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2020年6月15日月曜日

長期投資を心がける際の売却方針について(3)マイクロソフトの事例

今回からは個人的な経験を題材にして、長期投資における気づきや教訓を掘り起こしていきたいと思います。 本シリーズの前回分投稿はこちらです。

今回取り上げる銘柄はマイクロソフト(MSFT)です。当社の株式をはじめて購入したのは2011年秋なので、保有期間は9年弱になります。現在までに若干は売却したものの、大半はそのまま継続保有中です。

<株式投資で大きな利益をあげる構図のひとつ>
話を進める前に、株式投資によってそれなりの利益をあげる基本構造を確認しておきます。

1) 投資先の価値を市場が見逃している間に、株式を購入する。
2) その価値が表面化したり、市場が認識した結果、株価が上昇する。
3) 株式を売却する。あるいは継続保有して配当金を受領し続ける。

(参考記事) 投資が簡単だと思っている人間は愚か者だな(ハワード・マークス)の3つ目の引用

<株式購入当時の状況(2011-2012年)>
当社の株式購入を検討していたのは2011年でした。そのころに市場で人気があったのはアップルやグーグルといった企業でした。「オールド・テック」とみなされた当社は、表面的には失敗が目立ちました。2012年にはタイル型UIを取り入れたWindows 8がリリースされました。携帯電話会社Nokiaに資金を投じ始めたのは2011年です。のちになってわかることですが、その取り組みの多くが失敗に終わりました。しかし表舞台で失敗していた裏側では、地道に利益をあげていました。サーバー向けソフト事業では、売上高の増加率は2011年・2012年のどちらも10%超、営業利益の増加率は15%超でした。

<株式を購入した動機>
当時の不人気ぶりは覚えていたつもりでしたが、実際には記憶以上の不人気でした。そのころに書いた投稿を読むと、市場からの評価は実績PER10倍前後とあります。個人的にも、当社の将来性が輝かしいと考えて投資したわけではありません。期待していたことはもう少しささやかで、「主力事業の収益基盤が安定しているため、その分野だけでもゆっくりと成長できる」と予想した程度でした。株式を長期的に保有する間に利益が増加して、市場からの評価もその分は上昇するだろうと考えていました。

(参考記事) 2012年の投資をふりかえって(3)新規・追加投資編(マイクロソフト)

<転機の到来(2014年2月)>
当社の転機はCEO交代という形でやってきました。前CEOを務めていたのは、ビル・ゲイツの僚友スティーブ・バルマーでした。その彼が退任することになったのは、おそらく同業他社と比較した業績不振の責任を取らされたからでしょう。話題を呼んだ次期CEO選びの末に、サティア・ナデラが選任されました。対抗馬として有力視されていたNokiaのスティーブン・エロップ氏とは対照的に、サティアの専門領域は企業向けシステムでした。

(参考記事) もはやサル社長ではない
(参考記事) 米マイクロソフト次期CEOを予想する

あとから振り返ってみれば、この人選が新生マイクロソフトを決定づけたと思います。個人的にはこのできごとの重要性に気づいていませんでした。当社の株式は単に割安だというだけで継続保有していました。しかし「新CEOの登用」という埋没価値をリアル・オプションとして認識評価できていれば、当社の株価はもっと割安だと判断できていたでしょう(つまり、どこかの時点で株式買い増しに踏み切れたかもしれない)。それほどに当社や業界の将来性のことを真剣に考えていなかったわけです。さらには、当社のような代表的企業に集まる人的資源の豊かさを認識させられました。

<当社の変化(2014年2月以降)>
新CEOとなったサティア・ナデラは、積極的な改革を段階的に進めました。具体的な施策の例を以下にあげます。

・事業の選択; クラウド事業(Azureやサーバー製品等)への注力、スマートフォン事業からの撤退、その他製品のクラウド・サービス化
・社内文化の変革; エンジニアリング志向、オープン志向への転換
・潜在的顧客の獲得; 各社の買収(Mojang(マインクラフト)、LinkedIn、GitHub)、Linuxの積極的受入れ、Visual Studio Codeのマルチ・プラットフォーム提供
・消費者向け製品の差別化; Surfaceブランド製品

これらの施策がクラウド事業の拡大を手伝ったことは、あとになって考えてみればある程度理解できます。そして具体的な業績の進展をみることで、市場は当社に対する評価を上げていきました。


(参考記事) 2014年の投資をふりかえって(5)継続銘柄:マイクロソフト他

<株式売却の逡巡その1(2018年)>
この時期の市場評価は、株価が90ドル前後、実績PERが30倍強と、高い成長を織り込んだものでした。そして個人的に注視しつづけているファンド、FPAクレセントのスティーブン・ローミック氏が当社株式を一部売却したとのレターを読んだことで、そろそろ売却時かと迷いました。

どうしたものかと考えるなかで、当社のジョン・トンプソン会長の発言をとりあげた記事を目にしました(2018年2月分)。彼は「クラウドへの移行は、まだ本当に始まったばかりだ」と発言していました。具体的な根拠は示されていなかったものの、この発言内容をきっかけに市場の将来性を考え直してみました。

当社はそもそも大企業向けの事業を手がけています。その市場規模のことは、わたしよりもはるかによく理解しているはずです。その立場にあって先のような発言をするのは、額面通り正しいことを言っているか、あるいは虚勢を張っているかのどちらかだと考えました。仮に後者だとしても、平均に回帰するまでの成長分によって市場評価低下分を相殺できると判断しました。そして継続保有したまま数年が経過した時点で、彼の発言の真偽を確認すればよいだろうと。

トンプソン会長の発言がまちがっていたという証明は、今のところはできていません。クラウド事業についてFY2018-2QとFY2020-2Qを比較すると(6か月ベース)、売上高は140億ドルから220億ドルに成長し、成長率は年換算で21%,26%と推移しています。個人的に彼を信頼する度合いは、高止まりしたままです。

<株式売却の逡巡その2(2020年現在)>
現在の当社の株価は190ドル前後で、実績PERは約38倍と、さらに高い成長性を織り込んだ評価になっています。個人的には低PERに慣れているので、率直に言えば高いです。売却を迷うところです。株価が短中期的に低迷する可能性は十分にあると思います。期待度の高いクラウド事業の成長率に大きな翳りがみられれば、市場評価が下落基調に変わってもおかしくありません。しかし次の長期的期間(たとえば7年以上)までみれば、成長によって下落分を取り返せると踏んでいます。社会がコンピューティングの進展を望み、その領域と深度のいずれにおいても拡大すると予想できるからです。トンプソン会長の予言だけではなく、産業界の動きからも感じとれるように思います。またサティア・ナデラのリーダーシップにも不満はありません。そのため、少なくともしばらくは継続保有のままでいようと考えています。ただし小さくないリスクとして、国際的な安全保障面での規制圧力は高まってくると感じています。これがどのように悪影響を及ぼし得るのか、考えていくつもりです。

<今回のまとめ>
・強みを活かせる優良企業がくすぶっていた時期に、割安な値段で購入した(2011年)。
・当社自身が強みと弱みを見つめなおし、CEO交代という転換点をつくった(2014年)。
・新CEOが躊躇なく、事業や組織や文化を改革した。
・市場や当社の成長に任せて、株式を継続保有した。

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