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2012年10月8日月曜日

波に乗ってどこまでも(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーの世知、今回は「先行者利益」の話です。(日本語は拙訳)

私が興味深く感じているミクロ経済学のもうひとつのモデルをお話ししましょう。我々の文明で起こっているように技術が急速に進歩すると、私が呼ぶところの「競争による破滅」が生じます。たとえばすばらしい馬車用鞭の工場をやっているとします。しかし突然あるときから、小型の自動車が登場します。こうなると馬車用鞭の商売におわりがくるのは、それほど遠くのことではないでしょう。ほかの商売に鞍替えするか、あるいはお陀仏となるかです。このようなことが何度も何度も繰り返されてきたのです。

そのような新事業が登場したときに先駆者だった人には巨大な優位がもたらされます。これを私は「波乗り」モデルと呼んでいます。サーファーが立ち上がってそのまま波に乗っていけば、ずっと長い時間にわたって進むことができます。ですが波がなければ、浅瀬でまちぼうけです。

しかし波を正しく捉えることができれば長い距離がかせげます。マイクロソフトやインテルやその手の人たちがそうでした。初期の頃のNCRも同じでした。

キャッシュ・レジスター[レジ]は、文明における偉大な貢献のひとつでした。このすばらしい話をふりかえってみましょう。パターソンは小さな小売店をやっていましたが、利益をあげていませんでした。あるとき彼は粗野なつくりのレジを買い受け、店の仕事で使うことにしました。すると突然、これまで赤字だったのが利益をあげられるようになったのです。というのも、従業員がお金を盗むのがずっと難しくなったからですね。

しかしパターソンは「これは店の商売に役立つぞ」とは考えずに、こう考えたのです。「レジを売る商売でいこう」、そうしてできた会社がNCRでした。(中略)

もちろんですが投資家が探すべきは、まさしくこういうことなのです。長き人生の間には、知恵を築き、そういった企業をさがそうとする決意をもてば、そのような機会のうち少なくとも何度かは大きな利益をあげられるでしょう。いずれにしても、「波に乗る」とはとても強力なモデルです。

Then there's another model from microeconomics that I find very interesting. When technology moves as fast as it does in a civilization like ours, you get a phenomenon that I call competitive destruction. You know, you have the finest buggy whip factory, and, all of a sudden, 「in」 comes this little horseless carriage. And before too many years go by, your buggy whip business is dead. You either get into a different business or you're dead - you're destroyed. It happens again and again and again.

And when these new businesses come in, there are huge advantages for the early birds. And when you're an early bird, there's a model that I call “surfing” - when a surfer gets up and catches the wave and just stays there, he can go a long, long time. But if he gets off the wave, he becomes mired in shallows.

But people get long runs when they're right on the edge of the wave, whether it's Microsoft or Intel or all kinds of people, including National Cash Register in the early days.

The cash register was one of the great contributions to civilization. It's a wonderful story. Patterson was a small retail merchant who didn't make any money. One day, somebody sold him a crude cash register, which he put into his retail operation. And it instantly changed from losing money to earning a profit because it made it so much harder for the employees to steal.

But Patterson, having the kind of mind that he did, didn't think, “Oh, good for my retail business.” He thought, “I'm going into the cash register business.” And, of course, he created National Cash Register.

And, of course, that's exactly what an investor should be looking for. In a long life, you can expect to profit heavily from at least a few of those opportunities if you develop the wisdom and will to seize them. At any rate, “surfing” is a very powerful model.


肝心な箇所を省略しましたが、NCRは当時のアメリカで大成功をおさめた企業でした。Wikipediaによれば、1925年のIPOによる資金調達は、アメリカ史上最大規模だったとのことです。

2012年10月2日火曜日

怒涛が押し寄せる音が聞こえた(ダム決壊の日)

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最近読んだ本『群れはなぜ同じ方向を目指すのか?』で興味深い話がいくつか取り上げられていたので、ご紹介します。今回は物理学で登場する概念「臨界」についてです。

作家のジェイムズ・サーバーは、『ダム決壊の日』という自伝的な文章を書いているが、そこに描かれたような連鎖反応からも、そういう結果が生じることがある。きっかけは、一人の住民が逃げているのが目撃されたことだった。たったそれだけのことによって、心配するようなことはないと何度も念を押されたにもかかわらず、オハイオ州コロンバス東部の住民全員がありもしない津波から逃げ出したのである。サーバー一家もその脱出組の中にいた。「最初の半マイルのうちに、町の住民のほとんど全員が追い越していった」とサーバーは言う。パニックに陥ったある人は、背後から「怒涛が押し寄せる」音を聞きさえしたそうだ。だが、結局それはローラースケートの音だった。

パニックが起きたのは、最初に逃げた人を見て何人かの住民が逃げ始め、今度はその住民が、さらにまた何人かが逃げる元になり……、ということが繰り返されたからだ。この過程は住民全員が逃げ出すまで続いたのである。原子爆弾の内部でもこれと同じ過程が進行する。原子爆弾では、まずある原子核が崩壊して、近くの原子核を何個か分裂させるだけのエネルギーをもった高エネルギーの中性子を放出する。それが他の原子核を分裂させ、分裂した原子核がそれぞれまたさらに何個かを分裂させるだけの中性子を生む。こうして次々とドミノが倒れて、中性子の数と放出されたエネルギーの量が指数関数的に増大すると、大爆発となるのである。(p.28)


「臨界」については、以下の過去記事でも取り上げています。
なお、たしかに本書では群れに関する話題が登場しますが、全体的な内容としては副題「群知能と意思決定の科学」のほうが適切な表現かと思います。群れ以外の話題もいろいろ登場します。

2012年9月24日月曜日

複数のモデルが相乗的に働く「とびっきり効果」(チャーリー・マンガー)

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前々回の投稿で「経営者が適切なアクションをとれない」原因として複数の心理学的傾向が働いているのでは、と書きました。これが適切かどうかはともかく、このように複数の原動力が同時に働くときには注意して考えるように、とチャーリー・マンガーが説いています。今回は彼の名言"Lollapalooza effects"をとりあげます。日本語は拙訳で、「とびっきり効果」と訳しました。

これはとても重要なので忘れないようにしてください。とくに大きな力というのは、100種にわたるモデルのどれかからくることが多いのです。そして複数のモデルが結合すると、「とびっきり効果」(lollapalooza effects)が生じます。2つや3つ、4つの力がすべて同じ方向へ向かって働くわけです。単なる足し算では終わらずに、物理学で言うところの臨界量のようなものになることがよくあります。臨界に達したときには核爆発が起きますし、臨界に達しなければ特に何も起きません。それぞれの力は順次追加されていくこともありますし、破断点や臨界量に達した時点で合わさることもあります。

もっとよくあるのは、それらの100種類ものモデルからくる力同士が、部分的に対立してしまうことです。その場合、心ならずも大きなトレードオフをしなければなりません。しかしトレードオフができなかったり、そもそもトレードオフが存在するのを認識できていない人は、ただのおばかさんです。真剣に考えている人たちからすれば厄介ものでしょう。ですから、そういったモデルがどのように結合するのか認識しなければなりません。生物学者のジュリアン・ハクスリーが言ったことの本質を悟るべきです。「生命とは、まさに次にくるものとの関連性である」。モデルを頭の中に叩き込んだ上で、お互いにどう関連するのか、そして関連によってどんな効果が生じるのか想像しなければならないのです。(Outstanding Investor Digest誌、1997年12月29日号)

The most important thing to keep in mind is the idea that especially big forces often come out of these one hundred models. When several models combine, you get lollapalooza effects; this is when two, three, or four forces are all operating in the same direction. And, frequently, you don't get simple addition. It's often like a critical mass in physics where you get a nuclear explosion if you get to a certain point of mass - and you don't get anything much worth seeing if you don't reach the mass. Sometimes the forces just add like ordinary quantities and sometimes they combine on a breakpoint or critical-mass basis.

More commonly, the forces coming out of these one hundred models are conflicting to some extent. And you get huge, miserable tradeoffs. But if you can't think in terms of tradeoffs and recognize tradeoffs in what you're dealing with, you're a horse's patoot. You clearly are a danger to the rest of the people when serious thinking is being done. You have to recognize how these things combine. And you have to realize the truth of biologist Julian Huxley's idea that 'Life is just one damn relatedness after another.' So you must have the models, and you must see the relatedness and the effects from the relatedness.(Outstanding Investor Digest, December 29, 1997)


ご参考になる過去記事は次のとおりです。

2012年8月29日水曜日

経営陣がなすべき責務(チャーリー・マンガー)

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前回に続いて経営者の話です。今回はチャーリー・マンガーがWescoの株主総会で語った内容から引用します。引用元はSeeking Alphaの以下の記事です。(日本語は拙訳)

2008 Wesco Shareholder Meeting: Detailed Notes (Seeking Alpha)

企業の経営陣がなすべき責務はただひとう、Moat[経済的な堀]を広げることです。それをめざして毎日のように力を尽くさなければなりません。競争上の優位を有している以上、Moatを築かなければならない。そうするのが難しい時期もあるでしょうが、Moatを広げることこそ、やるべき仕事なのです。世間では、それと違うことをやっている例がいくつもみられますが、自らの持つ競争優位を守れるようにMoatを広げることに集中すべきです。かつてイングランドのある将軍は、こう言いました。「きみらの父の息子に劣らぬ息子を残せ、それでこそ神は女王を守り給う」。ヒューレット・パッカードでは、自分の後任になれる人を育てあげることが要求されています。これは全然複雑なことではなくて、ちちんぷいぷいといったところでしょう。今日のテキサスでは、メソポタミアのころと同じやりかたでレンガをつくっています。大切なのは少しばかりのエートス、とくに工学上のエートスを体得することです。システム全体の観点から考え、安全余裕をとること。この予備用マイクのように、です。

The only duty of corporate executive is to widen the moat. We must make it wider. Every day is to widen the moat. We gave you a competitive advantage, and you must leave us the moat. There are times when it is too tough. But duty should be to widen the moat. I can see instance after instance where that isn’t what people do in business. One must keep their eye on ball of widening the moat, to be a steward of the competitive advantage that came to you. A General in England said, ‘Get you the sons your fathers got, and God will save the Queen.’ At Hewlett Packard, your responsibility is to train and deliver a subordinate who can succeed you. It is not all that complicated - all that mumbo jumbo. We make bricks in Texas which use the same process as in Mesopotamia. You need just a few bits of ethos, and particularly engineering ethos. Think through the system, and get a margin of safety. Like this backup microphone.

文中で登場する「予備用マイク」とは有線マイクのことです。当初使う予定だった無線のものが壊れたため、使うことになりました。ここでもチャーリーは教訓を引き出しています。「システムは複雑にしないこと」(有線のほうが信頼性が高い)、「バックアップを用意すること」。あえてもうひとつ加えるとしたら「バックアップには異なる種類のものを選ぶこと」でしょうか。

また工学については過去記事「最も信頼できるモデルとは(チャーリー・マンガー)」でも取り上げています。

なおイングランドの将軍の言葉の和訳は、以下の作品からお借りしました。
ハウスマン全詩集』「シュロプシァの若者 一番 1887年」森山泰夫・川口昌男 訳、沖積舎

2012年8月18日土曜日

誤判断の心理学(13)楽観的になりすぎる傾向(チャーリー・マンガー)

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今回の文章では、過去にもとりあげたおなじみの話題が登場します。原文が短いので全文をご紹介します。(日本語は拙訳)

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その13)楽観的になりすぎる傾向
Thirteen: Overoptimism Tendency

キリストが生まれた頃より300年前のこと。かの高名なるギリシャの弁論家デモステネスは、こう言いました。「人は自分が望むものを、やがて信念とするものだ」。

デモステネスの言ったことを解釈すれば、人は単に痛みを避けようと否定するだけでなく、うまくやりとげた後でも楽観的過ぎる姿を見せるとも言えます。

苦しんでいなかったり、あるいは苦しくなる心配がないときでも、たいていの人は楽観的過ぎるものです。みてください、くじを買って喜んでいる人たちを。あるいは、つけ払いできるうえに配達もしてくれる食料品店が、超効率的な巨大量販スーパーにとってかわると満足げに信じている人たちを。ギリシャの弁論家が正しかったのは言うまでもないですね。

このおろかな楽観に対処するには、私のころには高校2年で教わったフェルマーとパスカルの初歩的な確率計算を、反射的に使えるようになるまで練習するのが定石です。リスクに対処しようとして経験則に頼るのは、進化の末に我々人間が手にしたやりかたであって、適切とはいえないものだからです。ゴルフのグリップがこれと似た例でしょう。ゴルフ教室に通わずに、人として進化した体のつくりのまま自然に握るやりかたをとるのは、結局は役に立たないのです。

About three centuries before the birth of Christ, Demosthenes, the most famous Greek orator, said, “What a man wishes, that also will he believe.”

Demosthenes, parsed out, was thus saying that man displays not only Simple, Pain-Avoiding Psychological Denial but also an excess of optimism even when he is already doing well.

The Greek orator was clearly right about an excess of optimism being the normal human condition, even when pain or the threat of pain is absent. Witness happy people buying lottery tickets or believing that credit-furnishing, delivery-making grocery stores were going to displace a great many superefficient cash-and-carry supermarkets.

One standard antidote to foolish optimism is trained, habitual use of the simple probability math of Fermat and Pascal, taught in my youth to high school sophomores. The mental rules of thumb that evolution gives you to deal with risk are not adequate. They resemble the dysfunctional golf grip you would have if you relied on a grip driven by evolution instead of golf lessons.


何度かご紹介していますが、「フェルマーとパスカルの初歩的な確率計算」とは順列と組み合わせを使ったものです。以下の過去記事で取り上げています。


以前に「個人的には、組み合わせを全く使えていない」と書きましたが、肩肘張らずにやってみれば、ごく普通に使えるし、使うべき考え方ですね。

2012年7月24日火曜日

アインシュタインの警句を守る(チャーリー・マンガー)

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以前の投稿で、チャーリー・マンガーの投資における意思決定プロセスを、『Poor Charlie's Almanack』の編者ピーター・カウフマンが書いた文章をご紹介しました(過去記事)。今回の文章も同氏によるものですが、もう少し一般的な表現でチャーリーのやりかたを描いています。(日本語は拙訳)

自分の置かれた状況がどうであれ、チャーリーはどう進めたらいいかを考えはじめる前に、何をすべきでないかのほうに焦点をあてることが多い。彼のお気に入りの言い回しに、こういうのがある。「どこで死ぬかさえわかっていれば、そこには行かないようにしますよ」。日常生活と同様で、ビジネスにおいても勝ち目の低い次の一手はさっさと切り捨てる。このやりかたがチャーリーに大きな優位を与えている。時間を節約し、より建設的な分野に集中できるからだ。複雑な状況にでくわすと、彼は本質的で感情の入らない基本原理まで還元しようと努める。しかしながら、合理性や単純さを追求するうちに、彼自身のいう「物理学羨望症」にかかってしまわないように注意してきた。経済学のような格段に複雑なシステムを、ニュートンによるいくつかの法則のようなもので説明しようとするのは人の性だが、彼はそうせずに、アルバート・アインシュタインが残した警句のほうを忠実に守ってきたのだ。「科学法則はできるだけ簡潔にすべきだが、必要以上にやってはならない」。チャーリー自身の発言も挙げておこう。「自分がまさにしたことを、害をなさずして益をなすだろうと考えて満足にひたるのは、わたしには賛成できませんね。おわかりですか、高度に複雑なシステムの中では、あらゆるものがお互いに影響を及ぼしあっているのですよ」

Often, as in this case, Charlie generally focuses first on what to avoid ? that is, on what NOT to do ? before he considers the affirmative steps he will take in a given situation. “All I want to know is where I'm going to die, so I'll never go there” is one of his favorite quips. In business as in life, Charlie gains enormous advantage by summarily eliminating the unpromising portions of “the chess board,” freeing his time and attention for the more productive regions. Charlie strives to reduce complex situations to their most basic, unemotional fundamentals. Yet, within this pursuit of rationality and simplicity, he is careful to avoid what he calls “physics envy,” the common human craving to reduce enormously complex systems (such as those in economics) to one-size-fits-all Newtonian formulas. Instead, he faithfully honors Albert Einstein's admonition, “A scientific theory should be as simple as possible, but no simpler.” Or in his own word, “What I'm against is being very confident and feeling that you know, for sure, that your particular action will do more good than harm. You're dealing with highly complex systems wherein everything is interacting with everything else.”


ウォーレン・バフェットの伝説的な文句で"Rule No.1: Never lose money."というのがありますが、逆から考えるチャーリーのやりかたが強く影響したのかもしれませんね。

2012年5月19日土曜日

心理学的な落とし穴を避ける考え方(チャーリー・マンガー)

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人が判断を誤る心理学的な要因を、チャーリー・マンガーは「誤判断の心理学」と銘打って説明しています(過去記事)。そして、それらの注意点を自分自身の考え方に組み込むには、ものごとを2段階で分析するのがよいと説いています。今回ご紹介する一説は短いですが、個人的にはとても重要なものと捉えています。(日本語は拙訳)

まず考えるのは、ある対象に興味をもつことになった本当の理由は何かということです。それは興味と関係するもので、かつ理にかなっている必要があります。そして次に、潜在意識下で何が影響を及ぼしているのかを考えます。これは、脳が無意識のうちに働いて起こることで、たいていは役に立っているのですが、間違えていることもよくあります。

First, what are the factors that really govern the interests involved, rationally considered? And second, what are the subconscious influences where the brain at a subconscious level is automatically doing these things ? which, by and large, are useful but which often misfunction?


具体的な例で考えてみます。興味の対象は、わたしが最近注目している銘柄、任天堂の株価です。同社の株価は現在10,000円を下回っています(5/18(金)終値が9,360円)。

では、初めの分析です。同社の株価に注目しているのはなぜでしょうか。その理由は次の2つの観点でみて割安と考えているからです。簿価の観点、それから収益還元法の観点です。簿価のほうは客観的な数字で表せますが、将来の収益予測は恣意的な判断に任され、不確実なものです。

次に潜在意識下の影響を分析します。なぜ株価10,000円が割安だと感じているのでしょうか。是非はともかく、自分の心の底をさらってみます。
  1. 同社に関するさまざまな情報を読み、理解したつもりでおり、新製品はそれなりに売れるだろうと考えているから。
  2. 岩田社長の人当たりのよい対応に好印象を抱いているから。
  3. ここ1年以上にわたって株価を監視してきた間に、半値まで下落したから。
  4. 最高値70,000円とくらべて、株価が大きく下落したから。
  5. Yahooの掲示板や世間の評価が否定的で、それらを逆張り指標と考えているから。
ここまで進めば、最後は逆ひねりの出番です(過去記事)。潜在意識が考えたことに誤りや落ち度がないか、検証します。上に挙げた1.と2.は心理学的な落とし穴かもしれず、判断を誤らせているかもしれません。そこで、客観的なデータなどで正当性を示す必要があります。3.から5.の要因は、最初の分析とは合理的な因果関係がないようです。単に、同社の株を買いたい気持ちを助長しているように思えます。これらの影響を割り引くにはどうすればいいのか。この場合もキーワードは「客観視」や「合理的」でしょうが、なかなか悩みどころです。

しかし、潜在意識をさぐるというのは自分自身のことだからか、難しいものですね。

2012年5月16日水曜日

存在しないものでも見える(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーによる世知の続きです。今回は心理学についてです。具体的な内容は「誤判断の心理学」でご紹介中ですが、ここでは心理学を重要視するさわりが説明されています。(日本語は拙訳)

脳に入りきる回路の数は限られているため、人の感覚器には近道ができています。そのため、近道を逆手にとって脳に誤った知覚をさせれば、存在しないものをあたかも存在するかのようにみせることができます。

また、感覚と似ている別の機能として「認識」がありますが、これにも同じことがいえます。実際には感覚以上に間違いやすいといっていいでしょう。繰り返しますが、脳内における容量の限界などの理由で、いろんなこまごまとした近道が自動的に使われるようになっています。

何らかの形で状況がそろってきているようなときは、よくある例としては知り合いの誰かが手品師よろしく誤った認識をさせようとしてきたら、カモとして狙われているのでご注意を。

道具を使うときはその限界がわかってなければいけません。それと同じで、人はある仕組みをとおして認識している以上、その限界を知っておくべきです。それがわかっていれば、他人を動かしたり、やる気をださせるのにも使えます。

心理学の中にはとても現実的で使えるところがありますが、それらはとびぬけて重要です。知性のある人が教わるには、1週間もあれば十分な内容です。しかし、わたしのときは誰も教えてくれなかったので、人生をとおしてひとつずつ学んでいくしかありませんでした。けっこう苦労しましたよ。でも、ひととおり終わってみると実は基本的なことだったので、自分はなんという間抜けなのかと感じたものでした。

わたしはカルテックとハーバード・ロースクールに行ってましたが、そういった名高いところは間違った教育をしていますね。

心理学のうちの基本的な部分、これは学ぶべき価値のある重要なことです。わたしはこれを「誤判断の心理学」と呼んでいますが、学ぶべき原理の数は20種類ちょっとです。

それらは相互に関連すると若干複雑になりますが、基本的な考えだけでも押さえておいてください。すごく大切なことですから。

And the reason why is that the perceptual apparatus of man has shortcuts in it. The brain cannot have unlimited circuitry. So someone who knows how to take advantage of those shortcuts and cause the brain to miscalculate in certain ways can cause you to see things that aren't there.

Now you get into the cognitive function as distinguished from the perceptual function. And there, you are equally - more than equally in fact - likely to be misled. Again, your brain has a shortage of circuitry and so forth - and it's taking all kinds of little automatic shortcuts.

So when circumstances combine in certain ways - or more commonly your fellow man starts acting like the magician and manipulates you on purpose by causing you cognitive dysfunction - you're a patsy.

And so just as a man working with a tool has to know its limitations, a man working with his cognitive apparatus has to know its limitations. And this knowledge, by the way, can be used to control and motivate other people.

So the most useful and practical part of psychology - which I personally think can be taught to any intelligent person in a week - is ungodly important. And nobody taught it to me, by the way, I had to learn it later in life, one piece at a time. And it was fairly laborious. It's so elementary though that, when it was all over, I just felt like a total horse's ass.

And yeah, I'd been educated at Caltech and the Harvard Law School and so forth. So very eminent places miseducated people like you and me.

The elementary part of psychology - the psychology of misjudgment, as I call it - is a terribly important thing to learn. There are about twenty little principles.

And they interact, so it gets slightly complicated. But the guts of it is unbelievably important.

2012年4月29日日曜日

最も信頼できるモデルとは(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーによる世知の続きです。一言で取り上げているものもありますが、今回は広い範囲にわたっています。本シリーズの先頭にあたる過去記事はこちらです。(日本語は拙訳)

さて、最も信頼できるモデルにはどのようなものがあるか、挙げていきましょう。当然ですが、純粋科学や工学の分野で培われたものがいちばん信頼できます。それから品質管理もそうです。これもフェルマーやパスカルの初歩的な数学に基づくものですが、私のようなプロの技術屋でない人は、少なくとも基本的な概念はおさえておきたいものです。

品質管理を学ぶにはそれなりに時間がかかります。でもそうしておけば、このモデルが示す考えからはみださなくなります。中学校でやる数学がわかっていれば大丈夫です。これの結実した一例が、デミングが日本にもたらした一連の品質管理手法ですね。

ふつうは、統計学を器用に使いこなせるレベルまで達する必要はないと思います。わたしなどは「Gaussian分布」[ガウス分布]をどう発音するのか、よくわからないぐらいです。ですが、それがどういう形に分布するもので、物事や世の中の多くの側面がその分布に従うことは理解しています。つまり、大雑把には計算できるというレベルですね。

一方、ガウス分布に従うものを小数点以下10桁まで計算しろといわれたら、これはお手上げです。習熟はしていないけれどうまくやれる程度にパスカルを学んだポーカー・プレイヤー、といったところです。

わたしぐらいには釣鐘曲線を理解しておく必要はありますが、それだけあれば十分うまくやれます。

先に進みます。工学上の概念としてバックアップ・システムや破断点がありますが、これらはとても強力なモデルです。物理学上の概念である臨界量も強力です。

こういったモデルは、日常的な物事をみつめる際にも、とても役に立ってくれます。それから費用便益分析もありました。これは中学レベルの代数がわかっていれば十分ですが、おおげさな専門用語で飾り立てられている感がありますね。

次に信頼できるモデルとしては生物学と生理学をあげたいと思います。というのは我々自身が遺伝を通じて、だいたい同じになるように仕組まれているからです。

Which models are the most reliable? Well, obviously, the models that come from hard science and engineering are the most reliable models on this Earth. And engineering quality control - at least the guts of it that matters to you and me and people who are not professional engineers - is very much based on the elementary mathematics of Fermat and Pascal.

It costs so much, and you get so much less likelihood of it breaking if you spend this much. It's all elementary high school mathematics. And an elaboration of that is what Deming brought to Japan for all of that quality-control stuff.

I don't think it's necessary for most people to be terribly facile in statistics. For example, I'm not sure that I can even pronounce the Gaussian distribution, although I know what it looks like and I know that events and huge aspects of reality end up distributed that way. So I can do a rough calculation.

But if you ask me to work out something involving a Gaussian distribution to ten decimal points, I can't sit down and do the math. I'm like a poker player who's learned to play pretty well without mastering Pascal.

And, by the way, that works well enough. But you have to understand that bell-shaped curve at least roughly as well as I do.

And, of course, the engineering idea of a backup system is a very powerful idea. The engineering idea of breakpoints - that's a very powerful model, too. The notion of a critical mass - that comes out of physics - is a very powerful model.

All of these things have great utility in looking at ordinary reality. And all of this cost-benefit analysis - hell, that's all elementary high school algebra. It's just been dolled up a little bit with fancy lingo.

I suppose the next most reliable models are from biology/physiology because, after all, all of us are programmed by our genetic makeup to be much the same.


2012年4月25日水曜日

自分のやりかたで解く(リチャード・ファインマン)

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最近読んだ本『ファインマンさんの流儀』は、彼の業績や評判を軸に展開される伝記です。物理のことはだいたい忘れてますし、量子物理学の話にはほとんどついていけませんでしたが、ファインマンの天才ぶりはよくわかりました。

今回は同書からの引用で、ファインマンのやりかたについてです。チャーリー・マンガーは様々なモデルを使いこなすことの利点を説いていますが、なかでも基礎的な学問を重視しています(過去記事)。自分のやり方にこだわるファインマンが、その好例をみせてくれます。

実際、リヒスがほんとうにその会社、<シンキング・マシンズ>社を始めたとき、ファインマンは1983年の夏じゅう、ボストンで(カール[息子]と共に)過ごさせてくれと申し出た。ただし、ヒリスの願いに沿って自分の科学専門知識に基づいて、全般的で曖昧な「助言」をすることについては、そんなことは「でたらめの山」だからできないと言って拒否し、なにか「具体的な仕事」をくれと要求した。結局彼は、並行計算が実際にちゃんと行えるようにするために個々のルーターに必要なコンピュータ・チップの数は何個かという問題に対する解を導き出した。彼が導き出したこの解がすばらしかったのは、伝統的なコンピュータ・サイエンスの技法を一切使わず、その代わりに、熱力学や統計力学を含む物理学のさまざまな考え方を使って定式化されたものだったからだ。そして、なお重要なことに、その会社のほかのコンピュータ技術者たちが出した推定値とは一致しなかったけれども、実際にはファインマンのほうが正しかったのであった。(p.340)

2012年4月14日土曜日

これは最低だな(チャーリー・マンガー)

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過去記事「順列や組み合わせ」に続いて、チャーリー・マンガーが世知にあげているのが「会計」です。なお、本シリーズの先頭にあたる過去記事はこちらです。(日本語は拙訳)

当然ですが、会計の知識は不可欠です。ビジネスの現場で語られる言葉ですからね。この有用な概念は、文明社会の発展に寄与しました。かつて地中海世界を経済力で席巻したヴェニスでうまれ育ったとのことですが、しかし複式簿記はすごい発明ですね。

会計を理解するのはそれほど難しくはありません。

ですが、会計にも限界があることは重々承知しておくべきです。会計で表される数字は大雑把なもので、あくまでも出発点に過ぎないからです。限界を知るのも、それほど難しくありません。例えば、ジェット機の耐用年数はと聞かれたら、大体のところで予想するしかないでしょう。償却率をそれっぽい数字に決めるでしょうが、だからといって自分でひねり出した予想が現実に即したものになってくれるわけではありません。

会計の限界について、わたしの好きな逸話があります。カール・ブラウンというすばらしい事業家の話です。彼はC. F. ブラウン・エンジニアリングという原油の精製プラントを設計、施工する会社をおこしました。この手のビジネスは技術的な難易度がかなり高いのですが、ブラウン氏は職人芸を発揮して、納期を守り、爆発事故を起こすこともなく、効率の高いプラントを建設してきました。

生粋のドイツ人気質をもっていたブラウン氏には、一風かわったところがありました。たとえば、標準的な会計規則をプラント施工の仕事に適用するところをみて、「これは最低だな」とした一件。

彼は経理屋をみんなお払い箱にし、技術者たちに向かって言ったのです。「これからは、うちの作業にあうように、会計のほうをあわせていくことにする」。そして時がたってみると、会計規則のほうがカール・ブラウン氏のやりかたを採用することになりました。彼は、会計の重要性だけでなく、その限界を知ることも大切だと示してくれたのです。並はずれた強い意志と能力を兼ね備えた人でした。

Obviously, you have to know accounting. It's the language of practical business life. It was a very useful thing to deliver to civilization. I've heard it came to civilization through Venice, which, of course, was once the great commercial power in the Mediterranean. However, double-entry bookkeeping was a hell of an invention.

And it's not that hard to understand

But you have to know enough about it to understand its limitations - because although accounting is the starting place, it's only a crude approximation. And it's not very hard to understand its limitations. For example, everyone can see that you have to more or less just guess at the useful life of a jet airplane or anything like that. Just because you express the depreciation rate in neat numbers doesn't make it anything you really know.

In terms of the limitations of accounting, one of my favorite stories involves a very great businessman named Carl Braun who created the C. F. Braun Engineering Company. It designed and build oil refineries - which is very hard to do. And Braun would get them to come in on time and not blow up and have efficiencies and so forth. This is a major art.

And Braun, being the thorough Teutonic type that he was, had a number of quirks. And one of them was that he took a look at standard accounting and the way it was applied to building oil refineries, and he said, “This is asinine.”

So he threw all of his accountants out, and he took engineers and said, “Now, we'll devise our own system of accounting to handle this process.” And, in due time, accounting adopted a lot of Carl Braun's notions. So he was a formidably willful and talented man who demonstrated both the importance of accounting and the importance of knowing its limitations.


余談ですが、私の場合、株式投資を始めたころは会計のことはあまりわかっていませんでした。財務諸表を読んで企業分析のまねごとをするうちに、知識を少しずつ身につけていったものです。そのうち、仕事の関係で簿記や決算に携わる機会がありました。実際に仕訳をしたり、固定資産の減価償却費を計算したり、税額を計算したりすることで、財務会計の基本を体で理解できました。チャーリーが言うように難しい概念ではないのですが、実際に手を動かすことで、いろいろ合点できるところがありました。貸借対照表が巨大な恒等式であることを肌身で感じられたのは、自分にとってよい経験でした。

そのこともあって、企業分析を行う際には損益計算書だけでなく、貸借対照表も大いに気にします。資産がどのように使われているのか調べるのは、財務面での安全余裕を確認するだけでなく、ビジネスの性質を理解したり、経営陣の金銭意識を推し量るのに役立つからです。

2012年4月1日日曜日

わたしなら、こう考えます(ロバート・ルービン)

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ひきつづきロバート・ルービンの話です。彼はクリントン政権時代に財務長官として名をあげましたが、その前にはゴールドマン・サックスで共同会長を務めていました。ハーバードやイェールで法学を学んでいた彼が、なぜゴールドマンで活躍するようになったのか。彼自身は哲学に興味を持ったことを大きな要因としてあげています。そういえば、バフェットやマンガー、ソロスといった著名な投資家が、哲学や数学といった論理を追究する学問、あるいは物事の本質に迫る物理学のような学問を重視しているのと通じるものがあります。

今回は、物事を分析するときのルービンのやりかたについて、前回と同じで『ルービン回顧録』から引用します。

まずは学生時代をふりかえって。

デモス教授は証明可能な確実性があるというプラトンらの哲学者を尊敬していたが、私たちに教えたのは、人の意見や解釈はつねに改訂され、さらに発展するという見解だった。教授はプラトンなど哲学者の思想を取り上げて、いかなる命題でも最終的あるいは究極的な意味で真実だと証明することは不可能である、と説き明かしていった。私たちには、分析の論理を理解するだけでなく、その体系が仮説、前提、所見に拠っている点を探し出すことが求められた。

絶対的な意味で何も証明できないという概念をいったん自分の心に取り込むと、人生をそれだけますます確率、選択、バランスで考えるようになる。証明可能な真実がない世界で、あとに残る蓋然性をいっそう精密にするためには、より多くの知識と理解を身につけるしかない。 (p.84)


次は、クリントン政権1期目の補佐官時代です。

大統領首席補佐官室で、予算案を手渡されたことがあった。私はサマーズとともにその仕事に取り組んだ。数値を丸で囲い、クエスチョンマークを走り書きし、余白におおよその見積もりを立てて書き込んだ。サマーズは、あとになって、予算数字の並んだ紙を手渡されたときの反応には二通りあるといった。ひとつは、ざっと目を通し、それを既知の事実として、そこから検討を始める方法。もうひとつは、まず数字を疑ってかかり、矛盾点を探し、数字の意味や根拠の説明を求めたり関連性を追求したりする方法。私とサマーズはともに後者の性向をもち、数字だけでなく確かだという前提そのものも見直すほうだった。 (p.393)


「既知の事実として、そこから検討を始める方法」といえば、投資家がやってしまいがちなのは、決算短信や四季報に載せられている業績予想をうのみにしてしまう例でしょう。それらの数字にひきずられるのは心理学でいうアンカリングで、その危険性をルービンは冷静にみつめています。そもそも短期的業績の変動に左右されやすいのも、直近のことばかりに目がいく我々の傾向ですね。

余談ですが、本書『ルービン回顧録』は、ウォーレン・バフェットの2003年度の推薦図書です。「株主のみなさんへ」で取り上げられています。

A 2003 book that investors can learn much from is Bull! by Maggie Mahar. Two other books I'd recommend are The Smartest Guys in the Room by Bethany McLean and Peter Elkind, and In an Uncertain World by Bob Rubin. All three are well-reported and well-written. Additionally, Jason Zweig last year did a first-class job in revising The Intelligent Investor, my favorite book on investing.

2012年1月24日火曜日

どのようにして相対性理論に到達したのか(アインシュタイン)

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ウォーレン・バフェットやチャーリー・マンガーは、年次報告書や株主総会でお勧めの本を紹介することがあります。伝記マニアのチャーリーがアインシュタインの伝記を紹介するのは順当なところでしょう。チャーリーお勧めの本の邦訳『アインシュタイン その生涯と宇宙』が昨年出版されましたが、下巻について出版事情のすったもんだがあったようなので、ようやく手にとっているところです。今回ご紹介するのは、アインシュタインが相対性理論を発見するに至った経緯や背景を数段落に要約した箇所です。

「新しいアイデアが突然頭に浮かんだ。それもかなり直感的なやり方で」とアインシュタインは語ったことがある。ただし次の言葉を直ぐに付け加えた。「直感とはそれ以前の知的経験の結果にすぎないのだが」

アインシュタインの相対性理論の発見は、一〇年に及ぶ知的思索と個人的経験に基づく直感から生まれたものである。最も重要で明らかなことは、著者の私が思うには、理論物理学に対する深い理解と知識である。彼はまた目に見える形の思考実験を行う能力にも助けられた。その能力はアーラウ時代の教育で培われたものだ。それから彼には哲学の基礎がある。ヒュームとマッハの哲学から、彼は観測できないものに対する懐疑精神を育てた。そしてこの懐疑精神は権威を疑問視するという彼の生まれつきの反骨精神に根ざしていた。

以下に述べるいろんな要素の混合が、物理的状況を可視化する能力、概念の核心をえぐり出す能力を増強し、彼の人生における技術的背景になっている。たとえば叔父のヤコブが発電機のなかの運動するコイルと磁石をよりよいものにするのを助けたこと。時計あわせに関する特許申請に溢れていた特許局で働いた経験。懐疑精神を推奨した上司。ベルンの時計塔近く、駅近く、電報局の近くに住んでいたこと。ヨーロッパでは時間帯内の時計を合わせるために電気信号を使っていたこと。話し相手としての技術者である友人のミケーレ・ベッソの存在。彼はアインシュタインとともに特許局で働き、電気器具の特許を調べていたのだ。

これらの影響の順序づけはもちろん主観的なものだ。結局アインシュタイン自身もどのようにして問題を解いたか、はっきりしなかった。「どのようにして相対性理論に到達したかは簡単には言えない。私の考えに動機付けをあたえた非常にたくさんの隠れた複雑な要素がある」と彼は語っている。
(上巻 p.181)


チャーリーが主張するところの「ほとんどの人より、うまくいくやりかた」と重なるように思えます。

ところで、本書(原著)はWescoの2007年株主総会でチャーリーから推薦されたものです。参加したファンド・マネージャーのティルソンがノートをとってくれています

I read the new biography of Einstein by Isaacson [Einstein: His Life and Universe]. I’ve read all the Einstein biographies, and this is by far the best - a very interesting book.(p.20)


2012年1月5日木曜日

(メンタル・モデル)熱力学の法則

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チャーリー・マンガーは戦時中にカルテックで熱力学を専攻しました。熱力学の教義は彼のメンタル・モデルに当然含まれているはずです。最近読んだ『サイエンス入門〈1〉』では爆発や温度などの話題がわかりやすく取り上げられており、楽しめました。今回は熱力学の法則を同書から引用します。

(第0法則)
接するもの同士は同じ温度になろうとする。

(第1法則)
エネルギーは保存される。

(第2法則)
熱エネルギーを取り出すには、温度差が必要である。
ある物体のエントロピー(無秩序さ)は増えたり減ったりするが、宇宙のエントロピーの総量はつねに増えつづけている。

(第3法則)
何物も絶対零度に達することはできない。

2011年12月14日水曜日

大丈夫ですよ、私たちはうまく対応できますから

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以前に取り上げたチャーリー・マンガーの「システムを理解するには様々な学問分野で登場する様々なモデルをうまく当てはめることが必要になる」は、言われてみればその通りです。自分の仕事でもいろいろな立場の人の意見をききながら、適切な方策を検討修正することがあります。

最近読んだ本『ウェザー・オブ・ザ・フューチャー ― 気候変動は世界をどう変えるか』でも、学者たちの似たようなやりとりがあったので引用します。ニューヨーク市で水不足が起きる事態を想定した科学者たちの会話です。

水不足が頻繁に起こるようになると、海面上昇の影響とも重なって、水供給に影響を与えるようになるだろう。「あらゆるシステムは絡み合っています」とローゼンツワイクは説明する。「ニューヨークのような都市部では、いくつもの気候変動の影響が完全に混ざり合っています。私たちの科学者チームが、いろいろな分野の科学者の集まりでなければいけないのはそのためです。もしそうでなければ、正しい答えは出ません」。ニューヨークでは、さまざまなバックグラウンドをもつ科学者を巻き込んで、学際的なアプローチを取ることが不可欠だ。異なる分野の科学者がいれば、それぞれ違う視点から問題に取り組める。

ローゼンツワイクはこう説明する。「私たちは毎月、チームの科学者全員で集まることにしています。水文学者というのは、たいてい非常に自信たっぷりに振る舞うんです。彼らはよくこう言っています。『大丈夫ですよ、私たちはうまく対応できますから。気候変動っていうのは私たちの得意分野ですよ』。たとえば、渇水の深刻度を表すのによく使われるパルマー渇水強度指数から、ニューヨーク一帯での渇水の頻度の増加が見られることを話し合っていると、水文学者はこう言い出します。『大丈夫。チェルシーという、ハドソン川の上流の小さな街に、ハドソン川への取水パイプがあります。チェルシーでハドソン川から水をくみ上げて、水の供給量を補うつもりです』。そこへ、NPCCのメンバーの研究者が部屋の後ろのほうで手を振って、『でも計算したところでは、海面上昇の影響を考慮すると、河口部にあった塩水と淡水の境界線が上流のチェルシーまで進んでしまうんですよ』と言うんです」

「専門家が一つの部屋で議論する必要があるのは、こういうことがよくあるからです。もちろん、チェルシーでハドソン川からの追加取水は可能です。でも、それが塩水だったらあまり役には立たないでしょう」(p.325)


ところで、文中にでてくるチェルシーの街がここだとすると、現在の河口から100kmほど離れた地点です。

2011年12月12日月曜日

世の中の働きと驚くほど一致する(チャーリー・マンガー)

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様々なメンタル・モデルを使って物事を分析しようとするとき、チャーリー・マンガーが筆頭に挙げるモデルは数学関連のものです。今回はおなじみの「Poor Charlie's Almanack」に収録されている講演その2 "A lesson on Elementary, Worldly Wisdom as It Relates to Investment Management and Business"から、数学の話題を引用します。(日本語は拙訳)

最初にくるのが数学です。当然ですが、基本的な計算ができなければなりません。

その上で大変重宝するモデルとして複利計算が挙げられますが、その次にくるのが初歩的な順列と組み合わせです。私の頃は高校2年で教わったものですが、最近の進んでいる私立校では中学2年ぐらいまで前倒ししているようですね。

計算自体は至極簡単なもので、パスカルとフェルマーが1年間にわたる手紙のやりとりで完成させたものです。

やりかたを覚えるのは、そう難しくありません。難しいのは、日常生活で毎日のように繰り返し使い込むことです。このパスカルとフェルマーが築いたやりかたは、世の中の働きと驚くほど一致しています。まさしく真理といえるものです。だからとにかく、このやりかたを身につけるべきです。

First there's mathematics. Obviously, you've get to be able to handle numbers and quantities - basic arithmetic.

And the great useful model, after compound interest, is the elementary math of permutations and combinations. And that was taught in my day in the sophomore year in high school. I suppose by now, in great private schools, it's probably down to the eighth grade or so.

It's very simple algebra. And it was all worked out in the course of about one year in correspondence between Pascal and Fermat. They worked it out casually in a series of letters.

It's not that hard to learn. What is hard is to get so you use it routinely almost every day of your life. The Fermat/Pascal system is dramatically consonant with the way that the world works. And it's fundamental truth. So you simply have to have the technique.


私の場合、順列はなんとか使えても、組み合わせは全く使えていません。順列のほうも毎日使うというほどではなく、意思決定で迷う場合に登場する程度です。それでも、確率的に考えて選んだものが正しい結果につながるときは、うれしいものです。

蛇足になりますが、学生時代に中学生の塾講師をしていたとき、3年生の夏期講習かなにかで、対象外なのに順列と組み合わせを教えてしまったことがあります。あのときは「早まったなあ」と心にひっかかっていましたが、そんなことはなかったんですね。世間知らずの二十歳の頃でした。

2011年11月26日土曜日

ダーウィンの「逆ひねり」

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チャーリー・マンガーの敬愛する人物といえば、ベンジャミン・フランクリンが挙げられますが、それに劣らずチャールズ・ダーウィンも彼のお気にいりです。前回ご紹介したチャーリーの講演の続きになりますが、ダーウィンのシステムが簡潔かつ端的にとりあげられています。

公認伝記マニアの私が思うに、チャールズ・ロバート・ダーウィンは、1986年度のハーバード[高校。L.A.にあるプレップスクール]の卒業生の中でみれば、真ん中あたりの成績になるかと思います。しかしながら彼は、科学史において今でも名だたる人物です。これこそ、もって生まれた才能を無駄にせずに生かしたお手本の最たるものといえるでしょう。

ダーウィンのなしとげた業績は、彼自身のやりかたによるものでした。さきに私がお話しした「悲惨への道」には一切近寄らず、「逆ひねり」することに注力しました。持論がどんなに手塩をかけた大切なものでも、それをくつがえす証拠を真っ先にみつけようとしたのです。普通であればその反対で、早々に結論を出したあとは、新情報や否定的な情報がでても、持論が揺るがないように処理するものです。作家フィリップ・ワイリーのみるところの「自分がすでに知っていることを超えたところで学ばないようでは、何もだせない」人間になりさがるものです。

It is my opinion, as a certified biography nut, that Charles Robert Darwin would have ranked near the middle of the Harvard School graduating class of 1986. Yet he is now famous in the history of science. This is precisely the type of example you should learn nothing from if bent on minimizing your results from your own endowment.

Darwin's result was due in large measure to his working method, which violated all my rules for misery and particularly emphasized a backward twist in that he always gave priority attention to evidence tending to disconfirm whatever cherished and hard-won theory he already had. In contrast, most people early achieve and later intensify a tendency to process new and disconfirming information so that any original conclusion remains intact. They become people of whom Philip Wylie observed: "You couldn't squeeze a dime between what they already know and what they will never learn."


自説に固執しがちなのは人間の心が持つ本質的な傾向であると、チャーリーは以前から述べてきました。心理学の分野で数々の研究結果が裏付けてくれるようになりましたが、我々が自分自身のそのような面を乗り越えるのは、依然として難しいものです。このような話題は本ブログの主題として、今後も取り上げていきます。

2011年11月24日木曜日

チャーリー・マンガーの名言「逆だ、いつでも逆からやるんだ」

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マンガーの発言の中で、もっとも記憶に残りやすいものといえば、今回のものか、あるいはもうひとつ「ハンマー」でしょうか。覚えやすいからといって安い言葉ではなく、意思決定や問題解決において大きな力を発揮するものです。「Poor Charlie's Almanack」に収録されている講演その1 Harvard School Commencement Speech(June 13, 1986)からの引用になります。(日本語は拙訳)

偉大なる代数学者ヤコビは、同じ文句を繰り返していたことで知られています。「逆だ、いつでも逆からやるんだ」。ヤコビのいうように、難題の多くが逆方向からせめたときこそ上手に解けるのは、当然といえるでしょう。

The great algebraist, Jacobi, had exactly the same approach as Carson and was known for his constant repetition of one phrase: "Invert, always invert." It is in the nature of things, as Jacobi knew, that many hard problems are best solved only when they are addressed backward.


次回の投資の投稿に続きます。

2011年11月21日月曜日

科学的に研究する際のやりかた(リチャード・ファインマン)

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バフェットやマンガーは、投資をする際の意思決定では「合理性」が大切なことを強調しています。今回は「合理」の代表格であるハード・サイエンスの分野、物理学者ファインマンの「ファインマンさんベストエッセイ」からの引用です。科学的アプローチが簡潔に記されていますが、投資にも適用できるものです。先だって取り上げたマンガーの「多面的メンタルモデル」に通じるところもあります。

すでに答えがわかっているのなら、それについて証拠を集める必要などありません。とにかく何かについて確信がもてないとすると、つぎはこれについて証拠を探すことになるのですが、科学的方法ではまず試すことから始まります。しかしそれ以外にも、もっと大切なことがあるのを見過ごしにはできません。それは自分のさまざまな知識を論理的に一貫して筋がとおるよう、まとめるということです。わかっていることのあれとこれとをつなぎあわせ、それとこれとに矛盾がないかどうかテストすることは、非常に意義のある作業で、方向の異なる考えをつなぎあわせようとするこの努力は、すればするほど意味があるのです

さてこうして証拠を探す作業のつぎにくるのが、その判断です。発見した証拠の判断については、一般的につぎのようなきまりがあります。それは自分の気に入ったものだけを選ぶのではなく、何もかも一つ残らず考えに入れること。そして研究をつづけられるだけの客観性を絶えず保ち、究極的に権威ある意見なんぞに頼らないということ、これがそのルールです。権威は真実が何であるかのヒントにはなるかもしれませんが、それは断じて情報の源ではありません。自分の観察が権威ある意見に反する場合は、できるだけ権威のほうを無視すべきです。そして最後に、その結果の記録には決して私観をまじえてはなりません。(p.85)

2011年11月17日木曜日

ほとんどの人より、うまくいくやりかた(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーが物事を考えるときのやりかたは、私にとっては大きな課題です。チャーリーは折に触れて生涯学習の重要性を説いていますが、この引用を読むと合点がいきますね。おなじみの「Poor Charlie's Almanack」からの引用です。(日本語は拙訳)

私が信じてやまないのは、あるやりかたをとれば、ほとんどの人よりもうまくいくということです。頭のいい人だったら普通は習得できるもので、どういうことかというと、USC[=南カリフォルニア大学]のビジネススクールで前に話しましたが、頭の中にメンタルモデル用の格子枠を用意するわけです。そして、経験したり、本を読んだりして学んだ大切なことを[格子に]組みこんでいくわけです。そういうのがあれば、物事がだんだんうまく結びつくようになり、認識力が増していくようになります。

I've long believed that a certain system - which almost any intelligent person can learn - works way better than the systems that most people use. As I said at the U.S.C. Business School, what you need is a latticework of mental models in your head. And you hang your actual experience and your vicarious experience(that you get from reading and so forth) on this latticework of powerful models. And with that system, things gradually get to fit together in a way that enhances cognition.