140,000ドルになります。

多くの年金制度では、[計算の際に]最終平均報酬月額を使っています(よく使われるのは、定年退職前直近5年間の平均、あるいは雇用期間の最終10年間において総額が最高だった連続5年間の平均)。一方、雇用期間中の平均報酬月額を使うところもあります。どちらを採用すべきかは論じませんが、文言のわずかな違いによって費用面で大幅な差異が生じうることを、ここでは示しました。

当然ながら、労働集約的な事業における年金費用は巨額になり、費用の全体像をみる際に重要な変数となる可能性があります。高インフレ率の特徴がある社会においては、なおさらです。冗長になりますが、後者によって生じる影響を強調しておきます。というのもわたしの知っているほとんどの経営者や、政府の年金制度では選出された役人の事実上全員が、相対的に痛みが少ないので今の時点で約束をするものの、それによって社会が負うことになる債務の全体像はきちんと把握しないからです。公的な領域では多くの場合、大部分のツケは次の世代へと先送りされ、増税あるいは輪転機の回転を増やして支払うことになります。しかし企業の場合、これから将来の売上によって債務を賄う必要があります。その際には利子の支払いがあったり、実際には生活費の上昇に伴って費用増になることがよくあります。 (p.119)

Illustrated Elemental Actuarial Principles

To illustrate a few actuarial principles worth understanding, but without employing the technical jargon and the asterisks, let's use the example of your household. Assume that you, personally, make irrevocable promises to pay pensions of $300 per month for life after they reach 65 to, say, four household employees. To make it easy, let's say that they each are 55 years of age at present. If you make that promise today, you have reduced your net worth today by about $70,000. (For simplicity's sake, I am ignoring some variables such as sex of employees - women live longer and therefore cost more - death before 65, etc. In calculating such factors the actuaries shine. )

Why are you immediately $70,000 poorer? Well, if you set aside a $70,000 fund now and invest it at 7% interest - and let all such interest remain in the fund to be compounded - the principal value of the fund will grow to about $140,000 in ten years when your employees reach 65. And to buy them a lifetime annuity of $3,600 per year will then cost about $35,000 each, utilizing the entire accumulated capital of the fund. So if you make the promise and it is binding - legally or morally - figure you have spent today $70,000, even though you don't have to pay out a dime of cash for ten years.

Now take it one step further and assume that your employees each are earning $600 per month but, instead of promising them $300 per month upon retirement, you promise them 50% of their salary at the time they retire. If their increases run 7.2% per year - and they probably will in the world I foresee - they will be earning $1,200 per month by the time they reach 65. And it will now cost you $70,000 each to purchase annuities for them to fulfill your promise. The actual cost, today, of modifying your promise from 50% of present pay to 50% of terminal pay was to exactly double the fund that needed to be set aside now from $70,000 to $140,000.

Many pension plans use final average pay (usually the average of the last five years, or the highest consecutive five years in the last ten years employed) and some use career average pay. I am not arguing here which should be used, but am illustrating the dramatic difference in costs that can occur because of rather minor-appearing changes in wording.

Pension costs in a labor intensive business clearly can be of major size and an important variable in the cost picture, particularly in a world characterized by high rates of inflation. I emphasize the latter factor to the point of redundancy because most managements I know - and virtually all elected officials in the case of governmental plans - simply never fully grasp the magnitude of liabilities they are incurring by relatively painless current promises. In many cases in the public area the bill in large part will be handed to the next generation, to be paid by increased taxes or by accelerated use of the printing press. But in a corporation the bill will have to be paid out of current and future revenues - with interest - and frequently with what is, in effect, a cost-of-living escalator.

2014年10月20日月曜日

2014年デイリー・ジャーナル株主総会(1)企業の来し方行く末

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チャーリー・マンガーが会長を務めるウェスコ社(Wesco Financial)の株主総会は、チャーリーの発言がたっぷり聴けることでカルト的な人気を集めていました。しかしウェスコは親会社のバークシャーに完全買収され、チャーリーの独り舞台も終わりました。そして今や注目を集めているのが、同じくチャーリーが会長を務めるデイリー・ジャーナル社の株主総会です。

こちらはチャーリーが個人的に入れ込んでいる法務関係の会社です。9月10日に開催された総会での質疑応答は各所で取りあげられているようですが、このシリーズではForbesの記事からご紹介します。今回は企業の盛衰に関する話題です。(日本語は拙訳)

Charlie Munger And The 2014 Daily Journal Annual Meeting: A Fan's Notes (Forbes)

かなり儲けた会社が、利益は若干残っているものの、技術の進展に伴って中心的な商売がどんどん悪化している。そんな会社の歴史を繰ってみれば、行きつく先はひどいものですよ。たいていはコダックが迎えた結末になります。コダックのような商売を保有したものの、ひたすら破産へ向かって進むことを想像してみてください。それはよくある現象です。技術の陳腐化と呼ばれるものです。

歴史を振り返ってみれば、例外はわずかです。トムソン・ロイター社はそのひとつです。新聞社だった同社はテレビ局をいくつか加えました。彼らの基本的なやりかたはできるかぎり利益を絞り出して、高値で売却するものでした。そして彼らは違う商売、すなわちオンラインによる情報提供へと転じ、事業転換を成功裏に果たしました。しかしこれは稀少な例です。

もうひとつ稀な例をあげましょう。もちろんそれはバークシャー・ハサウェイです。バークシャーは落ち目の企業3社を抱えて出発しました。まずはニュー・イングランドの織物事業です。この事業は没落必然でした。織物とは電力の塊ですが、当地の料金単価はジョージア州でTVA[テネシー川流域開発公社]が管轄する領域よりもずっと高額だったからです。没落必然、倒産確実の事業でした。それから我々は、ボルチモアに4つあったデパートのうちの1つを保有していました(ホークシルド・コーン社)。絶対に破産間違いなしと思っていたので、やがてそうなったのは当然でした。そしてスタンプ会社(ブルー・チップ・スタンプ社)です。仕事がないのは当然至極でしたが、結局そうなりました。それらの斜陽3社から今のバークシャー・ハサウェイが生まれたのです。これは衰退する事業から転換できた、歴史上もっとも成功した例ですよ。我々は衰退中の一事業を抱えていたのではありません。衰退事業を「3つ」抱えていたのです。わずかばかりのものから得た超過資本を別の場所へと振り向けて、どんな人よりもうまくやってきました。事実、最近になって我々の時価総額はGE社を追い抜きました。トーマス・エジソン本人が1892年に設立したGEは、世界でもっとも強力な会社とみなされています。

これは相当な離れ業でした。しかし通常は、もっとコダック寄りの結果ですね。興味ぶかい事例がゼロックスです。彼らは消滅寸前までいきましたが、そこから復活しました。しかしかつての栄光からはほど遠いものです。他人が大儲けしたもののほとんどは、実際にはゼロックスが発明しました。にもかかわらず、同社は失敗しました。ビル・ゲイツはこの問題に関してよく学んでいますね。「ふつうは失敗に終わるのですよ」と彼は言っています。破産したGM社のことを考えてみてください。私が若かったころには、GMが経済界でいかに抜きん出た存在だったか想像できますか。最も巨大で価値が高く、褒め称えられた企業でした。しかし株主の資金はゼロになってしまいました。

If you take the whole history of businesses that make a fair amount of money and have a little surplus but their basic business goes to hell based on technological developments, the results are lousy. The normal result is Kodak (ticker: KODK). Imagine having a business like Kodak and having it go all the way to bankruptcy. That's the normal occurrence: technological obsolescence.

There are few exceptions in the history of the world. One of them is Thompson Reuters (ticker: TRI). They were a newspaper company with a few television stations added and they basically milked them as long as they could, sold them for high prices, and went into a different business - online information - and they successfully made the transition. That is really rare.

The other rare example, of course, is Berkshire Hathaway. Berkshire started with three failing companies: a textile business in New England that was totally doomed because textiles are congealed electricity and the power rates were way higher in New England than they were down in TVA country in Georgia. A totally doomed, certain-to-fail business. We had one of four department stores in Baltimore [Hochschild Kohn], absolutely certain to go broke, and of course it did in due course, and a trading stamp company [Blue Chip Stamps] absolutely certain to do nothing which it eventually did. Out of those three failing businesses came Berkshire Hathaway. That's the most successful failing business transaction in the history of the world. We didn't have one failing business - we had three. Out of that little nothing, the excess capital that we took out and put somewhere else did better than anybody's ever done. As a matter of fact, we recently passed General Electric [ticker: GE] in terms of market capitalization, and GE was founded by Thomas Edison himself in 1892, and one of the most powerful companies in the world.

It was a considerable stunt. But the normal result is more like Kodak. Xerox [ticker: XRX] is an interesting case. They went to the brink of extinction and then came back, but they are a pale shadow of their former greatness. They actually invented most of the stuff other people made so much money out of, and they still failed. Bill Gates is a big student of this subject, and he says that the standard result is failure. Imagine General Motors [ticker: GM] who went bankrupt. Can you imagine how they towered over the economy when I was young? It was the biggest, more valuable, most admired company, and it took the shareholders to zero.

2014年10月18日土曜日

1999年度バフェットからの手紙 - バフェットが初めてつまずいた年

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バークシャー・ハサウェイの株価が大きく下落した年は、この20年で2回ありました。1999年(ドットコム・バブル)と2008年(世界金融危機)です。今回はその1回目にあたる1999年度「株主のみなさんへ」の冒頭部から引用します。(日本語は拙訳)

BERKSHIRE HATHAWAY INC. 1999 ANNUAL REPORT [PDF]

1999年に純資産は3億5,800万ドル増加しました。当社の株式クラスA及びクラスBのどちらについても、簿価が0.5%増加したことになります。この35年の間に(現在の経営陣が指揮をとり始めてから)、1株当たりの簿価は19ドルから37,987ドルへと成長しました。複利計算で年率24.0%になります。

前のページに載せた数字は、1999年におけるわたしたちの成績が思わしくなかったことを示しています[バークシャーの1株当たり簿価の増加率は0.5%だった。ただし税引き後]。わたしが就任して以来、絶対値としては最低の増加率にとどまりました。S&P500との相対比較でも同様に、最悪の結果でした[S&P500の配当込み税引き前の増加率は21.0%]。相対的な数字が悪いままでは、絶対的な成績もやがては不満足なものへとつながるでしょう。

クルーゾー警部[ピンク・パンサー]でさえも、だれが昨年[1999年]の犯人なのかわかるでしょう。そうです、この取締役会長です。わたしの残した成績をふりかえると、あるクォーターバックを思い出します。彼につけられた成績は、F[不可]が4つとD[可]が1つでした。それでもコーチは理解を示してくれました。「おまえはなあ」、とコーチは言い聞かせるように話します。「ひとつのことばかりに時間をとられているぞ」。

わたしにとっての「ひとつのこと」とは、「資産配分」になります。1999年にわたしが残した成績は、ほぼ間違いなくDでしょう。もっとも足をひっぱったのは、バークシャーの保有する株式ポートフォリオが不出来な成績だったことです。GEICOのルー・シンプソンが運用している一部を除けば、ポートフォリオの責任はすべてわたしにあります。1999年は投資先企業の上位何件かが、市場の成績から大きく引き離されました。彼らの業績が残念なものに終わったからです。それでもわたしどもはそれらの事業を好んでいますし、多額の投資をしていることに満足しています。しかし彼らの歩みが不確かだったことは、昨年のわたしたちの成績に悪影響を及ぼしました。彼らが大きな歩みを早々に取り戻すかは不透明です。

1999年にわたしたちの成績が貧弱に終わったことで、それと比例する以上の株価下落がもたらされました。1998年のときは、少し戻りはしましたが、株のほうは事業よりも好調でした。しかし昨年は事業のほうが株よりもかなり良かったのですが、この文章を書いている時点でもそのまま乖離しつづけています。もちろん長い目でみれば、株価の動向は事業の業績とおおむね合致するはずです。

昨年の成績はぶざまでしたが、バークシャーが今後10年間にわたって本源的価値を増加させる割合は、S&P500を保有して得られる利益をそこそこ上回るものと期待しています。わたしのパートナーでありバークシャーの副会長を務めるチャーリー・マンガー共々、そう考えています。もちろん保証することはできませんが、確信できるものには喜んで資金を投じるつもりです。以前にも耳にされた事実を繰り返しますが、わたしの純資産の99%以上はバークシャーと共にあります。夫婦共々、バークシャー株は1株も売却していませんし、わたしたちの小切手が決済不能とならない限り、そうするつもりもありません。

ただしここで留意して頂きたいのは、S&P500を「そこそこ」上回りたいと言っている点です。バークシャーがその指数を本当に凌駕していたのは、もう過去の話です。過去に優位性があったのは、現在よりもずっと魅力的な値段で事業と株式のどちらも買えたからでした。またずっと小さな資本でやっていたので、現在のわたしたちよりもずっと幅広い投資の機会を検討できる状況でした。

わたしどもの考えでは、これからの10年あるいは20年間のS&P500は、1982年以来の成績水準には到底及ばないと予想しています。これは実質的に確実だと思いますが、わたしどもがバークシャーの成績を極端に楽観しているわけではない理由のひとつです。フォーチュン誌に最近掲載された記事で、なぜそれが不可避なのかを示すわたしの見解が取りあげられていました。その写しを本報告書に同封してあります。 (p.3)

Our gain in net worth during 1999 was $358 million, which increased the per-share book value of both our Class A and Class B stock by 0.5%. Over the last 35 years (that is, since present management took over) per-share book value has grown from $19 to $37,987, a rate of 24.0% compounded annually.*

The numbers on the facing page show just how poor our 1999 record was. We had the worst absolute performance of my tenure and, compared to the S&P, the worst relative performance as well. Relative results are what concern us: Over time, bad relative numbers will produce unsatisfactory absolute results.

Even Inspector Clouseau could find last year's guilty party: your Chairman. My performance reminds me of the quarterback whose report card showed four Fs and a D but who nonetheless had an understanding coach. "Son," he drawled, "I think you're spending too much time on that one subject."

My "one subject" is capital allocation, and my grade for 1999 most assuredly is a D. What most hurt us during the year was the inferior performance of Berkshire's equity portfolio - and responsibility for that portfolio, leaving aside the small piece of it run by Lou Simpson of GEICO, is entirely mine. Several of our largest investees badly lagged the market in 1999 because they've had disappointing operating results. We still like these businesses and are content to have major investments in them. But their stumbles damaged our performance last year, and it's no sure thing that they will quickly regain their stride.

The fallout from our weak results in 1999 was a more-than-commensurate drop in our stock price. In 1998, to go back a bit, the stock outperformed the business. Last year the business did much better than the stock, a divergence that has continued to the date of this letter. Over time, of course, the performance of the stock must roughly match the performance of the business.

Despite our poor showing last year, Charlie Munger, Berkshire's Vice Chairman and my partner, and I expect that the gain in Berkshire's intrinsic value over the next decade will modestly exceed the gain from owning the S&P. We can't guarantee that, of course. But we are willing to back our conviction with our own money. To repeat a fact you've heard before, well over 99% of my net worth resides in Berkshire. Neither my wife nor I have ever sold a share of Berkshire and - unless our checks stop clearing - we have no intention of doing so.

Please note that I spoke of hoping to beat the S&P "modestly." For Berkshire, truly large superiorities over that index are a thing of the past. They existed then because we could buy both businesses and stocks at far more attractive prices than we can now, and also because we then had a much smaller capital base, a situation that allowed us to consider a much wider range of investment opportunities than are available to us today.

Our optimism about Berkshire's performance is also tempered by the expectation - indeed, in our minds, the virtual certainty - that the S&P will do far less well in the next decade or two than it has done since 1982. A recent article in Fortune expressed my views as to why this is inevitable, and I'm enclosing a copy with this report.

2014年10月16日木曜日

開いた口がふさがらない、それはあなたも同じ(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーが1998年に行った講演「慈善財団における資産運用の現状」の2回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

また彼らの振舞いからは最善の忠実義務を果たしていない感触を受けますが、それも含む理解困難なものすべてには確実なことがひとつ言えます。投資顧問が推奨する新たな行動を年追うごとに加えると、借入れを使わずに株式の銘柄を選択するだけであっても、さまざまな巨額の投資ポジションをそれなりに入れ替えする際の諸経費を含んだ資産運用業務全体にかかる1年間の費用総額は、財団の有する総資産の3%分へ容易に達します。ただし伝統的な会計基準では、その費用総額は表面には現れません。しかしそれは会計制度の限界によって生じるものであり、それらの費用一切が存在しないからではありません。

ここでちょっとした計算をしてみましょう。平均的な財団は実際のリターンとして胴元への支払い前でたとえば17%を享受しているとします。17%とは近年みられる普通の成績ですが、そこから胴元に対する支払いとして年初資産の3%分が毎年発生します。しかし財団がグロス[各種控除前の意]でそれだけのリターンを常にあげることは、意図してできるものではありません。もし株式インデックスに投資することで得られる年平均の実グロス・リターンがたとえば5%へと低迷し、それが将来の長い期間にわたって継続する場合、そこそこ頭のいい市場参加者であっても胴元の取り分は従来通り浪費されるので、そこそこ賢明な財団においても望ましからぬ縮小の時期がずっとつづくことになります。結局のところ5%から3%を引いて、そこから寄付に回す5%を引けば、年間3%ずつ減っていく帳尻になります。

全体としてみれば株式投資家は、胴元に対する全費用を連帯で受け入れる道を選んでいるわけですから、それに相当する分は毎年の成績が下がることを当然ながら呑んでいるわけです。これは避けることのできない現実です。また投資家のちょうど半数があげる成績は、胴元から引いた後の計算で中央値未満にとどまります。これも避けられません。そしてその中央値の値が、「ひどい」以上「心躍らない」以下におさまる可能性もあります。

人間の性(さが)とは現在も見られるとおりで、「ここで挙げられた諸々などは心配無用」とみなす人がほとんどです。結局のところ、キリストより何世紀も前にデモステネスがこう記していたのです。「人間とは、自らが欲するものを信じるようになる」。デモステネスが予言したように、人が将来の見通しや能力を自己評価すると、たいていは楽観的すぎて開いた口がふさがらないほどです。たとえばスウェーデンで実施された周到な調査によれば、自動車を運転する人の90%が、自分は平均以上の腕前だと考えていました。しかし投資顧問のように売り込みがうまくいった人たちとなると、スウェーデンのドライバーが鬱状態に見えてきます。公的な調査によれば、事実上すべての投資の専門家が、自分は平均以上だと評価していました。実際の数字はその反対であっても、ですよ。

There is one thing sure about all this complexity, including its touches of behavior lacking the full punctilio of honor. Even when nothing but unleveraged stock picking is involved, the total cost of all the investment management, plus the frictional costs of fairly often getting in and out of many large investment positions, can easily reach three percent of foundation net worth per annum if foundations, urged on by consultants, add new activity, year after year. This full cost doesn't show up in conventional accounting. But that is because accounting has limitations and not because the full cost isn't present.

Next, we come to time for a little arithmetic: It is one thing each year to pay the croupiers three percent of starting wealth when the average foundation is enjoying a real return, say, of seventeen percent before the croupiers' take. But it is not written in the stars that foundations will always gain seventeen percent gross, a common result in recent years. And if the average annual gross real return from indexed investment in equities goes back, say, to five percent over some long future period, and the croupiers' take turns out to remain the waste it has always been, even for the average intelligent player, then the average intelligent foundation will be in a prolonged, uncomfortable, shrinking mode. After all, five percent minus three percent minus five percent in donations leaves an annual shrinkage of three percent.

All the equity investors, in total, will surely bear a performance disadvantage per annum equal to the total croupiers' costs they have jointly elected to bear. This is an inescapable fact of life. And it is also inescapable that exactly half of the investors will get a result below the median result after the croupiers' take, which median result may well be somewhere between unexciting and lousy.

Human nature being what it is, most people assume away worries like those I raise. After all, centuries before Christ, Demosthenes noted, "What a man wishes, he will believe." And in self-appraisals of prospects and talents, it is the norm, as Demosthenes predicted, for people to be ridiculously over-optimistic. For instance, a careful survey in Sweden showed that ninety percent of automobile drivers considered themselves above average. And people who are successfully selling something, as investment counselors do, make Swedish drivers sound like depressives. Virtually every investment expert's public assessment is that he is above average, no matter what is the evidence to the contrary.

2014年10月14日火曜日

あなたの考え方はおかしいと思います(サンリオ鳩山常務)

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本ブログで何度か取り上げているサンリオ鳩山常務の記事が、PHP Business THE 21の最新号(2014年11月号)に掲載されていました。当社に身を転じるきっかけになった辻邦彦副社長(故人)との関わりあいについて、一部分を引用します。

私は前職の三菱商事に在籍中の2004年、サンリオとの事業提携を担当していた時期があり、そこで副社長と知り合いました。初めてこちらが事業の提案をしたとき、副社長からダメ出しをされたのですが、私は当時30歳くらいの若造だったにもかかわらず、生意気にも「あなたの考え方はおかしいと思います」と言い返したんです(笑)。すると翌日、副社長がわざわざ私のオフィスに出向いて、「昨日は悪かったね。これから君と一緒に何かやっていけるといいなと思っているよ」と言ってくださいました。その日の夜に飲みに行って、それ以来、週に2~3回は食事に行く仲になりました。

(中略)

辻副社長は昨年亡くなりましたが、今もどこかで自分を見守ってくれている気がします。今後もいただいたご縁を大切に、この会社をより大きく成長させたいと思っています。 (p.75)

積極的にメディアに取り上げられることは、何らかのメッセージを発信したいためと想像します。そして、どちらに転んでも好ましい目が出るように、鳩山さんは話題や言葉を慎重に選んでいるように感じられました。

2014年10月12日日曜日

2013年度バフェットからの手紙 - (付録)企業年金制度について(2)

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ウォーレン・バフェットがワシントン・ポストのキャサリン・グラハム向けに書いた企業年金制度に関する注意について、2回目になります。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

「将来の支払いを今約束する」ことのソロバン勘定が、いかに誤解しやすいか

「存命中は毎月500ドルを支払う」、わたしに対してそのような約束をすると、保険数理的ですがすべて実際に発生するという意味においても、65,000ドルを支出したことになります。しかしそのような生涯にわたる約束ができるほど金銭的に余裕があるとしたら、今ここで50,000ドル分の小切手を切ったほうが得です(わたしが現在の年齢に見合った平均余命を生きるとして)。しかし、そのふたつは同じようには感じられないと思います。

「生きている間はハンバーガーを毎月1,000個ずつ支給する」という約束をすれば(現在のハンバーガーが50セントと仮定します)、表面的には先の提案と等価のように感じられるかもしれません。しかしインフレの進む世界では、もっとも評価しづらい責務を負ったことになります。このことは、のちほど触れる「地震リスク」を生み出します。1カ月あたり1,000個のハンバーガーを支給するために、65,000ドル、さらに言えば130,000ドルでさえも受け取りたがる保険会社はどこにも見あたりません。それは確かです。現在のハンバーガーの値段は50セントですが、将来にハンバーガーを支給する約束は、将来に50セント分ずつを支払う約束とは等価ではないからです。

ですから年金給付制度を導入したり修正する前に、財政的な行く末がどうなるのか、ご自身ではっきりと把握しておくべきです(特にそうなのは大幅なインフレになる世界です。そうなることはほぼ間違いない、とわたしは信じています)*。計算を依頼する点ではアクチュアリー(保険数理士)は申し分ないですが、計算の基礎を仮定する点ではお粗末なことがよくあります。実際のところ「世の中とは、時々によって経済的な意味で断絶している」とする最も重要な仮定をする上で、奇妙にもまちがったやりかたをしています。彼らは慣習に従うように訓練されているからです。もし慣習からかなり外れるようになると、商売を獲得して維持するという利己的な狙いは、うまく果たされないでしょう。重大な仮定をする際に慣習に従うことは、基本的には歴史的事実を受け入れることを意味します。ただし現在起きている事象によって、ある程度は調整が加えられています。このやりかたがうまくいくのは、平均余命や罹患率/有病率といった要因を予測する場合です。また従業員の退職率のようなものにも、かなり使えます。しかし年金費用の計算上もっとも重要な2つの要素を見積もる際には、災厄に至るおそれがあります。その2つとは、基金から生じる利益と、給与の昇給動向です。

(*) インフレの可能性に関するわたしの見方は、もっとも評判の高い識者よりも極端です。教義的な見方というものは、立証するのが困難です。というのは、経済学的な訓練や分析に従うよりも、社会的・政治的判断に基づいて結論を下すからです。ですから、長期的なインフレに関して悲観的な結論を出した私の判断には、主観的な側面があることを理解しておいてください。それを踏まえて軌道修正されるのであれば、ぜひ躊躇しないでください。 (p.119)

Deceptive Arithmetic of “Promise Now - Pay Later”

If you promise to pay me $500 per month for life, you have just expended - actuarially but, nevertheless, in a totally tangible sense - about $65,000. If you are financially good for such a lifetime promise, you would be better off (if I have an average expectancy regarding longevity for one my age) handing me a check for $50,000. But it wouldn’t feel the same.

And, if you promise to pay me 1,000 hamburgers a month for life which, superficially, may sound equivalent to the previous proposition (assuming a present hamburger price of 50¢), you have created an obligation which, in an inflationary world, becomes most difficulty to evaluate. This creates a risk we talk of later as an “earthquake risk”. One thing is certain. You won’t find an insurance company willing to take the 1,000-hamburgers-a-month obligation off your hands for $65,000 - or even $130,000. While hamburgers equate to 50¢ now, the promise to pay hamburgers in the future does not equate to the promise to pay fifty-cent pieces in the future.

So, before plans are introduced or amended, the financial consequences (particularly in a world of significant inflation which I believe to be close to a certainty)* should be clearly understood by you. Consulting actuaries are very good at making calculations. They are frequently terrible at making the assumptions upon which the calculations are based. In fact, they well may be peculiarly ill-equipped to make the most important assumptions if the world is one of economic discontinuities. They are trained to be conventional. Their self-interest in obtaining and retaining business would be ill-served if they were to become more than mildly unconventional. And being conventional on the crucial assumptions basically means accepting historical experience adjusted by a moderate nudge from current events. This works fine in forecasting such factors as mortality and morbidity, works reasonably well on items such as employee turnover, and can be a disaster in estimating, the two most important elements of the pension cost equation, which are fund earnings and salary escalation.

[*] My views regarding inflationary possibilities are more extreme than those of most respected observers. It is difficult to substantiate a dogmatic view, since conclusions rest more upon social and political judgments than upon economic training and analysis. You should recognize the subjective nature of the reasoning leading to my pessimistic conclusions regarding inflation over the longer term - and not be reluctant to correct accordingly.

2014年10月10日金曜日

チャーリー・マンガーの炉辺談話(4)経営面におけるバークシャーの強み

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米ウォール・ストリート・ジャーナルのブログで、ジェイソン・ツヴァイク氏がチャーリー・マンガーにインタビューした記事のつづきです。バークシャーの強みに関する話題です。(日本語は拙訳)

<質問> バークシャー・ハサウェイはどのように革新的だったのか。

<マンガー> バークシャーを経営する上で、新しい考えはひとつも入っていませんよ。[マンガーの友人]ピーター・カウフマンが言うところの、「見逃している単純なものを活用する」だけです。我々[バフェット及びマンガーの両氏、同社の株主、買収した企業]はお互いを選び合ってきました。「類は友を呼ぶ」集いなので、ほとんどのことは楽に決まりました。私やウォーレンは超人ではないですよ。目隠しでチェスは指せないですし、コンサートに出られるピアニストにもなれません。しかし得られた結果は並外れたものでした。なぜならばIQの不足分を補う以上に、気質の面で強みがあるからです。

手遅れとなった悪いニュースにまったく直面しない人などいません。しかしバークシャーでは実に少ない数にとどまっています。「報告するのは悪い知らせにしてください。良い知らせはあとでも困りませんから」とは、ウォーレンが好んで使う言葉です。その件でみんなが我々を信頼してくれることは、あやまちが昂進して災厄へと達するのを防ぐ理由のひとつになっています。四半期ごとの決算ではなく、管理するのは長期だけにしておけば、次の四半期の決算がどうなるかなどは気にもなりませんよ。

On how innovative Berkshire Hathaway has been:

There isn't one novel thought in all of how Berkshire is run. It's all about what [Mr. Munger's friend] Peter [Kaufman] calls ‘exploiting unrecognized simplicities.' We [Messrs. Buffett and Munger, their shareholders and the companies they have acquired] have selected one another. It's a community of like-minded people, and that makes most decisions into no-brainers. Warren and I aren't prodigies. We can't play chess blindfolded or be concert pianists. But the results are prodigious, because we have a temperamental advantage that more than compensates for a lack of IQ points.

Nobody has a zero incidence of bad news coming to them too late, but that's really low at Berkshire. Warren likes to say, ‘Just tell us the bad news, the good news can wait.' So people trust us in that, and that helps prevent mistakes from escalating into disasters. When you're not managing for quarterly earnings and you're managing only for the long pull, you don't give a damn what the next quarter's earnings look like.

2014年10月8日水曜日

チャーリー・マンガーの炉辺談話(3)綱渡り師がわかっていたこと

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米ウォール・ストリート・ジャーナルのブログで、ジェイソン・ツヴァイク氏がチャーリー・マンガーにインタビューした記事のつづきです。短いので、今回は2つの話題です。(日本語は拙訳)

<質問> バークシャーのパートナーである3Gキャピタル社のような、大企業を買収して効率経営する会社のことを、どう考えていますか。

<マンガー> コスト削減の話題は微妙なものと感じています。この話題は普通、大勢の人が職を失うことを意味します。金持ちはますます裕福になり、その一方で多くの人がクビになるわけですね。しかし突きつめてみれば、企業が必要以上の人員を雇用して効率的に経営できないようでは、世の中のためになるとは思いません。全体としてみれば、企業がよりよく運営されることで社会を発展させることにつながります。

On firms like Berkshire partner 3G Capital, which takes big companies and streamlines them:

I'm sensitive to the issue of cutting costs, which usually means a lot of people losing jobs. Rich people end up getting richer and a lot of people get fired. But ultimately, I think we don't do the world a favor by employing more people than we need for companies to run efficiently. On the whole we advance civilization when companies run better.

<質問> あなたやバフェット氏が言うところの「自分の土俵」とは、どのようなものですか。

<マンガー> 孔子曰く、「これを知らざるを知らずとせよ、これ知るなり」。これと同じことをアリストテレスやソクラテスも言っています。自分の知らないことの範囲を把握することが大切だ、ということですね。それでは、この技能は教えたり学びとることができるものでしょうか。もし結果次第で損得が大きく振れるのであれば、たぶんできると思います。自分が認識していることの限界を知ることにおいて、ある種の人たちはきわめてうまくやっています。なぜならば、それが不可欠だからです。プロの綱渡り師を20年間務めて今なお存命の人を考えてみてください。もし自分が何を知っていて何を知らないのか正しく把握していなければ、綱渡りで命を落とすことなく20年間も続けてはこられなかったでしょう。彼の人はそのことを真剣に取り組んだのです。それをしくじれば命がないとわかっていたからですね。そう、生き長らえた者にはわかっていたわけです。

自分が何をわかっていないのか。それがわかっていれば、頭が良いことよりもずっと役に立ちますよ。

On what he and Mr. Buffett call "the circle of your competence":

Confucius said that real knowledge is knowing the extent of one's ignorance. Aristotle and Socrates said the same thing. Is it a skill that can be taught or learned? It probably can, if you have enough of a stake riding on the outcome. Some people are extraordinarily good at knowing the limits of their knowledge, because they have to be. Think of somebody who's been a professional tightrope walker for 20 years - and has survived. He couldn't survive as a tightrope walker for 20 years unless he knows exactly what he knows and what he doesn't know. He's worked so hard at it, because he knows if he gets it wrong he won't survive. The survivors know.

Knowing what you don't know is more useful than being brilliant.

2014年10月6日月曜日

2014年バークシャー株主総会; 公立学校教育について

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2014年5月に開催されたバークシャー・ハサウェイの年次株主総会から、おなじみの話題、米国における教育問題についてです。主題よりも、ウォーレンが冗談を説明するほうが長いです。(日本語は拙訳)

<質問56: 上海在住の質問者> 教育に対する投資はどうですか。米国と中国では、現在あるいは将来どのような違いがあるでしょうか。

<マンガー> これは、どんどん楽な質問になっていきますね(笑)。

<バフェット> 彼の言うことなら、なんでも賛成しますよ(笑)。

<マンガー> アメリカは公立の学校をおしゃかにしたことで、大きな間違いをしでかしました。一方、アジア諸国の社会ではその傾向が小さいと思います。彼らのやりかたをもっと見習ったほうがよかったですね。

<バフェット> チャーリーの言動が心配になった時はそれを口にすべきでない、そのことを思い出しました。うまく聴こえないことについて、こんな冗談があります。わたしにはすばらしいパートナーがいるが、彼は耳が悪くなっているようだ。そんなときにはどうすればいいのか。医者の話では、部屋の向こう側に立ってみろとのこと。そこでわたしは部屋の反対側に立って、こう言いました。「35ドルでGMを買うのがいいと思うけれど、どうだろう」。しかし返事がありません。次に部屋の半分まで近づいて、再び言いました。またもや返事はありません。とうとう、すごく近くまで歩み寄って語りかけました。「チャーリー、35ドルでGMを買おうと思っているけれど、どうかな」。3回目にして彼は「いいとも」と答えてくれました。大きな声ならば聴こえる、ということですね。

Q56: Station 9, Shanghai. Education investment - what is different now and in the future in US and China?

CM: We certainly are getting the easy questions! [laughter]

WB: Whatever he says I agree with. [laughter]

CM: I think America made huge mistake when they let public schools go to hell. I think Asian cultures are less likely to do that. I wish we were more like them.

WB: It reminds me, that whenever I get a little worried about Charlie, maybe I shouldn’t talk about it. There is a joke about not hearing well that goes like this: I have this wonderful partner, but I think his hearing is going. What should I do? Doctor told me to stand across room. So I stood across room and said, ‘I think we ought to buy GM at 35’. No response. I go halfway across room, say it again, and no response. So I walk right over to him and say, “Charlie I think we ought to buy GM at 35.” And he says, for the third time, YES! So speak up... 

2014年10月4日土曜日

チャーリー・マンガーの炉辺談話(2)ベン・グレアムについて

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米ウォール・ストリート・ジャーナルのブログで、ジェイソン・ツヴァイク氏がチャーリー・マンガーにインタビューした記事のつづきです。

<質問> ウォーレン・バフェットが師と仰ぐ、偉大な投資家ベンジャミン・グレアムについて

<マンガー> 私はウォーレンのようには、ベン・グレアムや彼のアイデアに惚れこんでいないですね。ただしここで理解しておくべきなのは、ウォーレンはずいぶん若いときにベンをみつけだして、彼のところで働き、彼の見出した物事のとらえかたがウォーレンの生きかたをそっくり変えてしまったことです。ウォーレンは、若かった頃の長い時間を師匠のそばから崇めることに費やしました。しかし私からすれば、ベン・グレアムには投資家として学ぶことがもっとあったはずです。企業を評価する彼のアイデアは、市場の大暴落とその後の大恐慌が彼を破滅寸前に追いやった経験だけで形成されていました。彼はいつでも、市場がどうなるものかという、ちょっとした恐怖感を抱いていたものです。その後の生涯を通じて、彼は当時の恐怖の影響から逃れられなかったのですね。だから彼はあらゆるやりかたを、暴落や恐慌がきても問題が起きないように設計しました。

ベン・グレアムは、ウォーレン・バフェットのようにはすぐれた投資家ではなかったと思います。私とくらべてもそうです。割安のシケモク株(買収や清算時の評価額のごく一部にあたる金額で売買されており、成長余地が限定されている企業)を買うのは甘い罠であり、思い込みです。我々の手にある全資金のような金額を働かせるとなれば、そのやりかたでは絶対にできないですよ。何千億円あるいは数十、数百億円でさえもできません。そうは言っても彼はとても上手い書き手であると共に、非常に優れた教師でした。そして明晰な頭脳の持ち主でした。当時の投資業界では数少ない、おそらく唯一の知識人でしたよ。

On Benjamin Graham, the great investor who was Warren Buffett's revered mentor:

I don't love Ben Graham and his ideas the way Warren does. You have to understand, to Warren - who discovered him at such a young age and then went to work for him - Ben Graham's insights changed his whole life, and he spent much of his early years worshiping the master at close range. But I have to say, Ben Graham had a lot to learn as an investor. His ideas of how to value companies were all shaped by how the Great Crash and the Depression almost destroyed him, and he was always a little afraid of what the market can do. It left him with an aftermath of fear for the rest of his life, and all his methods were designed to keep that at bay.

I think Ben Graham wasn't nearly as good an investor as Warren Buffett is or even as good as I am. Buying those cheap, cigar-butt stocks [companies with limited potential growth selling at a fraction of what they would be worth in a takeover or liquidation] was a snare and a delusion, and it would never work with the kinds of sums of money we have. You can't do it with billions of dollars or even many millions of dollars. But he was a very good writer and a very good teacher and a brilliant man, one of the only intellectuals - probably the only intellectual - in the investing business at the time.

2014年10月2日木曜日

2014年バークシャー株主総会; エネルギー事業について

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2014年5月に開催されたバークシャー・ハサウェイの年次株主総会から、エネルギー事業(子会社のMidAmerican)への投資に関する話題です。(日本語は拙訳)

<質問55> [2013年度アニュアル・レポートの]64ページに載っている事業別の数字ですが、エネルギー事業のEBITDA(利払い税引き償却前利益)から設備投資額を引くと、赤字の営業キャッシュ・フローになります。また直近5年間について同じように計算すると、営業キャッシュ・フローは最高の年で3億ドルでした。これを有形資産額で割ると0.8%のリターンになります。そこまで低いリターンの事業に資本を投じているのはなぜでしょうか。

<バフェット> 有形資産あたりのリターンを出すところまではすばらしいご指摘ですね。投下資本に対するリターンを求める際には、わたしたちも今言われたような計算を好んでやります。資本が正当に使われるのであれば、もっと投じたいと考えています。そうすれば適切なリターンを得られますから。しかしキャッシュ[・フロー]から正味設備投資額を引き算するのではなく、減価償却後の営業利益をみます。正味の設備投資が発生しないときもありますからね。正味投資額が増えざるを得ない領域を好んでいるのは、資本がますます増えますし、規制当局が将来わたしたちを正当に扱ってくれると読んでいるからです。そうなると信じる理由のひとつは、ほとんどの会社が設定しているよりも安い料金で電力を供給する点で、さまざまな他社よりもわたしたちのほうがうまくやってきたからです。アイオワ州にある公益事業では、当社は競合他社よりも大幅に低い料金でやっています。農場をやっている友人は2社から供給を受けていますが、当社の料金は競合よりもびっくりするほど安いと彼は言っています。当局は当社に対して、安全面を含めて相応の敬意を払ってくれています。ですから新しい州で商売を始めると、当局はわたしたちを歓迎してくれます。そういったプロジェクトに新たな資金を投下できれば、良好なリターンが得られると思います。しかし設備投資も含めた上で計算すると、数字としては赤字のリターンになります。この件は鉄道事業とある程度似かよっていますね。

<マンガー> その羅列された数字が落ち目のデパートのものであれば、がっかりですよ。しかし我々は、成長するエネルギー事業に資本を再投資すれば良いリターンが得られる、と自信を持っています。単純なことですよ。

(後略)

Q55: Station 8, New Hampshire. Looking at page 64 segment data for the energy business, when I take ebitda less capex, the result is negative operating cashflow. When I repeat exercise in each of last five years, in best years, $300m of operating cash flow. Divide by tangible assets, 0.8% return, why allocating capital to a business with such low returns?

WB: You were doing great until return on tangible assets. We love the math you describe, as long as we get return on capital investment. We are looking forward to putting more capital in, as long it is treated fairly, and we will get appropriate returns on that. It is not cash minus increased capex, it is operating earnings less depreciation. There are times when no net investment is required, but we prefer where net investment must be higher because we get more capital in and our bet is that regulators will treat us fairly in future. One reason we believe this is true is that we have done so much better than many at delivering electricity at lower rates than charged by most. In Iowa there is a public utility, and our rates are significantly below competitors. A friend with a farm who is served by two utilities tells me that rate from us is dramatically lower than the competitors. We have a deserved good reputation with regulators, including safety. They welcome us when we come to new states. If we can put new money into those projects, we will get good return. But you will get negative returns if you include adding to capital spending. This is somewhat similar at the railroad.

CM: if numbers you recited come from a declining department store, we would hate it. But we have confidence that the reinvested capital will give us a good return from a growing energy business. It is that simple.

備考です。アニュアル・レポートのp.46によれば、バークシャーのエネルギー事業における建造物や機械設備といった減価償却資産の耐用年数は、3-80年間となっています。ちなみに日本の電力会社では、最長で30-50年間のようです(財務省令)。